「時空渦を起こすには、ハイパーゼクターが必要だ。だが、その制御の為にパーフェクトゼクターと選ばれた3つのゼクターもまた必要だ。それらが揃って電波塔に行けば、思った通りの時間に飛ぶことができるだろう。過去で何かをやり直す事も、未来を見て現在をイジる事もな。」
士クンが、私のワールドには許容できない猿の惑星みたいな人を連れて帰ってきた。なぜか青いバラを一輪掴んで放さないのが腹が立つ。
「士クン、おかえり。」
私、この言葉をずっと士クンに言っていくんだろうか・・・
「この錘を担いで疲れた、水か何か無いのか。」
私、士クンの前で正座して、ステンレスボトルの一本を取って、フタに注いで、士クンに差し出す。なんかいいよね、こうやってるの。
「お婆ちゃん迎えに行ったんじゃないんですか?」
士クンは私の差し出した容器をごく自然に手にして一気に飲み干した。
「こいつにも出してやれ、ババァの変わり果てた姿だ。」
ウソ・・・・・
私、士クンの背をマジマジと見つめる。
いやいくらなんでも、でもでも、今まで信じられない事ばかりだったし、士クンは背中を見せたままこっちに顔を向けない、なにこの静寂なレスポンス、なんでお婆ちゃんがこんなマントヒヒに!
「嘘・・・・」
「嘘だ。」
士クンはなぜか唇を富士山型にして言った。
「バカぁ」
背を思い切り叩いてやる。
「ブェ」
士クン、さっき呑んだお茶を床にぶちまける。ざまあかんかん。キタネエー。
「何してるんですか、みっともない、」
私は笑ってみせる。
「カメラが汚れた、」
怒ってるけど振り返った士クンの眼は笑っている。ようやく士クンの顔が見れた。
「ハイハイ」
私は私のハンカチを取り出して、あのピンクカメラを首から外してやる。
「もう1度時空渦が起これば、この世は本当に崩壊する・・・・・、渦が全てを呑み込む、分かってるのか、おまえ・・・」
士クンの目線が、大男に向いた。士クンの眼差しは、目の前の人に対してじゃないここにいない人に向けている事だけは分かった。スゴく悲しそうだった。
「人類滅ぼし尽くして妹を取り返して、だが妹と子供を作ってでも人の世界を再生させようとするだろう。てめえ勝手な事を押しつけて、独りよがりな責任感を振りかざす、あいつはたぶん、そういうヤツだ。こんなに腹の立つヤツはいない。」
士クンが立ち上がった。
「出かけるんですか?」
私は少しマヌケかも。
「ババァは、歩いて帰ってくる。アンタの願いは分かったとだけ伝えておけ。」
そのまま外へ飛び出す士クン。背中を追う私。
「じゃあな夏みかん。」
私、なぜかすごく不安になる。そんな事士クンに言われた事あったっけ?士クンは背中を見せるだけで何も言ってくれない。
「士クン、忘れモノ!」
私はそんな口実しか思いつかなかった。
そんな私達2人の間に、玄関の扉が間に入る。士クンの背中が見えなくなった。
「あの・・・・・、お取り込み中すいません、お水を・・・・、2日飲んでないんで・・・・」
黙れケダモノ、
私は親切な事にこのKYの為に黙って囲炉裏のステンレスボトルを指差してやった。
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