2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その28

『THEBEE POWER』

 Dカブトは殲滅を選んだ。

『DREKE POWER』

 いかにもと言わんばかりにチラつかせるハイパーゼクター奪取よりも、何をされるか分からない対手を討つ事を優先した。

『SASWORD POWER』

 不動のまま、形状はガンモード。

『ALL ZECTER COMBINE』

 同じく不動のままのディケイドに向けて、パーフェクトゼクターを両腕で構えるDカブト、

『MAXIMUM HYPER CYCLONE』

 だがその強大な咆吼がディケイドに直撃する事は無かった。

 自爆、

「なに!?」

 カブトが仰け反った、

「やはりな」

 それは2つのゼクター、ザビーとサソードのゼクターの突如とした自爆、

「なにをした!?」

 仰け反り思わずパーフェクトゼクターを放し倒れるカブトは、頭を振ってディケイドに叫んだ。

「音っていうのは便利だな。握り潰す事ができないゼクターの内部に浸透して破壊しちまうんだからなぁ。」

 既にあの響鬼の一撃は、サソードの身を焦がしただけでなく、余波を受けたゼクター2つの命脈を断っていた。

「キサマ・・・・・・・」

 立ち上がりそれでも動揺を見せないカブト。

「分かっているんだろう、ハイパーゼクターもお釈迦だって。これでおまえはオシマイだ。」

「聞いているぞ、別の世界から来た事もな。ならば別の世界のゼクターもあるはずだ。力づくで言う事を聞かせる。」

 ディケイドは既に1枚カードを装填している。

『KAMEN RIDE AGITO』

 ディケイドは黄金と漆黒の姿その身を変える。ディケイドが選んだのはアギト。

「だから、オシマイなんだ。ついてこい!」

 ディケイド-アギト、後ろ飛びで電波塔最上から地面へ一気に落下。戦場を移す。

「オレには、どんな姿も通用しない。付け焼き刃である限りな。」

『CLOCK UP』

 同時性を破綻させカブトもまた手すりを跨ぎ、両足を揃えてキックスタート。

『1、2、3』

 ディケイド-アギトの落下に追いつき追い越すカブト。両者の仮面の奥の視線が交差する。

「ライダーキック!」

 着地しディケイド-アギトに対空迎撃の脚を繰り出す。その一角にエネルギーが迸る。

『RIDER KICK』

 地下道の暗闇で奔流がディケイド-アギトへ炸裂、砂漠で横に跳ね2、3転し、森茂る浅瀬の河原へ俯せになる。

『CLOCK OVER』

 そうしてゆっくりと変転する世界を確認しながらディケイド-アギトへ歩み寄り、片足でその首を踏みつけるカブト。

「オレには絶対に勝て・・・・・消えた?!」

 だが砂利の音を立てるカブトの足裏、消えたと思ったほぼ同時に背後に殺気を感じるカブト、

「急所を外したぞ、焦っているなおまえ」

 交差する前腕と前腕、

 既に背後から右の一撃を繰り出しているディケイド-アギト、半身翻し受け止めるカブト、

「コイツの方が疾いのか?!」

 左を受け右に流し、右で仕掛け左で返される。両者の返し技の連続はあたかも申し合わせた組み手のように、ナチュラルなリズムに乗った舞いを見ているよう。

「おまえ、自分が致命的なミスを犯している事に気づいているか、ぁ?」

 カブトは後方に下がって転じてのカウンターを狙い、ディケイド-アギトは円を描く脚捌きで受けながらもあくまで重心を崩さない。

「オレは焦ってはいない、ミスもない!」

 ディケイド-アギトの左を自らの脇へ流す形でカブトが内懐へ半歩入る、右の裏拳で心臓を狙う、

「そのらしくない台詞で気づけよ!」

 アギトの2本の角が扇状に6枚へ展開、

 カブトの拳を右で掴む、それだけではない、掴んだままの右肘でカブト顔面へ、重心も掛けている、

「ぐわ」

 ヒット、仰け反り後退するカブト。頭を振ってディケイド-アギトを睨む。

「アギトとは、限りなく進化する力、だ。」

 深追いせず、対手を待って構えを取るディケイド-アギト。

「進化?・・・・加速し続けているとでも言うのか。」

『CLOCK UP』

 消えるカブト。

「ライダーキック!」

 ディケイド-アギト、脇を突き上げる衝撃に宙を舞う、世界が滝壺から体育館、南国の砂浜へと移り変わる、

「ライダーキックっ!」

 照りつける太陽を直視した時、既に上空から逆光の影がディケイド-アギトに向かって蹴撃を押し込む、

「カブト、」

 そしてディケイド-アギトは港の倉庫へ落下していく自分を自覚し、既に落下地点で、背を向け待ち構えるカブトの姿をはっきりと見た。

『1、2、3』

 ゼクターのボタンを3つ立て続けに押す、ゼクターから頭部へエネルギーが迸る。

「ライダーキックっっ!」

『RIDER KICK』

 軸足の指、足首、腿から腰を捻り、全身の体重を蹴り足に傾ける、

「焦りすぎだと、言っている!」

 宙にあってディケイド-アギト、姿勢を正し蹴り足を向ける、そのカブトとの軌道の間に2枚のアギトのエンブレム、1枚潜ってその落下速度が加速、2枚潜ってさらに加速、

「オレの進化は光より速い!」

 振り返り様蹴り足で半円を描くカブト、

 1号の時と全く同じだ、

 だがディケイド-アギトはなお加速する、

「バカなぁぁぁぁ」

 吹き飛ぶのはカブト、

 ディケイドのカウンターよりなお速く、ディケイド-アギトがヒィッティング。

 カブトが地を舐めた。

「どうした、おまえは決定的な差を見せつけて、オレに言う事を聞かせたいだろ、こいよ。」

「バカな・・・・・、クロックアップの領域なんだぞ・・・・・、いや、まだある、まだな!」

 立ち上がって蹴りに入るカブト、カブトの蹴り足を片腕で捌くディケイド-アギト、捌かれた足を反転させ逆サイドから、これもまた手首のスナップ一つで捌く、何十とそれを繰り返しカブトの足が錯覚を纏って数十に分裂しているよう、アギトの捌く片腕もまた数十に分裂、

「おまえは致命的なミスをしているっ、」

 均衡が破れる、

 だが吹き飛ぶのはディケイド-アギト、カブトの蹴り足が掬い上げられ、抉られる形で門谷士の身体が宙を舞った。ドライバーは腰から離れ路上フォークリフトに跳ね返ってカブトの足下へ。

「取った!おまえは所詮、そのベルトで借り物の姿を纏っているに過ぎない!」

「おまえは所詮、そのベルトで借り物の姿を纏っているに過ぎない。気づくのが遅すぎた。それがおまえの致命的な、ミスだ。」

 額から細く血を流す士は起き上がり様、掴んだベルトを肩に背負う。反動でカブトゼクターがベルトから離れ、ソウジを周回し始める。時もまた元に戻っている。

「なに!?」

 除装されるDカブト。ディケイドはソウジからベルトを奪う程に加速していた。

「なにより、おまえはオレを屈しなければならない。だがアギトは一撃で致命傷を与えない限り成長する、おまえはそのジレンマを事の最初から抱えていた。まだやるか?」

「お婆ちゃんは言っていた、全宇宙の何者をもオレの進化についてこれない!」

「進化だと!」

 士の眉が釣り上がった。

「ある男がいた。そいつは世界を敵に回す宿命を帯び、自分の女という居場所を守る為、敢えて孤独を選んで女から離れた。本当に強い男だ。」

「オレは、世界を敵に回そうと、どんな孤独に耐えようと、妹を取り戻す!」

「だが女は、男を世界から自分の持てる全て注いで守ろうとした。孤独に忍んでもだ。強い男は自分の強さが女を孤独にする事を知り、そして互いを守り合うより困難な道を選んだ。それは、生き物の進化を超えた、人の交わりの進化だ。ババアに寄りかかって自分の哀れを押し売りするキサマとは違う!」

「貴様は、何者だ!?」

 ソウジ、足下のディケイドライバーを士に放り投げる。

 士もまたライダーベルトを放り投げる。

 宙を交差して互いの手元に収まるツール。

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」

 ソウジ、ベルトを片腕と遠心力だけで装着、 士、ブッカーの振動を感じて、数枚のカードを取り出し、やや驚いてカードを見た、

「そういう事か。」

 ソウジ、カブトゼクターを手元に呼び寄せる、

 士、ドライバーを巻いて、カードを1枚投入、

「変身!」

『HENSIN』

「変身!」

『KAMEN RIDE DECADE』

 向かい合う両者に纏わり着く姿は、一方はメタリックの装甲、もう一方はショッキングピンクのスーツ、

 カブトはさらにゼクターの角を引く、

「キャストオフ、」

『CAST OFF』

 ディケイドもまた、1枚のカードを投入、

『FINAL FOAM RIDE kakakaKABUTO』

 カブトは装甲を飛散させてその人体に近いフォルムを晒す。

『CHANGE BEETLE』

「クロックアップ、」

『CLOCK UP』

 クナイガンを振りかざし、動作が遅滞したディケイドに向かって一直線、

 裂ける時空、

「なんだと!?」

 ソウジにとって見慣れた1本の紅い角が眼前から時空を割って突き込まれてくる、押し戻されながらソウジは、それが人間の容積程に巨大化したカブトゼクターである事に戸惑う、戸惑うカブトを引っ掛けながら巨大ゼクターは鋭角に上昇、上昇から垂直で降下、急降下でカブトの肉体を波止場に叩きつける。

 そうして巨大ゼクター、一旦上昇、宙を旋回し、そしてメカニカルなギミックで人の姿に変身、錘を外したように動作が軽くなったディケイドの隣へ着地、並び立つ。

「お婆ちゃんが言っていた、自分に勝てる者はただ1人、1つ先の未来の自分だけだ。」

 それは紛れもない深紅に彩られた一角の『仮面ライダーカブト』。ディケイドの隣にいるのも、対峙して波止場のコンクリートに皴を入れて伏しているのも同じカブト、カブトが同じ時に、同時に二人存在している。

「だけ?まだクロックアップが解かれていない、」

 ディケイドは全て遅滞している周囲と、その中でカブトと並んで対話できている自分とを見比べている。

「オレは自身を含めてあらゆる者を自在にクロックアップさせる事ができる。それが、おまえがオレにもたらした力だ。」

「ライダーキックっ!」

 眼前のカブトが立ち上がり跳躍蹴撃を仕掛ける。

「そしてその逆も然り、」

 宙にあるカブトの動作が突如遅滞、いやクロックアップが解かれる。

「いくぞ!」

 ディケイド、さらにもう一枚カードを差し込んだ。

『FINAL ATTACK RIDE kakakaKABUTOoo!』

 隣に並ぶカブトが再び変形、巨大なカブトゼクターとなって飛翔、停滞する眼前のカブトへ一直線、

 激突するカブトとカブト、

『1』

 ゼクターの1角に掬い上げられる形でカブトぐんぐん上昇、

 衝突する電波塔中央、

 煙を吹いて貫通、

『2』

「はぁっ」

 貫通し突き抜けるカブト、しかし巨大ゼクターは見られない、

 対面側に既にいる未来のカブト、

 対面側にいて宙で姿を戻しスピンキック、

『3』

 蹴り入れられ錐揉みしながら斜めに落下するカブト、

 その先に立つのはディケイド、

「ライダーキック!」

 ディケイドに並び立つ未来のカブト、

 互いの外側の軸足から足首、腿を捻り、両腕を振り、腰を入れ、内側の蹴り足を遠心力のまま振りかぶる、

 炸裂!

「ぐぉぉぉぉぉぉオぉぉぉレっっっっ」

 両者のエネルギーの奔流が注ぎ込まれる、飽和するエネルギーは圧倒的な光量を発して、落下してきたカブトは跡形もなく消失した。

「やったか!?」

 ディケイドは並び立つカブトを振り返る。

「ヤツは時空を割り、走馬燈のように次々と過去を覗く事になる。そこでヤツは過去に飛ばされた妹を見つける。1人で成人するまで必死に生き抜き、当たり前に友を作り、当たり前にパートナーを得て、そして子供を1人設けた。それから主人に死なれ、子供と別れ、老いた時、ある3人の子供を拾って養う事になる。ヤツはその時はじめてお婆ちゃんのゆりかごにずっといた事を気づくのだ。」

 既に変身を解く両者。

「ババアがな、」

「ヒヨリが子供を産んだ時、オレに見せた事の無い笑顔を愛する者に向けていた。オレは激しく嫉妬し、またその幸福な顔を守ってやりたいとも思った。」

 士はまたしても出し抜かれて口元を歪める。ソウジは天に向けて、人差し指を高く高く伸ばしている。

「ババアはこの世界の重心だった。バハアが別の時間に飛んでしまった事で、この世界の本格的な崩壊は始まっている。」

 士が語るそばからソウジは、腰の裏より二つのアイテムを取り出す。よく見るとハイパーゼクターと、あのコーカサスのゼクター。

「妹が過去に飛ばされる直前の時間に行った時、貰ってきた。この世界はもうどうにもならん。が少なくとも別の時間で、そうでない未来があってもいい。」

「そうか、おまえも飛んだんだったな。」

 士は散々である。

「この世界は崩壊する。だが、そんな中でも喜びも楽しみもある。オレはずっとこの世界を見ていくつもりだ。お婆ちゃんがそう決めたようにな。」

「オレは写真を撮る事だ。あれだけは上手くいかない。おまえは?」

「なんだ?」

「できない事だ。オレ達完璧超人にも一つや二つできない事があるだろ。誰にも言わないから言えよ。」

「オレには、そんなもの・・・・・・、逆上がりだ。」

 ソウジは視線を合わせず、顔面の毛細血管の血量が増加している。

「鉄棒?」

「アラタが悪い、あいつが軽々と先にやってのけてしまった。くだらないと思っている内に、ついにいままで一回も出来ないでいる。アラタが悪い。」

 士はそれを聞いて腹を抱えて高笑いしはじめた。ソウジは指を差してなにか必死に言い訳し、士の欠点を攻撃するも、士の笑いは止まらない。ソウジの顔面の充血はなお治まらない。

「ハイ、チーズ!」

 その背後から女の声が響く。振り返ると同時にフラッシュが焚かれる。派手な二眼トイを抱えた黒髪の長い少女が、門谷士に向けて微笑んでいた。夏海の背後には、ディケイダーをまだアイドリングさせている光栄次郎が皮ジャンをキメている。

「夏海・・・・・」

 士は不思議だった。あれほどいっしょに過ごしてきたごくありふれた黒髪の少女が、今日は何故か光夏海という名前から意識していた。

『私の記憶を返して!いったいどうして!どうして!』

 だが士は頭痛と共にフラッシュバックする断片的映像に苛まれた。

 トイカメラから出た写真を手ブラさせながら笑顔で士に歩み寄ってくる夏海。ソウジは小さめのジーンズのポケットに無理矢理両手を突っ込んで、士の動揺した顔に性悪にもニヤついていた。

「忘れモノです、士クン。」

 夏海は吊り下げたトイカメラを本来の持ち主に渡そうと首から外す。一旦頭から持ち上げて背中に回して長いストレートの髪の毛を潜らせて首を振ってほどく。揺れる髪の毛は軽く流れて、一瞬だが夏海のうなじが露出する。髪の毛を正して、シメの思い切りな笑顔で士にトイカメラを差し出した。全て計算ずくで女はこれをやる。

「夏、みかん……あのな……、」

 と言い辛そうな態度の士はそれでも辛うじて受け取ろうとした。

 だが、ショッキングピンクの2眼は、ついに士の手に渡る事は無かった。

『SCANING CHARooGE』

 爆裂する電波塔、

 上から3分の2が倒壊、

 士はまずなにより夏海の頭を包み込んで伏した。

 ハァッハァッハァッァァァァッッッッッ

「この不快な低い声は鳴滝・・・・」

 顔を上げた士、電波塔の倒壊で鉄筋が一面に広がり、砂塵が跳ね上がって数メートル先の視界が取れない。

「ディケイドゥゥゥゥゥゥおまえのぅぅぅぅぅぅ最後サイゴサイゴダァァァァァァ」

 引く程のハイテンションの声がする先に、辛うじて3人の影が見える。1人は今電波塔を切断した主で、やや短い片刃刀剣を振り下ろして刃を祓っている。1人は首から大きくなびくマフラーをしている。その間に挟まれた者の姿がもっとも士を驚愕させた。

「ディケイド・・・・・」

 士は知らない。鳴滝が同じドライバーを使って変身したダークディケイドというライダーを。

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