2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その9








『KAMEN RIDE DECADE』


「ディケイド?」


 ソウジは再び周回するカブトゼクターを手に取る。

 ソウジの眼前で、縦横に9つのシンボルが動き集まってスーツと化し出現。


「拳を交えないと語れないヤツなんだろ?」


 マゼンダのボディが眩しいディケイドが指差す。

 ソウジは、舞う砂煙に目を覆いながらゼクターを構える。


「おまえのそれはスーツか?それともおまえの本来の姿か?変身!」


 それだけ聞いて再びバックルへゼクターを差し込むソウジ。


『HENSIN』


 再び纏わり着くシンメトリカルなマスクド・フォーム。


「めんどくさいスーツだな。」


 ディケイド、賺さず打ち込みに行く。


「設定上の欠陥と言うなよ。悪魔。」


 カブト、あっさり祓って同じ腕でディケイド額を掌底で軽く押す。


「聞いているのかやはり。」


 やや後退りながら態勢を崩さないディケイドは、カードを一枚取り出す。


『KAMEN RIDE FAIZ』


 クリムゾンのライン輝くライダーへ姿を変えるディケイド。


「姿を変える?」


 カブトはガタック戦から通じて変わらない待ちで構える。ディケイドを推し量っている。


「鳴滝の言う事を鵜呑みにしているわけではあるまい。」


 ややアンダーから左を入れるディケイド-ファイズ。


「ああ、実に胡散臭い。だが」


 ワンステップで躱すカブト、土を蹴る、土が跳ぶ、


「なに」


 一瞬ディケイド-ファイズの視界が土に塗れる。だがカブトの目的は相手の攪乱だけでは無い、土だけでは無い、煌めく何かがディケイドの眼前をクルクルと回りながら、カブトの手元に収まる。それは先のガタックが落としたカリバーの一振り。


 一閃、


「ぐわ」


 下から上へ袈裟斬りされるディケイド-ファイズ、宙を回って乾燥した大地に叩きつけられる。


「おまえも胡散臭い。」


 伏したディケイド-ファイズに、一歩一歩質量を大地に載せて近づくカブト。


「考えてみたら、今まで単細胞とやり過ぎたな・・・・」


 ディケイド-ファイズは既に起き上がりブッカーをソードモード、刃を掌でなぞる。


『ATTACK RIDE SPARKLE CUT』


 アンダースローでブッカーを振りかぶるディケイド-ファイズ。クリムゾン光の波が地を走り、カブトへ一直線。


「!」


 浮き上がるカブト、クリムゾンの光が全方位し、もがくカブトの平衡感覚を奪う。


 ディケイド-ファイズ一閃、


 エグれる装甲、割れ飛ぶマスク、胴の銀が光を反射しながら回転し、頭から落下。


「だが、アウェーの戦いは慣れているさ。」


 警戒しているディケイド-ファイズ、

 起き上がり得物のカリバーを逆手に構えたカブトは、バックルのレバーを引く。


「キャストオフ」


『CAST OFF』


 着脱されるオーバーアーマー、中から真新のボディが現れる。


「おまえ、向こうにいる女とは兄妹か?」


 カブト、カリバーを右手に、そして腰裏から『クナイガン』を取り出し、左足を前に出し右足に重心を置く。

 クナイガンを一振り、グリップ部が抜け銃身だけになるクナイガン、いやもはやそれは短刀。露出する蛍光の刃。


「妹?あんなのが肉親だったら、オレは当に禿げ上がってるさ。」


 ディケイド-ファイズは待っていない。カードを一枚既にバックルへ装填している。


『FOAM RIDE FAIZ AXEL』


 ディケイド-ファイズの胸部装甲が開く、フォトンのラインが銀に変色する、これが『アクセルフォーム』。


「ならば遠慮はしない。もはやおまえの敗北は決定だ。」


 逆手に持つクナイガンを振りかぶる、

 10メートル先まで伸びる蛍光の刃、

 ディケイド直撃、

 棒立ちのまま、

 揺らぐ、

 そう、それは既に残像、


「付き合ってやる10秒だけな!」


 視界から失せたディケイドに頭まで両刀でガードするカブト。


「消えた?」


 弾ける破片、

 カリバーの刃が突風と共に砕け散る、

 仰け反るカブト、

 だが左足に重心を残して堪える、


「手数が多いが、結局おまえは奇手だけだ。」


 カブト、カリバーを破棄。


「クロックアップ。」


『CLOCK UP』


 紅のラインを引いてカブトも消える。


「え、何?」


 やや距離を置いて傍観するしかない夏海は、視界に砂塵が舞う風景しかない事に驚く。だがそんな事は序の口だった。


 落とされる、


「ナニぃ!」


 突如夏海の左側近にドスとけたたましい音を立てて出現する物体があった。


「ぅ・・・ソウジ・・・」


 それは先の戦いでいままで伏していたあのアラタという男。


「私に、ナニしろってのよ!士!」


 夏海は足を引きずってリュックに括り付けた荷物の中からとりあえずハンカチだけ取り出した。


「捕まえた!」


 それは、ダブルカリバーが地面に落ちるまでの、一瞬の出来事である。


「捕まったのはどっちだ」


 ディケイド-ファイズがカブト眼前に立ちはだかり、先んじて右拳を繰り出す。

 カブトはそれを軽く制して、同じ腕でディケイド-ファイズの額を掌底で叩く。

 砂塵の流れは無いに等しく、夏海の動きも一つ一つがスロー、そしてカブトの手放したカリバーの落ちる速度もイラつく程スロー。

 だがそれもこれもこの両雄の体感する時間においてのみの現象である。


「くそっ」


 ディケイド-ファイズ、頭を推されながらも反対の拳を打ちに行く。だが上体が反っただけリーチが足りない。


「おまえが先制するのは、」


 ディケイド-ファイズ、蹴り、

 カブト、それを制して懐へ入り、ショートに裏拳を額に、


「ええい」


 仰け反るディケイド、

 追い打ちを掛け胸を打ちにいくカブト、

 左腕でガードするディケイド、

 一旦飛び退くカブト、


「スピードが上がっただけだからだ。」


 カブト、ディケイド眼前から姿を消す、

 ディケイド、振り返る、


「どうかな」


 だがディケイドの左側面から再び掌底で軽く打つカブト、

 ディケイド、腕を咄嗟に出してカウンターを狙う、

 だが既にカブトは消え、ディケイドの拳は空を切る、


「神経は26分の1秒の壁を越えていてない。おまえはオレの行動を読んで動いているに過ぎない。」


 反対側から掌底、頭を揺すられるディケイド、

 振り返る、

 やはりその後背からカブトの掌が伸びてディケイドの頭を揺する、


「だからメットかどうとか・・・」


 ディケイドの動きが止まる、

 カリバーが地に着く、


『タイムアウト』


 棒立ちのままふらつくディケイド-ファイズ、


『CLOCK OVER』


「時間を操作している訳ではない。」


 そんなディケイド眼前に背を向けて現れるカブト。


『1、2、3』


「ライダーキック」


『RIDER KICK』


 そして右足を180度振りかぶる。


『ATTACK RIDE INVISIBLE』


「そう、読みはいいんだ。」


 空を切るカブトの脚、


「芝居か」


 ディケイド-ファイズの姿が虚空に消える。それは超高速運動によるものではない。


「おまえは受けては軽く返しまた受けるを繰り返しながら頭を揺すり、意識が切れるのを狙った。」


「気づくか、そうだろうな。アラタを見ていれば。」


 カブトのボディが衝撃音と共に揺さぶられる。前後と言わず左右と言わず。


「天の道とはなんだ?」


 姿の見えないディケイドがブッカーのブラスターを発射。


「何?」


 その弾丸のわずかな光を見極め、クナイガンで弾くカブト。


「気になっていた。聞いてやる。」


 カブトの装甲が火花散る、見えないブッカーの一閃、


「当たり前である事だ。」


 転倒するカブト、


「当たり前?」


 バック転で飛び退くカブト、飛び退いた跡に土を掘るエネルギー光、


「進む道と進まぬ道を定め、進む道を当たり前に歩む事。得られるものと得られぬものが定め、得られるものが当たり前に隣りにある事だ。」


 だがカブトが飛び退いたのはその攻撃が分かっていたからではない、飛び退いた位置のあるものが落ちていたからだ。


「とんち問答か」


 カブトが拾ったもの、それは自ら捨てたクナイガンの鞘、つまりグリップ、再び装着しガンモードへ切り返える。


「当たり前に在るモノを得る為ならば、天は必要なものを与えてくれる、おまえに勝つ事もだ!」


 乱射乱射乱射、


 カブトが撃つ、ディケイドも応戦する、


「どこを撃っている、」


 カブトの身にマゼンダの弾がいくつも掠っていく。しかしカブトは正対して応射しない。彼が撃つのは地面、光弾が地を抉り、周辺大気温を一時的に上昇、砂塵を巻き上げる。


「おばあちゃんが言っていた。オレが望みさへすれば、運命は絶えずオレに味方する。」


 砂塵は両者の視界を奪う程ではない。やや何かが反射して淡い水飛沫のようにも見える。


「さっきの剣の刃か」


「クロックアップ」


 カブト、クナイガンから3つのレーザー光を発射、それはダットサイト。限りなく直線に照射されるレーザーが砂塵の中を縦横に反射、その格子の中で明らかに人の形を成した何かがいた。ディケイドだ。

 即座に回避にかかろうとするディケイドの像、

 しかし26分の1秒を越える時の世界に突入したカブトにとっては、その動きはカメのようなものだった。


『1、2、3』


「ライダーキック」


『RIDER KICK』


 左を軸にしながらも足先から腿までの力が腰の捻りと体重を乗せて振り脚の右に集約される。


「ぐわっ!」


 インパクトの瞬間、ディケイドが姿を現し吹き飛びながらバックルが取れ、門谷士の生身が落下、地面を転がった。


「オレと対面した時、既におまえの敗北は決まっていたのだ。」


 カブトは、右掌の人差し指を軽く伸ばし、天頂を差し伸ばした。


「本物のファイズなら、こんな事にならなかったさ・・・・」


 士は失神した。

0 件のコメント: