「ソウジ、幼なじみの名にかけておまえを止めてみせる!」
まるで小学生のようなクセの無い髪の青年が空に向かって手を伸ばす。
「アラタ、俺はただ、天の道を行くだけだ。」
もう一人の、顔から身体のパーツの一つ一つがマンガに書いたような男も天へ向け人差し指一本伸ばす。
強い日差しに白みがかった太陽から、縦に裂け目が出来る。もちろん太陽そのものではない、大気の一区画、無である空間が割れるように裂けた。
割れ目から飛び出してくる2つの物体。それは巨大な昆虫、いや、昆虫に模したメカ。
「こい、ガタックゼクター!」
青い昆虫型のメカをアラタが掴む。青いメカはシンメトリカルに整理されたデザインで半分に割った楕円球の胴に6つの立方体の脚部、そしてプライヤの先端のような挟角が1対。
アラタが呼んだ『ガタックゼクター』。
「俺はこの手で未来を掴む!」
赤い昆虫型のメカをソウジか掴む。赤いメカもまたシンメトリカルな半球ボディと6つのサイコロのような足、そして青いメカと違う1本の、反り上がった角。
「変身」
アラタの全身を光る亀甲の編み目が細胞分裂のように急速に拡散、包み込んでいき、金属の外皮に実体化。そのように包まれたアラタの姿は、銀に光るシンメトリカルな円筒と立方体の組み合わせ、特に胸部と、バルカンランチャーを抱えた肩幅の盛り上がりは圧倒感すらある。『マスクド・フォーム』。
「変身」
ソウジの全身を光る亀甲の編み目が細胞分裂し、実体化、アラタのそれに比べてやや丸みを帯びた『マスクド・フォーム』へ。
「ゼクター、カブトの世界か・・・・」
その姿をやや離れた丘陵の上から眺めるのは士と夏海。
「諦めろっ、ソウジ!」
アラタ、両肩から左右4門のバルカンを連射。バルカンの発する光弾のエネルギーは空間を転移して、つまりジョウントして無限に発射できる。
「オレは天の道を行く。それだけだ。」
ソウジ、既にアラタの至近に立つ、アラタのバルカンが両肩を掠る。
「死角か」
ショルダーを食らい推されながらも踏ん張ってしまうアラタ。
「固定砲は射角が致命的だ。」
懐に密着し、さらに短銃『クナイガン』をも密着させ一撃、
「ソウジっ!」
身体をくの字に曲げて後退るアラタ。だが距離が開いた。
「幼なじみを名乗りたいとふざけた事を言っていたな。ならばこのオレを止めてみせろ。」
クナイガンを連射するソウジ、推しながらなおゆっくりを歩を進める。
「止めてみせる!キャストオフ!」
アラタがバックルに張り付いたガタックゼクターの1対の角を軽く開くと銀に光るシンメトリカルなアーマーのジョイントが次々と外れていき、続いてゼクター角をそれぞれ180度回転胴に密着させると同時にアーマーが勢い数十に分裂して飛散、その一部がソウジに跳弾して同じ材質のアーマー同士激しい金属音を立てながら弾かれていく。
『CHANGE、STAGBEETLE』
アーマーを脱ぎ捨てたアラタのその姿もまたスーツ。人型により近いスマートな、碧い、頭に1対の角を生やす、紅い複眼の勇姿。
「戦いの神、ガタック。」
傍観する士は記憶の糸をたぐり寄せていた。
『1、2、3』
ガタック、さらにゼクターの臀部を3度押す。そうして開いていた両角を元に戻し、
「ライダァァキック!」
叫んでまた開く、開くとゼクターから四肢の先、角の先端に電撃が走る、
『RIDER KICK』
跳躍するガタック、跳躍して右脚を前、左脚を後ろに捻る、腰と左右の両腿の力が加わった蹴撃。
そのガタック最大の技に怯む事なく見据えるソウジ。ソウジがゼクターの1角をシフトレバーのように倒す、すると銀のアーマーのジョイントが次々と外れていき、
「キャストオフ。」
角を思い切り反対側に倒し切るとアーマーが除装飛散、宙にあるガタックにその一部が降り掛かる。
「ぐぉぉぉ」
ガタックがバランスを崩しもんどり打って落下。
『CHANGE BEETLE』
オーバーアーマーを除装し顕れ出でたソウジの姿もまたスマートな人型、光沢流れる紅い、複眼の碧い、威光放つ1角、
「太陽の神、あれがカブト、ここは『カブトの世界』か。」
「カブトの、世界・・・・」
士は呆然と紅く揺らめくカブトを見つめ、その士の横顔を背負いになお括り付けられた夏海は見上げていた。
「クロックアップ。」
カブト、ベルト右のボタンを押す。
『CLOCK UP』
士の視界から瞬時に消えるディケイドの姿、
「クロックアップ。時を越える動き。」
士が呟くその刹那、
「クロックアップ!」
『CLOCKUP』
それはガタック。ガタックもまた立ち上がり瞬時に消えた。
「見えない、」
夏海はなにが起こっているのか見当すらつかない。
「ほとんど見えない。」
そんな夏海の頭に掌を置いた士の目には、所々赤と青の影が交差して出現しては消える。それは眼球の動き、神経の伝達、脳の判断を越えるクロックアップ。
「見えた、」
だが夏海が叫ぶ通り、一人、碧のライダーの動きが停滞し、姿を晒す。ただ呆然と直立し、若干頭をフラつかせている。
「なにが起こった?何を起こした?あいつ。」
士の視線はガタックが立ち尽くす眼前に現れたカブトに注がれている。カブトはどういう訳かガタックに背を見せている。
『1、2、3』
カブト、ゼクター歩脚に模した3つのボタンを右手で立て続けに押す。さらに左手でゼクターを押さえ込みながら右手でゼクターの一角をレバーにして倒す。
「ライダーキックっ」
レバーを再び戻す。
『RIDER KICK』
カブトの頭頂一角にゼクターよりエネルギーが迸る。
依然ガタックは棒立ちのまま、
カブト、振り返り様右脚をすり上げガタック右肩から左腰に向かって一閃、
激音と共に砕けるガタック胸部、
「ぉぉぉぉ!」
露出するアラタの大胸筋、
勢い地に叩きつけられるガタック、
軸足の筋力が大地を踏みしめた反動として腰の捻り、両腕の振り、そして蹴り足と合力し一気にたたき込まれるそれが、カブトの必殺技だった。
「お婆ちゃんが言っていた。誰も太陽が昇るのを邪魔立てする事はできない。」
ガタックに再び背を向け、立ち去ろうとするカブト。しかし、
「待て!オレは、おまえの友達として、おまえを止めて、・・・」
全身を奮わせて立ち上がるガタック。
両腕には婉曲したショートソードを1対持っている。『ダブルカリバー』。
「オレとおまえは、友ではない。」
振り返るカブト。しかし防御を構えない。あくまで自然体で直立している。
「ライダーカッティング!」
ガタック、両腕の得物を交差させる。ゼクターより鋏型となったカリバーに宙を介してエネルギーが注入されていく。
『RIDER CUTTING』
カリバーを前に突き出すガタック、両刃から十数メートル伸びるエネルギーの奔流、カブトの左右に回り込む形で歪曲し、ついにはカブトを挟み込んだ。
「うぉぉぉぉぉ!」
カブトを持ち上げるガタック、挟まれた腹部がジリジリと焼けるカブト。
「おばあちゃんが言っていた。オレの進化は光よりも速い。」
持ち上げられ足が大地より十メートル以上離れるカブトはしかし動じていない。徐に右腕を天に伸ばす。伸ばした先の空間が裂ける。そこからジョウントして一振りの剣が投下してくる。その剣『パーフェクトゼクター』がカブトの右腕に握られる。カブトはパーフェクトゼクターの柄のボタンを一つ押す。
『KABUTO POWER』
パーフェクトゼクターの刃から光が伸びる。
カブトが振りかぶる。
カリバーの刃とパーフェクトゼクターの刃が交錯する。
「アラタ、おまえは、」
交錯するエネルギーの暴発でカブトの一角が折れる。
「ソウジっっっ!」
カブトからの攻撃に圧倒されカリバーを離して倒れるガタック。砕けた装甲の破片が飛び散る中にガタックゼクターも紛れていた。スーツが光と共に消え、胸元が裂け血を吹くアラタが地面を転がる。
「勢いでなんとかなると思っているところが、おまえの昔からの欠点だ。オレは絶対にそんなことは犯さない。」
いつのまにか大地に立ち、飛び散る破片の中からガタックゼクターだけを掴み取るカブトだった。
「分かった・・・・オレ達は友じゃない・・・・」
目は綴じた。しかし息づかいはまだ荒々しく続いているアラタだった。
そんなアラタなどもはや気にしない態度で、パーフェクトゼクターと、先に掴んだガタックゼクターを並べて眺めるカブト。
「これではない。このゼクターでは、天の道へ行けない。」
カブトは静かにガタックゼクターを手放す。ゼクターはふわりと浮き上がり、弧を描きながら天へと消えた。
「ヤツは強い。全てにおいて、最初から後の先を行っていた。」
士は既に足を踏み出している。その手にドライバーとカードが握られいてる。
「士クン、戦うの、どうして!」
夏海は足を引きづって士を止めようと手を伸ばす。そんな夏海の足下の荒れ地に刺さるカブトの角の欠片。
「ここが『カブトの世界』、とりあえずライダー同士がメンツを張り合う世界だからさ、変身!」
既にベルトへカードを装填した門矢士だった。
ディケイドの眼前には、カブトゼクターを手放して除装する一人の澄ますにも程がある男と、その遙か先にある電波塔が見えた。
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