2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その17







 液状化し、網目のように皴の入ったアスファルトを走破するマシンディケイダー。固めの足回りが災いし、士はやや胃に来ている。

 アラタは4人と言った。ソウジとアラタとあのお婆ちゃん、あと1人いるという事。そして今はいない。

 全ての謎がそこに集約している事を察するのは容易だ。だが、穴だらけの答えを埋めるピースを片手にぶら下げて、あのお婆ちゃんがシタリ顔で微笑んでいるのが、士にとってたまらない苦痛だった。何よりあのお婆ちゃんの意図が理解できながらもそれに乗る以外道が無いのが我慢できない。そして我慢できない性分である事を見抜かれている事も腹立たしい。


「なんだ?」


 起伏を感じながらもディケイダーを走破させていた士だったが、線路との立体交差でマシンを停車させざる得なくなる。地下に潜る形で伸びる舗装路が、上側の線路が崩落して全く進めない。


「歩けって事かババア、・・・・雪、いや花びら、」


 ディケイダーを乗り捨てるつもりで降車し、勢い俯く形になって視線を落とすと、白いモノが一つ路面に落ちているのを見つける。凝視しても溶け込む気配がない。気づけば周囲の地面に白い、いや、やや青みがかったバラの花びらが一面積もるように落ち、見上げると士の頭上いっぱいに花びらが舞い降りてくる。


「私の薔薇に彩りを加えましょう。」


 全てが純白のスーツ、純白のマント、そして純白の高帽子。おそらく白面の貴公子イメージの男子ならこれ以上無いほど2次元ルックだったろう。


「おろか者の紅い血と、屈辱の涙を。」


「哀しい程におまえが言うべきではない台詞だな、変身!」


 だがどこをどう行き違いがあったのか、それを着込む者は遠洋漁業で数ヶ月海に居るような屈強の類人猿系、もしくは穴子さんである。その声もまた鍛え過ぎた肺活量に、退化しつつある喉が耐えられず、豚の首を絞めたようなそれである。

 士は既にバックルを取り出している。


『KAMEN RIDE DECADE』


 ビビットピンクのボディ光るディケイドが理由を聞く事も無く戦闘態勢に入った。


「ディケイド?貴方ですか、また電波塔で時空渦を起こそうとしている破壊者というのは、せいヤ!」


 右正拳突き、その手首に巻かれているリストバンド、いずこから羽音を立てて舞い降り手首に装着される金の『コーカサスゼクター』。


『CHANGE BEETLE』


 自動的にヘクス模様が男の肉体を包み、実体化する金のボディライン。頭部には3つの角が上左右に生える。『コーカサス』、それが男の名である事を士は知らぬまま終わる事になる。


『KAMEN RIDE BLADE』


 金属の分厚い胸板をしたブレイドへと速やかに変身するディケイド。


「この世界のライダーは、もうオレの敵じゃない。かかってこい。」


 そしてブレイドの姿のままライドブッカーの刃を掌でなぞった。


「貴方は戦う前に既に敗北しています。」


『CLOCK UP』


「自分で言うと、品が無くなるんだぜ。」


『ATTACK RIDE MACH』


 消える両者の姿、いやインビシブルではない、動いた直後に抉れたアスファルトの破片がまるで花びらのようにゆらりと舞う、両者の目には。


「ついてこれますか、褒めてあげましょう。」


 ブッカーを前腕で受け止めるコーカサス、


「やはり、身体の全てが加速している。いける。」


 ブッカーを振るいながらも、ディケイドはコーカサスの蹴りを空いた腕で裁く。


「バラが見つめてくれるのは、もっとも強く、もっとも美しいもの。」


 コーカサス、ディケイドの手首に手刀を当て、同じ手で肘をディケイド顔面へ。


「コーカサスだからバラか、」


 ブッカーを落とし仰け反るディケイド-ブレイド。

 そのまま脚を上げ、コーカサス脇へ一撃、 踏ん張って直に受け止めるコーカサス、

 インに入って拳の連打を胸、

 直接受けるも微動だにしないコーカサス、

 コーカサス、ただ一撃の左ニーキック、


「ぐわ」


 吹き飛んでいくディケイド-ブレイド、そのインパクトした胸装甲に足形が付いている、


「バラの花言葉は愛、愛と共に散りたまえ。」


 左腕を高く伸ばすコーカサス、その指し示す方向に空を割ってジョウントしてくるゼクターが一体、そのゼクターは限りなくカブトのそれに近いながらも、全身がグレー、翼も無く、生物感よりもガジェット感がより強い。『ハイパーゼクター』のそれが召喚だった。

 コーカサス、それを腰の左側へ回し付け、胴体部のボタンを押す。


『HYPER CLOCK UP』


 ディケイドが見失った、


「ヒッティングが重く速い、ぉ!」


 見失った事を認知するよりも早く顔面へ激痛が走り、宙を舞ってる事を認知するよりも早くさらに脇に激痛、高架線に自分の型を作ったの理解した時には、既に地に伏していた。だがディケイド-ブレイドの速度が下がったのではない。ディケイドは未だ花びらのように舞う瓦礫が見えている。


「貴方の目的はこのハイパーゼクターだったんですね、」


『MAXIMUM RIDER POWER』


 倒れるディケイド-ブレイドの眼前に敢えて不動の姿を見せるコーカサス、ハイパーゼクターの角を倒すと、ゼクターよりコーカサスの角に向かってエネルギーが迸る。


「なんの、話だ・・・・・」


 ディケイド-ブレイドにとって幸運だったのは、倒れたそこから手を伸ばした位置にライドブッカーがあった事。


「知っているはずだ。時空渦を起こす為には、パーフェクトゼクター、それに適合する3つのゼクター、変身者のカブター、そしてハイパーゼクターが要る。ハイパーキック!」


 コーカサス、右腕のゼクターを捻る。


『RIDER KICK』


 一足、

 一足で間合いを詰めるコーカサス、

 立ち上がるディケイド-ブレンド、

 軸足を液状化した大地に埋めて全身のバネと体重を乗せたコーカサスの左ミドルキック、 ディケイドはバックルに一枚のカードを収める、


『ATTACK RIDE TIME』


 止まった、

 何が止まった、

 舞い落ちる瓦礫が、

 コーカサスの足下の砂塵が、

 そしてコーカサスの蹴り足が、ディケイド-ブレイドに紙一重で止まった。

 ディケイド-ブレイドが、同時性から抜け出した。


「言ったぞ。敵ではないんだ。このコンボはこれからだ。」


 ゆっくりと回れ右して歩み出すディケイド-ブレイド。コンボ、即ちもう一枚取り出した。


『ATTACK RIDE MAGNET』


 止まった時の中で唯一動けるディケイド-ブレイド、その中でもう一つだけ動く、宙を飛んで引き寄せられる物体がある。コーカサスより分離したそれを、ディケイドは後ろ向きのまま掴んだ。


「こっちだけか。」


 ブレイドの像が消えていく。ディケイドに戻りながら、掴んだハイパーゼクターを二本指で摘んで弄ぶ。

 時が動き出す。


「ギグォォォォ!あしァァァァァ」


 動き出す瓦礫、

 静まる砂塵、

 そして動き出すコーカサス、

 だが一つ違うのは、彼の時間はハイパーゼクターの喪失で、急激に減速、力の三つの法則がコーカサスを支配してねじり込み、その肉体を限界にまで酷使、ついに軸足が破綻する。思わずコーカサスは転倒。


『FINAL ATTACK RIDE dededeDECADEee!』


 ブッカーをガンモード、ディケイド前面に等身大のパネルが幾枚も縦列に出現、


「考え直しだな。」


 発射される光弾、光の壁を通過する毎に巨大化、コーカサスに向かって一直線、


「何を、したぁぁぁ」


 爆破、

 コーカサスもろとも、路面先の高架の瓦礫まで直撃、炸裂する線路、地下に潜った舗装路が日の光に晒された。


「ゼクターも意志で剥がされるのを抵抗する。」


 金のゼクターを拾い上げる士。装着者の男は白目を剥いて伸びているのに、コーカサスゼクターは傷一つ無い。


「参ったね。アンタに頼みたかった事の内の一つを、こうもあっさりやってのけるとはねえ。さすがは異邦人。」


「ようやく、話せるって訳だな。全てを、ババア。」


 その地下道を潜った先に人影を見えた。

 賺さず翻ってぶら下がった二眼トイのシャッターを切る士。


「美味しい物を食べるのは楽しいが、一番楽しいのはそれを待っている間だ。小僧、ソウジと気が合いそうだね。」


 手製のわらじ、端布で作った足袋、端布で繕ったデニム、二羽織、指先の空いた軍手、タオルで巻いた頭。そしてややしなりがある一本の杖。先に遭った時とは違うが、それは間違いない、あのお婆ちゃんだった。


0 件のコメント: