2013年1月3日木曜日

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その8





 ディエンドに並ぶライダーは、失神した夏海を抱えたカリス、そして新たに召喚した『凍鬼』だった。凍鬼は金棒を肩で担いでいる。夏海を下ろしたカリス、自らの得物『カリスアロー』にカードをスラッシュする。

『ライフ』

 見る間に夏海の柔らかな頬から擦り傷が消え、汗が引き、乱れた息が整って、苦痛に歪んだ眉間の皺が弛んでいく。一度寝返りを打った夏海はその反動で意識が覚醒し、柔らかな両目蓋が開いて日差しに目が慣れるまで瞬きを繰り返す。

「あらかじめ言っておくが、ボクも今からやる事はらしくないと思っている。」

「ここは、どこ?」

 粘り付いた上唇と下唇を引き離すとプルンと揺れる。夏海はそこがようやくその世界の写真館だと理解した。

「早く出てこないと、夏メロンの命は無い。そして、キミも永久に写真館から出られなくなるよ。」

「音撃殴、一撃怒涛!」

 凍鬼が無空に出現した幻影の銅鑼を叩くと、音の暴圧が発生、大気を拡がって写真館の崩れかけた扉を震えさせる。窓ガラスが割れ、枠が崩れ、辛うじて立っていた1枚の壁が横揺れして、反動で扉がごく僅かに開く。

「さあ、早くダブルドライバーをこっちに投げな。」

 だが投げられる気配はない。その代わり声がした。

「いいか。泥棒はな、探偵に弱いって相場が決まってるんだぜ。」

『ルナ トリガぁ!』

 ドアの僅かな隙間、一旦上方へ撃ち上げられた数本の閃光が屈曲してカリスと凍鬼に幾角度から突入、カリスはアローを振り回し全弾弾き返すが、威力に圧し負け後退り。凍鬼は目元に直撃を食らって倒れ様、放り上げる形になった自らの金棒を首に打ち付けノックダウン。

『トリガーぁ!マキシマムドライブっ!』

「『トリガー、フルバーストっっ』」

 10数本の光がさらに扉の後ろから発射、歪曲して怯むカリス一点に集約、直撃したカリスは大爆発を起こす。

「調子に乗らない方がいい、どうやったって、このボクにはどのライダーも適わない。」

 爆風を背に受け微動だにしないディエンドは、堪える夏海の頭にディエンドライバーを密着させた。

『ディエンドの検索は既に完了している。彼はカードの限りライダーを召喚できる。やろうと思えば、ボク等の体力が尽きるまで。』

 その段階で扉の影、写真館から姿を晒す仮面ライダーW、右半分はまばゆい金で彩られ、左半分は鮮やかなブルーで彩られている、ルナトリガーの右目がしきりに明滅しながら聞いてもいない解説を始める。

「その通り、仮面ライダーWの右の方はさすがにボクをよく分かっている。」

 既にディエンドは3枚のカードをドライバーに装填。銃口を高く掲げた。

『KAMEN RIDE IXA IXA IXA』

 ディエンド、それぞれ3体の同じ『イクサ』を召喚、内1体はフェイスをオープンして高熱を発し、さらにもう一体は、ライジング、の電子音と共に装甲を除装し蒼きイクサとなる。

『検索は既に完了している。ディエンドはどうやってもそのカード召喚に隙が生じる。今だ、翔太郎、』

「おうよ相棒!」

『ルナ ジョーカーぁ!』

 バックルのメモリを素早く切り替え左半身を黒く染めたW、その金の足を振り上げると関節が抜けてゴムになったかのように足先が伸び、遠く離れたディエンドの手からドライバーを蹴り弾き、足が返って今度は金の腕が夏海まで伸び回り込んで、宙に浮かぶディエンドライバーごと夏海を抱えてWの元まで引っ張り込んだ。

「その命」

「神に」

「帰しなさい」

 内2人は女性の声だ。

「お嬢ちゃんは返してもらったぜ。駆け引きは大体探偵の方が勝つんだぜ。」

 既に夏海を脇に抱えて左の人差し指と親指を二度ほど擦った。

「一人で、立てます、」

「大丈夫か?」

 夏海が藻掻いたのに、やや驚くW。最後の見た時の状況からは考えられない回復ぶりだった。思わず手を離し、足の下から頭のてっぺんまでマジマジと眺めるW。

「二人をこの世界から逃す訳にいかない。写真館に絶対入れるな!」

 手ブラのディエンドから指図された3体のイクサがWに近接、もっとも身の軽いライジングが短銃『イクサライザー』をバーストで放ちながら先頭を走る。

『イクサの検索は完了した。彼らはヒートと相性がいい。』

 夏海を壁の方へ突き飛ばしつつ、3メートルほど伸ばした金の手をムチのように撓らせ、ライザーの光弾を防ぐW。
 ライジングイクサは銃を反対の手に持ち替え、空いた拳に体重をかけた。銃撃が止んだ。

『ヒート ジョーカーっ!』

 交差する拳と拳、右半身を赤に染めたWの右拳は赤よりも紅い炎を纏った、

「おらぁ」

 推し勝つWの拳、ライジングイクサの顔面に炎がいつまでも纏わりつき、その蒼きボディから灼熱に染まる。

「顔は止めなさい、顔は止めなさい!」

 立て続けに連打されるWの右拳にもんどり打って後頭部から倒れ、なお身に炎が纏わり続け悶えるイクサライジング。

「うちの人に何を!」

 W直角方向より、閃光のような白き斬撃が振り下ろされる、

「つぇぇ」

 それはバーストモードイクサの『イクサカリバー』の刃。ヒステリー気味な女声を伴って左上から袈裟斬り、

「今は青空の会もロクに顔出さなくなって、私がお店出て食わせてるけど、あれでもちゃんとした亭主なんですからね!」

 さらに返す刀で右斜めから打ち込んでくるイクサに、打たれるままのWは退くしかない。

「お店では、レイナよ!よろしくね!」

「聞いてねえ!」

 ジョーカーの左腕で刀身を辛うじて掴み、大きく弾く、逆の腕にはメモリが握られている、

『ヒート メタルぅ!』

 左半身を金属色に塗り替えるWに、なお振りかぶるイクサ、半身を捻って背を見せるW、『メタルシャフト』が折りたたまれて背負われている、シャフトがカリバーを受け止めた、シャフトを手に取る形でカリバーを弾くW、即座にシャフトが3倍に伸び、半回転させてイクサの腹を打ち、反転させシャフトの逆端、炎の灯った先端で顔面を直撃、

『イクサは機械だ。エネルギーの調整はかなりのデリケートだ。だから過剰に熱を与えるだけで動かなくなる。』

 もんどり打って倒れるバーストモードイクサ。

「どんどん行くぜ」

 追い打ちをかけようと奮い立つWは、メタルシャフトを右へ一回転、左へ一回転し、脇に挟む。

『イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』

 そのW背後からセーフモードイクサが拳を繰り出してくる。

「おっと」

 反応しているW、先端に火のついたシャフトを振りかぶって威嚇する。

「私の魂が、おまえを討つ!」

 直接肩へ受け止めるイクサ、あまりの破壊力に片膝が折れる、だがシャフトを掴んだ、そう敢えて受け止めた、反対の拳には『イクサナックル』、ゼロ距離からの電磁砲がW右脇に入る、

「ぐぉ」

 Wの足が宙を浮いて重心を失い、気づかない内に天地が逆転、それでもシャフトを地に差し両足揃えて着地するWだった。

『今はまだ連携が取れてない、早い段階で討たないと厄介だぞ翔太郎。』

「強え、いい女。勝負だっ」

 W、バックルからメモリを一本だけ抜き、シャフト側に差し、シャフトを水平に構える、

『メタルぅ マキシマムドライブ』

「『メタルブランディングっっ』」

 シャフト両端から噴流が吹き、頭上へ掲げ回転させると炎の輪となって前方へ拡散、立ち上がりそれぞれのフエッスルを手にしていた3体のイクサは半歩遅い、炎に巻かれ一斉に消失した。

「強かったぜ、いい女、顔は分かんなかったけどな。」

 硝煙上がる大地には3人煙に巻かれた人影が見える。が、顔を見る前にカーテンに隠れてしまった。残ったのはWの足元に転がった、イクサの1人が落としたろうイクサナックルのみ。

「渡したまえ、それは今はボクのモノだ」

「イヤです」

 一方、その傍近く、遠く壁のドアに後ろ歩きでジリジリと下がる夏海、その両腕にディエンドライバーが抱えられていた。

「そうか」

 夏海の眼前には手を伸ばして迫るディエンドが。

『ジョーカーぁ マキシマムドライブ』

 そのディエンドに横殴りの突風が吹く、思わず振り返って見上げるディエンド、

「『ジョーカーエクストリーム!』」

 両足を揃えて蹴りの態勢、Wの左側が縦半分に割れ、前方にやや突出、右側とズレる奇っ怪なスタイルで降下してくる、
 ディエンド直撃、から透過、素通りしたWは地面を抉って夏海の黒髪を大きく乱しただけだった。

「ディエンドに残った力でもこのくらいはできる。また会おう、夏メロン。」

 ディエンドの立つ地は、夏海達の至近にありながら全く違う別の世界、次元のカーテンは既にディエンドを覆って、Wからは揺らいだ幻想のように見えた。

「メロンじゃないですみかんです、みかんでもないです!」

 既にディエンドのスーツが蒸発するように着脱し、嫌味な程屈託のない笑顔を夏海に向け、海東大樹は空間に溶けていった。残ったのは、ディエンドの腰に巻かれていたカードケース。地に落ち、僅かに埃を立てた。

『探偵と泥棒の化かし合い、どちらが果たして化かされたのか。さあ、光夏海くん、ぼやぼやしていないで写真館へ行こう。』

 Wの右目の明滅が夏海を照らした。

「待てフィリップ、あのキバーラって変なのは、写真館を調べても無駄と言ってたぜ。」

『ディエンドライバーをこちらが手に入れたのは、まことに幸運だったよ翔太郎。』

「そうか、さっきの芸当、だよな。だとさ、お嬢さん。」

 Wの左眼が夏海に向かって明滅し、黒い人差し指と親指が忙しなく動いた。

「アナタ、キモチ悪いです」

 そんなWを端で眺めて首の2眼を弄ぶ夏海は、顔をしかめるしかなかった。





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