2013年1月3日木曜日

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その9





 記憶が無いと言われました、
 私の周りからみんないなくなりました、
 絆が全て無くなりました、
 そうか、士クンは絆をずっと求めて旅をしていたんですね、
 笑ってしまう、士クンをずっと見てきて、士クンとずっといっしょにいて、でも私はずっと士クンを上から哀れんでて、同じだったのに、
 そんな傲慢な女、捨てられて当然だよね、 名前も偽名と言われました、
 仲間も全て偽物でした、
 せめてユウスケだけでも取り返そうと、ディエンドから銃を奪った私は、必死でカードを繰ってユウスケを探しました、少しだけ希望を持って、
 でも無かった、何度も何度も繰って、2枚かもしれないから傷つける程擦って、でも1枚で、結局無かった。
 私、なんで神様にこんなにイジメられなきゃいけないの?なんでこんな目に逢わなきゃいけないの?
 そんなに私のひとりぼっちが、この世の中のみんな嬉しいの?

「そこのかわい子ちゃん、ドライバーを渡しな。」

『光栄次郎は、用心深いね。なんの痕跡も残していない。カメラにもタペストリーにも次元移動の秘密はない。門谷士の能力であるにしても、その引き金となる行為を光栄次郎は担っていたはず。どうやっていたんだ?』

 今私達は見慣れた写真館のリビングにいた。
 この2人、今1人の・・・・ええい、なんで私がそんな事気に掛けて煩わされなきゃいけないのかしら、もうなにもかも理不尽だわ!

「ああ・・・・、気分替えようか。」

 あの緑と黒の、ディケイドより絶対へんてこなライダーの変身を解いて、あの帽子カッコツケル君が現れた。途端彼のダサデカい携帯が鳴った。

「フィッリプ、まあ落ち着けや、分かってるさ。別の世界にいるのは、オレなんだ。」

 私がディエンドの銃を渡そうというタイミングでカッコツケル君はクルリと後ろを向いてキッチンに入っていった。なんてタイミングの悪い、この私の差し出した手をどうしてくれるんだコイツ。絶対コイツ女にモテねえ。
 しょうがないからリビングの丸テーブルに銃を置いた私は、コーヒーやらカップやら場所が分からずパニックってるカッコツケルくんを鎮めにいく事にした、しようとした、でも出来なかった。

「音撃殴っ一撃怒涛!!」

 突然写真館全体が立てないくらい揺れ出した。私も揺れた、背骨にくる震動に、私はついにこの世界で一生を終わると、あっさり思った。

「うぉぁぁ、目がぁ!入ったぁぁ!」

 キッチンでコーヒー豆かぶって転げ回るカッコツケル君、

「音撃殴!音撃殴!!」

 士クンならこんな無様な事はしない。揺れた瞬間すぐに私の元へ駆け寄って、抱きしめて、私を守ってくれる、はず。

「その銃だ、銃を寄越せ!」

 カッコツケル君が私に何か叫んでいる。私はテーブルに振り返って銃を取ろうと手を伸ばす、

「音撃殴っっ!!」

 でも銃は向こう側へ転げ落ちた、私は立っていれなかったし屈んでテーブルの下へ手を回した。

「イタ」

 テーブルがその時倒れて私は思いきり頭を打つ、
 花瓶が割れる音がした、
 壁にも皴が入っていく、

「音撃殴っっ、音撃殴っっっ、音撃殴ぁぁぁ!」

 相変わらず骨が響く震動に、私は割れそうになる、頭に変な音も響いてくる、
 銃はフローリングを跳ねてどんどん私の手から遠のいていく、

「光夏海、もう銃はいい、オレが出て、」

 カッコツケルが何を叫んでいるか私に聞き取れなかった、
 私は壁に突き当たった銃まで這って、手に取ろうとした、でもその間カメラが倒れ込んできた、レンズの破片が私の顔に飛んできた、思わず目を塞いだ、銃は重いカメラの下敷きになった。

「士くん!」

 訳も分からず叫んだ私の背後に、留め金の外れた緞帳が降りる鈍い音がした、
 振り返って私は見た、
 タペストリーに描かれていたのは、中折れ帽を被った背の高い男性の背中と、その人が眺めるオランダ風車のような塔が立つ夜のビル街の風景、

「風の街・・・・・?」

 そのタペストリーが突然光り出した、
 それは私が何度も体験した、別の世界へ飛んだ合図だった。




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