2013年2月2日土曜日

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その2





 また例の夢、
 ディケイド、
 私はいない、
 ディケイドの目の前に数え切れないライダー達、
 ライダーの一人が攻撃してきた、
 危ないディケイド、
 私の思いと繋がってるみたいに手で顔を庇うディケイド、
 反対の手でピンクの光を出してライダー達を溜まった埃のように吹き飛ばす、
 止めてディケイド、
 でも今度は私が何を願ってもディケイドはライダー達と戦うのを止めなかった、
 止めて止めて止めて、
 私はディケイドの血に染まった掌を眺めた、 見てるだけで臭ってきそうな気がして目を背けたくなった、
 そんな私の気持ちと同じように目を背けるディケイドの視線、
 違う、
 私の思った通りにディケイドが動いてる、 でもライダーと戦う事を止めない、
 違う、
 私だ、私が止まらない、
 私がディケイドになって、戦うの止められない!



 今日はとびきり酷い夢だっだ。
 私が目を開けると、いつもの湿気を感じる白い壁と埃がうっすら降りた木目が綺麗な床、いつもの私の家、もう私しかいない写真館。
 テーブルは倒れ、ディエンドの銃は暖炉の灰に刺さって、カードは床に散らばった。
 今私の目の前に、士クンが一番気にしてた同じ『COMPLETE』のロゴが入った、いくつかマークが入ってるカードが落ちている。あの海東大樹さんもいろんな世界回って集めてたのね。

「やったぁ!」

 あの帽子のだらしないカッコツケル君が、命が助かったからか、それとも自分の世界に帰ってきたからなのか、玄関を開けた途端大声ではしゃぎだした。たぶん後者。

「トイレだぜフィリップ、大変だ、これからオレ達トイレ無いぜ。」

 カッコツケル君、玄関の戸を半開きに私を手招きする。

「気づいたか、光夏海、・・・・どうしてだ、もう電話なんてイラねえだろ、いねえ?オレはこうして2階の廊下にいるぜフィリップ。」

 カッコツケル君が床板がミシミシ言う廊下を出る。私が写真館を出て振り返ると、といれと少女趣味の彫刻看板がかかった扉になっていた。カッコツケル君は先に進んで廊下にもう一つある扉を開けた。

「ええい、このナルミ探偵事務所に押し入るたぁ、舐めたもんヤなぁ!」

 頭上80度からカッコツケル君に振り下ろされる細い足首、そのつま先には緑のスリッパが履かれている、私はその時ピクリとも動けなかった、

「てぁ!」

 床板に思い切り顎を打ち付けて倒れた。あれ絶対お腹真っ赤になってる。彼の持ってたやたらデカイ携帯が私の足元に転がってくる。

『翔太郎、まだそこがボク等の風都だと決まったわけではない。現にボクが廊下を出ても君達を見つけられない。いいかい、思い当たるだけで2つ、そこがボク等の事務所に偽装しているか、似ている別の世界かだ。だが君達はランダムに転移した。敵がいるとしても先周りするのは不可能だと推理する。おそらく翔太郎、そこはボク等の風都と似て非なる』

 なんだかよく分からないけど、たぶん電話の先の子は内に籠もっちゃうタイプだと思う。

「ナルミ荘吉の娘にして嫁(仮)、このナルミアキコが、お父ちゃんの留守預かってるんやでえ。か細い美少女やからって、ナメたらあかんねんでぇ!」

 どちらかという、無遅刻無欠席で表彰何枚か持ってる健康優良児が両手を腰において鼻息を飛ばしている。(仮)ってなんだよ。

「亜樹子、おめえ、翔太郎だバカ、この鳴海探偵事務所を預かって・・・・・、誰だ、亜樹子じゃねえ!どこだフィリップ!!」

「ナニヌカしとんねん、私は正真正銘、風都一番のナニワの美少女アキコやでぇ!アンタこそナニもんやコソ泥!」

「おまえ、ちゅうか、園咲若菜じゃねえか!なんだ!これはテレビか!どっきりか!白状しねえとアンタの素の性格全国放送しちまうぞ!!」

「シロップがなんやねん?今レーコー呑んでる場合ちゃうちゅうねん!」

「って言ってます」

 私はそんなカッコツケル君より、電話のコモル君の方がマシだと思った。アキコを名乗る子がカッコツケル君を立ち上がらせてネクタイ締め上げてるせいもあるけど。

『そちらの亜樹ちゃんが若菜さんに似ているのは意外過ぎるが、やはりそんなやる必要も無い事まで違いがあるのに確信が持てた。そこは、別の風都だ。夏海さん、そちらのアキコさんに聞いてみてくれないか?鳴海荘吉が生きているかどうか、いや、鳴海荘吉がどこにいるかを聞いてくれればいい。』

 私は何がなんだか分からないが、とにかく頼りない藁のような2人のどちらかの言う事を聞くしかなかった。こんな時士クンは平然としていたな。

「あの・・・・、」

 アキコさんがこっちに怖い顔を向けた。私もあのスリッパでボコられるんだろうか、私生きていられるだろうか、きっと頭ザクロにされるんだわ、助けて神様!

「アンタ、分かったで、誘拐されたんやな!可哀想に、」

 なんか生きていられるみたい、神様ありがとう、でも神様、この台風娘をなんとか止めて!

「私は、その、」

「ああ、皆まで言わんでエエ、私はこの事務所の主、今日も街の為に駆けずり回ってるナルミ荘吉の娘やで、あいつに誘拐されて、イヤイヤいっしょにいるんやろ、待っとき、今すぐこの風都泣かせる変質者を退治したるさかいな!」

 私の肩を掴んで揺する女の子の背を叩くカッコツケル君、

「おやっさん、鳴海荘吉がこの世界じゃ生きてんのか!」

「人の旦那(仮)捕まえて不吉な事いいナ!」

 見ないで上段バックキック、顔面にスリッパ裏をくっきり、
 もんどり打って廊下を倒れるカッコツケル君、ああこれをコモル君は予想できてたんだわ。

「・・・・あの、荘吉さんは今どこにへ、」

「は?まさかアンタら依頼人?ウチ聞いてへん!それならそうと早よ言うたら、」

 この豹変した台風娘が私の手を引っ張って事務所と言うレトロな雰囲気の室内に招き入れた。疲れるわこの子。天井に剥き出しのプロペラがまったり回ってるんだけど、その風はただただ室内の埃を巻き上げてるだけで、なんでだろう、この子こんなところに住んでる事が可哀想になってきた。おしゃれしたい年頃なんだろうし。
 私はトゲっぽい電話を、ヨレヨレで入ってくるカッコツケル君に渡して、窓寄りの3人掛けソファに腰を降ろした。そうするつもり無かったけど、思いっきり腰掛けたんで埃がバッと舞った。そう言えばおばあちゃんの小屋から掠われてずっと休む事無かった。

「別の風都って何だよ、早く言えよ相棒。そっちの園咲若菜も、実はもっと底は凶暴かもしんねえぞ。この間なんか目じゃないくらい」

 そう言って勝手に流しまでズカズカ入っていって棚からコーヒー豆を出すカッコツケル君。携帯を手にしながら台風娘はヒスってるけど、部屋の中不作法に障りまくって、そつなく湯を沸かし始めた。

「あ、お父ちゃん、今どこおんの?・・・・ギャリーに乗るな?ちゅうかなんやその後ろで聞こえる奇声は?オカマに襲われてる?なんやそれ、ええか、依頼人来とんねんから、早よ帰ってきぃ!・・・・すんまへんな、うちの人ゲイバーで遊んでるみたいで、」

 眠くなりそうな目をこすりながら、私は携帯をかける二人を黙って眺めて、何か言ってくるのを黙って肯いていた。
 突然ブザーが響いた、思わず眠気がふっとんだ。

「おい、こっちのアキコ、今ギャリーつうたな。ちゅう事は隣の部屋ぁ」

 親指と中指を2回弾いて、カッコツケル君が入ってきたドアと違うこの事務所のもう一つの扉を唐突に開けた。中からムワっと油の臭みが私のいるソファまで拡がって来た。

「何してんこのガキゃ、ウチのプライベート侵害やで!」

 慌てて携帯切ってカッコツケル君に掴み掛かるアキコさん、

「在んじゃねえか。おいフィリップ、間違いねえ、おやっさんのピンチだ、イテっ」

「なにヌカしとんねん!」

 カッコツケル君がかっこつけてる中、緑のスリッパで何度も張り倒すアキコさん。
 私は依然鳴り響くブザーに耳を塞いで隣の部屋をソファから眺めていると、金網の床がキンキンな音を立ててせり上がっていくのが見えた。

「この世界のライダーは、間違いねえ、おやっさんだ。おい、光夏海、」

 困惑する私に上から目線な態度のカッコツケル君、こういう置いてけぼりなところ、どっかの誰かみたい。

「はい?」

「門谷士もいつもこんな唐突なメに遭ってんのか?」

「士クンは、貴方よりずっとずっとスマートに知らない世界を渡り歩いてました。」

「そうか、ライダーってなぁ、どいつもこいつも。行ってくらぁ、ちょっと待ってな、ここのライダースカウトして、ついでにオレの風都の亜樹子に会わせてやる。」

 そう言ってカッコツケル君、隣の部屋へ勢いつけて飛び込んでいく、しがみついてあがいたアキコさんもスリッパを振り回して飛び込んだ。
 私は、士クンを褒められた事が、なぜだか少し嬉しかった。
 そんな私を置き去りに、何かものすごく大きな機械がものすごくグルグル回ってものすごく轟音を立てた。

「キャッ」

 私が立ち上がって隣の部屋を覗いた時、髪が水平になるほどの突風が吹いた、
 もう既にそれが発進して、私にはちらしずしで使う盥の親玉みたいなのが車輪履いて去っていく姿にしか見えなかった。




0 件のコメント: