2013年3月3日日曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その2





 帰ってきた2人、いや3人に増えてたけど、あのカッコツケル君と、まるでカッコツケル君がワープ進化したみたいなイタニツイタカッコイイ氏がやって来て、なんだかスゴく雰囲気悪い。そしてあのアキちゃんは涙目になっている。カッコツケル君は早々に写真館の方へ閉じ籠もって、カッコイイ氏は上着を脱ぎ、帽子などは円盤投げしてミラクルに壁にひっかけ、そのままコーヒー豆を出して網で煎り始めた。
 いったい何があったんだ?

「ホンマすまんねんけど、あいつ呼んで来てくれんかな。お父ちゃんが取りあえず腹満たしとけって」

「いやオレが行く。その繋がった部屋というのを見ておきたい。」

「お父ちゃん、いっつもそうやねんから!お父ちゃんだから胡散臭がられんねや!」

「アキコ、オレのやる事だ。」

 そう言ってトイレの看板のかかったドアをカッコイイ氏は入って、やたら無神経な音を立てた。男2人が怒鳴り合ってるギスギスした音が響いてくる。ヒトの家で何やっとんじゃ?だけど、ほんの少ししたら、2人とも素直に出てきた。ムスっとしてるけど。
 ああ、この2人はライダーなんだ、そう私は納得した。士クンはいつも他の世界のライダーと出会うとすごく反発し合った。私じゃ絶対できないな。

「納得してねえからな!それだけは、おやっさんでも引かねえ・・・」

 などと無邪気に吠えるカッコツケル君を見てると、意外に士クンは大人な方だったんだなと思えてくる。

「これで全てが揃った?・・・・・、謎はやつらが狙うメモリの場所、いやそれより急いでここを引き払う。黙って腹を満たせ小僧。二度は言わん。」

 カッコイイ氏が用意した塩でしか味が無い硬いパン、冷蔵庫に入れっぱなしで冷えすぎたチーズ、そしてなにか拍子抜けなブラックコーヒーは、どれも女子としては満足できないものだった。私、毎日おいしいコーヒー飲んでたんだな。私も隣のアキちゃんもコーヒーに大量の砂糖とミルクを投下した。カッコツケル君はどういう訳か、

「くそ、なつかしい」

 と聞き間違えかもしれないけど、小声で言った気がした。

『風都の諸君、オレの名は、仮面ライダーW。おまえ達を窮屈な現実から解放する救世主だ。』

 一斉にブラウン官白黒テレビに4人の目が向けられた。そして一瞬だけ間を置いて4人の耳が古いダイヤルつまみのラジオに向けられた。アキちゃんがテレビのダイヤルをペンチでグリグリイジッて変えても同じライダー、あのカッコツケル君によく似たライダーが出てくる。もう私は見慣れてるよ、似てるライダーが敵同士とか。

『この風都を影から支配し、ガイアメモリで暴利を貪っていた園咲リュウベエは、このオレが倒した。やつが独り占めしていたメモリの力を、おまえ達全てに解放する。』

「バカな」

「バカヤロ」

 男2人が同時に叫んだ。それがどれだけ哀しい意味があるのか、その瞬間の私には分からなかった。
 カッコイイ氏とカッコツケル君が同時に立ち上がった、だが同時にカッコイイ氏がカッコツケル君の肩を上から片手で抑え込んで座らせた。
 ブラウン管のライダーが、手にしたアタッシュケースをあける、中にはカラフルに光るキャンディーみたいな棒がいっぱいウレタンに埋められている。ライダーはその中の何本かを見せつけるように取り出し、一つを腰に吊した大きな刀みたいなモノを中折れさせて装填した。まるで西部劇のライフルみたいな仕組みで一振りで元の刀にするライダー。

『ゾーン マキシマムドライブ』

 そうして手にした残りの棒を宙に放り上げて、光を帯びた刀で斬った。でも壊れる事無く棒はことごとく消え去った。

『見るがいい』

 ブラウン管の風景が暗い室内に1人立つライダーから、日の光が眩しい整頓された花壇の庭に石畳を敷いた路上の散歩する人々に映り変わった。その中の2人にさっきのメモリとか言う棒が突然現れて、後頭部に刺さって体に埋まった。

『スパイダー』

『バット』

 その人達が怪物になっていく映像を見て、私以外の3人の顔が引き攣った。私は、この世界の怪物は普通の人がなるんだ、と悪い意味で慣れてしまっていた。こんな事3人に口に出して言えない。
 怪物が突然現れて、画面の中の人々が奇声をあげて逃げ惑った。耳でなく頭に直接打ち付けてくるような子供や親達の悲鳴。怪物が吠えて、突然画面が一面白く光って、耳にしばらく残る重い爆発音がして、私は思わず目を閉じた。私は今ライダーに守られているから、落ち着いてられる。でも画面の中の人達は、私が最初に怪物達を見たあの時と同じでただ怯えて逃げるしかない。誰かに守ってもらえないって、こんなに違うんだろうか・・・・、私は今すごく性格悪いと思う。

「お前達は、今から教える男に会え、」

 カッコイイ氏が机のメモに手で削ったえんぴつでなにか書き出して、1枚剥いてアキちゃんに渡した。その動作一つ一つが手際良くて様になってる。

「尾藤さん?あのテキ屋の?」

「アキコ、はっきり言うぞ、おまえが狙われている。オレの事を知っているフミネは、オレがドーパントを相手にしている間、ここを襲撃するだろう。」

「待てよ、」フレミングの法則にカッコイイ氏を指差すカッコツケル君。「アンタを警戒してここを襲ってこねえって事なら、アンタが娘を守って、オレが今テレビ映ってるとこに行けばいいんだろ、分かってるぜ、あそこは風都病院だ。別の世界でもここは風都、裏道の猫の住み処までオレは知ってんぜ。」

 でもカッコツケル氏は構わず壁掛けの帽子を選んでいる。

「いや、風都大学だ。おまえがさっき聞いたように別の世界の風都のライダーとして立派に務めていたとしても、この世界では門外漢、些細な見立て違いが命取りになる。」

「アンタの知り合いだった女なんだろ、あの透明人間モドキ。だったら、アンタの知り合い根こそぎ調べてマークしてるぜ。アンタ自身がこの子の側にいてやれよ、親なんだろ!」

「オレは尾藤を知っているが、尾藤なら、オレの知らん隠れ家をいくつも知っている。それよりおまえのような半人前が見立てを誤る事の方がオレ達全てを危険に晒す。おまえのその依頼人を含めてな。」

 カッコイイ氏は私を指差した。そうだ、私はこの頼りないヤツに守って貰っているんだった。

「半人前・・・・・」

 強気なカッコツケル君はもう少し言い返すと思ったけど、ものすごくダメージを受けたような顔して口をパクパクさせてる。

「いいな、おまえの役目は、アキコを尾藤のところまで連れて行く事だ。」

 間隙を縫うように既にドアを開けて私達に背を見せているカッコイイ氏は、そう言って帽子を直し、静かにドアを閉めた。

「なんだアイツ!バカにすんのもいい加減しやがれ!」

 この子と会ってそんなに経ってないけど、他人を悪し様に口にするのはけっこう珍しいかも。

 ぉて!

 そんなカッコツケル君の後頭部に45度仰角で緑のスリッパが打った。

「なにスネてんねん、なぁナツミン」

「だよねアキちゃん」

「・・・ツテ・・・、なんだいきなりこの女、顔がいいからってオレが手を抜くと思うなよコラ、ていうか、おまえらいつのまに仲良くなってんだっ」

 だってさっきお友達だもんね、って2人で確認し合ったとこなんだもん。
 カッコイイ氏のバイクの音が遠退いたのを見計らって、カッコツケル君がグダグダ言って2階から1階へ私達を先動した。

「もっと気ぃつけえな。みえへんとこから襲われたらどうすんねや」

「このビリヤード場から出るのに危険はねえさ。ちゃんとこっちのおやっさんも死角に鏡を置いてる。玄関には昼でも夜でもちゃんと影が出るようにいつも照明が炊いてる。」

「あ、だからお父ちゃん電気消さへんのんか、・・・・・・・・、アンタが偉いんちゃうからね、お父ちゃんがちゃんと日頃から気ぃつけてるから偉いんや。」

 この2人相性がいいな、
 私は2人に黙って着いていく形で、朝日が柔らかく差す玄関先を出た。裏口から入ったから分からなかったけど、目の前はごく普通の寂れた商店街だ。いたるところに風車がある。お向かいのいかにもさらしななそば屋であのカッコイイ氏がもり食ったり、あのお肉屋のコロッケを立ち食いしてたりするんだろうか。

「おっきな風車」

 街道のずっと先で何十メートルあるか分からないオランダ風車の親玉みたいなのが回っている。

「あれが風都名物、風都タワーや。」

「あれがねえと風都じゃねえんだ。どこだ?その尾藤っての、」

 この2人絶対仲良いよね、

「メモはうちが見る、慌てんでええ、アンタ、お父ちゃんと違って頼んないねんから、ちゃんと尾藤のオッチャンのとこ連れてくんやで。」

「オレだって、あっちの世界じゃおやっさんの代わりにちゃんとライダーやってんだぜ!大体なんだアンタ、あいつに包帯女もろとも撃たれるとこだったんだぞ、なんでそんなヤツ庇えるんだ!」

「お父ちゃんは自分が全部背負うつもりやったんや」

「なんだよそれ!」

「あの人、うちの本当の親ややねん。」

 彼女がそう言って道の真ん中で立ちすくんだ、先頭を歩いていた彼は振り返って、口をパクパクさせて、目を瞬かせていた、私はそんな彼女の背中を黙って見ていた。

「うちの本当の母親が風都ひっくり返すような悪い事企んでるってお父ちゃんが知ってから、お父ちゃんうちに言っとったんや。オレの弱みはおまえだから、あの女は絶対おまえを人質にしてくるって、うちはだから言ったんや、うちはかまへんからうちといっしょにうちの母親を止めてって。お父ちゃんは分かった言うたんや。お父ちゃんはだから、正しい事したんや、」

「おまえ」

「したんや!」

 彼女の背中は正しいと言ってなかった。肩が震えていた。
 彼は指を何度も向けて、何かを言おうとした、でも遮られた。

『クイーン』

『オーシャン』

 いつのまにか彼の真後ろから2つの怪物が吠えながらやってきていた。
 カッコツケル君、私達に背を見せて、ただベルトを握った。巻く様は私の知っている誰かとよく似てる。

「逃げた方が!」

 たぶんこの子と私を守ってここに居る事は、すごくマズイと私は思った。

「今度も、いやだからこそ破るぜ、街を泣かせるヤツを、放っておけねえんだ。これは気休めだ。」

 カッコツケル君があの妙に大きな携帯にメモリとかいうのを差し込んだ。

『スタッグ』

 カッコツケル君の携帯が虫の形になって、私達の周りをグルグルと舞った。

「アホ言いな、かっこつけて」

 彼女も私と同じように考えてるみたい。

「アキコ!」

 彼は背中を見せたままだ。

「え?」

「おまえも街の住人だ。だから、おまえを泣かせるおやっさんを、オレは、放っておけねえ。産みの親を育ての親が殺しちゃ、結局おまえは泣くだけだ。そんなの、オレの知ってるおやっさんなら、しねえ・・・・・、いくぜフィリップ!」

『サイクロン』

『ジョーカぁぁ!』

「変身!」

 私の髪の毛が思い切り突風に流れて、まともに目を開けられなくなった。その時私ははじめて自分の髪の毛が邪魔に感じた。



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