2013年3月3日日曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その4





『ルナ ジョーカぁぁ!』

 LJの眼前には2体のドーパント、
 1体は四肢の無いチェスのクイーンの駒そのものであり、その頂点に一つ目が光る、
 もう1体は体こそは黒の競泳水着を着けた女性の体型であるが、肩、腿、そして首から先の本来あるものが無く、ただひたすら5つの穴からジェット水流をまき散らし、宙を回転している、
 肉体を月の光の右半身と切り札を隠す左半身に染めたLJ、無言で腰のスロットへメモリを差す。

『ジョーカぁぁ!マキシマムドライブ』

 途端いくつもLJの肉体が分身し、まるで幻想のようにアスファルトを滑りながら両ドーパントを方円に囲んだ、その間絶えず右の腕を人体としてありえない溶かした飴のように伸ばしてうねるままドーパントを威嚇、分裂したLJの1人1人から伸びる触手はしかし、その1つ1つが実ダメージを与えドーパントを怯ませる、

「『ジョーカーストレンジ!』」

 全包囲に光の硬膜で防御するクイーンドーパントのその隙間を縫うように、LJの1体から分裂した左半身が高速の手刀を急所に一閃、水流で圧倒数のLJ右の攻撃を弾きながら耐え忍んだオーシャンドーパントの実体めがけ、自ら描いた金色の円の中で黒い直線の軌道を何度も反射しながら波状攻撃、

『翔太郎、分かっていると思うが、これは明らかに足止めだ。』

 右の眼が明滅しながら周囲を警戒し、2人の人間からメモリが射出し、破壊するのを確認、

「イヤという程分かってる。だが、あっちのおやっさんなら、絶対逃さねえぜフィリップ、ちゅうか、あの2人、クイーンとエリザベスじゃねえかっ」

 倒れる2人の人間、女子高生は仮面ライダーWにとって、既知の顔だった。だがLJが駆けつける前に、飛び込むように寄り添ったのはアキコだった、

「ともちんとチュウやないかぁ、なんでこんな事なったんやぁ、昨日収録したばっかりやのに!」

『どうやら、この世界では別人らしい翔太郎。』

 LJは左指の収めどころがない。

「収録って、おいアキコ、おまえもしかしてラジオとかやっねえ?」

「3人でやってんで、タイトルは」

「「ヒーリングプリンセス」」

 ハモってしまった。

「タイトルだけはいっしょかよ、」

『翔太郎、敵は知るよしもないだろうが、君にもっとも効果的な足止めをしている、』

「わかってるってばよ相棒、忘れてたかもしれねえ、顔見知りが、ドーパントになるって事をよ、あの男も、あのアキコも、それを分かってるんだな、」

 だが動けないLJ、右頬に生暖かい風都の風を感じるLJは、そこに危機を察知する、

『翔太郎、来るぞ』

 右腕が強引にジョーカーのメモリを引き抜き、代わりを差し半身を鋼色に染めた、だがしかし、違うシャウトが、LMのバックルではないいずこからか轟いた、

『サイクロン』

『アクセル』

 同時に衝撃が走り、ビリヤード場の看板が突如コンクリートの爆流と共にLMに襲いかかる、

「なんだっ!?」

『あれはギャリー、事務所の通路を逆進してきた』

 粉塵がLMの視界を奪う、そのもののスピンターンがかき消していく、それは荘吉が奪われたギャリー、スカルギャリーが探偵事務所を突破半壊させて路上を飛び出してきた。

「アキコ、光夏海!」

 辛うじて両脇に抱えた2人の少女はその腕の中で失神している。だがLMの得物であるメタルシャフトは手にしていない。

『翔太郎、もう2人も心配する事はない。今は、敵に集中だ。』

 路上で倒れた女子高生2人の方はLMの右腕が投擲したシャフトが、まるで蛇のようにのたうって自律的に2人に巻き付いてなお勢いを失わず2人を宙へ持ち上げ裏路地へ引っ張り込んだ。むしろ両脇から下ろした2人の方が破片をわずかに食らって出血してる。

「あれはさっきの」

『あれは、ボクら?』

 正面で対峙するスカルギャリーのボディが左右に開く、中には1人の異形が立つ、それは右半身をそよぐ翠、左半身を拍車をかける紅に染めた、翔太郎達と寸分違わぬライダーの姿がそこにあった。『仮面ライダーWサイクロンアクセル』。

「よぉ!」ギャリー上にあって、両腕を大きく広げるCA。「おふくろが随分入れ込んでるやつの方か。オレと同じWドライバーを持つ男。」

 CA眼前のWは既に翠の右と漆黒の左へチェンジし、CJ眼前のWはゆっくりと瓦礫が散乱するアスファルトに降り立った。あり得ないはずの複数メモリ使い同士の戦いの火ぶたが切って落とされる。

「てめえ、仮面ライダーってのは、この街の住人が希望を込めてつけてくれた名前なんだ、」

『この世界のサイクロンの持ち主、』

 即座に負傷した2人から足早に離れるCJ眼前のWは、エッジの効いた剣を中折れさせ、メモリを装填している、

「だがオレには勝てん」

『キー マキシマムドライブ』

 そうして一旦担いで、
 振り抜く、
 瑪瑙の衝撃波がCJ一直線、
 見切ってステップするCJ、
 だが左肩を擦れ、膝を地につくCJ、

「なんだと、」

 キーの衝撃が左半身からバックルへ伝わり、左サイドに差さるメモリが1人でに抜き放たれ、宙を渡ってCAの手に届く。

『相手のメモリを自在に抜き取る事ができる、ドーパントに対してならほぼ無敵の能力。』

『サイクロン トリガぁぁ!』

 抜かれたメモリの代わりをすぐ様差し込み、左半身を冷徹な碧へ染めるCT。

「これが、検索に引っ掛からないメモリ。あってはならないジョーカーのメモリ。どうやら、天敵というのは、本当らしい、なっ」

 一瞬目を背けたCAの油断が、CTの速射をその掌に直撃させる。弾かれCAの手よりこぼれるジョーカーメモリ。

「よくもアキコ達を傷つけたな!」

 立て続けに5連射で圧すCT、

「この程度か」

 だが以降そのことごとく避け、捌くCA、その右腕一本の捌きはもはや見えない領域に至っている、

『さすがはサイクロン、疾い』

「感心してる場合じゃね!」

『ヒート メタルぅぅ!』

 CTからHMへその身を変え、背のシャフトを回し遠心力を保持、そのままCAへ突進、
シャフトの先端に渾身を込めて振りかぶる、

「格闘してやる」

 受けて立つCAもまた右手一本ブレードを振りかぶった、
 弾く、
 弾かれるのはHMの方、怯んで後退、

「なんてパワーだ」

『HMのパワーを、サイクロンを加速する事で上回っている。なんて相性がいいメモリだ。』

 シャフトを一振り、背筋を伸ばすHMを眼前にしCAは、ブレードの先端で対手を差し示し、次いでその先端でアスファルトに白いラインを引き、自分をグルリと囲む輪を描く。

「ここからオレの足が半歩でも出れば、負けを認めてやる、こい。」

「なめんな!」

 HM、再度突進、今度はそのままいくのでなく、フェイントで向かって右下から脇へ、

「セコいな」

 左手逆手に既に持ち替え受け止め弾くCA、シャフトを回して逆方向から伐ちに行くHM、さらに持ち替え受け止めるCA、CAは姿勢すら崩していない、幾度となく伐ち込むHM、幾度となく受け止めるCA、炎を纏ったシャフトの先端、目視できない速度に達するブレードの先端、

「『なに!』」

 いつのまにかシャフトで受けるだけで手一杯になるHM、シャフトで受けているつもりが相手の腕が目で捉え切れなくなった段階で、肉体へ一閃入り、全く対応できないまま上段から左肩へ重圧を食らって膝を地につける、その肩にCAのブレードが深々と刺さる、

『サイクロン メタルぅぅ!』

 倒れ様、右腕が素早くメモリを交換、右半身を赤から翠へ染め変え、シャフトを素早く跳ね上げて対手のブレードを腕から弾き飛ばす、

『対手に勢いを与えないっ』

 シャフトの先端が見えない程に遠心力のまま振りかぶり、素手となったCAを左右から伐ちつける、だが重心を崩すに至らない、それどころか片足を擦り上げ威嚇、CM顎を仰け反らせるCA、間が若干開く、

『トライアル』

 それはCA右腰にあるメモリスロットへの装填、未だ自分の描いたサークルの中片足立ちのCA、再び向かってくるCM疾速のシャフトを足一本で弾き、反動でむしろ速度を上げるシャフトの動きを、残像を伴った足技で躱し、拮抗し、いくつもの残像の脚がついには圧していく、CMすらシャフトで防御を取る事しかできない、

「地獄を楽しみな!」

 ついにはシャフトが軸の真ん中から折れる、

「『ぐわ』」

 CMは哀れ、宙をしぼむ風船のように舞って、アスファルトに打ち付けられた。

「底が見えた。おふくろを夢中にする程のやつじゃない。メモリでボディをチェンジするからどれ程かと思えば。」

 依然サークルの中で高笑いするCA。

「ヤツにだけは負けねえ」

『もうこれしかない』

『ルナ トリガぁぁ!』

 幻想の金、冷徹な碧へその身を染めるLT、胸に出現したトリガーマグナムをCAに向け、数発を立て続けに連射、その数発全てがまるで違う曲解した軌道を描いて動かないCAへ、

「ルナの能力は分かっている、」

 躱す躱す躱す、
 上体の動きがほぼ全ての光弾紙一重で躱していく、
 ほぼ全て、

「ぐ」

 それはCAの左眼への辛うじての一発だった。

「いけるぜ」

 即座にマグナムにメモリを装填、

『トリガぁ!マキシマムドライブ』

「『トリガー フルバースト!』」

 先よりも巨大な光弾が、一気に数十発、曲線を描いて怯むCAに畳み掛ける、

「ルナの能力は分かっていると言った、この程度の釣りに引っ掛かるとは、なぁ!」

 だがCAは自身の腰のスロットにメモリーを差す、

『ゾーン マキシマムドライブ』

 ある空間の一面を通過する数十全ての光弾が消え、決してCAに届く事がない、

「『なにっ!?』」

 光弾の行く先、転位した先はLT前面、全てがそのマキシマムの運動量を保存しつつ、位置と方向を変化させられた、

「『ぐぁぁぁぁぁぁぁっっっ』」

 全て直撃、自らの力で袋叩きに合う、足が地から離れ、いつのまにか頭が地を打ち、打った自覚も無い翔太郎の視界に、自分のワイシャツの袖が入る、ベルトにエネルギーが逆流した事によるメモリブレイク、地面と挟まるベルトの違和感で自分がようやく俯せである事に気づく。

「ルナの光が消えて・・・・・トリガーのメモリがうごかね・・・・」

 CAよりも自分の命よりも、形見の意味すらある腰のバックルとメモリに手をやり、一旦破損していない事に安堵するものの、何度押してもシャウトの響きがないメモリに絶句した。今、左翔太郎はアイデンティティが崩壊した事を自覚した。

「おまえを永久に闇の中に閉じ込めてやる。」

 俯せで放心する翔太郎に、再び右腕にメモリを握ったCAの高笑いが響いた。



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