2013年4月5日金曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その6





 スカル、ナルミ荘吉が計13体のドーパントを処理しスカルボイルダーに跨って事務所に帰ってきた時には、既にWはCAに討たれ、アキコも包帯の女に拉致された後だった。スカルの眼前のギャリーの影に入る形でCAが見え隠れし、その先に項垂れる翔太郎がいる。アキコと包帯の女、複数のライダーはそのさらに先の路上にいる。

「あのハナタレ坊主のせいでまんまと敵の術中にハマった。しかしあいつのおかげで、敵の大元が出張ってきた。アキコのベビー服かなにかに縫い付けているのかと思っていたが、まさかそんな事になってようとはな。今全てを終わらせるぞ、アキコ。」

 スカル、上座したままバックルからメモリを抜いて腰に装填、

『スカル マキシマムドライブ』

 スカル、スロットルを吹かして向かう先は敵ライダー、翠と紅のサイクロンアクセル、ボイルダーのカウルにスカルの紫炎が覆う、

「来たか、」

 翔太郎へのトドメを踏みとどまって、ギャリーを飛び越え上角50度からのボイルダーの降下を直視するCA、振り返ってそのままメモリを腰のスロットへ、

『キー マキシマムドライブ』

「貰う」

 スカル、クラッチを放した腕を水平に保つ、

「勝利の鍵は、常にオレの手にある」

 CA、左腕手刀で突きの体勢、
 すれ違う両者、
 すれ違い様CA首にラリアット直撃、スカル胸部にCA手刀が刺さる、
 ボイルダーからスカルの肉体が宙を浮き、ボイルダーは慣性のまま地に傷をつけながら転倒、スカルボディが蒸発して荘吉の白いスーツが覗かせたところでアスファルトに一回転受け身を取る、

「大したヤツだ、」

 宙にあってスカルメモリが射出し、CAの足元まで転がった、転倒し受け身を取った段階でドライバーが外れ、そのまま二転した反動で立ち上がる、

「おやっさん!」

 翔太郎は思わず駆け寄った。全身白ずくめの出で立ちで立ち上がった荘吉の一点、鮮血に染められた右脛が視界に入って咄嗟に動いていた。

「若造、てめえのケツを拭えないなら、とっとと消えろ。」

 荘吉は腰からスタッグフォンを取り出している。

「逃げるしかねえ、オレもアンタももう変身できねえんだ、」

 と言い終わらない内に、荘吉が振り返った。

「バカヤロウ」

 それは鉄拳、翔太郎にとってやはり“あの時”の感触だった。

「・・・・・、かっこつけんじゃねえよおっさんよ」

 語る程には眼に力が無い翔太郎だった。

「キーのメモリをブレイクするか・・・・褒めてやろう貴様・・・、だが腕一本までだ、」

 それを遠間で眺めるCAは身震いが止まらない、なぜなら負傷しているから、紅い側の二の腕から先が喪失している、その残った掌に握られたメモリも煙を吹いている。

「おまえは、いい仲間を持った、あの時トリガーの男の一発が無ければ、今おまえは立っていない。あいつは大した奴だ。」

 脚を引きずってスタッグフォンを放す荘吉の眼は既にCAに向かっている、

「ほざけっ!」

 その場に立って右の手刀を振りかざす、たちまち起こる翠の竜巻に、突撃するスタッグフォンが煽られ首を上げた。

「とぉ」

 間合いを詰め、出血している方の脚を大きく振り上げる荘吉、右サイド、欠けた腕の死角、

「バカめ」

 CA、何を思ったか右腕で竜巻を手刀で裂く、竜巻の気流が乱れる、乱れた気流の交錯するごく小さな隙間、真空が生まれた、

「ぐぉ」

 かまいたちに晒され弾き返される荘吉の肉体、白いスーツが傷だらけになって、地面に頭を打った、倒れながらそれでも中折れ帽を正す荘吉。

「アンタはアキコのとこにいきな、こっちよりあっちを優先すんのがハードボイルドの決断って奴だろ、」

 翔太郎は、棒立ちで髪をかき上げ、頬を撫でた、

 今度はオレだよな、おやっさん、

「園咲来人!ライダーの偽物!」

 翔太郎は頭にない帽子を触ろうとし、空虚を掴むと気づいて、手を眺め、置き場のない掌で襟を正した。その間時計回りに、荘吉から距離を置いて足が動く。

「お前は、俺には勝てるかもしんねえ、だがおやっさんには負けてんだ!」

 翔太郎の指差す自らの足下を見やるCA、自ら描いたサークルから飛び出している足先を見て、その意味を激昂で理解した。

「キサマっ!」

『エンジン マキシマムドライブ』

 激昂のまま腰スロットにメモリを差すCA、手刀が紅の光を帯び、正拳突きのように押し出すと、宙でAのフォントに変化して直進、

 こっちの世界のおやっさん、ちゃんと逃げんだぜ、

 翔太郎、目を閉じ静かに待った、だが運命はそれを良しとしなかった、
 閉じた途端横合いからマキシマムのそれとは違う力に推され体ごと吹き飛ばされた、皮膚が焼ける臭いだけが鼻についた、聞こえる呻きは当然自分のものではない、

「おやっさんっ!」

 あの時と全く同じだった。
 目を開いた翔太郎の見た風景に倒れるのはあの時と同じ鳴海荘吉の背中、そしてそれを眺めるのは、いつも自分だった。うつ伏せの身体を返してその顔を見ると、未だ余裕の笑みを浮かべる翔太郎の憧れの男、

「・・・・・・、人は、誰も」

 翔太郎の手をとって、いつのまにか拾っていたロストドライバーを乗せ握らせる、そしてやや焦げ臭い帽子を自分の頭から翔太郎の頭に乗せ、乗せた手が力無く垂れた。

「見せてやりてえって思ったんだ、俺の今の力をよ、バカ野郎、何にも変わってねえじゃねえか、粋がって、半端な自信に振り回されて、・・・・・死なせねえ、今度は絶対死なせねえからな!」

 そこへ近づくCAの拳、

「おわりだっ」


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