2013年4月5日金曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その7


「おわりだっ」

 だがその拳が阻まれる、眼に光の無い翔太郎の、しかし片手が受け止めている、いや、翔太郎の帽子が受け止めている、

「この帽子は砕けねえ、」CAを睨んだ翔太郎の目はいつのまにか生気が漲っていた。「おめえは、おやっさんに絶対勝てねえ!」

 動きの止まったCAにすかさず飛来する荘吉のスタッグフォン、急降下してCAの胸ををスレスレ、足元寸前でUターン、

「バカな」

 CAの足元を落下するダブルドライバー、外れる2本のメモリ、CAのスーツが瞬間光の粉末となって拡散、中から翔太郎がまだ逢った事の無い男の顔が現れる。

 ぐぁ、

 そこへ翔太郎のスタッグフォンが男の眉間を突く、そうして大きく円を描いて翔太郎の胸を横切り、拍子に翔太郎の足元へ何かを落としていく、帽子をヒト吹き、被り直し翔太郎は足元のそれを拾う、掌でマジマジと凝視する翔太郎だった。

「やらせてんのはフィリップか」

 立ち尽くす翔太郎に2人の影が素早く取り囲む、

「アンタまたまたウザったいね」

「ぉりゃたぁっっ!」

 それはWと全く同じ容姿のライダー2人、炎のヒート鋼のメタルが翔太郎を挟み込んだ、

「色男パラダイス!!」

 そうして黄金の腕が伸びて、落ちている2つのメモリと倒れる男を掬い上げ、スカルギャリーまで引きずり込む。ギャリーには既に捕らえられたアキコが気絶し抱えられている。その抱え立つのも又、翔太郎と同じライダー。

「絶対、助ける、2人共、切り札は、このオレの手にあんだからな!」

 翔太郎、右手には荘吉から貰ったロストドライバーを、左掌には包むようにメモリを掴んでいる。

『ジョーカーぁ!』

 キーメモリはおよそライダーを含むドーパントに対して決定的に優位な1本だが、そのマキシマムは、メモリを強制着脱させる事は出来ても、ブレイクするに至らない。
 腰にドライバーをあてると自動的にベルトが巻かれて固定、ジョーカーメモリを装填、決意を右拳に漲らせ、

「変身」

 左腕でスロットを倒す、シャウトが再びメモリの記憶を叫び、同時にバックルから塵のように光が拡散して翔太郎の肉体に蒸着していく。

「おまえは!?」

「ナニモン!」

 左半分が切り札を隠す漆黒、そして右半分もまた切り札を隠す漆黒のボディに染められたそれこそが、

「仮面ライダー」

 左手首を小気味良く捻るのが翔太郎のサイン、

「ジョーカー。」

 銀と赤が黒を挟んで、3人のライダーが居並んだ。

「あんたってホント腹が立つ」

「ぶっつぶしてやる」

 前後から歩調を合わせて突撃する二人のライダー、

「見える、はっきりとな」

 ジョーカー、自らメタルの方へ間合いを詰め、突き込まれるロッドを神懸かり的に避け、相手の首筋に肘打ち、後方からヒートがチャージをかける、それは両足から熱波を発したブーストダッシュ、あまりの推進力はメタルごとジョーカーの足を浮かせ、事務所にブラ下がったビリヤードの看板に3者もろとも激突、歩道に落下、最初に起き上がったのは屈強なメタル、それに絡まるようにジョーカー、脳震盪を起こしたヒートはまだ失神している。敢えて密着したままショートに打ち込み続けるジョーカー、振り払うようにロッドを大きく回すメタル、そのままジョーカーに突き込む、ジョーカー背後にはヒートも復活して再び突っ込んでくる、

「手に取るように」

 だがしかしそのロッドを錐揉み1つで躱すジョーカー、ジョーカーの躱したロッドの先端はさらに先、ヒートの眉間を直撃、怯んだヒートにさらに追い打ち裏拳を首からやや耳裏に伐つジョーカー、再び失神して倒れ離れるヒート、

「いやぁぁぁ」

 逆サイドのメタル、隙を見て全身を一回転ロッドを薙ぐ、咄嗟に両肘でブロックするも、ロッドの薙ぎに振り回され事務所の壁を激突するジョーカー、背が地に着いた状態でロッドの突端を食らう、左右に転がりながら致命打を避ける、転がりながら反撃に手足を出すもそのことごとくをロッドで捌かれ封じられる、いつのまにか一方的に胸から腹に食らってしまっているジョーカー、鳩尾に食らい、

「うぐ」

 思わず呻きを上げた、あるいはその一撃こそが死活を分けた、機を見たメタル、腰から上の全身を連動させて渾身の突き、爆砕音が轟く、メタルの顔面をアスファルトの欠片が擦る、だがジョーカー、またしても紙一重で突端を躱した、地面深くロッドが刺さって容易に抜けない、

「おりゃ」

 それは厄介なメタルのロッドがついに止まった事を意味する、すかさず蹴りをメタル顔面へ、怯んだが後退るだけでヒートのように意識を途切れさせる事はない、強靱に鍛え込まれた闘士だった。

「いくぜウルトラマン」

「ライダーぁぁぁ!」

 メタルは一度だけ倒れるヒートを見やり、意を決してバックルからメモリを取り出しスロットへ、

『メタル マキシマムドライブ』

 鋼色に光る全身の筋肉という筋肉が充実、両腕を碇に構え、脈打って伝わり右肩に全てが集中し、肩アーマーが千切れた。

「メタルデラシウムぅっっっ」

 右肩を突き出してのそれはショルダーチャージ、

「勝負だ」

 ジョーカー、刺さったロッドを支えに立ち上がり、即座にメモリを腰のスロットへ。

『ジョーカーぁ マキシマムドライブ』

 握った右拳に紫炎が灯る、

「ライダーパンチ」

 メタルの突進、左半身で待ちかまえるジョーカー、メタルの肩が衝撃を伴って直撃する寸前、左足バックステップの紙一重で躱すジョーカー、バックステップから腰の捻りを伴って紫炎の右拳がメタルの下顎をカウンター、すれ違いそのまま熱帯魚専門店前電柱にその身を激突させるメタル、だが平然と起き上がり、振り返り、五体満足に動くメタルのしかし首が60度下へねじ曲がっていた。

「まだ、まだ、」

 スーツが除装され、その身を晒す剛三という男の顔はスキっ歯に愛嬌のある微笑みだった、微笑みながら、白目を剥いて卒倒した。

「透明女、そこを動くな!」

 ジョーカーの眼に止まったのは、倒れる荘吉にすり寄る血まみれの夏海と、その側近く、落ちていたメモリのいくつかを回収している包帯の女。

「キーをブレイクするとはね。この世界の人間全てをドーパントにすれば、その力を剥奪し、メモリーを精製する来人だけが全てを支配する事ができる。だけど来人が完全な肉体を得れば、キーなど問題無くなる。」

「動くなよ!」

 CAか彼女を抑えれば全てが決する。ジョーカーにもそれは理解できた。
 だが包帯の女は、トリガーマグナムのリペイントに拾ったメモリを込め構え余裕で迎え撃たんとする。

『ゾーン マキシマムドライブ』

 包帯の女にしてみれば、得体の知れない敵を一旦遠ざけるだけで事足りる選択だった。しかし、結局はそのトリガーを引く事はなかった。

「よくもゴウゾウをやったね!」

「おめ」

 包帯の女に右手を振り上げ手首のスナップを効かせるジョーカーのその背後から、羽交い締めする熱き両腕があった。ジョーカーとボディカラー以外寸分違わぬヒートの女が、ジョーカーを拘束したまま跳躍、いや跳躍どころか両足から噴炎を迸らせるそれは飛翔だった。






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