2013年4月5日金曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その12





 この世の果てにもっとも安息する場所があるのなら、それは今園咲来人という青年の立つ一面空白の『星の本棚』ではないだろうか。空白の空と空白の大地、果てしなく空白が拡がる。

「やはり一人はいい、一人になれるのなら、どんなことでもする。」

 あのネクロオーバー達と同じ黒のジャケットを着て、頭髪にエメラルドのラメを一筋入れた出で立ちの青年の彼は、眼を閉じ、この世界を堪能していた。だがその安息はすぐにかき乱される事になる。

「今回の謎はクレイドールメモリの所在だった。君は知らないだろうが、ボクの世界ではあのメモリの事を検索しようとするとカタマルからね、どうしようも無かった。だから君に主導権を与えてしまった。というより、君に答えを見せてもらう、それが唯一謎の答えにたどり着く正解だった。君の肉体についてもあの3つのメモリが関わってボクではどうしようもない。だが収穫だった。少し知らない事の沿革が見えたんだからね。その点だけは感謝する。」

 青年の彼の目の前に現れたのは、分厚い皮で覆われた一冊の本を抱えた十代の少年の彼だった。

「誰だ?」

「僕はフィリップ、はじめまして。いや失敬、この姿ではないが一度君と対面している。」

 聖域に立つ青年の彼と少年の彼、

「なぜここにいる」

「愚問だね。君が一番分かっているはずだ。ここに来れる人間という意味を。」

「俺と同じ、データ人間。そうか、おまえがあのもう1人のWの片割れか。」

「遅いね。同じデータ人間として恥ずかしいよ。せっかく同じ人間である君に興味を持って来たのに。ボクはいったいどういう感情を抱くだろうとね。でも興醒めだ。」

「この世の全てを知る者は2人要らない。おまえにはいずれ消えて貰う。」

「いや、君とボクでは見ている世界が違う。」

 少年の彼が諸手を挙げると、どこまでも空白の世界に数万という本棚が一斉に羅列する、横も奥も高さも見果てぬが、全ての本棚が同じ等間隔で整列した。

「君は今ボクが見えている本棚の100分の1も見えていないだろう。ボクは今回程思った事はない。知る事と知らない事の認識の差を。たったそれだけでここまで世界が違う。」

「ハッタリでオレを挑発しているのか、このクソガキ。」

「ジョーカーのメモリも、ボクは閲覧可能だ。」

 青年の彼の顔が苦痛を耐えるように歪んだ。少年の彼の顔はその顔を見計らっている。

「今すぐここで消してやる。」

 少年の彼は、何かを得心した。

「だから君に聞いておきたかった。なぜ僕は君を検索するとカタマルのか。」

「知るか!」

 青年の彼が手を伸ばし掴もうとする、
 咄嗟に背後へ飛ぶ少年の彼、

「君は、ボクに絶対近づく事はできない。」

 そうして、少年の影が薄く透けていく、

「オレを挑発しているつもりか!」

「その通り。そうそう、君は1人がいいらしいが、本当に1人でいいなら、他人に質問を投げかける事はない。他人を宛てにしていないはずだからね。」

 青年の彼の腕が少年の彼の胸座を掴んだ、いや掴んだその手が素通りして、本棚の一つに当たり、空白にいくつものハードカバーを散乱してしまう。
 少年の彼は、既にその永遠に中身の無い世界から消えていた。

「生意気なガキめっ!」

 園咲来人は、本棚に拳を叩きつけた。




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