2013年4月5日金曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その11





 光夏海は、未だドライバーを握り続ける指の第一関節をもう1つの手で剥がすように1本1本曲げて、最後はドライバーを地面に落とした。ドライバーを放した方が右腕の震えが酷くなった。

「私は、本当はどうすればいいんですか、貴方は本当は私に何をやらせたいんですか、教えてくたざい・・・・」

 彼女はそうとしか言えない自分に唇を噛み締め、地面に両膝をつけて、必死に倒れるナルミ荘吉の顔を拭った。

「歯を食いしばって、おまえの、欲しいものの名を、叫べ・・・・」

 意識が事切れようとする寸前、カッと目を見開いて再び悶え苦しむ、それをずっと、2つのマキシマムを食らった荘吉は繰り返していた。
 夏海は、突き放された思いがした。苦しいのはこの男の方であり、自分ではない。その理屈は分かっていた。だがあふれ出る濁った感情は、自分でもどうする事もできない。

「でも、私は・・・・」

「オレは、この街で最初のドーパントを、スカルになって討った。」

 ナルミ荘吉の物語である。
 荘吉がこの街で探偵をする傍らに絶えず立つ男がいた。名を松井誠一郎、荘吉程でないにしても浅黒く骨太で、それでいてどこか潔癖な程の清潔感が漂う男だった。2人は時の流れが風車に吸い上げられるようなこの街の尻ぬぐいを、軽妙な身のこなしで次々と解決していき、住人はナルミ探偵事務所の名を拠り所に、この特別自治都市をたくましく営んでいく。
 だが街の住民の記憶に残るワードは、ナルミであって、ナルミと松井ではなかった。松井のコンプレックスは荘吉の背を間近で視るが故に増大し、1つの些細なきっかけがその自浄を堰き止めた。コンプレックスはいつしか世間全てへの怨みとなり、ある1つのチートな手段が彼の暗闇に一条の光を差した。
 はじめてこの世界にドーパントが誕生した。
 ドーパントとは即ちナルミ荘吉を育んだこの街のツケかもしれない。

「あいつの想いも、差し出したコーヒーのレシピも受け取ってやれなかった。オレはだから、決断しあいつを殺した。その決断に後悔は無かった。だが、本当はそうじゃなかった。あの若造のまっすぐな目を見て、オレはただ後悔に背を向けていただけなんだと思えるようになった。所詮ハードボイルドなんて男の甘えだってな・・・・・、あいつには言うな。」

 荘吉の手が落ちている銃のバレルを握り、夏海の手にそのグリップをコンと打った。

「歯を食いしばればいいんですか・・・」

 手に取る夏海の手、

「自分の欲しいものは、自分が決断し、そして掴んだ罪を黙って数えろ。」

 荘吉の大きな手が、夏海の手をグリップごと包んで、その震えを抑えつけた。

「今助けてやっからな!」

 そこへあの翔太郎が脚の裾を濡らしてやってきた。今包帯の女が落としたマグナムを拾い上げた。

「無事だったんですね」

 夏海は、力なく腕を落とした荘吉を見続けている。

「光夏海、あのドームはなんだ?」

 翔太郎の指先が忙しなく動いている。

「あの中で敵が、」

 翔太郎のフィンガースナップが、夏海の言葉を制止した。

「あそこか、フィリップの言ってた肉体の再生ってやつか。あそこにメモリがあるのか。」

『ジョーカぁ!』

 ベルトを巻き、白のソフトフェルトを脱いで、円盤投げの要領で夏海へ投擲、

「おやっさんにずっと、話しかけててくれ。オりゃまだ、その帽子は早えってな。」

 ベルトにメモリを差し、再び黒き衣を纏う翔太郎は、手首を一捻りした。
 そこにちょうど光の天幕から透けて出てくる月の光のライダーがいた。

「なに!?アンタ、アタシの仲間どうしたの?その娘といい、キッッーー!!」

 裏声で激昂するルナが、動く度に乱反射するその両腕を上げて、思い切り振り下げた。

「イッテラッーャーーーイ!」

 振り下ろした腕から鱗粉のように光が舞って、粒の一つ一つが人の形となり、無数の黒い影が湧き出てくる。それは先に園咲邸に現れた肋の顔にスーツ上下の『マスカレイド』そのものだった。

「ワラワラ引き連れてやんのかよ!」

 ジョーカーは一瞬で見渡す限り埋まったマスカレイド軍団が、ルナの幻影の力の産物である事を知らない。
 左から来るマスカレイドを裏拳一つで凌ぎ、右から来るマスカレイドを膝の捻り一つで蹴り倒す。蹴ったままの慣性を保って背後のマスカレイドを伐つ、さらに反動で前から群がるマスカレイド2体を続けざまワンツー。

「キィーーー!」

 だが次々繰り出すマスカレイドの幻覚の波に、本体のルナとの間合いを詰められないジョーカーは、刻々と疲労だけを蓄積していく。
 光夏海は、その光景を見ながら立ち上がって、その長い髪をヘアゴムで1本に束ねた。

「翔太郎さん、早くドームの方へ!」

「光夏海!?言われなくてもやってる!」

「そいつは、私が止めます。」

「なに」

「私が、止めてみせます!」

「なに!?」

 夏海が、『ディエンド』のカードを手にした。

「士クン、アナタを、私の前に引きずり出してやる」

 ディエンドライバーは左持ち、内側に寝かせ、スロットを開ける、そのまま『DIEND』のロゴが入ったカードを装填、天に銃口を向け、澄んだ眼でルナを睨んだ。

「変身」

『KAMEN RIDE DIEND』

 銃口から3つの光が発射、3原色を象徴するシンボルが縦横に駆け巡って夏海の肢体と重なる、黒を基調とした細身の四肢にやや碇肩、そして極めて締まったヒップのスーツ、顔面に填り込む10のスリット、シアンカラーに彩られた『仮面ライダーディエンド』が再誕する。

「おやっさんを頼むって」

 唖然としているのはむしろジョーカーの方。

「荘吉さんもこちらでなんとかします。」

『KAMEN RIDE RIOTROOPER』

 既にディエンドは次なるカードを装填、撃ち出されたシンボルが十数体のライダーを空虚から実体化する。

「そうか、あのライダーなら。」

 ジョーカーが呑み込んで、数十の敵を突破しにかかる。
 ディエンドの召還したライダー、ライオトルーパーは1枚で幾体も呼び出して組織的にで行動し、今もディエンドの前に魚鱗で整頓、その数を眼前にしたマスカレイド全てがその褐色のボディに一瞬凝固した。ディエンドは後尾のライオ一体の左掌と自分の右掌を合わせ、

「お願いします」

 とだけ口にした。大きく肯いたライオトルーパー軍団が、一斉に得物のナイフを手にし、そして一斉にマスカレイドに突入を開始。カッパーメタルとブラックが入り交じるそれは乱戦だった。

『KAMEN RIDE ANOTHERAGITO』

 再度召還するのはアギトにしてアギトにあらざる者、やはり手と手を合わせて、

「お願いします」

「ふむ!」

 アナザーアギトは空手のような気合いを込め大きく肯き、もはや虫の息の荘吉を肩で担いでビリヤードの看板の奥へ一跳躍した。

「アタシの顔を傷つけた罪は重いわ重いわっ、アンタなんかフーンっだ!!」

 一体をようやく倒しても体力が続かずもう一体に敗れ、その背後から伐った者が流れ弾に頭を射貫かれる、そんな土煙が舞うライオトルーパーとマスカレイドの乱闘を差し挟んで、ディエンドとルナが立ち尽くし対峙する形になる。召喚されたどの一体も両者にまで攻撃が及ぶに至らない。
 ルナは、圧倒的に増えた敵に対してさらに幻影を増員し、ジョーカーの足止めを忘れず、ライオトルーパーを数で圧倒していく。
 だが、そんな風景を眺めるディエンドにはゆとりがあった。

「敵はあの数を操っている間、動けない。」

『KAMEN RIDE BELDE』

「お願いします」

 召還した全身薄緑の『仮面ライダーベルデ』が大きく肯き、自らのバイザーにカードを装填、

『ファイナルベント』

 突如街灯上から色がにじむように浮き出てくる『バイオグリーザ』、ベルデ跳躍、跳躍するその両足にグリーザの長い舌を延ばして絡め、ベルデを振り子のようにぶら下げる、その振り切った先はルナ、上下逆に抱きつくベルデ、両者をすくい上げるように回して、最上段に達したところで投擲、

「シックスナイィィィィ」

 ベルデに抱きつかれたままのルナは、事務所からはるか離れた15階層あるマンション屋上へ。見えなくなったディエンドの耳に、まだそのカバを絞め殺したような絶叫が聞こえた。

「さあ!早く」

 途端統制が取れなくなったマスカレイドがライオトルーパーの集団戦法に駆逐され、包囲され、殲滅していく。それはジョーカーがフリーになる事と直結する。

「見直したぜ、女の子」

 指でサインするジョーカーを既に見ていないディエンドはそのままルナを追って跳躍した。




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