2013年4月5日金曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その9





「その仮面をひっぺがして、アンタの泣きっ面見てあげる!」

 天空高く舞い上がる赤と黒のライダー、

「放せ」

 ジョーカーの肘がヒートの鳩尾に入り、手の弛んだところ無理に引き離す、共に高々度から落下、ジョーカーは高層ビルの壁に5指を突き入れコンクリートに縦縞のラインを引きながら摩擦し失速、地面スレスレまで至ってビルから蹴り離れ、ちょうど探偵所裏の一級河川橋の上へ着地、だがそのジョーカーに、ラリアートを構え右肘から噴流を放って突撃するヒート、諸共名ばかりの細い一級河川へ落下、水位は靴底が浸る程度、ヒートは衝撃を足膝腰で緩和し着地、ジョーカーは受け身の要領で左背に衝撃を全て受ける落下、

「フフフ」

 飛沫を立てながら姿勢を正そうとするジョーカーのみっともない姿を見やって、精神にゆとりが生まれるヒート、だが振り返ってみればその瞬間こそがヒートにとっての最後のチャンスだったと言える、

「さぁイこうか、ファイアガール」

 中腰でなんとか起き上がり、恥を鼻下を擦って誤魔化すジョーカーはクラウチングスタートで突進、
 両者の足技の応酬、脅威の足技を誇るあのヒートが水場に足を取られ迎撃だけに手数が抑えられる、ジョーカーも全く同じ条件ながら逆に手数が増えていくのは、そのメモリが特に身体能力の強化に特化し、水場に秒単位で適応、ツカんでいるからだ。
 その内足だけでなく、腕を顔面から腹へたて続けにヒットさせヒートを推し倒す、

「ガキが調子乗って」

 一旦距離を置いて起立の姿勢に正すヒート、ジョーカー渾身の右回し蹴りを空中を大の字の側転で躱し後背を取る、ジョーカーが振り返る暇を与えないタイミング、ジョーカーが下に重心を集中させるのを折り込んだ上で足を祓いに飛沫を蒸散させた回し蹴り、

「調子に乗るさ!」

 だがジョーカーの鋭利な感覚は一跳躍で対手を躱す、
 逆に中腰から起き上がり防御する前のヒートの顔面に蹴りを2発、
 怯みながらも反撃に移行、足を繰り出すヒート、
 水蒸気を発散させながら繰り出されるこの攻撃を紙一重、腰の一捻り、首の一捻りで躱し続けるジョーカー、
 その鋭敏な感覚で既にヒートの動きを完全に見切りつつあるジョーカー、敢えてヒート渾身の蹴りを両手ガードで受け止めつつ密着、腕が伸びきらない互いの間合いからヒートの手刀を受け掴み、掴んだままで腹部へ蹴りを3発、次いで顔面に裏拳を1発、

「坊や!」

 怯みながらもジョーカーの蹴りをまたしても大の字に宙を回って反対に踊り出るヒート、

「女!」

 回り込まれながらなお手を出すジョーカー、捌くヒートはしかしその時、脇に受けた計4発の攻撃に、身体機能が悲鳴を上げている事に気づかない。ネクロオーバーの性というしかない。ヒート、渾身のつもりの反撃の蹴りがジョーカーの片手で捌かれ、次いで食らった顔面の同じところへの5発めが入った時、意識が一瞬途切れ、もつれた足で後退り、頭を振った。

「アンタなんかに、ワタシの気持ちがかき乱されてたまるか!!」

 ヒート、バックルからメモリを取り出し、右腰のスロットへ差す、

『ヒート マキシマムドライブ』

 全身から煙が立つ、次いで赤色に輝く、浸かった河川の僅かな水が蒸気となって体積を数百倍にも増大、互いの間に濃霧を発生させ、そして互いの姿が視認できなくなる、

「これで決まりだ」

 ジョーカーも全く同じモーションでメモリを右腰に差す、

『ジョーカぁ マキシマムドライブ』

 見えない対手に向かって駆け出すジョーカー、その右足首に紫炎が灯る、
 ジョーカー眼前の霧が渦になる、渦になって蒸気が外周へ逃げるように拡散、ヒートの女の圧倒的熱量が蒸気を弾いている、うっすらと互いが互いの影を認めながら、そして互いに突進、

「ヒートマシンガンドライブ!!」

 跳躍し、その右足裏から爆炎を吐きながらのそれは右飛び膝蹴り、

「ライダーキック!」

 ジョーカーも又ヒートと全く水平に蹴撃に構える、
 推進を伴ったヒートの右膝と、キレのあるジョーカーの脚がすれ違う、
 ややジョーカーが上手、
 互いの腰が捻られる、
 リーチはジョーカーがある、
 ヒートは既に顔面をブロック、
 だが受け止めたその紫の光の威力はヒートのカウンターを加味し、両腕を弾いてヒート顔面へインパクト、
 弾き返されたヒートが蒸気を発しながら水辺を滑走、

「・・・・ァン」

 弱々しい喘ぎがヒートの女の最期だった、
 爆破、
 背を向けてその赤熱輻射の直視を避けるジョーカーの背筋は、何かを入れたように凛としていた。

「待ってろおやっさん、すぐいく。」

 右手首にスナップを効かせるジョーカーに、小型の物体が周回する。それは翔太郎のスタッグフォン。

「すまねえフィリップ、Wをブレイクされちまった。」

 ブレイクされてその長い黒髪を濡らしながらのたうち回って悶絶する女を見やり、ジョーカーも又除装、スタッグフォンのコールに応じた。

『クレイドールのメモリを人体の中に記憶させているとはね。翔太郎、さっきも言ったが実に君らしい失敗だった。敵の意図を知りながらそれでもドーパントを放置できなかった。ナルミ荘吉への手前もあったんだろうが』

「うるせえ」

『だがその一番の理由は、ドーパントもまた風都の住民だからだ。敵はそう思っていないだろうが、君に究極の選択を迫った。実に効果的な足止めだったよ。』

「説教なら後で聞く」

『そう、今ボクが連絡を取ったのは他でもない。ドライバーとメモリ、このままではボクらは変身できない。だが極めて危険だが、戻す方法が先程検索して1つある事が分かった。多少固まったけどね。ドライバーは本来マキシマムから装着者を保護するブレーカーの役割を』

「わかった、わかった。フィリップ、要点だけ言ってくれ。」

『手に入れて欲しいメモリが2つある。それから、』

「それからどうする?頼むぜ頭脳担当。」

『それからこれは、今ボクの目の前にいる亜樹ちゃんからの言伝だ。あの時、君がその世界のクイーンとエリザベスを放置して逃げていたら、翔太郎と永久に絶交していた、と。』

 絶句する翔太郎だった。

「・・・・そっちかよ」




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