2013年4月5日金曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その16





「うぉぉぉぉぉ」

 降り立った先は風都タワー。今日はとびきりの風で重厚ながら勢い込んで風車が回っている。全てがコンクリートのグレーが塗り潰す工業地帯。海に注ぐ大河の流れもまた風に煽られ波打っている。潮と鉄の入り交じった香りは、マスクをした園咲来人には感じる事ができない。

「風都のメモリの全てをプリズムの中に集約し、この街を破壊し尽くし住民全てを地球の記憶に落とし込んでやる、見ていろ、たとえこの世界のオレ自身であっても、このオレを止める事はできん、この街を失ったおまえは、全てを恨むようになる、このオレのようになぁ!」

 CAの世界との違いはただ1人の男の不在とただ1人の男の存在。たったそれだけの違いがなぜここまで彼を追いつめたのか、未だ彼も、いや対手の彼らにすら理解できていないだろう。

『プリズム』

 CAが背負った十字の4つの先端が全て光を発し、そしてその光に向かっていずこからともなく無数のメモリが街から寄り集まってくる、メモリは全てエメラルドのロゴへと変換され、4つの先端に吸引されていく。

『マグマビーンアンモナイトブレッドドラキュラドラゴンイヤーズーくぃぃぃんナイトハウス妻ゾーンUFOえりざっべすっ・・・・』

 徐々にCAの肉体もプリズムの光に包まれ、彼の悲鳴にも似た高笑いが、風都の空へ木霊した。
 この街の住人達は、街始まって以来の危機を未だ知る事もなく、冗談を言い額に汗していた。




「いったいどうしたと言うの!」

 この世界の園咲冴子は、ちょうど邸宅の門をハイヤーで出た直後にその事を知った。ヒステリーを起こす程にこの冴子という女は輝いて可愛く見える。右手に携帯を持ち、それを左耳に黒髪をかき分けあてた。

「どうして貴方を管理主任にした途端そんな事態に陥るの、工場のメモリのほとんどがいきなり消えたなんて・・・・」

 彼女の怒りは、自らの夫へ3時間近く向けられる事になる。それは自らの父親に対しての恐怖の裏返しでもあった。
 その父親、この世界の園咲琉兵衛は、なお邸宅のダイニングにて、下の娘、園咲若菜と共に朝食を嗜んでいた。琉兵衛は邸宅で放し飼いしている鶏が産んだ今朝一番の卵を塩だけで味つけしたスクランブルエッグを半分食して皿を杉下へ下げ、ナプキンを取った。

「あの光・・・・」

 琉兵衛は、既に風都タワーの小さな光を見つけていた。

「なに?でも・・・綺麗・・・」

 娘の若菜もまた視線を揃えて、風都第3ビルの先、巨大風車に僅かに灯るエメラルドの光が消え入ってなお見とれていた。

「・・・・そうかね、どの道後1度はあの光を観測しなければならんという事か。よかろう、よくやった・・・・・あの女?いや、私にも分からん事がこの地球にはあるという事かね?」

 琉兵衛が自らの携帯を杉下の差し出す盆へ置いた時、ふと娘の懐に眼が止まった、それはほんの偶然の賜物だった、光だった、懐から光が溢れているのを見逃さなかった。それが、冴子を見捨て若菜を選択した瞬間だった事を、琉兵衛自身後になって自覚する事になる。





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