2013年3月3日日曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その5





「あちらのダブルドライバーは、来人のそれと同じくキーへの対策も講じて変身が解けない。マキシマムへの保護もやはり施されている。いったいなんなのあの存在は。」

 上を向いているのか下を向いているのかもさっきまで分からなかった。
 世界が真っ赤で、手の甲で拭って赤が取れた。

「失神してんぜこの娘、」

 私の事じゃなかった、全身を流し台の色に光るライダーが、黒いコートと長い黒髪の女、同じ姿の金色や赤のライダーに向かって、喚いている。ライダーはあのカッコツケル君の変身した姿にもそっくりで、あのベルトまで同じ。コートの女の顔は包帯がグルグル巻かれて、なんだか透明人間みたい。

「ワカナ・・・・、なんて酷い、それもこれも全て私達家族を踏み台にしたあの男のせい、でも安心なさい、あの男は既に来人が消し去った、」

 死んでいたと思った、私は目を背けて喉元まで胃の内容物が出てくるのを我慢した、目頭が酸っぱくなった、もう人が死ぬところ、けっこう慣れちゃったと思ってたけど、さっきまでしゃべってた子は、脳の中の想像がいっぱいいっぱい出て、目をもっと酸っぱくした。

「安心しなさい。貴方はこのくらいの傷では死なない、」

『ジーン マキシマムドライブ』

 黒いコートの女がメモリとかいうものを銃の中に収めてアキちゃんに撃ち込んだ、ムゴイ、と一瞬思った私の目が間違えていたのはすぐ分かった。

「イタイ・・・・イタイよお父ちゃん・・・」

 むしろそれを見ている事の方がさっきより気持ちが悪かった。さっきまでボロボロだったアキちゃんの肌がすべすべに戻って、アキちゃんが拭った血の痕から真新しい肌が出てくる、エメラルドに光る0と1の数字の羅列がアキちゃんの体を流れて、立ち上がって困惑するアキちゃん、さっきまでの気持ちの悪さがその光を見ているとなんだか安らいだ、お母さんの中にいるような暖かい光だった。

「貴方のDNAに直接クレイドールのメモリーを封印しておいた。テラー、タブー、クレイドール、全てのメモリーをサイクロンと共にマキシマムで発動した時、貴方の弟は完全な肉体を取り戻し、そして検索を越える地球の記憶との一体化を果たし、地球そのものになる。」

 アキちゃんは全てに怯えて、唇を振るわせて後退った。

「いやや、アンタなんかうちの母親ちゃう!うちは、うちの家族は、お父ちゃんだけや!」

「荘吉に私は2つの依頼をした。1つは貴方を安全なところへ匿う事、もう1つは園咲リュウベエから来人を取り戻す事。あの男は貴方を預かる事は承知したのに、来人は取り返すどころか、見殺しにした。私が辛うじてサイクロンメモリーの中にサルベージしなければ、来人は永遠に失われるところだった。貴方の家族を見殺しにしようとした男よ。そんな男に騙されてはダメ。」

「ウチは、ナルミアキコやっ!」

 もう向かい合って立つのもイヤなんだと思う。アキちゃんは、振り返って今頼りにするしかないカッコツケル君の元へ逃げようとする。でもそんなアキちゃんの背中を指差す真っ赤なライダーがいた。

「ヒート、駄々っ子をお仕置きしておあげなさい。」

 あのカッコツケル君を真っ赤に炙ったような姿のライダーがその指先に炎をつけて弄んでいる。

「足の一本焼き潰していい?」

 そう言って指先の炎を下手から投げる女声のライダー、逃げ惑うアキちゃんの左足に当たって、燃えて黒こげになって体を支え切れず倒れる、私はでもその時アキちゃんに流れるエメラルドの光が、すぐさま足を元通りにしていく様も分かった。一番困惑しているアキちゃんの顔も分かった。

「貴方は来人が可哀想だと思わないの?家族なのよ。」

「逃げられない、逃げられへんなら、」

 アキちゃんはまたあの包帯の女や同じ姿のライダー達を振り返り立ち上がった、

「ウチはお父ちゃんの子や、お父ちゃんの事信じてる、お父ちゃんがアンタラを倒す言うんやったら、ウチもお父ちゃんといっしょにアンタラを倒したるんや!!」

「最近の子供は生意気だね、この私の前でヤケになるなんて」

 また指先から炎を発する赤いライダー、
 アキちゃんの髪が後ろに引っ張られるようにたなびいた、アキちゃんはそれでも眼を細めながら逃げない、大気が熱を帯びて突風になる、突風を追う形で炎がアキちゃんの顔に向かって飛んでいく、アキちゃんの耳にまとわりつくように、頭と同じ大きさくらいのエメラルドの珠が左右2つ浮かぶ、エメラルドの珠が向かってくる炎を受け止めかき消す、もう1つの珠が炎の軌跡を真逆に辿る、赤いライダーが自分の放った火で眼が眩んだせいでお腹にまともに食らった、エメラルドの光が帯電したように全身を掛け巡って赤いライダーがもんどりうって苦しみ出した、

「クレイドールとのシンクロ率が高い、細胞を活性し回復させ、過剰になれば神経を痛めつける能力、死んだ細胞のネクロオーバーには、生き返った細胞は癌に等しい。地獄の苦しみを味わう事になるわ。でもね、」

 包帯の女が背後にいるもう2人のライダーに指図する、キンキラなライダーが昔見たペッタン人形みたいに両手を異様に伸ばしてアキちゃんの喉を絞めようとする、なんかキモい、でもアキちゃんの珠がそれを祓い除ける、キンキラなライダーがしつこく絡みつきながら、今度は足を伸ばして仲間の流し台ライダーの腹に巻き付いてそのまま天高く放り投げる、

「いってらっっしゃぁぁぁぁ」

「ていやさぁ!」

 放り上げられ、さらにキンキラの足裏を踏み台にして飛んだ流し台がアキちゃんの真上から落下して棒を突き出してる、アキちゃんはキンキラに手一杯になって、見上げた時にはもう棒が首筋を強く伐っていた、

「不死身だろうと、一撃で意識を断ち切る事はできる、どれほど優秀なメモリーと高いシンクロ率があろうと、しょせん生身のシロート。闘士のスキルには敵わない。」

 アキちゃんは一打で失神し、流し台の太い腕に抱えられた。ギンギラはそのまま肩に背負って包帯女の元へ。

『スカル マキシマムドライブ』

『キー マキシマムドライブ』

 包帯女が見たのは、少し離れたところで戦う、あのカッコツケル君達の方。

「来たわね、荘吉。でももうこちらのモノよ。」



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その4





『ルナ ジョーカぁぁ!』

 LJの眼前には2体のドーパント、
 1体は四肢の無いチェスのクイーンの駒そのものであり、その頂点に一つ目が光る、
 もう1体は体こそは黒の競泳水着を着けた女性の体型であるが、肩、腿、そして首から先の本来あるものが無く、ただひたすら5つの穴からジェット水流をまき散らし、宙を回転している、
 肉体を月の光の右半身と切り札を隠す左半身に染めたLJ、無言で腰のスロットへメモリを差す。

『ジョーカぁぁ!マキシマムドライブ』

 途端いくつもLJの肉体が分身し、まるで幻想のようにアスファルトを滑りながら両ドーパントを方円に囲んだ、その間絶えず右の腕を人体としてありえない溶かした飴のように伸ばしてうねるままドーパントを威嚇、分裂したLJの1人1人から伸びる触手はしかし、その1つ1つが実ダメージを与えドーパントを怯ませる、

「『ジョーカーストレンジ!』」

 全包囲に光の硬膜で防御するクイーンドーパントのその隙間を縫うように、LJの1体から分裂した左半身が高速の手刀を急所に一閃、水流で圧倒数のLJ右の攻撃を弾きながら耐え忍んだオーシャンドーパントの実体めがけ、自ら描いた金色の円の中で黒い直線の軌道を何度も反射しながら波状攻撃、

『翔太郎、分かっていると思うが、これは明らかに足止めだ。』

 右の眼が明滅しながら周囲を警戒し、2人の人間からメモリが射出し、破壊するのを確認、

「イヤという程分かってる。だが、あっちのおやっさんなら、絶対逃さねえぜフィリップ、ちゅうか、あの2人、クイーンとエリザベスじゃねえかっ」

 倒れる2人の人間、女子高生は仮面ライダーWにとって、既知の顔だった。だがLJが駆けつける前に、飛び込むように寄り添ったのはアキコだった、

「ともちんとチュウやないかぁ、なんでこんな事なったんやぁ、昨日収録したばっかりやのに!」

『どうやら、この世界では別人らしい翔太郎。』

 LJは左指の収めどころがない。

「収録って、おいアキコ、おまえもしかしてラジオとかやっねえ?」

「3人でやってんで、タイトルは」

「「ヒーリングプリンセス」」

 ハモってしまった。

「タイトルだけはいっしょかよ、」

『翔太郎、敵は知るよしもないだろうが、君にもっとも効果的な足止めをしている、』

「わかってるってばよ相棒、忘れてたかもしれねえ、顔見知りが、ドーパントになるって事をよ、あの男も、あのアキコも、それを分かってるんだな、」

 だが動けないLJ、右頬に生暖かい風都の風を感じるLJは、そこに危機を察知する、

『翔太郎、来るぞ』

 右腕が強引にジョーカーのメモリを引き抜き、代わりを差し半身を鋼色に染めた、だがしかし、違うシャウトが、LMのバックルではないいずこからか轟いた、

『サイクロン』

『アクセル』

 同時に衝撃が走り、ビリヤード場の看板が突如コンクリートの爆流と共にLMに襲いかかる、

「なんだっ!?」

『あれはギャリー、事務所の通路を逆進してきた』

 粉塵がLMの視界を奪う、そのもののスピンターンがかき消していく、それは荘吉が奪われたギャリー、スカルギャリーが探偵事務所を突破半壊させて路上を飛び出してきた。

「アキコ、光夏海!」

 辛うじて両脇に抱えた2人の少女はその腕の中で失神している。だがLMの得物であるメタルシャフトは手にしていない。

『翔太郎、もう2人も心配する事はない。今は、敵に集中だ。』

 路上で倒れた女子高生2人の方はLMの右腕が投擲したシャフトが、まるで蛇のようにのたうって自律的に2人に巻き付いてなお勢いを失わず2人を宙へ持ち上げ裏路地へ引っ張り込んだ。むしろ両脇から下ろした2人の方が破片をわずかに食らって出血してる。

「あれはさっきの」

『あれは、ボクら?』

 正面で対峙するスカルギャリーのボディが左右に開く、中には1人の異形が立つ、それは右半身をそよぐ翠、左半身を拍車をかける紅に染めた、翔太郎達と寸分違わぬライダーの姿がそこにあった。『仮面ライダーWサイクロンアクセル』。

「よぉ!」ギャリー上にあって、両腕を大きく広げるCA。「おふくろが随分入れ込んでるやつの方か。オレと同じWドライバーを持つ男。」

 CA眼前のWは既に翠の右と漆黒の左へチェンジし、CJ眼前のWはゆっくりと瓦礫が散乱するアスファルトに降り立った。あり得ないはずの複数メモリ使い同士の戦いの火ぶたが切って落とされる。

「てめえ、仮面ライダーってのは、この街の住人が希望を込めてつけてくれた名前なんだ、」

『この世界のサイクロンの持ち主、』

 即座に負傷した2人から足早に離れるCJ眼前のWは、エッジの効いた剣を中折れさせ、メモリを装填している、

「だがオレには勝てん」

『キー マキシマムドライブ』

 そうして一旦担いで、
 振り抜く、
 瑪瑙の衝撃波がCJ一直線、
 見切ってステップするCJ、
 だが左肩を擦れ、膝を地につくCJ、

「なんだと、」

 キーの衝撃が左半身からバックルへ伝わり、左サイドに差さるメモリが1人でに抜き放たれ、宙を渡ってCAの手に届く。

『相手のメモリを自在に抜き取る事ができる、ドーパントに対してならほぼ無敵の能力。』

『サイクロン トリガぁぁ!』

 抜かれたメモリの代わりをすぐ様差し込み、左半身を冷徹な碧へ染めるCT。

「これが、検索に引っ掛からないメモリ。あってはならないジョーカーのメモリ。どうやら、天敵というのは、本当らしい、なっ」

 一瞬目を背けたCAの油断が、CTの速射をその掌に直撃させる。弾かれCAの手よりこぼれるジョーカーメモリ。

「よくもアキコ達を傷つけたな!」

 立て続けに5連射で圧すCT、

「この程度か」

 だが以降そのことごとく避け、捌くCA、その右腕一本の捌きはもはや見えない領域に至っている、

『さすがはサイクロン、疾い』

「感心してる場合じゃね!」

『ヒート メタルぅぅ!』

 CTからHMへその身を変え、背のシャフトを回し遠心力を保持、そのままCAへ突進、
シャフトの先端に渾身を込めて振りかぶる、

「格闘してやる」

 受けて立つCAもまた右手一本ブレードを振りかぶった、
 弾く、
 弾かれるのはHMの方、怯んで後退、

「なんてパワーだ」

『HMのパワーを、サイクロンを加速する事で上回っている。なんて相性がいいメモリだ。』

 シャフトを一振り、背筋を伸ばすHMを眼前にしCAは、ブレードの先端で対手を差し示し、次いでその先端でアスファルトに白いラインを引き、自分をグルリと囲む輪を描く。

「ここからオレの足が半歩でも出れば、負けを認めてやる、こい。」

「なめんな!」

 HM、再度突進、今度はそのままいくのでなく、フェイントで向かって右下から脇へ、

「セコいな」

 左手逆手に既に持ち替え受け止め弾くCA、シャフトを回して逆方向から伐ちに行くHM、さらに持ち替え受け止めるCA、CAは姿勢すら崩していない、幾度となく伐ち込むHM、幾度となく受け止めるCA、炎を纏ったシャフトの先端、目視できない速度に達するブレードの先端、

「『なに!』」

 いつのまにかシャフトで受けるだけで手一杯になるHM、シャフトで受けているつもりが相手の腕が目で捉え切れなくなった段階で、肉体へ一閃入り、全く対応できないまま上段から左肩へ重圧を食らって膝を地につける、その肩にCAのブレードが深々と刺さる、

『サイクロン メタルぅぅ!』

 倒れ様、右腕が素早くメモリを交換、右半身を赤から翠へ染め変え、シャフトを素早く跳ね上げて対手のブレードを腕から弾き飛ばす、

『対手に勢いを与えないっ』

 シャフトの先端が見えない程に遠心力のまま振りかぶり、素手となったCAを左右から伐ちつける、だが重心を崩すに至らない、それどころか片足を擦り上げ威嚇、CM顎を仰け反らせるCA、間が若干開く、

『トライアル』

 それはCA右腰にあるメモリスロットへの装填、未だ自分の描いたサークルの中片足立ちのCA、再び向かってくるCM疾速のシャフトを足一本で弾き、反動でむしろ速度を上げるシャフトの動きを、残像を伴った足技で躱し、拮抗し、いくつもの残像の脚がついには圧していく、CMすらシャフトで防御を取る事しかできない、

「地獄を楽しみな!」

 ついにはシャフトが軸の真ん中から折れる、

「『ぐわ』」

 CMは哀れ、宙をしぼむ風船のように舞って、アスファルトに打ち付けられた。

「底が見えた。おふくろを夢中にする程のやつじゃない。メモリでボディをチェンジするからどれ程かと思えば。」

 依然サークルの中で高笑いするCA。

「ヤツにだけは負けねえ」

『もうこれしかない』

『ルナ トリガぁぁ!』

 幻想の金、冷徹な碧へその身を染めるLT、胸に出現したトリガーマグナムをCAに向け、数発を立て続けに連射、その数発全てがまるで違う曲解した軌道を描いて動かないCAへ、

「ルナの能力は分かっている、」

 躱す躱す躱す、
 上体の動きがほぼ全ての光弾紙一重で躱していく、
 ほぼ全て、

「ぐ」

 それはCAの左眼への辛うじての一発だった。

「いけるぜ」

 即座にマグナムにメモリを装填、

『トリガぁ!マキシマムドライブ』

「『トリガー フルバースト!』」

 先よりも巨大な光弾が、一気に数十発、曲線を描いて怯むCAに畳み掛ける、

「ルナの能力は分かっていると言った、この程度の釣りに引っ掛かるとは、なぁ!」

 だがCAは自身の腰のスロットにメモリーを差す、

『ゾーン マキシマムドライブ』

 ある空間の一面を通過する数十全ての光弾が消え、決してCAに届く事がない、

「『なにっ!?』」

 光弾の行く先、転位した先はLT前面、全てがそのマキシマムの運動量を保存しつつ、位置と方向を変化させられた、

「『ぐぁぁぁぁぁぁぁっっっ』」

 全て直撃、自らの力で袋叩きに合う、足が地から離れ、いつのまにか頭が地を打ち、打った自覚も無い翔太郎の視界に、自分のワイシャツの袖が入る、ベルトにエネルギーが逆流した事によるメモリブレイク、地面と挟まるベルトの違和感で自分がようやく俯せである事に気づく。

「ルナの光が消えて・・・・・トリガーのメモリがうごかね・・・・」

 CAよりも自分の命よりも、形見の意味すらある腰のバックルとメモリに手をやり、一旦破損していない事に安堵するものの、何度押してもシャウトの響きがないメモリに絶句した。今、左翔太郎はアイデンティティが崩壊した事を自覚した。

「おまえを永久に闇の中に閉じ込めてやる。」

 俯せで放心する翔太郎に、再び右腕にメモリを握ったCAの高笑いが響いた。



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その3





「大学付属病院になったのは1ヶ月前だがな。」

 バックルからメモリを抜いて、腰のスロットへ差す、

『スカル マキシマムドライブ』

 その胸の肋模様が開いて、胸骨の部位から魂が抜け出たような骸が、朧気に燐火をあげて上空高く浮遊していく。

「とぉ」

 帽子の角度を直し、泰然自若な叫びと共に跳躍するスカル、
 スカルの眼下には、見上げ吠えるスパイダーとバットの両ドーパント、
 宙にあって巨大な骸と並ぶスカル、
 その絞り凝縮した腰からヒップの捻りだけの回し蹴りを骸へ、
 ドーパントの頭上60度から衝突する骸、燐火が2匹の怪物を包んで、断末魔を上がった、
 2匹の体内からメモリが射出すると同時に収まる燐火、

「よう、刃野警部補、道で寝転がっていると、風邪を引くぞ。」

 既に荘吉は変身を解いて、メモリに支配された2人の人間を起き上がらせていた。

「ックション!そうかぁ、このだるさは風邪かぁ、ナルミの旦那じゃねえかっ」

「そっちの若いのも、後で病院に行け」

 自分の名を腹の底から叫ぶバットだった若い刑事に、既に背を向ける荘吉。
 彼の腰に収めたスタッグフォンがその時震動した。

「アキコ、・・・・・若造が、言いつけを守らなかったな、簡単な足止めに引っ掛かりやがって。」





6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その2





 帰ってきた2人、いや3人に増えてたけど、あのカッコツケル君と、まるでカッコツケル君がワープ進化したみたいなイタニツイタカッコイイ氏がやって来て、なんだかスゴく雰囲気悪い。そしてあのアキちゃんは涙目になっている。カッコツケル君は早々に写真館の方へ閉じ籠もって、カッコイイ氏は上着を脱ぎ、帽子などは円盤投げしてミラクルに壁にひっかけ、そのままコーヒー豆を出して網で煎り始めた。
 いったい何があったんだ?

「ホンマすまんねんけど、あいつ呼んで来てくれんかな。お父ちゃんが取りあえず腹満たしとけって」

「いやオレが行く。その繋がった部屋というのを見ておきたい。」

「お父ちゃん、いっつもそうやねんから!お父ちゃんだから胡散臭がられんねや!」

「アキコ、オレのやる事だ。」

 そう言ってトイレの看板のかかったドアをカッコイイ氏は入って、やたら無神経な音を立てた。男2人が怒鳴り合ってるギスギスした音が響いてくる。ヒトの家で何やっとんじゃ?だけど、ほんの少ししたら、2人とも素直に出てきた。ムスっとしてるけど。
 ああ、この2人はライダーなんだ、そう私は納得した。士クンはいつも他の世界のライダーと出会うとすごく反発し合った。私じゃ絶対できないな。

「納得してねえからな!それだけは、おやっさんでも引かねえ・・・」

 などと無邪気に吠えるカッコツケル君を見てると、意外に士クンは大人な方だったんだなと思えてくる。

「これで全てが揃った?・・・・・、謎はやつらが狙うメモリの場所、いやそれより急いでここを引き払う。黙って腹を満たせ小僧。二度は言わん。」

 カッコイイ氏が用意した塩でしか味が無い硬いパン、冷蔵庫に入れっぱなしで冷えすぎたチーズ、そしてなにか拍子抜けなブラックコーヒーは、どれも女子としては満足できないものだった。私、毎日おいしいコーヒー飲んでたんだな。私も隣のアキちゃんもコーヒーに大量の砂糖とミルクを投下した。カッコツケル君はどういう訳か、

「くそ、なつかしい」

 と聞き間違えかもしれないけど、小声で言った気がした。

『風都の諸君、オレの名は、仮面ライダーW。おまえ達を窮屈な現実から解放する救世主だ。』

 一斉にブラウン官白黒テレビに4人の目が向けられた。そして一瞬だけ間を置いて4人の耳が古いダイヤルつまみのラジオに向けられた。アキちゃんがテレビのダイヤルをペンチでグリグリイジッて変えても同じライダー、あのカッコツケル君によく似たライダーが出てくる。もう私は見慣れてるよ、似てるライダーが敵同士とか。

『この風都を影から支配し、ガイアメモリで暴利を貪っていた園咲リュウベエは、このオレが倒した。やつが独り占めしていたメモリの力を、おまえ達全てに解放する。』

「バカな」

「バカヤロ」

 男2人が同時に叫んだ。それがどれだけ哀しい意味があるのか、その瞬間の私には分からなかった。
 カッコイイ氏とカッコツケル君が同時に立ち上がった、だが同時にカッコイイ氏がカッコツケル君の肩を上から片手で抑え込んで座らせた。
 ブラウン管のライダーが、手にしたアタッシュケースをあける、中にはカラフルに光るキャンディーみたいな棒がいっぱいウレタンに埋められている。ライダーはその中の何本かを見せつけるように取り出し、一つを腰に吊した大きな刀みたいなモノを中折れさせて装填した。まるで西部劇のライフルみたいな仕組みで一振りで元の刀にするライダー。

『ゾーン マキシマムドライブ』

 そうして手にした残りの棒を宙に放り上げて、光を帯びた刀で斬った。でも壊れる事無く棒はことごとく消え去った。

『見るがいい』

 ブラウン管の風景が暗い室内に1人立つライダーから、日の光が眩しい整頓された花壇の庭に石畳を敷いた路上の散歩する人々に映り変わった。その中の2人にさっきのメモリとか言う棒が突然現れて、後頭部に刺さって体に埋まった。

『スパイダー』

『バット』

 その人達が怪物になっていく映像を見て、私以外の3人の顔が引き攣った。私は、この世界の怪物は普通の人がなるんだ、と悪い意味で慣れてしまっていた。こんな事3人に口に出して言えない。
 怪物が突然現れて、画面の中の人々が奇声をあげて逃げ惑った。耳でなく頭に直接打ち付けてくるような子供や親達の悲鳴。怪物が吠えて、突然画面が一面白く光って、耳にしばらく残る重い爆発音がして、私は思わず目を閉じた。私は今ライダーに守られているから、落ち着いてられる。でも画面の中の人達は、私が最初に怪物達を見たあの時と同じでただ怯えて逃げるしかない。誰かに守ってもらえないって、こんなに違うんだろうか・・・・、私は今すごく性格悪いと思う。

「お前達は、今から教える男に会え、」

 カッコイイ氏が机のメモに手で削ったえんぴつでなにか書き出して、1枚剥いてアキちゃんに渡した。その動作一つ一つが手際良くて様になってる。

「尾藤さん?あのテキ屋の?」

「アキコ、はっきり言うぞ、おまえが狙われている。オレの事を知っているフミネは、オレがドーパントを相手にしている間、ここを襲撃するだろう。」

「待てよ、」フレミングの法則にカッコイイ氏を指差すカッコツケル君。「アンタを警戒してここを襲ってこねえって事なら、アンタが娘を守って、オレが今テレビ映ってるとこに行けばいいんだろ、分かってるぜ、あそこは風都病院だ。別の世界でもここは風都、裏道の猫の住み処までオレは知ってんぜ。」

 でもカッコツケル氏は構わず壁掛けの帽子を選んでいる。

「いや、風都大学だ。おまえがさっき聞いたように別の世界の風都のライダーとして立派に務めていたとしても、この世界では門外漢、些細な見立て違いが命取りになる。」

「アンタの知り合いだった女なんだろ、あの透明人間モドキ。だったら、アンタの知り合い根こそぎ調べてマークしてるぜ。アンタ自身がこの子の側にいてやれよ、親なんだろ!」

「オレは尾藤を知っているが、尾藤なら、オレの知らん隠れ家をいくつも知っている。それよりおまえのような半人前が見立てを誤る事の方がオレ達全てを危険に晒す。おまえのその依頼人を含めてな。」

 カッコイイ氏は私を指差した。そうだ、私はこの頼りないヤツに守って貰っているんだった。

「半人前・・・・・」

 強気なカッコツケル君はもう少し言い返すと思ったけど、ものすごくダメージを受けたような顔して口をパクパクさせてる。

「いいな、おまえの役目は、アキコを尾藤のところまで連れて行く事だ。」

 間隙を縫うように既にドアを開けて私達に背を見せているカッコイイ氏は、そう言って帽子を直し、静かにドアを閉めた。

「なんだアイツ!バカにすんのもいい加減しやがれ!」

 この子と会ってそんなに経ってないけど、他人を悪し様に口にするのはけっこう珍しいかも。

 ぉて!

 そんなカッコツケル君の後頭部に45度仰角で緑のスリッパが打った。

「なにスネてんねん、なぁナツミン」

「だよねアキちゃん」

「・・・ツテ・・・、なんだいきなりこの女、顔がいいからってオレが手を抜くと思うなよコラ、ていうか、おまえらいつのまに仲良くなってんだっ」

 だってさっきお友達だもんね、って2人で確認し合ったとこなんだもん。
 カッコイイ氏のバイクの音が遠退いたのを見計らって、カッコツケル君がグダグダ言って2階から1階へ私達を先動した。

「もっと気ぃつけえな。みえへんとこから襲われたらどうすんねや」

「このビリヤード場から出るのに危険はねえさ。ちゃんとこっちのおやっさんも死角に鏡を置いてる。玄関には昼でも夜でもちゃんと影が出るようにいつも照明が炊いてる。」

「あ、だからお父ちゃん電気消さへんのんか、・・・・・・・・、アンタが偉いんちゃうからね、お父ちゃんがちゃんと日頃から気ぃつけてるから偉いんや。」

 この2人相性がいいな、
 私は2人に黙って着いていく形で、朝日が柔らかく差す玄関先を出た。裏口から入ったから分からなかったけど、目の前はごく普通の寂れた商店街だ。いたるところに風車がある。お向かいのいかにもさらしななそば屋であのカッコイイ氏がもり食ったり、あのお肉屋のコロッケを立ち食いしてたりするんだろうか。

「おっきな風車」

 街道のずっと先で何十メートルあるか分からないオランダ風車の親玉みたいなのが回っている。

「あれが風都名物、風都タワーや。」

「あれがねえと風都じゃねえんだ。どこだ?その尾藤っての、」

 この2人絶対仲良いよね、

「メモはうちが見る、慌てんでええ、アンタ、お父ちゃんと違って頼んないねんから、ちゃんと尾藤のオッチャンのとこ連れてくんやで。」

「オレだって、あっちの世界じゃおやっさんの代わりにちゃんとライダーやってんだぜ!大体なんだアンタ、あいつに包帯女もろとも撃たれるとこだったんだぞ、なんでそんなヤツ庇えるんだ!」

「お父ちゃんは自分が全部背負うつもりやったんや」

「なんだよそれ!」

「あの人、うちの本当の親ややねん。」

 彼女がそう言って道の真ん中で立ちすくんだ、先頭を歩いていた彼は振り返って、口をパクパクさせて、目を瞬かせていた、私はそんな彼女の背中を黙って見ていた。

「うちの本当の母親が風都ひっくり返すような悪い事企んでるってお父ちゃんが知ってから、お父ちゃんうちに言っとったんや。オレの弱みはおまえだから、あの女は絶対おまえを人質にしてくるって、うちはだから言ったんや、うちはかまへんからうちといっしょにうちの母親を止めてって。お父ちゃんは分かった言うたんや。お父ちゃんはだから、正しい事したんや、」

「おまえ」

「したんや!」

 彼女の背中は正しいと言ってなかった。肩が震えていた。
 彼は指を何度も向けて、何かを言おうとした、でも遮られた。

『クイーン』

『オーシャン』

 いつのまにか彼の真後ろから2つの怪物が吠えながらやってきていた。
 カッコツケル君、私達に背を見せて、ただベルトを握った。巻く様は私の知っている誰かとよく似てる。

「逃げた方が!」

 たぶんこの子と私を守ってここに居る事は、すごくマズイと私は思った。

「今度も、いやだからこそ破るぜ、街を泣かせるヤツを、放っておけねえんだ。これは気休めだ。」

 カッコツケル君があの妙に大きな携帯にメモリとかいうのを差し込んだ。

『スタッグ』

 カッコツケル君の携帯が虫の形になって、私達の周りをグルグルと舞った。

「アホ言いな、かっこつけて」

 彼女も私と同じように考えてるみたい。

「アキコ!」

 彼は背中を見せたままだ。

「え?」

「おまえも街の住人だ。だから、おまえを泣かせるおやっさんを、オレは、放っておけねえ。産みの親を育ての親が殺しちゃ、結局おまえは泣くだけだ。そんなの、オレの知ってるおやっさんなら、しねえ・・・・・、いくぜフィリップ!」

『サイクロン』

『ジョーカぁぁ!』

「変身!」

 私の髪の毛が思い切り突風に流れて、まともに目を開けられなくなった。その時私ははじめて自分の髪の毛が邪魔に感じた。



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その1






 風都の中央には、街最大規模の発電施設でありなおかつ最大の送信所である『風都タワー』なる巨大な風車が、昼夜を問わず回っている。北からの冷気と南からの暖気が絶えずせめぎ合うこの街は、近代に入るまで天災による被害で、作物と魚介に恵まれたが人が都市を築けるような立地では無かった。それがここ20年急速な伝導技術の発達によって、その激しい気候を逆に膨大な電力に替え、頑強な建造物と逞しい生命力でメガシティへ変貌させる。他国より警察機構が常駐しているものの、ほぼ園咲の家が創設より援助した自治団体によって運営が為されている。
 フミネ、という包帯の女が園咲の家を壊滅させ風都全体を敵に回したかのような感があるが、実は事前に自治団体の代わりになる財団を繋ぎ、警察機構は財団経由の圧力で無力化、実力行使で街のシンボルである風都タワーを易々と占拠した。荘吉達が敵にしようとしているのは、そういう者達であった。
 その風都タワーの電力制御室のドアが、けたたましく蹴破られる、

「ゴウゾウちゃん、なんで?ケンちゃんがなんでなのよ!」

「キョウスイ、少しは黙ってろ!頼むから今だけは勘弁しろ!」

 容積は平均男子の二倍以上あるくせに語り口調が女な『キョウスイ』が、ほぼ同じ屈強な筋肉がはみ出している『ゴウゾウ』にヒスっている。

「レイカっ、アンタもよ、アンタ達がついててナニしてんのよ!あの探偵絶対許せないわ!」

 キョウスイは続くロングの髪をかき上げるリアルな女の『レイカ』にも当たり散らした。レイカはその性格のにじみ出た眉をつり上げた。

「あの来人と同じ力を持ったガキがいなければ、アタイ達も遅れは取らなかったわ。」

「サイクロンアクセル以上よ。単純に力だけならばね。」

 そして最後にあの包帯の女が最上階制御室内に足を踏み入れた。そのサングラスの見つめる先に、ダンボール箱を積んだた台に寝かされた『リュウ』と呼ばれた男がいた。
 室内はほぼバームクーヘンのような円形の空間。壁に沿って計器が並べられ、電気事業者やメディア事業者がここで電力と電波を統制する。包帯の女は4人を使ってこの部屋の中央に巨大な十字架にも風車にも似た装置を持ち込んだ。十字架の先端は全てメモリースロットが埋め込まれ、回転軸には10インチ程のモニタ画面がある。
 今コートのポケットから取り出した翠色のメモリを十字架の右サイドに差す包帯の女。

「検索なさい来人。」

 包帯の女が語りかけるのはモニタ。光が灯り、映し出されるのは野心によって人格を醸成したのような青年の顔。青年は椅子に座してやや左サイドを向く形でモニタの反対側を覗き込んでいる。その姿は3人となったネクロオーバー達と同じ黒いジャケットに、ゆとりの笑みの消えない目つきに、やや翠のラメの入った髪。

『キーワードを言え、おふくろ。』

 一言一言に手振りが入るその青年の声は紛れもなくあのサイクロンアクセルだった威圧と狂気が混じったそれだった。

「ガイアメモリー、ジョーカー。」

 画面の中の青年がイスを捻って立ち上がり、背を向け、大きく両腕を拡げた。

『さあ、検索をはじめよう』

 それは何かの宣誓のようだった。宣誓と共に青年の立つ風景が全て白一色になる。青年の肌と髪と衣服だけが色のついたものだった空間に突如浮かぶ本棚の群れ、

『ガイアメモリ』

 そのハードカバーの本を下から上まで満載した重量級の本棚がいくつも滑るように青年の周囲を動き回り、どういう訳が白色の景色の中へ大半が消えていく。

『ジョーカー』

 本棚が一つになり、その本棚からハードカバーの本が重量を拡散して飛び出し、本一つ一つが消え、そしてついには再び白一面の空間が青年の眼前に拡がった。

『おふくろ、検索に一致する項目が、ない。ありうるのか?オレは地球の記憶を支配したんじゃないのか?おふくろ!』

「そう、やはり地球の記憶に無いメモリーなのね、ジョーカー、あり得ない、あのWはいったい何者?まあいい、分からないという事は分かった。今はそれで満足しましょう。それより、」

『おふくろ、まずオレの肉体だ。全てはそこからだ。見つけたんだろ?最後のメモリを。』

 包帯の女は、指を三本だけ伸ばした。

「テラー、タブー、そして『クレイドール』、この3つのガイアメモリーを集め、この、」中央に打ち立てた十字の機械を握り拳で叩く。「『プリズム・エクシア・グリッダー』にサイクロンを含む4本を差した時、来人の肉体が錬成される。3人共、プリズムをここからギャリーにお移し。」

「なに、苦労してここまで運んだのに、また下に降ろすって、もうアンタの言う事なんか聞いてやる義理は、」

 ヒスを起こすレイカに黙してマグナムを振りかざす包帯の女。それは殺傷能力を振りかざしているのではない、むしろ逆だ。

「貴方達3人は、既にネクロオーバー。一定の間隔細胞酵素を打たなければ細胞が分解してしまう。そして酵素を精製する為にはタブーのメモリーを分析する必要がある。貴方達にこのメモリーを分析し酵素を精製する知識がある?」

 髪をかき上げるレイカはその美脚をなめらかに旋回させてダンボールの一つを破砕、だが結局他の2人と同じく、溶接された土台を切断にかかった。

『おふくろ、リュウが回復次第オレが直々にその探偵を排除してやる。そうすれば女だろうがクレイドールだろうが』

 画面のモニターの真下で火花が飛びながらも、モニターの中の青年は軽妙に舌先を動かしている。

「いえ、直接いけば貴方もタダでは済まない。それより、荘吉はこの街にただ一人、あのもう一人のWもね。だったら、もっとリスクの少ない方法がある。」

 包帯の女はコートのポケットから、無作為な数のメモリを取り出した。