2013年2月2日土曜日

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その6





「お父ちゃぁん!」

 助けて、とまでは言ってはいけない事を知っている娘だっだ。
 そのアキコの腕を捻って盾にする包帯の女。

「あの大坂の女に産ませた子?私を止めたいなら、この子を犠牲になさい。私の来人や、あの貴方の相棒のように。」

 対面し、ただ銃口を向けるスカル、その硬質のマスクに表情というものは無い。

「おまえに、その子はやらせん。」

 一発、
 スカルの放った弾丸が、アキコの頬を掠め、包帯の女の肩を掠める。
 アキコの頬から血が流れ、目に大粒の涙が潤んだ。

「お父ちゃん撃つんや!どうせ私お父ちゃんの本当の子や無いもん、だから、私平気やもん!!」

 少女の肉体は見て分かる程震えていた。

「養女?まさか、この子が、そうなのね、荘吉、貴方娘としてこの子を傍に置いていたのね、これで全てが揃った、」

 包帯の女はそんな少女を強引に引っぱりながらジリジリと間合いを空ける。スカルはジリジリと間合いを詰める。

「この子は私のものよ、来るな荘吉!」

『スカル マキシマムドライブ』

「オレは、もう決断を鈍らせない。」

 スカルマグナムへ再度メモリを装填、充実する銃口の光、そのドーパント一体を葬り去る光弾が、アキコに向かって放たれた、

「なにすんだぁ!」

『ルナ メタルぅぅ!』

『メタルぅぅ マキシマムドライブ』

 その時、横合いからその紫の影の光弾を、無数の円環が自在に追尾して擦ってはUターンして再度突進を繰り返し、砕けては円環が分裂して突進、増殖する円環が少しずつ紫弾の軌道を逸らし、ついにはアキコと包帯の女が免れる位置で爆破、砕けない弾丸を横合いから逸らした、二人の長い黒髪が至近の爆風に靡く、
 飛びそうな帽子を抑え思わず人質から手を離す包帯の女、アキコは逃げるというより爆熱に仰け反って地面に倒れる、

『ルナ ジョーカーぁ!』

 そうしてW、左半身を黒く染めて右腕を伸ばし、スカルマグナムのバレルを上から抑え込み、スカルに詰める形で腕を縮める。

「どけ小僧」

「なにやってんだぁんた、娘を巻き込むのか!」

「決断するという事はそういう事だ」

「おやっさんがそんな事すんじゃねぇ!!」

 だがそんな二人を震動が襲う、

「ぉぉぁあぇあ!」

 それはギャリー、そしてメタルの咆吼、メタルドーパントが転倒したギャリーを再度起き上がらせた。大上段から振り下ろされる前輪を回避する二人のライダー、スカルは自らのスタッグフォンを取り出す、

「ムダよ荘吉、私が作ったもの、マスターコードは私が握っている、」

 包帯の女もまた同型のフォンを片手に握っている、メタルがヒートを抱えて動き出すギャリーに飛び乗った、ギャリーはスピンターンで包帯の女の円周の軌道で背後へ、包帯の女が再びアキコに手を伸ばす、

『ルナ メタルぅ!』

 右ボディを銀に染め、メタルの剛腕でスカルを絡め取りながら、出現したシャフトをあり得ない軟質な動きに10数メートル伸ばし、まるで撓るムチのごとく包帯女の側近地面を打ち、アキコに触れさせないW。

「未知数のライダー、いいわ、来人が回復してからその恐ろしさを味わせてあげる。」

 ギャリーの側面に捉まる包帯の女、ギャリーは二人のライダーにエグゾーストを向け逃走、

「待て」

 スカルがLMをようやく振り払って、マグナムを連射、だがギャリーの装甲はことごとく弾き返し傷一つない、

「うぉりゃ」

 LMがシャフトを伸ばしエグゾーストの一本に巻き付けようとする、

「うぉりゃぁ!」

 だがギャリーの頂に立ち、ロッドを振るうメタルドーパントがシャフト先端を弾き返した。

「くそっ」

 もはやスカルギャリーを捕らえる術を失い、立ち尽くして睨むしか二人のライダーにはできなかった。
 黙って変身を解く両者は共にメモリをバックルから抜くスタイルだった。

「馬鹿野郎」

 静かな挙動でシャープな拳が翔太郎の不意を襲った、

「おやっさん・・・」

 殴りつけられ、よろめき、それでも隣の壮年の顔をマジマジと眺める翔太郎。顔、その足先から白いスーツ、全縁の帽子、そしてあの最後に殴られた頬の感触までもが全て同じ。

「何を逃したか分かっているのか」

 脚の震えを留める事しかできない翔太郎は、喉を鳴らした。

「たとえ、どんな野郎だとしても、誰かを犠牲にするような、そんなやり方、オレの知ってるハードボイルドなら、絶対しねえ!」

 あの時と違って多少の口答えできたのは、歳月が経ったからに過ぎない。

「オレに誰かを重ねるな、小僧!」

 雨がいつのまにか二人の肩と崩壊した園咲の庭を濡らしていた。荘吉は青年に背を向け、翔太郎はその男の背を見るしかなかった。

「アンタ、お父ちゃんに盾突いたらあかんで、お父ちゃんはな、間違った事言うた事無いねんから!」

 心無しか翔太郎の耳に、髪が濡れ雫が滴る少女の声が震えて聞こえた。唖然として見上げる翔太郎に、視線を合わせず手だけを差し伸べ下唇を噛むアキコだった。





6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その5





 メタルを前方、ヒートを後方に、絶妙のタイミングで同時攻撃を迎えなければならなくなったHJ、

「ジョワッッ」

 メタルの振り下ろすロッドに、背を向けるHJ、

『ヒート メタルぅ!』

 左半身を鋼に変えるWの背にロッド軸が出現、メタルのロッドを受け止める形になる、

「うっぜぇぇぇ」

 そして正面から受け止める形になったヒートの膝打ちを十字ブロック、左前腕で相手を抑えながら、背の得物をメタルを弾きつつ抜いて、リーチを伸ばしヒートへ横薙ぎ、その勢いのまま両者から間合いを開けるHM。

「ナニモンだこいつら、」

 得物のメタルシャフトを時計回り1度、反時計回りに半円だけ振って眺めるHMの視界には、悠然と2対1の状況にゆとりを見せ居並ぶ2体のドーパントがいる。今HM向かって左にメタル、そのいぶし銀のボディにもたれ掛かるように右にヒートが立つ。

「てめえは引っ込んでろ!」

 そのメタルの咆吼が合図となってHMと2体のドーパントが間合いを詰める、ドーパントは同時にHMの左右へ回り込む、HMがメタルのロッドを弾いた反動でヒートを威嚇し一旦退かせた上でシャフトを旋回させ再びメタルへ打ち込みにいく、しかしメタルもまたロッドのモーメントを保存しつつ打ち込みをかけ、互いの得物が交差し弾き返され互いの姿勢が崩れる、そのHMの死角からヒートが再び摺り足をかけてくる、その急激な体感温度の上昇から背後の敵チャージに気づいてたまらず跳躍し逃れようとするHM、

「さっきは3人に囲まれて凌いだのに、」

 翔太郎が囲まれた敵にHMを多用するのは、メタルシャフトという武具の属性が反動を利用する事にある。HMのパワーで打ち込んだ反動がそのままモーメントに変換され別の敵へ打ち込む力とレスポンスを産む。パワーがあればあるほどシャフトの速力も増す形になる為、本来ならレスポンスで凌駕するCJやCMに匹敵する速力を、一対多の状況でHMに発揮させる事ができる。

『敵の連携は先程とは段違いだ。』

 だからこそ敵の包囲を崩し各個に相手取る為、HMは跳んだ。

「上げて」

「飛べ!」

 それを追って跳躍するヒート、ただ跳躍するのではない、メタルの掌に片足を乗せ、メタルが押し上げ、そして自身の脚から噴煙を吐き、もはやそれは飛翔、圧倒的な速度でHMの頭上を越える、

「『なに?!』」

 振り下ろされる踵、後頭部に食らう、地に叩きつけられるHM、メタルに首を掴まれ持ち上げられ、その得物の鉄の爪で肉体を引き裂かれる、同素材同士の摩耗が火花を生む、片腕だけのメタルの膂力で50メートル先の大木に投げ飛ばされるHM、

「バイバイ」

 傷だらけのHMにヒートが追い打ちの火球を放つ、
 爆発、

「『をぁぁ!!』」

 近接爆破を食らって天地逆に宙へ舞い上がるHM、そのまま落下して背を強く打ち地に転がる。

「こいつらツエエ」

 立ち上がろうとして思わず片足が滑り膝をつくHM。その視線の先に映るのは2体のドーパント。だがその2体は、HMを視ていない、別のライダー、厳密に言えばそれと対峙し、今まさに揮発的に消失したドーパントを凝視していた。

「ケンが、どうして!?」

「ケンなんだぞ、あの、許せネエ!」

 それはWにとって意外な程ドーパント達の反応だった。そしてそこに千載一遇のチャンスを見た。

『ヒート トリガーぁ!』

 左半身を冷徹な蒼へ変え、トリガーマグナムへメモリを差し込み、バレルを大口径へ、

『トリガーぁ! マキシマムドライブ』

 ヒートサイドの腕で構える、口砲に閃光が蓄積する、

「『トリガー エクスプローション!!』」

 轟く火芒、反動で両足を引きずり地に跡をつけるHT、

「どけレイカ」

 メタルがその急激な熱輻射に気づく、

「どくのはアンタよ」

 だがメタルを制して前面に踊り出たのはヒートの女、その全長を越える火の塊がヒートを呑み込む、呑み込むと同時に圧倒的熱量がヒートを圧搾し過熱、背後のメタルも吹き飛ばされそうなヒートを背を構えて支える、

「うりゃぁっ!!」

 ヒート、なんと圧搾する熱量を圧し返し火芒をかき消した。だが息荒く、全身から煙を吹いている。思わず片膝を折った。

「ブレイクしねえ、凌ぎやがった、ヒートの女、」

『Wのもっとも強力な攻撃を同じヒートの属性で堪えた?』

 むしろ攻撃したHTが棒立ちする。

「おめえまで死んでもらっちゃ、オレが困んだよ!」

 ヒートの背後にいたメタル、HTを睨みつけつつヒートを肩で担いでジリジリと後退していく。
 目で追うだけのHT、まだ脚にダメージがある。

「それより、」

 その時点でようやくスカルを振り返るWだっだ。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その4





「私を撃つというの荘吉、幼なじみを。」

 包帯の女は両の手をコートのポケットから出さずに佇み、

「ヤツが復活すれば、街を泣かせる。オレは、ヤツの中の悪魔を見た。」

 骸の仮面は、ただスカルマグナムを構えている。

「悪魔?たったそれだけの事が、あの時来人を救わずに見捨てた理由?」

「男が決断するという事は、そういう事だ。」

 スカルマグナムが放たれる、幾発もの弾丸が包帯の女を一直線、だが女は動けない、

「プロフェッサー!!」

 スカルの放った弾丸を弾くのもまた弾丸、撃ちながら割って入り、なお弾丸を連射するスカルの弾をその身に受け、さらに左腕の砲身で反撃するのはトリガー、
 互いに対手の弾丸を食らって怯むも、同時に立て直し反撃、トリガーの胸を弾丸が貫通、やや射線がズレたトリガーの弾丸はスカルの右脛を掠めた。
 硝煙が両者の間を割って入った。

「逃がさん」

 そのトリガーの背後にあって右サイドへ逃走しようとする包帯の女、スカルの銃口が追随しつつ連射、

「ゲームオーバー」

 だが視線を外したスカルの目元をトリガーの弾丸が掠り、次いで脇に数発の弾がめり込む。スカルの硬質化したボディだけが荘吉の命脈を辛うじて保つ。

『スカル マキシマムドライブ』

 スカル、そのトリガーに銃口を転じ、マグナムへメモリを差し、差した腕を固定、銃を流して前腕にかけ、Wと同じくバレル下部を底上げ、マキシマムモードへ形状を変える。
 トリガー、敢えて待つ、
 スカルの紫煙を放つ弾丸が射出、朧気に骸に見える、
 トリガー、その弾丸を撃ち落としにいく、その意図は敵の最強の一撃を弾き飛ばしての2射め、
 スカルの弾丸とトリガーの弾丸が0角度で衝突、

「男の魂は砕けない。」

 砕け飛散するトリガーの弾丸、スカルの弾は、トリガーが正確であるが故に一直線のベクトルで重心同士衝突し、角度を変える事無くスカルの硬度と威力がトリガーの弾丸を上回る、
 2射めを放つほぼ同じタイミングで直撃するトリガーの肉体、

「・・・・・・・」

 一瞬だけ漏れる呻き、全身を紫光が迸り、オーバーロードしたトリガーメモリが体外へ射出、

「く」

 トリガーが放った2射め、スカルのソフトフェルトを掠め、倒れるスカルギャリーの装甲に反射跳弾、なんとスカルの右足を直撃、あの鉄壁の硬度を誇るスカルのボディに初めて皴が入り、あのスカルが片膝を折った。

「・・・・・、ゲーム、オーバー・・・・」

 仰向けに倒れたトリガーの男、倒れ震えそして辛うじて首だけをスカルに向け、その群狼のような両目には笑みが浮かんでいた。

「撃っていいのは、撃たれる覚悟があるやつ、だけだ。」

 スカルは、どういうわけか泡が吹いて全身が蒸発していくかのような男を見て、トリガーの勝利に賛辞を送った。
 スカルは包帯の女が目的である、トリガーはその妨害が目的である。トリガーが割って入った段階でスカルは女を撃てず、トリガーを対手にせざる得なかった。既に割って入った段階でトリガーの詰みだった。

「フミネ、おまえは、こういうヤツを犠牲にできるという事か。」

 スカルの背後は、スカルギャリーがあり、そしてそこまで包帯の女は駆けていった。

「お父ちゃん!!」

 なぜなら、フミネは聞いていたのだ、おまえは来るな、と。

「貴方の娘よね?貴方が追えないところまで行けば、解放する。それまでは、人質。」

 包帯の女は、ギャリーが倒れ失神するアキコの腕を捻って抱える形で銃口を向けた。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その3





「こっちもいい男、あっちもいい男、いい男祭りだわ!」

 左側面からクラゲの化け物のようなルナドーパントが牽制、その触手のような腕が物理現象ではありえないアメイジングなストロークで伸び顔面を打ちにいく。スカルはそれを上体をスウェーさせるだけで躱していく。
 無言のスナイパー、トリガードーパントが逆の右から足元を狙う、その正確な射撃がスカルの足捌きを抑止する。スカルはその敵だけは眼で追って、擦る程度なら着弾させてもフットワークを止めない。

「ウォリァタぁ!」

 スカルより二回りある体躯のメタルドーパント、前面にあってスカルともっとも組み合う。スカル、一度はロッドを掻い潜って拳を一撃加えたものの、途端左右からの攻撃に晒され3倍するダメージを負う。

「うっとおしいオッサン!」

 後方にあって必殺の美脚で極めたいヒートドーパントは先も寸でで躱されイキリ立つ。スカルは大気の感触だけでその急接を察知して躱した。

「しつこい」

 スカル、1度はこの4者の連携を解いた。翔太郎と全く同じクワガタムシ型の『ガジェット』フォンに『ギジメモリ』を装填してトリガーの眼元へ体当たりさせ、メタルのボディへブローを放って拳の跡を胸元へ付け、ヒートの振りかぶる脚を肩パットで弾き、そしてルナの伸びる触手を一跳躍で躱して外の庭へ逃れた。そうして戻ってきたスタッグフォンを手にアキコの電話を取った。
 だが敵は上手で、ヒートが奥の手の火球弾を放ってトリガーとの十字砲火を形成、メタルに肉薄を許し、再び四面包囲の形でジリジリ体力を削られていく。

「もたつき過ぎよ!」

 ヒールを鳴らして玄関へ体を傾けた包帯の女は、聞いた覚えのある駆動音にいきり立った。

 駆け抜けるギャリー、
 直前まで全速力、
 前輪のブレーキを強め、
 スピンターンで制動、

「堅いわ、スゴク堅いぁ!!」

 車体に横殴りされ、吹っ飛ぶルナ。

「うぉわ」

 後輪に巻き込まれ、ロッドを突き立てながらも倒れ潰されるメタル。

「来たか、スカルギャリー!」

 待っていたスカルは、ヒートとトリガーの対空迎撃を敢えて食らいながらも跳躍、スタッグフォンで呼んでおいた『スカルギャリー』、頭蓋骨を思わせる巨大バギーの5本後ろに流す巨大エグゾーストの上へ立った。車体の丸みがトリガーからもヒートからもその身を遮蔽する。その上でスカルは自らの得物『スカルマグナム』を出現させる。

「うっとうしいオッサン!」

 ヒートとトリガーに向けてマグナムを乱射するスカル。上を取られたトリガーは即座に撤退、ヒートは同じく跳躍しようとして迎撃され地に倒れた。

「中から開いた!?」

 足元が震動、僅か姿勢を崩したスカル、それはスカルにとっても意外なギャリーの震動だった。

「スゲー、見渡す限りのドーパントだぜ。おやっさんどこだ?おい、園咲若菜、離せ!」

「ワカナちゃう!なんべん言うたらわかんねん!」

 それはギャリーが左右にボディを開いた震動、開いたギャリーの前半部は車両1台を入れるメンテナンススペースの台座、そのフリースペースに立つのは二人、翔太郎と依然腕に噛みつくアキコ。

「スカルギャリー、あの子達は誰?」

 困惑する包帯の女を含む敵、

「おまえは来るなと言ったはずだ、アキコ。」

 もっとも困惑しているのは、翔太郎頭上にあって二人を見下ろすスカルだった。

「お父ちゃん!加勢に来たでぇ!」

 いい加減な事を言うアキコだった。

「・・・・・スカルだ。ホントこっちの世界のおやっさんなんだな、」鼻下の汗を2本指で拭う翔太郎。「見せてやるぜ、今のオレを。」

 翔太郎、ダブルドライバーを取り出し、腰に据える、巻かれるドライバー、

『サイクロン』

 フィリップが次元を越えた先から左腕でメモリを作動させる姿は、スカルや包帯の女には見えない。

『ジョーカーぁ』

 見えるのは右手で掲げたメモリを作動させる翔太郎の動きのみ。

「ダブルドライバー?私以外にも作った者がいるという事、ジョーカー?そんなガイアメモリー地球の記憶に存在しない。いったい何者?」

 包帯の女は知るが故に驚愕した。

「『変身』」

 フィリップがバックルに垂直、右に差す、
 翔太郎の元に転送されるサイクロン、
 続いて翔太郎が垂直、左に差す、
 腕を交差してバックルを開く、バックルがW字の形状になる、

『サイクロン ジョーカーぁ!』

 両手を拡げる翔太郎、ファンファーレと共に細かい破片のような光が翔太郎の肉体を包む。

「まさか」包帯の女はその意味の成すところを理解した。

「はんぶんこ怪人や!」巻き起こる乱気流に髪を逆立てながらもギャリー外装の銀パイプを掴む。

「『さあ』」おもむろに黒い左腕で包帯の女を指差す。「『おまえの罪を数えろっ!』」

 右半身が翠に輝き、左半身が漆黒に光る、マフラーを靡かせる独特の大きな複眼を持つそれが『仮面ライダーWサイクロンジョーカー』。

「なんだあいつは」

 この世にいるドライバー持ちは自分を含めて二人しかいないと思っていた荘吉もまた困惑し、トリガーからの弾丸をジョーカーの素手で掴むライダーに見入った。

『あれはトリガー、そしてあれはヒート?まさかボク達のガイアメモリのドーパントに出会うとは思わなかった。ゾクゾクするねぇ。』

 CJ背後より、

「何この紛らわしいガキ!」

 ヒートが踵落としの体勢から放物を描いて落下してくる、

「感心してる場合かよ!」

 ギャリーより飛び降り様、ヒート腹部に跳躍力を伴ったカウンターの左、弾き返り転倒するヒート、その動きを抑止しようとトリガーが弾幕を張る、着地様食らうCJ、だが食らうのはそれまで、弾幕が止む、スカルがトリガーを牽制している、

『ヒート ジョーカーぁ!』

 立ち上がり再び向かってくるヒートに、敢えて待ちながら右腕を炎に焦がすHJ。

「おらぁ!」

 互いに殴り合い、推し勝つ、そのまま2度3度ヒートの顔面へ拳を連打。

「私がついに頓挫したフォームチェンジを、いったい何者なの、財団?それともミュージアム?いやこの世界で私よりガイアメモリーを知っている者などいない、ルナ!加勢よりリュウが先よ!!」

 包帯の女は今失神から触手を体ごと振って回復するルナを手招きする。

「あら、イイ男に絡みつけるのネっ」

 男声の怪物が、10数メートルもの物理的にあり得ない伸びの触手を、なお倒れる屋敷のホールで『リュウ』なる青年を巻き付け惹き付けると同時に跳躍、月光の煌めきから木の陰に一瞬で飛び消えた。

「逃がさ」

 揺れる足元、

「おと、ちゃぉぁっ」

 命からがら這い上がってヘタり込む金属の床が右斜めに隆起し思わず父の名を叫びながら滑り、もはや地面と直角する床を落下するアキコ、

「うぉりゃぁたぁぁぁ!」

 スカルギャリーの片輪が宙を浮く、いや持ち上がる、持ち上げるのは轢き潰され、地面へ埋もれたメタル、雄叫びを上げて復活だった。

「おやっさんが危ねえ」

 ギャリーの90度転倒に地面へ落下したスカル、メタルが迫り、それを視界に入れたHJ、左チョップのキレがクリティカルにヒートをたじろかせたのを見るや、右拳を発火、右フックの状態でメタルに突進、そのままアックスを首へ、メタルをはね除けるHJはスカルに向き返った。

「助けてやるぜおやっさん」

「どけ」

 だが身を呈して飛び込んだWなど見もしないで手で祓い、包帯の女へ駆けるスカル。

「おやぁ……」

『背後から来るぞ翔太郎!』

 スカルの背中を呆然と見つめるHJに、脳震盪を起こす事もなく復活したメタルが鉄の爪を振りかぶる。

「首鍛えてんなこいつ」

 右脚のステップで辛うじて躱すも爪跡が一線左胸に入る、だが怯む事無く左を入れて顎を掠めるHJ、

「ぐぉぉぉ」

 メタルの肘がHJボディへ、
 顎を揺すられながらまるで姿勢を崩さないメタルがHJを吹き飛ばす、

「クソ生意気なガキっ」

 吹き飛んだHJの先に踵をキメにくるヒート、

『あいつはメタル、翔太郎、やはりこの世界は中々興味深い。』

「言ってるな相棒!」

 メタルとヒートに前後挟撃されるWだった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その2





 また例の夢、
 ディケイド、
 私はいない、
 ディケイドの目の前に数え切れないライダー達、
 ライダーの一人が攻撃してきた、
 危ないディケイド、
 私の思いと繋がってるみたいに手で顔を庇うディケイド、
 反対の手でピンクの光を出してライダー達を溜まった埃のように吹き飛ばす、
 止めてディケイド、
 でも今度は私が何を願ってもディケイドはライダー達と戦うのを止めなかった、
 止めて止めて止めて、
 私はディケイドの血に染まった掌を眺めた、 見てるだけで臭ってきそうな気がして目を背けたくなった、
 そんな私の気持ちと同じように目を背けるディケイドの視線、
 違う、
 私の思った通りにディケイドが動いてる、 でもライダーと戦う事を止めない、
 違う、
 私だ、私が止まらない、
 私がディケイドになって、戦うの止められない!



 今日はとびきり酷い夢だっだ。
 私が目を開けると、いつもの湿気を感じる白い壁と埃がうっすら降りた木目が綺麗な床、いつもの私の家、もう私しかいない写真館。
 テーブルは倒れ、ディエンドの銃は暖炉の灰に刺さって、カードは床に散らばった。
 今私の目の前に、士クンが一番気にしてた同じ『COMPLETE』のロゴが入った、いくつかマークが入ってるカードが落ちている。あの海東大樹さんもいろんな世界回って集めてたのね。

「やったぁ!」

 あの帽子のだらしないカッコツケル君が、命が助かったからか、それとも自分の世界に帰ってきたからなのか、玄関を開けた途端大声ではしゃぎだした。たぶん後者。

「トイレだぜフィリップ、大変だ、これからオレ達トイレ無いぜ。」

 カッコツケル君、玄関の戸を半開きに私を手招きする。

「気づいたか、光夏海、・・・・どうしてだ、もう電話なんてイラねえだろ、いねえ?オレはこうして2階の廊下にいるぜフィリップ。」

 カッコツケル君が床板がミシミシ言う廊下を出る。私が写真館を出て振り返ると、といれと少女趣味の彫刻看板がかかった扉になっていた。カッコツケル君は先に進んで廊下にもう一つある扉を開けた。

「ええい、このナルミ探偵事務所に押し入るたぁ、舐めたもんヤなぁ!」

 頭上80度からカッコツケル君に振り下ろされる細い足首、そのつま先には緑のスリッパが履かれている、私はその時ピクリとも動けなかった、

「てぁ!」

 床板に思い切り顎を打ち付けて倒れた。あれ絶対お腹真っ赤になってる。彼の持ってたやたらデカイ携帯が私の足元に転がってくる。

『翔太郎、まだそこがボク等の風都だと決まったわけではない。現にボクが廊下を出ても君達を見つけられない。いいかい、思い当たるだけで2つ、そこがボク等の事務所に偽装しているか、似ている別の世界かだ。だが君達はランダムに転移した。敵がいるとしても先周りするのは不可能だと推理する。おそらく翔太郎、そこはボク等の風都と似て非なる』

 なんだかよく分からないけど、たぶん電話の先の子は内に籠もっちゃうタイプだと思う。

「ナルミ荘吉の娘にして嫁(仮)、このナルミアキコが、お父ちゃんの留守預かってるんやでえ。か細い美少女やからって、ナメたらあかんねんでぇ!」

 どちらかという、無遅刻無欠席で表彰何枚か持ってる健康優良児が両手を腰において鼻息を飛ばしている。(仮)ってなんだよ。

「亜樹子、おめえ、翔太郎だバカ、この鳴海探偵事務所を預かって・・・・・、誰だ、亜樹子じゃねえ!どこだフィリップ!!」

「ナニヌカしとんねん、私は正真正銘、風都一番のナニワの美少女アキコやでぇ!アンタこそナニもんやコソ泥!」

「おまえ、ちゅうか、園咲若菜じゃねえか!なんだ!これはテレビか!どっきりか!白状しねえとアンタの素の性格全国放送しちまうぞ!!」

「シロップがなんやねん?今レーコー呑んでる場合ちゃうちゅうねん!」

「って言ってます」

 私はそんなカッコツケル君より、電話のコモル君の方がマシだと思った。アキコを名乗る子がカッコツケル君を立ち上がらせてネクタイ締め上げてるせいもあるけど。

『そちらの亜樹ちゃんが若菜さんに似ているのは意外過ぎるが、やはりそんなやる必要も無い事まで違いがあるのに確信が持てた。そこは、別の風都だ。夏海さん、そちらのアキコさんに聞いてみてくれないか?鳴海荘吉が生きているかどうか、いや、鳴海荘吉がどこにいるかを聞いてくれればいい。』

 私は何がなんだか分からないが、とにかく頼りない藁のような2人のどちらかの言う事を聞くしかなかった。こんな時士クンは平然としていたな。

「あの・・・・、」

 アキコさんがこっちに怖い顔を向けた。私もあのスリッパでボコられるんだろうか、私生きていられるだろうか、きっと頭ザクロにされるんだわ、助けて神様!

「アンタ、分かったで、誘拐されたんやな!可哀想に、」

 なんか生きていられるみたい、神様ありがとう、でも神様、この台風娘をなんとか止めて!

「私は、その、」

「ああ、皆まで言わんでエエ、私はこの事務所の主、今日も街の為に駆けずり回ってるナルミ荘吉の娘やで、あいつに誘拐されて、イヤイヤいっしょにいるんやろ、待っとき、今すぐこの風都泣かせる変質者を退治したるさかいな!」

 私の肩を掴んで揺する女の子の背を叩くカッコツケル君、

「おやっさん、鳴海荘吉がこの世界じゃ生きてんのか!」

「人の旦那(仮)捕まえて不吉な事いいナ!」

 見ないで上段バックキック、顔面にスリッパ裏をくっきり、
 もんどり打って廊下を倒れるカッコツケル君、ああこれをコモル君は予想できてたんだわ。

「・・・・あの、荘吉さんは今どこにへ、」

「は?まさかアンタら依頼人?ウチ聞いてへん!それならそうと早よ言うたら、」

 この豹変した台風娘が私の手を引っ張って事務所と言うレトロな雰囲気の室内に招き入れた。疲れるわこの子。天井に剥き出しのプロペラがまったり回ってるんだけど、その風はただただ室内の埃を巻き上げてるだけで、なんでだろう、この子こんなところに住んでる事が可哀想になってきた。おしゃれしたい年頃なんだろうし。
 私はトゲっぽい電話を、ヨレヨレで入ってくるカッコツケル君に渡して、窓寄りの3人掛けソファに腰を降ろした。そうするつもり無かったけど、思いっきり腰掛けたんで埃がバッと舞った。そう言えばおばあちゃんの小屋から掠われてずっと休む事無かった。

「別の風都って何だよ、早く言えよ相棒。そっちの園咲若菜も、実はもっと底は凶暴かもしんねえぞ。この間なんか目じゃないくらい」

 そう言って勝手に流しまでズカズカ入っていって棚からコーヒー豆を出すカッコツケル君。携帯を手にしながら台風娘はヒスってるけど、部屋の中不作法に障りまくって、そつなく湯を沸かし始めた。

「あ、お父ちゃん、今どこおんの?・・・・ギャリーに乗るな?ちゅうかなんやその後ろで聞こえる奇声は?オカマに襲われてる?なんやそれ、ええか、依頼人来とんねんから、早よ帰ってきぃ!・・・・すんまへんな、うちの人ゲイバーで遊んでるみたいで、」

 眠くなりそうな目をこすりながら、私は携帯をかける二人を黙って眺めて、何か言ってくるのを黙って肯いていた。
 突然ブザーが響いた、思わず眠気がふっとんだ。

「おい、こっちのアキコ、今ギャリーつうたな。ちゅう事は隣の部屋ぁ」

 親指と中指を2回弾いて、カッコツケル君が入ってきたドアと違うこの事務所のもう一つの扉を唐突に開けた。中からムワっと油の臭みが私のいるソファまで拡がって来た。

「何してんこのガキゃ、ウチのプライベート侵害やで!」

 慌てて携帯切ってカッコツケル君に掴み掛かるアキコさん、

「在んじゃねえか。おいフィリップ、間違いねえ、おやっさんのピンチだ、イテっ」

「なにヌカしとんねん!」

 カッコツケル君がかっこつけてる中、緑のスリッパで何度も張り倒すアキコさん。
 私は依然鳴り響くブザーに耳を塞いで隣の部屋をソファから眺めていると、金網の床がキンキンな音を立ててせり上がっていくのが見えた。

「この世界のライダーは、間違いねえ、おやっさんだ。おい、光夏海、」

 困惑する私に上から目線な態度のカッコツケル君、こういう置いてけぼりなところ、どっかの誰かみたい。

「はい?」

「門谷士もいつもこんな唐突なメに遭ってんのか?」

「士クンは、貴方よりずっとずっとスマートに知らない世界を渡り歩いてました。」

「そうか、ライダーってなぁ、どいつもこいつも。行ってくらぁ、ちょっと待ってな、ここのライダースカウトして、ついでにオレの風都の亜樹子に会わせてやる。」

 そう言ってカッコツケル君、隣の部屋へ勢いつけて飛び込んでいく、しがみついてあがいたアキコさんもスリッパを振り回して飛び込んだ。
 私は、士クンを褒められた事が、なぜだか少し嬉しかった。
 そんな私を置き去りに、何かものすごく大きな機械がものすごくグルグル回ってものすごく轟音を立てた。

「キャッ」

 私が立ち上がって隣の部屋を覗いた時、髪が水平になるほどの突風が吹いた、
 もう既にそれが発進して、私にはちらしずしで使う盥の親玉みたいなのが車輪履いて去っていく姿にしか見えなかった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その1





 ハッハッハッハッハ

 街でもっとも巨大な建造物は『風都タワー』であるが、個人所有でもっとも広大なのは『園咲』の屋敷だ。正門から2キロ歩いてたどり着く洋館の、その5メートルの高さの扉を開けるとすぐに昇り階段が前方に伸びるホール、その階段の途中に起立する一匹の化け物、肩幅を超えるクラウンを頭に頂く闇夜のような漆黒の『テラードーパント』がホール全体を通る高笑いを上げた。

 ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ

 テラーの眼下に5人の男女、内4人は統一された黒のパット内蔵ジャケットを着込んで、それぞれ屈強な肉体を包んでいる。だがそのことごとくがテラーの足元から伸びるヘドロのような影に差された途端阿鼻叫喚の断末魔をあげ、汗を吹き、眼を血走らせ、体液をばらまき、震えが止まらず、得体の知れない言葉を羅列しながら、最後は白目を剥いて卒倒した。死因は厳密には心不全である。

「来人の為に揃えた4人なら、もう少し耐え切れると思ったのだけど、」

 やや後ろに位置し影から辛うじて逃れているもう1人は、全身を包帯と黒いコートで隠しているものの、女の体型である事は明白だ。サングラスと長いカツラ、つばが魔女のように広いハット、手袋、ブーツ全てが黒で染められ、肌が全く外気に触れていない。

「どうしたフミネ、頼りの尖兵は全て死に絶えたぞ。それでよく私の前に再び立てたものだ。」

 ホールの端から端に通るテラーの男声は、まるで透明人間であろうとするかのような女を下の名前で呼んだ。

「ごろつき、樵夫、傭兵、女囚、死の恐怖に耐性があると思っていたけど、死に近い程死を怖れるのね。いいわ。」

 覆面の女が取り出すのはあのWのトリガーマグナムのリペイント。Wのそれと同じくメモリを一本差し込んで傾いた銃身前部を跳ね上げる。

『タブー マキシマムドライブ』

 続けて4連、敵テラーに対してではない、その銃口を向けたのは、未だ恐怖の闇が全ての毛穴からドクドクと染みこんでいく4つの死体。
 マキシマムの光が灯った死体は、不思議な事に眉間が動き、目蓋の裏の眼球が左右にぶれ、開き、4人の男女の眼に光が戻る。

 チゥッウッセッィ、グッジョブ、開発反対、地獄にしては殺風景なところね、

 立ち上がる4体の男女は、もはや足を闇に漬けても動じず、眼光はむしろ迸る程に凛としている。

「タブーでネクロオーバーにしたか。そのメモリを手にする為にフミネ、おまえは、家族を犠牲にしたというのか!」

「アナタは家族が欲しかったんじゃない、重荷にしか思っていなかった!」

 共に嗄れているが、ホールの隅まで通る男と女の対峙。その間に割って入るようにワラワラと数十人の黒スーツで整えた者達が現れ出でる。それぞれメモリを首筋に刺す。

『マスカレイド』

 スーツはそのまま肉体だけが液状の膜に覆われ、黒い覆面に後頭部から頭上を回って唇まで大型動物の根本である脊椎が張り付いている。『ドーパント』の中でも人体が持つ潜在能力を引き出す力が弱い代わりに毒素が人体の復元力を越える事の無いそれがマスカレイド。黒い仮面の男達に囲まれ、包帯の女ら5人を囲む。

 クネクネっ!

 フミネを除く戦闘集団4人は銃、ロッド、ムチ、女に至っては格闘でマスカレイドに対抗し、ホール全体がドーパント対ネクロオーバーの乱闘の場と化す。
 だが二人、階上にいるテラーと正面扉近くに立つ包帯の女は呆然と立つのみ。
 包帯女の背後の扉が突如開く、そこにもさらに数十のマスカレイドが、振り返りその長い黒髪が乱れる包帯の女、
 マスカレイドの挟み撃ち、しかし、そのさらに背後、庭園から強烈な光が放たれた。

『ゾーン マキシマムドライブ』

 一斉である。
 一斉にマスカレイド全ての上半身が差別無く寸断されて消失し、下半身もまた消え去る。消えた肉体は、その者の背後、園咲の美しい庭園を血塗れにして断裂した死骸が散乱した。
 ゾーンメモリは空間を制する。空間内にある物体の座標を自在に変化させる。物体の一部、上半身と下半身を別の場所へ配置する事も可能だ。

「来たわね、来人」

 包帯の女がそう呼んだ者は腰に巻くドライバーも同じ『仮面ライダーW』。右半身がややエメラルドがかった緑と同じだが、左半身がメタリックな光彩を放つ紅だった。

「おふくろ、やつのメモリ、テラーを奪えば、本当にオレの肉体を取り戻す事ができるのか。」

 その声には、少年の幼さが一切感じられず野心が満ちあふれていた。もう一人のWとも言える仮面の男は、テラーを指差した。

「おまえか来人。その肉体は借り物か。誰の肉体を乗っ取った?おまえが、この私に敵うと思っているのか!」

 テラーが眼前のライダーを叱り飛ばした。
 もう一人のWの周りに、黒いジャケットで統一された4人の男女が居並ぶ。

「たとえ貴様でも遠慮はしない」差した指を親指と曲げ換え真下を力強く差す。「さあ、地獄を楽しみな。」

「生意気な!お仕置きを受けたまえ!」

 再びテラーの足元から影が居並ぶ5人を差す。だが平然と弾倉を交換する男、平然と髪をかき上げる女、首を回して鳴らす男、首を奇っ怪にクネらせる性別不問、そしてもう一人のWも全く意に介さず、メモリを1本取り出し、腰の『マキシマムスロット』へ差す。

『キー マキシマムドライブ』

 腕を一閃し、瑪瑙色の斬撃を放つもう一人のW、テラーへ直撃、

「ん!?」

 テラー全身が輝き、液状化して全ての形状が崩れ、液体が腰のベルト1点に集約して、1本のメモリ、テラーのメモリが排出され、ただ窶れた初老の男が現れる。老人は唖然と口を開けてただもう一人のWを見ていた。

「園咲リュウベエ。年貢の納め時だ。」

 バックルの左から紅いメモリを取り出し、腰裏から取り出した大剣『エンジンブレード』にさながら中折れ後装式散弾銃のように差す。

『アクセル マキシマムドライブ』

 だがそれで終わらない、さらに右側から翠のメモリを腰の『マキシマムスロット』へ差す。

『サイクロン マキシマムドライブマキシマムドライブマキシマムドライブマキシマムドライブ・・・・』

 延々とリピートされる発動音、全身を紅い濃密な渦を纏って呻きを上げるもう一人のWが刀剣をホール床に突き刺し自身は跳躍、

「待ちなさい来人!」

 跳躍頂点に達したその者は肉体で十字架を描く、上昇気流が渦巻いてモーメントを加速、その体勢のまま、一介の老人に錐揉みで足を向けさらに加速降下していく、

 ぉぉぉぉぉぉ、

 衝突する肉体、同時に老人の肉体が渦を巻いて肉片からさらに塵になり風のまま四散、老人の立ち尽くす階段もその先の壁ももろとも吹き飛んで、園咲の家の裏庭と星空とイルミネーションを輝かせる巨大な風車が見えた。
着地したもう一人のWが再び親指を力強く下へ差し示すと、紅の渦が爆発的にかき消える。

「この風都の支配者は、今日よりオレが成り代わる!」

 大笑をあげるもう一人のW、ホールに狂気が震撼した。

「来人、なぜそんな事を!」

 包帯の女がまるでヒステリーのようにもう一人のWに近づいていく。

「どうしたおふくろ、」二つのマキシマムよりメモリを引き抜く。「未練が残っていたという事か?」

 除装された仮面より顕れる男の目つきはまるで狼のようだった。やや巻き毛、深紅のジャケットをした、細身の、まだ幼さの残る青年だった。

「そうじゃない」

 !

 声も無く突如苦しみ倒れる紅の青年、倒れなお震えが止まらず、転がった紅いメモリを握りしめ、目を充血させる。それを尻目に翠のメモリの方を拾って凝視する包帯の女。

「違うわ。ツインマキシマムは威力が絶大だけど、このリュウが保たない。最後のメモリーが揃うまで、迂闊に気取るのはおやめなさい。いいわね。来人。」

 包帯の女は、ただじっと翠の『サイクロンメモリ』に語りかけていた。

「そのガイアメモリが、フミネ、おまえの息子のなれの果てか。」

 月光を背に立つ皺一つない白の上下、白のソフトフェルト、

「荘吉、来たわね」

 日本名を持つにはあまりにギャップあるその身長と脚の長さ、『ナルミ荘吉』という男の名を、この街の住人は知っている。

「あら、いい男」

 屈強なあごひげの男が裏声で思わず叫んだ。
 荘吉は完全にフミネ以外の者を無視してソフトフェルトに隠れた眼光を向ける。

「タブーの女の死に顔は、美しかった。」

 白のソフトフェルトを脱ぐ荘吉、その目つきは野獣を繋いでいる。

「プロフェッサー、今やるのか?やらないのか?」

 SMGを抱えた切れ長の目の男は、タバコ焼けした喉を振るわせた。

「おまえたち、メモリーをお使い、」

 ジャケットの4人が一斉に右手に持つそれは、それぞれ特徴的な色をしたWと全く同じ規格のガイアメモリ。

「恐怖の帝王にも使わなかったのに、こんなヤサ男に使えってか。」

 すきっ歯がどこか憎めないターバンのロッド持ちのガタイに比べれば、人類の大半はヤサ男にされるだろう。むしろ隣のヒゲがそれとどっこいの体格である方がレアだ。

「フミネ、おまえとおまえの息子は、園咲リュウベエを倒した後何をするつもりだ?」

 荘吉は帽子を持った手をゆっくり伸ばし包帯の女を差した。

「アタシらガン無視?なんかムカつく。」

 ジャッケト集団の中にあって紅一点のパンツルックが、そのストレートの黒髪を片手でかき上げる。

「荘吉、私はこの」包帯の女はサイクロンを振りかざす。「息子の肉体を取り戻す。タブー、テラー、そして残りのクレイドールを手に入れて。いずれこの風都の、真の帝王となる、貴方が見殺しにしたこの来人の肉体をね。おまえたち何をしている!」

 メモリを持った4人が、

『ルナ』

『トリガー』

『メタル』

『ヒート』

 それぞれ額、掌、後頭部、胸元に出現した生体コネクタに差す、それぞれの肉体に吸い込まれるメモリ、4つの肉体が4色に光輝き、人体とは異質な形状へ変化させていく。一体は金色に輝くクラゲのよう、一体は片腕が銃器、一体は光沢と鈍さが交差する金属の塊のよう、一体は朧気に揺れる炎、この街の住人はそのバケモノを『ドーパント』と呼んでいる。
 だが、荘吉は1体だけでも恐怖すべき理解不能の敵を4体眼前に見据えなお動じていない。

「帝王だと・・・・・、外を見てみろ、おまえの息子が何をしたのか、あの時と変わり無い、街を泣かせるだけの存在だ。」

 荘吉の腰にはいつのまにかWのドライバーに似て非なるモノが巻かれている、スロットが一つしかないそれこそが『ロストドライバー』。左手には帽子、そして右手には指先2本で摘んだメモリ、

『スカル』

 私、聞いてない、とどこかで聞いたような台詞をまくし立てる『ルナドーパント』、

「変身」

 荘吉、スイッチを押したメモリをドライバーに軽く装填、撫でるようにスロットを倒し、右腕を軽く振り流す、
 銃を構える『トリガードーパント』、
 バックルより拡散する黒い欠片、それが荘吉に纏わり着き、漆黒のスーツと化す、
 ロッドを半回転肩から脇に抱える『メタルドーパント』、

「タブーの女の依頼だ。おまえ達母子を止める。」

 最後に荘吉の頭を包む骸の仮面の額に稲妻の刻印が記される、その刻印を敢えて白い帽子で隠す。
 吐息を漏らし小指を立てた先に炎が灯る『ヒートドーパント』、
 骸の戦士は、徐に人差し指で包帯の女を差す、

「さあ、」

 そして掌を上向けに返す、

「おまえの罪を数えろ。」

 ナルミ荘吉のもう一つの姿、風都で知らぬ者のいない『仮面ライダースカル』が、4体のドーパントと対峙した。