2013年7月9日火曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その7





 左探偵事務所『もう1つの風都事件』調書、
 光夏海。20歳。特技「笑いのツボ」。
 自身の世界で、門谷士と出会い、
 『クウガの世界』で、ユウスケ出会い、
 『キバの世界』でキバーラと出会い、
 『龍騎の世界』ではじめて鳴滝を目撃し、
 『剣の世界』でディエンドを知り、
 『ファイズの世界』でモモタロスと出会う。
 これが反転するのが『アギトと電王の世界』、まずモモタロスが消える、
 『響鬼の世界』でユウスケが消える、
 『カブトの世界』で元々居た祖父、キバーラや鳴滝、そして門谷士までもが夏海の前から消えた。
 『スカルの世界』、直前の世界でほぼ全てを失った代わりのオレと、そしていままでの住み処だった写真館を失おうとしている。
 今回の依頼は結局先送りになった。
 驚いた事に、オレの世界はオレがいない事で相当ヤバい事になるらしい。フィリップから聞いた話はよく理解できなかったが、オレはどうやらそんなに風都に愛されているんだと納得する事にした。
 光夏海にそれを説明すると、あの子はあのクソ丁寧な敬語で自分も独りで旅をするつもりでしたと返した。門谷士の前まで連れて行くという依頼は、彼女自身の力でしないければならないと気づかせてくれたという。だがオレは半ば達成というあの子の言葉を遮って、先送りという事にしてもらった。その時が来るまで様々な世界をゾーンのメモリで渡って、光夏海に協力するライダーをできるだけ多く集めるとフィリップも約束した。オレが受けた依頼は、次の段階に移ったという事にしておこう。
 風都沿岸地帯は壊滅状態に陥った。しばらくは食糧とライフラインが風都全てで困窮するだろう。だがオレは見た。倒壊する風都タワーの瓦礫に寄り集まって、誰に言われるでもなく互いを助け、怪我人を介抱し、迷子の親を必死で見つけ、自前のかゆを振る舞って、そしてただのお祭りであるかのように笑い合ってる風都住民と、それを鼓舞し続けるこの世界のおやっさんの姿を。
 結局あの黒幕だった包帯の女はメモリのエネルギーで細胞が崩壊し死を免れなかった。園咲来人も跡形もなく消えた。今度産まれてくる事があるのなら、風都の風はあいつの友人を運んできて欲しいぜ。他2人の男と1人の女はベルトの保護機能のおかげで身体に深刻なダメージを負わず生き残った。フィリップによると奴らはある特殊な薬で命を長らえている。おやっさんが、人の良いドーパント専門の医者がいるって事で、薬の精製を頼んでみると言っていた。取りあえずは風都住民に頭叩かれながら、被災地でこき使われている。
 違う世界と言っても、風都は風都だ。風都の風が、風都の住民を作ってんだって、オレは思う。





「おまえに帽子は早い。この帽子はやらん。」

「分かってる事言われるとな、余計腹が立つんだ。それが1番の気に入りだって事は、オレも弁えてるさ。」

「だが、これならやる。オレがこの世で2番目に気に入っている帽子だ。ありがたく受け取れ。」

「は?これ、これか?!」

「翔太郎、その緑のチューリップハットは、某国営放送で工作のおじさんが愛用したそれに酷似している。ゾクゾクするね。」

「オレをからかってるのかこいつ!!」

「モデルチェーッンジ!」

 アキコに連れられ男3人がたむろする仮設事務所の前に立った光夏海は、視線を誰にも合わせず、表情を落ち着かせる事がなく、よく見れば頬が若干紅潮している。影に入った草地の深い緑の色をしたランニングシューズ、同色のやや短めのソックス、緑に加えてオレンジ、ベージュの縞のスパッツ、オリーブのカーゴパンツは袖を3重に捲り、カーキのタンクトップ、そしてオリーブのジャケットを上から羽織って同じく袖を肘が見えるまで上げている。

「切ったのか。いいんじゃねえか。」

 翔太郎は荘吉にコーヒーを淹れていた。

「髪は女の命というのを知っているかい?翔太郎。そもそも髪自体に神性がある国では、」

 手で制され、泣く泣く白紙の本を音を立てて閉じるフィリップ。

「印象的な髪を切ると、隠れていた眼の力が姿を顕す。いい女の条件のひとつは眼に力がある事だ。」

 荘吉は翔太郎の淹れたコーヒーには満足したようだ。
 光夏海の黒髪が10センチ切り取られ、うなじが露出するボブカットになっていた。光夏海は、未だはにかみながら、髪の毛の数本をつまんで、下に引っ張っている。
 仮設事務所である風麺の屋台では、オヤジが手早く座椅子を用意し、2人の為に麺を湯に投下した。アキコは翔太郎がストーブを片付けている間にそのラーメンを横取りして、割り箸を口に咥えて割った。

「その帽子よう見たら、ウチがお父ちゃんにあげたもんやんか。あげんの?ウチ聞いてへん!・・・・・ま、アンタやったらええわ。それよりドヤ?バカ助手、うちもショートにしたろかな。」

「ダメダメ、顎が出っ張ってる奴は髪で隠さなきゃ、それよりオレのとってんじゃねえよ、ナルト一口で平らげやがったチクショー。」

 頬を膨らませて、アキコは荘吉に眼を向けた。翔太郎はこれでまた数少ない良縁を逃した事になる。

「自分自身の決断で髪を切れ、そしてショートカットになってから、自分の髪を数えろ。」

 父親の後ろ盾を得たアキコ、翔太郎にアカンベーを返す。

「オレゃ反対だ!」

 孤立した翔太郎、それでも父子に意地を張ってみせる。
 そんなのどかなやりとりをそよ風に煽られながら、箸を手に付ける夏海、丼に顔を近づけて、つい癖で短くなった髪を左手がかき上げてしまう。
 だがそんな夏海に誰も気づかなかった。ほぼ同時に、屋台に置いたドでかいイギリス電話と、これまた携帯としてはドでかい翔太郎のスタッグフォンが同時にけたたましい音を立てたからだ。必然2人は立ち上がりやや距離を置いた。

「アキコ、」荘吉は歪曲した送話器を握りながら言う。「ダマルチアンだ。」

 観察していたフィリップが訝しんで翔太郎へと眼を向けた。

「翔太郎、興味深いねえ、こちらの世界の荘吉は、犬の迷子も請け負っているんだねえ。」

「被災地で子供や犬とはぐれた住民はまだまだいるからな・・・・・亜樹子!分かったよすぐ帰るって。それから、戻ったら、ちょっと話す事があるからよ・・・・、告白じゃねえよ、誰がおまえなんかによ!いいよもう!忘れてくれ!!」

 と強引にスイッチを切った翔太郎、フィリップに向き返る。

「なあフィリップ、あのおやっさんは、オレのおやっさんじゃねえんだ。今回の件でそれがよく分かった。」

「ようやく気づいたかい。ボクはすぐ分かったよ。君の態度が、ボク等の世界の鳴海荘吉に対してなら絶対しないものだったとね。」

「亜樹子にとっても、おやっさんは、ただ1人だよな。」

 12月に入ったばかりの風都は、先の青空が嘘のようなどんよりした、雪が降ってもおかしくない厚く濃い雲が大気を覆っていた。

「みなさん、そのままそのまま。」

 そんな4人をずっと眺めていた光夏海は、ピンクの2眼レフを手にした。

「ん?」

「君の記念写真なら歓迎だ。」

 未だ麺を啜っているアキコが右端、フィリップは既に反応し気に入りの角度でキメて左端、

「借りはいずれ返すお嬢さん。」

「依頼は必ずやり遂げるぜ光夏海。」

 そして、どういう訳か光夏海が撮ったにも関わらず、電話を手にした2人の男が重なって写っていた。念の為もう1枚撮ってみたが、やはり同じだった。どういう訳か光夏海、その2枚を微笑んで眺めて、

「私の旅が始まったんですね。」

 とだけ小声で呟いた。
 後に撮った1枚をアキコに手渡す。その夏海の背後に突如としてあのオーロラのカーテンが現れる。

「どうやらディエンドライバーを使いこなせているようだね。ボクは正直、君が次元を渡って、各世界のライダーに協力してもらう事を考えていた。だが君は想定外だ。」

「相棒の最高の褒め言葉だぜ。身1つで行くんだよな。」

 4人はそれぞれ指を1度だけ振って、挨拶を夏海に向けた。決してさよならとは言わなかった。
 大人の階段を上り始めた少女は、カーテンをすり抜け、この『ハーフボイルドのいない世界』の大気に溶け込んで消えた。

「なぁ、あの子、1人で大丈夫なん?事務所といっしょに、あの子の家への扉も消し飛んでしもたんやで?」

 アキコがさりげなく翔太郎に肩と肩をすり合わせた。結局のところ翔太郎は2度とこの世界に来る事無く、1人の女との縁と気づかず終わる事になる。

「大丈夫、光夏海の心は、今はそう簡単に折れやしねえ。」

 丼をバケツの水にいれてスポンジで洗う翔太郎は、鼻先に洗剤をつけながら言った。

「そやな、仮面ライダーになったんやもんな。ウチもこれから、お父ちゃんとこの風都を守っていくんや、仮面ライダー、クレイドールとしてなぁ!」

 唖然と固まる翔太郎の耳元に、一陣の風が音を立てた。


(完)

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その6





「なんでだ、オレ達の全力だった。それを一瞬でオレ達の方が・・・・・」

「奴は風都の風を吸収して立ち上がった。奴は風都に守られている。」

 フィリップは言って後悔した。翔太郎は愛すべき風都が敵に荷担していると知ってどれほど落ち込む事だろうか。その漆黒の仮面からフィリップは表情を読み取る事ができなかった。

「そうだよな、」

 その時フィリップの想定を、凌駕するただの凡人、

「なに?」

「そうだよフィリップ、風都ってのは、街の住人になら誰にも良い風をくれるんだ。たとえ街を泣かせる住人だったとしてもな。」

 この姿が見られるからこそ、この大いなる凡人の傍にいるのだ。

「だからこそ、」

 その2人に骸のライダーが言い放つ。男の胸から腹にかけて溝のようになった綺麗な傷な刻まれていた。その背後にはディエンドがいる。

「だからこそ、街を泣かせる奴を許さない探偵が要るんだ、この街にはな。来るぞ。」

 風の怪物が先の最強の攻撃波を再び放とうと12本に増えた腕を振り上げる。

『KAMEN RIDE KANTOUZYUUITIONI』

 かまいたちが放たれる寸前、3人のライダー達の前に、11人の影が肉の壁となって立ちはだかる、スクラムを組んで先のライダーを一瞬で消し去った攻撃を大量の血飛沫をあげながらも耐え、裂けた皮膚が即座に回復していく。

「ディエンド、切り札はまだ持っているね?」

 サイクロンが言う。

「もちろん」

 とまた応えるディエンドが取り出したのは3枚、

『FINAL FOAM RIDE sususuSCULL』

「オレか。」

「痛くしないから。」

 背中にむけてドライバーを放つディエンド、スカルが手足を窮屈に曲げ、背から腰を小さく丸める、巨大な頭蓋となって宙を浮かぶスカル、

『FINAL ATTACK RIDE sususuSCULLuu!』

 ドライバーから舞い上がるカードの奔流に乗ってスカルが高く高く打ち上がる、

『FINAL ATTACK RIDE dadadaWyuyuyu!』

 さらにドライバーに装填すると、サイクロンとジョーカーが天高くスカルを追随、追いつき追い越し蹴撃の体勢からサイクロンは右足、ジョーカーは左足をそれぞれスカルに接着、降下、

 FuuuuuuuuuOoooooooooo

 対して圧倒数の腕を生やす風の怪物、この風都の怪物の眼が異様に光り、全ての腕が、3人のライダーめがけて集約する風都の風全てをさらに集中させる、果てしなく直線の細い渦となる、

「耐えろ」

「おやっさんもな」

「風都がヤツを味方している。このままでは。」

「男なら耐えろ!」

 スカルの頭蓋が斬圧で切り刻まれ、だがなお押し切られる事なく宙で静止、

「がんばって仮面ライダー、」

 威嚇するも微動だにせず攻撃を3ライダーに集約する風都の怪物、仮面をつけながらも弱音を吐いた、ディエンドの頬は仮面で覆われ、その微風の変化に気づかなかった、

『がんばれ』

『がんばるでやんす』

「フィリップ、風だ、耳鳴りがする」

『鈍らせんな、がんばれ』

「これは?・・・・風に乗って、ボク等がブレイクしたメモリの記憶・・・?」

 信号や街灯に電力を送る小型風車が逆回りする、

『貴方達の気持ちは本当に嬉しかった、負けないで』

『がんばって、大好きな翔ちゃん』

「ああ、その声だフィリップ、」

「マネーやアロマノカリスまで聞こえる、」

 海に立てられたビルの緊急蓄電用の大型風車も逆回りし始める、

「がんばって、仮面ライダーなら、がんばって。」

 ディエンドも祈った。

「フィリップ、風だ、風都の風がっ!」

「ボク達に力をっ!」

 ついには科学法則を無視した風の集約が、怪物の反対方向から起こる、衝突する同じ風都の風と風、均衡が崩れる、頭蓋が紫炎を放って落下、2人のライダーの威力も相まって徐々に加速する、敵の急所である眼球を狙い、風都の風を相殺した、強靱な魂が貫いていく、

 Fooooooooooooooouuuuuuuuuuuuuuuu

 貫通する眼、
 紫炎の骸が眼球を風船のごとく破裂させ、中から生身の男の肉体が露呈し、爆圧のまま推し込められる、その四肢の先からは0と1の羅列が漏れ出し、肉体の形骸が徐々に崩壊していく。

「これが、死か・・・・・・・」

 肉体もその無邪気な安堵も全てエメラルドの文字列となって拡散。
 余剰の熱量が大気を爆炎で染める、3人のライダーの影を覆い隠す、ディエンドはあまりの爆風に仮面の顔を手で守った、
 風が一気に収まる、
 熱が一気に引き、再び海岸一帯へ微風を呼び込んでいく、

「雲1つ無い、風都では珍しい青空だ。」

 着地する両者の脚、
 そこは偶然にも半壊した探偵事務所前の路上。骸のライダーはまず帽子を脱いで胸に置き、天を仰いだ。

「フィリップ、奴は、」

『ああ、園咲来人はボクと同じデータ人間の肉体だった。メモリブレイクは即ち彼の、』

 右の明滅は、心無しか暗い、

「ああ、地球の記憶に還ったんだな。」

 左の明滅は、ただスカルと同じ天を仰いだ。

「私はまだまだ、様になってないよね、あの2人みたいになれるだろうか。」

 駆けつけたディエンドは、強い日差しに長い影を作るライダー達の背中を眺めていた。




6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その5





「いくわ!」

 ルナが両腕をあり得ない長さでゴムのように伸ばして怪物の首元に巻き付けた。

「りゃぁぁぁぁ」

 その2本の綱のように張った腕を、ジョーカーの頭を飛び越えて乗るのはファング、高速で綱渡りしていく、

「続くぞ、翔太郎、」

「おうよ、」

 続いて駆け上がるジョーカーとスカル、
 上空ではヒートがメタルを抱えて飛翔、頭上まで達して、メタルを落とす、

「うぉりゃたぁぁぁ!」

 落下の勢いと全腕力を込めたロッドの先端から火が噴く、その突端が怪物の眉間に刺さり、着地したメタルは二度、三度同じ眉間への攻撃を繰り返す、

 ホッッッォォォォ

 ビル風のような咆吼をあげる怪物がその唯一飛び出した巨大な掌でメタルを弾き上げる、
 さらに眼光で攻撃しようとメタルに狙いをつける怪物のその顎にあたる位置へ、ファングとスカルが跳躍して切り込みダブルライダーキック、怯んで像が歪む怪物、

「そうか、力合わせられるかい、」

 その後方、ルナの腕からまるでスカルの影のような形でメタルへと跳躍するのはジョーカー、メタルの高度を超え、蹴撃の構えで降下、

「おいマッチョ、足合わせろ!」

「おおともさ!」

 メタル、ジョーカーに足を向け反り上がる形で直立、頭は風の怪物に向け、ジョーカーのキック力を両足に受け突撃、それはさながら金属の弾丸、
 貫通、風穴をあけるメタル、
 風の巨体がビル風の呻きをあげ大きく仰け反る、

「総攻撃だ」

 不動だったサイクロンの左右に着地するのは先のジョーカーとヒート、そして駆け寄ってくるルナとトリガー。ヒートとルナの両肩に手を置くサイクロン、トリガーはマグナムをジョーカーの肩を支えに構える、
 巨大な三日月が風に舞って飛ぶ、炎の渦が果てしなく直線に撃たれる、そしてトリガーマグナムが敵の急所へミリ単位の精度で放たれる、

 ホフォォォォォ

 ついには倒壊する怪物、連鎖して倒壊しガラスと瓦礫の芥子粒になるビル群、路面が一気に網目が走り、未だ開発途上の空き地に亀裂が走る、

「やったか」

 ジョーカーがマキシマムを仕掛けようとする、だがサイクロンが肩を掴んだ、

「待て、翔太郎、まだだ」

 怪物によって倒壊したビル群が、いずこからともなく風が呼び込まれ粉塵となって周辺を渦巻き、ついには怪物に吸引されていく、メタルの空けた穴も、全弾発射の抉れた痕もみるみる内に修復していく。それどころか1本だった腕が6本無作為に生える、生えた腕が同時に撓る、撓った先端が一瞬視界から消える、風の音が唸る、周辺全てに衝撃波となって伝わる、これが、風の怪物最大の攻撃、
 メタルが金切り声で裂かれる、ヒートが女の声を出してしまう、ルナが野太い声で叫ぶ、トリガーはあくまで無言だった、

「翔太郎だけでも」

 サイクロンが衝撃波の正体を瞬時に見抜いて、唖然とするジョーカーに向かい合わせの形で立ちはだかる、

「フィリップどけ!」

 だがジョーガーの動きではそのかまいたちにもサイクロンの挙動にも間に合わない。
 爆風が2人を襲う、
 メタルも、ヒートも、ルナもトリガーも悶えながら光へと拡散、あれだけいた仲間がたった半瞬で消え去った。
 そう、2人を残して。

「おまえたちは、まだ、生きてるんだろ?」

 ジョーカーを庇ったサイクロンのさらに前面、白きライダーのその腕の牙が、半分に折れた。

「ファング」

「これだけは忘れるなフィリップ、アンタ意外と家族に愛されてるぜ。」

 そして光となって消えた。



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その4




 2者のライダーが同時に指差す、
 その先に立つのは、もはや人外の疾風、風都港湾を真空波で削り取りそこに住まう人々の生活とライフラインを破壊。
 食い止めるべくディエンドが『仮面ライダーJ』と『仮面ライダーアーク』を既に召喚し、ジャンボフォーメーションとレジェンドアークがそれぞれ絡み付いている。だがそれも過去形、ジャンボライダーキックを放とうと成層圏のさらに上に舞い上がったJは、跳躍頂点での突如とした爆風に呑み込まれ、アークの火球も気圧の壁に阻まれて届かずかまいたちにその翼を身ごと切り刻まれる。

「骨ぐらいならくれてやる。」

 マキシマムのシャウトを鳴らして、スカルが跳躍、その疾風の渦の中心である1つ目に向かって突進、

「待ってください」

 Wの左側が続こうとするも、右が背後からの女声に足を留めた。

「なんだっ、光夏海」

『仮面ライダーディエンド。』

 左の明滅の疑問を右の明滅が答えた。

「さっき絵を取り戻したカードがあるんです。」

 ディエンドは、手元に返ってきた2枚のカードを右の腰に収める代わり、1枚のカードを取り出す。

『FINAL FOAM RIDE dadadaWuuu!』

「痛くしないから。」

 ディエンドライバーを向けた先は漆黒と翠の仮面ライダーW、無抵抗に受けるWが光を放ち、センターラインから半身が別れ左右に拡がり、その割れた先から次々と相似な半身が出現していく。計7つの半身がそれぞれ細胞分裂のように自らのもう片側を組成していき、完全な7つの人型へ。

『サイクロン』

「翔太郎、これが僕らがディエンドと力を合わせた象徴。僕らが持つメモリそれぞれのライダーが誕生した。」

『ジョーカぁぁ!』

「フィリップ、おまえがサイクロンで、オレがジョーカーって事は、他誰だ?」

『ヒート』

「アンタら、アマすぎ。」

『メタルぅ』

「ぶっ潰してやる。」

『ルナ』

「おっしゃる通りだワ」

『トリガぁぁ』

「ゲームスタート。・・・・、出ないかハラハラしたぜ。」

『ファング』

「地獄の、牙を、楽しみな!」

 最左翼に漆黒、朱、鋼、黄金、紺碧、白妙、そして最右翼に翠の7人のまったく同じシンメトリのライダーが並ぶ。

「フィリップ、こいつらはどういう基準なんだ?」

「安心したまえ翔太郎、彼らはメモリの本来のパーソナルキャラクターだ。」

「何を安心しろというんだ」

 7人のV字角がビンビンと耳鳴りする。まるで風都中の風が集約して吹きすさんでいるように、7人と怪物の間に立ちはだかる。

「ボクが奴の風の力を相殺している。その間に頼む。」

 翠のライダーを両腕を拡げて十字架に磔にされたように固まる、途端、耳鳴りが止み、上空に澄んだ青空が拡がり、太陽が強い光を怪物に浴びせかけ、7人のライダーに影を落とす。

『FINAL ATTACK RIDE dididiDIENDo!』

 既にディエンド、そしてトリガーの銃口が火を吹いて怪物の片腕の動きを牽制している、

「やべ」

 完全に無風となる風都タワー一帯、その拡がる青空の中に一点、黒い点をジョーカーだけが見定める。

「おやっさん!」

 抱き留めたのはスカル、必殺技を風で弾き返されたスカルだった。足をもつれさせ、ジョーカーに寄りかかった。

「なに、今日はバーボンの飲み過ぎだ、おまえが7人に見える。」

 おやっさん、そのギャグは昭和だぜ、などと、ジョーカーは口が裂けてもいえなかった。

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その3




 フィリップはそのコートを抑える、

「見るがいいぃぃぃぃ」

 エコーを放つ大音量と共に、渦の中から巨大な片腕が出現、一撃横振り、沿岸埋め立て地に向かって大気の亀裂が走る、亀裂は爆圧となって高架道、遊園地、ビルを根こそぎ大地から引き抜いて裏返し、海の中に墜落させていく、爆圧はさらに海面から高波を引き連れて露出し荒れた大地に覆い被さって残った人々を呑み込んでいく、

「くそ、見境無しか!」

「待て翔太郎、君にも分かっているはずだ、奴は僕らの攻撃のエネルギーを吸収したと言った、おそらく生半可な攻撃では、いやボクらでは、」

「強大過ぎる・・・」

 2人の足がいつのまにか止まっていた、2人はそれに気づかなかった。

「男の目元を帽子が隠すのは、男が背負う苦しみ、そして怯えを見せない為だ。小僧ども。」

 翔太郎の眼に大きな掌が飛び込んでくる。掌の影でほとんど何も見えなくなる。

「貴方は・・・」

 翔太郎は声すら無かった。

「そうか、おまえがフィリップだったのか。それはオレが男の中の男と認めた者の名だ。大事にしろ。」

「なぜ?ディエンドの力?」

 白いスーツは上から下まで皺1つ無くピンと張っている、薄く生えた髭はそろそろ白みがかってきている、白い帽子の縁には皴のような切れ込みが入っている、男が年輪である事を証明するその男は、

「おやっさん、あんた、無理して粋がってんじゃねえ!」

 指2本でその口を制するナルミ荘吉だった。

「フミネは、オレに良い事を教えてくれた。人が生きる為には、死の怖れを受け入れる事も大切な事だと。」

「怖れ?・・・・・テラーのマキシマムはむしろ生命力を振り絞ったというのか。」

 そんな2人の困惑を一向無視して、メモリを取り出す荘吉。フィリップからロストドライバーを受け取り、一直線に背筋を伸ばし、丹田に宛がうと自動的に腰に巻かれる。

「アンタにはアキコがいんだからな。忘れるんじゃねえぞ。」

 はにかんで並び立ち、同じくダブルドライバーを巻いた。

「翔太郎、君のそんな顔、はじめて見るよ。」

『サイクロン』

 荘吉の右隣にフィリップ、

「・・・・・、いくぜフィリップ。」

『ジョーカぁぁぁぁ!』

 荘吉の左隣に翔太郎、

「おまえら、男でいたければ、魂が砕かれても、膝を折るな。」

『スカル』

「「「変身」」」

 翔太郎の周りに風が舞い、
 荘吉の肉体が変貌していき、
 フィリップから気が抜けて倒れ込み、
 荘吉の肉体に装甲が纏わり付き、
 翔太郎の肉体に2色の装甲が纏わり付き、
 最後に白いフェルト帽を被る、
 そして、2人のライダーが並び起つ。

「さあ」

 スカルが右腕を上げのたうつ怪物へ指を差す、

「『おまえの罪を』」

 Wがスカルの腕に這わせるように左腕を上げ、差した指先を両者同時に捻る、

「「『数えろ』」」

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その2




 フィリップがギャリーを回して風都タワー直下にたどり着いた時、既に翔太郎はCAが墜落した瓦礫の山を散策していた。

「今のところ収穫はこれだけだ、相棒。」

 翔太郎がフィリップに向けて投擲したのは、1本のメモリ。フィリップが調子を見ると、

『クレイドール』

 と正常に機能している。

「驚きだ。あのエネルギーの衝突の中、この世界のメモリは、ボクらのより恐ろしく頑丈に出来ている、」

 翔太郎の脳裏に、おぼろげに直感が働き始めた。頬に当たる風の強さもやたら気にかかった。

「他のメモリで生きてるものがあるのか、」

 フィリップが自分の顎を撫でた。
 彼は、エターナルの直撃を食らった、
 半ば自身のマキシマムごとその身に受けたはず、
 彼はデータ人間、マキシマムを食らうという事はその身がデータの飽和を迎えるという事だ、
 エターナルが彼が絶命する前にその機能を停止してしまったとしたら、
 彼が吸収したメモリは甚大だ、
 もし喪失しつつあった彼に、マキシマムのエネルギーが逆に彼の生命力を醸成したとしたら、

「たとえば、」

 フィリップの声は珍しく上ずっていた。

「「サイクロン」」

「その通り!!」

 爆発、
 瓦礫の中から光が一瞬飛び、次いで巨大な破片が2人を爆風と共に襲う、劈く耳に圧倒量のボリュームで爆音が響き、それに紛れて人の奇声が錯覚でなく聞こえてくる、

「お前達は失敗したぁ!!」

 そこに未だ輝きを失わず、一糸まとわぬ出で立ちで立つ男の姿が、傷も無く、むしろ産まれたてのような活きた細胞で満ちた肉体、

「生きてたか」

「園咲来人」

 爆風収まってなおその眩しさに目を覆う探偵2人、

『サイクロン』

「お前達がオレを倒す為に使ったエネルギーは全て、プリズムに残っていたエネルギーと共に全て、そう全てデータ人間であるこのオレの体内に吸収されたぁ、このエネルギー、そして適応率100%のメモリを直差しする力で、オレは、人間を捨てるぞぉっっ」

 刺すのは後頭部、下垂体に直接刺さる角度、
 同時に肉体がデータ処理され変貌していく、翠の染みが行き渡り、渦の中に見え隠れする眼、渦が拡大して瓦礫という瓦礫が上空に舞い上がり、まるでその者に寄り集まるよう、渦は高く高くタワーよりも高く立ち上り、ついにはタワーすら粉々にしてその身に舞い付けてゆく、

「デケえ」

 帽子を抑える翔太郎、

「50メートル以上はある、」



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その1




 光夏海がアキコを認めた時には、あの包帯の女の姿は跡形も無かった。幸いにしてアキコはそれを目撃する事も無く、意識を取り戻した時には既に日差しは冬独特の眩しくも強くない輝きだった。アキコの眼に映ったディエンドライバーを持つ夏海は、奇妙な程不似合いだった。

「ケガはそれほどでもないね。血も出ていない。良かった。アキちゃん、助かるわ。」

 覗き込んだ夏海は涙目である。

「ナツミン、どうしたん、敵はどうしたん」

「大丈夫、彼がやってくれた。」

 夏海が指差した先に、ハードタービュラーに跨って降りてくる翔太郎が見えた。

「あん男、頼んないけど、お父ちゃんの代わりにやってくれたんやな、お父ちゃんとチャウけど、悔しいけど、かっこええ。」

「帽子をつけるともっとかっこいいですよ。」

「ほんま?」

「ほ、ん、ま」

 夏海はアキコを起たせて、膝についた泥を祓った。

「そうか・・・・」その嬉しそうな表情の意味するところを自覚し、慌ててキツい眼差しで夏海を見るアキコ。「ナツミン言うたらあかんで、あいつの事アタシ褒めてたなんて言うたら、」

 顔を赤らめて大声をあげるアキコだった。それ見て夏海に何時間か、はたまた何日ぶりに笑顔を浮かべた。

「わかりました。でも2人相性いいなと思ってたんです。」

 笑い合う2人の少女の長い髪が、突如動き出したリボルギャリーの疾走に靡いた。
 埃が舞い上がり、漂い、そして拡散してもなお、2人の髪の毛は強い海からの風で靡いていた。再び風都の風は活発に動き出している。

「なぁ・・・・、強すぎへん?」

 アキコの怪訝な顔は、全くもってただの勘であり、特殊な能力でも、クレイドールの力が働いてるわけでも、おそらくない。