タイトルの通り、2009年テレビ朝日系列放映「仮面ライダーディケイド」を私的にリ・イマジネーションしようというブログです。 同番組、並びスタッフ、石ノ森プロ、東映、バンダイとは一切関係ありません。
2013年4月5日金曜日
6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その17
『ゾンビドクターエイプゼロバクテリアゼブラビードルフィンドッグブロードキャストカーコンピュータークラブフィンガーシカスフラワーエッジインジャリーブックブレッドヌードルパンゲアゆ~・・・・』
CAの全身がエメラルドに輝き、朝日を背に雄叫びが上がった、
「さあ、地獄を楽しみな!」
CAはその時僅かに風景が変化した事に気づいた。街の風景、回り続ける風車、全てが一見してわからない程同じ営みだったが、日差しの濃さ、太陽の位置、影の差す方向、そしてそよぐ風のベクトルが全て違っていた。
「ここは、元の風都・・・」
『サイクロン メタルぅぅ』
CA斜め頭上から急速降下してくるそれは、3つのローターで推進するハードタービュラー、そこから飛び降り様フォームチェンジし最速の攻撃で先制するのはCM。フォームとして最速はCJだが、Wで考えられる限りもっとも最速なのはCMのメタルシャフト先端だ、
「しゅ」
それでも回避し切る加速する疾風、2度3度の突貫を両の手で捌いて背中合わせに絡む、
『ルナ メタルぅぅ』
LM、CAを引きはがしてアメイジングにロッドを歪曲させ伐つ、一旦飛び退いたCA、着地の反動で脚が止まり、それでも上体の捻りだけで躱すも、蛇よりさらに奇っ怪なロッドの動きについに一撃食らい怯んだ、2フォームで精神的余裕を削り落とされた、
『ヒート メタルぅぅ』
ロッド突端に火を灯したHM、右脚噴流の一跳躍で詰め、CA脇にダメージの一撃を与える、
『ヒート ジョーカぁぁぁ』
そのまま勢いを殺さずインファイトに入るHJ、顔面に拳を一撃、立て続け脚を一撃、
『園咲来人、君との戦いは非常に参考になった、君は適時適切に様々なメモリを使いこなしていた、もっと僕らも変化する状況にメモリを使い分けるべきなんだ。』
あまりの火力にガードしながらも仰け反るCA、間合いが開いたのを良い事に、たまらず跳躍で逃げを打つ、
「どんどんいくぜぇ」
『ルナ ジョーカぁぁぁ』
LJの右腕がアメイジングに10数メートル、跳躍するCAの片足をひしと掴み、そのまま引っ張り落とす、いや叩き落とす、拍子に背のプリズムの十字の一辺が砕けた、背骨から落ちたCAが呼吸不全で地にうずくまる、
『ルぅナ トリガぁぁぁぁ』
自ら間合いをバック宙で放し、なお足を着く前にトリガーマグナムを縦横無尽に連射、
「ぐぉぉぉ」
ようやく立ち上がったCA前後左右に、アメイジングな曲線軌道の光弾が雨あられと降ってくる、顔を覆うしかないCA、
『サイクロン トリガぁぁぁぁっ』
着地と同時に半身を翠へ染めるCT、連射性能の限りを尽くして、横殴りの雨のように翠弾を叩きつける、
「舐めるなぁ」
CA、抜刀したセイバーで目だけ塞いで立ち上がる、喉に撃ち込まれ、胸に食らい、腕が痺れ、まともに視界が取れないながらも間合いを詰める、背の十字架が完全に砕けるもなお前へ前へと詰めるCA、弾丸の軌道と速力から対手の位置を見極めセイバーを横薙ぎ、やや動きが鈍ったのは雨のような弾丸に神経がそぎ落とされた証左、本来の力なら仕留めていた対手の手応えが無い、さらに弾幕の停滞に敵が眼前にいない事を悟るCA、
『ヒート トリガぁぁぁぁっっ!』
CAが見つけた時には、既に上空で3回転しているHT、着地際を伐ちに行くCA、着地際に撃ちに行くHT、ごく僅差のタイミング、CAの切っ先が着地した無防備の脇にセイバーを入れるその寸前、Wの中でも最強の攻撃がCA顔面にカウンターの形で入る。
「このオレがぉぉぉぉ」
標高100メートルはあろうという金属の足場から一瞬だけ宙に浮くCA全身が炎に塗れ、1転して後頭部を足場に打ち付けた。
『エターナルで、勝負だ。』
『サイクロン ジョーカぁ!』
右腰のスロットへ不気味な程白いメモリを差すCJ、
『エッエッエッエターナル』
「フィリップ、なんか調子悪いぞこのメモリ、」
『勝負だ翔太郎!』
試作メモリの挙動の悪さにたじろぐCJ、
「まだ、まだだ、この剣に蓄積されたメモリのエネルギーがあれば、」
『プリズム マキシマムドライブ』
セイバーを杖に立ち上がるCAが光を帯びて跳躍、風都タワー最上の足場からさらに上方、風車の回転軸芯に仁王立ち、
「メモリの数が違う、終わりだぁっっっ」
セイバーを下に横一線、直径50メートル近い風車が軸から切断され風の勢いで回転しながら2メートルも無いWの頭上に降ってくる、
「『ぉぉぉぉぉぉ』」
風車の羽根の1つがWの立つ足場に激突、砕けてやや跳ね上がって羽根を砕きながら足場を削る、散乱する巨大な破片がWの頭へ勢い激突、両足が地から離れ、風車と共にWが頭を下に100メートルを落下、姿勢が崩れ、身の重心を完全に見失ったWは、重力のまま墜ち行くしか打つ手はなかった。
『KAMEN RIDE』
彼女が立つのは、サザンウィンド・アイランドパーク誇る大観覧車の頭頂、今はタワーの爆破で停止している。
「がんばって、仮面ライダー。」
ディエンドは得物の銃へカードを1枚差し込み、天頂方向へ銃口を向けた。
『HABATAKI』
召喚するは翼を持つ『仮面ライダー羽撃鬼』、ディエンド横に召喚、互いに手を挙げて掌を合わせる、羽撃鬼、その自在の滞空機動力と鷹の目で芥子粒のようなWを見つけ一気に飛翔、
「負けないで。」
再度ドライバーへカードを1枚差し込むシアンの女、
『FINAL ATTACK RIDE dididiDIENDoo!』
ディエンドライバーを巨大風車に向ける、銃から数十枚のカードの光が射出し、バレルとなるように渦を巻く、巨大荷粒子の渦が光芒となって直径50メートルの落下物に直撃、塵単位に撃滅した。
「あんがとよ、光夏海、」
塵と粉塵の中から羽撃鬼がWを片手で吊り下げてディエンド頭上まで羽ばたいてきた。
「仮面ライダー、ディエンド。」
親指を立てるディエンドだっだ。
『言うね。君は興味深い。さっきは言う通り奴をこちらへ呼び戻してくれて感謝するよ。』
右の明滅はそう言いながら爆炎の先を眺めている。
「私決めました。これまで士クンはいつもライダー達と争ってきました。でも私は、士クンに見せてやるんです。ライダーは本来助け合うものだって。」
「おっしゃる通り、ダワ。頼むぜワシのライダー、」
鷹のライダー、羽撃鬼が直上、タワーの高度をさらに越え急上昇、両手でWを投げ上げる、やや浮き上がって倒立宙返り、揃えて伸ばした羽撃鬼の腕を踏み台にさらに一跳躍するCJ、
『エターナル マキシマムドライブ』
両足を揃え、下に見据えるCAに向かって一直線、
「ぬぉぉぉぉぉ」
まず右のメモリを右腰のスロットへ差す、
『サイクロン マキシマムドライブ』
そして左のメモリを、セイバー柄頭に設けられるスロットへ差す、
『アクセル マキシマムドライブマキシマムドライブマキシマムドライブ・・・』
ギシギシと身から音を立て、自らの剣に光を集中させるCA、
これが・・・・痛みか・・・
新たな身体を得た園咲来人は、身体が感覚を訴えるものだという事を思い出す。
得物であるプリズムセイバーを逆手、右腕を振り抜く、刃より飛沫のように翠の光が放たれ、宙で巨大な球体となって、頭上から降下するCJを直撃、
「『うぉりゃぁぁぁ』」
宙にあってCJ、両足を屈し全身のバネを込めて大きく伸ばす、両足裏が球体に直撃、エネルギーの衝突で、球体がさらに大きく膨らみ、CJの身をCAの視界から消す、依然膨らむ球体、崩壊四散、その中央をCJのボディが錐揉みしながら突進する、
「ぬっぉぉぉぉぉぉ」」
CAが気づいた時には、既に胸部への圧迫が、だが腕だけは反応してセイバーの刃が辛うじてブロックしている、いやセイバーの刃が折られ、刃ごとキックが胸へ圧し込み、既にCAの足がタワーの床から離れている、
『あの人が残したエターナル、全てのメモリの力を無効化する!』
CJ、風都タワーの軸心に着地、右の明滅が叫ぶ、
「たった1つのメモリがぉぉぉぉ」
CA、宙にあってブレイクのエネルギーが熱へと還元、全身が炎の渦へ呑まれ、爆発と共に四散、
「おっと」
と風車を失ったタワーに立つCJが四散する破片の1つを掴む、よく見ればそれはアクセルのメモリだった、光はもはや無い、
『この世界では、ブレイクと言っても本体が破壊される訳ではないようだ翔太郎、だからこちらも、』右腕がエターナルのメモリを引き抜いた。『こちらも限界を超えたメモリの無効化をしてバックファイアを起こしている。もうこのメモリは使えない。』
「ヤツを倒しただけで、」Wがバックルから2本のメモリを引き抜いた。現れる左翔太郎の得意げな顔。「満足しようぜ、フィリップ。」
翔太郎は、風都でもっとも高いところからの風を感じてみたかった。
6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その16
「うぉぉぉぉぉ」
降り立った先は風都タワー。今日はとびきりの風で重厚ながら勢い込んで風車が回っている。全てがコンクリートのグレーが塗り潰す工業地帯。海に注ぐ大河の流れもまた風に煽られ波打っている。潮と鉄の入り交じった香りは、マスクをした園咲来人には感じる事ができない。
「風都のメモリの全てをプリズムの中に集約し、この街を破壊し尽くし住民全てを地球の記憶に落とし込んでやる、見ていろ、たとえこの世界のオレ自身であっても、このオレを止める事はできん、この街を失ったおまえは、全てを恨むようになる、このオレのようになぁ!」
CAの世界との違いはただ1人の男の不在とただ1人の男の存在。たったそれだけの違いがなぜここまで彼を追いつめたのか、未だ彼も、いや対手の彼らにすら理解できていないだろう。
『プリズム』
CAが背負った十字の4つの先端が全て光を発し、そしてその光に向かっていずこからともなく無数のメモリが街から寄り集まってくる、メモリは全てエメラルドのロゴへと変換され、4つの先端に吸引されていく。
『マグマビーンアンモナイトブレッドドラキュラドラゴンイヤーズーくぃぃぃんナイトハウス妻ゾーンUFOえりざっべすっ・・・・』
徐々にCAの肉体もプリズムの光に包まれ、彼の悲鳴にも似た高笑いが、風都の空へ木霊した。
この街の住人達は、街始まって以来の危機を未だ知る事もなく、冗談を言い額に汗していた。
「いったいどうしたと言うの!」
この世界の園咲冴子は、ちょうど邸宅の門をハイヤーで出た直後にその事を知った。ヒステリーを起こす程にこの冴子という女は輝いて可愛く見える。右手に携帯を持ち、それを左耳に黒髪をかき分けあてた。
「どうして貴方を管理主任にした途端そんな事態に陥るの、工場のメモリのほとんどがいきなり消えたなんて・・・・」
彼女の怒りは、自らの夫へ3時間近く向けられる事になる。それは自らの父親に対しての恐怖の裏返しでもあった。
その父親、この世界の園咲琉兵衛は、なお邸宅のダイニングにて、下の娘、園咲若菜と共に朝食を嗜んでいた。琉兵衛は邸宅で放し飼いしている鶏が産んだ今朝一番の卵を塩だけで味つけしたスクランブルエッグを半分食して皿を杉下へ下げ、ナプキンを取った。
「あの光・・・・」
琉兵衛は、既に風都タワーの小さな光を見つけていた。
「なに?でも・・・綺麗・・・」
娘の若菜もまた視線を揃えて、風都第3ビルの先、巨大風車に僅かに灯るエメラルドの光が消え入ってなお見とれていた。
「・・・・そうかね、どの道後1度はあの光を観測しなければならんという事か。よかろう、よくやった・・・・・あの女?いや、私にも分からん事がこの地球にはあるという事かね?」
琉兵衛が自らの携帯を杉下の差し出す盆へ置いた時、ふと娘の懐に眼が止まった、それはほんの偶然の賜物だった、光だった、懐から光が溢れているのを見逃さなかった。それが、冴子を見捨て若菜を選択した瞬間だった事を、琉兵衛自身後になって自覚する事になる。
6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その15
「頼むぜ、フィリップ。」
翔太郎が差し出したバックルとメモリの代わりに、フィリップはスタッグフォンから抜き出したメモリを翔太郎に差し出した。
「アナタ・・・・は」
フィリップの見つめる先、瀕死の包帯の女とはじめて目の当たりにする『園咲若菜』の顔をしたナルミアキコに、奇妙な感覚を覚えずにいられない。包帯の女が伸ばした手を思わず握ってしまったフィリップだった、手袋をとった女の手は、火傷に犯されたような被れがくまなく皮膚に爛れていた、そのザラザラする手を柔らかく握るフィリップ。
「ボクは本来なら泡となって未来で収束するはずの可能性の分岐から来ました。フィリップと言います。」
「そう、そうなのね、全てが分かった、」
初めての大人の女性の掌が、フィリップの左頬に触れた。怖気とも寒気とも似た不慣れな感触に拒絶感を覚えるフィリップ、それでもフィリップは気丈に表情を保った。
「貴方のご子息はもはや貴方の掌から飛び出した鬼子だ。このままでは全ての人間が彼と同じデータ人間かドーパントにされてしまう。ボクはそれを止めに来た。クレイドールのメモリを渡して欲しい。」
「そうなのね、貴方だけがあの子を、止められる・・・」
そのフィリップの背後では、CAとジョーカーの死闘が繰り広げられる。フィリップへ半歩でも肉迫しようとするCAを横合いから妨害するジョーカーの趨勢が変化するのは、CAがやや落ち着きを取り戻したその時からである。
「蚊蜻蛉の方から落とす!」
ジョーカーの眼前から突如消える翠と紅の光、死角から来る衝撃、振り返った途端逆サイドから斬撃、次々と伐ち込まれジョーカーの脚がもつれ倒れる、
「速えな、だが」
倒れたジョーカーの頭上に現れる翠と紅の実体、CAXはその得物を勢い振りかぶる、ジョーカーの頭を横に凪ぐ軌道のそれはしかし、ジョーカーを絶命させるに至らなかった。
「いつのまに、」
空振りする、ジョーカーは不動である、CAXは確かにジョーカーの頭を振り抜いた、問題は得物であるプリズムセイバー、その刃が半身折れている、
「見えてはいるんだぜ、」
「キサマ」
激情のまま持ち手と逆の手刀で空を裂いて爆熱を叩きつけるCAX、
『ゾーン』
だがジョーカーが一手早い、既に腰のスロットへメモリを差し、空間を溶けていく、空を掠り地を抉るCAXの爆熱、
「今度はこっちのバンだ!」
CA後頭部にキレのある漆黒の一太刀、振り返るCA、しかし既にジョーカーは転位している、既に振り返ったCAのさらに背後から肘を伐つ、思わず蹌踉けるCA、先の攻守が完全に逆転している、
「くそぁ」
思わず飛翔して逃れようとするCA、
「待たせるなよおまえ」
既にその頭上に転移し、両拳を脳天へ叩きつけるジョーカー、
急降下するCAはそれでも両足で着地、
「この姿の真の力を見せてやろう、」
むしろ余裕すら伺える、CAXセンター部のクリスタルサーバーが小魚が大量に滝登りするかのように光る、徐に手刀を振り上げ、そして空のある一点を断つ、
「ぉぁ」
まさにそれはジョーカー出現の位置、胸元に食らって大きく仰け反るジョーカー、全身に電撃のような痺れを受けたかと思った刹那、ベルト左より射出されるゾーンメモリ、宙に浮いたメモリを手を伸ばして掴むのはCAXだった。
「検索されたメモリは一太刀で能力を断つ事ができる。メモリを使う限り、オレとの差は埋まらん。そして、」CAの片腕が光り、制止したはずのゾーンメモリが再び光を放った、「地球の記憶を精製する今のオレは、メモリをいつでも作る事ができる。即ち、全人類がドーパントと化した時、その生殺与奪は全てオレが握る、オレがメモリの帝国の王となる!」
ジョーカーはたじろいだ。その脅威の能力への怖れではない、尋常ではない対手そのものに脚が勝手に後ろへ逃げた。
「なんなんだ、この男・・・・・、おいフィリップ、まだか!」
ジョーカーは視界に入った相棒が、倒れる女の傍からじっと離れないでいるのが目に留まった。その間CAの再三の攻撃を躱し、立ち位置が再三入れ替わり、そして相棒を背に立ちそのまま相手の攻撃をガードし続ける。
「すまない翔太郎、もう少し堪えてくれ。」
「どうした?!」
「頼む」
「分かった、相棒」
ジョーカーの無謀な、屈んでのタックルがたまたまCAの鳩尾に入り、突き飛ばされスカルギャリーの駆動輪の1本に激突、若干間合いが開いた。
「貴方に、貴方に、これ・・・・を」
フィリップは依然その爛れ窶れた腕を見つめ、その手から2本のメモリを受け取った。
「クレイドールと、これは?」
黄土の色のクレイドールと、そしてラメを塗したような乳白の光沢を放つメモリを受け取るフィリップ。
「エターナル、これを使えば、今のあの子と対等になれる・・・・」
その萎れた掌を潰さないように握るフィリップだっだ。
「大丈夫です、このクレイドールがあれば、貴方の傷は、」
包帯の女は首を振った。
「ネクロオーバーには・・・・・、クレイドールは効かない・・・・」
「そんな」
ボクは、なぜ泣いている・・・・?
フィリップは頬へあふれ出るものを掌で抑えた、それでも溢れて止まらなかった。そのワケを知るまでフィリップはまだ幾分時を要する事になる。
『アクセル マキシマムドライブ』
CAかかとを振り上げ、軸足が跳躍の形で合力するバックスピンキック、除装された翔太郎の絶叫が木霊する、アスファルトに打ち付けられ、口の中を切った事を手で拭って気づく翔太郎だっだ。
「ジョーカーのメモリは検索できない。だがメモリブレイクで過負荷を与えればいいだけの話だ。オレにとってなんら優位点にもならん。」
CAは諸手を挙げ、倒れる翔太郎にその影を差す。翔太郎は押しても押しても反応しない漆黒のメモリを硬く握りしめた。
「逃げねえよ今度は、」だがしかし立ち上がった。「守ってやるさ、この世界のおやっさんと、そしてオレの中に生きてるおやっさんに誓って、オレがっ!命張ってな!!」
「それを言うならオレ達が、だ。」
背後からの声で目を閉じて口元が弛み、そして大きく深呼吸する翔太郎、振り返り様ジョーカーのメモリを手渡した。
『クレイドール マシキマムドライブ』
フィリップが手にしたメモリにマグナムからの光を充てると、漆黒のメモリが再び充実した光を取り戻す、フィリップは既に修復したメモリスロットが2つあるドライバーと共に翔太郎に渡した。
「クレイドールのマキシマムは、自己修復どころかあらゆる物質、機械、身体、そして地球の記憶の修復まで能力を拡充する。」
ダブルドライバーを受け取った翔太郎は、即座に腰に充てる、翔太郎曰くやはりロストドライバーとは微妙に感触が違うらしい、ドライバーは自動的にベルトが腰を回り定着、同時にフィリップの腰にも全く同じダブルドライバーか現出した、
「よう、兄弟、いやそれ以上の・・・・、魔物同士だ。」
CAはここに来て一切動いていない、待っている、
「ボクは生まれた時悪魔だったかもしれない、だがあの人に誓う、人の痛みを感じられない、君のような悪魔にはならない!」
「では何者だというのだ!」
「オレ達は、風都を守る、2人で1人の探偵で、」
フィリップではない、翔太郎が言った。
「仮面ライダーだ。」
フィリップがそれを受ける。
「いくぜフィリップ」
手先を捻る翔太郎の右に並び立ちするフィリップがメモリを翳す、
『サイクロン』
翔太郎もまたフィリップの左でメモリを翳す、
『ジョーカぁ!』
「「変身」」
フィリップがまず自らのバックル右へメモリを差す、極至近を転送したメモリを左掌で押し込みつつも、右腕のメモリをバックル左へ押し込む、両腕を交差したままバックルを左右に開く、大気が硝煙と油の臭みを乗せて翔太郎の周囲を渦巻く、フィリップは生気が抜けて地面に倒れる、翔太郎の身にスーツがまとわりつき、右を吹きすさぶ翠、左を全てを覆う漆黒に染める、マフラーたなびくその名は2人の街の住人が敬愛を込めて呼んだ『仮面ライダーW』、漆黒の左手で対手を指し示す、
「『さあ、おまえの罪を数えろ!』」
「今更数え切れるか!」
メモリで変身するライダー同士の戦いが始まった、翠と朱の尾を引いて消えるCAX、2色の軌跡がサイクロンジョーカー左サイドをギリギリ擦る、動じないCJ、背後を横切る2色の軌跡、だが僅かなサイドステップだけで重心崩さぬCJ、
「1人で変身して分かった事がある、てめえのメモリは相性がいいかもしんねえが、オラッ!」
抜き打ちの左、
「ぐぉ」
CJの打ち出された左拳が出現したCAXの鼻先にクリティカルヒッツ、
「オレとフィリップのコンビも、負けてねえぜ。」
「ほざけ」
さらに尾を引いて加速するCA、だがワンステップで見切ってその疾風を躱すCJ、
『サイクロンを加速する事でおよそこの上無い疾さを得る事ができる、だがその疾さと競う必要はない、見切って迎え撃つ疾さがあればいい。』
右目が明滅しながら、左の蹴り脚を繰り出す、ものの見事に正面に現れたCA顔面に直撃、たじろいで腰が泳ぐCA、
「だが分かっているだろ、オレの本領はこれからだ。」
「その通り、君の本領は適切なメモリ使いにある、」
「フィリップ!ありゃ、」
CJの左目がCAの手に握られたメモリを見止める、
「これで貴様はブレイクして終わりだ。」
CA、折れたプリズムセイバーを背から引き抜き、その握り手にメモリを装着、
『クレイドール マキシマムドライブ』
見る見る内に折れられた刀身が復元し、穢れ無き輝きを放つセイバー、
『さすがに疾い、ボク等の気づかない内にボクの握っていたクレイドールを掠め取るとは。その疾さでメモリの性質を検索して伐つ。サイクロンアクセルエクストリーム。』
「褒めてる場合じゃねえ!」
慌てて撃ちに行くCJ、
『スチーム』
CJ前面の視界が全て噴煙で覆われる、思わず目を庇うCJ、
「目を塞ぐ方法はいくらでもある、」
『プリズム マキシマムドライブ』
「さらばだ兄弟!」
CAがセイバーからの七色の光を振り下ろす先はおぼろげな黒い影、だが空を切る、
「目だけで見てるわけじゃないぜ」
CA右側面死角に強打する漆黒の突風、それはCJの延髄斬り、地に屈するCA、見て取ったCJ、腰のメモリスロットにメモリを差し込んだ、
『ジョーカぁぁ マキシマムドライブ』
大気が翠の旋風となってCJのボディを舞い立たせ、同時にCAを膝をつかせたまま凝固させる、
「『ジョーカーエクストリーム!!』」
両脚を揃えた蹴撃が左半身をスライドした変形片足蹴りとなって降下、
「認めてやる、おまえ達をな、だからおまえ達、オレと対等の地平に立ってもらう、その上でどちらが地上最強か決めようではないか!」
動けないCAがメモリを取り出し、CJと規格を同じくする腰のスロットへメモリを差した、
『ゾーン マキシマムドライブ』
直撃寸前、霞むCA、透過し地を抉るCJ、思わず振り返って、舌打ちと左指の鳴る音が同時だっだ。
『お互いマキシマムを放ちながらトドメを刺せなかった。互角というところか。やはり彼の本領は複数のメモリを適時適切に使いこなす事だ。ボク等にとってはじめて出会ったもっとも対等の相手。』
右腕は親指と人差し指を指紋を消すかのごとく擦っている。
「感心してる場合かよフィリップ!ヤツはどこだ、気配も感じねえ!」
『翔太郎、残念ながら彼の行き先は分かっている。』
「だったら行こうぜ、とっとと!」
『残念ながらと言ったよ。彼はボク等からゾーンのメモリも奪っていた。その時点でその記憶からボク等の素性を知ったはずだ。そしてボク等と同じく違う世界があるという事を認識したはずだ。同じ文字の羅列であっても、認識によってまるで違うものになる。それが地球の記憶であってもだ。彼は、ボク等の世界に飛んだ。ボクと同じようにゾーンメモリを使って。彼はボク等の風都を徹底的に破壊しようとするだろう。ボクが彼と同じく、なにもかも失うように。』
「落ち着いてる場合かよ!オレ達ゃ、メモリがなきゃ風都に戻れねえって事じゃねえか、街がぁ!」
右腕が左腕の手首を掴んだ。
『さあ翔太郎、ハードボイルダーをタービュラーに換装しよう、急ぐよ。』
6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その14
デスバニッシュ炸裂、
そこは探偵事務所向かいの15階層マンション屋上、探偵事務所とほぼ同じ方向から風都タワーの大風車の回転が見えている。そのさらに直上から仮面ライダーベルデが仮面ライダールナを脳天逆さ落とし、コンクリートを蜘蛛の巣状に突き刺した。
「ありがとう。」
既に同じ屋上にディエンド-夏海は立って突風を感じた。風都と言うだけあって高度が上がる程に風力は凄まじいものになる。ディエンドに指を立て合図を送ったベルデはそのまま無言で次元のカーテンへ。
「終わりとは思えないけど」
吹きすさぶ風の中、ゆっくりと間合いを詰めるディエンド、立てた銃口にすら緊張感がある。ルナは依然逆さで頭をコンクリートに突き刺したまま硬直している。人間の腕のストロークまで歩みを一旦止め、そこから銃口で突く。もしこれが門谷士ならば、問答無用で数発撃ち込んでいたろう。だがディエンド-夏海にはそこまで無抵抗の者に踏ん切れる程の度胸も想像性も無かった。全くである、感触がない、まるでそこにあるルナの肉体が存在しないかのように銃口が空を切る、まるで幻のように、
「幻を見せられるという事は、本物を見せない事もできるのよ~」
「!」
ただ闇雲に後ろだと思って振り返るとあの仮面ライダールナがタコ踊りをして自在に手足を伸ばしてバカにしている、ディエンドには少なくともそう見える、
乱射乱射乱射、
「クネクネェ~腰が踊るよヌルヌルゥ~」
骨格が無いかのように自在に肉体を歪曲させ、時には自ら肉体に穴を空けて弾丸を素通しさせるルナが肉薄、
「こないでキモい」
怯んだところへ腕1本を触手として伸ばしディエンドライバーを叩き落とす、そのまま片腕に絡んで両足を叩きつける形で圧し倒す、ルナが数本の触手からディエンドを引き込んで飛びつき、人体に戻って相手を重さで前転させて圧し倒し、腕を跨ぎ、十字固めに極める。ディエンド-夏海初のダメージはオカマからの腕挫十字固であった。
「ワタシ、実は女にはキビしいの。」
「銃・・・・」
完全に極められ、落としたディエンドライバーまで手が届かない、ディエンドの全ての攻撃と召喚はディエンドライバーに集約する、ルナは知ってか知らずかディエンドの全てを封じた事になる、喉の圧迫がディエンドの神経を寸断にかかる、失神してしまえば、そこでこのオカマ触手野郎のやりたい放題だ。
「ガキ、オレの顔汚した罰は受けてもらうぞ」
とここに来てルナの声色が野郎のそれになった、関西訛りがある、経歴は指詰め注意のルナだった。
「頭は、」
ディエンドが首を圧し絞められながら呻いた、
「なんじゃ」
「頭は、どうやっても、変形しないようね、」
たどたどしく、しかし声にはっきり気の強さが感じられる、
「なんじゃそりゃ」
ディエンド、腰裏に空いた手を回した、取り出すのは、先のカブトの世界でディエンドライバーと共に拾っていた、鉄甲状の白い、瞬間電圧5万ボルトの、『イクサナックル』、
「武器はまだあるんです!」
ナックルの狙う先、それはルナの顔面、一撃で失神させうる2つの孔が光を帯びる、
「なんじゃそりゃって言うとん、や!」
だがそのルナの左脚が伸びる、触手が腕を叩きつけ、ナックルが宙高く上がった。もし、対手がルナでなかったら間違いなく詰みだったろう。野太い半笑いが、いつもの裏返った冷笑に変わるルナ。
「う」
悶絶寸前の吐息をあげるディエンド、高く舞い上がったナックルは、やや前のめりの重心に振り回される形で宙をクルクルと回る、
「その首を引き裂いて、あ、げ、る」
「もう・・・・」
周囲の景色が薄ぼんやりとしていくディエンドの視界、動きのあるナックルの回転だけが多少区別できる、そのナックルの動きが止まった、宙で止まった、ディエンドの肉体から力が失せぐったりとする、
「なんですって!」
宙で止まった、いや何かが宙にあるナックルを掴んだ、
「おまえのようなヤツを在らしめた過ち、私が正すっ!」
掴んだ腕は白い陶磁器のようなスーツを纏っていた、声は女性、細くとも強い芯の声、『仮面ライダーイクサ』が自らのナックルを手に、ルナの頭側近に立っている。
「オカマの何が悪いの!」
ルナが気づいた時にはもう既に遅い、顔面に直付されたナックルの一撃が轟く、思わずディエンドから手を放すルナ、ルナの後頭部のコンクリートは蜘蛛の巣のように割れている、さらに一撃、ルナは必死に触手を伸ばしてイクサに絡みつこうとする、さらに一撃、メモリのエネルギーが飽和してブレイク、ルナが生身の野獣のような男の姿を晒す、だが男はさらに生身のまま固め技を極めようともがく、さらに一撃、さらに一撃、さらに一撃、
「ありがとう。」
ディエンドは首元を正しながら、立ち上がる。既に野獣のような屈強な男は四肢に力無く失神し、そしてイクサもまた立ち上がり、ナックルをベルトのバックルへと収めた。
「貴方を見て、女でも戦える事を知りました。」
ディエンドとイクサが掌を合わせ、互いに頷いた。イクサは薄ぼんやりした大気の中へ溶けるように消えた。
6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その13
包帯の女のサングラスが、今反射の翠で満ちている。それはクイーンのドームではない、スカルギャリーからのはちきれんばかりに漏れる光だった。
「待ったわ、私はずっとこれを待っていた。」
ギャリーのボディが圧倒する光に圧し負けて左右に展開、輝くプリズム・エクシア・グリッターよりさらに光量を増し、その皮膚に0と1の光が羅列する一人の青年の影、明らかにリュウと呼ばれる男ではないその青年に包帯の女は、アスファルトに倒れる娘を放置して、半ば衝動的にギャリーへ上った。
「おふくろ・・・・なぜだ」
包帯の女は最後にサイクロンのメモリをプリズムから抜き取って、ドライバーとともに息子に手渡した。
「それより来人、さあ、これをお使いなさい。」
「なぜ俺は、もっと一人になれないんだ」
ドライバーを丹田の位置に配すると自動的にベルトが巻かれ腰に定着、
「なにを言っているの来人」
息子が奇妙なのは目線を合わせないところからも明らかだ。だが包帯の女の狂喜はそれに気づこうとしなかった。
『サイクロン』
『アクセル』
右半身が草原を捲く大気の翠、左半身がその大気と激しく摩耗する紅、仮面ライダーサイクロンアクセル。
「リュウの肉体を使って、今や貴方は両方のメモリーと限りなく100%の適合率になる。そしてあのプリズムを装着する事で、」
言われるままCAは、設置された十字架を引き抜いて、斜めに背負う形で固定、そのまま軸だった部位を背から抜くと、
『プリズム』
ちょうど直刀状の得物になる。『プリズムセイバー』。CAがその刃を掌で一度撫で、その動きを目で追い、表裏を返して眺め、徐に隣の女の腹に突き入れた。
「なに、を」
機械的に引き抜くと鮮血が飛び、CAの右半身を染めた。剣を背に収めた掌で顔面の血を拭って眺めると、掌が母親の血が滴る程塗れていた。女は、震えながら辛うじてCAの身体にしがみついた。
「メモリに封じられている必要が無くなった。だから、運び役のアンタもお役御免という訳さ。喜べよ。息子の巣立ちの日だ。」
その時であった、
『ジョーカぁぁ!マキシマムドライブ』
「ライダーチョップっ」
耳に響く周波の高い破壊音、ギャリー周辺の光の膜が、一瞬で天頂まで縦に亀裂が走って、全周囲が一気に砕けた。亀裂の起点に立つのは仮面ライダージョーカー、その能力は人体の急所を見切り、物質の急所を見切り、そして勝敗の要衝を見切る。
「来たな。さっきのようにはいかん。」
包帯の女を振り払って、ギャリー上からかなぐり落とすCA、
「てめえ!」
落ちてきたのを人間と認め、慌てて落下を受け止めるジョーカー、黒幕の1人である事に顔を覗き込んで初めて驚く事になる。
うぉぉぉぉぉぉぉ、
CAが雄叫びをあげる、両の手をその身のセントラルパーテーションにあてがい、今、輝きの中でその幅を推し拡げていく、即ちその身が中央のクリスタル状の『クリスタルサーバー』を挟んで右に翠、左に紅、そしてその両複眼が海に鉛を沈めたそれのようなコバルトへ。『サイクロンアクセルエクストリーム』。
「まさか・・・・、自分の力だけで、」
包帯の女はその神々しいまでの光に、手を差し伸ばした。
「形が変わった、でもやる事は変わらねえ。」
2人をアスファルトへ寝かせ、賺さずスタッグを飛ばすジョーカー、
『ゾーン マキシマムドライブ』
CAXに向かって、上角直線の軌道を爆進するスタッグ、セイバーで反応できているCAX、直前、コバルトの視界から突如消失するスタッグ、振り下ろされたセイバーが空を切った、
「瞬間移動であろうと今のオレは見切る、」
ジョーカーは立ち上がり、利き腕の人差し指と親指をイジった。
「相棒、言う通りにしたぜ。」
ジョーカーの態度に危機感を覚えたCAXの頬に風がそよいだ、吹いてくる右方向を咄嗟に振り返りセイバーを切り返す、ギャリー右側面、その全てが蜃気楼のように揺れている、それはCAXが初めて見る事になる次元のカーテン、徐々に黒い影が迫ってくる、カーテンを潜ったそれを見たCAXは、驚愕せざるえなかった、
「ギャリー!?」
車上でもんどりうった、
ほぼ同質量の衝突だった、
左車線の無からパワースライドで図太い後輪をスカルギャリーに叩きつける、
スカルギャリー、そのまま歩道を横滑りし探偵事務所壁面へ激突、めり込んだ、
スカルギャリーは総6輪のカットスリック、だがそれは総8輪のブロック、ボディ周りも空力重視と剛性重視の相違があり、何より後方に伸びる14連エグゾーストとリボルハンガーとが違う。
「来たか、リボルギャリー、」
ジョーカー、翔太郎の世界において使用されるギャリーが今、そのボディを左右に展開、沸き立った砂埃をかき消していく、
「あれは、・・・・・、そう、あの子が・・・」
半死の包帯の女が降り立つ少年を見て愕然とする、
「そうか来たか兄弟。」
頭を振ったCAの目撃した少年の手には、先の翔太郎のスタッグフォンと、ゾーンメモリが握られていた。
「相棒。おまえが言うもう1本のメモリは今この敵の女が握っている。かなり重体だ。」
少年の出で立ちは、やや小さめのストライプのシャツに体格を隠す程ダブついた脚まで届く翠のパーカー、指先の出たグローブ、ぎこちない表情、本気で周囲を見ていない目つき、だが迎えたジョーカーはその男を指して相棒とまで呼び、作動しないダブルドライバーと2本のメモリを手渡した。
「翔太郎、しばらくあの男を食い止めてくれたまえ、ボクがここでこうして立つ限り、あの男はボクを死にものぐるいで消しにかかるだろう。」
「頼むぜ、フィリップ。」
魔少年と言われるフィリップが今、翔太郎の世界から次元の壁を越えて、スカルの世界の風を肌で感じた。
6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その12
この世の果てにもっとも安息する場所があるのなら、それは今園咲来人という青年の立つ一面空白の『星の本棚』ではないだろうか。空白の空と空白の大地、果てしなく空白が拡がる。
「やはり一人はいい、一人になれるのなら、どんなことでもする。」
あのネクロオーバー達と同じ黒のジャケットを着て、頭髪にエメラルドのラメを一筋入れた出で立ちの青年の彼は、眼を閉じ、この世界を堪能していた。だがその安息はすぐにかき乱される事になる。
「今回の謎はクレイドールメモリの所在だった。君は知らないだろうが、ボクの世界ではあのメモリの事を検索しようとするとカタマルからね、どうしようも無かった。だから君に主導権を与えてしまった。というより、君に答えを見せてもらう、それが唯一謎の答えにたどり着く正解だった。君の肉体についてもあの3つのメモリが関わってボクではどうしようもない。だが収穫だった。少し知らない事の沿革が見えたんだからね。その点だけは感謝する。」
青年の彼の目の前に現れたのは、分厚い皮で覆われた一冊の本を抱えた十代の少年の彼だった。
「誰だ?」
「僕はフィリップ、はじめまして。いや失敬、この姿ではないが一度君と対面している。」
聖域に立つ青年の彼と少年の彼、
「なぜここにいる」
「愚問だね。君が一番分かっているはずだ。ここに来れる人間という意味を。」
「俺と同じ、データ人間。そうか、おまえがあのもう1人のWの片割れか。」
「遅いね。同じデータ人間として恥ずかしいよ。せっかく同じ人間である君に興味を持って来たのに。ボクはいったいどういう感情を抱くだろうとね。でも興醒めだ。」
「この世の全てを知る者は2人要らない。おまえにはいずれ消えて貰う。」
「いや、君とボクでは見ている世界が違う。」
少年の彼が諸手を挙げると、どこまでも空白の世界に数万という本棚が一斉に羅列する、横も奥も高さも見果てぬが、全ての本棚が同じ等間隔で整列した。
「君は今ボクが見えている本棚の100分の1も見えていないだろう。ボクは今回程思った事はない。知る事と知らない事の認識の差を。たったそれだけでここまで世界が違う。」
「ハッタリでオレを挑発しているのか、このクソガキ。」
「ジョーカーのメモリも、ボクは閲覧可能だ。」
青年の彼の顔が苦痛を耐えるように歪んだ。少年の彼の顔はその顔を見計らっている。
「今すぐここで消してやる。」
少年の彼は、何かを得心した。
「だから君に聞いておきたかった。なぜ僕は君を検索するとカタマルのか。」
「知るか!」
青年の彼が手を伸ばし掴もうとする、
咄嗟に背後へ飛ぶ少年の彼、
「君は、ボクに絶対近づく事はできない。」
そうして、少年の影が薄く透けていく、
「オレを挑発しているつもりか!」
「その通り。そうそう、君は1人がいいらしいが、本当に1人でいいなら、他人に質問を投げかける事はない。他人を宛てにしていないはずだからね。」
青年の彼の腕が少年の彼の胸座を掴んだ、いや掴んだその手が素通りして、本棚の一つに当たり、空白にいくつものハードカバーを散乱してしまう。
少年の彼は、既にその永遠に中身の無い世界から消えていた。
「生意気なガキめっ!」
園咲来人は、本棚に拳を叩きつけた。
6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その11
光夏海は、未だドライバーを握り続ける指の第一関節をもう1つの手で剥がすように1本1本曲げて、最後はドライバーを地面に落とした。ドライバーを放した方が右腕の震えが酷くなった。
「私は、本当はどうすればいいんですか、貴方は本当は私に何をやらせたいんですか、教えてくたざい・・・・」
彼女はそうとしか言えない自分に唇を噛み締め、地面に両膝をつけて、必死に倒れるナルミ荘吉の顔を拭った。
「歯を食いしばって、おまえの、欲しいものの名を、叫べ・・・・」
意識が事切れようとする寸前、カッと目を見開いて再び悶え苦しむ、それをずっと、2つのマキシマムを食らった荘吉は繰り返していた。
夏海は、突き放された思いがした。苦しいのはこの男の方であり、自分ではない。その理屈は分かっていた。だがあふれ出る濁った感情は、自分でもどうする事もできない。
「でも、私は・・・・」
「オレは、この街で最初のドーパントを、スカルになって討った。」
ナルミ荘吉の物語である。
荘吉がこの街で探偵をする傍らに絶えず立つ男がいた。名を松井誠一郎、荘吉程でないにしても浅黒く骨太で、それでいてどこか潔癖な程の清潔感が漂う男だった。2人は時の流れが風車に吸い上げられるようなこの街の尻ぬぐいを、軽妙な身のこなしで次々と解決していき、住人はナルミ探偵事務所の名を拠り所に、この特別自治都市をたくましく営んでいく。
だが街の住民の記憶に残るワードは、ナルミであって、ナルミと松井ではなかった。松井のコンプレックスは荘吉の背を間近で視るが故に増大し、1つの些細なきっかけがその自浄を堰き止めた。コンプレックスはいつしか世間全てへの怨みとなり、ある1つのチートな手段が彼の暗闇に一条の光を差した。
はじめてこの世界にドーパントが誕生した。
ドーパントとは即ちナルミ荘吉を育んだこの街のツケかもしれない。
「あいつの想いも、差し出したコーヒーのレシピも受け取ってやれなかった。オレはだから、決断しあいつを殺した。その決断に後悔は無かった。だが、本当はそうじゃなかった。あの若造のまっすぐな目を見て、オレはただ後悔に背を向けていただけなんだと思えるようになった。所詮ハードボイルドなんて男の甘えだってな・・・・・、あいつには言うな。」
荘吉の手が落ちている銃のバレルを握り、夏海の手にそのグリップをコンと打った。
「歯を食いしばればいいんですか・・・」
手に取る夏海の手、
「自分の欲しいものは、自分が決断し、そして掴んだ罪を黙って数えろ。」
荘吉の大きな手が、夏海の手をグリップごと包んで、その震えを抑えつけた。
「今助けてやっからな!」
そこへあの翔太郎が脚の裾を濡らしてやってきた。今包帯の女が落としたマグナムを拾い上げた。
「無事だったんですね」
夏海は、力なく腕を落とした荘吉を見続けている。
「光夏海、あのドームはなんだ?」
翔太郎の指先が忙しなく動いている。
「あの中で敵が、」
翔太郎のフィンガースナップが、夏海の言葉を制止した。
「あそこか、フィリップの言ってた肉体の再生ってやつか。あそこにメモリがあるのか。」
『ジョーカぁ!』
ベルトを巻き、白のソフトフェルトを脱いで、円盤投げの要領で夏海へ投擲、
「おやっさんにずっと、話しかけててくれ。オりゃまだ、その帽子は早えってな。」
ベルトにメモリを差し、再び黒き衣を纏う翔太郎は、手首を一捻りした。
そこにちょうど光の天幕から透けて出てくる月の光のライダーがいた。
「なに!?アンタ、アタシの仲間どうしたの?その娘といい、キッッーー!!」
裏声で激昂するルナが、動く度に乱反射するその両腕を上げて、思い切り振り下げた。
「イッテラッーャーーーイ!」
振り下ろした腕から鱗粉のように光が舞って、粒の一つ一つが人の形となり、無数の黒い影が湧き出てくる。それは先に園咲邸に現れた肋の顔にスーツ上下の『マスカレイド』そのものだった。
「ワラワラ引き連れてやんのかよ!」
ジョーカーは一瞬で見渡す限り埋まったマスカレイド軍団が、ルナの幻影の力の産物である事を知らない。
左から来るマスカレイドを裏拳一つで凌ぎ、右から来るマスカレイドを膝の捻り一つで蹴り倒す。蹴ったままの慣性を保って背後のマスカレイドを伐つ、さらに反動で前から群がるマスカレイド2体を続けざまワンツー。
「キィーーー!」
だが次々繰り出すマスカレイドの幻覚の波に、本体のルナとの間合いを詰められないジョーカーは、刻々と疲労だけを蓄積していく。
光夏海は、その光景を見ながら立ち上がって、その長い髪をヘアゴムで1本に束ねた。
「翔太郎さん、早くドームの方へ!」
「光夏海!?言われなくてもやってる!」
「そいつは、私が止めます。」
「なに」
「私が、止めてみせます!」
「なに!?」
夏海が、『ディエンド』のカードを手にした。
「士クン、アナタを、私の前に引きずり出してやる」
ディエンドライバーは左持ち、内側に寝かせ、スロットを開ける、そのまま『DIEND』のロゴが入ったカードを装填、天に銃口を向け、澄んだ眼でルナを睨んだ。
「変身」
『KAMEN RIDE DIEND』
銃口から3つの光が発射、3原色を象徴するシンボルが縦横に駆け巡って夏海の肢体と重なる、黒を基調とした細身の四肢にやや碇肩、そして極めて締まったヒップのスーツ、顔面に填り込む10のスリット、シアンカラーに彩られた『仮面ライダーディエンド』が再誕する。
「おやっさんを頼むって」
唖然としているのはむしろジョーカーの方。
「荘吉さんもこちらでなんとかします。」
『KAMEN RIDE RIOTROOPER』
既にディエンドは次なるカードを装填、撃ち出されたシンボルが十数体のライダーを空虚から実体化する。
「そうか、あのライダーなら。」
ジョーカーが呑み込んで、数十の敵を突破しにかかる。
ディエンドの召還したライダー、ライオトルーパーは1枚で幾体も呼び出して組織的にで行動し、今もディエンドの前に魚鱗で整頓、その数を眼前にしたマスカレイド全てがその褐色のボディに一瞬凝固した。ディエンドは後尾のライオ一体の左掌と自分の右掌を合わせ、
「お願いします」
とだけ口にした。大きく肯いたライオトルーパー軍団が、一斉に得物のナイフを手にし、そして一斉にマスカレイドに突入を開始。カッパーメタルとブラックが入り交じるそれは乱戦だった。
『KAMEN RIDE ANOTHERAGITO』
再度召還するのはアギトにしてアギトにあらざる者、やはり手と手を合わせて、
「お願いします」
「ふむ!」
アナザーアギトは空手のような気合いを込め大きく肯き、もはや虫の息の荘吉を肩で担いでビリヤードの看板の奥へ一跳躍した。
「アタシの顔を傷つけた罪は重いわ重いわっ、アンタなんかフーンっだ!!」
一体をようやく倒しても体力が続かずもう一体に敗れ、その背後から伐った者が流れ弾に頭を射貫かれる、そんな土煙が舞うライオトルーパーとマスカレイドの乱闘を差し挟んで、ディエンドとルナが立ち尽くし対峙する形になる。召喚されたどの一体も両者にまで攻撃が及ぶに至らない。
ルナは、圧倒的に増えた敵に対してさらに幻影を増員し、ジョーカーの足止めを忘れず、ライオトルーパーを数で圧倒していく。
だが、そんな風景を眺めるディエンドにはゆとりがあった。
「敵はあの数を操っている間、動けない。」
『KAMEN RIDE BELDE』
「お願いします」
召還した全身薄緑の『仮面ライダーベルデ』が大きく肯き、自らのバイザーにカードを装填、
『ファイナルベント』
突如街灯上から色がにじむように浮き出てくる『バイオグリーザ』、ベルデ跳躍、跳躍するその両足にグリーザの長い舌を延ばして絡め、ベルデを振り子のようにぶら下げる、その振り切った先はルナ、上下逆に抱きつくベルデ、両者をすくい上げるように回して、最上段に達したところで投擲、
「シックスナイィィィィ」
ベルデに抱きつかれたままのルナは、事務所からはるか離れた15階層あるマンション屋上へ。見えなくなったディエンドの耳に、まだそのカバを絞め殺したような絶叫が聞こえた。
「さあ!早く」
途端統制が取れなくなったマスカレイドがライオトルーパーの集団戦法に駆逐され、包囲され、殲滅していく。それはジョーカーがフリーになる事と直結する。
「見直したぜ、女の子」
指でサインするジョーカーを既に見ていないディエンドはそのままルナを追って跳躍した。
6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その10
クイーンの天球がスカルギャリーを覆った内側、ギャリーはボディカウルを左右に展開している。台車の上では既に再変身したCAがその片腕で倒れる姉、アキコの頬を、ルナ、包帯の女が囲む中で撫で続けている。そのアキコには、いくつも配線が繋がれ、ギャリーに設置された『プリズム・エクシア・グリッダー』に接続され、翠のロゴの羅列がアキコの体躯から配線を伝って蓄積されていく。
「サルベージはもうすぐ終わる。そうだな、肉体の年齢は30、身体的な絶頂期に設定する。それでいいか、おふくろ。」
そうしてアキコの光がすべてプリズムの内に吸い上げられ、スロットの一つが光彩を放った。
「映像通りの理想の貴方におなりなさい。精製が完了した、来人。」
『クレイドール マキシマムドライブ』
包帯の女はプリズムのスロットへ立て続けにメモリを差し込んでいく。
『タブー マキシマムドライブ』
『テラー マキシマムドライブ』
「ルナ、この子をギャリーの外へ。」
「私オンナ触んのはもうまっぴらだわ!」
「貴方の命は私が。」
「・・・、その代わり外の女、私のスキにするわっ」
支離滅裂に言いながら、腕だけを蛇がうねるように伸ばして、ルナは未だ気絶するアキコに巻き付け抱えた。
「私の方がおっぱい大きいわ、私の方が、おっぱい大きいわ!」
ギャリーから飛び降り、アキコを乱暴に地に投げ置いたルナは、自ら張った壁を透過して外へ。
「ジェンダーの怨みは深くそしてバカバカしい。リュウ、貴方もこの街への深い怨みを晴らす時が来たわ。」
「さあ、悪魔の儀式の始まりだ。」
高揚するCAのバックルから2本同時にメモリを引き抜く包帯の女、CAはたちまち除装され中から青ざめた青年の顔が露呈する。そんな立つのもやっとの男を目に止めず、最後に空いたスロットへメモリを差す包帯の女だった。
『サイクロン マキシマムドライブ』
全てのメモリを差し込んだプリズムの十字架が七色の光を放って、降車しながら見つめる包帯の女のサングラスに反射する。
『マキシマムドライブ マキシマムドライブ マシキマムドライブ・・・』
青年一人残してボディカウルが閉じ、スカルギャリーのフロントガラスから2条の光が放たれ、クイーンの壁に乱反射して天球内外が文字列の光彩で満ちた。
「ようやく、これであの男から奪われたものを取り戻す事ができる。」
女の声が上ずっていた。
6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その9
「その仮面をひっぺがして、アンタの泣きっ面見てあげる!」
天空高く舞い上がる赤と黒のライダー、
「放せ」
ジョーカーの肘がヒートの鳩尾に入り、手の弛んだところ無理に引き離す、共に高々度から落下、ジョーカーは高層ビルの壁に5指を突き入れコンクリートに縦縞のラインを引きながら摩擦し失速、地面スレスレまで至ってビルから蹴り離れ、ちょうど探偵所裏の一級河川橋の上へ着地、だがそのジョーカーに、ラリアートを構え右肘から噴流を放って突撃するヒート、諸共名ばかりの細い一級河川へ落下、水位は靴底が浸る程度、ヒートは衝撃を足膝腰で緩和し着地、ジョーカーは受け身の要領で左背に衝撃を全て受ける落下、
「フフフ」
飛沫を立てながら姿勢を正そうとするジョーカーのみっともない姿を見やって、精神にゆとりが生まれるヒート、だが振り返ってみればその瞬間こそがヒートにとっての最後のチャンスだったと言える、
「さぁイこうか、ファイアガール」
中腰でなんとか起き上がり、恥を鼻下を擦って誤魔化すジョーカーはクラウチングスタートで突進、
両者の足技の応酬、脅威の足技を誇るあのヒートが水場に足を取られ迎撃だけに手数が抑えられる、ジョーカーも全く同じ条件ながら逆に手数が増えていくのは、そのメモリが特に身体能力の強化に特化し、水場に秒単位で適応、ツカんでいるからだ。
その内足だけでなく、腕を顔面から腹へたて続けにヒットさせヒートを推し倒す、
「ガキが調子乗って」
一旦距離を置いて起立の姿勢に正すヒート、ジョーカー渾身の右回し蹴りを空中を大の字の側転で躱し後背を取る、ジョーカーが振り返る暇を与えないタイミング、ジョーカーが下に重心を集中させるのを折り込んだ上で足を祓いに飛沫を蒸散させた回し蹴り、
「調子に乗るさ!」
だがジョーカーの鋭利な感覚は一跳躍で対手を躱す、
逆に中腰から起き上がり防御する前のヒートの顔面に蹴りを2発、
怯みながらも反撃に移行、足を繰り出すヒート、
水蒸気を発散させながら繰り出されるこの攻撃を紙一重、腰の一捻り、首の一捻りで躱し続けるジョーカー、
その鋭敏な感覚で既にヒートの動きを完全に見切りつつあるジョーカー、敢えてヒート渾身の蹴りを両手ガードで受け止めつつ密着、腕が伸びきらない互いの間合いからヒートの手刀を受け掴み、掴んだままで腹部へ蹴りを3発、次いで顔面に裏拳を1発、
「坊や!」
怯みながらもジョーカーの蹴りをまたしても大の字に宙を回って反対に踊り出るヒート、
「女!」
回り込まれながらなお手を出すジョーカー、捌くヒートはしかしその時、脇に受けた計4発の攻撃に、身体機能が悲鳴を上げている事に気づかない。ネクロオーバーの性というしかない。ヒート、渾身のつもりの反撃の蹴りがジョーカーの片手で捌かれ、次いで食らった顔面の同じところへの5発めが入った時、意識が一瞬途切れ、もつれた足で後退り、頭を振った。
「アンタなんかに、ワタシの気持ちがかき乱されてたまるか!!」
ヒート、バックルからメモリを取り出し、右腰のスロットへ差す、
『ヒート マキシマムドライブ』
全身から煙が立つ、次いで赤色に輝く、浸かった河川の僅かな水が蒸気となって体積を数百倍にも増大、互いの間に濃霧を発生させ、そして互いの姿が視認できなくなる、
「これで決まりだ」
ジョーカーも全く同じモーションでメモリを右腰に差す、
『ジョーカぁ マキシマムドライブ』
見えない対手に向かって駆け出すジョーカー、その右足首に紫炎が灯る、
ジョーカー眼前の霧が渦になる、渦になって蒸気が外周へ逃げるように拡散、ヒートの女の圧倒的熱量が蒸気を弾いている、うっすらと互いが互いの影を認めながら、そして互いに突進、
「ヒートマシンガンドライブ!!」
跳躍し、その右足裏から爆炎を吐きながらのそれは右飛び膝蹴り、
「ライダーキック!」
ジョーカーも又ヒートと全く水平に蹴撃に構える、
推進を伴ったヒートの右膝と、キレのあるジョーカーの脚がすれ違う、
ややジョーカーが上手、
互いの腰が捻られる、
リーチはジョーカーがある、
ヒートは既に顔面をブロック、
だが受け止めたその紫の光の威力はヒートのカウンターを加味し、両腕を弾いてヒート顔面へインパクト、
弾き返されたヒートが蒸気を発しながら水辺を滑走、
「・・・・ァン」
弱々しい喘ぎがヒートの女の最期だった、
爆破、
背を向けてその赤熱輻射の直視を避けるジョーカーの背筋は、何かを入れたように凛としていた。
「待ってろおやっさん、すぐいく。」
右手首にスナップを効かせるジョーカーに、小型の物体が周回する。それは翔太郎のスタッグフォン。
「すまねえフィリップ、Wをブレイクされちまった。」
ブレイクされてその長い黒髪を濡らしながらのたうち回って悶絶する女を見やり、ジョーカーも又除装、スタッグフォンのコールに応じた。
『クレイドールのメモリを人体の中に記憶させているとはね。翔太郎、さっきも言ったが実に君らしい失敗だった。敵の意図を知りながらそれでもドーパントを放置できなかった。ナルミ荘吉への手前もあったんだろうが』
「うるせえ」
『だがその一番の理由は、ドーパントもまた風都の住民だからだ。敵はそう思っていないだろうが、君に究極の選択を迫った。実に効果的な足止めだったよ。』
「説教なら後で聞く」
『そう、今ボクが連絡を取ったのは他でもない。ドライバーとメモリ、このままではボクらは変身できない。だが極めて危険だが、戻す方法が先程検索して1つある事が分かった。多少固まったけどね。ドライバーは本来マキシマムから装着者を保護するブレーカーの役割を』
「わかった、わかった。フィリップ、要点だけ言ってくれ。」
『手に入れて欲しいメモリが2つある。それから、』
「それからどうする?頼むぜ頭脳担当。」
『それからこれは、今ボクの目の前にいる亜樹ちゃんからの言伝だ。あの時、君がその世界のクイーンとエリザベスを放置して逃げていたら、翔太郎と永久に絶交していた、と。』
絶句する翔太郎だった。
「・・・・そっちかよ」
6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その8
私は、何とか脚の痺れを我慢して立ち上がった。
なんでか、カッコツケル君が今黒い姿になってアキちゃんを連れ去った敵と戦いを始めた。カッコイイ氏がさっき倒されるのは見た。そこから離れる形で3人の色違いのライダーが戦って、
「危ない」
今包帯の透明女が失神しているカッコイイ氏に近づいているのに、カッコイイ君は気づいてない。
「無様ね荘吉、あんな子を庇って。あの時、松井誠一郎を殺した時の、痺れるほどの非情な貴方はどこへいったの?私が取り付く島のない程のトゲトゲしかったあの時の貴方を見て、私は貴方の傍にいるのが頼もしくもあったけど、恐ろしくもなった。でも残念だわ。あの鋭利な刃物のような貴方でいて欲しかったのに。こんな無様な姿になって。今楽にしてあげる。」
透明の女が銃を取り出した。そしてメモリを1つ差し込んだ。
『テラー マキシマムドライブ』
私は眼を覆った。女は、カッコイイ氏に無造作に銃を撃ち放った。微動だにしなかったカッコイイ氏がか細い呻きを上げて身悶えしはじめた。なんて酷い事をする女だ。酷い女はそのままカッコイイ氏に何も言う事もなく背を向けた。
「ひどい」
私は足を引きずってカッコイイ氏に歩み寄った。苦しいのに無理矢理唇を噛んで、それでも汗が噴いて震えるのだけはどうしようもなく止められないみたい。
「透明女、そこを動くな!」
カッコツケル君が女を止めている間、とりあえずここ何日か着替えてない服の袖で汗だけは拭った。
「俺はいい・・・フミネを止めろ・・・・」
魘されているように私に言ってくる、私のような無力な人間にどうすることもできないじゃない、
「私に、なにができるんですか」
「自分が欲しいなら」
私の肩に震えた手を乗せようとして、滑って力無く垂れる。たぶん本人も意識して指したわけじゃないと思う、でも私はその指の先にあの海東大樹の持っていた銃、これから長く付き合っていく事になる『ディエンドライバー』が転がっているのが見えた。たぶん私が探偵事務所に置いていたものが、あの大きなガイコツ車が飛び出してきた時、いっしょに投げ出されたんだと思う。
「でも私は、」
いつも士クンやあのカッコツケル君に守ってもらってきた、
「自分が決断しろ、」
自分が苦しいのに、白目を剥いて苦しんでいるのに、私に、笑いかけてくれている。私は無我夢中で、ドライバーを拾った。
『ゾーン マキシマムドライブ』
あの女が、赤いライダーに羽交い締めされたカッコツケル君に狙いを定めてさっきの銃を構えている、私は両腕で構えて、当たらないように祈りながら目を瞑って撃った、銃声なんてメじゃないくらい耳から背骨に響く震動がした、目をあけると土埃が入って痛くてまともに周りが見られなくなった、カッコツケル君がいなくなってる、あの包帯の女が銃を落としたのはなんとか見えた。
「何?この後におよんで」
「私に撃たせないでください!」
銃を放したかった、でも放したら、たぶん私殺される、夢中で撃った、
「未知にも程がある、その銃もいったい」
埃が収まって、私は目を真っ赤に腫らしながらなんとか開けた、
「私に撃たせないでって!」
私は闇雲に銃を撃ち放った、でもその弾はあの女に届く前に弾かれた、どこからともなくウネウネとしたトイレでしか見ないような色艶の気持ち悪い腕が伸びて、先っぽに掌があって小指立てて弾の全てを弾いた、弾いてもう1本の腕が女を巻き付けて宙を浮かせて引っ張っていく、引っ張ったのはやっぱりカッコツケル君と色違いのライダーだ、その行く先はあのガイコツ車、ライダーの足元には私の知らない男とアキちゃんが寝そべっている。私は何度も何度も撃った。でもその蔓みたいな腕に当てても、そのトイレ色な体や顔面に当てても相手のライダーはビクともしない。
「あいつ、今顔撃ったわ、私の顔撃ったわ、あのアマ乙女の命を、ぶっ殺す!!」
と完全に無理矢理喉締めてる裏声でトイレ色のライダーが喚いている。
「そんな事より、この場で来人の再生をする、これを差しなさい。」
女は、トイレライダーにメモリを1本渡した、
『クイーン マキシマムドライブ』
トイレが腰にメモリを差すと、ビカビカ光って全身から朧気な膜をドームの形に拡げていく、その亀の甲羅のような透明な膜は女とライダーどころか二人の立つガイコツ車のボディも全て包んでいく。アキちゃんも中だ。
「どうして、私は」
いっぱいディエンドライバーを撃ち込んだ。でもその全てが虚しく光の壁に弾かれていく。撃ち疲れて、爪の間に油臭い黒ズミが溜まっているのに気づいて、止めた。
「私には、無理です。」
息の乱れが全然収まらなかった。
ドームは光輝いて、中はもう見えない。
6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その7
「おわりだっ」
だがその拳が阻まれる、眼に光の無い翔太郎の、しかし片手が受け止めている、いや、翔太郎の帽子が受け止めている、
「この帽子は砕けねえ、」CAを睨んだ翔太郎の目はいつのまにか生気が漲っていた。「おめえは、おやっさんに絶対勝てねえ!」
動きの止まったCAにすかさず飛来する荘吉のスタッグフォン、急降下してCAの胸ををスレスレ、足元寸前でUターン、
「バカな」
CAの足元を落下するダブルドライバー、外れる2本のメモリ、CAのスーツが瞬間光の粉末となって拡散、中から翔太郎がまだ逢った事の無い男の顔が現れる。
ぐぁ、
そこへ翔太郎のスタッグフォンが男の眉間を突く、そうして大きく円を描いて翔太郎の胸を横切り、拍子に翔太郎の足元へ何かを落としていく、帽子をヒト吹き、被り直し翔太郎は足元のそれを拾う、掌でマジマジと凝視する翔太郎だった。
「やらせてんのはフィリップか」
立ち尽くす翔太郎に2人の影が素早く取り囲む、
「アンタまたまたウザったいね」
「ぉりゃたぁっっ!」
それはWと全く同じ容姿のライダー2人、炎のヒート鋼のメタルが翔太郎を挟み込んだ、
「色男パラダイス!!」
そうして黄金の腕が伸びて、落ちている2つのメモリと倒れる男を掬い上げ、スカルギャリーまで引きずり込む。ギャリーには既に捕らえられたアキコが気絶し抱えられている。その抱え立つのも又、翔太郎と同じライダー。
「絶対、助ける、2人共、切り札は、このオレの手にあんだからな!」
翔太郎、右手には荘吉から貰ったロストドライバーを、左掌には包むようにメモリを掴んでいる。
『ジョーカーぁ!』
キーメモリはおよそライダーを含むドーパントに対して決定的に優位な1本だが、そのマキシマムは、メモリを強制着脱させる事は出来ても、ブレイクするに至らない。
腰にドライバーをあてると自動的にベルトが巻かれて固定、ジョーカーメモリを装填、決意を右拳に漲らせ、
「変身」
左腕でスロットを倒す、シャウトが再びメモリの記憶を叫び、同時にバックルから塵のように光が拡散して翔太郎の肉体に蒸着していく。
「おまえは!?」
「ナニモン!」
左半分が切り札を隠す漆黒、そして右半分もまた切り札を隠す漆黒のボディに染められたそれこそが、
「仮面ライダー」
左手首を小気味良く捻るのが翔太郎のサイン、
「ジョーカー。」
銀と赤が黒を挟んで、3人のライダーが居並んだ。
「あんたってホント腹が立つ」
「ぶっつぶしてやる」
前後から歩調を合わせて突撃する二人のライダー、
「見える、はっきりとな」
ジョーカー、自らメタルの方へ間合いを詰め、突き込まれるロッドを神懸かり的に避け、相手の首筋に肘打ち、後方からヒートがチャージをかける、それは両足から熱波を発したブーストダッシュ、あまりの推進力はメタルごとジョーカーの足を浮かせ、事務所にブラ下がったビリヤードの看板に3者もろとも激突、歩道に落下、最初に起き上がったのは屈強なメタル、それに絡まるようにジョーカー、脳震盪を起こしたヒートはまだ失神している。敢えて密着したままショートに打ち込み続けるジョーカー、振り払うようにロッドを大きく回すメタル、そのままジョーカーに突き込む、ジョーカー背後にはヒートも復活して再び突っ込んでくる、
「手に取るように」
だがしかしそのロッドを錐揉み1つで躱すジョーカー、ジョーカーの躱したロッドの先端はさらに先、ヒートの眉間を直撃、怯んだヒートにさらに追い打ち裏拳を首からやや耳裏に伐つジョーカー、再び失神して倒れ離れるヒート、
「いやぁぁぁ」
逆サイドのメタル、隙を見て全身を一回転ロッドを薙ぐ、咄嗟に両肘でブロックするも、ロッドの薙ぎに振り回され事務所の壁を激突するジョーカー、背が地に着いた状態でロッドの突端を食らう、左右に転がりながら致命打を避ける、転がりながら反撃に手足を出すもそのことごとくをロッドで捌かれ封じられる、いつのまにか一方的に胸から腹に食らってしまっているジョーカー、鳩尾に食らい、
「うぐ」
思わず呻きを上げた、あるいはその一撃こそが死活を分けた、機を見たメタル、腰から上の全身を連動させて渾身の突き、爆砕音が轟く、メタルの顔面をアスファルトの欠片が擦る、だがジョーカー、またしても紙一重で突端を躱した、地面深くロッドが刺さって容易に抜けない、
「おりゃ」
それは厄介なメタルのロッドがついに止まった事を意味する、すかさず蹴りをメタル顔面へ、怯んだが後退るだけでヒートのように意識を途切れさせる事はない、強靱に鍛え込まれた闘士だった。
「いくぜウルトラマン」
「ライダーぁぁぁ!」
メタルは一度だけ倒れるヒートを見やり、意を決してバックルからメモリを取り出しスロットへ、
『メタル マキシマムドライブ』
鋼色に光る全身の筋肉という筋肉が充実、両腕を碇に構え、脈打って伝わり右肩に全てが集中し、肩アーマーが千切れた。
「メタルデラシウムぅっっっ」
右肩を突き出してのそれはショルダーチャージ、
「勝負だ」
ジョーカー、刺さったロッドを支えに立ち上がり、即座にメモリを腰のスロットへ。
『ジョーカーぁ マキシマムドライブ』
握った右拳に紫炎が灯る、
「ライダーパンチ」
メタルの突進、左半身で待ちかまえるジョーカー、メタルの肩が衝撃を伴って直撃する寸前、左足バックステップの紙一重で躱すジョーカー、バックステップから腰の捻りを伴って紫炎の右拳がメタルの下顎をカウンター、すれ違いそのまま熱帯魚専門店前電柱にその身を激突させるメタル、だが平然と起き上がり、振り返り、五体満足に動くメタルのしかし首が60度下へねじ曲がっていた。
「まだ、まだ、」
スーツが除装され、その身を晒す剛三という男の顔はスキっ歯に愛嬌のある微笑みだった、微笑みながら、白目を剥いて卒倒した。
「透明女、そこを動くな!」
ジョーカーの眼に止まったのは、倒れる荘吉にすり寄る血まみれの夏海と、その側近く、落ちていたメモリのいくつかを回収している包帯の女。
「キーをブレイクするとはね。この世界の人間全てをドーパントにすれば、その力を剥奪し、メモリーを精製する来人だけが全てを支配する事ができる。だけど来人が完全な肉体を得れば、キーなど問題無くなる。」
「動くなよ!」
CAか彼女を抑えれば全てが決する。ジョーカーにもそれは理解できた。
だが包帯の女は、トリガーマグナムのリペイントに拾ったメモリを込め構え余裕で迎え撃たんとする。
『ゾーン マキシマムドライブ』
包帯の女にしてみれば、得体の知れない敵を一旦遠ざけるだけで事足りる選択だった。しかし、結局はそのトリガーを引く事はなかった。
「よくもゴウゾウをやったね!」
「おめ」
包帯の女に右手を振り上げ手首のスナップを効かせるジョーカーのその背後から、羽交い締めする熱き両腕があった。ジョーカーとボディカラー以外寸分違わぬヒートの女が、ジョーカーを拘束したまま跳躍、いや跳躍どころか両足から噴炎を迸らせるそれは飛翔だった。
6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その6
スカル、ナルミ荘吉が計13体のドーパントを処理しスカルボイルダーに跨って事務所に帰ってきた時には、既にWはCAに討たれ、アキコも包帯の女に拉致された後だった。スカルの眼前のギャリーの影に入る形でCAが見え隠れし、その先に項垂れる翔太郎がいる。アキコと包帯の女、複数のライダーはそのさらに先の路上にいる。
「あのハナタレ坊主のせいでまんまと敵の術中にハマった。しかしあいつのおかげで、敵の大元が出張ってきた。アキコのベビー服かなにかに縫い付けているのかと思っていたが、まさかそんな事になってようとはな。今全てを終わらせるぞ、アキコ。」
スカル、上座したままバックルからメモリを抜いて腰に装填、
『スカル マキシマムドライブ』
スカル、スロットルを吹かして向かう先は敵ライダー、翠と紅のサイクロンアクセル、ボイルダーのカウルにスカルの紫炎が覆う、
「来たか、」
翔太郎へのトドメを踏みとどまって、ギャリーを飛び越え上角50度からのボイルダーの降下を直視するCA、振り返ってそのままメモリを腰のスロットへ、
『キー マキシマムドライブ』
「貰う」
スカル、クラッチを放した腕を水平に保つ、
「勝利の鍵は、常にオレの手にある」
CA、左腕手刀で突きの体勢、
すれ違う両者、
すれ違い様CA首にラリアット直撃、スカル胸部にCA手刀が刺さる、
ボイルダーからスカルの肉体が宙を浮き、ボイルダーは慣性のまま地に傷をつけながら転倒、スカルボディが蒸発して荘吉の白いスーツが覗かせたところでアスファルトに一回転受け身を取る、
「大したヤツだ、」
宙にあってスカルメモリが射出し、CAの足元まで転がった、転倒し受け身を取った段階でドライバーが外れ、そのまま二転した反動で立ち上がる、
「おやっさん!」
翔太郎は思わず駆け寄った。全身白ずくめの出で立ちで立ち上がった荘吉の一点、鮮血に染められた右脛が視界に入って咄嗟に動いていた。
「若造、てめえのケツを拭えないなら、とっとと消えろ。」
荘吉は腰からスタッグフォンを取り出している。
「逃げるしかねえ、オレもアンタももう変身できねえんだ、」
と言い終わらない内に、荘吉が振り返った。
「バカヤロウ」
それは鉄拳、翔太郎にとってやはり“あの時”の感触だった。
「・・・・・、かっこつけんじゃねえよおっさんよ」
語る程には眼に力が無い翔太郎だった。
「キーのメモリをブレイクするか・・・・褒めてやろう貴様・・・、だが腕一本までだ、」
それを遠間で眺めるCAは身震いが止まらない、なぜなら負傷しているから、紅い側の二の腕から先が喪失している、その残った掌に握られたメモリも煙を吹いている。
「おまえは、いい仲間を持った、あの時トリガーの男の一発が無ければ、今おまえは立っていない。あいつは大した奴だ。」
脚を引きずってスタッグフォンを放す荘吉の眼は既にCAに向かっている、
「ほざけっ!」
その場に立って右の手刀を振りかざす、たちまち起こる翠の竜巻に、突撃するスタッグフォンが煽られ首を上げた。
「とぉ」
間合いを詰め、出血している方の脚を大きく振り上げる荘吉、右サイド、欠けた腕の死角、
「バカめ」
CA、何を思ったか右腕で竜巻を手刀で裂く、竜巻の気流が乱れる、乱れた気流の交錯するごく小さな隙間、真空が生まれた、
「ぐぉ」
かまいたちに晒され弾き返される荘吉の肉体、白いスーツが傷だらけになって、地面に頭を打った、倒れながらそれでも中折れ帽を正す荘吉。
「アンタはアキコのとこにいきな、こっちよりあっちを優先すんのがハードボイルドの決断って奴だろ、」
翔太郎は、棒立ちで髪をかき上げ、頬を撫でた、
今度はオレだよな、おやっさん、
「園咲来人!ライダーの偽物!」
翔太郎は頭にない帽子を触ろうとし、空虚を掴むと気づいて、手を眺め、置き場のない掌で襟を正した。その間時計回りに、荘吉から距離を置いて足が動く。
「お前は、俺には勝てるかもしんねえ、だがおやっさんには負けてんだ!」
翔太郎の指差す自らの足下を見やるCA、自ら描いたサークルから飛び出している足先を見て、その意味を激昂で理解した。
「キサマっ!」
『エンジン マキシマムドライブ』
激昂のまま腰スロットにメモリを差すCA、手刀が紅の光を帯び、正拳突きのように押し出すと、宙でAのフォントに変化して直進、
こっちの世界のおやっさん、ちゃんと逃げんだぜ、
翔太郎、目を閉じ静かに待った、だが運命はそれを良しとしなかった、
閉じた途端横合いからマキシマムのそれとは違う力に推され体ごと吹き飛ばされた、皮膚が焼ける臭いだけが鼻についた、聞こえる呻きは当然自分のものではない、
「おやっさんっ!」
あの時と全く同じだった。
目を開いた翔太郎の見た風景に倒れるのはあの時と同じ鳴海荘吉の背中、そしてそれを眺めるのは、いつも自分だった。うつ伏せの身体を返してその顔を見ると、未だ余裕の笑みを浮かべる翔太郎の憧れの男、
「・・・・・・、人は、誰も」
翔太郎の手をとって、いつのまにか拾っていたロストドライバーを乗せ握らせる、そしてやや焦げ臭い帽子を自分の頭から翔太郎の頭に乗せ、乗せた手が力無く垂れた。
「見せてやりてえって思ったんだ、俺の今の力をよ、バカ野郎、何にも変わってねえじゃねえか、粋がって、半端な自信に振り回されて、・・・・・死なせねえ、今度は絶対死なせねえからな!」
そこへ近づくCAの拳、
「おわりだっ」
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