2013年1月3日木曜日

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その9





 記憶が無いと言われました、
 私の周りからみんないなくなりました、
 絆が全て無くなりました、
 そうか、士クンは絆をずっと求めて旅をしていたんですね、
 笑ってしまう、士クンをずっと見てきて、士クンとずっといっしょにいて、でも私はずっと士クンを上から哀れんでて、同じだったのに、
 そんな傲慢な女、捨てられて当然だよね、 名前も偽名と言われました、
 仲間も全て偽物でした、
 せめてユウスケだけでも取り返そうと、ディエンドから銃を奪った私は、必死でカードを繰ってユウスケを探しました、少しだけ希望を持って、
 でも無かった、何度も何度も繰って、2枚かもしれないから傷つける程擦って、でも1枚で、結局無かった。
 私、なんで神様にこんなにイジメられなきゃいけないの?なんでこんな目に逢わなきゃいけないの?
 そんなに私のひとりぼっちが、この世の中のみんな嬉しいの?

「そこのかわい子ちゃん、ドライバーを渡しな。」

『光栄次郎は、用心深いね。なんの痕跡も残していない。カメラにもタペストリーにも次元移動の秘密はない。門谷士の能力であるにしても、その引き金となる行為を光栄次郎は担っていたはず。どうやっていたんだ?』

 今私達は見慣れた写真館のリビングにいた。
 この2人、今1人の・・・・ええい、なんで私がそんな事気に掛けて煩わされなきゃいけないのかしら、もうなにもかも理不尽だわ!

「ああ・・・・、気分替えようか。」

 あの緑と黒の、ディケイドより絶対へんてこなライダーの変身を解いて、あの帽子カッコツケル君が現れた。途端彼のダサデカい携帯が鳴った。

「フィッリプ、まあ落ち着けや、分かってるさ。別の世界にいるのは、オレなんだ。」

 私がディエンドの銃を渡そうというタイミングでカッコツケル君はクルリと後ろを向いてキッチンに入っていった。なんてタイミングの悪い、この私の差し出した手をどうしてくれるんだコイツ。絶対コイツ女にモテねえ。
 しょうがないからリビングの丸テーブルに銃を置いた私は、コーヒーやらカップやら場所が分からずパニックってるカッコツケルくんを鎮めにいく事にした、しようとした、でも出来なかった。

「音撃殴っ一撃怒涛!!」

 突然写真館全体が立てないくらい揺れ出した。私も揺れた、背骨にくる震動に、私はついにこの世界で一生を終わると、あっさり思った。

「うぉぁぁ、目がぁ!入ったぁぁ!」

 キッチンでコーヒー豆かぶって転げ回るカッコツケル君、

「音撃殴!音撃殴!!」

 士クンならこんな無様な事はしない。揺れた瞬間すぐに私の元へ駆け寄って、抱きしめて、私を守ってくれる、はず。

「その銃だ、銃を寄越せ!」

 カッコツケル君が私に何か叫んでいる。私はテーブルに振り返って銃を取ろうと手を伸ばす、

「音撃殴っっ!!」

 でも銃は向こう側へ転げ落ちた、私は立っていれなかったし屈んでテーブルの下へ手を回した。

「イタ」

 テーブルがその時倒れて私は思いきり頭を打つ、
 花瓶が割れる音がした、
 壁にも皴が入っていく、

「音撃殴っっ、音撃殴っっっ、音撃殴ぁぁぁ!」

 相変わらず骨が響く震動に、私は割れそうになる、頭に変な音も響いてくる、
 銃はフローリングを跳ねてどんどん私の手から遠のいていく、

「光夏海、もう銃はいい、オレが出て、」

 カッコツケルが何を叫んでいるか私に聞き取れなかった、
 私は壁に突き当たった銃まで這って、手に取ろうとした、でもその間カメラが倒れ込んできた、レンズの破片が私の顔に飛んできた、思わず目を塞いだ、銃は重いカメラの下敷きになった。

「士くん!」

 訳も分からず叫んだ私の背後に、留め金の外れた緞帳が降りる鈍い音がした、
 振り返って私は見た、
 タペストリーに描かれていたのは、中折れ帽を被った背の高い男性の背中と、その人が眺めるオランダ風車のような塔が立つ夜のビル街の風景、

「風の街・・・・・?」

 そのタペストリーが突然光り出した、
 それは私が何度も体験した、別の世界へ飛んだ合図だった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その8





 ディエンドに並ぶライダーは、失神した夏海を抱えたカリス、そして新たに召喚した『凍鬼』だった。凍鬼は金棒を肩で担いでいる。夏海を下ろしたカリス、自らの得物『カリスアロー』にカードをスラッシュする。

『ライフ』

 見る間に夏海の柔らかな頬から擦り傷が消え、汗が引き、乱れた息が整って、苦痛に歪んだ眉間の皺が弛んでいく。一度寝返りを打った夏海はその反動で意識が覚醒し、柔らかな両目蓋が開いて日差しに目が慣れるまで瞬きを繰り返す。

「あらかじめ言っておくが、ボクも今からやる事はらしくないと思っている。」

「ここは、どこ?」

 粘り付いた上唇と下唇を引き離すとプルンと揺れる。夏海はそこがようやくその世界の写真館だと理解した。

「早く出てこないと、夏メロンの命は無い。そして、キミも永久に写真館から出られなくなるよ。」

「音撃殴、一撃怒涛!」

 凍鬼が無空に出現した幻影の銅鑼を叩くと、音の暴圧が発生、大気を拡がって写真館の崩れかけた扉を震えさせる。窓ガラスが割れ、枠が崩れ、辛うじて立っていた1枚の壁が横揺れして、反動で扉がごく僅かに開く。

「さあ、早くダブルドライバーをこっちに投げな。」

 だが投げられる気配はない。その代わり声がした。

「いいか。泥棒はな、探偵に弱いって相場が決まってるんだぜ。」

『ルナ トリガぁ!』

 ドアの僅かな隙間、一旦上方へ撃ち上げられた数本の閃光が屈曲してカリスと凍鬼に幾角度から突入、カリスはアローを振り回し全弾弾き返すが、威力に圧し負け後退り。凍鬼は目元に直撃を食らって倒れ様、放り上げる形になった自らの金棒を首に打ち付けノックダウン。

『トリガーぁ!マキシマムドライブっ!』

「『トリガー、フルバーストっっ』」

 10数本の光がさらに扉の後ろから発射、歪曲して怯むカリス一点に集約、直撃したカリスは大爆発を起こす。

「調子に乗らない方がいい、どうやったって、このボクにはどのライダーも適わない。」

 爆風を背に受け微動だにしないディエンドは、堪える夏海の頭にディエンドライバーを密着させた。

『ディエンドの検索は既に完了している。彼はカードの限りライダーを召喚できる。やろうと思えば、ボク等の体力が尽きるまで。』

 その段階で扉の影、写真館から姿を晒す仮面ライダーW、右半分はまばゆい金で彩られ、左半分は鮮やかなブルーで彩られている、ルナトリガーの右目がしきりに明滅しながら聞いてもいない解説を始める。

「その通り、仮面ライダーWの右の方はさすがにボクをよく分かっている。」

 既にディエンドは3枚のカードをドライバーに装填。銃口を高く掲げた。

『KAMEN RIDE IXA IXA IXA』

 ディエンド、それぞれ3体の同じ『イクサ』を召喚、内1体はフェイスをオープンして高熱を発し、さらにもう一体は、ライジング、の電子音と共に装甲を除装し蒼きイクサとなる。

『検索は既に完了している。ディエンドはどうやってもそのカード召喚に隙が生じる。今だ、翔太郎、』

「おうよ相棒!」

『ルナ ジョーカーぁ!』

 バックルのメモリを素早く切り替え左半身を黒く染めたW、その金の足を振り上げると関節が抜けてゴムになったかのように足先が伸び、遠く離れたディエンドの手からドライバーを蹴り弾き、足が返って今度は金の腕が夏海まで伸び回り込んで、宙に浮かぶディエンドライバーごと夏海を抱えてWの元まで引っ張り込んだ。

「その命」

「神に」

「帰しなさい」

 内2人は女性の声だ。

「お嬢ちゃんは返してもらったぜ。駆け引きは大体探偵の方が勝つんだぜ。」

 既に夏海を脇に抱えて左の人差し指と親指を二度ほど擦った。

「一人で、立てます、」

「大丈夫か?」

 夏海が藻掻いたのに、やや驚くW。最後の見た時の状況からは考えられない回復ぶりだった。思わず手を離し、足の下から頭のてっぺんまでマジマジと眺めるW。

「二人をこの世界から逃す訳にいかない。写真館に絶対入れるな!」

 手ブラのディエンドから指図された3体のイクサがWに近接、もっとも身の軽いライジングが短銃『イクサライザー』をバーストで放ちながら先頭を走る。

『イクサの検索は完了した。彼らはヒートと相性がいい。』

 夏海を壁の方へ突き飛ばしつつ、3メートルほど伸ばした金の手をムチのように撓らせ、ライザーの光弾を防ぐW。
 ライジングイクサは銃を反対の手に持ち替え、空いた拳に体重をかけた。銃撃が止んだ。

『ヒート ジョーカーっ!』

 交差する拳と拳、右半身を赤に染めたWの右拳は赤よりも紅い炎を纏った、

「おらぁ」

 推し勝つWの拳、ライジングイクサの顔面に炎がいつまでも纏わりつき、その蒼きボディから灼熱に染まる。

「顔は止めなさい、顔は止めなさい!」

 立て続けに連打されるWの右拳にもんどり打って後頭部から倒れ、なお身に炎が纏わり続け悶えるイクサライジング。

「うちの人に何を!」

 W直角方向より、閃光のような白き斬撃が振り下ろされる、

「つぇぇ」

 それはバーストモードイクサの『イクサカリバー』の刃。ヒステリー気味な女声を伴って左上から袈裟斬り、

「今は青空の会もロクに顔出さなくなって、私がお店出て食わせてるけど、あれでもちゃんとした亭主なんですからね!」

 さらに返す刀で右斜めから打ち込んでくるイクサに、打たれるままのWは退くしかない。

「お店では、レイナよ!よろしくね!」

「聞いてねえ!」

 ジョーカーの左腕で刀身を辛うじて掴み、大きく弾く、逆の腕にはメモリが握られている、

『ヒート メタルぅ!』

 左半身を金属色に塗り替えるWに、なお振りかぶるイクサ、半身を捻って背を見せるW、『メタルシャフト』が折りたたまれて背負われている、シャフトがカリバーを受け止めた、シャフトを手に取る形でカリバーを弾くW、即座にシャフトが3倍に伸び、半回転させてイクサの腹を打ち、反転させシャフトの逆端、炎の灯った先端で顔面を直撃、

『イクサは機械だ。エネルギーの調整はかなりのデリケートだ。だから過剰に熱を与えるだけで動かなくなる。』

 もんどり打って倒れるバーストモードイクサ。

「どんどん行くぜ」

 追い打ちをかけようと奮い立つWは、メタルシャフトを右へ一回転、左へ一回転し、脇に挟む。

『イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』

 そのW背後からセーフモードイクサが拳を繰り出してくる。

「おっと」

 反応しているW、先端に火のついたシャフトを振りかぶって威嚇する。

「私の魂が、おまえを討つ!」

 直接肩へ受け止めるイクサ、あまりの破壊力に片膝が折れる、だがシャフトを掴んだ、そう敢えて受け止めた、反対の拳には『イクサナックル』、ゼロ距離からの電磁砲がW右脇に入る、

「ぐぉ」

 Wの足が宙を浮いて重心を失い、気づかない内に天地が逆転、それでもシャフトを地に差し両足揃えて着地するWだった。

『今はまだ連携が取れてない、早い段階で討たないと厄介だぞ翔太郎。』

「強え、いい女。勝負だっ」

 W、バックルからメモリを一本だけ抜き、シャフト側に差し、シャフトを水平に構える、

『メタルぅ マキシマムドライブ』

「『メタルブランディングっっ』」

 シャフト両端から噴流が吹き、頭上へ掲げ回転させると炎の輪となって前方へ拡散、立ち上がりそれぞれのフエッスルを手にしていた3体のイクサは半歩遅い、炎に巻かれ一斉に消失した。

「強かったぜ、いい女、顔は分かんなかったけどな。」

 硝煙上がる大地には3人煙に巻かれた人影が見える。が、顔を見る前にカーテンに隠れてしまった。残ったのはWの足元に転がった、イクサの1人が落としたろうイクサナックルのみ。

「渡したまえ、それは今はボクのモノだ」

「イヤです」

 一方、その傍近く、遠く壁のドアに後ろ歩きでジリジリと下がる夏海、その両腕にディエンドライバーが抱えられていた。

「そうか」

 夏海の眼前には手を伸ばして迫るディエンドが。

『ジョーカーぁ マキシマムドライブ』

 そのディエンドに横殴りの突風が吹く、思わず振り返って見上げるディエンド、

「『ジョーカーエクストリーム!』」

 両足を揃えて蹴りの態勢、Wの左側が縦半分に割れ、前方にやや突出、右側とズレる奇っ怪なスタイルで降下してくる、
 ディエンド直撃、から透過、素通りしたWは地面を抉って夏海の黒髪を大きく乱しただけだった。

「ディエンドに残った力でもこのくらいはできる。また会おう、夏メロン。」

 ディエンドの立つ地は、夏海達の至近にありながら全く違う別の世界、次元のカーテンは既にディエンドを覆って、Wからは揺らいだ幻想のように見えた。

「メロンじゃないですみかんです、みかんでもないです!」

 既にディエンドのスーツが蒸発するように着脱し、嫌味な程屈託のない笑顔を夏海に向け、海東大樹は空間に溶けていった。残ったのは、ディエンドの腰に巻かれていたカードケース。地に落ち、僅かに埃を立てた。

『探偵と泥棒の化かし合い、どちらが果たして化かされたのか。さあ、光夏海くん、ぼやぼやしていないで写真館へ行こう。』

 Wの右目の明滅が夏海を照らした。

「待てフィリップ、あのキバーラって変なのは、写真館を調べても無駄と言ってたぜ。」

『ディエンドライバーをこちらが手に入れたのは、まことに幸運だったよ翔太郎。』

「そうか、さっきの芸当、だよな。だとさ、お嬢さん。」

 Wの左眼が夏海に向かって明滅し、黒い人差し指と親指が忙しなく動いた。

「アナタ、キモチ悪いです」

 そんなWを端で眺めて首の2眼を弄ぶ夏海は、顔をしかめるしかなかった。





6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その7





 そこには、ただ一組ショボくれた帽子と埃のかぶった眼鏡が落ちているだけだっだ。既に荒廃した大地には、先程までいた何人かの者がいなくなり、タイヤの跡だけが風に吹かれてもなおその型を留めていた。
 風では無い揺れが、砂塵をごく僅かに騒がせた。落ちた帽子の横に踏みしめる靴、片腕が伸びて帽子と眼鏡を拾い、土と埃を祓って着ける者が一人。

「おのれディケイド、何度この私を殺せば気が済むのだ、」

 高笑いを上げる鳴滝、その草臥れたコートもせり上がったデビルスマイルも変わらず、ダメージの跡も全く見られなかった。




 翔太郎の視界には見渡す限りの倒壊した家屋の瓦礫が散乱するだけであった。ただ一つ、眼前に立つやや小さめの扉を除いて。上左右の壁が崩れそのピンクの木枠の扉と窓枠だけが填った1枚の壁が強風にもめげず大地からのび立っている。近づいてみると、ドアノブにダンボールで書いただけの『光写真館』の看板がビニール紐で括っている。

「どこでもドアかよ。」

 ドアノブを一旦握って、開ける前に一度右サイドから裏を覗いてみる翔太郎。だが依然風景は瓦礫で満たされていた。にも関わらず、開けた先の風景は、土足で入るのが憚る艶のあるフローリングの床、四辺と天井が頑丈に構築された、かなり手入れの行き届いた屋内だった。モダンな丸机と1対のイス、あの幌掛けされている三脚だけが見えるそれはおそらく写真機だろう。タペストリーに描かれた油彩画は、電波塔を上角に臨む風景画、青空に輝く太陽に電波塔の先端が重なり、さながら太陽を巨大な銛が刺し貫いているようだった。
 だが翔太郎に、室内をじっくりと調べる暇は与えられていなかった。
 天頂から急降下し、放物を描いて急上昇する白い物体、
 動体視力の限界を超えるその動きを追えない翔太郎の鼻先に、見覚えのある球体、

「やべ」

 爆破、扉の木枠が焦げる、
 寸でで頭を仰け反らせる翔太郎の鼻孔を煤焦げた臭いが突く、
 だがそれだけである、翔太郎の顔の皮1枚剥く程度の火力の瞬間発火、身体にダメージが残る程のものではない、身体には。

「気に入りの帽子が!」

 ゾウアザラシ4歳オスの腹の皮製の帽子の縁半分に炎が上がった。慌てて帽子を脱ぎ捨てる翔太郎、革靴でもみ消すと、哀れ帽子の縁は三日月状にしおれ、炭素の臭みを放っている。

「あら、Wの世界のヘボ探偵一人?な~んだ。」

 翔太郎を掠めた白い物体、キバーラが頭上でせせら笑った。それを見た翔太郎、癇に障ったか何度も飛び上がって掴もうとする、それをスイスイ躱して余裕を見せるキバーラ、

「待ちやがれてめえ、鳴滝はもう死んだ、てめえ一人で何しようってんだ、この世界からオレ達を帰しやがれ!」

「そう、帰りたいのね。でもここを調べても無駄よ。ここは栄ちゃんに頼まれてワタシが移動させてたんだもの。」

 屋内天井隅に舞ったキバーラの先に、次元のカーテンが小さく浮かんだ。

「おまえがどっかの世界いっちまえば、俺達はどの道ここでくたばる。おまえの筋書き通りだ、だから最後に聞かせろ!」

「フン、土下座でもしてくれるかしらぁ?」

 相手が追うのを観念したと見たキバーラは振り返り、ジラすつもりで天井隅を周回する。

「光夏海の命を狙ったのは何故だ?」

「あの子はワタシからなにもかも奪うのよ。ユウスケも栄ちゃんも鳴滝も、あの子にだけは特別甘くなる、門矢士もあの子がいなければ、ディケイドになって世界と引き替えにする事も無かった、ワタシもワタシの世界を奪われる事はなかったわ!」

 翔太郎は熱弁するキバーラをじっと睨んでいた。もちろん聞き入っている訳ではない。背の裏に回した右手にはギジメモリ、左手にはバットショット、

『バット』

 カメラからコウモリ型に変形し、キバーラへ突進するバットショット、突如現れた同機動特性のメカに戸惑いながらも逃げ惑うキバーラ。

「てめえみてえなのの口を割らせるには、ノセてみるのが一番なんだよな。」

『スパイダー』

 さらにもう一本ギジメモリを出し、今時大き過ぎる腕時計に装着、腕時計は4対足を伸ばし蜘蛛型の『スパイダーショック』へ変形、その形状から想像できる通り糸を直線で発射、

「なに、ネバっ」

 見事宙を舞うキバーラを絡め取った。

「さあて、ここから本目、オレ達を元の世界へ戻す方法を教えてもらおうか。アン?」

 引っ張り込み、キバーラを掴む翔太郎は途端態度を変える。

「うぐぐ、よく見れば・・・・いい男ねえショタローさぁん、」

 立場の入れ替わったキバーラもまた甘い言葉で隙を伺おうとする。
 そんな翔太郎とキバーラのやりとりはしかし、爆音一つで帳消しになった。

「なんだ!?」

 明らかにドア方向からの指向的な震動、反射的にドアに背をつける翔太郎は、窓から外を覗き見た。

「あれは、さっきの青い泥棒、」

 見れば限り無く拡がる瓦礫の果てに、数名の人影が立っている。その中、シアンの縦ストライプの姿をしたライダーを見て取る事ができた。

「フン、これで見納めかと思ったら、なんだか寂しいわ、ショタローさぁーん、」

「待てこら」

「最後にいい事教えてあげるわ、鳴滝は死んでいないわ、というか死なないのよ彼は。ジャぁね!」

 このドサクサに紛れて糸を噛み切ったキバーラは翔太郎の手から離れ、次元のカーテンに突入した。
 独り取り残された翔太郎は、眉間を人差し指で触れ唇を振るわせる。だが、そんな翔太郎をさらに追い打ちする状況に事態は進展していく。

「いいかい、この光夏海と交換に、キミのダブルドライバー、そのお宝をこっちに頂こう。」

 翔太郎の体を依然、ディエンドの威嚇の震動が伝わってくる。

「探偵対大泥棒、ハードボイルドになってきたぜ。」

 口でハードボイルドと言ってしまう翔太郎だった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その6





 次元のカーテンが4つの影を堤防の上に伸ばし、そして4体の仮面の男を出現させる。

「さあ、舞台の幕を上げよう。」

 既にシアンの縦ストライプが特徴的な姿へ変身しているディエンド、がやや両足を揃え堤防の上から屋根を臨む。今回召喚したライダーは『ギャレン』『バース』『サガ』。
 ディエンドが臨むお婆ちゃんの小屋の庭では、今もアラタが一人雑草取りに追われている。ディエンドはギャレンに顎で指図し、ギャレンはワケの分からない叫びを上げて空中一回転で降下した。

「む!ガタックゼクター!」

「#$%)!59&(ザヨコォォォォ)」

 柔らかな土壌を舞台とした乱闘を尻目に、小屋の玄関口に立つディエンド含む3人のライダーが立つ。

 一人でにドアが開く、

 中から4匹の巨大な虫が飛び出してくる、

「先手を打つか、さすがはカブト」

 それはゼクター、木戸が開くと同時にカブト、ザビー、ドレイクが飛び出しそれぞれライダー3者へ突撃、その背後から杖を突いて出てくるソウジの手には、パーフェクトゼクターが一振り握られている。

「お婆ちゃんが言っていた、油断とは油を切らして明かりを断つと書く。だが太陽の光は絶える事がない。過去に飛んだ時、頼りにできるのは自分の能力と、そこで手に入れたゼクターだけだった。」

 実は油断の語源は灯油切れなどではない。

「悠長な」

 問題はソウジがその間、ディエンドの再三の銃撃を黄金剣でことごとく弾き返している事である。

「一億円!」

 間の悪い事にバースディ装着最中にカブトゼクターに眉間を打たれてよろめいたところ、見えなかったサソードが土中からバース足首を刺す。途端電撃のような痺れがバース全身を襲い、バースディ状態で卒倒。哀れ構造上の性から起き上がる事が不可能になる。ディエンドは無言で透明のカーテンを降ろしバースを撤退させた。

「王の判決を言い渡す」

 一方サガはドレイクの動きに翻弄されたものの、即座に適応して『ジャコーダービュート』を撓らせ叩き落とし、返す刀でソウジにその切っ先を伸ばす。

「おい歯磨き粉、あの女に何の用があるのかは問わん。だが、あの子を今動かせば、門谷士を本気で怒らせる事になるぞ。それが怖くないのか?」

 サガの伸ばしたロッド先端をパーフェクトゼクターで巻き付けるソウジ。

「ボクはキミと同じで、小馬鹿にされるのが非常に気にくわない。でもキミは分かっていない。キミ程度の者はボクはいくらでも見てきた。あっちの彼にも、キミにも、ちゃんと相応しい相手を用意してある。」

 ザビーゼクターに攪乱されながらもなお銃撃を繰り出すディエンド、カブトゼクターがソウジに周回して逐一弾き返す。

「甘く見たな。ライダーになれずとも、女一人くらいは守れる、」

 ソウジが依然ビュートの巻き付いたパーフェクトゼクターをディエンドに向かって投擲、

「それは、どウッ」

 頭を振って回避するディエンドにしかし、パーフェクトゼクターは周回してビュートを首に巻き付けてくる、
 慌ててビュートを離し武装を失ったサガに、カブトゼクターが体当たり、弾き飛ばした。

「太陽は絶えずどんな時も東から昇り西に沈む。誰もそれを止める事はできない。」

 バースを失い、サガも卒倒し、手札が無いかのように見えるディンドもまた首元を抑え呻く。

「だが、キミはいつもそうだが、肝心なところで間違えている。太陽は天にあって、決して地上にあるものではない。ボクの手駒は無限さ。」

 その時である、ソウジが背後に殺意を感じたのは。鎌のような2本の角、漆黒のボディ、その角を刈って三日月に繋げたような得物、『カリス』に既に至近後背の間合いに詰められていたソウジ、カブトとザビーゼクターが突進、得物の『カリスアロー』をひと薙ぎするだけで叩き落とすカリスは、返す刀でソウジを横一閃、最初に気づいた時点でカリスが一手速かった。

 ぐぉぉぉ、

 一閃されただけで地に倒れ、土に塗れて悶え苦しむソウジ、その肉体からは緑の光がいつまでも残留し消えない。

「キミと同等の熟達した力量と疾さを備えたカリスは、井の中の大将のキミにはもっとも相性の悪い一人だ。その痛みは今日1日キミを苛むだろう。ボクをバカにした罰だ。地獄の苦しみを味わいたまえ。」

 既に『ゼロノスベガフォーム』が、体じゅう包帯を巻き付けた光夏海を肩に抱え、小屋からやや屈んで出てきていた。光夏海の首には、お婆ちゃんがあのショッキングピンクの2眼を吊り下げてくれていた。

「待て……」

 悶えながらも手を伸ばすソウジを、失神する事も許されぬ激痛が、いつまでもその身体を苛んだ。

「オレは、オレにしかなれない!」

「%$)K9!(ザヨコォォォォォ)」

 カリス、ゼロノスを引き連れるディエンドは、激闘の末ついには両者とも得物を捨てて素手で殴り合い、果ては頭突きの応酬を繰り返す鍬形虫を模したボロボロの2人のライダーを横目で見た。

「一生やってな。」

 ギャレンを置き去りにして次元のカーテンを潜るディエンド等だっだ。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その5





 金属の焼ける臭いには既に自覚すら無い深海マジュであった。もはやハード的な問題は全処理を完了し、最終デバッグをかけてチップが完成する。黒縁の度のキツいメガネに『G4SYSTEM』というディスプレイのロゴが反射される。ピン二つで止めた黒髪を下ろすと、腰のあたりまで毛先がくる、首の細い女だった。
 窓のカーテンが踊り、夜風が腰掛ける白衣までも揺らす。マジュはその時微香を感じた。あまりにも爽やか過ぎて毛穴に刺すような刺激を与える程の香りだった。

「本当にいつも窓から来るのね。大樹。完成したわ。『G4チップ』、これで私のESPシステムと併せれば究極の超人が誕生する。」

 メガネを外したマジュの漆黒の瞳は爛々とした。その内側にどれほどの漆黒が溢れているのだろうか。そんなマジュの瞳をディスプレイの反射越しに見つめる海東は、キャップ帽子を既に逆向けにし、マジュの細い首元に腕を回してもたれ掛かるように抱きしめる。

「君のおかげで破損したG4チップを修復できた。本当に感謝している。」

「貴方が、あの八代淘子からこれを持ってきてくれたのは、私にとって幸運だったわ。」海東の掌に自らの手を重ねるマジュ。「私貴方のおかげで大変な栄誉を手に入れる事ができる、いえ、貴方のおがげで高慢で粘着質な自分から変われそうな気がする。今までの自分は、なにかがすり減っていた。」

 そんなマジュの顔を黙って見つめ、下顎に手を添えてこちらへ向かせる海東。それが二人の合図であり、マジュはいつも通りその野心的な眼差しを閉じ待った。海東の手は顎から両肩に添えられ、そろそろ口元の臭いがしてくる頃合い。しかし今回は違った。

「お宝は確かに頂いた。」

 既に窓際に立ち、SDアダプタからチップを抜き取る海東大樹。徐に帽子の前後を正した。

「大樹!貴方の為にこんなにまでした私を裏切るつもり!」

 海東は嫌味な程の爽やかな笑顔を向ける。笑顔は、カーテンの揺れに見え隠れする。

「僕は泥棒がサガなのさ。人から盗む。君の心を盗んでお宝を得た。ただそれだけの事。僕は高慢な女は嫌いじゃない、粘着な女も面倒見てあげたくなる、だが高慢で粘着なのは、ヘドが出る。」

 せめてそう言う事にした海東、颯爽窓を飛び越えた。立ち上がってマジュが窓から身を乗り出した時、既にどこにも姿は見えなかった。マジュは倒れ込み、ただ呆然とした。マジュの漆黒の瞳に、ディスプレイ上に表示された『第4世代型対未確認生命体強化外骨格及び強化外筋システム』の完成図面が映っていた。


6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その4





「な~つみちゃん」

 高度50メートル程の高さでは、どんなに広げても体と同じ幅しかない翼を羽ばたかせる掌サイズのキバーラの姿を見る事ができない。
 キバーラから見て、米粒のような人の頭が一つディケイダーへ近寄っていく。あれは『Wの世界』から連れてきたマヌケだとキバーラの眼には認識できた。あの夏海の頭も見える。その傍にいるのは、確かこの世界のライダーの一人。何か言われたのだろう、夏海がマヌケの元へ駆け寄っていく。

「アンタ、どこの世界の誰かは知らないけど、士も、ユウスケも、キバットも、鳴滝も、私の気にいったモノはぜ~んぶアンタが横からしゃしゃり出て奪っていく。」

 キバーラがその下顎の牙の隙間から泡を一つ膨らませる。泡はキバーラと同じ程度の、人の拳ほどの大きさになり、フワフワを浮かんぶ、キバーラが泡に一息甘く吹きかけると、ゆっくり、ゆっくりと軽く渦を巻く軌道で降下する、当たれば人一人焼死させる程のエネルギーを乗せて。キバーラはしかし滅多にこの力を使わない。というよりあまり使えない。動物どころか人間の反射神経でもあっさり躱せてしまう程致命的に弾速が無い。だがそれは動いているものに限った話である。静止した物体なら風を読んで命中させる事も可能だ。あのディケイダーという今や静止する火薬庫でしかないあれに向けて、夏海が近づいてくる瞬間を狙って泡を吹けば、一瞬で憎い女をあの世に送る事ができる。たとえ命を奪えなくとも、次元の壁を越える手段を失ったあの女をここに封じ込め、結果的に亡き者にする事ができる。この瞬間をずっと、ずっとキバーラは待っていた。




「ひさしぶりに探偵らしい事でもすっか」

 翔太郎はまずディケイダーの臭いが気になった。厳密に言うと、オイルの臭みすら無い事が気になった。およそ機械である限り、そんなことはあり得ない。翔太郎はこれが見た目よりはるかに高度な技術によって構成されている事を思わずにはいられなかった。となると、彼の相棒がこれを見た時、自分よりはるかに何かを得る事だろう。たとえそれが蜘蛛の糸のような可能性であっても、それを掴まなければ前に進めない。

「フィリップの奴、こいつの計器を見ろって言ってたが、どこにでもあるメーターばかりだぞ。映像撮るしかねえか。」

 バットショットを両手で窮屈に構える。翔太郎にとってバットショットは小型過ぎるようで、10本の指の収まりが悪く、ヘタをするとレンズに被ってしまいそうだ。

「それが、士クンが乗っていたバイクです。あの、電話の彼が言ってました、それで次元を越えてライダー達を集めれば、士クンは私を無視できなくなるって。でも士クンにここで置き去りにされた私に、ライダー達は言う事聞くわけないと思うんです。」

 翔太郎は敢えて夏海という少女の顔を見てやらなかった。

「フィリップは、アンタがあの爺さんや門谷士がここまで連れ添った事に意味があると考えてる。ここに置いて別れた事も、殺さなかった事も含めてな。それが脱出する方法に繋がるかどうかより、繋がっていると見てアンタに頼るしかねえ。唯一の可能性という奴だ、このオレが風都に帰れるな。オレはフィリップとはちょっと見立てが違う。オレはあの門谷士って奴が、この滅んでいく世界にアンタを置いていくはずはない、そう思ってる。それに、」

 翔太郎、ディケイダーのスイッチを入れる、高い周波の回転音がディケイダーから轟く、ハンドルのアクセルを捻るとさらにエグゾーストから轟音と振動が唸る。

「アイツが、本当にアンタをここで見殺しにするつもりだったら、使えるようにしとくヘマはしねえだろ。」

 夏海は執拗に瞬きを繰り返した。
 ディケイダーを立てかけ、しゃしんよろしければ、の紙看板を立て、ああして写真を一生懸命撮っていた、あの背中がフラッシュバックする。だがすぐその幻影は消えて、中折れ帽を被った頼りない青年の姿に変わる。

「私はもう、士クンを信じられない、」

 夏海は思わず顔を両掌で塞いだ。

「いいか」翔太郎はその時振り返った。「アンタはあの門谷士をどんな事があっても信じ続けろ、たとえオレや相棒、他のライダーが全てあの男を疑ったとしても、アンタだけは最後の最後まで奴を信じていろ。」

 翔太郎は、帽子で動揺する自分の目を隠しディケイダーを撮り続けた。夏海はそんな翔太郎を怪訝に眺めた。

「アナタ、ダメです…………士クンはまだ様になってるだけマシでした。」

 翔太郎の下顎が泳ぎながら振り返る。

「おま、おまえ…………ダメは、ないだろ!」

「やっぱりアナタは、士クンにおよばないです、ダメダメです、」

 夏海の眼に、軽薄な探偵の姿が滑稽に映る。士とは違うキャラクターのその男は、どこまでも頼りなさげだが、少なくとも和ませてはくれた。
 そして彼女の視界にそれが入ってくる。その癇癪ではしゃぐ滑稽な男の背後から、忍び寄るようにふわふわと宙を漂うそのしゃぼんのような小さな玉を。なぜだろう、夏海の知覚できないフラッシュバックが、その泡に危機感を覚えさせた。

「あぶない」

 咄嗟に駆け寄った、駆け寄って自分より頭一つ高い男に体重をかけて押し倒す、押し倒す男の怒声や舌に入った砂の感触はしかし、その一瞬でどうでもよくなる、
 音で体が壊れそうになった、
 熱は一瞬だけ感じて後は麻痺した、
 なにかが頭に当たった、
 だがそれら全て、夏海が再び目を覚ました後、脳が記憶をかき消す事になる、

「なにが起こった、耳が、おい、光夏海!頭から血が止まんねえ、しっかりしろ!光夏海!」

 キバーラが放った泡は火種となってマシンディケイダーを爆破した。爆破は十メートル四方に爆炎を上げたが、それは一瞬、引火物が無い荒野であった事も幸いし、もっとも至近にあった光夏海と左翔太郎は火に巻かれる事もなく、煙を吸う事もなかった。ただ破片と衝撃をまともに食らい、翔太郎は左の鼓膜が破れ、全身に擦り傷、背中に胃の内容物が出そうになりそうな打ち身を受けた。だが光夏海に比べると動けない程ではない。光夏海の左腕は見た目ではっきり分かる程に骨折し、なによりそのロングの髪の毛がベトつく程の出血が頭からあふれ出ていた。



 

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その3





「無様だな。」

 翔太郎は、いつまでも片足を伸ばして地にヘタり込むソウジの顔を覗き込んだ。

「お婆ちゃんが言っていた。自分が決断し、取り返しのつかないような事をしでかしたとしても、それは決して不幸でもなければ、後悔する事でもない。なぜなら、」

「自分が、決断したからだ。」

 お株を奪われソウジははじめてその中折れ帽の若造の顔をまともに視た。

「何者だ?」

「あらゆる事件をハードボイルドに解決する、」帽子の縁をなぞった指でピストルを作ってマズルジャンプを模す、「探偵さ。」

 いぶかしんで足先から頭のてっぺんまで眺めるソウジ。

「おまえ、自分の口でハードボイルドといって恥ずかしくないのか?」

「この世界で、おまえにだけは言われたくネエ!」

 ライダー同士の距離感は、親近感よりも同族嫌悪のそれらしい。

「言っておくがオレはおまえのような半人前に用は無い。」

「こっちが聞きてぇ事あんだ、おまえのベルト、空間を縫って動けるって相棒から聞いたぜ。」

「だから、用は無い。」

「聞いてんのかよ!」

「別の世界へ行くようにオレも試みた。だが無理だった。だからおまえに、用は無い。これで3度めだ。」

 翔太郎は自分の世界の相棒を彷彿するこの男に、ストレスが溜まってきた。が、相棒に近いが故に慣れてもいる。

「お見通しってわけかい、どれ、おまえん家まで肩貸してやるぜ。」

「もうこれ以上は言わん。用は、無い。」

「強がるや・・・・・」

 翔太郎は言いながらソウジの指差す方向に上がる土煙を二度見した。

「このままでいれば、いずれお婆ちゃんが迎えをよこす。それは分かっていた。」

 地平線の彼方から煙の尾を引いて向かってくる、荷台を引いたそれは青いオフロードバイク、その名をガッタクエクステンダーという事を翔太郎は知らない。

「無様だな。幼なじみとして恥ずかしいぞ。」

 ビンテージメットで立ち尽くし、ゴーグルを外した晒した顔は、ソウジと幼なじみとアラタ。

「アラタ、その台詞は、さっきそいつから聞いた。相変わらず間が悪いやつだ。」

 翔太郎はソウジの知り合いらしい事だけは察した。

「ああ、さっき言った。間が悪いやつだな。」

 ライダー同士は合従連衡がめまぐるしいらしい。

「なに?!おまえら・・・・、オレが悪いのか!?」

「こういうやつだ。」

「こういうやつか、まぁ、風都でいくらでもいらぁな。オレは探偵、困った事があったら、ハードボイルドに解決するぜ。」

「ソウジ聞いたか、ハードボイルドに解決だってよ、こいつスゲーぜ!」

 かつてないポジティブな反応に喜びつつも頬を引き攣らせて一歩引く翔太郎だった。

「お婆ちゃん……」

 そんなおかしな両者を半ば放置して、ソウジが見やるのは、ガタックエクステンダー、ではなく、その後方に括り付けられた荷台にケツを抑えながら降りるもんぺ姿の老婆。
 一歩一歩ゆっくりと杖を着いて歩み寄ってくるお婆ちゃんを見ながら、ソウジは手をアラタに差し出す。アラタはなにもかも分かったようで、しゃがんでソウジの手を掴んで自らの肩に回し起き上がらせ、お婆ちゃんに二人三脚状態で足を向ける。

「おかえり。」

「ごめんよ、お婆ちゃん、お婆ちゃん、ごめん」

 アラタを振り払う形で小さなお婆ちゃんに覆い被さって抱きつくソウジだった。お婆ちゃんは、そんなソウジを支えながら、背中をさする。

「足一本なら、安い代償さ。良かったよ、人前で泣かない子だったのに、よっぽど怖い思いをしたんだねえ。」

 ソウジの頭をお婆ちゃんはゆっくりと何度も撫でた。ソウジは背を屈め、お婆ちゃんの胸元に顔を埋めた。

「見ないのが、男の流儀だぜ。」

 翔太郎は中折れ帽で目元を隠し、アラタの肩に両腕を置いて、体ごとねじり回した。アラタの肩は震え、顔は翔太郎にすら見えないよう俯いていた。

「あの・・・・・左さんでしたっけ?これがフィリップさんから、」

 リにアクセントを置いてしまっている夏海が翔太郎の方へ緊張の無い顔で歩み寄りスタッグフォンを手渡す。

 士クンは、アタシにあんな風に心の内側を見せてくれた事、なかったんじゃないかしら・・・・

 未だ活力の無い夏海の眼に、視界に入るもの全てが羨ましく思えた。

『いいかい翔太郎、まず転移するというその写真館へ行く事、次にあの鳴滝といっしょにボク等を誘ったキバーラという奇妙な生き物を捜す事、この二つがもっとも可能性がある。その次に門谷士が使っていた写真機、そしてディケイダーというバイクを調べてくれ。まだその近くにあるはずだ。できればバットショットでいくつか映像を送って欲しい。』

 一方、まくしたてられ下顎を遊ばせるしかない翔太郎は、自失した夏海がお婆ちゃんの方へ足を向ける事が気になったが、転がっている2眼トイと、白いボディが煤汚れたディケイダーを視界に入れる。倒れているが、車体に破損は見られない。

「あの子頼む」

 とアラタに夏海を任せ、翔太郎は取りあえずディケイダーを起き上がらせる事にした。
 この荒れすさんだ大地の風は、翔太郎にとってあまり居心地の良いものではなかった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その2





「あの子は、しばらくダメだな、」

 翔太郎はトレードマークのソフトフェルトを一旦脱いでロン毛についた埃を適当に祓い、帽子の中から埃を一息祓って被り直した。

 男の目元の冷たさと、優しさを隠すのが、こいつの役目だ、

 だから翔太郎は念を入れて目元をソフトフェルトで隠す。そう言われたからだ。それは相棒のフィリップからではなく、当然親からでもない。翔太郎がこの世でもっとも帽子の似合うと焦がれる男からだ。

「フィリップ、オレがこの世界からそっちへ戻るには、確かにあの子が必要なんだな?」

 翔太郎の言う通り、あのディケイドが次元の彼方へ消えてから、取り残された3人、鳴滝によって次元から召喚された翔太郎、この世界のライダーであり今や片足が永久に失われたソウジ、そして異世界でひとりぼっちの境遇に落とされ機械的に破壊されたカードの破片を拾い続ける光夏海、の3人は倒壊した電波塔の瓦礫が散乱する荒野に立っていた。残された彼らに、生還への帰路という謎が拡がり、あるいは道なしという答えを探り当てるかもしれない。
 翔太郎は『スタッグフォン』で自分の世界の相棒と連絡できる事だけが唯一の頼みである。

『おそらく全てを知っているはずの光栄次郎が、今の今まで手元に置いて旅をしてきたんだ。今彼女を確保しておく事は、君がこちらの世界に帰還する唯一の糸口だ。というより彼女ぐらいしか手がかりが見あたらない。翔太郎、一度直接話したい。出してもらえるか。』

 砂塵が突風となって、翔太郎の中折れ帽を揺り動かす、慌てて直す翔太郎の耳と鼻に感覚で分かる程の砂粒が入り込んでくる。先の戦いの熱量が拡散するまでこの強風は止まらないだろう。

「相棒、」翔太郎は頬の泥をつけて放心する夏海を眺めていた。「オレも、違った意味であの子が切り札だと思うぜ。オレは見たんだ。あの門谷士の背中を。あいつの背中は泣いていた・・・・、ああいうやつが、あの子をこのままこの世界にひとりぼっちにするはずがない。」

 大気が強風によって洗われて吸い込まれそうな澄んだ青空が広がる。照りつける太陽がはっきり分かる濃い影を3人に差す。
 翔太郎はスタッグフォンを耳から離して画面を眺め、項垂れる少女、夏海の元へ足を向けた。

「光夏海、オレの相棒がアンタと直に話したいそうだ。どうする、そのままいつまでもボーッとしててもいいぜ、オレにはそんくらいの時間をあけてやるくらいしか、アンタの慰めになってやれねえからな。」

 顔に煤をつけて放心する夏海は、それでも表情が変わらず、目だけ一瞬翔太郎に向いた。

「すいません」

 翔太郎は力無く片手をあげて受け取る夏海に、重症だ、とだけ感じた。

 半熟のおまえに帽子はまだ早い、

 実感した翔太郎は少女を相棒に任せる事にして、もう1人、片足を失って動けない偉そうな男の元へ歩を進めた。
 夏海はまた言った。

「すいません」

『君が光夏海君だね。まずボクの質問に答えてくれたまえ、君は、門谷士に会う勇気がまだ残っているかい?翔太郎がこちらの世界に帰る方法を捜し出せば、君はあの門谷士と対峙する力を得るだろう。』

「・・・・・・」

 もし閉ざされた暗闇に、一条光を差されたら、追い込まれた人間のする行動は決まっている。
 光夏海の瞳孔に、意識が灯った。


6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その1





『笑いのツボってこういう意味じゃ、ねえだろ。夏みかん。』

 あの顔は嘘だったの?士クン、

『オレは世界を撮りたいだけだ。』

 アタシを騙してたの?

『大丈夫だ、オレが決めて始めた事だ。おまえが悲しむ事じゃない・・・・』

 アタシは、士クンに、騙されていた・・・・


2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その38







「士クン、今度は」赤く腫れた目を拭って、震える唇を強く噛んで我慢した。「今度は私タチで旅の行く先を決めて、ユウスケを取り返して、」


 取り返した後、2人で小さな家を建ててそこでずっと暮らそう、

 私のそんな想いは、たぶん旅に疲れていたからだと思う。


「・・・・・・・」


 士クン、ディケイドはずっと私の顔を見ていた。早く素顔を見せて欲しかった。

 ディケイド、

 私はあの夢の中ではじめて見たディケイドの顔と、そう言った私を思い出していた。


「友情とは、友の心が青くさいと書く。」


 もう1人の仮面ライダー、ソウジさんが片足を引きずってディケイドの肩に手を置いた。結局一生このままで生きていく事になるんだ。ソウジさんはそれでも強がって精一杯の手向けをくれたんだと思う。

 ディケイドがゆっくりと振り返った。


「そう言えば、おまえにはあの時借りがあったな。」


 信じられない事が起こった。

 士クン、いやディケイドがもう1人のライダーに向かって大きく足をすり上げ蹴り込んだ。ソウジさんは大きく仰け反って倒れ込んで、その衝撃で異物になった右足がボロボロに砕け散った。


「ディケイド・・・・」


 あの夢も風が耳元でうっとおしくて、煙の匂いが煩わしかった。


「じいや、戻るぞ。アジトへ。」


 私の方へ向かってディケイドが叫んだと思った、でも声をかけたのは私の掴んだ手で袖が湿っていたお爺ちゃん、光栄次郎の方だった。


「ごめんよ、夏海、本当の孫でもかまわないと思ってたんだ。」


 光栄次郎が袖を強く振りほどいて、ディケイドの元へ歩み寄っていく。


「ハッ!大首領!」


 お爺ちゃんの別人の声が私の耳を犯した。

 孫じゃなかった、じゃあいままで私はなんでお爺ちゃんと思っていたんだろう、お爺ちゃんがお爺ちゃんじゃなかったら、私の本当の家族はどこなんだろう、思い出せない。


「士クンっいや!」


 私は誰に縋るともになく士クンの名前を叫んで手を伸ばしていた。

 ディケイドと光栄次郎の目の前にオーロラのカーテンが現れて呑み込んでいく。


「夏海、全て忘れろ、もう会う事は無い。」


 手が届こうとしたその時、カーテンがディケイドを消した。私はずっと、ずっとずっと手を伸ばし続けていた。

 風が耳元でイヤな音を立てて、膝を着いた地面はごつごつ痛くて、まだどこかで臭い煙が漂ってて、見渡す限り緑も人の家も無い荒野だった。

 私はいままで何をしていたんだろう、私の家族や私の友達、士クンに会う前何をしていたんだろう、思い出せない、思い出せない。


「ディケイドっっ!」


 私どうして、いままで自分の記憶が無い事を不思議に思わなかったんだろう。


(完)

5 カブトの世界 -クロックアップ- その37







 晴れる砂塵の中心は大きく抉れたクレーター中央。

 右腕を軽く上げるだけで構えるその者は、マゼンダのボディが硬質なシルバーを基調としたカラーへ上塗りされ、複眼は逆にマゼンダに発光。もっとも目を引くのが斜めに走ったゼブララインに代わり配された9枚のカード、左肩から胸を横断して右肩に達するマゼンダレールに乗って9枚の、それまで巡った世界のライダーの顔の描かれたライドカードが並ぶ。だがカードはもう1枚ある。それは額、今のディケイドの姿のカードが装着されている。そのカードに描かれたディケイドの額にもカードが着けられ、そのカードのディケイドにもカードが、無限のディケイドがそのカードには描かれている。バックルのドライバーはベルトを伝って右腰にカード差し込み口を空けた状態で移動、ディエンドから貰った元の位置にケータッチが差し代わっている。これこそ『ディケイドコンプリートフォーム』。歩く完全ライダー図鑑だ。


「ツ・・・・カ・・・・サぁ!」


 蹴撃したクウガ、その攻撃力はディケイドを伝って地面を抉り、大気を揺るがしたが、ディケイドコンプリートの右腕一本で弾かれ、顔面から突っ込んで土を咬む。

 起き上がったアルティメットクウガの硬質な口元がその時初めて開いた。


「オレは、おそらく今のおまえには勝てない、ユウスケ。」


 吠えたクウガの背後に既に立つディケイド。

 賺さず振り返り右前腕を再生させ直刃状に延ばし振り抜く。

 手応えの無い残像が立ち消え、ディケイドの姿が完全にクウガの視界から消える。


「だが今おまえの前に立っている者には、ユウスケ、おまえは勝てない。なぜなら、」


 遙か遠くから士とユウスケの名を叫ぶ女の金切り声がする。

 クウガの聴覚がそれとは別に、風が揺らぐ低音を捉え振り返る、しかし既にディケイドの姿はない、反対方向から再び低い唸りを捉える、やはり振り返っても姿を捉える事ができない。


「なぜなら、これはオレ達の旅そのものだからだ。オレ達の積み重ねに、オレ達が勝てるわけがないんだ。」


 クウガ、もはや目で捉える事を諦め、俯いたまま動かなくなる。そうして徐に左拳を握りしめながら上げ伸ばし、ある一点を指し示す。

 発射、

 左前腕が胴から切り離れ、噴流を上げながら射出される。

 突き当たる腕の前面に現れるディケイドの姿、踏ん張るディケイドの足が地面を引きずる。

 動きを止めたクウガがゴウラムに変身しながら今度はその身ごと突っ込んでいく、

 その容積の数百倍ある噴流を上げる腕を片腕の握力だけで潰して勢いを止めるディケイド、

 既にゴウラムが鋏角を拡げ眼前に迫る、

 捕えられるディケイド、捕らえられながら直上を一直線、

 ゴウラムの大気を切り裂く音がディケイドの耳に劈く、だがある瞬間その音の一切が消える、ディケイドはもはや雲が下にしか見えない事に気づき、地球のゆるやかな弧と大気に色がある事をはっきりと見て取った。

 鋏角がゆるんでディケイドが落下していく、

 跳躍頂点でゴウラムはクウガへ、

 落下していくディケイドに蹴撃で加速、

 互いの姿が摩擦で灼熱、

 激突する大地、

 クウガが離れても受けたディケイドの勢いは止まらず地面を一直線に抉る、

 50メートルを越える土の山が半月状に盛り上がる。

 震動が崩壊した電波塔の残った家屋を総崩れさせる。


「ツカサっっっっっっっ!」


 瞬く間に腕が体内から物質変換されるアルティメットクウガ、今度は両腕を射出、

 爆炎あげて土盛りへ突撃する2つの前腕、 着弾と同時に消し飛ぶ土盛り、中より現れたディケイドの胸に2つとも食い込んでいくクウガ前腕、


「ユウスケ、いくぞ。」


 さらに噴流をあげる前腕にしかしディケイド、まるで意に介さず歩を進め、クウガへの間合いを詰めていく。

 クウガは徐々に腕を再生させ身構えている、

 歩み寄りながらディケイド、クウガ前腕を握り潰して噴流を止め祓う、

 ディケイドの胸に二つのクウガの紋章、ディケイドはそれを気合い一つで消し去った、

 3メートル、2メートル、1メートルまで間合いを切ってディケイドが足場を固めた。


「ツカサぁ!!」


 クウガの拳が鎌のように振り上がる、


「ユウスケっっ!」


 既に上体が沈んだディケイドの拳がアマダムへ。

 そのたった一発だけだった。


 ツ……カ……サ…………ッ!


 クウガのアマダムがバックル内部で縦に割れる、地に崩れるクウガ、悶え苦しみ、体を土に塗れさせる。


「終わりだ、ユウスケ。」


 悟ったディケイドはケータッチからカードを抜く。ボディがあのマゼンダピンクに修復された形で戻る。その顔も仮面に覆われた。


 ツ……カ……サ…………


 震えた手をディケイドに伸ばすクウガ。


「立てるか?」


 それは攻撃かもしれないがしかし、構わずディケイドもまた手を差し出した。

 上体を持ち上げるクウガ、その背に突如としてカードが刺さる、


「返せ海東!」


 瞬時にしてそれが、ディエンドの投擲した『ケルベロス』のカードである事を見て取るディケイドは、しかし同時に銃撃を喰らった。

 宙に浮くケータッチ、ディケイドの手を離れ、なにか透明な存在が持ち運ぶように宙を流れて、ディエンドの手元に収まる。もう一方の手には『ケルベロス』ともう1枚のカードが既に握られている。


「いやだなぁ士、コレをディエンドが管理する仕様にしたのは、そもそも君じゃないか。」


「私タチのユウスケを返して!」


 目を腫らした夏海が栄次郎の手を引く形で駆けてくる。


「おやおや、むしろ感謝して欲しいな君達。アルティメットクウガはあのままだとアマダムの暴走でどうなっていたかわからない。このエネルギー、ボクのお宝にさせてもらう。」


 ケータッチを自身のバックルに収めたディエンドは、ディケイドを威嚇しつつもカードをドライバーに装填、


『ATTACK RIDE INVISIBLE』


 銃撃が止んで一気に間合いを詰めるディケイドの拳がディエンドの残像を掠めた。


「海東・・・・」


 ディケイドは自分の握り拳を見つめるしかなかった。

 電波塔は既に跡形無く、大地はさらに巨大な瓦礫で散乱している。風は絶えず砂塵を巻き上げ皮膚に細かく掠り、空は黄色みがかった白。どこを見ても緑の見えない世界が、ディケイド達が今戦った跡だった。


「士クン・・・・・・」


 息を切らし、その柔らかい頬に土がついた夏海は、ディケイドに伸ばした手の先に、あの2眼のトイカメラを掴んでいる。

 ディケイドはしばらく夏海の顔を見つめていた。表情は分からない。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その36







「スゲー、クレーターになっちまってる、、、、」


 衝撃波に身構え、必死になってトレードマークの中折れ帽を抑え、ついでに片足の不自由なライダーを1人支えていた男がいた。


「悪い事は言わん、早く逃げた方がいい。」


 カブトは片足で衝撃に耐え切った。むしろ隣のカジュアルスーツの男を片腕で押さえ込んでいた程だ。


「悪い事は言わね、アンタが逃げた方がいいぜ。あの2人を止めねえといけないからな。」


 翔太郎は、既にカブトから自身のドライバーを掏り取ってヒラヒラと見せびらかした。


「お婆ちゃんが言っていた。身の程知らずの取り越し苦労程厄介なモノは無い。止めておけ、2人に任せればいい。」


「おめえみてえなキャラクターはな、風都じゃ吐いて捨てる程イんだからな、慣れてんだこっちは。」


 といいつつ翔太郎はカブトから手を放してベルトを巻き、今時嵩張りそうな青い携帯の方へ既に集中していた。


『興味深い。だが翔太郎、今回のケースは……』


 メモリをペン回ししていた手を止める翔太郎。


「おめえもかよ!・・・・亜樹子がどう・・・・、オレは依頼っ、・・・・分かったぜ相棒、おめえがそんなに押すなら、今は様子見だ、いいか、もしなんかアブねえようならオレは生身でも行くからないいな。」


 翔太郎はカブトへ振り返り、アワアワと口を空けて指差す。


「風都じゃ、相棒やおめえのようなやつはゴマンといるんだ、オレはもう慣れっこさ。」


5 カブトの世界 -クロックアップ- その35







「オレが旅に引きずり回した・・・・・・、オレが作ったというのか最強の敵を・・・」


 ディケイドの喉から顔面、並び両掌から物質変換が蝕んでいく。


「ツ、カ、サ…………」


 目元に精気が無い。ディケイドにはその猛々しい呼吸が耳障りだ。

 アマダムから朧気のように光が放たれ、アルティメットクウガの体中に入った裂け目のようなラインもまた光り出す、そして腕先のピックもまたマゼンダに輝いた。

 マゼンダ?

 それはアマダムとは全く違った光だった。

 爆破、


「ツカ」


 吹き飛ぶアルティメットクウガ、打ちのめされるディケイド、クウガの右前腕がマゼンダのエネルギーで暴発し、砕け散る。砕け散った欠片と共に数十あったライドカードもちぎれ飛ぶ。クウガはマゼンダのエネルギーが未だ蓄積されて身悶えし、ディケイドは顔面の直撃以上の衝撃で放心した。


「オレたちの、旅が・・・・・・」


 いままで積み重ねてきたなにもかもを、積み重ねてきた2人で破り捨ててしまった、旅をした業?次元を越えて世界を変えてきたそれがツケだというのか?

 だがその士の間隙もほんの一瞬に過ぎない。

 たった1枚満足な状態のカードを手に取るディケイド。“COMPLETE”のロゴが入り、今やディケイドを含む10のシンボルが輝く使途不明だったあのカード。


「海東、そこにいる事は分かっている。」


 私の記憶を返して!いったいどうして!どうして!

 取り出せ、こいつの頭から。

 おのれディケイド、またオレを殺す気かぁぁ!

 次の世界の奴を用意しろ。

 朦朧とするディケイドはしかししゃがみ込みながら叫んだ、


 オォォォォォォォ


 ディケイドの視線はクウガがマゼンダのエネルギーを振り払って高く舞い上がる軌跡を追っている。


「やあ、士。後でちゃんと報酬は貰うよ。」


 無空より出現する場違いな程屈託の無い声、シアンカラーに身を染めたディエンドがインビジブルを解いて、夏海に程近い、ディケイドの背後より卑屈に笑いながら、自身のバックルを外す。バックルはほぼ長方形、その表面積の大部分を占めるディスプレイはタッチパネル、ボディはそこから両サイドに伸びシアンと黒のストライプ。これこそこの世で唯一のアイテム『ケータッチ』。


「よこせ!」


 士の短く威圧的な口調に、苦笑で誤魔化して投擲するディエンド。

 既にクウガは跳躍頂点から、蹴撃の態勢、下角65度で降下している。

 片手で掴んだディケイド、COMPLETEカードをケータッチの中に差し込むと、画面にカードの模様が浮かぶ、ボディのシアンもマゼンダに変わる。浮かんだ9つのライダーのシンボルを順になぞるディケイド。


『KUUGA AGITO RYUKI FAIZ BLADE HIBIKI KABUTO DENO KIBA』


 地響きがする、大気も揺れる、はるか上空クウガの躍動がこの段階で既に伝わってくる、砂塵が舞い立ち渦となる、ディケイドを周囲から隠す、


『FINAL KAMEN RIDE DECADE』


 直撃、

 砂塵の渦の中に突撃するクウガ、

 混濁した大気が爆音と共に周辺の人々に吹き付ける、


「ツサカクン!」


 視界の取れないままその長い黒髪が靡き、衝撃波紋が地面を伝って陥没していくのに驚いて栄次郎に必死に縋り付く夏海だった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その34







 どうして私にこんなものを見せるの?

 2人が戦ったら、もうあの夢の通り、世界が破壊されてしまう、どうして、こんな事をするの、2人共どうして戦いをやめないの?バカじゃないの?

 私はいつのまにか耳を塞いで、目をを閉じた。


「大丈夫、まだ世界は破壊されないよ。」


 お爺ちゃんにしがみついた時、息が上がって自分が震えているのが分かった。喉の奥が今でもビー玉が入っているように詰まってる。お爺ちゃんは泣きすがる私の髪を両掌でいつまでも撫でてくれた。


「あれは、カードが守っている。士君を。」


5 カブトの世界 -クロックアップ- その33







 恐れるだけの歴史をゼロに巻き戻す

 英雄はただ独りでいい

 今、あの崖を飛び越えて

 クウガ 声無き声が

 クウガ 君を呼んでる

 クウガ 強さの証明

 No Fear No Pain

 壊す者と護る者

 No Fear No Pain

 答えは全てそこにある

 頂上疾走、オレが変えてやる

 超変身 仮面ライダークウガ






 黒い影がユラユラと力無く立つ。複眼にもアマダムにも精気が無い。

 アルティメットクウガ。

 その名を対峙するカブトはまだ知らない。


「お婆ちゃんが言っていた。人が歩むのは人の道、その道を拓くのは天の道。」


「待て、触れるな!」


 ディケイドの制止も聞かず、既にモーションに入り消えるカブト。

 刹那、ディケイドの後方から爆音が轟く。アルティメットが刺さったコンクリートの柱に激突した。


「感覚が、ない!?」


 振り替えると当然カブトがいる。


「いわんこっちゃない。らしくない。」


 カブトは倒れ片足を押さえ呻いている。踵から腿の半ばまでが光沢を帯びた金属質に変換してしまっている。

 手を差し出すディケイドの手を振り払い、もはや肉体ではない右足を支え棒のように不器用に立ち上がるカブト。


「知っているのか?」


 一生残る深傷を負ったカブトは息切れが収まらない。


「奴はオレが決着をつける。そこにいろ。」


 言って振り返った途端だった、

 パイロキネシス、

 顔面で悶絶するディケイドが膝を屈した。

 そのディケイドの視界には、既に音も無く懐近く立つクウガのアマダムが見える。

 クウガは首を掴もうとして横に空振り、


「ユウスケ!」


 ディケイド、反射的にアマダムを打つ、


「!」


 表情なくただ後退りするクウガ、この時アルティメットクウガの全てが停滞する、


「オレが、」


 ディケイドのワンツー、


「戦ってやると、」


 間合いが空いたのを見計らって、


「言っている!」


 一足入れて蹴り、

 クウガはさらに後退、その足が水音を立てる、


「変わった」


 ディケイドもまたその変化した風景、静寂な湖面に立ち、互いの波紋が交差する。葉緑素の臭みがし、羽虫が微睡んだ大気に溶け込んで挙動が無い。そう羽虫すら気づかなかった。


「いない」


 ディケイドが目を離したのは瞬きする間も無い。そのコンマ何秒にクウガを見失い、音も無く水面の軌跡が回り込んでディケイド後背へ伸びるのみ。

 振り返った刹那、


「くそ」


 顔面を躱したつもりでも勢いだけで足が宙へ浮いている。飛ばされて湖面に大響音を立てる。羽虫や鳥が一斉に羽ばたき静寂がかき消される。クウガのヒッティングから戻すまでがあまりに疾く自然体のままの不動にしか見えない。


 ゲホ、


 水面に身を落とす、よく見ればマスクの半分が銀の光沢に溢れた別の物質と化している。銀の部分がボロボロと崩れ、士の素顔が露出、同時にマスク内に浸水して慌てて起き上がるディケイド。


「足が!?」


 ディケイドの踏む水音がかき消される、音を立てる水がクリスタル状の物体に硬質化、クウガは仁王立ちのまま、足から湖面全ての水を物質変換させた。さらにクウガ、ディケイド周りのクリスタルだけ残して全てを右前腕に吸収、4メートルはあろうかという透明なランスを振りかぶる、ディケイドは動けない、


「ユウスケ!!」


 叩きつけられるディケイド、

 クウガはランスを360度遠心力の限り叩きつけ、ディケイドの胸装甲を砕き、士の大胸筋が血まみれに露出する。ランスもまた砕け散った。


「………ツカサ…………」


 額からも血が一筋流れる士の耳には、クウガの呼吸がそう聞こえてならない。だが明らかに幻聴ではない奇声がディケイドに降りかかってくる。


「ディィィィィィケイィィィィィドゥゥゥゥ、いくつもの世界と私を破壊してきた罪、償って貰うぞ!」


 いつのまにか元の電波塔倒壊跡に倒れるディケイド、クウガはその瓦礫の上を踏みしめゆっくりと間合いを詰めてくる、クウガの先のカブトはどういうわけか先に倒したWの中折れ帽が肩を貸し、背後には夏海が栄次郎の胸に縋って震えている、そして鳴滝=DDは崩れかかった電波塔施設の上に立ち狂喜に悶えている。


「ユウスケ・・・、夏海を泣かせて平気なのか、あいつが目を背ける事なんて、無いぞ、」


 ごくごく擦れた小さな呻きを上げる士、

 クウガの4本の角が、光沢に煌めく。


「まず貴様のトリックスターを破壊する、そして貴様の存在を消し、貴様の臭みがついた世界を清掃してやる、その為のアルティメットクウガ、重心バスターを。ディケイド、貴様はもう手も足も出ないはず、光線は全てアマダムが吸引し、触れれば物質変換だ、その為に私はライダー3体使って物理的な技のキレで対しやっとゲットしたのだぁ、貴様では、キサマではできまぁぁぁぁ」


 絶叫するDD、

 クウガはいつのまにか制止している、

 ディケイドは晒された片目でクウガだけを凝視して立ち上がる。


「オレの命、ここで終わる、かもしれない、だが鳴滝、おまえじゃない。」


 バックルを両腕を使って開く、バックルが90度回転して、カードリーダーが表れる、ブッカーを装着した状態から見ないでカードを1枚、装填、腕を交差させるようにバックルを元に戻す、


『FINAL FOAM RIDE kukukuKUUGA』


 変形するのは精気のないクウガ、頭が後方にトイギミックに倒れ、背中に甲羅が発生、四肢が整頓して鋏角と4つの足、甲羅が割れて翼と化し飛翔、


「はぁ!」


『FINAL ATTACK RIDE kukukuKUUGAaa!!』


 宙を周回するクウガゴウラムに飛び乗るディケイド、ブッカーをソードモードに構え起つ。


「バカァなぁぁ」


 一直線に突撃するディケイドアサルト、

 三つの鋭角の刃がダークディケイドを刺突、掬い上げ、はるか直上へ突き飛ばす、宙返りし、ディケイドが落とされる形で着地、宙でゴウラムが変形してクウガに戻り並び立つ。


「そんなぁぁぁぁぁぁぁ」


 落下してくるのはドライバー、ディケイドのそれではなくDD、落下の衝撃で砕け、小さな澄んだ透明な珠が転がる、鳴滝もまた帽子とメガネだけの全裸で紙ペラのようにクルクルと落下し俯せで腹打ちバウンドして埋まる。


「そんな・・・バカな・・・・、また私を殺すのか・・・・・ディケイド・・・・!」


 倒れる鳴滝は、転がるトリックスターに手を必死に手を伸ばした。喉の限り叫び、目が血走り、毛細血管の隅々まで行き渡らせて赤面させて手を伸ばした。だが、触れようかしまいかという刹那、その眼前で破裂するトリックスター。

 一気に血の気が失せると同時に、その露出する毛穴という毛穴から泡が吹きだした鳴滝は、帽子とメガネだけを残して大気に溶けていった。


「奴は、何がしたかったんだ・・・・」


 ディケイドは、一瞬期待した。つい先の体験も引きずっていた。だが生半可な自信を、現実は笑う。

 クウガに振り返るディケイド、


「士、そのうっとおしい彼は、心を完全に閉ざしたよ。」


 クウガの視線を落とした複眼に未だ精気はない、アマダムも光の反射すらなかった。既に腕が動いて首を掴みにきている。


「ヤバぃ」


 咄嗟にブッカーで構える、

 反射でクウガがその刃を握る、

 握った先から物質変換、

 手を放してしまうディケイド、


「知らないよ士。」


 みるみる内に腕と一体化した二つ叉のピックに変化するクウガの右腕、腕はそのままピックが伸び、ディケイドの首を挟む。


「んっ」


 喉を押さえつけられ、抗って両腕でピックを掴む。武器も全てのカードも失ったディケイドの指先が、徐々に物質変換に蝕まれていく。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その32







 カブトが運んできた人達の様子を見ていたお爺ちゃん、あの姿を見て急に私の元にやってきて、なにかわめいて私の手を引っ張っている。

 あの時、ユウスケと士クンがはじめて出会った時、私はイヤな予感のまま叫んでいたっけ。

 今、イヤな予感がそのままの姿で私の前に現れた。

 どうしてだろう、声が出ない、

 こんなに震えているのに、こんなに涙が出ているのに、喉の奥が詰まって声にならない、

 もうどうしようもない、

 私は、絶望しているの?


「ぉうわ」


 私の膝に中折れ帽が当たった。眼前にカジュアルなスーツを着た士クンと同い年くらいの子が転がってきた。ライダーだった人。 私、咄嗟に帽子を拾っていた、そして起き上がるその人に渡していた。


「ねえ、アナタ!ライダーなんですよね!あの2人、士クンを、士クンとユウスケを戦わせないでっ!あの2人が戦ったら、戦ったらっ」


「落ち着けそこのかわいい子、あの下品なピンクが門谷士、ユウスケはあのオレの顔入れた奴か?」


 私は黙って、あの黒いクウガを指した。


「2人が戦ったら、世界が破壊される!」


 私の動悸も脈の乱れも止められなかった。たぶん大声で叫んだんだと思う。士クンが、一度だけ私を見た。

 その人は私の唇に一本指をあてがった。


「落ち着けってかわいい子、とにかくここは逃げろ、そこの爺も。確認だが、そりゃ依頼だよな?」


 このガキ何言ってんだろ。


「依頼?」


 このガキ逐一かっこつけて怒らせたいんかい、


「オレゃこう見えても、探偵、なんだ。依頼なら受ける、ぜ。」


 なんでもよかった、肯いた。


「世界の破壊者を倒す事が世界の破壊・・・メンドくせぇ、フィリップに聞くしかねえ。スタッグフォン通じんのかよココ。」


 ガキはブツブツ言いながら中折れ帽を被り直した。そのキザったらしいポーズが癇に障る。大きすぎる衣着てるガキ。でも私、依頼?してしまった。


「夏海、危ないよ。」


 そういえばずっと隣にお爺ちゃん、いたんだ。私、ひさしぶりにお爺ちゃんの顔を真正面から見た気がする。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その31







「鳴滝、とか言ったな。本当におやっさんを連れてきてくれるんだろうな。」


 まだその時点での『仮面ライダーW』は、右半身を風を象徴する緑に、左半身を切り札を隠す黒で彩っていた。Wの特徴である片目のどちらかが明滅しながら喋る様は、そのシンプルな面持ちと相まって不気味である。今は左の複眼が明滅している。


 ワァハハハハハハハハハハ


 DDは相変わらずふざけたハイテンションで笑い続けている。


『翔太郎、念を押しておくけど、ボクはこの男に頼るのは気が進まない。』


 Wの右目が明滅し、先とはやや違う声色が流れる。2つの声、2つの意志、2の色でひとつの実体を持つ、それがWの意味だ。


「亜樹子を、おやっさんの娘を、泣かせたくねえんだ!」


 黒い方の左腕を軽くスナップさせ、100メートル5コンマ2秒でマフラーを靡かせ疾走をする。


「煩いっ、爺ぃの方へ行ってろ、」


 と言って夏海の背を推す門谷士は、眼前のWを見据え、ベルトを巻く。


『KAMEN RIDE DECADE』


「どんどんイクぜ!」


 打ち込んでくるW、軽く捌いて逆撃を加えるディケイド、だが既にWは合わせている、クロスカウンター、両者とも後退り、


「仮面ライダーW、『ガイアメモリ』の組み合わせで、9つというもっとも多様なフォームで柔軟に全てに適応できる、だがそのもっとも特徴的なのは、」


 ディケイド、ブッカーをソードモードへ、ステップして蹴り込んでくるWに待ちから伐つ、軸脚の腿に入る、


「ぐぉ」


 ディケイドの頭を越す形で宙を横回転、転倒するW、追い打ちをかけるディケイドを、倒れながら脚捌きだけで威嚇して反動で立ち上がる。その動きはストリートパフォーマーのよう。


『翔太郎、対手の攻撃を防いで手詰まりにしてくれるだけでいい。』


 右目が明滅する。同時にWの左腕がベルトからメモリを一つだけ取り出す。


『メタル』


 奇妙なシャウトは『ガイアメモリ』から。


「おっしゃ」


 左目が明滅して、銀に輝くメモリを差す。


『サイクロン メタルぅ!』


 左側に差すメモリのシャウトの方がやや感情的だ。

 華麗なビートがベルトから流れ、Wの左半身が闘士の意志を示す鋼色へ刷り変わる。


「あれも姿が変わったという事なのか、W。」


 Wの背から出現する一振りのロッド、全長を上回る長さに至る鋼鉄の『メタルシャフト』を軸回転させるW、ディケイドがブッカーで受け止めるもその高速のスピンに弾かれ、シャフトの反対側に即座に脇を伐たれる。


「速い、」


 呻いて蹌踉けるディケイドを尻目に、


『ヒート』


 続け様右手でメモリを入れ替えるW。


『ヒート メタルぅ!』


 軽快なビートを響かせて今度は熱き意志を示す赤に右半身を染めるW、シャフトはそのままやや両腕を開いて握り込む。


 伐つ、


 ガードを弾かれ伐たれるディケイドは一瞬脳震盪を起こす。


「なんてパワーだ、」


 それでも踏ん張るが、一振り一振り強力なシャフトの同方向からの攻撃に、ブッカーでなく、左の肩でガードするディケイドはしかし、ジリジリと後退る。


「このままブレイクだ。」左目が光る。


『まだ彼には余力がある。焦るな翔太郎。』右目も光った。


 連射するブッカー、


「2人で1人のライダー、知っているぞ。」


 至近でガンモードを食らってたじろぐW、持ち直したディケイドはさらに、


『ATTACK RIDE BLAST』


 さらに連射してWを引き離す。


「くそ、」


『だから、手を抜くな翔太郎!』


 片膝を地に着けるW。ディケイドの攻勢はカードの連動によって続く。


『ATTACK RIDE ILLUSION』


「分裂しやがったっ」


 Wは唖然とする。はじめて見るディケイドの分身、視界270度に広がるディケイドイリュージョンを。


『慌てるな翔太郎、検索は既に完了している。』


 右目が明滅すると同時に、バックルからベルトを二つとも差し替えるW。


『サイクロン トリガーぁ!』


 右が風を象徴する緑、そして左は銃撃手の静かなコンセントレーションを表す青に塗り代わる。同時に青のボディ胸元にSMGクラスの銃が出現。その名も『トリガーマグナム』。


「風が、」


 突如十数に分裂したディケイドに横殴りの強風、いやWを中心に緑の渦が巻いている。堪えるすべてのディケイド、つまり動きが停滞した。


「ぶっ放すぜぇ。」


 右腕一本抱えたマグナムで扇状に弾幕、極限まで速力を強化した弾丸が一瞬で数百発射され、十数のディケイドが1体を除いて全て消え跳ぶ。


「が」


 残ったディケイド、本体が宙を舞って転がった。だがその勢いを殺さず屈みながらの姿勢になったと同時にカードを差す。


『ATTACK RIDE INVISIBLE』


「消えた、どうする相棒、ガジェットは持ってきてねえぞ。」


 ディケイドの姿がWの視界から消える。一瞬狼狽えるW、


『落ち着け翔太郎、彼は手詰まりになると数あるカードの内、自分のオリジナルの技を選択し一旦場を制する。想定済みだ。』


 左のメモリを抜き、マグナムセンターにあるスロットに差す。


『トリガーぁ!マキシマムドライブっ!』


 メモリから発せられる渋い音声と共に再び風がWを中心として渦を巻く、マグナムを片手で上向け、その渦をゆっくりと臨むW、


『FINAL』


『気流の流れが乱れている一帯がある、それが彼だ。』


『ATTACK』


「いねえ、いねえぞ相棒、」


『RIDE』


 ディケイド必殺の光の壁がWまでの道を展開、それは、


『想定内だ翔太郎、上だぁ!』


 W直上、さらに上に向かって整列する光の壁が視界に入る、


『dededeDECADEee!』


 はるか高々度から直下してくるディケイド、


「『トリガー、エアロバスターっっ!』」


 対空迎撃、ディケイドに向かって直上へ小型の竜巻が数条射出、


「ぐぁ」


 地上スレスレで巻き起こる爆破、吹き飛ばされるW、跳ねるディケイド、


『ルゥナ、メタルゥ!』


 転がりながらもWの右が幻想の月をイメージする金色、左が闘士の鋼色へ塗り代わり、同時に先のメタルシャフトも出現、転がる電波塔の残骸に突き刺し、爆圧を堪えた。


「これがW・・・」


 一方瓦礫の起伏に背を強く打って窒息気味のディケイド、


「縛につきな破壊者。」


 Wがシャフトを遠心力を込めて振る、すると不可思議な事にシャフトが軟質化し、それどころか容積が伸び、まるでムチかヘビのようにディケイドへ巻き付いた。拘束され身動きがとれないディケイド。


『翔太郎、彼にトドメを刺した方がいい。捕らえて鳴滝に引き渡す君の考えは甘い。』


 風すら無かった。


「戦士には向かないタイプだな。」


 Wに密着して紅いライダーが立っている。


「な」


 何者、と翔太郎が言う暇すら与えられなかった。意識する事すら許されず、顔面の痛みと共に翔太郎は宙を舞っていた。翔太郎の視界には、自分の気に入りのソフトフェルトハットが揺れながら地面に落ちている光景が映った。


「だらしがないぞ。」


 カブトが同時性を破綻させ急接、腰からWのドライバーを奪い、軽く装着者を吹き飛ばした。装着者の中折れ帽の青年は哀れ丁寧に扱いたジャケットを泥塗れにする。

 一方のディケイド、頭を上げて何かを認め、凝固した。


「おい、それどころじゃないぞ。」


 カブトに向かって語りかけるものの、視線は前方の一点を捉えて凝固していた。


「ディケイドゥゥゥ!最初からザコ2人に頼ってなどいないわ!やれ!アルティメッッットクゥゥゥガァァ!ブルぁぁぁぁぁ!」


 ディケイドとカブトの眼前に、黒い影が立っていた。深く深く塗り込められた漆黒と4本の角、肩アーマーと共に上に向かって角が伸び、それはさながら暗闇の中で明かりを灯した時できる影のよう。影は無機質に右腕を上げる、


 発火、


 2人のライダーの直近を数十という火球が突如わき上がる、もんどり打って転倒するライダー、


「ユウスケ・・・・」


 首を振るディケイドの耳に少女の黄色い声も聞こえてくる。その眼はカブトが立ち上がり、今にも黒い影に挑みかかろうとする姿を捉えている。

 ディケイドは、黒い影を、変わり果てた男の姿を正視する事ができなかった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その30







 カブトの両脇に抱えられた二人の男女で最後であった。全てが遅滞するカブトだけの世界。塔の上でディケイドと対戦していた二人を、バイクから降りようと犬のように片足を上げている栄次郎の横へ、他の人間と纏めて放り投げた。


『CLOCK OVER』


 正常に流れ出す世界。轟音と共に倒壊する電波塔、人間サイズのパイプが断続して降り注ぎ、パイプの落下が土砂と瓦礫、アスファルトを宙に舞わせて、その1つが門谷士の額に傷を入れた。


「他人から面倒をかけられるのは御免だ。分かっているのか!」


 カブトに気づいた士は、光夏海の頭を抱きかかえながら起き上がる。


「煩いっ」


 威勢の良さはカブトを安心させるに十分だっだ。対面を振り返るカブト。


「ごめんよ、君を倒せば、比奈ちゃんのお兄さんを助けられるんだ。君もまんざら悪くない訳じゃないみたいだし、遠慮なくイクよ。」


 そこに立つ一振りの片刃刀剣を握るライダーがいる。漆黒のボディに頭は赤のラインが入り、肩から肺を覆う形で腕の先まで黄色いライン、脇から足先まで緑のラインが入るライダー、ベルトに3つのメダルを装着する『仮面ライダーオーズ』が『メダジャリバー』片手にカブトの眼前に立つ。


「そんな言い訳程度の偽善を纏わなければ、おまえは世の中全てを見下せないのか?」


 鉄骨がカブトの頭上に落下、


『CLOCK UP』


「言い訳?君は何を、消え、」


 鉄骨が地面に落下して轟音と砂塵を発する、既にオーズの視界から消えているカブト、

 だが、オーズはタカの目を持っている。タカの目はカブトの同時性を破綻した動作を最後まで見切っていた。

 弾かれるメダジャリバー、

 掴むのはカブト、

 だがオーズ装着者の脳が判断する前に既にカブトは間合いに入り、腕が動く前に、肘一つ浮かせて片刃刀剣をもぎ取る。


『CLOCK OVER』


「ふんっ」


 振りかぶるメダジャリバー、

 至近でカブトを捉えるオーズ、至近から奪われた自身の得物で斬りつけられ後方へ跳ばされるオーズ、辛うじて踏ん張り立ちの姿勢を保つオーズ、


「くそ、アンク、メダル、奴の動きを抑え込むコンボで、・・・・・アンクいないんだったっ!」


『1、2、3』


「お婆ちゃんが言っていた。良い人間と、自分を良い人間と言う奴は天と地ほども違う。ライダーキック!」


『RIDER KICK』


 炸裂する右回し蹴り、

 トラの両腕を立てて頭をガードするのが手一杯のオーズ、折れるトラの爪、弾かれるガード、胴が割れる、顔面に皴、オーズ、勢い後ろへヨロヨロと下がる、

 そのオーズの後背より次元のカーテンが出現、オーズを呑み込み、この世界から消し去った。鳴滝は役に立たないライダーをイレギュラーとしてすぐに消す。


「アラタに、似ている。」


 カブトは対手が消えた事を認めて、自分の右の脛を眺める。深々と鋭角的に切り込みが入って、軽く出血すらしていた。


「奴に怪我を負わせた覚えはないがな。それとも対手の方が手強いのか?」


 カブトが首を上げる。

 そこに映った光景は、ディケイドが一本のロープのようなものに絡め取られた姿であった。実はそれが金属のロッドであると聞かされれば、カブトはさぞや驚いた事だろう。ディケイドと対峙する、今は金と銀でボディを彩った『仮面ライダーW』に。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その29







 3








 私は、いつもこうして士クンに守られてきた。

 士クンは私と瞳う合わせると、いつものようにすぐ目を逸らして逃げる。

 もうちょっとちゃんと視ろ、

 私はアナタが知りたいんだ、

 だけど、あの夢はなんなんだろう?昔起こった事?それとも予知夢?

 私の士クンへの静かな願望かしら?じゃあ私が殺されそうになったのもなにかの願望?


「ディケイド・・・・・・?」


 私達を攻撃してきた、あそこにも『ディケイド』そっくりな気色の悪い敵がいる。助けてくれた士クンをアレと私は混同していたのかもしれない。

 そうだ、きっとそうに違いない、

 士クン、悪くない、きっと悪くないです、士クンは私を、ずっと守ってくれていた私の・・・・・・、

 答えを教えろ、門谷士。

 もっと私を視ろ、ちゃんと視て、私が私の事を忘れるくらいに士クンの事で頭をいっぱいにしろ。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その28

『THEBEE POWER』

 Dカブトは殲滅を選んだ。

『DREKE POWER』

 いかにもと言わんばかりにチラつかせるハイパーゼクター奪取よりも、何をされるか分からない対手を討つ事を優先した。

『SASWORD POWER』

 不動のまま、形状はガンモード。

『ALL ZECTER COMBINE』

 同じく不動のままのディケイドに向けて、パーフェクトゼクターを両腕で構えるDカブト、

『MAXIMUM HYPER CYCLONE』

 だがその強大な咆吼がディケイドに直撃する事は無かった。

 自爆、

「なに!?」

 カブトが仰け反った、

「やはりな」

 それは2つのゼクター、ザビーとサソードのゼクターの突如とした自爆、

「なにをした!?」

 仰け反り思わずパーフェクトゼクターを放し倒れるカブトは、頭を振ってディケイドに叫んだ。

「音っていうのは便利だな。握り潰す事ができないゼクターの内部に浸透して破壊しちまうんだからなぁ。」

 既にあの響鬼の一撃は、サソードの身を焦がしただけでなく、余波を受けたゼクター2つの命脈を断っていた。

「キサマ・・・・・・・」

 立ち上がりそれでも動揺を見せないカブト。

「分かっているんだろう、ハイパーゼクターもお釈迦だって。これでおまえはオシマイだ。」

「聞いているぞ、別の世界から来た事もな。ならば別の世界のゼクターもあるはずだ。力づくで言う事を聞かせる。」

 ディケイドは既に1枚カードを装填している。

『KAMEN RIDE AGITO』

 ディケイドは黄金と漆黒の姿その身を変える。ディケイドが選んだのはアギト。

「だから、オシマイなんだ。ついてこい!」

 ディケイド-アギト、後ろ飛びで電波塔最上から地面へ一気に落下。戦場を移す。

「オレには、どんな姿も通用しない。付け焼き刃である限りな。」

『CLOCK UP』

 同時性を破綻させカブトもまた手すりを跨ぎ、両足を揃えてキックスタート。

『1、2、3』

 ディケイド-アギトの落下に追いつき追い越すカブト。両者の仮面の奥の視線が交差する。

「ライダーキック!」

 着地しディケイド-アギトに対空迎撃の脚を繰り出す。その一角にエネルギーが迸る。

『RIDER KICK』

 地下道の暗闇で奔流がディケイド-アギトへ炸裂、砂漠で横に跳ね2、3転し、森茂る浅瀬の河原へ俯せになる。

『CLOCK OVER』

 そうしてゆっくりと変転する世界を確認しながらディケイド-アギトへ歩み寄り、片足でその首を踏みつけるカブト。

「オレには絶対に勝て・・・・・消えた?!」

 だが砂利の音を立てるカブトの足裏、消えたと思ったほぼ同時に背後に殺気を感じるカブト、

「急所を外したぞ、焦っているなおまえ」

 交差する前腕と前腕、

 既に背後から右の一撃を繰り出しているディケイド-アギト、半身翻し受け止めるカブト、

「コイツの方が疾いのか?!」

 左を受け右に流し、右で仕掛け左で返される。両者の返し技の連続はあたかも申し合わせた組み手のように、ナチュラルなリズムに乗った舞いを見ているよう。

「おまえ、自分が致命的なミスを犯している事に気づいているか、ぁ?」

 カブトは後方に下がって転じてのカウンターを狙い、ディケイド-アギトは円を描く脚捌きで受けながらもあくまで重心を崩さない。

「オレは焦ってはいない、ミスもない!」

 ディケイド-アギトの左を自らの脇へ流す形でカブトが内懐へ半歩入る、右の裏拳で心臓を狙う、

「そのらしくない台詞で気づけよ!」

 アギトの2本の角が扇状に6枚へ展開、

 カブトの拳を右で掴む、それだけではない、掴んだままの右肘でカブト顔面へ、重心も掛けている、

「ぐわ」

 ヒット、仰け反り後退するカブト。頭を振ってディケイド-アギトを睨む。

「アギトとは、限りなく進化する力、だ。」

 深追いせず、対手を待って構えを取るディケイド-アギト。

「進化?・・・・加速し続けているとでも言うのか。」

『CLOCK UP』

 消えるカブト。

「ライダーキック!」

 ディケイド-アギト、脇を突き上げる衝撃に宙を舞う、世界が滝壺から体育館、南国の砂浜へと移り変わる、

「ライダーキックっ!」

 照りつける太陽を直視した時、既に上空から逆光の影がディケイド-アギトに向かって蹴撃を押し込む、

「カブト、」

 そしてディケイド-アギトは港の倉庫へ落下していく自分を自覚し、既に落下地点で、背を向け待ち構えるカブトの姿をはっきりと見た。

『1、2、3』

 ゼクターのボタンを3つ立て続けに押す、ゼクターから頭部へエネルギーが迸る。

「ライダーキックっっ!」

『RIDER KICK』

 軸足の指、足首、腿から腰を捻り、全身の体重を蹴り足に傾ける、

「焦りすぎだと、言っている!」

 宙にあってディケイド-アギト、姿勢を正し蹴り足を向ける、そのカブトとの軌道の間に2枚のアギトのエンブレム、1枚潜ってその落下速度が加速、2枚潜ってさらに加速、

「オレの進化は光より速い!」

 振り返り様蹴り足で半円を描くカブト、

 1号の時と全く同じだ、

 だがディケイド-アギトはなお加速する、

「バカなぁぁぁぁ」

 吹き飛ぶのはカブト、

 ディケイドのカウンターよりなお速く、ディケイド-アギトがヒィッティング。

 カブトが地を舐めた。

「どうした、おまえは決定的な差を見せつけて、オレに言う事を聞かせたいだろ、こいよ。」

「バカな・・・・・、クロックアップの領域なんだぞ・・・・・、いや、まだある、まだな!」

 立ち上がって蹴りに入るカブト、カブトの蹴り足を片腕で捌くディケイド-アギト、捌かれた足を反転させ逆サイドから、これもまた手首のスナップ一つで捌く、何十とそれを繰り返しカブトの足が錯覚を纏って数十に分裂しているよう、アギトの捌く片腕もまた数十に分裂、

「おまえは致命的なミスをしているっ、」

 均衡が破れる、

 だが吹き飛ぶのはディケイド-アギト、カブトの蹴り足が掬い上げられ、抉られる形で門谷士の身体が宙を舞った。ドライバーは腰から離れ路上フォークリフトに跳ね返ってカブトの足下へ。

「取った!おまえは所詮、そのベルトで借り物の姿を纏っているに過ぎない!」

「おまえは所詮、そのベルトで借り物の姿を纏っているに過ぎない。気づくのが遅すぎた。それがおまえの致命的な、ミスだ。」

 額から細く血を流す士は起き上がり様、掴んだベルトを肩に背負う。反動でカブトゼクターがベルトから離れ、ソウジを周回し始める。時もまた元に戻っている。

「なに!?」

 除装されるDカブト。ディケイドはソウジからベルトを奪う程に加速していた。

「なにより、おまえはオレを屈しなければならない。だがアギトは一撃で致命傷を与えない限り成長する、おまえはそのジレンマを事の最初から抱えていた。まだやるか?」

「お婆ちゃんは言っていた、全宇宙の何者をもオレの進化についてこれない!」

「進化だと!」

 士の眉が釣り上がった。

「ある男がいた。そいつは世界を敵に回す宿命を帯び、自分の女という居場所を守る為、敢えて孤独を選んで女から離れた。本当に強い男だ。」

「オレは、世界を敵に回そうと、どんな孤独に耐えようと、妹を取り戻す!」

「だが女は、男を世界から自分の持てる全て注いで守ろうとした。孤独に忍んでもだ。強い男は自分の強さが女を孤独にする事を知り、そして互いを守り合うより困難な道を選んだ。それは、生き物の進化を超えた、人の交わりの進化だ。ババアに寄りかかって自分の哀れを押し売りするキサマとは違う!」

「貴様は、何者だ!?」

 ソウジ、足下のディケイドライバーを士に放り投げる。

 士もまたライダーベルトを放り投げる。

 宙を交差して互いの手元に収まるツール。

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」

 ソウジ、ベルトを片腕と遠心力だけで装着、 士、ブッカーの振動を感じて、数枚のカードを取り出し、やや驚いてカードを見た、

「そういう事か。」

 ソウジ、カブトゼクターを手元に呼び寄せる、

 士、ドライバーを巻いて、カードを1枚投入、

「変身!」

『HENSIN』

「変身!」

『KAMEN RIDE DECADE』

 向かい合う両者に纏わり着く姿は、一方はメタリックの装甲、もう一方はショッキングピンクのスーツ、

 カブトはさらにゼクターの角を引く、

「キャストオフ、」

『CAST OFF』

 ディケイドもまた、1枚のカードを投入、

『FINAL FOAM RIDE kakakaKABUTO』

 カブトは装甲を飛散させてその人体に近いフォルムを晒す。

『CHANGE BEETLE』

「クロックアップ、」

『CLOCK UP』

 クナイガンを振りかざし、動作が遅滞したディケイドに向かって一直線、

 裂ける時空、

「なんだと!?」

 ソウジにとって見慣れた1本の紅い角が眼前から時空を割って突き込まれてくる、押し戻されながらソウジは、それが人間の容積程に巨大化したカブトゼクターである事に戸惑う、戸惑うカブトを引っ掛けながら巨大ゼクターは鋭角に上昇、上昇から垂直で降下、急降下でカブトの肉体を波止場に叩きつける。

 そうして巨大ゼクター、一旦上昇、宙を旋回し、そしてメカニカルなギミックで人の姿に変身、錘を外したように動作が軽くなったディケイドの隣へ着地、並び立つ。

「お婆ちゃんが言っていた、自分に勝てる者はただ1人、1つ先の未来の自分だけだ。」

 それは紛れもない深紅に彩られた一角の『仮面ライダーカブト』。ディケイドの隣にいるのも、対峙して波止場のコンクリートに皴を入れて伏しているのも同じカブト、カブトが同じ時に、同時に二人存在している。

「だけ?まだクロックアップが解かれていない、」

 ディケイドは全て遅滞している周囲と、その中でカブトと並んで対話できている自分とを見比べている。

「オレは自身を含めてあらゆる者を自在にクロックアップさせる事ができる。それが、おまえがオレにもたらした力だ。」

「ライダーキックっ!」

 眼前のカブトが立ち上がり跳躍蹴撃を仕掛ける。

「そしてその逆も然り、」

 宙にあるカブトの動作が突如遅滞、いやクロックアップが解かれる。

「いくぞ!」

 ディケイド、さらにもう一枚カードを差し込んだ。

『FINAL ATTACK RIDE kakakaKABUTOoo!』

 隣に並ぶカブトが再び変形、巨大なカブトゼクターとなって飛翔、停滞する眼前のカブトへ一直線、

 激突するカブトとカブト、

『1』

 ゼクターの1角に掬い上げられる形でカブトぐんぐん上昇、

 衝突する電波塔中央、

 煙を吹いて貫通、

『2』

「はぁっ」

 貫通し突き抜けるカブト、しかし巨大ゼクターは見られない、

 対面側に既にいる未来のカブト、

 対面側にいて宙で姿を戻しスピンキック、

『3』

 蹴り入れられ錐揉みしながら斜めに落下するカブト、

 その先に立つのはディケイド、

「ライダーキック!」

 ディケイドに並び立つ未来のカブト、

 互いの外側の軸足から足首、腿を捻り、両腕を振り、腰を入れ、内側の蹴り足を遠心力のまま振りかぶる、

 炸裂!

「ぐぉぉぉぉぉぉオぉぉぉレっっっっ」

 両者のエネルギーの奔流が注ぎ込まれる、飽和するエネルギーは圧倒的な光量を発して、落下してきたカブトは跡形もなく消失した。

「やったか!?」

 ディケイドは並び立つカブトを振り返る。

「ヤツは時空を割り、走馬燈のように次々と過去を覗く事になる。そこでヤツは過去に飛ばされた妹を見つける。1人で成人するまで必死に生き抜き、当たり前に友を作り、当たり前にパートナーを得て、そして子供を1人設けた。それから主人に死なれ、子供と別れ、老いた時、ある3人の子供を拾って養う事になる。ヤツはその時はじめてお婆ちゃんのゆりかごにずっといた事を気づくのだ。」

 既に変身を解く両者。

「ババアがな、」

「ヒヨリが子供を産んだ時、オレに見せた事の無い笑顔を愛する者に向けていた。オレは激しく嫉妬し、またその幸福な顔を守ってやりたいとも思った。」

 士はまたしても出し抜かれて口元を歪める。ソウジは天に向けて、人差し指を高く高く伸ばしている。

「ババアはこの世界の重心だった。バハアが別の時間に飛んでしまった事で、この世界の本格的な崩壊は始まっている。」

 士が語るそばからソウジは、腰の裏より二つのアイテムを取り出す。よく見るとハイパーゼクターと、あのコーカサスのゼクター。

「妹が過去に飛ばされる直前の時間に行った時、貰ってきた。この世界はもうどうにもならん。が少なくとも別の時間で、そうでない未来があってもいい。」

「そうか、おまえも飛んだんだったな。」

 士は散々である。

「この世界は崩壊する。だが、そんな中でも喜びも楽しみもある。オレはずっとこの世界を見ていくつもりだ。お婆ちゃんがそう決めたようにな。」

「オレは写真を撮る事だ。あれだけは上手くいかない。おまえは?」

「なんだ?」

「できない事だ。オレ達完璧超人にも一つや二つできない事があるだろ。誰にも言わないから言えよ。」

「オレには、そんなもの・・・・・・、逆上がりだ。」

 ソウジは視線を合わせず、顔面の毛細血管の血量が増加している。

「鉄棒?」

「アラタが悪い、あいつが軽々と先にやってのけてしまった。くだらないと思っている内に、ついにいままで一回も出来ないでいる。アラタが悪い。」

 士はそれを聞いて腹を抱えて高笑いしはじめた。ソウジは指を差してなにか必死に言い訳し、士の欠点を攻撃するも、士の笑いは止まらない。ソウジの顔面の充血はなお治まらない。

「ハイ、チーズ!」

 その背後から女の声が響く。振り返ると同時にフラッシュが焚かれる。派手な二眼トイを抱えた黒髪の長い少女が、門谷士に向けて微笑んでいた。夏海の背後には、ディケイダーをまだアイドリングさせている光栄次郎が皮ジャンをキメている。

「夏海・・・・・」

 士は不思議だった。あれほどいっしょに過ごしてきたごくありふれた黒髪の少女が、今日は何故か光夏海という名前から意識していた。

『私の記憶を返して!いったいどうして!どうして!』

 だが士は頭痛と共にフラッシュバックする断片的映像に苛まれた。

 トイカメラから出た写真を手ブラさせながら笑顔で士に歩み寄ってくる夏海。ソウジは小さめのジーンズのポケットに無理矢理両手を突っ込んで、士の動揺した顔に性悪にもニヤついていた。

「忘れモノです、士クン。」

 夏海は吊り下げたトイカメラを本来の持ち主に渡そうと首から外す。一旦頭から持ち上げて背中に回して長いストレートの髪の毛を潜らせて首を振ってほどく。揺れる髪の毛は軽く流れて、一瞬だが夏海のうなじが露出する。髪の毛を正して、シメの思い切りな笑顔で士にトイカメラを差し出した。全て計算ずくで女はこれをやる。

「夏、みかん……あのな……、」

 と言い辛そうな態度の士はそれでも辛うじて受け取ろうとした。

 だが、ショッキングピンクの2眼は、ついに士の手に渡る事は無かった。

『SCANING CHARooGE』

 爆裂する電波塔、

 上から3分の2が倒壊、

 士はまずなにより夏海の頭を包み込んで伏した。

 ハァッハァッハァッァァァァッッッッッ

「この不快な低い声は鳴滝・・・・」

 顔を上げた士、電波塔の倒壊で鉄筋が一面に広がり、砂塵が跳ね上がって数メートル先の視界が取れない。

「ディケイドゥゥゥゥゥゥおまえのぅぅぅぅぅぅ最後サイゴサイゴダァァァァァァ」

 引く程のハイテンションの声がする先に、辛うじて3人の影が見える。1人は今電波塔を切断した主で、やや短い片刃刀剣を振り下ろして刃を祓っている。1人は首から大きくなびくマフラーをしている。その間に挟まれた者の姿がもっとも士を驚愕させた。

「ディケイド・・・・・」

 士は知らない。鳴滝が同じドライバーを使って変身したダークディケイドというライダーを。