2013年2月2日土曜日

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その6





「お父ちゃぁん!」

 助けて、とまでは言ってはいけない事を知っている娘だっだ。
 そのアキコの腕を捻って盾にする包帯の女。

「あの大坂の女に産ませた子?私を止めたいなら、この子を犠牲になさい。私の来人や、あの貴方の相棒のように。」

 対面し、ただ銃口を向けるスカル、その硬質のマスクに表情というものは無い。

「おまえに、その子はやらせん。」

 一発、
 スカルの放った弾丸が、アキコの頬を掠め、包帯の女の肩を掠める。
 アキコの頬から血が流れ、目に大粒の涙が潤んだ。

「お父ちゃん撃つんや!どうせ私お父ちゃんの本当の子や無いもん、だから、私平気やもん!!」

 少女の肉体は見て分かる程震えていた。

「養女?まさか、この子が、そうなのね、荘吉、貴方娘としてこの子を傍に置いていたのね、これで全てが揃った、」

 包帯の女はそんな少女を強引に引っぱりながらジリジリと間合いを空ける。スカルはジリジリと間合いを詰める。

「この子は私のものよ、来るな荘吉!」

『スカル マキシマムドライブ』

「オレは、もう決断を鈍らせない。」

 スカルマグナムへ再度メモリを装填、充実する銃口の光、そのドーパント一体を葬り去る光弾が、アキコに向かって放たれた、

「なにすんだぁ!」

『ルナ メタルぅぅ!』

『メタルぅぅ マキシマムドライブ』

 その時、横合いからその紫の影の光弾を、無数の円環が自在に追尾して擦ってはUターンして再度突進を繰り返し、砕けては円環が分裂して突進、増殖する円環が少しずつ紫弾の軌道を逸らし、ついにはアキコと包帯の女が免れる位置で爆破、砕けない弾丸を横合いから逸らした、二人の長い黒髪が至近の爆風に靡く、
 飛びそうな帽子を抑え思わず人質から手を離す包帯の女、アキコは逃げるというより爆熱に仰け反って地面に倒れる、

『ルナ ジョーカーぁ!』

 そうしてW、左半身を黒く染めて右腕を伸ばし、スカルマグナムのバレルを上から抑え込み、スカルに詰める形で腕を縮める。

「どけ小僧」

「なにやってんだぁんた、娘を巻き込むのか!」

「決断するという事はそういう事だ」

「おやっさんがそんな事すんじゃねぇ!!」

 だがそんな二人を震動が襲う、

「ぉぉぁあぇあ!」

 それはギャリー、そしてメタルの咆吼、メタルドーパントが転倒したギャリーを再度起き上がらせた。大上段から振り下ろされる前輪を回避する二人のライダー、スカルは自らのスタッグフォンを取り出す、

「ムダよ荘吉、私が作ったもの、マスターコードは私が握っている、」

 包帯の女もまた同型のフォンを片手に握っている、メタルがヒートを抱えて動き出すギャリーに飛び乗った、ギャリーはスピンターンで包帯の女の円周の軌道で背後へ、包帯の女が再びアキコに手を伸ばす、

『ルナ メタルぅ!』

 右ボディを銀に染め、メタルの剛腕でスカルを絡め取りながら、出現したシャフトをあり得ない軟質な動きに10数メートル伸ばし、まるで撓るムチのごとく包帯女の側近地面を打ち、アキコに触れさせないW。

「未知数のライダー、いいわ、来人が回復してからその恐ろしさを味わせてあげる。」

 ギャリーの側面に捉まる包帯の女、ギャリーは二人のライダーにエグゾーストを向け逃走、

「待て」

 スカルがLMをようやく振り払って、マグナムを連射、だがギャリーの装甲はことごとく弾き返し傷一つない、

「うぉりゃ」

 LMがシャフトを伸ばしエグゾーストの一本に巻き付けようとする、

「うぉりゃぁ!」

 だがギャリーの頂に立ち、ロッドを振るうメタルドーパントがシャフト先端を弾き返した。

「くそっ」

 もはやスカルギャリーを捕らえる術を失い、立ち尽くして睨むしか二人のライダーにはできなかった。
 黙って変身を解く両者は共にメモリをバックルから抜くスタイルだった。

「馬鹿野郎」

 静かな挙動でシャープな拳が翔太郎の不意を襲った、

「おやっさん・・・」

 殴りつけられ、よろめき、それでも隣の壮年の顔をマジマジと眺める翔太郎。顔、その足先から白いスーツ、全縁の帽子、そしてあの最後に殴られた頬の感触までもが全て同じ。

「何を逃したか分かっているのか」

 脚の震えを留める事しかできない翔太郎は、喉を鳴らした。

「たとえ、どんな野郎だとしても、誰かを犠牲にするような、そんなやり方、オレの知ってるハードボイルドなら、絶対しねえ!」

 あの時と違って多少の口答えできたのは、歳月が経ったからに過ぎない。

「オレに誰かを重ねるな、小僧!」

 雨がいつのまにか二人の肩と崩壊した園咲の庭を濡らしていた。荘吉は青年に背を向け、翔太郎はその男の背を見るしかなかった。

「アンタ、お父ちゃんに盾突いたらあかんで、お父ちゃんはな、間違った事言うた事無いねんから!」

 心無しか翔太郎の耳に、髪が濡れ雫が滴る少女の声が震えて聞こえた。唖然として見上げる翔太郎に、視線を合わせず手だけを差し伸べ下唇を噛むアキコだった。





6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その5





 メタルを前方、ヒートを後方に、絶妙のタイミングで同時攻撃を迎えなければならなくなったHJ、

「ジョワッッ」

 メタルの振り下ろすロッドに、背を向けるHJ、

『ヒート メタルぅ!』

 左半身を鋼に変えるWの背にロッド軸が出現、メタルのロッドを受け止める形になる、

「うっぜぇぇぇ」

 そして正面から受け止める形になったヒートの膝打ちを十字ブロック、左前腕で相手を抑えながら、背の得物をメタルを弾きつつ抜いて、リーチを伸ばしヒートへ横薙ぎ、その勢いのまま両者から間合いを開けるHM。

「ナニモンだこいつら、」

 得物のメタルシャフトを時計回り1度、反時計回りに半円だけ振って眺めるHMの視界には、悠然と2対1の状況にゆとりを見せ居並ぶ2体のドーパントがいる。今HM向かって左にメタル、そのいぶし銀のボディにもたれ掛かるように右にヒートが立つ。

「てめえは引っ込んでろ!」

 そのメタルの咆吼が合図となってHMと2体のドーパントが間合いを詰める、ドーパントは同時にHMの左右へ回り込む、HMがメタルのロッドを弾いた反動でヒートを威嚇し一旦退かせた上でシャフトを旋回させ再びメタルへ打ち込みにいく、しかしメタルもまたロッドのモーメントを保存しつつ打ち込みをかけ、互いの得物が交差し弾き返され互いの姿勢が崩れる、そのHMの死角からヒートが再び摺り足をかけてくる、その急激な体感温度の上昇から背後の敵チャージに気づいてたまらず跳躍し逃れようとするHM、

「さっきは3人に囲まれて凌いだのに、」

 翔太郎が囲まれた敵にHMを多用するのは、メタルシャフトという武具の属性が反動を利用する事にある。HMのパワーで打ち込んだ反動がそのままモーメントに変換され別の敵へ打ち込む力とレスポンスを産む。パワーがあればあるほどシャフトの速力も増す形になる為、本来ならレスポンスで凌駕するCJやCMに匹敵する速力を、一対多の状況でHMに発揮させる事ができる。

『敵の連携は先程とは段違いだ。』

 だからこそ敵の包囲を崩し各個に相手取る為、HMは跳んだ。

「上げて」

「飛べ!」

 それを追って跳躍するヒート、ただ跳躍するのではない、メタルの掌に片足を乗せ、メタルが押し上げ、そして自身の脚から噴煙を吐き、もはやそれは飛翔、圧倒的な速度でHMの頭上を越える、

「『なに?!』」

 振り下ろされる踵、後頭部に食らう、地に叩きつけられるHM、メタルに首を掴まれ持ち上げられ、その得物の鉄の爪で肉体を引き裂かれる、同素材同士の摩耗が火花を生む、片腕だけのメタルの膂力で50メートル先の大木に投げ飛ばされるHM、

「バイバイ」

 傷だらけのHMにヒートが追い打ちの火球を放つ、
 爆発、

「『をぁぁ!!』」

 近接爆破を食らって天地逆に宙へ舞い上がるHM、そのまま落下して背を強く打ち地に転がる。

「こいつらツエエ」

 立ち上がろうとして思わず片足が滑り膝をつくHM。その視線の先に映るのは2体のドーパント。だがその2体は、HMを視ていない、別のライダー、厳密に言えばそれと対峙し、今まさに揮発的に消失したドーパントを凝視していた。

「ケンが、どうして!?」

「ケンなんだぞ、あの、許せネエ!」

 それはWにとって意外な程ドーパント達の反応だった。そしてそこに千載一遇のチャンスを見た。

『ヒート トリガーぁ!』

 左半身を冷徹な蒼へ変え、トリガーマグナムへメモリを差し込み、バレルを大口径へ、

『トリガーぁ! マキシマムドライブ』

 ヒートサイドの腕で構える、口砲に閃光が蓄積する、

「『トリガー エクスプローション!!』」

 轟く火芒、反動で両足を引きずり地に跡をつけるHT、

「どけレイカ」

 メタルがその急激な熱輻射に気づく、

「どくのはアンタよ」

 だがメタルを制して前面に踊り出たのはヒートの女、その全長を越える火の塊がヒートを呑み込む、呑み込むと同時に圧倒的熱量がヒートを圧搾し過熱、背後のメタルも吹き飛ばされそうなヒートを背を構えて支える、

「うりゃぁっ!!」

 ヒート、なんと圧搾する熱量を圧し返し火芒をかき消した。だが息荒く、全身から煙を吹いている。思わず片膝を折った。

「ブレイクしねえ、凌ぎやがった、ヒートの女、」

『Wのもっとも強力な攻撃を同じヒートの属性で堪えた?』

 むしろ攻撃したHTが棒立ちする。

「おめえまで死んでもらっちゃ、オレが困んだよ!」

 ヒートの背後にいたメタル、HTを睨みつけつつヒートを肩で担いでジリジリと後退していく。
 目で追うだけのHT、まだ脚にダメージがある。

「それより、」

 その時点でようやくスカルを振り返るWだっだ。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その4





「私を撃つというの荘吉、幼なじみを。」

 包帯の女は両の手をコートのポケットから出さずに佇み、

「ヤツが復活すれば、街を泣かせる。オレは、ヤツの中の悪魔を見た。」

 骸の仮面は、ただスカルマグナムを構えている。

「悪魔?たったそれだけの事が、あの時来人を救わずに見捨てた理由?」

「男が決断するという事は、そういう事だ。」

 スカルマグナムが放たれる、幾発もの弾丸が包帯の女を一直線、だが女は動けない、

「プロフェッサー!!」

 スカルの放った弾丸を弾くのもまた弾丸、撃ちながら割って入り、なお弾丸を連射するスカルの弾をその身に受け、さらに左腕の砲身で反撃するのはトリガー、
 互いに対手の弾丸を食らって怯むも、同時に立て直し反撃、トリガーの胸を弾丸が貫通、やや射線がズレたトリガーの弾丸はスカルの右脛を掠めた。
 硝煙が両者の間を割って入った。

「逃がさん」

 そのトリガーの背後にあって右サイドへ逃走しようとする包帯の女、スカルの銃口が追随しつつ連射、

「ゲームオーバー」

 だが視線を外したスカルの目元をトリガーの弾丸が掠り、次いで脇に数発の弾がめり込む。スカルの硬質化したボディだけが荘吉の命脈を辛うじて保つ。

『スカル マキシマムドライブ』

 スカル、そのトリガーに銃口を転じ、マグナムへメモリを差し、差した腕を固定、銃を流して前腕にかけ、Wと同じくバレル下部を底上げ、マキシマムモードへ形状を変える。
 トリガー、敢えて待つ、
 スカルの紫煙を放つ弾丸が射出、朧気に骸に見える、
 トリガー、その弾丸を撃ち落としにいく、その意図は敵の最強の一撃を弾き飛ばしての2射め、
 スカルの弾丸とトリガーの弾丸が0角度で衝突、

「男の魂は砕けない。」

 砕け飛散するトリガーの弾丸、スカルの弾は、トリガーが正確であるが故に一直線のベクトルで重心同士衝突し、角度を変える事無くスカルの硬度と威力がトリガーの弾丸を上回る、
 2射めを放つほぼ同じタイミングで直撃するトリガーの肉体、

「・・・・・・・」

 一瞬だけ漏れる呻き、全身を紫光が迸り、オーバーロードしたトリガーメモリが体外へ射出、

「く」

 トリガーが放った2射め、スカルのソフトフェルトを掠め、倒れるスカルギャリーの装甲に反射跳弾、なんとスカルの右足を直撃、あの鉄壁の硬度を誇るスカルのボディに初めて皴が入り、あのスカルが片膝を折った。

「・・・・・、ゲーム、オーバー・・・・」

 仰向けに倒れたトリガーの男、倒れ震えそして辛うじて首だけをスカルに向け、その群狼のような両目には笑みが浮かんでいた。

「撃っていいのは、撃たれる覚悟があるやつ、だけだ。」

 スカルは、どういうわけか泡が吹いて全身が蒸発していくかのような男を見て、トリガーの勝利に賛辞を送った。
 スカルは包帯の女が目的である、トリガーはその妨害が目的である。トリガーが割って入った段階でスカルは女を撃てず、トリガーを対手にせざる得なかった。既に割って入った段階でトリガーの詰みだった。

「フミネ、おまえは、こういうヤツを犠牲にできるという事か。」

 スカルの背後は、スカルギャリーがあり、そしてそこまで包帯の女は駆けていった。

「お父ちゃん!!」

 なぜなら、フミネは聞いていたのだ、おまえは来るな、と。

「貴方の娘よね?貴方が追えないところまで行けば、解放する。それまでは、人質。」

 包帯の女は、ギャリーが倒れ失神するアキコの腕を捻って抱える形で銃口を向けた。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その3





「こっちもいい男、あっちもいい男、いい男祭りだわ!」

 左側面からクラゲの化け物のようなルナドーパントが牽制、その触手のような腕が物理現象ではありえないアメイジングなストロークで伸び顔面を打ちにいく。スカルはそれを上体をスウェーさせるだけで躱していく。
 無言のスナイパー、トリガードーパントが逆の右から足元を狙う、その正確な射撃がスカルの足捌きを抑止する。スカルはその敵だけは眼で追って、擦る程度なら着弾させてもフットワークを止めない。

「ウォリァタぁ!」

 スカルより二回りある体躯のメタルドーパント、前面にあってスカルともっとも組み合う。スカル、一度はロッドを掻い潜って拳を一撃加えたものの、途端左右からの攻撃に晒され3倍するダメージを負う。

「うっとおしいオッサン!」

 後方にあって必殺の美脚で極めたいヒートドーパントは先も寸でで躱されイキリ立つ。スカルは大気の感触だけでその急接を察知して躱した。

「しつこい」

 スカル、1度はこの4者の連携を解いた。翔太郎と全く同じクワガタムシ型の『ガジェット』フォンに『ギジメモリ』を装填してトリガーの眼元へ体当たりさせ、メタルのボディへブローを放って拳の跡を胸元へ付け、ヒートの振りかぶる脚を肩パットで弾き、そしてルナの伸びる触手を一跳躍で躱して外の庭へ逃れた。そうして戻ってきたスタッグフォンを手にアキコの電話を取った。
 だが敵は上手で、ヒートが奥の手の火球弾を放ってトリガーとの十字砲火を形成、メタルに肉薄を許し、再び四面包囲の形でジリジリ体力を削られていく。

「もたつき過ぎよ!」

 ヒールを鳴らして玄関へ体を傾けた包帯の女は、聞いた覚えのある駆動音にいきり立った。

 駆け抜けるギャリー、
 直前まで全速力、
 前輪のブレーキを強め、
 スピンターンで制動、

「堅いわ、スゴク堅いぁ!!」

 車体に横殴りされ、吹っ飛ぶルナ。

「うぉわ」

 後輪に巻き込まれ、ロッドを突き立てながらも倒れ潰されるメタル。

「来たか、スカルギャリー!」

 待っていたスカルは、ヒートとトリガーの対空迎撃を敢えて食らいながらも跳躍、スタッグフォンで呼んでおいた『スカルギャリー』、頭蓋骨を思わせる巨大バギーの5本後ろに流す巨大エグゾーストの上へ立った。車体の丸みがトリガーからもヒートからもその身を遮蔽する。その上でスカルは自らの得物『スカルマグナム』を出現させる。

「うっとうしいオッサン!」

 ヒートとトリガーに向けてマグナムを乱射するスカル。上を取られたトリガーは即座に撤退、ヒートは同じく跳躍しようとして迎撃され地に倒れた。

「中から開いた!?」

 足元が震動、僅か姿勢を崩したスカル、それはスカルにとっても意外なギャリーの震動だった。

「スゲー、見渡す限りのドーパントだぜ。おやっさんどこだ?おい、園咲若菜、離せ!」

「ワカナちゃう!なんべん言うたらわかんねん!」

 それはギャリーが左右にボディを開いた震動、開いたギャリーの前半部は車両1台を入れるメンテナンススペースの台座、そのフリースペースに立つのは二人、翔太郎と依然腕に噛みつくアキコ。

「スカルギャリー、あの子達は誰?」

 困惑する包帯の女を含む敵、

「おまえは来るなと言ったはずだ、アキコ。」

 もっとも困惑しているのは、翔太郎頭上にあって二人を見下ろすスカルだった。

「お父ちゃん!加勢に来たでぇ!」

 いい加減な事を言うアキコだった。

「・・・・・スカルだ。ホントこっちの世界のおやっさんなんだな、」鼻下の汗を2本指で拭う翔太郎。「見せてやるぜ、今のオレを。」

 翔太郎、ダブルドライバーを取り出し、腰に据える、巻かれるドライバー、

『サイクロン』

 フィリップが次元を越えた先から左腕でメモリを作動させる姿は、スカルや包帯の女には見えない。

『ジョーカーぁ』

 見えるのは右手で掲げたメモリを作動させる翔太郎の動きのみ。

「ダブルドライバー?私以外にも作った者がいるという事、ジョーカー?そんなガイアメモリー地球の記憶に存在しない。いったい何者?」

 包帯の女は知るが故に驚愕した。

「『変身』」

 フィリップがバックルに垂直、右に差す、
 翔太郎の元に転送されるサイクロン、
 続いて翔太郎が垂直、左に差す、
 腕を交差してバックルを開く、バックルがW字の形状になる、

『サイクロン ジョーカーぁ!』

 両手を拡げる翔太郎、ファンファーレと共に細かい破片のような光が翔太郎の肉体を包む。

「まさか」包帯の女はその意味の成すところを理解した。

「はんぶんこ怪人や!」巻き起こる乱気流に髪を逆立てながらもギャリー外装の銀パイプを掴む。

「『さあ』」おもむろに黒い左腕で包帯の女を指差す。「『おまえの罪を数えろっ!』」

 右半身が翠に輝き、左半身が漆黒に光る、マフラーを靡かせる独特の大きな複眼を持つそれが『仮面ライダーWサイクロンジョーカー』。

「なんだあいつは」

 この世にいるドライバー持ちは自分を含めて二人しかいないと思っていた荘吉もまた困惑し、トリガーからの弾丸をジョーカーの素手で掴むライダーに見入った。

『あれはトリガー、そしてあれはヒート?まさかボク達のガイアメモリのドーパントに出会うとは思わなかった。ゾクゾクするねぇ。』

 CJ背後より、

「何この紛らわしいガキ!」

 ヒートが踵落としの体勢から放物を描いて落下してくる、

「感心してる場合かよ!」

 ギャリーより飛び降り様、ヒート腹部に跳躍力を伴ったカウンターの左、弾き返り転倒するヒート、その動きを抑止しようとトリガーが弾幕を張る、着地様食らうCJ、だが食らうのはそれまで、弾幕が止む、スカルがトリガーを牽制している、

『ヒート ジョーカーぁ!』

 立ち上がり再び向かってくるヒートに、敢えて待ちながら右腕を炎に焦がすHJ。

「おらぁ!」

 互いに殴り合い、推し勝つ、そのまま2度3度ヒートの顔面へ拳を連打。

「私がついに頓挫したフォームチェンジを、いったい何者なの、財団?それともミュージアム?いやこの世界で私よりガイアメモリーを知っている者などいない、ルナ!加勢よりリュウが先よ!!」

 包帯の女は今失神から触手を体ごと振って回復するルナを手招きする。

「あら、イイ男に絡みつけるのネっ」

 男声の怪物が、10数メートルもの物理的にあり得ない伸びの触手を、なお倒れる屋敷のホールで『リュウ』なる青年を巻き付け惹き付けると同時に跳躍、月光の煌めきから木の陰に一瞬で飛び消えた。

「逃がさ」

 揺れる足元、

「おと、ちゃぉぁっ」

 命からがら這い上がってヘタり込む金属の床が右斜めに隆起し思わず父の名を叫びながら滑り、もはや地面と直角する床を落下するアキコ、

「うぉりゃぁたぁぁぁ!」

 スカルギャリーの片輪が宙を浮く、いや持ち上がる、持ち上げるのは轢き潰され、地面へ埋もれたメタル、雄叫びを上げて復活だった。

「おやっさんが危ねえ」

 ギャリーの90度転倒に地面へ落下したスカル、メタルが迫り、それを視界に入れたHJ、左チョップのキレがクリティカルにヒートをたじろかせたのを見るや、右拳を発火、右フックの状態でメタルに突進、そのままアックスを首へ、メタルをはね除けるHJはスカルに向き返った。

「助けてやるぜおやっさん」

「どけ」

 だが身を呈して飛び込んだWなど見もしないで手で祓い、包帯の女へ駆けるスカル。

「おやぁ……」

『背後から来るぞ翔太郎!』

 スカルの背中を呆然と見つめるHJに、脳震盪を起こす事もなく復活したメタルが鉄の爪を振りかぶる。

「首鍛えてんなこいつ」

 右脚のステップで辛うじて躱すも爪跡が一線左胸に入る、だが怯む事無く左を入れて顎を掠めるHJ、

「ぐぉぉぉ」

 メタルの肘がHJボディへ、
 顎を揺すられながらまるで姿勢を崩さないメタルがHJを吹き飛ばす、

「クソ生意気なガキっ」

 吹き飛んだHJの先に踵をキメにくるヒート、

『あいつはメタル、翔太郎、やはりこの世界は中々興味深い。』

「言ってるな相棒!」

 メタルとヒートに前後挟撃されるWだった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その2





 また例の夢、
 ディケイド、
 私はいない、
 ディケイドの目の前に数え切れないライダー達、
 ライダーの一人が攻撃してきた、
 危ないディケイド、
 私の思いと繋がってるみたいに手で顔を庇うディケイド、
 反対の手でピンクの光を出してライダー達を溜まった埃のように吹き飛ばす、
 止めてディケイド、
 でも今度は私が何を願ってもディケイドはライダー達と戦うのを止めなかった、
 止めて止めて止めて、
 私はディケイドの血に染まった掌を眺めた、 見てるだけで臭ってきそうな気がして目を背けたくなった、
 そんな私の気持ちと同じように目を背けるディケイドの視線、
 違う、
 私の思った通りにディケイドが動いてる、 でもライダーと戦う事を止めない、
 違う、
 私だ、私が止まらない、
 私がディケイドになって、戦うの止められない!



 今日はとびきり酷い夢だっだ。
 私が目を開けると、いつもの湿気を感じる白い壁と埃がうっすら降りた木目が綺麗な床、いつもの私の家、もう私しかいない写真館。
 テーブルは倒れ、ディエンドの銃は暖炉の灰に刺さって、カードは床に散らばった。
 今私の目の前に、士クンが一番気にしてた同じ『COMPLETE』のロゴが入った、いくつかマークが入ってるカードが落ちている。あの海東大樹さんもいろんな世界回って集めてたのね。

「やったぁ!」

 あの帽子のだらしないカッコツケル君が、命が助かったからか、それとも自分の世界に帰ってきたからなのか、玄関を開けた途端大声ではしゃぎだした。たぶん後者。

「トイレだぜフィリップ、大変だ、これからオレ達トイレ無いぜ。」

 カッコツケル君、玄関の戸を半開きに私を手招きする。

「気づいたか、光夏海、・・・・どうしてだ、もう電話なんてイラねえだろ、いねえ?オレはこうして2階の廊下にいるぜフィリップ。」

 カッコツケル君が床板がミシミシ言う廊下を出る。私が写真館を出て振り返ると、といれと少女趣味の彫刻看板がかかった扉になっていた。カッコツケル君は先に進んで廊下にもう一つある扉を開けた。

「ええい、このナルミ探偵事務所に押し入るたぁ、舐めたもんヤなぁ!」

 頭上80度からカッコツケル君に振り下ろされる細い足首、そのつま先には緑のスリッパが履かれている、私はその時ピクリとも動けなかった、

「てぁ!」

 床板に思い切り顎を打ち付けて倒れた。あれ絶対お腹真っ赤になってる。彼の持ってたやたらデカイ携帯が私の足元に転がってくる。

『翔太郎、まだそこがボク等の風都だと決まったわけではない。現にボクが廊下を出ても君達を見つけられない。いいかい、思い当たるだけで2つ、そこがボク等の事務所に偽装しているか、似ている別の世界かだ。だが君達はランダムに転移した。敵がいるとしても先周りするのは不可能だと推理する。おそらく翔太郎、そこはボク等の風都と似て非なる』

 なんだかよく分からないけど、たぶん電話の先の子は内に籠もっちゃうタイプだと思う。

「ナルミ荘吉の娘にして嫁(仮)、このナルミアキコが、お父ちゃんの留守預かってるんやでえ。か細い美少女やからって、ナメたらあかんねんでぇ!」

 どちらかという、無遅刻無欠席で表彰何枚か持ってる健康優良児が両手を腰において鼻息を飛ばしている。(仮)ってなんだよ。

「亜樹子、おめえ、翔太郎だバカ、この鳴海探偵事務所を預かって・・・・・、誰だ、亜樹子じゃねえ!どこだフィリップ!!」

「ナニヌカしとんねん、私は正真正銘、風都一番のナニワの美少女アキコやでぇ!アンタこそナニもんやコソ泥!」

「おまえ、ちゅうか、園咲若菜じゃねえか!なんだ!これはテレビか!どっきりか!白状しねえとアンタの素の性格全国放送しちまうぞ!!」

「シロップがなんやねん?今レーコー呑んでる場合ちゃうちゅうねん!」

「って言ってます」

 私はそんなカッコツケル君より、電話のコモル君の方がマシだと思った。アキコを名乗る子がカッコツケル君を立ち上がらせてネクタイ締め上げてるせいもあるけど。

『そちらの亜樹ちゃんが若菜さんに似ているのは意外過ぎるが、やはりそんなやる必要も無い事まで違いがあるのに確信が持てた。そこは、別の風都だ。夏海さん、そちらのアキコさんに聞いてみてくれないか?鳴海荘吉が生きているかどうか、いや、鳴海荘吉がどこにいるかを聞いてくれればいい。』

 私は何がなんだか分からないが、とにかく頼りない藁のような2人のどちらかの言う事を聞くしかなかった。こんな時士クンは平然としていたな。

「あの・・・・、」

 アキコさんがこっちに怖い顔を向けた。私もあのスリッパでボコられるんだろうか、私生きていられるだろうか、きっと頭ザクロにされるんだわ、助けて神様!

「アンタ、分かったで、誘拐されたんやな!可哀想に、」

 なんか生きていられるみたい、神様ありがとう、でも神様、この台風娘をなんとか止めて!

「私は、その、」

「ああ、皆まで言わんでエエ、私はこの事務所の主、今日も街の為に駆けずり回ってるナルミ荘吉の娘やで、あいつに誘拐されて、イヤイヤいっしょにいるんやろ、待っとき、今すぐこの風都泣かせる変質者を退治したるさかいな!」

 私の肩を掴んで揺する女の子の背を叩くカッコツケル君、

「おやっさん、鳴海荘吉がこの世界じゃ生きてんのか!」

「人の旦那(仮)捕まえて不吉な事いいナ!」

 見ないで上段バックキック、顔面にスリッパ裏をくっきり、
 もんどり打って廊下を倒れるカッコツケル君、ああこれをコモル君は予想できてたんだわ。

「・・・・あの、荘吉さんは今どこにへ、」

「は?まさかアンタら依頼人?ウチ聞いてへん!それならそうと早よ言うたら、」

 この豹変した台風娘が私の手を引っ張って事務所と言うレトロな雰囲気の室内に招き入れた。疲れるわこの子。天井に剥き出しのプロペラがまったり回ってるんだけど、その風はただただ室内の埃を巻き上げてるだけで、なんでだろう、この子こんなところに住んでる事が可哀想になってきた。おしゃれしたい年頃なんだろうし。
 私はトゲっぽい電話を、ヨレヨレで入ってくるカッコツケル君に渡して、窓寄りの3人掛けソファに腰を降ろした。そうするつもり無かったけど、思いっきり腰掛けたんで埃がバッと舞った。そう言えばおばあちゃんの小屋から掠われてずっと休む事無かった。

「別の風都って何だよ、早く言えよ相棒。そっちの園咲若菜も、実はもっと底は凶暴かもしんねえぞ。この間なんか目じゃないくらい」

 そう言って勝手に流しまでズカズカ入っていって棚からコーヒー豆を出すカッコツケル君。携帯を手にしながら台風娘はヒスってるけど、部屋の中不作法に障りまくって、そつなく湯を沸かし始めた。

「あ、お父ちゃん、今どこおんの?・・・・ギャリーに乗るな?ちゅうかなんやその後ろで聞こえる奇声は?オカマに襲われてる?なんやそれ、ええか、依頼人来とんねんから、早よ帰ってきぃ!・・・・すんまへんな、うちの人ゲイバーで遊んでるみたいで、」

 眠くなりそうな目をこすりながら、私は携帯をかける二人を黙って眺めて、何か言ってくるのを黙って肯いていた。
 突然ブザーが響いた、思わず眠気がふっとんだ。

「おい、こっちのアキコ、今ギャリーつうたな。ちゅう事は隣の部屋ぁ」

 親指と中指を2回弾いて、カッコツケル君が入ってきたドアと違うこの事務所のもう一つの扉を唐突に開けた。中からムワっと油の臭みが私のいるソファまで拡がって来た。

「何してんこのガキゃ、ウチのプライベート侵害やで!」

 慌てて携帯切ってカッコツケル君に掴み掛かるアキコさん、

「在んじゃねえか。おいフィリップ、間違いねえ、おやっさんのピンチだ、イテっ」

「なにヌカしとんねん!」

 カッコツケル君がかっこつけてる中、緑のスリッパで何度も張り倒すアキコさん。
 私は依然鳴り響くブザーに耳を塞いで隣の部屋をソファから眺めていると、金網の床がキンキンな音を立ててせり上がっていくのが見えた。

「この世界のライダーは、間違いねえ、おやっさんだ。おい、光夏海、」

 困惑する私に上から目線な態度のカッコツケル君、こういう置いてけぼりなところ、どっかの誰かみたい。

「はい?」

「門谷士もいつもこんな唐突なメに遭ってんのか?」

「士クンは、貴方よりずっとずっとスマートに知らない世界を渡り歩いてました。」

「そうか、ライダーってなぁ、どいつもこいつも。行ってくらぁ、ちょっと待ってな、ここのライダースカウトして、ついでにオレの風都の亜樹子に会わせてやる。」

 そう言ってカッコツケル君、隣の部屋へ勢いつけて飛び込んでいく、しがみついてあがいたアキコさんもスリッパを振り回して飛び込んだ。
 私は、士クンを褒められた事が、なぜだか少し嬉しかった。
 そんな私を置き去りに、何かものすごく大きな機械がものすごくグルグル回ってものすごく轟音を立てた。

「キャッ」

 私が立ち上がって隣の部屋を覗いた時、髪が水平になるほどの突風が吹いた、
 もう既にそれが発進して、私にはちらしずしで使う盥の親玉みたいなのが車輪履いて去っていく姿にしか見えなかった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その1





 ハッハッハッハッハ

 街でもっとも巨大な建造物は『風都タワー』であるが、個人所有でもっとも広大なのは『園咲』の屋敷だ。正門から2キロ歩いてたどり着く洋館の、その5メートルの高さの扉を開けるとすぐに昇り階段が前方に伸びるホール、その階段の途中に起立する一匹の化け物、肩幅を超えるクラウンを頭に頂く闇夜のような漆黒の『テラードーパント』がホール全体を通る高笑いを上げた。

 ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ

 テラーの眼下に5人の男女、内4人は統一された黒のパット内蔵ジャケットを着込んで、それぞれ屈強な肉体を包んでいる。だがそのことごとくがテラーの足元から伸びるヘドロのような影に差された途端阿鼻叫喚の断末魔をあげ、汗を吹き、眼を血走らせ、体液をばらまき、震えが止まらず、得体の知れない言葉を羅列しながら、最後は白目を剥いて卒倒した。死因は厳密には心不全である。

「来人の為に揃えた4人なら、もう少し耐え切れると思ったのだけど、」

 やや後ろに位置し影から辛うじて逃れているもう1人は、全身を包帯と黒いコートで隠しているものの、女の体型である事は明白だ。サングラスと長いカツラ、つばが魔女のように広いハット、手袋、ブーツ全てが黒で染められ、肌が全く外気に触れていない。

「どうしたフミネ、頼りの尖兵は全て死に絶えたぞ。それでよく私の前に再び立てたものだ。」

 ホールの端から端に通るテラーの男声は、まるで透明人間であろうとするかのような女を下の名前で呼んだ。

「ごろつき、樵夫、傭兵、女囚、死の恐怖に耐性があると思っていたけど、死に近い程死を怖れるのね。いいわ。」

 覆面の女が取り出すのはあのWのトリガーマグナムのリペイント。Wのそれと同じくメモリを一本差し込んで傾いた銃身前部を跳ね上げる。

『タブー マキシマムドライブ』

 続けて4連、敵テラーに対してではない、その銃口を向けたのは、未だ恐怖の闇が全ての毛穴からドクドクと染みこんでいく4つの死体。
 マキシマムの光が灯った死体は、不思議な事に眉間が動き、目蓋の裏の眼球が左右にぶれ、開き、4人の男女の眼に光が戻る。

 チゥッウッセッィ、グッジョブ、開発反対、地獄にしては殺風景なところね、

 立ち上がる4体の男女は、もはや足を闇に漬けても動じず、眼光はむしろ迸る程に凛としている。

「タブーでネクロオーバーにしたか。そのメモリを手にする為にフミネ、おまえは、家族を犠牲にしたというのか!」

「アナタは家族が欲しかったんじゃない、重荷にしか思っていなかった!」

 共に嗄れているが、ホールの隅まで通る男と女の対峙。その間に割って入るようにワラワラと数十人の黒スーツで整えた者達が現れ出でる。それぞれメモリを首筋に刺す。

『マスカレイド』

 スーツはそのまま肉体だけが液状の膜に覆われ、黒い覆面に後頭部から頭上を回って唇まで大型動物の根本である脊椎が張り付いている。『ドーパント』の中でも人体が持つ潜在能力を引き出す力が弱い代わりに毒素が人体の復元力を越える事の無いそれがマスカレイド。黒い仮面の男達に囲まれ、包帯の女ら5人を囲む。

 クネクネっ!

 フミネを除く戦闘集団4人は銃、ロッド、ムチ、女に至っては格闘でマスカレイドに対抗し、ホール全体がドーパント対ネクロオーバーの乱闘の場と化す。
 だが二人、階上にいるテラーと正面扉近くに立つ包帯の女は呆然と立つのみ。
 包帯女の背後の扉が突如開く、そこにもさらに数十のマスカレイドが、振り返りその長い黒髪が乱れる包帯の女、
 マスカレイドの挟み撃ち、しかし、そのさらに背後、庭園から強烈な光が放たれた。

『ゾーン マキシマムドライブ』

 一斉である。
 一斉にマスカレイド全ての上半身が差別無く寸断されて消失し、下半身もまた消え去る。消えた肉体は、その者の背後、園咲の美しい庭園を血塗れにして断裂した死骸が散乱した。
 ゾーンメモリは空間を制する。空間内にある物体の座標を自在に変化させる。物体の一部、上半身と下半身を別の場所へ配置する事も可能だ。

「来たわね、来人」

 包帯の女がそう呼んだ者は腰に巻くドライバーも同じ『仮面ライダーW』。右半身がややエメラルドがかった緑と同じだが、左半身がメタリックな光彩を放つ紅だった。

「おふくろ、やつのメモリ、テラーを奪えば、本当にオレの肉体を取り戻す事ができるのか。」

 その声には、少年の幼さが一切感じられず野心が満ちあふれていた。もう一人のWとも言える仮面の男は、テラーを指差した。

「おまえか来人。その肉体は借り物か。誰の肉体を乗っ取った?おまえが、この私に敵うと思っているのか!」

 テラーが眼前のライダーを叱り飛ばした。
 もう一人のWの周りに、黒いジャケットで統一された4人の男女が居並ぶ。

「たとえ貴様でも遠慮はしない」差した指を親指と曲げ換え真下を力強く差す。「さあ、地獄を楽しみな。」

「生意気な!お仕置きを受けたまえ!」

 再びテラーの足元から影が居並ぶ5人を差す。だが平然と弾倉を交換する男、平然と髪をかき上げる女、首を回して鳴らす男、首を奇っ怪にクネらせる性別不問、そしてもう一人のWも全く意に介さず、メモリを1本取り出し、腰の『マキシマムスロット』へ差す。

『キー マキシマムドライブ』

 腕を一閃し、瑪瑙色の斬撃を放つもう一人のW、テラーへ直撃、

「ん!?」

 テラー全身が輝き、液状化して全ての形状が崩れ、液体が腰のベルト1点に集約して、1本のメモリ、テラーのメモリが排出され、ただ窶れた初老の男が現れる。老人は唖然と口を開けてただもう一人のWを見ていた。

「園咲リュウベエ。年貢の納め時だ。」

 バックルの左から紅いメモリを取り出し、腰裏から取り出した大剣『エンジンブレード』にさながら中折れ後装式散弾銃のように差す。

『アクセル マキシマムドライブ』

 だがそれで終わらない、さらに右側から翠のメモリを腰の『マキシマムスロット』へ差す。

『サイクロン マキシマムドライブマキシマムドライブマキシマムドライブマキシマムドライブ・・・・』

 延々とリピートされる発動音、全身を紅い濃密な渦を纏って呻きを上げるもう一人のWが刀剣をホール床に突き刺し自身は跳躍、

「待ちなさい来人!」

 跳躍頂点に達したその者は肉体で十字架を描く、上昇気流が渦巻いてモーメントを加速、その体勢のまま、一介の老人に錐揉みで足を向けさらに加速降下していく、

 ぉぉぉぉぉぉ、

 衝突する肉体、同時に老人の肉体が渦を巻いて肉片からさらに塵になり風のまま四散、老人の立ち尽くす階段もその先の壁ももろとも吹き飛んで、園咲の家の裏庭と星空とイルミネーションを輝かせる巨大な風車が見えた。
着地したもう一人のWが再び親指を力強く下へ差し示すと、紅の渦が爆発的にかき消える。

「この風都の支配者は、今日よりオレが成り代わる!」

 大笑をあげるもう一人のW、ホールに狂気が震撼した。

「来人、なぜそんな事を!」

 包帯の女がまるでヒステリーのようにもう一人のWに近づいていく。

「どうしたおふくろ、」二つのマキシマムよりメモリを引き抜く。「未練が残っていたという事か?」

 除装された仮面より顕れる男の目つきはまるで狼のようだった。やや巻き毛、深紅のジャケットをした、細身の、まだ幼さの残る青年だった。

「そうじゃない」

 !

 声も無く突如苦しみ倒れる紅の青年、倒れなお震えが止まらず、転がった紅いメモリを握りしめ、目を充血させる。それを尻目に翠のメモリの方を拾って凝視する包帯の女。

「違うわ。ツインマキシマムは威力が絶大だけど、このリュウが保たない。最後のメモリーが揃うまで、迂闊に気取るのはおやめなさい。いいわね。来人。」

 包帯の女は、ただじっと翠の『サイクロンメモリ』に語りかけていた。

「そのガイアメモリが、フミネ、おまえの息子のなれの果てか。」

 月光を背に立つ皺一つない白の上下、白のソフトフェルト、

「荘吉、来たわね」

 日本名を持つにはあまりにギャップあるその身長と脚の長さ、『ナルミ荘吉』という男の名を、この街の住人は知っている。

「あら、いい男」

 屈強なあごひげの男が裏声で思わず叫んだ。
 荘吉は完全にフミネ以外の者を無視してソフトフェルトに隠れた眼光を向ける。

「タブーの女の死に顔は、美しかった。」

 白のソフトフェルトを脱ぐ荘吉、その目つきは野獣を繋いでいる。

「プロフェッサー、今やるのか?やらないのか?」

 SMGを抱えた切れ長の目の男は、タバコ焼けした喉を振るわせた。

「おまえたち、メモリーをお使い、」

 ジャケットの4人が一斉に右手に持つそれは、それぞれ特徴的な色をしたWと全く同じ規格のガイアメモリ。

「恐怖の帝王にも使わなかったのに、こんなヤサ男に使えってか。」

 すきっ歯がどこか憎めないターバンのロッド持ちのガタイに比べれば、人類の大半はヤサ男にされるだろう。むしろ隣のヒゲがそれとどっこいの体格である方がレアだ。

「フミネ、おまえとおまえの息子は、園咲リュウベエを倒した後何をするつもりだ?」

 荘吉は帽子を持った手をゆっくり伸ばし包帯の女を差した。

「アタシらガン無視?なんかムカつく。」

 ジャッケト集団の中にあって紅一点のパンツルックが、そのストレートの黒髪を片手でかき上げる。

「荘吉、私はこの」包帯の女はサイクロンを振りかざす。「息子の肉体を取り戻す。タブー、テラー、そして残りのクレイドールを手に入れて。いずれこの風都の、真の帝王となる、貴方が見殺しにしたこの来人の肉体をね。おまえたち何をしている!」

 メモリを持った4人が、

『ルナ』

『トリガー』

『メタル』

『ヒート』

 それぞれ額、掌、後頭部、胸元に出現した生体コネクタに差す、それぞれの肉体に吸い込まれるメモリ、4つの肉体が4色に光輝き、人体とは異質な形状へ変化させていく。一体は金色に輝くクラゲのよう、一体は片腕が銃器、一体は光沢と鈍さが交差する金属の塊のよう、一体は朧気に揺れる炎、この街の住人はそのバケモノを『ドーパント』と呼んでいる。
 だが、荘吉は1体だけでも恐怖すべき理解不能の敵を4体眼前に見据えなお動じていない。

「帝王だと・・・・・、外を見てみろ、おまえの息子が何をしたのか、あの時と変わり無い、街を泣かせるだけの存在だ。」

 荘吉の腰にはいつのまにかWのドライバーに似て非なるモノが巻かれている、スロットが一つしかないそれこそが『ロストドライバー』。左手には帽子、そして右手には指先2本で摘んだメモリ、

『スカル』

 私、聞いてない、とどこかで聞いたような台詞をまくし立てる『ルナドーパント』、

「変身」

 荘吉、スイッチを押したメモリをドライバーに軽く装填、撫でるようにスロットを倒し、右腕を軽く振り流す、
 銃を構える『トリガードーパント』、
 バックルより拡散する黒い欠片、それが荘吉に纏わり着き、漆黒のスーツと化す、
 ロッドを半回転肩から脇に抱える『メタルドーパント』、

「タブーの女の依頼だ。おまえ達母子を止める。」

 最後に荘吉の頭を包む骸の仮面の額に稲妻の刻印が記される、その刻印を敢えて白い帽子で隠す。
 吐息を漏らし小指を立てた先に炎が灯る『ヒートドーパント』、
 骸の戦士は、徐に人差し指で包帯の女を差す、

「さあ、」

 そして掌を上向けに返す、

「おまえの罪を数えろ。」

 ナルミ荘吉のもう一つの姿、風都で知らぬ者のいない『仮面ライダースカル』が、4体のドーパントと対峙した。



 

2013年1月3日木曜日

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その9





 記憶が無いと言われました、
 私の周りからみんないなくなりました、
 絆が全て無くなりました、
 そうか、士クンは絆をずっと求めて旅をしていたんですね、
 笑ってしまう、士クンをずっと見てきて、士クンとずっといっしょにいて、でも私はずっと士クンを上から哀れんでて、同じだったのに、
 そんな傲慢な女、捨てられて当然だよね、 名前も偽名と言われました、
 仲間も全て偽物でした、
 せめてユウスケだけでも取り返そうと、ディエンドから銃を奪った私は、必死でカードを繰ってユウスケを探しました、少しだけ希望を持って、
 でも無かった、何度も何度も繰って、2枚かもしれないから傷つける程擦って、でも1枚で、結局無かった。
 私、なんで神様にこんなにイジメられなきゃいけないの?なんでこんな目に逢わなきゃいけないの?
 そんなに私のひとりぼっちが、この世の中のみんな嬉しいの?

「そこのかわい子ちゃん、ドライバーを渡しな。」

『光栄次郎は、用心深いね。なんの痕跡も残していない。カメラにもタペストリーにも次元移動の秘密はない。門谷士の能力であるにしても、その引き金となる行為を光栄次郎は担っていたはず。どうやっていたんだ?』

 今私達は見慣れた写真館のリビングにいた。
 この2人、今1人の・・・・ええい、なんで私がそんな事気に掛けて煩わされなきゃいけないのかしら、もうなにもかも理不尽だわ!

「ああ・・・・、気分替えようか。」

 あの緑と黒の、ディケイドより絶対へんてこなライダーの変身を解いて、あの帽子カッコツケル君が現れた。途端彼のダサデカい携帯が鳴った。

「フィッリプ、まあ落ち着けや、分かってるさ。別の世界にいるのは、オレなんだ。」

 私がディエンドの銃を渡そうというタイミングでカッコツケル君はクルリと後ろを向いてキッチンに入っていった。なんてタイミングの悪い、この私の差し出した手をどうしてくれるんだコイツ。絶対コイツ女にモテねえ。
 しょうがないからリビングの丸テーブルに銃を置いた私は、コーヒーやらカップやら場所が分からずパニックってるカッコツケルくんを鎮めにいく事にした、しようとした、でも出来なかった。

「音撃殴っ一撃怒涛!!」

 突然写真館全体が立てないくらい揺れ出した。私も揺れた、背骨にくる震動に、私はついにこの世界で一生を終わると、あっさり思った。

「うぉぁぁ、目がぁ!入ったぁぁ!」

 キッチンでコーヒー豆かぶって転げ回るカッコツケル君、

「音撃殴!音撃殴!!」

 士クンならこんな無様な事はしない。揺れた瞬間すぐに私の元へ駆け寄って、抱きしめて、私を守ってくれる、はず。

「その銃だ、銃を寄越せ!」

 カッコツケル君が私に何か叫んでいる。私はテーブルに振り返って銃を取ろうと手を伸ばす、

「音撃殴っっ!!」

 でも銃は向こう側へ転げ落ちた、私は立っていれなかったし屈んでテーブルの下へ手を回した。

「イタ」

 テーブルがその時倒れて私は思いきり頭を打つ、
 花瓶が割れる音がした、
 壁にも皴が入っていく、

「音撃殴っっ、音撃殴っっっ、音撃殴ぁぁぁ!」

 相変わらず骨が響く震動に、私は割れそうになる、頭に変な音も響いてくる、
 銃はフローリングを跳ねてどんどん私の手から遠のいていく、

「光夏海、もう銃はいい、オレが出て、」

 カッコツケルが何を叫んでいるか私に聞き取れなかった、
 私は壁に突き当たった銃まで這って、手に取ろうとした、でもその間カメラが倒れ込んできた、レンズの破片が私の顔に飛んできた、思わず目を塞いだ、銃は重いカメラの下敷きになった。

「士くん!」

 訳も分からず叫んだ私の背後に、留め金の外れた緞帳が降りる鈍い音がした、
 振り返って私は見た、
 タペストリーに描かれていたのは、中折れ帽を被った背の高い男性の背中と、その人が眺めるオランダ風車のような塔が立つ夜のビル街の風景、

「風の街・・・・・?」

 そのタペストリーが突然光り出した、
 それは私が何度も体験した、別の世界へ飛んだ合図だった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その8





 ディエンドに並ぶライダーは、失神した夏海を抱えたカリス、そして新たに召喚した『凍鬼』だった。凍鬼は金棒を肩で担いでいる。夏海を下ろしたカリス、自らの得物『カリスアロー』にカードをスラッシュする。

『ライフ』

 見る間に夏海の柔らかな頬から擦り傷が消え、汗が引き、乱れた息が整って、苦痛に歪んだ眉間の皺が弛んでいく。一度寝返りを打った夏海はその反動で意識が覚醒し、柔らかな両目蓋が開いて日差しに目が慣れるまで瞬きを繰り返す。

「あらかじめ言っておくが、ボクも今からやる事はらしくないと思っている。」

「ここは、どこ?」

 粘り付いた上唇と下唇を引き離すとプルンと揺れる。夏海はそこがようやくその世界の写真館だと理解した。

「早く出てこないと、夏メロンの命は無い。そして、キミも永久に写真館から出られなくなるよ。」

「音撃殴、一撃怒涛!」

 凍鬼が無空に出現した幻影の銅鑼を叩くと、音の暴圧が発生、大気を拡がって写真館の崩れかけた扉を震えさせる。窓ガラスが割れ、枠が崩れ、辛うじて立っていた1枚の壁が横揺れして、反動で扉がごく僅かに開く。

「さあ、早くダブルドライバーをこっちに投げな。」

 だが投げられる気配はない。その代わり声がした。

「いいか。泥棒はな、探偵に弱いって相場が決まってるんだぜ。」

『ルナ トリガぁ!』

 ドアの僅かな隙間、一旦上方へ撃ち上げられた数本の閃光が屈曲してカリスと凍鬼に幾角度から突入、カリスはアローを振り回し全弾弾き返すが、威力に圧し負け後退り。凍鬼は目元に直撃を食らって倒れ様、放り上げる形になった自らの金棒を首に打ち付けノックダウン。

『トリガーぁ!マキシマムドライブっ!』

「『トリガー、フルバーストっっ』」

 10数本の光がさらに扉の後ろから発射、歪曲して怯むカリス一点に集約、直撃したカリスは大爆発を起こす。

「調子に乗らない方がいい、どうやったって、このボクにはどのライダーも適わない。」

 爆風を背に受け微動だにしないディエンドは、堪える夏海の頭にディエンドライバーを密着させた。

『ディエンドの検索は既に完了している。彼はカードの限りライダーを召喚できる。やろうと思えば、ボク等の体力が尽きるまで。』

 その段階で扉の影、写真館から姿を晒す仮面ライダーW、右半分はまばゆい金で彩られ、左半分は鮮やかなブルーで彩られている、ルナトリガーの右目がしきりに明滅しながら聞いてもいない解説を始める。

「その通り、仮面ライダーWの右の方はさすがにボクをよく分かっている。」

 既にディエンドは3枚のカードをドライバーに装填。銃口を高く掲げた。

『KAMEN RIDE IXA IXA IXA』

 ディエンド、それぞれ3体の同じ『イクサ』を召喚、内1体はフェイスをオープンして高熱を発し、さらにもう一体は、ライジング、の電子音と共に装甲を除装し蒼きイクサとなる。

『検索は既に完了している。ディエンドはどうやってもそのカード召喚に隙が生じる。今だ、翔太郎、』

「おうよ相棒!」

『ルナ ジョーカーぁ!』

 バックルのメモリを素早く切り替え左半身を黒く染めたW、その金の足を振り上げると関節が抜けてゴムになったかのように足先が伸び、遠く離れたディエンドの手からドライバーを蹴り弾き、足が返って今度は金の腕が夏海まで伸び回り込んで、宙に浮かぶディエンドライバーごと夏海を抱えてWの元まで引っ張り込んだ。

「その命」

「神に」

「帰しなさい」

 内2人は女性の声だ。

「お嬢ちゃんは返してもらったぜ。駆け引きは大体探偵の方が勝つんだぜ。」

 既に夏海を脇に抱えて左の人差し指と親指を二度ほど擦った。

「一人で、立てます、」

「大丈夫か?」

 夏海が藻掻いたのに、やや驚くW。最後の見た時の状況からは考えられない回復ぶりだった。思わず手を離し、足の下から頭のてっぺんまでマジマジと眺めるW。

「二人をこの世界から逃す訳にいかない。写真館に絶対入れるな!」

 手ブラのディエンドから指図された3体のイクサがWに近接、もっとも身の軽いライジングが短銃『イクサライザー』をバーストで放ちながら先頭を走る。

『イクサの検索は完了した。彼らはヒートと相性がいい。』

 夏海を壁の方へ突き飛ばしつつ、3メートルほど伸ばした金の手をムチのように撓らせ、ライザーの光弾を防ぐW。
 ライジングイクサは銃を反対の手に持ち替え、空いた拳に体重をかけた。銃撃が止んだ。

『ヒート ジョーカーっ!』

 交差する拳と拳、右半身を赤に染めたWの右拳は赤よりも紅い炎を纏った、

「おらぁ」

 推し勝つWの拳、ライジングイクサの顔面に炎がいつまでも纏わりつき、その蒼きボディから灼熱に染まる。

「顔は止めなさい、顔は止めなさい!」

 立て続けに連打されるWの右拳にもんどり打って後頭部から倒れ、なお身に炎が纏わり続け悶えるイクサライジング。

「うちの人に何を!」

 W直角方向より、閃光のような白き斬撃が振り下ろされる、

「つぇぇ」

 それはバーストモードイクサの『イクサカリバー』の刃。ヒステリー気味な女声を伴って左上から袈裟斬り、

「今は青空の会もロクに顔出さなくなって、私がお店出て食わせてるけど、あれでもちゃんとした亭主なんですからね!」

 さらに返す刀で右斜めから打ち込んでくるイクサに、打たれるままのWは退くしかない。

「お店では、レイナよ!よろしくね!」

「聞いてねえ!」

 ジョーカーの左腕で刀身を辛うじて掴み、大きく弾く、逆の腕にはメモリが握られている、

『ヒート メタルぅ!』

 左半身を金属色に塗り替えるWに、なお振りかぶるイクサ、半身を捻って背を見せるW、『メタルシャフト』が折りたたまれて背負われている、シャフトがカリバーを受け止めた、シャフトを手に取る形でカリバーを弾くW、即座にシャフトが3倍に伸び、半回転させてイクサの腹を打ち、反転させシャフトの逆端、炎の灯った先端で顔面を直撃、

『イクサは機械だ。エネルギーの調整はかなりのデリケートだ。だから過剰に熱を与えるだけで動かなくなる。』

 もんどり打って倒れるバーストモードイクサ。

「どんどん行くぜ」

 追い打ちをかけようと奮い立つWは、メタルシャフトを右へ一回転、左へ一回転し、脇に挟む。

『イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』

 そのW背後からセーフモードイクサが拳を繰り出してくる。

「おっと」

 反応しているW、先端に火のついたシャフトを振りかぶって威嚇する。

「私の魂が、おまえを討つ!」

 直接肩へ受け止めるイクサ、あまりの破壊力に片膝が折れる、だがシャフトを掴んだ、そう敢えて受け止めた、反対の拳には『イクサナックル』、ゼロ距離からの電磁砲がW右脇に入る、

「ぐぉ」

 Wの足が宙を浮いて重心を失い、気づかない内に天地が逆転、それでもシャフトを地に差し両足揃えて着地するWだった。

『今はまだ連携が取れてない、早い段階で討たないと厄介だぞ翔太郎。』

「強え、いい女。勝負だっ」

 W、バックルからメモリを一本だけ抜き、シャフト側に差し、シャフトを水平に構える、

『メタルぅ マキシマムドライブ』

「『メタルブランディングっっ』」

 シャフト両端から噴流が吹き、頭上へ掲げ回転させると炎の輪となって前方へ拡散、立ち上がりそれぞれのフエッスルを手にしていた3体のイクサは半歩遅い、炎に巻かれ一斉に消失した。

「強かったぜ、いい女、顔は分かんなかったけどな。」

 硝煙上がる大地には3人煙に巻かれた人影が見える。が、顔を見る前にカーテンに隠れてしまった。残ったのはWの足元に転がった、イクサの1人が落としたろうイクサナックルのみ。

「渡したまえ、それは今はボクのモノだ」

「イヤです」

 一方、その傍近く、遠く壁のドアに後ろ歩きでジリジリと下がる夏海、その両腕にディエンドライバーが抱えられていた。

「そうか」

 夏海の眼前には手を伸ばして迫るディエンドが。

『ジョーカーぁ マキシマムドライブ』

 そのディエンドに横殴りの突風が吹く、思わず振り返って見上げるディエンド、

「『ジョーカーエクストリーム!』」

 両足を揃えて蹴りの態勢、Wの左側が縦半分に割れ、前方にやや突出、右側とズレる奇っ怪なスタイルで降下してくる、
 ディエンド直撃、から透過、素通りしたWは地面を抉って夏海の黒髪を大きく乱しただけだった。

「ディエンドに残った力でもこのくらいはできる。また会おう、夏メロン。」

 ディエンドの立つ地は、夏海達の至近にありながら全く違う別の世界、次元のカーテンは既にディエンドを覆って、Wからは揺らいだ幻想のように見えた。

「メロンじゃないですみかんです、みかんでもないです!」

 既にディエンドのスーツが蒸発するように着脱し、嫌味な程屈託のない笑顔を夏海に向け、海東大樹は空間に溶けていった。残ったのは、ディエンドの腰に巻かれていたカードケース。地に落ち、僅かに埃を立てた。

『探偵と泥棒の化かし合い、どちらが果たして化かされたのか。さあ、光夏海くん、ぼやぼやしていないで写真館へ行こう。』

 Wの右目の明滅が夏海を照らした。

「待てフィリップ、あのキバーラって変なのは、写真館を調べても無駄と言ってたぜ。」

『ディエンドライバーをこちらが手に入れたのは、まことに幸運だったよ翔太郎。』

「そうか、さっきの芸当、だよな。だとさ、お嬢さん。」

 Wの左眼が夏海に向かって明滅し、黒い人差し指と親指が忙しなく動いた。

「アナタ、キモチ悪いです」

 そんなWを端で眺めて首の2眼を弄ぶ夏海は、顔をしかめるしかなかった。





6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その7





 そこには、ただ一組ショボくれた帽子と埃のかぶった眼鏡が落ちているだけだっだ。既に荒廃した大地には、先程までいた何人かの者がいなくなり、タイヤの跡だけが風に吹かれてもなおその型を留めていた。
 風では無い揺れが、砂塵をごく僅かに騒がせた。落ちた帽子の横に踏みしめる靴、片腕が伸びて帽子と眼鏡を拾い、土と埃を祓って着ける者が一人。

「おのれディケイド、何度この私を殺せば気が済むのだ、」

 高笑いを上げる鳴滝、その草臥れたコートもせり上がったデビルスマイルも変わらず、ダメージの跡も全く見られなかった。




 翔太郎の視界には見渡す限りの倒壊した家屋の瓦礫が散乱するだけであった。ただ一つ、眼前に立つやや小さめの扉を除いて。上左右の壁が崩れそのピンクの木枠の扉と窓枠だけが填った1枚の壁が強風にもめげず大地からのび立っている。近づいてみると、ドアノブにダンボールで書いただけの『光写真館』の看板がビニール紐で括っている。

「どこでもドアかよ。」

 ドアノブを一旦握って、開ける前に一度右サイドから裏を覗いてみる翔太郎。だが依然風景は瓦礫で満たされていた。にも関わらず、開けた先の風景は、土足で入るのが憚る艶のあるフローリングの床、四辺と天井が頑丈に構築された、かなり手入れの行き届いた屋内だった。モダンな丸机と1対のイス、あの幌掛けされている三脚だけが見えるそれはおそらく写真機だろう。タペストリーに描かれた油彩画は、電波塔を上角に臨む風景画、青空に輝く太陽に電波塔の先端が重なり、さながら太陽を巨大な銛が刺し貫いているようだった。
 だが翔太郎に、室内をじっくりと調べる暇は与えられていなかった。
 天頂から急降下し、放物を描いて急上昇する白い物体、
 動体視力の限界を超えるその動きを追えない翔太郎の鼻先に、見覚えのある球体、

「やべ」

 爆破、扉の木枠が焦げる、
 寸でで頭を仰け反らせる翔太郎の鼻孔を煤焦げた臭いが突く、
 だがそれだけである、翔太郎の顔の皮1枚剥く程度の火力の瞬間発火、身体にダメージが残る程のものではない、身体には。

「気に入りの帽子が!」

 ゾウアザラシ4歳オスの腹の皮製の帽子の縁半分に炎が上がった。慌てて帽子を脱ぎ捨てる翔太郎、革靴でもみ消すと、哀れ帽子の縁は三日月状にしおれ、炭素の臭みを放っている。

「あら、Wの世界のヘボ探偵一人?な~んだ。」

 翔太郎を掠めた白い物体、キバーラが頭上でせせら笑った。それを見た翔太郎、癇に障ったか何度も飛び上がって掴もうとする、それをスイスイ躱して余裕を見せるキバーラ、

「待ちやがれてめえ、鳴滝はもう死んだ、てめえ一人で何しようってんだ、この世界からオレ達を帰しやがれ!」

「そう、帰りたいのね。でもここを調べても無駄よ。ここは栄ちゃんに頼まれてワタシが移動させてたんだもの。」

 屋内天井隅に舞ったキバーラの先に、次元のカーテンが小さく浮かんだ。

「おまえがどっかの世界いっちまえば、俺達はどの道ここでくたばる。おまえの筋書き通りだ、だから最後に聞かせろ!」

「フン、土下座でもしてくれるかしらぁ?」

 相手が追うのを観念したと見たキバーラは振り返り、ジラすつもりで天井隅を周回する。

「光夏海の命を狙ったのは何故だ?」

「あの子はワタシからなにもかも奪うのよ。ユウスケも栄ちゃんも鳴滝も、あの子にだけは特別甘くなる、門矢士もあの子がいなければ、ディケイドになって世界と引き替えにする事も無かった、ワタシもワタシの世界を奪われる事はなかったわ!」

 翔太郎は熱弁するキバーラをじっと睨んでいた。もちろん聞き入っている訳ではない。背の裏に回した右手にはギジメモリ、左手にはバットショット、

『バット』

 カメラからコウモリ型に変形し、キバーラへ突進するバットショット、突如現れた同機動特性のメカに戸惑いながらも逃げ惑うキバーラ。

「てめえみてえなのの口を割らせるには、ノセてみるのが一番なんだよな。」

『スパイダー』

 さらにもう一本ギジメモリを出し、今時大き過ぎる腕時計に装着、腕時計は4対足を伸ばし蜘蛛型の『スパイダーショック』へ変形、その形状から想像できる通り糸を直線で発射、

「なに、ネバっ」

 見事宙を舞うキバーラを絡め取った。

「さあて、ここから本目、オレ達を元の世界へ戻す方法を教えてもらおうか。アン?」

 引っ張り込み、キバーラを掴む翔太郎は途端態度を変える。

「うぐぐ、よく見れば・・・・いい男ねえショタローさぁん、」

 立場の入れ替わったキバーラもまた甘い言葉で隙を伺おうとする。
 そんな翔太郎とキバーラのやりとりはしかし、爆音一つで帳消しになった。

「なんだ!?」

 明らかにドア方向からの指向的な震動、反射的にドアに背をつける翔太郎は、窓から外を覗き見た。

「あれは、さっきの青い泥棒、」

 見れば限り無く拡がる瓦礫の果てに、数名の人影が立っている。その中、シアンの縦ストライプの姿をしたライダーを見て取る事ができた。

「フン、これで見納めかと思ったら、なんだか寂しいわ、ショタローさぁーん、」

「待てこら」

「最後にいい事教えてあげるわ、鳴滝は死んでいないわ、というか死なないのよ彼は。ジャぁね!」

 このドサクサに紛れて糸を噛み切ったキバーラは翔太郎の手から離れ、次元のカーテンに突入した。
 独り取り残された翔太郎は、眉間を人差し指で触れ唇を振るわせる。だが、そんな翔太郎をさらに追い打ちする状況に事態は進展していく。

「いいかい、この光夏海と交換に、キミのダブルドライバー、そのお宝をこっちに頂こう。」

 翔太郎の体を依然、ディエンドの威嚇の震動が伝わってくる。

「探偵対大泥棒、ハードボイルドになってきたぜ。」

 口でハードボイルドと言ってしまう翔太郎だった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その6





 次元のカーテンが4つの影を堤防の上に伸ばし、そして4体の仮面の男を出現させる。

「さあ、舞台の幕を上げよう。」

 既にシアンの縦ストライプが特徴的な姿へ変身しているディエンド、がやや両足を揃え堤防の上から屋根を臨む。今回召喚したライダーは『ギャレン』『バース』『サガ』。
 ディエンドが臨むお婆ちゃんの小屋の庭では、今もアラタが一人雑草取りに追われている。ディエンドはギャレンに顎で指図し、ギャレンはワケの分からない叫びを上げて空中一回転で降下した。

「む!ガタックゼクター!」

「#$%)!59&(ザヨコォォォォ)」

 柔らかな土壌を舞台とした乱闘を尻目に、小屋の玄関口に立つディエンド含む3人のライダーが立つ。

 一人でにドアが開く、

 中から4匹の巨大な虫が飛び出してくる、

「先手を打つか、さすがはカブト」

 それはゼクター、木戸が開くと同時にカブト、ザビー、ドレイクが飛び出しそれぞれライダー3者へ突撃、その背後から杖を突いて出てくるソウジの手には、パーフェクトゼクターが一振り握られている。

「お婆ちゃんが言っていた、油断とは油を切らして明かりを断つと書く。だが太陽の光は絶える事がない。過去に飛んだ時、頼りにできるのは自分の能力と、そこで手に入れたゼクターだけだった。」

 実は油断の語源は灯油切れなどではない。

「悠長な」

 問題はソウジがその間、ディエンドの再三の銃撃を黄金剣でことごとく弾き返している事である。

「一億円!」

 間の悪い事にバースディ装着最中にカブトゼクターに眉間を打たれてよろめいたところ、見えなかったサソードが土中からバース足首を刺す。途端電撃のような痺れがバース全身を襲い、バースディ状態で卒倒。哀れ構造上の性から起き上がる事が不可能になる。ディエンドは無言で透明のカーテンを降ろしバースを撤退させた。

「王の判決を言い渡す」

 一方サガはドレイクの動きに翻弄されたものの、即座に適応して『ジャコーダービュート』を撓らせ叩き落とし、返す刀でソウジにその切っ先を伸ばす。

「おい歯磨き粉、あの女に何の用があるのかは問わん。だが、あの子を今動かせば、門谷士を本気で怒らせる事になるぞ。それが怖くないのか?」

 サガの伸ばしたロッド先端をパーフェクトゼクターで巻き付けるソウジ。

「ボクはキミと同じで、小馬鹿にされるのが非常に気にくわない。でもキミは分かっていない。キミ程度の者はボクはいくらでも見てきた。あっちの彼にも、キミにも、ちゃんと相応しい相手を用意してある。」

 ザビーゼクターに攪乱されながらもなお銃撃を繰り出すディエンド、カブトゼクターがソウジに周回して逐一弾き返す。

「甘く見たな。ライダーになれずとも、女一人くらいは守れる、」

 ソウジが依然ビュートの巻き付いたパーフェクトゼクターをディエンドに向かって投擲、

「それは、どウッ」

 頭を振って回避するディエンドにしかし、パーフェクトゼクターは周回してビュートを首に巻き付けてくる、
 慌ててビュートを離し武装を失ったサガに、カブトゼクターが体当たり、弾き飛ばした。

「太陽は絶えずどんな時も東から昇り西に沈む。誰もそれを止める事はできない。」

 バースを失い、サガも卒倒し、手札が無いかのように見えるディンドもまた首元を抑え呻く。

「だが、キミはいつもそうだが、肝心なところで間違えている。太陽は天にあって、決して地上にあるものではない。ボクの手駒は無限さ。」

 その時である、ソウジが背後に殺意を感じたのは。鎌のような2本の角、漆黒のボディ、その角を刈って三日月に繋げたような得物、『カリス』に既に至近後背の間合いに詰められていたソウジ、カブトとザビーゼクターが突進、得物の『カリスアロー』をひと薙ぎするだけで叩き落とすカリスは、返す刀でソウジを横一閃、最初に気づいた時点でカリスが一手速かった。

 ぐぉぉぉ、

 一閃されただけで地に倒れ、土に塗れて悶え苦しむソウジ、その肉体からは緑の光がいつまでも残留し消えない。

「キミと同等の熟達した力量と疾さを備えたカリスは、井の中の大将のキミにはもっとも相性の悪い一人だ。その痛みは今日1日キミを苛むだろう。ボクをバカにした罰だ。地獄の苦しみを味わいたまえ。」

 既に『ゼロノスベガフォーム』が、体じゅう包帯を巻き付けた光夏海を肩に抱え、小屋からやや屈んで出てきていた。光夏海の首には、お婆ちゃんがあのショッキングピンクの2眼を吊り下げてくれていた。

「待て……」

 悶えながらも手を伸ばすソウジを、失神する事も許されぬ激痛が、いつまでもその身体を苛んだ。

「オレは、オレにしかなれない!」

「%$)K9!(ザヨコォォォォォ)」

 カリス、ゼロノスを引き連れるディエンドは、激闘の末ついには両者とも得物を捨てて素手で殴り合い、果ては頭突きの応酬を繰り返す鍬形虫を模したボロボロの2人のライダーを横目で見た。

「一生やってな。」

 ギャレンを置き去りにして次元のカーテンを潜るディエンド等だっだ。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その5





 金属の焼ける臭いには既に自覚すら無い深海マジュであった。もはやハード的な問題は全処理を完了し、最終デバッグをかけてチップが完成する。黒縁の度のキツいメガネに『G4SYSTEM』というディスプレイのロゴが反射される。ピン二つで止めた黒髪を下ろすと、腰のあたりまで毛先がくる、首の細い女だった。
 窓のカーテンが踊り、夜風が腰掛ける白衣までも揺らす。マジュはその時微香を感じた。あまりにも爽やか過ぎて毛穴に刺すような刺激を与える程の香りだった。

「本当にいつも窓から来るのね。大樹。完成したわ。『G4チップ』、これで私のESPシステムと併せれば究極の超人が誕生する。」

 メガネを外したマジュの漆黒の瞳は爛々とした。その内側にどれほどの漆黒が溢れているのだろうか。そんなマジュの瞳をディスプレイの反射越しに見つめる海東は、キャップ帽子を既に逆向けにし、マジュの細い首元に腕を回してもたれ掛かるように抱きしめる。

「君のおかげで破損したG4チップを修復できた。本当に感謝している。」

「貴方が、あの八代淘子からこれを持ってきてくれたのは、私にとって幸運だったわ。」海東の掌に自らの手を重ねるマジュ。「私貴方のおかげで大変な栄誉を手に入れる事ができる、いえ、貴方のおがげで高慢で粘着質な自分から変われそうな気がする。今までの自分は、なにかがすり減っていた。」

 そんなマジュの顔を黙って見つめ、下顎に手を添えてこちらへ向かせる海東。それが二人の合図であり、マジュはいつも通りその野心的な眼差しを閉じ待った。海東の手は顎から両肩に添えられ、そろそろ口元の臭いがしてくる頃合い。しかし今回は違った。

「お宝は確かに頂いた。」

 既に窓際に立ち、SDアダプタからチップを抜き取る海東大樹。徐に帽子の前後を正した。

「大樹!貴方の為にこんなにまでした私を裏切るつもり!」

 海東は嫌味な程の爽やかな笑顔を向ける。笑顔は、カーテンの揺れに見え隠れする。

「僕は泥棒がサガなのさ。人から盗む。君の心を盗んでお宝を得た。ただそれだけの事。僕は高慢な女は嫌いじゃない、粘着な女も面倒見てあげたくなる、だが高慢で粘着なのは、ヘドが出る。」

 せめてそう言う事にした海東、颯爽窓を飛び越えた。立ち上がってマジュが窓から身を乗り出した時、既にどこにも姿は見えなかった。マジュは倒れ込み、ただ呆然とした。マジュの漆黒の瞳に、ディスプレイ上に表示された『第4世代型対未確認生命体強化外骨格及び強化外筋システム』の完成図面が映っていた。


6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その4





「な~つみちゃん」

 高度50メートル程の高さでは、どんなに広げても体と同じ幅しかない翼を羽ばたかせる掌サイズのキバーラの姿を見る事ができない。
 キバーラから見て、米粒のような人の頭が一つディケイダーへ近寄っていく。あれは『Wの世界』から連れてきたマヌケだとキバーラの眼には認識できた。あの夏海の頭も見える。その傍にいるのは、確かこの世界のライダーの一人。何か言われたのだろう、夏海がマヌケの元へ駆け寄っていく。

「アンタ、どこの世界の誰かは知らないけど、士も、ユウスケも、キバットも、鳴滝も、私の気にいったモノはぜ~んぶアンタが横からしゃしゃり出て奪っていく。」

 キバーラがその下顎の牙の隙間から泡を一つ膨らませる。泡はキバーラと同じ程度の、人の拳ほどの大きさになり、フワフワを浮かんぶ、キバーラが泡に一息甘く吹きかけると、ゆっくり、ゆっくりと軽く渦を巻く軌道で降下する、当たれば人一人焼死させる程のエネルギーを乗せて。キバーラはしかし滅多にこの力を使わない。というよりあまり使えない。動物どころか人間の反射神経でもあっさり躱せてしまう程致命的に弾速が無い。だがそれは動いているものに限った話である。静止した物体なら風を読んで命中させる事も可能だ。あのディケイダーという今や静止する火薬庫でしかないあれに向けて、夏海が近づいてくる瞬間を狙って泡を吹けば、一瞬で憎い女をあの世に送る事ができる。たとえ命を奪えなくとも、次元の壁を越える手段を失ったあの女をここに封じ込め、結果的に亡き者にする事ができる。この瞬間をずっと、ずっとキバーラは待っていた。




「ひさしぶりに探偵らしい事でもすっか」

 翔太郎はまずディケイダーの臭いが気になった。厳密に言うと、オイルの臭みすら無い事が気になった。およそ機械である限り、そんなことはあり得ない。翔太郎はこれが見た目よりはるかに高度な技術によって構成されている事を思わずにはいられなかった。となると、彼の相棒がこれを見た時、自分よりはるかに何かを得る事だろう。たとえそれが蜘蛛の糸のような可能性であっても、それを掴まなければ前に進めない。

「フィリップの奴、こいつの計器を見ろって言ってたが、どこにでもあるメーターばかりだぞ。映像撮るしかねえか。」

 バットショットを両手で窮屈に構える。翔太郎にとってバットショットは小型過ぎるようで、10本の指の収まりが悪く、ヘタをするとレンズに被ってしまいそうだ。

「それが、士クンが乗っていたバイクです。あの、電話の彼が言ってました、それで次元を越えてライダー達を集めれば、士クンは私を無視できなくなるって。でも士クンにここで置き去りにされた私に、ライダー達は言う事聞くわけないと思うんです。」

 翔太郎は敢えて夏海という少女の顔を見てやらなかった。

「フィリップは、アンタがあの爺さんや門谷士がここまで連れ添った事に意味があると考えてる。ここに置いて別れた事も、殺さなかった事も含めてな。それが脱出する方法に繋がるかどうかより、繋がっていると見てアンタに頼るしかねえ。唯一の可能性という奴だ、このオレが風都に帰れるな。オレはフィリップとはちょっと見立てが違う。オレはあの門谷士って奴が、この滅んでいく世界にアンタを置いていくはずはない、そう思ってる。それに、」

 翔太郎、ディケイダーのスイッチを入れる、高い周波の回転音がディケイダーから轟く、ハンドルのアクセルを捻るとさらにエグゾーストから轟音と振動が唸る。

「アイツが、本当にアンタをここで見殺しにするつもりだったら、使えるようにしとくヘマはしねえだろ。」

 夏海は執拗に瞬きを繰り返した。
 ディケイダーを立てかけ、しゃしんよろしければ、の紙看板を立て、ああして写真を一生懸命撮っていた、あの背中がフラッシュバックする。だがすぐその幻影は消えて、中折れ帽を被った頼りない青年の姿に変わる。

「私はもう、士クンを信じられない、」

 夏海は思わず顔を両掌で塞いだ。

「いいか」翔太郎はその時振り返った。「アンタはあの門谷士をどんな事があっても信じ続けろ、たとえオレや相棒、他のライダーが全てあの男を疑ったとしても、アンタだけは最後の最後まで奴を信じていろ。」

 翔太郎は、帽子で動揺する自分の目を隠しディケイダーを撮り続けた。夏海はそんな翔太郎を怪訝に眺めた。

「アナタ、ダメです…………士クンはまだ様になってるだけマシでした。」

 翔太郎の下顎が泳ぎながら振り返る。

「おま、おまえ…………ダメは、ないだろ!」

「やっぱりアナタは、士クンにおよばないです、ダメダメです、」

 夏海の眼に、軽薄な探偵の姿が滑稽に映る。士とは違うキャラクターのその男は、どこまでも頼りなさげだが、少なくとも和ませてはくれた。
 そして彼女の視界にそれが入ってくる。その癇癪ではしゃぐ滑稽な男の背後から、忍び寄るようにふわふわと宙を漂うそのしゃぼんのような小さな玉を。なぜだろう、夏海の知覚できないフラッシュバックが、その泡に危機感を覚えさせた。

「あぶない」

 咄嗟に駆け寄った、駆け寄って自分より頭一つ高い男に体重をかけて押し倒す、押し倒す男の怒声や舌に入った砂の感触はしかし、その一瞬でどうでもよくなる、
 音で体が壊れそうになった、
 熱は一瞬だけ感じて後は麻痺した、
 なにかが頭に当たった、
 だがそれら全て、夏海が再び目を覚ました後、脳が記憶をかき消す事になる、

「なにが起こった、耳が、おい、光夏海!頭から血が止まんねえ、しっかりしろ!光夏海!」

 キバーラが放った泡は火種となってマシンディケイダーを爆破した。爆破は十メートル四方に爆炎を上げたが、それは一瞬、引火物が無い荒野であった事も幸いし、もっとも至近にあった光夏海と左翔太郎は火に巻かれる事もなく、煙を吸う事もなかった。ただ破片と衝撃をまともに食らい、翔太郎は左の鼓膜が破れ、全身に擦り傷、背中に胃の内容物が出そうになりそうな打ち身を受けた。だが光夏海に比べると動けない程ではない。光夏海の左腕は見た目ではっきり分かる程に骨折し、なによりそのロングの髪の毛がベトつく程の出血が頭からあふれ出ていた。



 

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その3





「無様だな。」

 翔太郎は、いつまでも片足を伸ばして地にヘタり込むソウジの顔を覗き込んだ。

「お婆ちゃんが言っていた。自分が決断し、取り返しのつかないような事をしでかしたとしても、それは決して不幸でもなければ、後悔する事でもない。なぜなら、」

「自分が、決断したからだ。」

 お株を奪われソウジははじめてその中折れ帽の若造の顔をまともに視た。

「何者だ?」

「あらゆる事件をハードボイルドに解決する、」帽子の縁をなぞった指でピストルを作ってマズルジャンプを模す、「探偵さ。」

 いぶかしんで足先から頭のてっぺんまで眺めるソウジ。

「おまえ、自分の口でハードボイルドといって恥ずかしくないのか?」

「この世界で、おまえにだけは言われたくネエ!」

 ライダー同士の距離感は、親近感よりも同族嫌悪のそれらしい。

「言っておくがオレはおまえのような半人前に用は無い。」

「こっちが聞きてぇ事あんだ、おまえのベルト、空間を縫って動けるって相棒から聞いたぜ。」

「だから、用は無い。」

「聞いてんのかよ!」

「別の世界へ行くようにオレも試みた。だが無理だった。だからおまえに、用は無い。これで3度めだ。」

 翔太郎は自分の世界の相棒を彷彿するこの男に、ストレスが溜まってきた。が、相棒に近いが故に慣れてもいる。

「お見通しってわけかい、どれ、おまえん家まで肩貸してやるぜ。」

「もうこれ以上は言わん。用は、無い。」

「強がるや・・・・・」

 翔太郎は言いながらソウジの指差す方向に上がる土煙を二度見した。

「このままでいれば、いずれお婆ちゃんが迎えをよこす。それは分かっていた。」

 地平線の彼方から煙の尾を引いて向かってくる、荷台を引いたそれは青いオフロードバイク、その名をガッタクエクステンダーという事を翔太郎は知らない。

「無様だな。幼なじみとして恥ずかしいぞ。」

 ビンテージメットで立ち尽くし、ゴーグルを外した晒した顔は、ソウジと幼なじみとアラタ。

「アラタ、その台詞は、さっきそいつから聞いた。相変わらず間が悪いやつだ。」

 翔太郎はソウジの知り合いらしい事だけは察した。

「ああ、さっき言った。間が悪いやつだな。」

 ライダー同士は合従連衡がめまぐるしいらしい。

「なに?!おまえら・・・・、オレが悪いのか!?」

「こういうやつだ。」

「こういうやつか、まぁ、風都でいくらでもいらぁな。オレは探偵、困った事があったら、ハードボイルドに解決するぜ。」

「ソウジ聞いたか、ハードボイルドに解決だってよ、こいつスゲーぜ!」

 かつてないポジティブな反応に喜びつつも頬を引き攣らせて一歩引く翔太郎だった。

「お婆ちゃん……」

 そんなおかしな両者を半ば放置して、ソウジが見やるのは、ガタックエクステンダー、ではなく、その後方に括り付けられた荷台にケツを抑えながら降りるもんぺ姿の老婆。
 一歩一歩ゆっくりと杖を着いて歩み寄ってくるお婆ちゃんを見ながら、ソウジは手をアラタに差し出す。アラタはなにもかも分かったようで、しゃがんでソウジの手を掴んで自らの肩に回し起き上がらせ、お婆ちゃんに二人三脚状態で足を向ける。

「おかえり。」

「ごめんよ、お婆ちゃん、お婆ちゃん、ごめん」

 アラタを振り払う形で小さなお婆ちゃんに覆い被さって抱きつくソウジだった。お婆ちゃんは、そんなソウジを支えながら、背中をさする。

「足一本なら、安い代償さ。良かったよ、人前で泣かない子だったのに、よっぽど怖い思いをしたんだねえ。」

 ソウジの頭をお婆ちゃんはゆっくりと何度も撫でた。ソウジは背を屈め、お婆ちゃんの胸元に顔を埋めた。

「見ないのが、男の流儀だぜ。」

 翔太郎は中折れ帽で目元を隠し、アラタの肩に両腕を置いて、体ごとねじり回した。アラタの肩は震え、顔は翔太郎にすら見えないよう俯いていた。

「あの・・・・・左さんでしたっけ?これがフィリップさんから、」

 リにアクセントを置いてしまっている夏海が翔太郎の方へ緊張の無い顔で歩み寄りスタッグフォンを手渡す。

 士クンは、アタシにあんな風に心の内側を見せてくれた事、なかったんじゃないかしら・・・・

 未だ活力の無い夏海の眼に、視界に入るもの全てが羨ましく思えた。

『いいかい翔太郎、まず転移するというその写真館へ行く事、次にあの鳴滝といっしょにボク等を誘ったキバーラという奇妙な生き物を捜す事、この二つがもっとも可能性がある。その次に門谷士が使っていた写真機、そしてディケイダーというバイクを調べてくれ。まだその近くにあるはずだ。できればバットショットでいくつか映像を送って欲しい。』

 一方、まくしたてられ下顎を遊ばせるしかない翔太郎は、自失した夏海がお婆ちゃんの方へ足を向ける事が気になったが、転がっている2眼トイと、白いボディが煤汚れたディケイダーを視界に入れる。倒れているが、車体に破損は見られない。

「あの子頼む」

 とアラタに夏海を任せ、翔太郎は取りあえずディケイダーを起き上がらせる事にした。
 この荒れすさんだ大地の風は、翔太郎にとってあまり居心地の良いものではなかった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その2





「あの子は、しばらくダメだな、」

 翔太郎はトレードマークのソフトフェルトを一旦脱いでロン毛についた埃を適当に祓い、帽子の中から埃を一息祓って被り直した。

 男の目元の冷たさと、優しさを隠すのが、こいつの役目だ、

 だから翔太郎は念を入れて目元をソフトフェルトで隠す。そう言われたからだ。それは相棒のフィリップからではなく、当然親からでもない。翔太郎がこの世でもっとも帽子の似合うと焦がれる男からだ。

「フィリップ、オレがこの世界からそっちへ戻るには、確かにあの子が必要なんだな?」

 翔太郎の言う通り、あのディケイドが次元の彼方へ消えてから、取り残された3人、鳴滝によって次元から召喚された翔太郎、この世界のライダーであり今や片足が永久に失われたソウジ、そして異世界でひとりぼっちの境遇に落とされ機械的に破壊されたカードの破片を拾い続ける光夏海、の3人は倒壊した電波塔の瓦礫が散乱する荒野に立っていた。残された彼らに、生還への帰路という謎が拡がり、あるいは道なしという答えを探り当てるかもしれない。
 翔太郎は『スタッグフォン』で自分の世界の相棒と連絡できる事だけが唯一の頼みである。

『おそらく全てを知っているはずの光栄次郎が、今の今まで手元に置いて旅をしてきたんだ。今彼女を確保しておく事は、君がこちらの世界に帰還する唯一の糸口だ。というより彼女ぐらいしか手がかりが見あたらない。翔太郎、一度直接話したい。出してもらえるか。』

 砂塵が突風となって、翔太郎の中折れ帽を揺り動かす、慌てて直す翔太郎の耳と鼻に感覚で分かる程の砂粒が入り込んでくる。先の戦いの熱量が拡散するまでこの強風は止まらないだろう。

「相棒、」翔太郎は頬の泥をつけて放心する夏海を眺めていた。「オレも、違った意味であの子が切り札だと思うぜ。オレは見たんだ。あの門谷士の背中を。あいつの背中は泣いていた・・・・、ああいうやつが、あの子をこのままこの世界にひとりぼっちにするはずがない。」

 大気が強風によって洗われて吸い込まれそうな澄んだ青空が広がる。照りつける太陽がはっきり分かる濃い影を3人に差す。
 翔太郎はスタッグフォンを耳から離して画面を眺め、項垂れる少女、夏海の元へ足を向けた。

「光夏海、オレの相棒がアンタと直に話したいそうだ。どうする、そのままいつまでもボーッとしててもいいぜ、オレにはそんくらいの時間をあけてやるくらいしか、アンタの慰めになってやれねえからな。」

 顔に煤をつけて放心する夏海は、それでも表情が変わらず、目だけ一瞬翔太郎に向いた。

「すいません」

 翔太郎は力無く片手をあげて受け取る夏海に、重症だ、とだけ感じた。

 半熟のおまえに帽子はまだ早い、

 実感した翔太郎は少女を相棒に任せる事にして、もう1人、片足を失って動けない偉そうな男の元へ歩を進めた。
 夏海はまた言った。

「すいません」

『君が光夏海君だね。まずボクの質問に答えてくれたまえ、君は、門谷士に会う勇気がまだ残っているかい?翔太郎がこちらの世界に帰る方法を捜し出せば、君はあの門谷士と対峙する力を得るだろう。』

「・・・・・・」

 もし閉ざされた暗闇に、一条光を差されたら、追い込まれた人間のする行動は決まっている。
 光夏海の瞳孔に、意識が灯った。


6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その1





『笑いのツボってこういう意味じゃ、ねえだろ。夏みかん。』

 あの顔は嘘だったの?士クン、

『オレは世界を撮りたいだけだ。』

 アタシを騙してたの?

『大丈夫だ、オレが決めて始めた事だ。おまえが悲しむ事じゃない・・・・』

 アタシは、士クンに、騙されていた・・・・


2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その38







「士クン、今度は」赤く腫れた目を拭って、震える唇を強く噛んで我慢した。「今度は私タチで旅の行く先を決めて、ユウスケを取り返して、」


 取り返した後、2人で小さな家を建ててそこでずっと暮らそう、

 私のそんな想いは、たぶん旅に疲れていたからだと思う。


「・・・・・・・」


 士クン、ディケイドはずっと私の顔を見ていた。早く素顔を見せて欲しかった。

 ディケイド、

 私はあの夢の中ではじめて見たディケイドの顔と、そう言った私を思い出していた。


「友情とは、友の心が青くさいと書く。」


 もう1人の仮面ライダー、ソウジさんが片足を引きずってディケイドの肩に手を置いた。結局一生このままで生きていく事になるんだ。ソウジさんはそれでも強がって精一杯の手向けをくれたんだと思う。

 ディケイドがゆっくりと振り返った。


「そう言えば、おまえにはあの時借りがあったな。」


 信じられない事が起こった。

 士クン、いやディケイドがもう1人のライダーに向かって大きく足をすり上げ蹴り込んだ。ソウジさんは大きく仰け反って倒れ込んで、その衝撃で異物になった右足がボロボロに砕け散った。


「ディケイド・・・・」


 あの夢も風が耳元でうっとおしくて、煙の匂いが煩わしかった。


「じいや、戻るぞ。アジトへ。」


 私の方へ向かってディケイドが叫んだと思った、でも声をかけたのは私の掴んだ手で袖が湿っていたお爺ちゃん、光栄次郎の方だった。


「ごめんよ、夏海、本当の孫でもかまわないと思ってたんだ。」


 光栄次郎が袖を強く振りほどいて、ディケイドの元へ歩み寄っていく。


「ハッ!大首領!」


 お爺ちゃんの別人の声が私の耳を犯した。

 孫じゃなかった、じゃあいままで私はなんでお爺ちゃんと思っていたんだろう、お爺ちゃんがお爺ちゃんじゃなかったら、私の本当の家族はどこなんだろう、思い出せない。


「士クンっいや!」


 私は誰に縋るともになく士クンの名前を叫んで手を伸ばしていた。

 ディケイドと光栄次郎の目の前にオーロラのカーテンが現れて呑み込んでいく。


「夏海、全て忘れろ、もう会う事は無い。」


 手が届こうとしたその時、カーテンがディケイドを消した。私はずっと、ずっとずっと手を伸ばし続けていた。

 風が耳元でイヤな音を立てて、膝を着いた地面はごつごつ痛くて、まだどこかで臭い煙が漂ってて、見渡す限り緑も人の家も無い荒野だった。

 私はいままで何をしていたんだろう、私の家族や私の友達、士クンに会う前何をしていたんだろう、思い出せない、思い出せない。


「ディケイドっっ!」


 私どうして、いままで自分の記憶が無い事を不思議に思わなかったんだろう。


(完)

5 カブトの世界 -クロックアップ- その37







 晴れる砂塵の中心は大きく抉れたクレーター中央。

 右腕を軽く上げるだけで構えるその者は、マゼンダのボディが硬質なシルバーを基調としたカラーへ上塗りされ、複眼は逆にマゼンダに発光。もっとも目を引くのが斜めに走ったゼブララインに代わり配された9枚のカード、左肩から胸を横断して右肩に達するマゼンダレールに乗って9枚の、それまで巡った世界のライダーの顔の描かれたライドカードが並ぶ。だがカードはもう1枚ある。それは額、今のディケイドの姿のカードが装着されている。そのカードに描かれたディケイドの額にもカードが着けられ、そのカードのディケイドにもカードが、無限のディケイドがそのカードには描かれている。バックルのドライバーはベルトを伝って右腰にカード差し込み口を空けた状態で移動、ディエンドから貰った元の位置にケータッチが差し代わっている。これこそ『ディケイドコンプリートフォーム』。歩く完全ライダー図鑑だ。


「ツ・・・・カ・・・・サぁ!」


 蹴撃したクウガ、その攻撃力はディケイドを伝って地面を抉り、大気を揺るがしたが、ディケイドコンプリートの右腕一本で弾かれ、顔面から突っ込んで土を咬む。

 起き上がったアルティメットクウガの硬質な口元がその時初めて開いた。


「オレは、おそらく今のおまえには勝てない、ユウスケ。」


 吠えたクウガの背後に既に立つディケイド。

 賺さず振り返り右前腕を再生させ直刃状に延ばし振り抜く。

 手応えの無い残像が立ち消え、ディケイドの姿が完全にクウガの視界から消える。


「だが今おまえの前に立っている者には、ユウスケ、おまえは勝てない。なぜなら、」


 遙か遠くから士とユウスケの名を叫ぶ女の金切り声がする。

 クウガの聴覚がそれとは別に、風が揺らぐ低音を捉え振り返る、しかし既にディケイドの姿はない、反対方向から再び低い唸りを捉える、やはり振り返っても姿を捉える事ができない。


「なぜなら、これはオレ達の旅そのものだからだ。オレ達の積み重ねに、オレ達が勝てるわけがないんだ。」


 クウガ、もはや目で捉える事を諦め、俯いたまま動かなくなる。そうして徐に左拳を握りしめながら上げ伸ばし、ある一点を指し示す。

 発射、

 左前腕が胴から切り離れ、噴流を上げながら射出される。

 突き当たる腕の前面に現れるディケイドの姿、踏ん張るディケイドの足が地面を引きずる。

 動きを止めたクウガがゴウラムに変身しながら今度はその身ごと突っ込んでいく、

 その容積の数百倍ある噴流を上げる腕を片腕の握力だけで潰して勢いを止めるディケイド、

 既にゴウラムが鋏角を拡げ眼前に迫る、

 捕えられるディケイド、捕らえられながら直上を一直線、

 ゴウラムの大気を切り裂く音がディケイドの耳に劈く、だがある瞬間その音の一切が消える、ディケイドはもはや雲が下にしか見えない事に気づき、地球のゆるやかな弧と大気に色がある事をはっきりと見て取った。

 鋏角がゆるんでディケイドが落下していく、

 跳躍頂点でゴウラムはクウガへ、

 落下していくディケイドに蹴撃で加速、

 互いの姿が摩擦で灼熱、

 激突する大地、

 クウガが離れても受けたディケイドの勢いは止まらず地面を一直線に抉る、

 50メートルを越える土の山が半月状に盛り上がる。

 震動が崩壊した電波塔の残った家屋を総崩れさせる。


「ツカサっっっっっっっ!」


 瞬く間に腕が体内から物質変換されるアルティメットクウガ、今度は両腕を射出、

 爆炎あげて土盛りへ突撃する2つの前腕、 着弾と同時に消し飛ぶ土盛り、中より現れたディケイドの胸に2つとも食い込んでいくクウガ前腕、


「ユウスケ、いくぞ。」


 さらに噴流をあげる前腕にしかしディケイド、まるで意に介さず歩を進め、クウガへの間合いを詰めていく。

 クウガは徐々に腕を再生させ身構えている、

 歩み寄りながらディケイド、クウガ前腕を握り潰して噴流を止め祓う、

 ディケイドの胸に二つのクウガの紋章、ディケイドはそれを気合い一つで消し去った、

 3メートル、2メートル、1メートルまで間合いを切ってディケイドが足場を固めた。


「ツカサぁ!!」


 クウガの拳が鎌のように振り上がる、


「ユウスケっっ!」


 既に上体が沈んだディケイドの拳がアマダムへ。

 そのたった一発だけだった。


 ツ……カ……サ…………ッ!


 クウガのアマダムがバックル内部で縦に割れる、地に崩れるクウガ、悶え苦しみ、体を土に塗れさせる。


「終わりだ、ユウスケ。」


 悟ったディケイドはケータッチからカードを抜く。ボディがあのマゼンダピンクに修復された形で戻る。その顔も仮面に覆われた。


 ツ……カ……サ…………


 震えた手をディケイドに伸ばすクウガ。


「立てるか?」


 それは攻撃かもしれないがしかし、構わずディケイドもまた手を差し出した。

 上体を持ち上げるクウガ、その背に突如としてカードが刺さる、


「返せ海東!」


 瞬時にしてそれが、ディエンドの投擲した『ケルベロス』のカードである事を見て取るディケイドは、しかし同時に銃撃を喰らった。

 宙に浮くケータッチ、ディケイドの手を離れ、なにか透明な存在が持ち運ぶように宙を流れて、ディエンドの手元に収まる。もう一方の手には『ケルベロス』ともう1枚のカードが既に握られている。


「いやだなぁ士、コレをディエンドが管理する仕様にしたのは、そもそも君じゃないか。」


「私タチのユウスケを返して!」


 目を腫らした夏海が栄次郎の手を引く形で駆けてくる。


「おやおや、むしろ感謝して欲しいな君達。アルティメットクウガはあのままだとアマダムの暴走でどうなっていたかわからない。このエネルギー、ボクのお宝にさせてもらう。」


 ケータッチを自身のバックルに収めたディエンドは、ディケイドを威嚇しつつもカードをドライバーに装填、


『ATTACK RIDE INVISIBLE』


 銃撃が止んで一気に間合いを詰めるディケイドの拳がディエンドの残像を掠めた。


「海東・・・・」


 ディケイドは自分の握り拳を見つめるしかなかった。

 電波塔は既に跡形無く、大地はさらに巨大な瓦礫で散乱している。風は絶えず砂塵を巻き上げ皮膚に細かく掠り、空は黄色みがかった白。どこを見ても緑の見えない世界が、ディケイド達が今戦った跡だった。


「士クン・・・・・・」


 息を切らし、その柔らかい頬に土がついた夏海は、ディケイドに伸ばした手の先に、あの2眼のトイカメラを掴んでいる。

 ディケイドはしばらく夏海の顔を見つめていた。表情は分からない。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その36







「スゲー、クレーターになっちまってる、、、、」


 衝撃波に身構え、必死になってトレードマークの中折れ帽を抑え、ついでに片足の不自由なライダーを1人支えていた男がいた。


「悪い事は言わん、早く逃げた方がいい。」


 カブトは片足で衝撃に耐え切った。むしろ隣のカジュアルスーツの男を片腕で押さえ込んでいた程だ。


「悪い事は言わね、アンタが逃げた方がいいぜ。あの2人を止めねえといけないからな。」


 翔太郎は、既にカブトから自身のドライバーを掏り取ってヒラヒラと見せびらかした。


「お婆ちゃんが言っていた。身の程知らずの取り越し苦労程厄介なモノは無い。止めておけ、2人に任せればいい。」


「おめえみてえなキャラクターはな、風都じゃ吐いて捨てる程イんだからな、慣れてんだこっちは。」


 といいつつ翔太郎はカブトから手を放してベルトを巻き、今時嵩張りそうな青い携帯の方へ既に集中していた。


『興味深い。だが翔太郎、今回のケースは……』


 メモリをペン回ししていた手を止める翔太郎。


「おめえもかよ!・・・・亜樹子がどう・・・・、オレは依頼っ、・・・・分かったぜ相棒、おめえがそんなに押すなら、今は様子見だ、いいか、もしなんかアブねえようならオレは生身でも行くからないいな。」


 翔太郎はカブトへ振り返り、アワアワと口を空けて指差す。


「風都じゃ、相棒やおめえのようなやつはゴマンといるんだ、オレはもう慣れっこさ。」


5 カブトの世界 -クロックアップ- その35







「オレが旅に引きずり回した・・・・・・、オレが作ったというのか最強の敵を・・・」


 ディケイドの喉から顔面、並び両掌から物質変換が蝕んでいく。


「ツ、カ、サ…………」


 目元に精気が無い。ディケイドにはその猛々しい呼吸が耳障りだ。

 アマダムから朧気のように光が放たれ、アルティメットクウガの体中に入った裂け目のようなラインもまた光り出す、そして腕先のピックもまたマゼンダに輝いた。

 マゼンダ?

 それはアマダムとは全く違った光だった。

 爆破、


「ツカ」


 吹き飛ぶアルティメットクウガ、打ちのめされるディケイド、クウガの右前腕がマゼンダのエネルギーで暴発し、砕け散る。砕け散った欠片と共に数十あったライドカードもちぎれ飛ぶ。クウガはマゼンダのエネルギーが未だ蓄積されて身悶えし、ディケイドは顔面の直撃以上の衝撃で放心した。


「オレたちの、旅が・・・・・・」


 いままで積み重ねてきたなにもかもを、積み重ねてきた2人で破り捨ててしまった、旅をした業?次元を越えて世界を変えてきたそれがツケだというのか?

 だがその士の間隙もほんの一瞬に過ぎない。

 たった1枚満足な状態のカードを手に取るディケイド。“COMPLETE”のロゴが入り、今やディケイドを含む10のシンボルが輝く使途不明だったあのカード。


「海東、そこにいる事は分かっている。」


 私の記憶を返して!いったいどうして!どうして!

 取り出せ、こいつの頭から。

 おのれディケイド、またオレを殺す気かぁぁ!

 次の世界の奴を用意しろ。

 朦朧とするディケイドはしかししゃがみ込みながら叫んだ、


 オォォォォォォォ


 ディケイドの視線はクウガがマゼンダのエネルギーを振り払って高く舞い上がる軌跡を追っている。


「やあ、士。後でちゃんと報酬は貰うよ。」


 無空より出現する場違いな程屈託の無い声、シアンカラーに身を染めたディエンドがインビジブルを解いて、夏海に程近い、ディケイドの背後より卑屈に笑いながら、自身のバックルを外す。バックルはほぼ長方形、その表面積の大部分を占めるディスプレイはタッチパネル、ボディはそこから両サイドに伸びシアンと黒のストライプ。これこそこの世で唯一のアイテム『ケータッチ』。


「よこせ!」


 士の短く威圧的な口調に、苦笑で誤魔化して投擲するディエンド。

 既にクウガは跳躍頂点から、蹴撃の態勢、下角65度で降下している。

 片手で掴んだディケイド、COMPLETEカードをケータッチの中に差し込むと、画面にカードの模様が浮かぶ、ボディのシアンもマゼンダに変わる。浮かんだ9つのライダーのシンボルを順になぞるディケイド。


『KUUGA AGITO RYUKI FAIZ BLADE HIBIKI KABUTO DENO KIBA』


 地響きがする、大気も揺れる、はるか上空クウガの躍動がこの段階で既に伝わってくる、砂塵が舞い立ち渦となる、ディケイドを周囲から隠す、


『FINAL KAMEN RIDE DECADE』


 直撃、

 砂塵の渦の中に突撃するクウガ、

 混濁した大気が爆音と共に周辺の人々に吹き付ける、


「ツサカクン!」


 視界の取れないままその長い黒髪が靡き、衝撃波紋が地面を伝って陥没していくのに驚いて栄次郎に必死に縋り付く夏海だった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その34







 どうして私にこんなものを見せるの?

 2人が戦ったら、もうあの夢の通り、世界が破壊されてしまう、どうして、こんな事をするの、2人共どうして戦いをやめないの?バカじゃないの?

 私はいつのまにか耳を塞いで、目をを閉じた。


「大丈夫、まだ世界は破壊されないよ。」


 お爺ちゃんにしがみついた時、息が上がって自分が震えているのが分かった。喉の奥が今でもビー玉が入っているように詰まってる。お爺ちゃんは泣きすがる私の髪を両掌でいつまでも撫でてくれた。


「あれは、カードが守っている。士君を。」