2013年3月3日日曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その5





「あちらのダブルドライバーは、来人のそれと同じくキーへの対策も講じて変身が解けない。マキシマムへの保護もやはり施されている。いったいなんなのあの存在は。」

 上を向いているのか下を向いているのかもさっきまで分からなかった。
 世界が真っ赤で、手の甲で拭って赤が取れた。

「失神してんぜこの娘、」

 私の事じゃなかった、全身を流し台の色に光るライダーが、黒いコートと長い黒髪の女、同じ姿の金色や赤のライダーに向かって、喚いている。ライダーはあのカッコツケル君の変身した姿にもそっくりで、あのベルトまで同じ。コートの女の顔は包帯がグルグル巻かれて、なんだか透明人間みたい。

「ワカナ・・・・、なんて酷い、それもこれも全て私達家族を踏み台にしたあの男のせい、でも安心なさい、あの男は既に来人が消し去った、」

 死んでいたと思った、私は目を背けて喉元まで胃の内容物が出てくるのを我慢した、目頭が酸っぱくなった、もう人が死ぬところ、けっこう慣れちゃったと思ってたけど、さっきまでしゃべってた子は、脳の中の想像がいっぱいいっぱい出て、目をもっと酸っぱくした。

「安心しなさい。貴方はこのくらいの傷では死なない、」

『ジーン マキシマムドライブ』

 黒いコートの女がメモリとかいうものを銃の中に収めてアキちゃんに撃ち込んだ、ムゴイ、と一瞬思った私の目が間違えていたのはすぐ分かった。

「イタイ・・・・イタイよお父ちゃん・・・」

 むしろそれを見ている事の方がさっきより気持ちが悪かった。さっきまでボロボロだったアキちゃんの肌がすべすべに戻って、アキちゃんが拭った血の痕から真新しい肌が出てくる、エメラルドに光る0と1の数字の羅列がアキちゃんの体を流れて、立ち上がって困惑するアキちゃん、さっきまでの気持ちの悪さがその光を見ているとなんだか安らいだ、お母さんの中にいるような暖かい光だった。

「貴方のDNAに直接クレイドールのメモリーを封印しておいた。テラー、タブー、クレイドール、全てのメモリーをサイクロンと共にマキシマムで発動した時、貴方の弟は完全な肉体を取り戻し、そして検索を越える地球の記憶との一体化を果たし、地球そのものになる。」

 アキちゃんは全てに怯えて、唇を振るわせて後退った。

「いやや、アンタなんかうちの母親ちゃう!うちは、うちの家族は、お父ちゃんだけや!」

「荘吉に私は2つの依頼をした。1つは貴方を安全なところへ匿う事、もう1つは園咲リュウベエから来人を取り戻す事。あの男は貴方を預かる事は承知したのに、来人は取り返すどころか、見殺しにした。私が辛うじてサイクロンメモリーの中にサルベージしなければ、来人は永遠に失われるところだった。貴方の家族を見殺しにしようとした男よ。そんな男に騙されてはダメ。」

「ウチは、ナルミアキコやっ!」

 もう向かい合って立つのもイヤなんだと思う。アキちゃんは、振り返って今頼りにするしかないカッコツケル君の元へ逃げようとする。でもそんなアキちゃんの背中を指差す真っ赤なライダーがいた。

「ヒート、駄々っ子をお仕置きしておあげなさい。」

 あのカッコツケル君を真っ赤に炙ったような姿のライダーがその指先に炎をつけて弄んでいる。

「足の一本焼き潰していい?」

 そう言って指先の炎を下手から投げる女声のライダー、逃げ惑うアキちゃんの左足に当たって、燃えて黒こげになって体を支え切れず倒れる、私はでもその時アキちゃんに流れるエメラルドの光が、すぐさま足を元通りにしていく様も分かった。一番困惑しているアキちゃんの顔も分かった。

「貴方は来人が可哀想だと思わないの?家族なのよ。」

「逃げられない、逃げられへんなら、」

 アキちゃんはまたあの包帯の女や同じ姿のライダー達を振り返り立ち上がった、

「ウチはお父ちゃんの子や、お父ちゃんの事信じてる、お父ちゃんがアンタラを倒す言うんやったら、ウチもお父ちゃんといっしょにアンタラを倒したるんや!!」

「最近の子供は生意気だね、この私の前でヤケになるなんて」

 また指先から炎を発する赤いライダー、
 アキちゃんの髪が後ろに引っ張られるようにたなびいた、アキちゃんはそれでも眼を細めながら逃げない、大気が熱を帯びて突風になる、突風を追う形で炎がアキちゃんの顔に向かって飛んでいく、アキちゃんの耳にまとわりつくように、頭と同じ大きさくらいのエメラルドの珠が左右2つ浮かぶ、エメラルドの珠が向かってくる炎を受け止めかき消す、もう1つの珠が炎の軌跡を真逆に辿る、赤いライダーが自分の放った火で眼が眩んだせいでお腹にまともに食らった、エメラルドの光が帯電したように全身を掛け巡って赤いライダーがもんどりうって苦しみ出した、

「クレイドールとのシンクロ率が高い、細胞を活性し回復させ、過剰になれば神経を痛めつける能力、死んだ細胞のネクロオーバーには、生き返った細胞は癌に等しい。地獄の苦しみを味わう事になるわ。でもね、」

 包帯の女が背後にいるもう2人のライダーに指図する、キンキラなライダーが昔見たペッタン人形みたいに両手を異様に伸ばしてアキちゃんの喉を絞めようとする、なんかキモい、でもアキちゃんの珠がそれを祓い除ける、キンキラなライダーがしつこく絡みつきながら、今度は足を伸ばして仲間の流し台ライダーの腹に巻き付いてそのまま天高く放り投げる、

「いってらっっしゃぁぁぁぁ」

「ていやさぁ!」

 放り上げられ、さらにキンキラの足裏を踏み台にして飛んだ流し台がアキちゃんの真上から落下して棒を突き出してる、アキちゃんはキンキラに手一杯になって、見上げた時にはもう棒が首筋を強く伐っていた、

「不死身だろうと、一撃で意識を断ち切る事はできる、どれほど優秀なメモリーと高いシンクロ率があろうと、しょせん生身のシロート。闘士のスキルには敵わない。」

 アキちゃんは一打で失神し、流し台の太い腕に抱えられた。ギンギラはそのまま肩に背負って包帯女の元へ。

『スカル マキシマムドライブ』

『キー マキシマムドライブ』

 包帯女が見たのは、少し離れたところで戦う、あのカッコツケル君達の方。

「来たわね、荘吉。でももうこちらのモノよ。」



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その4





『ルナ ジョーカぁぁ!』

 LJの眼前には2体のドーパント、
 1体は四肢の無いチェスのクイーンの駒そのものであり、その頂点に一つ目が光る、
 もう1体は体こそは黒の競泳水着を着けた女性の体型であるが、肩、腿、そして首から先の本来あるものが無く、ただひたすら5つの穴からジェット水流をまき散らし、宙を回転している、
 肉体を月の光の右半身と切り札を隠す左半身に染めたLJ、無言で腰のスロットへメモリを差す。

『ジョーカぁぁ!マキシマムドライブ』

 途端いくつもLJの肉体が分身し、まるで幻想のようにアスファルトを滑りながら両ドーパントを方円に囲んだ、その間絶えず右の腕を人体としてありえない溶かした飴のように伸ばしてうねるままドーパントを威嚇、分裂したLJの1人1人から伸びる触手はしかし、その1つ1つが実ダメージを与えドーパントを怯ませる、

「『ジョーカーストレンジ!』」

 全包囲に光の硬膜で防御するクイーンドーパントのその隙間を縫うように、LJの1体から分裂した左半身が高速の手刀を急所に一閃、水流で圧倒数のLJ右の攻撃を弾きながら耐え忍んだオーシャンドーパントの実体めがけ、自ら描いた金色の円の中で黒い直線の軌道を何度も反射しながら波状攻撃、

『翔太郎、分かっていると思うが、これは明らかに足止めだ。』

 右の眼が明滅しながら周囲を警戒し、2人の人間からメモリが射出し、破壊するのを確認、

「イヤという程分かってる。だが、あっちのおやっさんなら、絶対逃さねえぜフィリップ、ちゅうか、あの2人、クイーンとエリザベスじゃねえかっ」

 倒れる2人の人間、女子高生は仮面ライダーWにとって、既知の顔だった。だがLJが駆けつける前に、飛び込むように寄り添ったのはアキコだった、

「ともちんとチュウやないかぁ、なんでこんな事なったんやぁ、昨日収録したばっかりやのに!」

『どうやら、この世界では別人らしい翔太郎。』

 LJは左指の収めどころがない。

「収録って、おいアキコ、おまえもしかしてラジオとかやっねえ?」

「3人でやってんで、タイトルは」

「「ヒーリングプリンセス」」

 ハモってしまった。

「タイトルだけはいっしょかよ、」

『翔太郎、敵は知るよしもないだろうが、君にもっとも効果的な足止めをしている、』

「わかってるってばよ相棒、忘れてたかもしれねえ、顔見知りが、ドーパントになるって事をよ、あの男も、あのアキコも、それを分かってるんだな、」

 だが動けないLJ、右頬に生暖かい風都の風を感じるLJは、そこに危機を察知する、

『翔太郎、来るぞ』

 右腕が強引にジョーカーのメモリを引き抜き、代わりを差し半身を鋼色に染めた、だがしかし、違うシャウトが、LMのバックルではないいずこからか轟いた、

『サイクロン』

『アクセル』

 同時に衝撃が走り、ビリヤード場の看板が突如コンクリートの爆流と共にLMに襲いかかる、

「なんだっ!?」

『あれはギャリー、事務所の通路を逆進してきた』

 粉塵がLMの視界を奪う、そのもののスピンターンがかき消していく、それは荘吉が奪われたギャリー、スカルギャリーが探偵事務所を突破半壊させて路上を飛び出してきた。

「アキコ、光夏海!」

 辛うじて両脇に抱えた2人の少女はその腕の中で失神している。だがLMの得物であるメタルシャフトは手にしていない。

『翔太郎、もう2人も心配する事はない。今は、敵に集中だ。』

 路上で倒れた女子高生2人の方はLMの右腕が投擲したシャフトが、まるで蛇のようにのたうって自律的に2人に巻き付いてなお勢いを失わず2人を宙へ持ち上げ裏路地へ引っ張り込んだ。むしろ両脇から下ろした2人の方が破片をわずかに食らって出血してる。

「あれはさっきの」

『あれは、ボクら?』

 正面で対峙するスカルギャリーのボディが左右に開く、中には1人の異形が立つ、それは右半身をそよぐ翠、左半身を拍車をかける紅に染めた、翔太郎達と寸分違わぬライダーの姿がそこにあった。『仮面ライダーWサイクロンアクセル』。

「よぉ!」ギャリー上にあって、両腕を大きく広げるCA。「おふくろが随分入れ込んでるやつの方か。オレと同じWドライバーを持つ男。」

 CA眼前のWは既に翠の右と漆黒の左へチェンジし、CJ眼前のWはゆっくりと瓦礫が散乱するアスファルトに降り立った。あり得ないはずの複数メモリ使い同士の戦いの火ぶたが切って落とされる。

「てめえ、仮面ライダーってのは、この街の住人が希望を込めてつけてくれた名前なんだ、」

『この世界のサイクロンの持ち主、』

 即座に負傷した2人から足早に離れるCJ眼前のWは、エッジの効いた剣を中折れさせ、メモリを装填している、

「だがオレには勝てん」

『キー マキシマムドライブ』

 そうして一旦担いで、
 振り抜く、
 瑪瑙の衝撃波がCJ一直線、
 見切ってステップするCJ、
 だが左肩を擦れ、膝を地につくCJ、

「なんだと、」

 キーの衝撃が左半身からバックルへ伝わり、左サイドに差さるメモリが1人でに抜き放たれ、宙を渡ってCAの手に届く。

『相手のメモリを自在に抜き取る事ができる、ドーパントに対してならほぼ無敵の能力。』

『サイクロン トリガぁぁ!』

 抜かれたメモリの代わりをすぐ様差し込み、左半身を冷徹な碧へ染めるCT。

「これが、検索に引っ掛からないメモリ。あってはならないジョーカーのメモリ。どうやら、天敵というのは、本当らしい、なっ」

 一瞬目を背けたCAの油断が、CTの速射をその掌に直撃させる。弾かれCAの手よりこぼれるジョーカーメモリ。

「よくもアキコ達を傷つけたな!」

 立て続けに5連射で圧すCT、

「この程度か」

 だが以降そのことごとく避け、捌くCA、その右腕一本の捌きはもはや見えない領域に至っている、

『さすがはサイクロン、疾い』

「感心してる場合じゃね!」

『ヒート メタルぅぅ!』

 CTからHMへその身を変え、背のシャフトを回し遠心力を保持、そのままCAへ突進、
シャフトの先端に渾身を込めて振りかぶる、

「格闘してやる」

 受けて立つCAもまた右手一本ブレードを振りかぶった、
 弾く、
 弾かれるのはHMの方、怯んで後退、

「なんてパワーだ」

『HMのパワーを、サイクロンを加速する事で上回っている。なんて相性がいいメモリだ。』

 シャフトを一振り、背筋を伸ばすHMを眼前にしCAは、ブレードの先端で対手を差し示し、次いでその先端でアスファルトに白いラインを引き、自分をグルリと囲む輪を描く。

「ここからオレの足が半歩でも出れば、負けを認めてやる、こい。」

「なめんな!」

 HM、再度突進、今度はそのままいくのでなく、フェイントで向かって右下から脇へ、

「セコいな」

 左手逆手に既に持ち替え受け止め弾くCA、シャフトを回して逆方向から伐ちに行くHM、さらに持ち替え受け止めるCA、CAは姿勢すら崩していない、幾度となく伐ち込むHM、幾度となく受け止めるCA、炎を纏ったシャフトの先端、目視できない速度に達するブレードの先端、

「『なに!』」

 いつのまにかシャフトで受けるだけで手一杯になるHM、シャフトで受けているつもりが相手の腕が目で捉え切れなくなった段階で、肉体へ一閃入り、全く対応できないまま上段から左肩へ重圧を食らって膝を地につける、その肩にCAのブレードが深々と刺さる、

『サイクロン メタルぅぅ!』

 倒れ様、右腕が素早くメモリを交換、右半身を赤から翠へ染め変え、シャフトを素早く跳ね上げて対手のブレードを腕から弾き飛ばす、

『対手に勢いを与えないっ』

 シャフトの先端が見えない程に遠心力のまま振りかぶり、素手となったCAを左右から伐ちつける、だが重心を崩すに至らない、それどころか片足を擦り上げ威嚇、CM顎を仰け反らせるCA、間が若干開く、

『トライアル』

 それはCA右腰にあるメモリスロットへの装填、未だ自分の描いたサークルの中片足立ちのCA、再び向かってくるCM疾速のシャフトを足一本で弾き、反動でむしろ速度を上げるシャフトの動きを、残像を伴った足技で躱し、拮抗し、いくつもの残像の脚がついには圧していく、CMすらシャフトで防御を取る事しかできない、

「地獄を楽しみな!」

 ついにはシャフトが軸の真ん中から折れる、

「『ぐわ』」

 CMは哀れ、宙をしぼむ風船のように舞って、アスファルトに打ち付けられた。

「底が見えた。おふくろを夢中にする程のやつじゃない。メモリでボディをチェンジするからどれ程かと思えば。」

 依然サークルの中で高笑いするCA。

「ヤツにだけは負けねえ」

『もうこれしかない』

『ルナ トリガぁぁ!』

 幻想の金、冷徹な碧へその身を染めるLT、胸に出現したトリガーマグナムをCAに向け、数発を立て続けに連射、その数発全てがまるで違う曲解した軌道を描いて動かないCAへ、

「ルナの能力は分かっている、」

 躱す躱す躱す、
 上体の動きがほぼ全ての光弾紙一重で躱していく、
 ほぼ全て、

「ぐ」

 それはCAの左眼への辛うじての一発だった。

「いけるぜ」

 即座にマグナムにメモリを装填、

『トリガぁ!マキシマムドライブ』

「『トリガー フルバースト!』」

 先よりも巨大な光弾が、一気に数十発、曲線を描いて怯むCAに畳み掛ける、

「ルナの能力は分かっていると言った、この程度の釣りに引っ掛かるとは、なぁ!」

 だがCAは自身の腰のスロットにメモリーを差す、

『ゾーン マキシマムドライブ』

 ある空間の一面を通過する数十全ての光弾が消え、決してCAに届く事がない、

「『なにっ!?』」

 光弾の行く先、転位した先はLT前面、全てがそのマキシマムの運動量を保存しつつ、位置と方向を変化させられた、

「『ぐぁぁぁぁぁぁぁっっっ』」

 全て直撃、自らの力で袋叩きに合う、足が地から離れ、いつのまにか頭が地を打ち、打った自覚も無い翔太郎の視界に、自分のワイシャツの袖が入る、ベルトにエネルギーが逆流した事によるメモリブレイク、地面と挟まるベルトの違和感で自分がようやく俯せである事に気づく。

「ルナの光が消えて・・・・・トリガーのメモリがうごかね・・・・」

 CAよりも自分の命よりも、形見の意味すらある腰のバックルとメモリに手をやり、一旦破損していない事に安堵するものの、何度押してもシャウトの響きがないメモリに絶句した。今、左翔太郎はアイデンティティが崩壊した事を自覚した。

「おまえを永久に闇の中に閉じ込めてやる。」

 俯せで放心する翔太郎に、再び右腕にメモリを握ったCAの高笑いが響いた。



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その3





「大学付属病院になったのは1ヶ月前だがな。」

 バックルからメモリを抜いて、腰のスロットへ差す、

『スカル マキシマムドライブ』

 その胸の肋模様が開いて、胸骨の部位から魂が抜け出たような骸が、朧気に燐火をあげて上空高く浮遊していく。

「とぉ」

 帽子の角度を直し、泰然自若な叫びと共に跳躍するスカル、
 スカルの眼下には、見上げ吠えるスパイダーとバットの両ドーパント、
 宙にあって巨大な骸と並ぶスカル、
 その絞り凝縮した腰からヒップの捻りだけの回し蹴りを骸へ、
 ドーパントの頭上60度から衝突する骸、燐火が2匹の怪物を包んで、断末魔を上がった、
 2匹の体内からメモリが射出すると同時に収まる燐火、

「よう、刃野警部補、道で寝転がっていると、風邪を引くぞ。」

 既に荘吉は変身を解いて、メモリに支配された2人の人間を起き上がらせていた。

「ックション!そうかぁ、このだるさは風邪かぁ、ナルミの旦那じゃねえかっ」

「そっちの若いのも、後で病院に行け」

 自分の名を腹の底から叫ぶバットだった若い刑事に、既に背を向ける荘吉。
 彼の腰に収めたスタッグフォンがその時震動した。

「アキコ、・・・・・若造が、言いつけを守らなかったな、簡単な足止めに引っ掛かりやがって。」





6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その2





 帰ってきた2人、いや3人に増えてたけど、あのカッコツケル君と、まるでカッコツケル君がワープ進化したみたいなイタニツイタカッコイイ氏がやって来て、なんだかスゴく雰囲気悪い。そしてあのアキちゃんは涙目になっている。カッコツケル君は早々に写真館の方へ閉じ籠もって、カッコイイ氏は上着を脱ぎ、帽子などは円盤投げしてミラクルに壁にひっかけ、そのままコーヒー豆を出して網で煎り始めた。
 いったい何があったんだ?

「ホンマすまんねんけど、あいつ呼んで来てくれんかな。お父ちゃんが取りあえず腹満たしとけって」

「いやオレが行く。その繋がった部屋というのを見ておきたい。」

「お父ちゃん、いっつもそうやねんから!お父ちゃんだから胡散臭がられんねや!」

「アキコ、オレのやる事だ。」

 そう言ってトイレの看板のかかったドアをカッコイイ氏は入って、やたら無神経な音を立てた。男2人が怒鳴り合ってるギスギスした音が響いてくる。ヒトの家で何やっとんじゃ?だけど、ほんの少ししたら、2人とも素直に出てきた。ムスっとしてるけど。
 ああ、この2人はライダーなんだ、そう私は納得した。士クンはいつも他の世界のライダーと出会うとすごく反発し合った。私じゃ絶対できないな。

「納得してねえからな!それだけは、おやっさんでも引かねえ・・・」

 などと無邪気に吠えるカッコツケル君を見てると、意外に士クンは大人な方だったんだなと思えてくる。

「これで全てが揃った?・・・・・、謎はやつらが狙うメモリの場所、いやそれより急いでここを引き払う。黙って腹を満たせ小僧。二度は言わん。」

 カッコイイ氏が用意した塩でしか味が無い硬いパン、冷蔵庫に入れっぱなしで冷えすぎたチーズ、そしてなにか拍子抜けなブラックコーヒーは、どれも女子としては満足できないものだった。私、毎日おいしいコーヒー飲んでたんだな。私も隣のアキちゃんもコーヒーに大量の砂糖とミルクを投下した。カッコツケル君はどういう訳か、

「くそ、なつかしい」

 と聞き間違えかもしれないけど、小声で言った気がした。

『風都の諸君、オレの名は、仮面ライダーW。おまえ達を窮屈な現実から解放する救世主だ。』

 一斉にブラウン官白黒テレビに4人の目が向けられた。そして一瞬だけ間を置いて4人の耳が古いダイヤルつまみのラジオに向けられた。アキちゃんがテレビのダイヤルをペンチでグリグリイジッて変えても同じライダー、あのカッコツケル君によく似たライダーが出てくる。もう私は見慣れてるよ、似てるライダーが敵同士とか。

『この風都を影から支配し、ガイアメモリで暴利を貪っていた園咲リュウベエは、このオレが倒した。やつが独り占めしていたメモリの力を、おまえ達全てに解放する。』

「バカな」

「バカヤロ」

 男2人が同時に叫んだ。それがどれだけ哀しい意味があるのか、その瞬間の私には分からなかった。
 カッコイイ氏とカッコツケル君が同時に立ち上がった、だが同時にカッコイイ氏がカッコツケル君の肩を上から片手で抑え込んで座らせた。
 ブラウン管のライダーが、手にしたアタッシュケースをあける、中にはカラフルに光るキャンディーみたいな棒がいっぱいウレタンに埋められている。ライダーはその中の何本かを見せつけるように取り出し、一つを腰に吊した大きな刀みたいなモノを中折れさせて装填した。まるで西部劇のライフルみたいな仕組みで一振りで元の刀にするライダー。

『ゾーン マキシマムドライブ』

 そうして手にした残りの棒を宙に放り上げて、光を帯びた刀で斬った。でも壊れる事無く棒はことごとく消え去った。

『見るがいい』

 ブラウン管の風景が暗い室内に1人立つライダーから、日の光が眩しい整頓された花壇の庭に石畳を敷いた路上の散歩する人々に映り変わった。その中の2人にさっきのメモリとか言う棒が突然現れて、後頭部に刺さって体に埋まった。

『スパイダー』

『バット』

 その人達が怪物になっていく映像を見て、私以外の3人の顔が引き攣った。私は、この世界の怪物は普通の人がなるんだ、と悪い意味で慣れてしまっていた。こんな事3人に口に出して言えない。
 怪物が突然現れて、画面の中の人々が奇声をあげて逃げ惑った。耳でなく頭に直接打ち付けてくるような子供や親達の悲鳴。怪物が吠えて、突然画面が一面白く光って、耳にしばらく残る重い爆発音がして、私は思わず目を閉じた。私は今ライダーに守られているから、落ち着いてられる。でも画面の中の人達は、私が最初に怪物達を見たあの時と同じでただ怯えて逃げるしかない。誰かに守ってもらえないって、こんなに違うんだろうか・・・・、私は今すごく性格悪いと思う。

「お前達は、今から教える男に会え、」

 カッコイイ氏が机のメモに手で削ったえんぴつでなにか書き出して、1枚剥いてアキちゃんに渡した。その動作一つ一つが手際良くて様になってる。

「尾藤さん?あのテキ屋の?」

「アキコ、はっきり言うぞ、おまえが狙われている。オレの事を知っているフミネは、オレがドーパントを相手にしている間、ここを襲撃するだろう。」

「待てよ、」フレミングの法則にカッコイイ氏を指差すカッコツケル君。「アンタを警戒してここを襲ってこねえって事なら、アンタが娘を守って、オレが今テレビ映ってるとこに行けばいいんだろ、分かってるぜ、あそこは風都病院だ。別の世界でもここは風都、裏道の猫の住み処までオレは知ってんぜ。」

 でもカッコツケル氏は構わず壁掛けの帽子を選んでいる。

「いや、風都大学だ。おまえがさっき聞いたように別の世界の風都のライダーとして立派に務めていたとしても、この世界では門外漢、些細な見立て違いが命取りになる。」

「アンタの知り合いだった女なんだろ、あの透明人間モドキ。だったら、アンタの知り合い根こそぎ調べてマークしてるぜ。アンタ自身がこの子の側にいてやれよ、親なんだろ!」

「オレは尾藤を知っているが、尾藤なら、オレの知らん隠れ家をいくつも知っている。それよりおまえのような半人前が見立てを誤る事の方がオレ達全てを危険に晒す。おまえのその依頼人を含めてな。」

 カッコイイ氏は私を指差した。そうだ、私はこの頼りないヤツに守って貰っているんだった。

「半人前・・・・・」

 強気なカッコツケル君はもう少し言い返すと思ったけど、ものすごくダメージを受けたような顔して口をパクパクさせてる。

「いいな、おまえの役目は、アキコを尾藤のところまで連れて行く事だ。」

 間隙を縫うように既にドアを開けて私達に背を見せているカッコイイ氏は、そう言って帽子を直し、静かにドアを閉めた。

「なんだアイツ!バカにすんのもいい加減しやがれ!」

 この子と会ってそんなに経ってないけど、他人を悪し様に口にするのはけっこう珍しいかも。

 ぉて!

 そんなカッコツケル君の後頭部に45度仰角で緑のスリッパが打った。

「なにスネてんねん、なぁナツミン」

「だよねアキちゃん」

「・・・ツテ・・・、なんだいきなりこの女、顔がいいからってオレが手を抜くと思うなよコラ、ていうか、おまえらいつのまに仲良くなってんだっ」

 だってさっきお友達だもんね、って2人で確認し合ったとこなんだもん。
 カッコイイ氏のバイクの音が遠退いたのを見計らって、カッコツケル君がグダグダ言って2階から1階へ私達を先動した。

「もっと気ぃつけえな。みえへんとこから襲われたらどうすんねや」

「このビリヤード場から出るのに危険はねえさ。ちゃんとこっちのおやっさんも死角に鏡を置いてる。玄関には昼でも夜でもちゃんと影が出るようにいつも照明が炊いてる。」

「あ、だからお父ちゃん電気消さへんのんか、・・・・・・・・、アンタが偉いんちゃうからね、お父ちゃんがちゃんと日頃から気ぃつけてるから偉いんや。」

 この2人相性がいいな、
 私は2人に黙って着いていく形で、朝日が柔らかく差す玄関先を出た。裏口から入ったから分からなかったけど、目の前はごく普通の寂れた商店街だ。いたるところに風車がある。お向かいのいかにもさらしななそば屋であのカッコイイ氏がもり食ったり、あのお肉屋のコロッケを立ち食いしてたりするんだろうか。

「おっきな風車」

 街道のずっと先で何十メートルあるか分からないオランダ風車の親玉みたいなのが回っている。

「あれが風都名物、風都タワーや。」

「あれがねえと風都じゃねえんだ。どこだ?その尾藤っての、」

 この2人絶対仲良いよね、

「メモはうちが見る、慌てんでええ、アンタ、お父ちゃんと違って頼んないねんから、ちゃんと尾藤のオッチャンのとこ連れてくんやで。」

「オレだって、あっちの世界じゃおやっさんの代わりにちゃんとライダーやってんだぜ!大体なんだアンタ、あいつに包帯女もろとも撃たれるとこだったんだぞ、なんでそんなヤツ庇えるんだ!」

「お父ちゃんは自分が全部背負うつもりやったんや」

「なんだよそれ!」

「あの人、うちの本当の親ややねん。」

 彼女がそう言って道の真ん中で立ちすくんだ、先頭を歩いていた彼は振り返って、口をパクパクさせて、目を瞬かせていた、私はそんな彼女の背中を黙って見ていた。

「うちの本当の母親が風都ひっくり返すような悪い事企んでるってお父ちゃんが知ってから、お父ちゃんうちに言っとったんや。オレの弱みはおまえだから、あの女は絶対おまえを人質にしてくるって、うちはだから言ったんや、うちはかまへんからうちといっしょにうちの母親を止めてって。お父ちゃんは分かった言うたんや。お父ちゃんはだから、正しい事したんや、」

「おまえ」

「したんや!」

 彼女の背中は正しいと言ってなかった。肩が震えていた。
 彼は指を何度も向けて、何かを言おうとした、でも遮られた。

『クイーン』

『オーシャン』

 いつのまにか彼の真後ろから2つの怪物が吠えながらやってきていた。
 カッコツケル君、私達に背を見せて、ただベルトを握った。巻く様は私の知っている誰かとよく似てる。

「逃げた方が!」

 たぶんこの子と私を守ってここに居る事は、すごくマズイと私は思った。

「今度も、いやだからこそ破るぜ、街を泣かせるヤツを、放っておけねえんだ。これは気休めだ。」

 カッコツケル君があの妙に大きな携帯にメモリとかいうのを差し込んだ。

『スタッグ』

 カッコツケル君の携帯が虫の形になって、私達の周りをグルグルと舞った。

「アホ言いな、かっこつけて」

 彼女も私と同じように考えてるみたい。

「アキコ!」

 彼は背中を見せたままだ。

「え?」

「おまえも街の住人だ。だから、おまえを泣かせるおやっさんを、オレは、放っておけねえ。産みの親を育ての親が殺しちゃ、結局おまえは泣くだけだ。そんなの、オレの知ってるおやっさんなら、しねえ・・・・・、いくぜフィリップ!」

『サイクロン』

『ジョーカぁぁ!』

「変身!」

 私の髪の毛が思い切り突風に流れて、まともに目を開けられなくなった。その時私ははじめて自分の髪の毛が邪魔に感じた。



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その1






 風都の中央には、街最大規模の発電施設でありなおかつ最大の送信所である『風都タワー』なる巨大な風車が、昼夜を問わず回っている。北からの冷気と南からの暖気が絶えずせめぎ合うこの街は、近代に入るまで天災による被害で、作物と魚介に恵まれたが人が都市を築けるような立地では無かった。それがここ20年急速な伝導技術の発達によって、その激しい気候を逆に膨大な電力に替え、頑強な建造物と逞しい生命力でメガシティへ変貌させる。他国より警察機構が常駐しているものの、ほぼ園咲の家が創設より援助した自治団体によって運営が為されている。
 フミネ、という包帯の女が園咲の家を壊滅させ風都全体を敵に回したかのような感があるが、実は事前に自治団体の代わりになる財団を繋ぎ、警察機構は財団経由の圧力で無力化、実力行使で街のシンボルである風都タワーを易々と占拠した。荘吉達が敵にしようとしているのは、そういう者達であった。
 その風都タワーの電力制御室のドアが、けたたましく蹴破られる、

「ゴウゾウちゃん、なんで?ケンちゃんがなんでなのよ!」

「キョウスイ、少しは黙ってろ!頼むから今だけは勘弁しろ!」

 容積は平均男子の二倍以上あるくせに語り口調が女な『キョウスイ』が、ほぼ同じ屈強な筋肉がはみ出している『ゴウゾウ』にヒスっている。

「レイカっ、アンタもよ、アンタ達がついててナニしてんのよ!あの探偵絶対許せないわ!」

 キョウスイは続くロングの髪をかき上げるリアルな女の『レイカ』にも当たり散らした。レイカはその性格のにじみ出た眉をつり上げた。

「あの来人と同じ力を持ったガキがいなければ、アタイ達も遅れは取らなかったわ。」

「サイクロンアクセル以上よ。単純に力だけならばね。」

 そして最後にあの包帯の女が最上階制御室内に足を踏み入れた。そのサングラスの見つめる先に、ダンボール箱を積んだた台に寝かされた『リュウ』と呼ばれた男がいた。
 室内はほぼバームクーヘンのような円形の空間。壁に沿って計器が並べられ、電気事業者やメディア事業者がここで電力と電波を統制する。包帯の女は4人を使ってこの部屋の中央に巨大な十字架にも風車にも似た装置を持ち込んだ。十字架の先端は全てメモリースロットが埋め込まれ、回転軸には10インチ程のモニタ画面がある。
 今コートのポケットから取り出した翠色のメモリを十字架の右サイドに差す包帯の女。

「検索なさい来人。」

 包帯の女が語りかけるのはモニタ。光が灯り、映し出されるのは野心によって人格を醸成したのような青年の顔。青年は椅子に座してやや左サイドを向く形でモニタの反対側を覗き込んでいる。その姿は3人となったネクロオーバー達と同じ黒いジャケットに、ゆとりの笑みの消えない目つきに、やや翠のラメの入った髪。

『キーワードを言え、おふくろ。』

 一言一言に手振りが入るその青年の声は紛れもなくあのサイクロンアクセルだった威圧と狂気が混じったそれだった。

「ガイアメモリー、ジョーカー。」

 画面の中の青年がイスを捻って立ち上がり、背を向け、大きく両腕を拡げた。

『さあ、検索をはじめよう』

 それは何かの宣誓のようだった。宣誓と共に青年の立つ風景が全て白一色になる。青年の肌と髪と衣服だけが色のついたものだった空間に突如浮かぶ本棚の群れ、

『ガイアメモリ』

 そのハードカバーの本を下から上まで満載した重量級の本棚がいくつも滑るように青年の周囲を動き回り、どういう訳が白色の景色の中へ大半が消えていく。

『ジョーカー』

 本棚が一つになり、その本棚からハードカバーの本が重量を拡散して飛び出し、本一つ一つが消え、そしてついには再び白一面の空間が青年の眼前に拡がった。

『おふくろ、検索に一致する項目が、ない。ありうるのか?オレは地球の記憶を支配したんじゃないのか?おふくろ!』

「そう、やはり地球の記憶に無いメモリーなのね、ジョーカー、あり得ない、あのWはいったい何者?まあいい、分からないという事は分かった。今はそれで満足しましょう。それより、」

『おふくろ、まずオレの肉体だ。全てはそこからだ。見つけたんだろ?最後のメモリを。』

 包帯の女は、指を三本だけ伸ばした。

「テラー、タブー、そして『クレイドール』、この3つのガイアメモリーを集め、この、」中央に打ち立てた十字の機械を握り拳で叩く。「『プリズム・エクシア・グリッダー』にサイクロンを含む4本を差した時、来人の肉体が錬成される。3人共、プリズムをここからギャリーにお移し。」

「なに、苦労してここまで運んだのに、また下に降ろすって、もうアンタの言う事なんか聞いてやる義理は、」

 ヒスを起こすレイカに黙してマグナムを振りかざす包帯の女。それは殺傷能力を振りかざしているのではない、むしろ逆だ。

「貴方達3人は、既にネクロオーバー。一定の間隔細胞酵素を打たなければ細胞が分解してしまう。そして酵素を精製する為にはタブーのメモリーを分析する必要がある。貴方達にこのメモリーを分析し酵素を精製する知識がある?」

 髪をかき上げるレイカはその美脚をなめらかに旋回させてダンボールの一つを破砕、だが結局他の2人と同じく、溶接された土台を切断にかかった。

『おふくろ、リュウが回復次第オレが直々にその探偵を排除してやる。そうすれば女だろうがクレイドールだろうが』

 画面のモニターの真下で火花が飛びながらも、モニターの中の青年は軽妙に舌先を動かしている。

「いえ、直接いけば貴方もタダでは済まない。それより、荘吉はこの街にただ一人、あのもう一人のWもね。だったら、もっとリスクの少ない方法がある。」

 包帯の女はコートのポケットから、無作為な数のメモリを取り出した。



2013年2月2日土曜日

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その6





「お父ちゃぁん!」

 助けて、とまでは言ってはいけない事を知っている娘だっだ。
 そのアキコの腕を捻って盾にする包帯の女。

「あの大坂の女に産ませた子?私を止めたいなら、この子を犠牲になさい。私の来人や、あの貴方の相棒のように。」

 対面し、ただ銃口を向けるスカル、その硬質のマスクに表情というものは無い。

「おまえに、その子はやらせん。」

 一発、
 スカルの放った弾丸が、アキコの頬を掠め、包帯の女の肩を掠める。
 アキコの頬から血が流れ、目に大粒の涙が潤んだ。

「お父ちゃん撃つんや!どうせ私お父ちゃんの本当の子や無いもん、だから、私平気やもん!!」

 少女の肉体は見て分かる程震えていた。

「養女?まさか、この子が、そうなのね、荘吉、貴方娘としてこの子を傍に置いていたのね、これで全てが揃った、」

 包帯の女はそんな少女を強引に引っぱりながらジリジリと間合いを空ける。スカルはジリジリと間合いを詰める。

「この子は私のものよ、来るな荘吉!」

『スカル マキシマムドライブ』

「オレは、もう決断を鈍らせない。」

 スカルマグナムへ再度メモリを装填、充実する銃口の光、そのドーパント一体を葬り去る光弾が、アキコに向かって放たれた、

「なにすんだぁ!」

『ルナ メタルぅぅ!』

『メタルぅぅ マキシマムドライブ』

 その時、横合いからその紫の影の光弾を、無数の円環が自在に追尾して擦ってはUターンして再度突進を繰り返し、砕けては円環が分裂して突進、増殖する円環が少しずつ紫弾の軌道を逸らし、ついにはアキコと包帯の女が免れる位置で爆破、砕けない弾丸を横合いから逸らした、二人の長い黒髪が至近の爆風に靡く、
 飛びそうな帽子を抑え思わず人質から手を離す包帯の女、アキコは逃げるというより爆熱に仰け反って地面に倒れる、

『ルナ ジョーカーぁ!』

 そうしてW、左半身を黒く染めて右腕を伸ばし、スカルマグナムのバレルを上から抑え込み、スカルに詰める形で腕を縮める。

「どけ小僧」

「なにやってんだぁんた、娘を巻き込むのか!」

「決断するという事はそういう事だ」

「おやっさんがそんな事すんじゃねぇ!!」

 だがそんな二人を震動が襲う、

「ぉぉぁあぇあ!」

 それはギャリー、そしてメタルの咆吼、メタルドーパントが転倒したギャリーを再度起き上がらせた。大上段から振り下ろされる前輪を回避する二人のライダー、スカルは自らのスタッグフォンを取り出す、

「ムダよ荘吉、私が作ったもの、マスターコードは私が握っている、」

 包帯の女もまた同型のフォンを片手に握っている、メタルがヒートを抱えて動き出すギャリーに飛び乗った、ギャリーはスピンターンで包帯の女の円周の軌道で背後へ、包帯の女が再びアキコに手を伸ばす、

『ルナ メタルぅ!』

 右ボディを銀に染め、メタルの剛腕でスカルを絡め取りながら、出現したシャフトをあり得ない軟質な動きに10数メートル伸ばし、まるで撓るムチのごとく包帯女の側近地面を打ち、アキコに触れさせないW。

「未知数のライダー、いいわ、来人が回復してからその恐ろしさを味わせてあげる。」

 ギャリーの側面に捉まる包帯の女、ギャリーは二人のライダーにエグゾーストを向け逃走、

「待て」

 スカルがLMをようやく振り払って、マグナムを連射、だがギャリーの装甲はことごとく弾き返し傷一つない、

「うぉりゃ」

 LMがシャフトを伸ばしエグゾーストの一本に巻き付けようとする、

「うぉりゃぁ!」

 だがギャリーの頂に立ち、ロッドを振るうメタルドーパントがシャフト先端を弾き返した。

「くそっ」

 もはやスカルギャリーを捕らえる術を失い、立ち尽くして睨むしか二人のライダーにはできなかった。
 黙って変身を解く両者は共にメモリをバックルから抜くスタイルだった。

「馬鹿野郎」

 静かな挙動でシャープな拳が翔太郎の不意を襲った、

「おやっさん・・・」

 殴りつけられ、よろめき、それでも隣の壮年の顔をマジマジと眺める翔太郎。顔、その足先から白いスーツ、全縁の帽子、そしてあの最後に殴られた頬の感触までもが全て同じ。

「何を逃したか分かっているのか」

 脚の震えを留める事しかできない翔太郎は、喉を鳴らした。

「たとえ、どんな野郎だとしても、誰かを犠牲にするような、そんなやり方、オレの知ってるハードボイルドなら、絶対しねえ!」

 あの時と違って多少の口答えできたのは、歳月が経ったからに過ぎない。

「オレに誰かを重ねるな、小僧!」

 雨がいつのまにか二人の肩と崩壊した園咲の庭を濡らしていた。荘吉は青年に背を向け、翔太郎はその男の背を見るしかなかった。

「アンタ、お父ちゃんに盾突いたらあかんで、お父ちゃんはな、間違った事言うた事無いねんから!」

 心無しか翔太郎の耳に、髪が濡れ雫が滴る少女の声が震えて聞こえた。唖然として見上げる翔太郎に、視線を合わせず手だけを差し伸べ下唇を噛むアキコだった。





6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その5





 メタルを前方、ヒートを後方に、絶妙のタイミングで同時攻撃を迎えなければならなくなったHJ、

「ジョワッッ」

 メタルの振り下ろすロッドに、背を向けるHJ、

『ヒート メタルぅ!』

 左半身を鋼に変えるWの背にロッド軸が出現、メタルのロッドを受け止める形になる、

「うっぜぇぇぇ」

 そして正面から受け止める形になったヒートの膝打ちを十字ブロック、左前腕で相手を抑えながら、背の得物をメタルを弾きつつ抜いて、リーチを伸ばしヒートへ横薙ぎ、その勢いのまま両者から間合いを開けるHM。

「ナニモンだこいつら、」

 得物のメタルシャフトを時計回り1度、反時計回りに半円だけ振って眺めるHMの視界には、悠然と2対1の状況にゆとりを見せ居並ぶ2体のドーパントがいる。今HM向かって左にメタル、そのいぶし銀のボディにもたれ掛かるように右にヒートが立つ。

「てめえは引っ込んでろ!」

 そのメタルの咆吼が合図となってHMと2体のドーパントが間合いを詰める、ドーパントは同時にHMの左右へ回り込む、HMがメタルのロッドを弾いた反動でヒートを威嚇し一旦退かせた上でシャフトを旋回させ再びメタルへ打ち込みにいく、しかしメタルもまたロッドのモーメントを保存しつつ打ち込みをかけ、互いの得物が交差し弾き返され互いの姿勢が崩れる、そのHMの死角からヒートが再び摺り足をかけてくる、その急激な体感温度の上昇から背後の敵チャージに気づいてたまらず跳躍し逃れようとするHM、

「さっきは3人に囲まれて凌いだのに、」

 翔太郎が囲まれた敵にHMを多用するのは、メタルシャフトという武具の属性が反動を利用する事にある。HMのパワーで打ち込んだ反動がそのままモーメントに変換され別の敵へ打ち込む力とレスポンスを産む。パワーがあればあるほどシャフトの速力も増す形になる為、本来ならレスポンスで凌駕するCJやCMに匹敵する速力を、一対多の状況でHMに発揮させる事ができる。

『敵の連携は先程とは段違いだ。』

 だからこそ敵の包囲を崩し各個に相手取る為、HMは跳んだ。

「上げて」

「飛べ!」

 それを追って跳躍するヒート、ただ跳躍するのではない、メタルの掌に片足を乗せ、メタルが押し上げ、そして自身の脚から噴煙を吐き、もはやそれは飛翔、圧倒的な速度でHMの頭上を越える、

「『なに?!』」

 振り下ろされる踵、後頭部に食らう、地に叩きつけられるHM、メタルに首を掴まれ持ち上げられ、その得物の鉄の爪で肉体を引き裂かれる、同素材同士の摩耗が火花を生む、片腕だけのメタルの膂力で50メートル先の大木に投げ飛ばされるHM、

「バイバイ」

 傷だらけのHMにヒートが追い打ちの火球を放つ、
 爆発、

「『をぁぁ!!』」

 近接爆破を食らって天地逆に宙へ舞い上がるHM、そのまま落下して背を強く打ち地に転がる。

「こいつらツエエ」

 立ち上がろうとして思わず片足が滑り膝をつくHM。その視線の先に映るのは2体のドーパント。だがその2体は、HMを視ていない、別のライダー、厳密に言えばそれと対峙し、今まさに揮発的に消失したドーパントを凝視していた。

「ケンが、どうして!?」

「ケンなんだぞ、あの、許せネエ!」

 それはWにとって意外な程ドーパント達の反応だった。そしてそこに千載一遇のチャンスを見た。

『ヒート トリガーぁ!』

 左半身を冷徹な蒼へ変え、トリガーマグナムへメモリを差し込み、バレルを大口径へ、

『トリガーぁ! マキシマムドライブ』

 ヒートサイドの腕で構える、口砲に閃光が蓄積する、

「『トリガー エクスプローション!!』」

 轟く火芒、反動で両足を引きずり地に跡をつけるHT、

「どけレイカ」

 メタルがその急激な熱輻射に気づく、

「どくのはアンタよ」

 だがメタルを制して前面に踊り出たのはヒートの女、その全長を越える火の塊がヒートを呑み込む、呑み込むと同時に圧倒的熱量がヒートを圧搾し過熱、背後のメタルも吹き飛ばされそうなヒートを背を構えて支える、

「うりゃぁっ!!」

 ヒート、なんと圧搾する熱量を圧し返し火芒をかき消した。だが息荒く、全身から煙を吹いている。思わず片膝を折った。

「ブレイクしねえ、凌ぎやがった、ヒートの女、」

『Wのもっとも強力な攻撃を同じヒートの属性で堪えた?』

 むしろ攻撃したHTが棒立ちする。

「おめえまで死んでもらっちゃ、オレが困んだよ!」

 ヒートの背後にいたメタル、HTを睨みつけつつヒートを肩で担いでジリジリと後退していく。
 目で追うだけのHT、まだ脚にダメージがある。

「それより、」

 その時点でようやくスカルを振り返るWだっだ。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その4





「私を撃つというの荘吉、幼なじみを。」

 包帯の女は両の手をコートのポケットから出さずに佇み、

「ヤツが復活すれば、街を泣かせる。オレは、ヤツの中の悪魔を見た。」

 骸の仮面は、ただスカルマグナムを構えている。

「悪魔?たったそれだけの事が、あの時来人を救わずに見捨てた理由?」

「男が決断するという事は、そういう事だ。」

 スカルマグナムが放たれる、幾発もの弾丸が包帯の女を一直線、だが女は動けない、

「プロフェッサー!!」

 スカルの放った弾丸を弾くのもまた弾丸、撃ちながら割って入り、なお弾丸を連射するスカルの弾をその身に受け、さらに左腕の砲身で反撃するのはトリガー、
 互いに対手の弾丸を食らって怯むも、同時に立て直し反撃、トリガーの胸を弾丸が貫通、やや射線がズレたトリガーの弾丸はスカルの右脛を掠めた。
 硝煙が両者の間を割って入った。

「逃がさん」

 そのトリガーの背後にあって右サイドへ逃走しようとする包帯の女、スカルの銃口が追随しつつ連射、

「ゲームオーバー」

 だが視線を外したスカルの目元をトリガーの弾丸が掠り、次いで脇に数発の弾がめり込む。スカルの硬質化したボディだけが荘吉の命脈を辛うじて保つ。

『スカル マキシマムドライブ』

 スカル、そのトリガーに銃口を転じ、マグナムへメモリを差し、差した腕を固定、銃を流して前腕にかけ、Wと同じくバレル下部を底上げ、マキシマムモードへ形状を変える。
 トリガー、敢えて待つ、
 スカルの紫煙を放つ弾丸が射出、朧気に骸に見える、
 トリガー、その弾丸を撃ち落としにいく、その意図は敵の最強の一撃を弾き飛ばしての2射め、
 スカルの弾丸とトリガーの弾丸が0角度で衝突、

「男の魂は砕けない。」

 砕け飛散するトリガーの弾丸、スカルの弾は、トリガーが正確であるが故に一直線のベクトルで重心同士衝突し、角度を変える事無くスカルの硬度と威力がトリガーの弾丸を上回る、
 2射めを放つほぼ同じタイミングで直撃するトリガーの肉体、

「・・・・・・・」

 一瞬だけ漏れる呻き、全身を紫光が迸り、オーバーロードしたトリガーメモリが体外へ射出、

「く」

 トリガーが放った2射め、スカルのソフトフェルトを掠め、倒れるスカルギャリーの装甲に反射跳弾、なんとスカルの右足を直撃、あの鉄壁の硬度を誇るスカルのボディに初めて皴が入り、あのスカルが片膝を折った。

「・・・・・、ゲーム、オーバー・・・・」

 仰向けに倒れたトリガーの男、倒れ震えそして辛うじて首だけをスカルに向け、その群狼のような両目には笑みが浮かんでいた。

「撃っていいのは、撃たれる覚悟があるやつ、だけだ。」

 スカルは、どういうわけか泡が吹いて全身が蒸発していくかのような男を見て、トリガーの勝利に賛辞を送った。
 スカルは包帯の女が目的である、トリガーはその妨害が目的である。トリガーが割って入った段階でスカルは女を撃てず、トリガーを対手にせざる得なかった。既に割って入った段階でトリガーの詰みだった。

「フミネ、おまえは、こういうヤツを犠牲にできるという事か。」

 スカルの背後は、スカルギャリーがあり、そしてそこまで包帯の女は駆けていった。

「お父ちゃん!!」

 なぜなら、フミネは聞いていたのだ、おまえは来るな、と。

「貴方の娘よね?貴方が追えないところまで行けば、解放する。それまでは、人質。」

 包帯の女は、ギャリーが倒れ失神するアキコの腕を捻って抱える形で銃口を向けた。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その3





「こっちもいい男、あっちもいい男、いい男祭りだわ!」

 左側面からクラゲの化け物のようなルナドーパントが牽制、その触手のような腕が物理現象ではありえないアメイジングなストロークで伸び顔面を打ちにいく。スカルはそれを上体をスウェーさせるだけで躱していく。
 無言のスナイパー、トリガードーパントが逆の右から足元を狙う、その正確な射撃がスカルの足捌きを抑止する。スカルはその敵だけは眼で追って、擦る程度なら着弾させてもフットワークを止めない。

「ウォリァタぁ!」

 スカルより二回りある体躯のメタルドーパント、前面にあってスカルともっとも組み合う。スカル、一度はロッドを掻い潜って拳を一撃加えたものの、途端左右からの攻撃に晒され3倍するダメージを負う。

「うっとおしいオッサン!」

 後方にあって必殺の美脚で極めたいヒートドーパントは先も寸でで躱されイキリ立つ。スカルは大気の感触だけでその急接を察知して躱した。

「しつこい」

 スカル、1度はこの4者の連携を解いた。翔太郎と全く同じクワガタムシ型の『ガジェット』フォンに『ギジメモリ』を装填してトリガーの眼元へ体当たりさせ、メタルのボディへブローを放って拳の跡を胸元へ付け、ヒートの振りかぶる脚を肩パットで弾き、そしてルナの伸びる触手を一跳躍で躱して外の庭へ逃れた。そうして戻ってきたスタッグフォンを手にアキコの電話を取った。
 だが敵は上手で、ヒートが奥の手の火球弾を放ってトリガーとの十字砲火を形成、メタルに肉薄を許し、再び四面包囲の形でジリジリ体力を削られていく。

「もたつき過ぎよ!」

 ヒールを鳴らして玄関へ体を傾けた包帯の女は、聞いた覚えのある駆動音にいきり立った。

 駆け抜けるギャリー、
 直前まで全速力、
 前輪のブレーキを強め、
 スピンターンで制動、

「堅いわ、スゴク堅いぁ!!」

 車体に横殴りされ、吹っ飛ぶルナ。

「うぉわ」

 後輪に巻き込まれ、ロッドを突き立てながらも倒れ潰されるメタル。

「来たか、スカルギャリー!」

 待っていたスカルは、ヒートとトリガーの対空迎撃を敢えて食らいながらも跳躍、スタッグフォンで呼んでおいた『スカルギャリー』、頭蓋骨を思わせる巨大バギーの5本後ろに流す巨大エグゾーストの上へ立った。車体の丸みがトリガーからもヒートからもその身を遮蔽する。その上でスカルは自らの得物『スカルマグナム』を出現させる。

「うっとうしいオッサン!」

 ヒートとトリガーに向けてマグナムを乱射するスカル。上を取られたトリガーは即座に撤退、ヒートは同じく跳躍しようとして迎撃され地に倒れた。

「中から開いた!?」

 足元が震動、僅か姿勢を崩したスカル、それはスカルにとっても意外なギャリーの震動だった。

「スゲー、見渡す限りのドーパントだぜ。おやっさんどこだ?おい、園咲若菜、離せ!」

「ワカナちゃう!なんべん言うたらわかんねん!」

 それはギャリーが左右にボディを開いた震動、開いたギャリーの前半部は車両1台を入れるメンテナンススペースの台座、そのフリースペースに立つのは二人、翔太郎と依然腕に噛みつくアキコ。

「スカルギャリー、あの子達は誰?」

 困惑する包帯の女を含む敵、

「おまえは来るなと言ったはずだ、アキコ。」

 もっとも困惑しているのは、翔太郎頭上にあって二人を見下ろすスカルだった。

「お父ちゃん!加勢に来たでぇ!」

 いい加減な事を言うアキコだった。

「・・・・・スカルだ。ホントこっちの世界のおやっさんなんだな、」鼻下の汗を2本指で拭う翔太郎。「見せてやるぜ、今のオレを。」

 翔太郎、ダブルドライバーを取り出し、腰に据える、巻かれるドライバー、

『サイクロン』

 フィリップが次元を越えた先から左腕でメモリを作動させる姿は、スカルや包帯の女には見えない。

『ジョーカーぁ』

 見えるのは右手で掲げたメモリを作動させる翔太郎の動きのみ。

「ダブルドライバー?私以外にも作った者がいるという事、ジョーカー?そんなガイアメモリー地球の記憶に存在しない。いったい何者?」

 包帯の女は知るが故に驚愕した。

「『変身』」

 フィリップがバックルに垂直、右に差す、
 翔太郎の元に転送されるサイクロン、
 続いて翔太郎が垂直、左に差す、
 腕を交差してバックルを開く、バックルがW字の形状になる、

『サイクロン ジョーカーぁ!』

 両手を拡げる翔太郎、ファンファーレと共に細かい破片のような光が翔太郎の肉体を包む。

「まさか」包帯の女はその意味の成すところを理解した。

「はんぶんこ怪人や!」巻き起こる乱気流に髪を逆立てながらもギャリー外装の銀パイプを掴む。

「『さあ』」おもむろに黒い左腕で包帯の女を指差す。「『おまえの罪を数えろっ!』」

 右半身が翠に輝き、左半身が漆黒に光る、マフラーを靡かせる独特の大きな複眼を持つそれが『仮面ライダーWサイクロンジョーカー』。

「なんだあいつは」

 この世にいるドライバー持ちは自分を含めて二人しかいないと思っていた荘吉もまた困惑し、トリガーからの弾丸をジョーカーの素手で掴むライダーに見入った。

『あれはトリガー、そしてあれはヒート?まさかボク達のガイアメモリのドーパントに出会うとは思わなかった。ゾクゾクするねぇ。』

 CJ背後より、

「何この紛らわしいガキ!」

 ヒートが踵落としの体勢から放物を描いて落下してくる、

「感心してる場合かよ!」

 ギャリーより飛び降り様、ヒート腹部に跳躍力を伴ったカウンターの左、弾き返り転倒するヒート、その動きを抑止しようとトリガーが弾幕を張る、着地様食らうCJ、だが食らうのはそれまで、弾幕が止む、スカルがトリガーを牽制している、

『ヒート ジョーカーぁ!』

 立ち上がり再び向かってくるヒートに、敢えて待ちながら右腕を炎に焦がすHJ。

「おらぁ!」

 互いに殴り合い、推し勝つ、そのまま2度3度ヒートの顔面へ拳を連打。

「私がついに頓挫したフォームチェンジを、いったい何者なの、財団?それともミュージアム?いやこの世界で私よりガイアメモリーを知っている者などいない、ルナ!加勢よりリュウが先よ!!」

 包帯の女は今失神から触手を体ごと振って回復するルナを手招きする。

「あら、イイ男に絡みつけるのネっ」

 男声の怪物が、10数メートルもの物理的にあり得ない伸びの触手を、なお倒れる屋敷のホールで『リュウ』なる青年を巻き付け惹き付けると同時に跳躍、月光の煌めきから木の陰に一瞬で飛び消えた。

「逃がさ」

 揺れる足元、

「おと、ちゃぉぁっ」

 命からがら這い上がってヘタり込む金属の床が右斜めに隆起し思わず父の名を叫びながら滑り、もはや地面と直角する床を落下するアキコ、

「うぉりゃぁたぁぁぁ!」

 スカルギャリーの片輪が宙を浮く、いや持ち上がる、持ち上げるのは轢き潰され、地面へ埋もれたメタル、雄叫びを上げて復活だった。

「おやっさんが危ねえ」

 ギャリーの90度転倒に地面へ落下したスカル、メタルが迫り、それを視界に入れたHJ、左チョップのキレがクリティカルにヒートをたじろかせたのを見るや、右拳を発火、右フックの状態でメタルに突進、そのままアックスを首へ、メタルをはね除けるHJはスカルに向き返った。

「助けてやるぜおやっさん」

「どけ」

 だが身を呈して飛び込んだWなど見もしないで手で祓い、包帯の女へ駆けるスカル。

「おやぁ……」

『背後から来るぞ翔太郎!』

 スカルの背中を呆然と見つめるHJに、脳震盪を起こす事もなく復活したメタルが鉄の爪を振りかぶる。

「首鍛えてんなこいつ」

 右脚のステップで辛うじて躱すも爪跡が一線左胸に入る、だが怯む事無く左を入れて顎を掠めるHJ、

「ぐぉぉぉ」

 メタルの肘がHJボディへ、
 顎を揺すられながらまるで姿勢を崩さないメタルがHJを吹き飛ばす、

「クソ生意気なガキっ」

 吹き飛んだHJの先に踵をキメにくるヒート、

『あいつはメタル、翔太郎、やはりこの世界は中々興味深い。』

「言ってるな相棒!」

 メタルとヒートに前後挟撃されるWだった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その2





 また例の夢、
 ディケイド、
 私はいない、
 ディケイドの目の前に数え切れないライダー達、
 ライダーの一人が攻撃してきた、
 危ないディケイド、
 私の思いと繋がってるみたいに手で顔を庇うディケイド、
 反対の手でピンクの光を出してライダー達を溜まった埃のように吹き飛ばす、
 止めてディケイド、
 でも今度は私が何を願ってもディケイドはライダー達と戦うのを止めなかった、
 止めて止めて止めて、
 私はディケイドの血に染まった掌を眺めた、 見てるだけで臭ってきそうな気がして目を背けたくなった、
 そんな私の気持ちと同じように目を背けるディケイドの視線、
 違う、
 私の思った通りにディケイドが動いてる、 でもライダーと戦う事を止めない、
 違う、
 私だ、私が止まらない、
 私がディケイドになって、戦うの止められない!



 今日はとびきり酷い夢だっだ。
 私が目を開けると、いつもの湿気を感じる白い壁と埃がうっすら降りた木目が綺麗な床、いつもの私の家、もう私しかいない写真館。
 テーブルは倒れ、ディエンドの銃は暖炉の灰に刺さって、カードは床に散らばった。
 今私の目の前に、士クンが一番気にしてた同じ『COMPLETE』のロゴが入った、いくつかマークが入ってるカードが落ちている。あの海東大樹さんもいろんな世界回って集めてたのね。

「やったぁ!」

 あの帽子のだらしないカッコツケル君が、命が助かったからか、それとも自分の世界に帰ってきたからなのか、玄関を開けた途端大声ではしゃぎだした。たぶん後者。

「トイレだぜフィリップ、大変だ、これからオレ達トイレ無いぜ。」

 カッコツケル君、玄関の戸を半開きに私を手招きする。

「気づいたか、光夏海、・・・・どうしてだ、もう電話なんてイラねえだろ、いねえ?オレはこうして2階の廊下にいるぜフィリップ。」

 カッコツケル君が床板がミシミシ言う廊下を出る。私が写真館を出て振り返ると、といれと少女趣味の彫刻看板がかかった扉になっていた。カッコツケル君は先に進んで廊下にもう一つある扉を開けた。

「ええい、このナルミ探偵事務所に押し入るたぁ、舐めたもんヤなぁ!」

 頭上80度からカッコツケル君に振り下ろされる細い足首、そのつま先には緑のスリッパが履かれている、私はその時ピクリとも動けなかった、

「てぁ!」

 床板に思い切り顎を打ち付けて倒れた。あれ絶対お腹真っ赤になってる。彼の持ってたやたらデカイ携帯が私の足元に転がってくる。

『翔太郎、まだそこがボク等の風都だと決まったわけではない。現にボクが廊下を出ても君達を見つけられない。いいかい、思い当たるだけで2つ、そこがボク等の事務所に偽装しているか、似ている別の世界かだ。だが君達はランダムに転移した。敵がいるとしても先周りするのは不可能だと推理する。おそらく翔太郎、そこはボク等の風都と似て非なる』

 なんだかよく分からないけど、たぶん電話の先の子は内に籠もっちゃうタイプだと思う。

「ナルミ荘吉の娘にして嫁(仮)、このナルミアキコが、お父ちゃんの留守預かってるんやでえ。か細い美少女やからって、ナメたらあかんねんでぇ!」

 どちらかという、無遅刻無欠席で表彰何枚か持ってる健康優良児が両手を腰において鼻息を飛ばしている。(仮)ってなんだよ。

「亜樹子、おめえ、翔太郎だバカ、この鳴海探偵事務所を預かって・・・・・、誰だ、亜樹子じゃねえ!どこだフィリップ!!」

「ナニヌカしとんねん、私は正真正銘、風都一番のナニワの美少女アキコやでぇ!アンタこそナニもんやコソ泥!」

「おまえ、ちゅうか、園咲若菜じゃねえか!なんだ!これはテレビか!どっきりか!白状しねえとアンタの素の性格全国放送しちまうぞ!!」

「シロップがなんやねん?今レーコー呑んでる場合ちゃうちゅうねん!」

「って言ってます」

 私はそんなカッコツケル君より、電話のコモル君の方がマシだと思った。アキコを名乗る子がカッコツケル君を立ち上がらせてネクタイ締め上げてるせいもあるけど。

『そちらの亜樹ちゃんが若菜さんに似ているのは意外過ぎるが、やはりそんなやる必要も無い事まで違いがあるのに確信が持てた。そこは、別の風都だ。夏海さん、そちらのアキコさんに聞いてみてくれないか?鳴海荘吉が生きているかどうか、いや、鳴海荘吉がどこにいるかを聞いてくれればいい。』

 私は何がなんだか分からないが、とにかく頼りない藁のような2人のどちらかの言う事を聞くしかなかった。こんな時士クンは平然としていたな。

「あの・・・・、」

 アキコさんがこっちに怖い顔を向けた。私もあのスリッパでボコられるんだろうか、私生きていられるだろうか、きっと頭ザクロにされるんだわ、助けて神様!

「アンタ、分かったで、誘拐されたんやな!可哀想に、」

 なんか生きていられるみたい、神様ありがとう、でも神様、この台風娘をなんとか止めて!

「私は、その、」

「ああ、皆まで言わんでエエ、私はこの事務所の主、今日も街の為に駆けずり回ってるナルミ荘吉の娘やで、あいつに誘拐されて、イヤイヤいっしょにいるんやろ、待っとき、今すぐこの風都泣かせる変質者を退治したるさかいな!」

 私の肩を掴んで揺する女の子の背を叩くカッコツケル君、

「おやっさん、鳴海荘吉がこの世界じゃ生きてんのか!」

「人の旦那(仮)捕まえて不吉な事いいナ!」

 見ないで上段バックキック、顔面にスリッパ裏をくっきり、
 もんどり打って廊下を倒れるカッコツケル君、ああこれをコモル君は予想できてたんだわ。

「・・・・あの、荘吉さんは今どこにへ、」

「は?まさかアンタら依頼人?ウチ聞いてへん!それならそうと早よ言うたら、」

 この豹変した台風娘が私の手を引っ張って事務所と言うレトロな雰囲気の室内に招き入れた。疲れるわこの子。天井に剥き出しのプロペラがまったり回ってるんだけど、その風はただただ室内の埃を巻き上げてるだけで、なんでだろう、この子こんなところに住んでる事が可哀想になってきた。おしゃれしたい年頃なんだろうし。
 私はトゲっぽい電話を、ヨレヨレで入ってくるカッコツケル君に渡して、窓寄りの3人掛けソファに腰を降ろした。そうするつもり無かったけど、思いっきり腰掛けたんで埃がバッと舞った。そう言えばおばあちゃんの小屋から掠われてずっと休む事無かった。

「別の風都って何だよ、早く言えよ相棒。そっちの園咲若菜も、実はもっと底は凶暴かもしんねえぞ。この間なんか目じゃないくらい」

 そう言って勝手に流しまでズカズカ入っていって棚からコーヒー豆を出すカッコツケル君。携帯を手にしながら台風娘はヒスってるけど、部屋の中不作法に障りまくって、そつなく湯を沸かし始めた。

「あ、お父ちゃん、今どこおんの?・・・・ギャリーに乗るな?ちゅうかなんやその後ろで聞こえる奇声は?オカマに襲われてる?なんやそれ、ええか、依頼人来とんねんから、早よ帰ってきぃ!・・・・すんまへんな、うちの人ゲイバーで遊んでるみたいで、」

 眠くなりそうな目をこすりながら、私は携帯をかける二人を黙って眺めて、何か言ってくるのを黙って肯いていた。
 突然ブザーが響いた、思わず眠気がふっとんだ。

「おい、こっちのアキコ、今ギャリーつうたな。ちゅう事は隣の部屋ぁ」

 親指と中指を2回弾いて、カッコツケル君が入ってきたドアと違うこの事務所のもう一つの扉を唐突に開けた。中からムワっと油の臭みが私のいるソファまで拡がって来た。

「何してんこのガキゃ、ウチのプライベート侵害やで!」

 慌てて携帯切ってカッコツケル君に掴み掛かるアキコさん、

「在んじゃねえか。おいフィリップ、間違いねえ、おやっさんのピンチだ、イテっ」

「なにヌカしとんねん!」

 カッコツケル君がかっこつけてる中、緑のスリッパで何度も張り倒すアキコさん。
 私は依然鳴り響くブザーに耳を塞いで隣の部屋をソファから眺めていると、金網の床がキンキンな音を立ててせり上がっていくのが見えた。

「この世界のライダーは、間違いねえ、おやっさんだ。おい、光夏海、」

 困惑する私に上から目線な態度のカッコツケル君、こういう置いてけぼりなところ、どっかの誰かみたい。

「はい?」

「門谷士もいつもこんな唐突なメに遭ってんのか?」

「士クンは、貴方よりずっとずっとスマートに知らない世界を渡り歩いてました。」

「そうか、ライダーってなぁ、どいつもこいつも。行ってくらぁ、ちょっと待ってな、ここのライダースカウトして、ついでにオレの風都の亜樹子に会わせてやる。」

 そう言ってカッコツケル君、隣の部屋へ勢いつけて飛び込んでいく、しがみついてあがいたアキコさんもスリッパを振り回して飛び込んだ。
 私は、士クンを褒められた事が、なぜだか少し嬉しかった。
 そんな私を置き去りに、何かものすごく大きな機械がものすごくグルグル回ってものすごく轟音を立てた。

「キャッ」

 私が立ち上がって隣の部屋を覗いた時、髪が水平になるほどの突風が吹いた、
 もう既にそれが発進して、私にはちらしずしで使う盥の親玉みたいなのが車輪履いて去っていく姿にしか見えなかった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その1





 ハッハッハッハッハ

 街でもっとも巨大な建造物は『風都タワー』であるが、個人所有でもっとも広大なのは『園咲』の屋敷だ。正門から2キロ歩いてたどり着く洋館の、その5メートルの高さの扉を開けるとすぐに昇り階段が前方に伸びるホール、その階段の途中に起立する一匹の化け物、肩幅を超えるクラウンを頭に頂く闇夜のような漆黒の『テラードーパント』がホール全体を通る高笑いを上げた。

 ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ

 テラーの眼下に5人の男女、内4人は統一された黒のパット内蔵ジャケットを着込んで、それぞれ屈強な肉体を包んでいる。だがそのことごとくがテラーの足元から伸びるヘドロのような影に差された途端阿鼻叫喚の断末魔をあげ、汗を吹き、眼を血走らせ、体液をばらまき、震えが止まらず、得体の知れない言葉を羅列しながら、最後は白目を剥いて卒倒した。死因は厳密には心不全である。

「来人の為に揃えた4人なら、もう少し耐え切れると思ったのだけど、」

 やや後ろに位置し影から辛うじて逃れているもう1人は、全身を包帯と黒いコートで隠しているものの、女の体型である事は明白だ。サングラスと長いカツラ、つばが魔女のように広いハット、手袋、ブーツ全てが黒で染められ、肌が全く外気に触れていない。

「どうしたフミネ、頼りの尖兵は全て死に絶えたぞ。それでよく私の前に再び立てたものだ。」

 ホールの端から端に通るテラーの男声は、まるで透明人間であろうとするかのような女を下の名前で呼んだ。

「ごろつき、樵夫、傭兵、女囚、死の恐怖に耐性があると思っていたけど、死に近い程死を怖れるのね。いいわ。」

 覆面の女が取り出すのはあのWのトリガーマグナムのリペイント。Wのそれと同じくメモリを一本差し込んで傾いた銃身前部を跳ね上げる。

『タブー マキシマムドライブ』

 続けて4連、敵テラーに対してではない、その銃口を向けたのは、未だ恐怖の闇が全ての毛穴からドクドクと染みこんでいく4つの死体。
 マキシマムの光が灯った死体は、不思議な事に眉間が動き、目蓋の裏の眼球が左右にぶれ、開き、4人の男女の眼に光が戻る。

 チゥッウッセッィ、グッジョブ、開発反対、地獄にしては殺風景なところね、

 立ち上がる4体の男女は、もはや足を闇に漬けても動じず、眼光はむしろ迸る程に凛としている。

「タブーでネクロオーバーにしたか。そのメモリを手にする為にフミネ、おまえは、家族を犠牲にしたというのか!」

「アナタは家族が欲しかったんじゃない、重荷にしか思っていなかった!」

 共に嗄れているが、ホールの隅まで通る男と女の対峙。その間に割って入るようにワラワラと数十人の黒スーツで整えた者達が現れ出でる。それぞれメモリを首筋に刺す。

『マスカレイド』

 スーツはそのまま肉体だけが液状の膜に覆われ、黒い覆面に後頭部から頭上を回って唇まで大型動物の根本である脊椎が張り付いている。『ドーパント』の中でも人体が持つ潜在能力を引き出す力が弱い代わりに毒素が人体の復元力を越える事の無いそれがマスカレイド。黒い仮面の男達に囲まれ、包帯の女ら5人を囲む。

 クネクネっ!

 フミネを除く戦闘集団4人は銃、ロッド、ムチ、女に至っては格闘でマスカレイドに対抗し、ホール全体がドーパント対ネクロオーバーの乱闘の場と化す。
 だが二人、階上にいるテラーと正面扉近くに立つ包帯の女は呆然と立つのみ。
 包帯女の背後の扉が突如開く、そこにもさらに数十のマスカレイドが、振り返りその長い黒髪が乱れる包帯の女、
 マスカレイドの挟み撃ち、しかし、そのさらに背後、庭園から強烈な光が放たれた。

『ゾーン マキシマムドライブ』

 一斉である。
 一斉にマスカレイド全ての上半身が差別無く寸断されて消失し、下半身もまた消え去る。消えた肉体は、その者の背後、園咲の美しい庭園を血塗れにして断裂した死骸が散乱した。
 ゾーンメモリは空間を制する。空間内にある物体の座標を自在に変化させる。物体の一部、上半身と下半身を別の場所へ配置する事も可能だ。

「来たわね、来人」

 包帯の女がそう呼んだ者は腰に巻くドライバーも同じ『仮面ライダーW』。右半身がややエメラルドがかった緑と同じだが、左半身がメタリックな光彩を放つ紅だった。

「おふくろ、やつのメモリ、テラーを奪えば、本当にオレの肉体を取り戻す事ができるのか。」

 その声には、少年の幼さが一切感じられず野心が満ちあふれていた。もう一人のWとも言える仮面の男は、テラーを指差した。

「おまえか来人。その肉体は借り物か。誰の肉体を乗っ取った?おまえが、この私に敵うと思っているのか!」

 テラーが眼前のライダーを叱り飛ばした。
 もう一人のWの周りに、黒いジャケットで統一された4人の男女が居並ぶ。

「たとえ貴様でも遠慮はしない」差した指を親指と曲げ換え真下を力強く差す。「さあ、地獄を楽しみな。」

「生意気な!お仕置きを受けたまえ!」

 再びテラーの足元から影が居並ぶ5人を差す。だが平然と弾倉を交換する男、平然と髪をかき上げる女、首を回して鳴らす男、首を奇っ怪にクネらせる性別不問、そしてもう一人のWも全く意に介さず、メモリを1本取り出し、腰の『マキシマムスロット』へ差す。

『キー マキシマムドライブ』

 腕を一閃し、瑪瑙色の斬撃を放つもう一人のW、テラーへ直撃、

「ん!?」

 テラー全身が輝き、液状化して全ての形状が崩れ、液体が腰のベルト1点に集約して、1本のメモリ、テラーのメモリが排出され、ただ窶れた初老の男が現れる。老人は唖然と口を開けてただもう一人のWを見ていた。

「園咲リュウベエ。年貢の納め時だ。」

 バックルの左から紅いメモリを取り出し、腰裏から取り出した大剣『エンジンブレード』にさながら中折れ後装式散弾銃のように差す。

『アクセル マキシマムドライブ』

 だがそれで終わらない、さらに右側から翠のメモリを腰の『マキシマムスロット』へ差す。

『サイクロン マキシマムドライブマキシマムドライブマキシマムドライブマキシマムドライブ・・・・』

 延々とリピートされる発動音、全身を紅い濃密な渦を纏って呻きを上げるもう一人のWが刀剣をホール床に突き刺し自身は跳躍、

「待ちなさい来人!」

 跳躍頂点に達したその者は肉体で十字架を描く、上昇気流が渦巻いてモーメントを加速、その体勢のまま、一介の老人に錐揉みで足を向けさらに加速降下していく、

 ぉぉぉぉぉぉ、

 衝突する肉体、同時に老人の肉体が渦を巻いて肉片からさらに塵になり風のまま四散、老人の立ち尽くす階段もその先の壁ももろとも吹き飛んで、園咲の家の裏庭と星空とイルミネーションを輝かせる巨大な風車が見えた。
着地したもう一人のWが再び親指を力強く下へ差し示すと、紅の渦が爆発的にかき消える。

「この風都の支配者は、今日よりオレが成り代わる!」

 大笑をあげるもう一人のW、ホールに狂気が震撼した。

「来人、なぜそんな事を!」

 包帯の女がまるでヒステリーのようにもう一人のWに近づいていく。

「どうしたおふくろ、」二つのマキシマムよりメモリを引き抜く。「未練が残っていたという事か?」

 除装された仮面より顕れる男の目つきはまるで狼のようだった。やや巻き毛、深紅のジャケットをした、細身の、まだ幼さの残る青年だった。

「そうじゃない」

 !

 声も無く突如苦しみ倒れる紅の青年、倒れなお震えが止まらず、転がった紅いメモリを握りしめ、目を充血させる。それを尻目に翠のメモリの方を拾って凝視する包帯の女。

「違うわ。ツインマキシマムは威力が絶大だけど、このリュウが保たない。最後のメモリーが揃うまで、迂闊に気取るのはおやめなさい。いいわね。来人。」

 包帯の女は、ただじっと翠の『サイクロンメモリ』に語りかけていた。

「そのガイアメモリが、フミネ、おまえの息子のなれの果てか。」

 月光を背に立つ皺一つない白の上下、白のソフトフェルト、

「荘吉、来たわね」

 日本名を持つにはあまりにギャップあるその身長と脚の長さ、『ナルミ荘吉』という男の名を、この街の住人は知っている。

「あら、いい男」

 屈強なあごひげの男が裏声で思わず叫んだ。
 荘吉は完全にフミネ以外の者を無視してソフトフェルトに隠れた眼光を向ける。

「タブーの女の死に顔は、美しかった。」

 白のソフトフェルトを脱ぐ荘吉、その目つきは野獣を繋いでいる。

「プロフェッサー、今やるのか?やらないのか?」

 SMGを抱えた切れ長の目の男は、タバコ焼けした喉を振るわせた。

「おまえたち、メモリーをお使い、」

 ジャケットの4人が一斉に右手に持つそれは、それぞれ特徴的な色をしたWと全く同じ規格のガイアメモリ。

「恐怖の帝王にも使わなかったのに、こんなヤサ男に使えってか。」

 すきっ歯がどこか憎めないターバンのロッド持ちのガタイに比べれば、人類の大半はヤサ男にされるだろう。むしろ隣のヒゲがそれとどっこいの体格である方がレアだ。

「フミネ、おまえとおまえの息子は、園咲リュウベエを倒した後何をするつもりだ?」

 荘吉は帽子を持った手をゆっくり伸ばし包帯の女を差した。

「アタシらガン無視?なんかムカつく。」

 ジャッケト集団の中にあって紅一点のパンツルックが、そのストレートの黒髪を片手でかき上げる。

「荘吉、私はこの」包帯の女はサイクロンを振りかざす。「息子の肉体を取り戻す。タブー、テラー、そして残りのクレイドールを手に入れて。いずれこの風都の、真の帝王となる、貴方が見殺しにしたこの来人の肉体をね。おまえたち何をしている!」

 メモリを持った4人が、

『ルナ』

『トリガー』

『メタル』

『ヒート』

 それぞれ額、掌、後頭部、胸元に出現した生体コネクタに差す、それぞれの肉体に吸い込まれるメモリ、4つの肉体が4色に光輝き、人体とは異質な形状へ変化させていく。一体は金色に輝くクラゲのよう、一体は片腕が銃器、一体は光沢と鈍さが交差する金属の塊のよう、一体は朧気に揺れる炎、この街の住人はそのバケモノを『ドーパント』と呼んでいる。
 だが、荘吉は1体だけでも恐怖すべき理解不能の敵を4体眼前に見据えなお動じていない。

「帝王だと・・・・・、外を見てみろ、おまえの息子が何をしたのか、あの時と変わり無い、街を泣かせるだけの存在だ。」

 荘吉の腰にはいつのまにかWのドライバーに似て非なるモノが巻かれている、スロットが一つしかないそれこそが『ロストドライバー』。左手には帽子、そして右手には指先2本で摘んだメモリ、

『スカル』

 私、聞いてない、とどこかで聞いたような台詞をまくし立てる『ルナドーパント』、

「変身」

 荘吉、スイッチを押したメモリをドライバーに軽く装填、撫でるようにスロットを倒し、右腕を軽く振り流す、
 銃を構える『トリガードーパント』、
 バックルより拡散する黒い欠片、それが荘吉に纏わり着き、漆黒のスーツと化す、
 ロッドを半回転肩から脇に抱える『メタルドーパント』、

「タブーの女の依頼だ。おまえ達母子を止める。」

 最後に荘吉の頭を包む骸の仮面の額に稲妻の刻印が記される、その刻印を敢えて白い帽子で隠す。
 吐息を漏らし小指を立てた先に炎が灯る『ヒートドーパント』、
 骸の戦士は、徐に人差し指で包帯の女を差す、

「さあ、」

 そして掌を上向けに返す、

「おまえの罪を数えろ。」

 ナルミ荘吉のもう一つの姿、風都で知らぬ者のいない『仮面ライダースカル』が、4体のドーパントと対峙した。



 

2013年1月3日木曜日

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その9





 記憶が無いと言われました、
 私の周りからみんないなくなりました、
 絆が全て無くなりました、
 そうか、士クンは絆をずっと求めて旅をしていたんですね、
 笑ってしまう、士クンをずっと見てきて、士クンとずっといっしょにいて、でも私はずっと士クンを上から哀れんでて、同じだったのに、
 そんな傲慢な女、捨てられて当然だよね、 名前も偽名と言われました、
 仲間も全て偽物でした、
 せめてユウスケだけでも取り返そうと、ディエンドから銃を奪った私は、必死でカードを繰ってユウスケを探しました、少しだけ希望を持って、
 でも無かった、何度も何度も繰って、2枚かもしれないから傷つける程擦って、でも1枚で、結局無かった。
 私、なんで神様にこんなにイジメられなきゃいけないの?なんでこんな目に逢わなきゃいけないの?
 そんなに私のひとりぼっちが、この世の中のみんな嬉しいの?

「そこのかわい子ちゃん、ドライバーを渡しな。」

『光栄次郎は、用心深いね。なんの痕跡も残していない。カメラにもタペストリーにも次元移動の秘密はない。門谷士の能力であるにしても、その引き金となる行為を光栄次郎は担っていたはず。どうやっていたんだ?』

 今私達は見慣れた写真館のリビングにいた。
 この2人、今1人の・・・・ええい、なんで私がそんな事気に掛けて煩わされなきゃいけないのかしら、もうなにもかも理不尽だわ!

「ああ・・・・、気分替えようか。」

 あの緑と黒の、ディケイドより絶対へんてこなライダーの変身を解いて、あの帽子カッコツケル君が現れた。途端彼のダサデカい携帯が鳴った。

「フィッリプ、まあ落ち着けや、分かってるさ。別の世界にいるのは、オレなんだ。」

 私がディエンドの銃を渡そうというタイミングでカッコツケル君はクルリと後ろを向いてキッチンに入っていった。なんてタイミングの悪い、この私の差し出した手をどうしてくれるんだコイツ。絶対コイツ女にモテねえ。
 しょうがないからリビングの丸テーブルに銃を置いた私は、コーヒーやらカップやら場所が分からずパニックってるカッコツケルくんを鎮めにいく事にした、しようとした、でも出来なかった。

「音撃殴っ一撃怒涛!!」

 突然写真館全体が立てないくらい揺れ出した。私も揺れた、背骨にくる震動に、私はついにこの世界で一生を終わると、あっさり思った。

「うぉぁぁ、目がぁ!入ったぁぁ!」

 キッチンでコーヒー豆かぶって転げ回るカッコツケル君、

「音撃殴!音撃殴!!」

 士クンならこんな無様な事はしない。揺れた瞬間すぐに私の元へ駆け寄って、抱きしめて、私を守ってくれる、はず。

「その銃だ、銃を寄越せ!」

 カッコツケル君が私に何か叫んでいる。私はテーブルに振り返って銃を取ろうと手を伸ばす、

「音撃殴っっ!!」

 でも銃は向こう側へ転げ落ちた、私は立っていれなかったし屈んでテーブルの下へ手を回した。

「イタ」

 テーブルがその時倒れて私は思いきり頭を打つ、
 花瓶が割れる音がした、
 壁にも皴が入っていく、

「音撃殴っっ、音撃殴っっっ、音撃殴ぁぁぁ!」

 相変わらず骨が響く震動に、私は割れそうになる、頭に変な音も響いてくる、
 銃はフローリングを跳ねてどんどん私の手から遠のいていく、

「光夏海、もう銃はいい、オレが出て、」

 カッコツケルが何を叫んでいるか私に聞き取れなかった、
 私は壁に突き当たった銃まで這って、手に取ろうとした、でもその間カメラが倒れ込んできた、レンズの破片が私の顔に飛んできた、思わず目を塞いだ、銃は重いカメラの下敷きになった。

「士くん!」

 訳も分からず叫んだ私の背後に、留め金の外れた緞帳が降りる鈍い音がした、
 振り返って私は見た、
 タペストリーに描かれていたのは、中折れ帽を被った背の高い男性の背中と、その人が眺めるオランダ風車のような塔が立つ夜のビル街の風景、

「風の街・・・・・?」

 そのタペストリーが突然光り出した、
 それは私が何度も体験した、別の世界へ飛んだ合図だった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その8





 ディエンドに並ぶライダーは、失神した夏海を抱えたカリス、そして新たに召喚した『凍鬼』だった。凍鬼は金棒を肩で担いでいる。夏海を下ろしたカリス、自らの得物『カリスアロー』にカードをスラッシュする。

『ライフ』

 見る間に夏海の柔らかな頬から擦り傷が消え、汗が引き、乱れた息が整って、苦痛に歪んだ眉間の皺が弛んでいく。一度寝返りを打った夏海はその反動で意識が覚醒し、柔らかな両目蓋が開いて日差しに目が慣れるまで瞬きを繰り返す。

「あらかじめ言っておくが、ボクも今からやる事はらしくないと思っている。」

「ここは、どこ?」

 粘り付いた上唇と下唇を引き離すとプルンと揺れる。夏海はそこがようやくその世界の写真館だと理解した。

「早く出てこないと、夏メロンの命は無い。そして、キミも永久に写真館から出られなくなるよ。」

「音撃殴、一撃怒涛!」

 凍鬼が無空に出現した幻影の銅鑼を叩くと、音の暴圧が発生、大気を拡がって写真館の崩れかけた扉を震えさせる。窓ガラスが割れ、枠が崩れ、辛うじて立っていた1枚の壁が横揺れして、反動で扉がごく僅かに開く。

「さあ、早くダブルドライバーをこっちに投げな。」

 だが投げられる気配はない。その代わり声がした。

「いいか。泥棒はな、探偵に弱いって相場が決まってるんだぜ。」

『ルナ トリガぁ!』

 ドアの僅かな隙間、一旦上方へ撃ち上げられた数本の閃光が屈曲してカリスと凍鬼に幾角度から突入、カリスはアローを振り回し全弾弾き返すが、威力に圧し負け後退り。凍鬼は目元に直撃を食らって倒れ様、放り上げる形になった自らの金棒を首に打ち付けノックダウン。

『トリガーぁ!マキシマムドライブっ!』

「『トリガー、フルバーストっっ』」

 10数本の光がさらに扉の後ろから発射、歪曲して怯むカリス一点に集約、直撃したカリスは大爆発を起こす。

「調子に乗らない方がいい、どうやったって、このボクにはどのライダーも適わない。」

 爆風を背に受け微動だにしないディエンドは、堪える夏海の頭にディエンドライバーを密着させた。

『ディエンドの検索は既に完了している。彼はカードの限りライダーを召喚できる。やろうと思えば、ボク等の体力が尽きるまで。』

 その段階で扉の影、写真館から姿を晒す仮面ライダーW、右半分はまばゆい金で彩られ、左半分は鮮やかなブルーで彩られている、ルナトリガーの右目がしきりに明滅しながら聞いてもいない解説を始める。

「その通り、仮面ライダーWの右の方はさすがにボクをよく分かっている。」

 既にディエンドは3枚のカードをドライバーに装填。銃口を高く掲げた。

『KAMEN RIDE IXA IXA IXA』

 ディエンド、それぞれ3体の同じ『イクサ』を召喚、内1体はフェイスをオープンして高熱を発し、さらにもう一体は、ライジング、の電子音と共に装甲を除装し蒼きイクサとなる。

『検索は既に完了している。ディエンドはどうやってもそのカード召喚に隙が生じる。今だ、翔太郎、』

「おうよ相棒!」

『ルナ ジョーカーぁ!』

 バックルのメモリを素早く切り替え左半身を黒く染めたW、その金の足を振り上げると関節が抜けてゴムになったかのように足先が伸び、遠く離れたディエンドの手からドライバーを蹴り弾き、足が返って今度は金の腕が夏海まで伸び回り込んで、宙に浮かぶディエンドライバーごと夏海を抱えてWの元まで引っ張り込んだ。

「その命」

「神に」

「帰しなさい」

 内2人は女性の声だ。

「お嬢ちゃんは返してもらったぜ。駆け引きは大体探偵の方が勝つんだぜ。」

 既に夏海を脇に抱えて左の人差し指と親指を二度ほど擦った。

「一人で、立てます、」

「大丈夫か?」

 夏海が藻掻いたのに、やや驚くW。最後の見た時の状況からは考えられない回復ぶりだった。思わず手を離し、足の下から頭のてっぺんまでマジマジと眺めるW。

「二人をこの世界から逃す訳にいかない。写真館に絶対入れるな!」

 手ブラのディエンドから指図された3体のイクサがWに近接、もっとも身の軽いライジングが短銃『イクサライザー』をバーストで放ちながら先頭を走る。

『イクサの検索は完了した。彼らはヒートと相性がいい。』

 夏海を壁の方へ突き飛ばしつつ、3メートルほど伸ばした金の手をムチのように撓らせ、ライザーの光弾を防ぐW。
 ライジングイクサは銃を反対の手に持ち替え、空いた拳に体重をかけた。銃撃が止んだ。

『ヒート ジョーカーっ!』

 交差する拳と拳、右半身を赤に染めたWの右拳は赤よりも紅い炎を纏った、

「おらぁ」

 推し勝つWの拳、ライジングイクサの顔面に炎がいつまでも纏わりつき、その蒼きボディから灼熱に染まる。

「顔は止めなさい、顔は止めなさい!」

 立て続けに連打されるWの右拳にもんどり打って後頭部から倒れ、なお身に炎が纏わり続け悶えるイクサライジング。

「うちの人に何を!」

 W直角方向より、閃光のような白き斬撃が振り下ろされる、

「つぇぇ」

 それはバーストモードイクサの『イクサカリバー』の刃。ヒステリー気味な女声を伴って左上から袈裟斬り、

「今は青空の会もロクに顔出さなくなって、私がお店出て食わせてるけど、あれでもちゃんとした亭主なんですからね!」

 さらに返す刀で右斜めから打ち込んでくるイクサに、打たれるままのWは退くしかない。

「お店では、レイナよ!よろしくね!」

「聞いてねえ!」

 ジョーカーの左腕で刀身を辛うじて掴み、大きく弾く、逆の腕にはメモリが握られている、

『ヒート メタルぅ!』

 左半身を金属色に塗り替えるWに、なお振りかぶるイクサ、半身を捻って背を見せるW、『メタルシャフト』が折りたたまれて背負われている、シャフトがカリバーを受け止めた、シャフトを手に取る形でカリバーを弾くW、即座にシャフトが3倍に伸び、半回転させてイクサの腹を打ち、反転させシャフトの逆端、炎の灯った先端で顔面を直撃、

『イクサは機械だ。エネルギーの調整はかなりのデリケートだ。だから過剰に熱を与えるだけで動かなくなる。』

 もんどり打って倒れるバーストモードイクサ。

「どんどん行くぜ」

 追い打ちをかけようと奮い立つWは、メタルシャフトを右へ一回転、左へ一回転し、脇に挟む。

『イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』

 そのW背後からセーフモードイクサが拳を繰り出してくる。

「おっと」

 反応しているW、先端に火のついたシャフトを振りかぶって威嚇する。

「私の魂が、おまえを討つ!」

 直接肩へ受け止めるイクサ、あまりの破壊力に片膝が折れる、だがシャフトを掴んだ、そう敢えて受け止めた、反対の拳には『イクサナックル』、ゼロ距離からの電磁砲がW右脇に入る、

「ぐぉ」

 Wの足が宙を浮いて重心を失い、気づかない内に天地が逆転、それでもシャフトを地に差し両足揃えて着地するWだった。

『今はまだ連携が取れてない、早い段階で討たないと厄介だぞ翔太郎。』

「強え、いい女。勝負だっ」

 W、バックルからメモリを一本だけ抜き、シャフト側に差し、シャフトを水平に構える、

『メタルぅ マキシマムドライブ』

「『メタルブランディングっっ』」

 シャフト両端から噴流が吹き、頭上へ掲げ回転させると炎の輪となって前方へ拡散、立ち上がりそれぞれのフエッスルを手にしていた3体のイクサは半歩遅い、炎に巻かれ一斉に消失した。

「強かったぜ、いい女、顔は分かんなかったけどな。」

 硝煙上がる大地には3人煙に巻かれた人影が見える。が、顔を見る前にカーテンに隠れてしまった。残ったのはWの足元に転がった、イクサの1人が落としたろうイクサナックルのみ。

「渡したまえ、それは今はボクのモノだ」

「イヤです」

 一方、その傍近く、遠く壁のドアに後ろ歩きでジリジリと下がる夏海、その両腕にディエンドライバーが抱えられていた。

「そうか」

 夏海の眼前には手を伸ばして迫るディエンドが。

『ジョーカーぁ マキシマムドライブ』

 そのディエンドに横殴りの突風が吹く、思わず振り返って見上げるディエンド、

「『ジョーカーエクストリーム!』」

 両足を揃えて蹴りの態勢、Wの左側が縦半分に割れ、前方にやや突出、右側とズレる奇っ怪なスタイルで降下してくる、
 ディエンド直撃、から透過、素通りしたWは地面を抉って夏海の黒髪を大きく乱しただけだった。

「ディエンドに残った力でもこのくらいはできる。また会おう、夏メロン。」

 ディエンドの立つ地は、夏海達の至近にありながら全く違う別の世界、次元のカーテンは既にディエンドを覆って、Wからは揺らいだ幻想のように見えた。

「メロンじゃないですみかんです、みかんでもないです!」

 既にディエンドのスーツが蒸発するように着脱し、嫌味な程屈託のない笑顔を夏海に向け、海東大樹は空間に溶けていった。残ったのは、ディエンドの腰に巻かれていたカードケース。地に落ち、僅かに埃を立てた。

『探偵と泥棒の化かし合い、どちらが果たして化かされたのか。さあ、光夏海くん、ぼやぼやしていないで写真館へ行こう。』

 Wの右目の明滅が夏海を照らした。

「待てフィリップ、あのキバーラって変なのは、写真館を調べても無駄と言ってたぜ。」

『ディエンドライバーをこちらが手に入れたのは、まことに幸運だったよ翔太郎。』

「そうか、さっきの芸当、だよな。だとさ、お嬢さん。」

 Wの左眼が夏海に向かって明滅し、黒い人差し指と親指が忙しなく動いた。

「アナタ、キモチ悪いです」

 そんなWを端で眺めて首の2眼を弄ぶ夏海は、顔をしかめるしかなかった。





6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その7





 そこには、ただ一組ショボくれた帽子と埃のかぶった眼鏡が落ちているだけだっだ。既に荒廃した大地には、先程までいた何人かの者がいなくなり、タイヤの跡だけが風に吹かれてもなおその型を留めていた。
 風では無い揺れが、砂塵をごく僅かに騒がせた。落ちた帽子の横に踏みしめる靴、片腕が伸びて帽子と眼鏡を拾い、土と埃を祓って着ける者が一人。

「おのれディケイド、何度この私を殺せば気が済むのだ、」

 高笑いを上げる鳴滝、その草臥れたコートもせり上がったデビルスマイルも変わらず、ダメージの跡も全く見られなかった。




 翔太郎の視界には見渡す限りの倒壊した家屋の瓦礫が散乱するだけであった。ただ一つ、眼前に立つやや小さめの扉を除いて。上左右の壁が崩れそのピンクの木枠の扉と窓枠だけが填った1枚の壁が強風にもめげず大地からのび立っている。近づいてみると、ドアノブにダンボールで書いただけの『光写真館』の看板がビニール紐で括っている。

「どこでもドアかよ。」

 ドアノブを一旦握って、開ける前に一度右サイドから裏を覗いてみる翔太郎。だが依然風景は瓦礫で満たされていた。にも関わらず、開けた先の風景は、土足で入るのが憚る艶のあるフローリングの床、四辺と天井が頑丈に構築された、かなり手入れの行き届いた屋内だった。モダンな丸机と1対のイス、あの幌掛けされている三脚だけが見えるそれはおそらく写真機だろう。タペストリーに描かれた油彩画は、電波塔を上角に臨む風景画、青空に輝く太陽に電波塔の先端が重なり、さながら太陽を巨大な銛が刺し貫いているようだった。
 だが翔太郎に、室内をじっくりと調べる暇は与えられていなかった。
 天頂から急降下し、放物を描いて急上昇する白い物体、
 動体視力の限界を超えるその動きを追えない翔太郎の鼻先に、見覚えのある球体、

「やべ」

 爆破、扉の木枠が焦げる、
 寸でで頭を仰け反らせる翔太郎の鼻孔を煤焦げた臭いが突く、
 だがそれだけである、翔太郎の顔の皮1枚剥く程度の火力の瞬間発火、身体にダメージが残る程のものではない、身体には。

「気に入りの帽子が!」

 ゾウアザラシ4歳オスの腹の皮製の帽子の縁半分に炎が上がった。慌てて帽子を脱ぎ捨てる翔太郎、革靴でもみ消すと、哀れ帽子の縁は三日月状にしおれ、炭素の臭みを放っている。

「あら、Wの世界のヘボ探偵一人?な~んだ。」

 翔太郎を掠めた白い物体、キバーラが頭上でせせら笑った。それを見た翔太郎、癇に障ったか何度も飛び上がって掴もうとする、それをスイスイ躱して余裕を見せるキバーラ、

「待ちやがれてめえ、鳴滝はもう死んだ、てめえ一人で何しようってんだ、この世界からオレ達を帰しやがれ!」

「そう、帰りたいのね。でもここを調べても無駄よ。ここは栄ちゃんに頼まれてワタシが移動させてたんだもの。」

 屋内天井隅に舞ったキバーラの先に、次元のカーテンが小さく浮かんだ。

「おまえがどっかの世界いっちまえば、俺達はどの道ここでくたばる。おまえの筋書き通りだ、だから最後に聞かせろ!」

「フン、土下座でもしてくれるかしらぁ?」

 相手が追うのを観念したと見たキバーラは振り返り、ジラすつもりで天井隅を周回する。

「光夏海の命を狙ったのは何故だ?」

「あの子はワタシからなにもかも奪うのよ。ユウスケも栄ちゃんも鳴滝も、あの子にだけは特別甘くなる、門矢士もあの子がいなければ、ディケイドになって世界と引き替えにする事も無かった、ワタシもワタシの世界を奪われる事はなかったわ!」

 翔太郎は熱弁するキバーラをじっと睨んでいた。もちろん聞き入っている訳ではない。背の裏に回した右手にはギジメモリ、左手にはバットショット、

『バット』

 カメラからコウモリ型に変形し、キバーラへ突進するバットショット、突如現れた同機動特性のメカに戸惑いながらも逃げ惑うキバーラ。

「てめえみてえなのの口を割らせるには、ノセてみるのが一番なんだよな。」

『スパイダー』

 さらにもう一本ギジメモリを出し、今時大き過ぎる腕時計に装着、腕時計は4対足を伸ばし蜘蛛型の『スパイダーショック』へ変形、その形状から想像できる通り糸を直線で発射、

「なに、ネバっ」

 見事宙を舞うキバーラを絡め取った。

「さあて、ここから本目、オレ達を元の世界へ戻す方法を教えてもらおうか。アン?」

 引っ張り込み、キバーラを掴む翔太郎は途端態度を変える。

「うぐぐ、よく見れば・・・・いい男ねえショタローさぁん、」

 立場の入れ替わったキバーラもまた甘い言葉で隙を伺おうとする。
 そんな翔太郎とキバーラのやりとりはしかし、爆音一つで帳消しになった。

「なんだ!?」

 明らかにドア方向からの指向的な震動、反射的にドアに背をつける翔太郎は、窓から外を覗き見た。

「あれは、さっきの青い泥棒、」

 見れば限り無く拡がる瓦礫の果てに、数名の人影が立っている。その中、シアンの縦ストライプの姿をしたライダーを見て取る事ができた。

「フン、これで見納めかと思ったら、なんだか寂しいわ、ショタローさぁーん、」

「待てこら」

「最後にいい事教えてあげるわ、鳴滝は死んでいないわ、というか死なないのよ彼は。ジャぁね!」

 このドサクサに紛れて糸を噛み切ったキバーラは翔太郎の手から離れ、次元のカーテンに突入した。
 独り取り残された翔太郎は、眉間を人差し指で触れ唇を振るわせる。だが、そんな翔太郎をさらに追い打ちする状況に事態は進展していく。

「いいかい、この光夏海と交換に、キミのダブルドライバー、そのお宝をこっちに頂こう。」

 翔太郎の体を依然、ディエンドの威嚇の震動が伝わってくる。

「探偵対大泥棒、ハードボイルドになってきたぜ。」

 口でハードボイルドと言ってしまう翔太郎だった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その6





 次元のカーテンが4つの影を堤防の上に伸ばし、そして4体の仮面の男を出現させる。

「さあ、舞台の幕を上げよう。」

 既にシアンの縦ストライプが特徴的な姿へ変身しているディエンド、がやや両足を揃え堤防の上から屋根を臨む。今回召喚したライダーは『ギャレン』『バース』『サガ』。
 ディエンドが臨むお婆ちゃんの小屋の庭では、今もアラタが一人雑草取りに追われている。ディエンドはギャレンに顎で指図し、ギャレンはワケの分からない叫びを上げて空中一回転で降下した。

「む!ガタックゼクター!」

「#$%)!59&(ザヨコォォォォ)」

 柔らかな土壌を舞台とした乱闘を尻目に、小屋の玄関口に立つディエンド含む3人のライダーが立つ。

 一人でにドアが開く、

 中から4匹の巨大な虫が飛び出してくる、

「先手を打つか、さすがはカブト」

 それはゼクター、木戸が開くと同時にカブト、ザビー、ドレイクが飛び出しそれぞれライダー3者へ突撃、その背後から杖を突いて出てくるソウジの手には、パーフェクトゼクターが一振り握られている。

「お婆ちゃんが言っていた、油断とは油を切らして明かりを断つと書く。だが太陽の光は絶える事がない。過去に飛んだ時、頼りにできるのは自分の能力と、そこで手に入れたゼクターだけだった。」

 実は油断の語源は灯油切れなどではない。

「悠長な」

 問題はソウジがその間、ディエンドの再三の銃撃を黄金剣でことごとく弾き返している事である。

「一億円!」

 間の悪い事にバースディ装着最中にカブトゼクターに眉間を打たれてよろめいたところ、見えなかったサソードが土中からバース足首を刺す。途端電撃のような痺れがバース全身を襲い、バースディ状態で卒倒。哀れ構造上の性から起き上がる事が不可能になる。ディエンドは無言で透明のカーテンを降ろしバースを撤退させた。

「王の判決を言い渡す」

 一方サガはドレイクの動きに翻弄されたものの、即座に適応して『ジャコーダービュート』を撓らせ叩き落とし、返す刀でソウジにその切っ先を伸ばす。

「おい歯磨き粉、あの女に何の用があるのかは問わん。だが、あの子を今動かせば、門谷士を本気で怒らせる事になるぞ。それが怖くないのか?」

 サガの伸ばしたロッド先端をパーフェクトゼクターで巻き付けるソウジ。

「ボクはキミと同じで、小馬鹿にされるのが非常に気にくわない。でもキミは分かっていない。キミ程度の者はボクはいくらでも見てきた。あっちの彼にも、キミにも、ちゃんと相応しい相手を用意してある。」

 ザビーゼクターに攪乱されながらもなお銃撃を繰り出すディエンド、カブトゼクターがソウジに周回して逐一弾き返す。

「甘く見たな。ライダーになれずとも、女一人くらいは守れる、」

 ソウジが依然ビュートの巻き付いたパーフェクトゼクターをディエンドに向かって投擲、

「それは、どウッ」

 頭を振って回避するディエンドにしかし、パーフェクトゼクターは周回してビュートを首に巻き付けてくる、
 慌ててビュートを離し武装を失ったサガに、カブトゼクターが体当たり、弾き飛ばした。

「太陽は絶えずどんな時も東から昇り西に沈む。誰もそれを止める事はできない。」

 バースを失い、サガも卒倒し、手札が無いかのように見えるディンドもまた首元を抑え呻く。

「だが、キミはいつもそうだが、肝心なところで間違えている。太陽は天にあって、決して地上にあるものではない。ボクの手駒は無限さ。」

 その時である、ソウジが背後に殺意を感じたのは。鎌のような2本の角、漆黒のボディ、その角を刈って三日月に繋げたような得物、『カリス』に既に至近後背の間合いに詰められていたソウジ、カブトとザビーゼクターが突進、得物の『カリスアロー』をひと薙ぎするだけで叩き落とすカリスは、返す刀でソウジを横一閃、最初に気づいた時点でカリスが一手速かった。

 ぐぉぉぉ、

 一閃されただけで地に倒れ、土に塗れて悶え苦しむソウジ、その肉体からは緑の光がいつまでも残留し消えない。

「キミと同等の熟達した力量と疾さを備えたカリスは、井の中の大将のキミにはもっとも相性の悪い一人だ。その痛みは今日1日キミを苛むだろう。ボクをバカにした罰だ。地獄の苦しみを味わいたまえ。」

 既に『ゼロノスベガフォーム』が、体じゅう包帯を巻き付けた光夏海を肩に抱え、小屋からやや屈んで出てきていた。光夏海の首には、お婆ちゃんがあのショッキングピンクの2眼を吊り下げてくれていた。

「待て……」

 悶えながらも手を伸ばすソウジを、失神する事も許されぬ激痛が、いつまでもその身体を苛んだ。

「オレは、オレにしかなれない!」

「%$)K9!(ザヨコォォォォォ)」

 カリス、ゼロノスを引き連れるディエンドは、激闘の末ついには両者とも得物を捨てて素手で殴り合い、果ては頭突きの応酬を繰り返す鍬形虫を模したボロボロの2人のライダーを横目で見た。

「一生やってな。」

 ギャレンを置き去りにして次元のカーテンを潜るディエンド等だっだ。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その5





 金属の焼ける臭いには既に自覚すら無い深海マジュであった。もはやハード的な問題は全処理を完了し、最終デバッグをかけてチップが完成する。黒縁の度のキツいメガネに『G4SYSTEM』というディスプレイのロゴが反射される。ピン二つで止めた黒髪を下ろすと、腰のあたりまで毛先がくる、首の細い女だった。
 窓のカーテンが踊り、夜風が腰掛ける白衣までも揺らす。マジュはその時微香を感じた。あまりにも爽やか過ぎて毛穴に刺すような刺激を与える程の香りだった。

「本当にいつも窓から来るのね。大樹。完成したわ。『G4チップ』、これで私のESPシステムと併せれば究極の超人が誕生する。」

 メガネを外したマジュの漆黒の瞳は爛々とした。その内側にどれほどの漆黒が溢れているのだろうか。そんなマジュの瞳をディスプレイの反射越しに見つめる海東は、キャップ帽子を既に逆向けにし、マジュの細い首元に腕を回してもたれ掛かるように抱きしめる。

「君のおかげで破損したG4チップを修復できた。本当に感謝している。」

「貴方が、あの八代淘子からこれを持ってきてくれたのは、私にとって幸運だったわ。」海東の掌に自らの手を重ねるマジュ。「私貴方のおかげで大変な栄誉を手に入れる事ができる、いえ、貴方のおがげで高慢で粘着質な自分から変われそうな気がする。今までの自分は、なにかがすり減っていた。」

 そんなマジュの顔を黙って見つめ、下顎に手を添えてこちらへ向かせる海東。それが二人の合図であり、マジュはいつも通りその野心的な眼差しを閉じ待った。海東の手は顎から両肩に添えられ、そろそろ口元の臭いがしてくる頃合い。しかし今回は違った。

「お宝は確かに頂いた。」

 既に窓際に立ち、SDアダプタからチップを抜き取る海東大樹。徐に帽子の前後を正した。

「大樹!貴方の為にこんなにまでした私を裏切るつもり!」

 海東は嫌味な程の爽やかな笑顔を向ける。笑顔は、カーテンの揺れに見え隠れする。

「僕は泥棒がサガなのさ。人から盗む。君の心を盗んでお宝を得た。ただそれだけの事。僕は高慢な女は嫌いじゃない、粘着な女も面倒見てあげたくなる、だが高慢で粘着なのは、ヘドが出る。」

 せめてそう言う事にした海東、颯爽窓を飛び越えた。立ち上がってマジュが窓から身を乗り出した時、既にどこにも姿は見えなかった。マジュは倒れ込み、ただ呆然とした。マジュの漆黒の瞳に、ディスプレイ上に表示された『第4世代型対未確認生命体強化外骨格及び強化外筋システム』の完成図面が映っていた。


6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その4





「な~つみちゃん」

 高度50メートル程の高さでは、どんなに広げても体と同じ幅しかない翼を羽ばたかせる掌サイズのキバーラの姿を見る事ができない。
 キバーラから見て、米粒のような人の頭が一つディケイダーへ近寄っていく。あれは『Wの世界』から連れてきたマヌケだとキバーラの眼には認識できた。あの夏海の頭も見える。その傍にいるのは、確かこの世界のライダーの一人。何か言われたのだろう、夏海がマヌケの元へ駆け寄っていく。

「アンタ、どこの世界の誰かは知らないけど、士も、ユウスケも、キバットも、鳴滝も、私の気にいったモノはぜ~んぶアンタが横からしゃしゃり出て奪っていく。」

 キバーラがその下顎の牙の隙間から泡を一つ膨らませる。泡はキバーラと同じ程度の、人の拳ほどの大きさになり、フワフワを浮かんぶ、キバーラが泡に一息甘く吹きかけると、ゆっくり、ゆっくりと軽く渦を巻く軌道で降下する、当たれば人一人焼死させる程のエネルギーを乗せて。キバーラはしかし滅多にこの力を使わない。というよりあまり使えない。動物どころか人間の反射神経でもあっさり躱せてしまう程致命的に弾速が無い。だがそれは動いているものに限った話である。静止した物体なら風を読んで命中させる事も可能だ。あのディケイダーという今や静止する火薬庫でしかないあれに向けて、夏海が近づいてくる瞬間を狙って泡を吹けば、一瞬で憎い女をあの世に送る事ができる。たとえ命を奪えなくとも、次元の壁を越える手段を失ったあの女をここに封じ込め、結果的に亡き者にする事ができる。この瞬間をずっと、ずっとキバーラは待っていた。




「ひさしぶりに探偵らしい事でもすっか」

 翔太郎はまずディケイダーの臭いが気になった。厳密に言うと、オイルの臭みすら無い事が気になった。およそ機械である限り、そんなことはあり得ない。翔太郎はこれが見た目よりはるかに高度な技術によって構成されている事を思わずにはいられなかった。となると、彼の相棒がこれを見た時、自分よりはるかに何かを得る事だろう。たとえそれが蜘蛛の糸のような可能性であっても、それを掴まなければ前に進めない。

「フィリップの奴、こいつの計器を見ろって言ってたが、どこにでもあるメーターばかりだぞ。映像撮るしかねえか。」

 バットショットを両手で窮屈に構える。翔太郎にとってバットショットは小型過ぎるようで、10本の指の収まりが悪く、ヘタをするとレンズに被ってしまいそうだ。

「それが、士クンが乗っていたバイクです。あの、電話の彼が言ってました、それで次元を越えてライダー達を集めれば、士クンは私を無視できなくなるって。でも士クンにここで置き去りにされた私に、ライダー達は言う事聞くわけないと思うんです。」

 翔太郎は敢えて夏海という少女の顔を見てやらなかった。

「フィリップは、アンタがあの爺さんや門谷士がここまで連れ添った事に意味があると考えてる。ここに置いて別れた事も、殺さなかった事も含めてな。それが脱出する方法に繋がるかどうかより、繋がっていると見てアンタに頼るしかねえ。唯一の可能性という奴だ、このオレが風都に帰れるな。オレはフィリップとはちょっと見立てが違う。オレはあの門谷士って奴が、この滅んでいく世界にアンタを置いていくはずはない、そう思ってる。それに、」

 翔太郎、ディケイダーのスイッチを入れる、高い周波の回転音がディケイダーから轟く、ハンドルのアクセルを捻るとさらにエグゾーストから轟音と振動が唸る。

「アイツが、本当にアンタをここで見殺しにするつもりだったら、使えるようにしとくヘマはしねえだろ。」

 夏海は執拗に瞬きを繰り返した。
 ディケイダーを立てかけ、しゃしんよろしければ、の紙看板を立て、ああして写真を一生懸命撮っていた、あの背中がフラッシュバックする。だがすぐその幻影は消えて、中折れ帽を被った頼りない青年の姿に変わる。

「私はもう、士クンを信じられない、」

 夏海は思わず顔を両掌で塞いだ。

「いいか」翔太郎はその時振り返った。「アンタはあの門谷士をどんな事があっても信じ続けろ、たとえオレや相棒、他のライダーが全てあの男を疑ったとしても、アンタだけは最後の最後まで奴を信じていろ。」

 翔太郎は、帽子で動揺する自分の目を隠しディケイダーを撮り続けた。夏海はそんな翔太郎を怪訝に眺めた。

「アナタ、ダメです…………士クンはまだ様になってるだけマシでした。」

 翔太郎の下顎が泳ぎながら振り返る。

「おま、おまえ…………ダメは、ないだろ!」

「やっぱりアナタは、士クンにおよばないです、ダメダメです、」

 夏海の眼に、軽薄な探偵の姿が滑稽に映る。士とは違うキャラクターのその男は、どこまでも頼りなさげだが、少なくとも和ませてはくれた。
 そして彼女の視界にそれが入ってくる。その癇癪ではしゃぐ滑稽な男の背後から、忍び寄るようにふわふわと宙を漂うそのしゃぼんのような小さな玉を。なぜだろう、夏海の知覚できないフラッシュバックが、その泡に危機感を覚えさせた。

「あぶない」

 咄嗟に駆け寄った、駆け寄って自分より頭一つ高い男に体重をかけて押し倒す、押し倒す男の怒声や舌に入った砂の感触はしかし、その一瞬でどうでもよくなる、
 音で体が壊れそうになった、
 熱は一瞬だけ感じて後は麻痺した、
 なにかが頭に当たった、
 だがそれら全て、夏海が再び目を覚ました後、脳が記憶をかき消す事になる、

「なにが起こった、耳が、おい、光夏海!頭から血が止まんねえ、しっかりしろ!光夏海!」

 キバーラが放った泡は火種となってマシンディケイダーを爆破した。爆破は十メートル四方に爆炎を上げたが、それは一瞬、引火物が無い荒野であった事も幸いし、もっとも至近にあった光夏海と左翔太郎は火に巻かれる事もなく、煙を吸う事もなかった。ただ破片と衝撃をまともに食らい、翔太郎は左の鼓膜が破れ、全身に擦り傷、背中に胃の内容物が出そうになりそうな打ち身を受けた。だが光夏海に比べると動けない程ではない。光夏海の左腕は見た目ではっきり分かる程に骨折し、なによりそのロングの髪の毛がベトつく程の出血が頭からあふれ出ていた。



 

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その3





「無様だな。」

 翔太郎は、いつまでも片足を伸ばして地にヘタり込むソウジの顔を覗き込んだ。

「お婆ちゃんが言っていた。自分が決断し、取り返しのつかないような事をしでかしたとしても、それは決して不幸でもなければ、後悔する事でもない。なぜなら、」

「自分が、決断したからだ。」

 お株を奪われソウジははじめてその中折れ帽の若造の顔をまともに視た。

「何者だ?」

「あらゆる事件をハードボイルドに解決する、」帽子の縁をなぞった指でピストルを作ってマズルジャンプを模す、「探偵さ。」

 いぶかしんで足先から頭のてっぺんまで眺めるソウジ。

「おまえ、自分の口でハードボイルドといって恥ずかしくないのか?」

「この世界で、おまえにだけは言われたくネエ!」

 ライダー同士の距離感は、親近感よりも同族嫌悪のそれらしい。

「言っておくがオレはおまえのような半人前に用は無い。」

「こっちが聞きてぇ事あんだ、おまえのベルト、空間を縫って動けるって相棒から聞いたぜ。」

「だから、用は無い。」

「聞いてんのかよ!」

「別の世界へ行くようにオレも試みた。だが無理だった。だからおまえに、用は無い。これで3度めだ。」

 翔太郎は自分の世界の相棒を彷彿するこの男に、ストレスが溜まってきた。が、相棒に近いが故に慣れてもいる。

「お見通しってわけかい、どれ、おまえん家まで肩貸してやるぜ。」

「もうこれ以上は言わん。用は、無い。」

「強がるや・・・・・」

 翔太郎は言いながらソウジの指差す方向に上がる土煙を二度見した。

「このままでいれば、いずれお婆ちゃんが迎えをよこす。それは分かっていた。」

 地平線の彼方から煙の尾を引いて向かってくる、荷台を引いたそれは青いオフロードバイク、その名をガッタクエクステンダーという事を翔太郎は知らない。

「無様だな。幼なじみとして恥ずかしいぞ。」

 ビンテージメットで立ち尽くし、ゴーグルを外した晒した顔は、ソウジと幼なじみとアラタ。

「アラタ、その台詞は、さっきそいつから聞いた。相変わらず間が悪いやつだ。」

 翔太郎はソウジの知り合いらしい事だけは察した。

「ああ、さっき言った。間が悪いやつだな。」

 ライダー同士は合従連衡がめまぐるしいらしい。

「なに?!おまえら・・・・、オレが悪いのか!?」

「こういうやつだ。」

「こういうやつか、まぁ、風都でいくらでもいらぁな。オレは探偵、困った事があったら、ハードボイルドに解決するぜ。」

「ソウジ聞いたか、ハードボイルドに解決だってよ、こいつスゲーぜ!」

 かつてないポジティブな反応に喜びつつも頬を引き攣らせて一歩引く翔太郎だった。

「お婆ちゃん……」

 そんなおかしな両者を半ば放置して、ソウジが見やるのは、ガタックエクステンダー、ではなく、その後方に括り付けられた荷台にケツを抑えながら降りるもんぺ姿の老婆。
 一歩一歩ゆっくりと杖を着いて歩み寄ってくるお婆ちゃんを見ながら、ソウジは手をアラタに差し出す。アラタはなにもかも分かったようで、しゃがんでソウジの手を掴んで自らの肩に回し起き上がらせ、お婆ちゃんに二人三脚状態で足を向ける。

「おかえり。」

「ごめんよ、お婆ちゃん、お婆ちゃん、ごめん」

 アラタを振り払う形で小さなお婆ちゃんに覆い被さって抱きつくソウジだった。お婆ちゃんは、そんなソウジを支えながら、背中をさする。

「足一本なら、安い代償さ。良かったよ、人前で泣かない子だったのに、よっぽど怖い思いをしたんだねえ。」

 ソウジの頭をお婆ちゃんはゆっくりと何度も撫でた。ソウジは背を屈め、お婆ちゃんの胸元に顔を埋めた。

「見ないのが、男の流儀だぜ。」

 翔太郎は中折れ帽で目元を隠し、アラタの肩に両腕を置いて、体ごとねじり回した。アラタの肩は震え、顔は翔太郎にすら見えないよう俯いていた。

「あの・・・・・左さんでしたっけ?これがフィリップさんから、」

 リにアクセントを置いてしまっている夏海が翔太郎の方へ緊張の無い顔で歩み寄りスタッグフォンを手渡す。

 士クンは、アタシにあんな風に心の内側を見せてくれた事、なかったんじゃないかしら・・・・

 未だ活力の無い夏海の眼に、視界に入るもの全てが羨ましく思えた。

『いいかい翔太郎、まず転移するというその写真館へ行く事、次にあの鳴滝といっしょにボク等を誘ったキバーラという奇妙な生き物を捜す事、この二つがもっとも可能性がある。その次に門谷士が使っていた写真機、そしてディケイダーというバイクを調べてくれ。まだその近くにあるはずだ。できればバットショットでいくつか映像を送って欲しい。』

 一方、まくしたてられ下顎を遊ばせるしかない翔太郎は、自失した夏海がお婆ちゃんの方へ足を向ける事が気になったが、転がっている2眼トイと、白いボディが煤汚れたディケイダーを視界に入れる。倒れているが、車体に破損は見られない。

「あの子頼む」

 とアラタに夏海を任せ、翔太郎は取りあえずディケイダーを起き上がらせる事にした。
 この荒れすさんだ大地の風は、翔太郎にとってあまり居心地の良いものではなかった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その2





「あの子は、しばらくダメだな、」

 翔太郎はトレードマークのソフトフェルトを一旦脱いでロン毛についた埃を適当に祓い、帽子の中から埃を一息祓って被り直した。

 男の目元の冷たさと、優しさを隠すのが、こいつの役目だ、

 だから翔太郎は念を入れて目元をソフトフェルトで隠す。そう言われたからだ。それは相棒のフィリップからではなく、当然親からでもない。翔太郎がこの世でもっとも帽子の似合うと焦がれる男からだ。

「フィリップ、オレがこの世界からそっちへ戻るには、確かにあの子が必要なんだな?」

 翔太郎の言う通り、あのディケイドが次元の彼方へ消えてから、取り残された3人、鳴滝によって次元から召喚された翔太郎、この世界のライダーであり今や片足が永久に失われたソウジ、そして異世界でひとりぼっちの境遇に落とされ機械的に破壊されたカードの破片を拾い続ける光夏海、の3人は倒壊した電波塔の瓦礫が散乱する荒野に立っていた。残された彼らに、生還への帰路という謎が拡がり、あるいは道なしという答えを探り当てるかもしれない。
 翔太郎は『スタッグフォン』で自分の世界の相棒と連絡できる事だけが唯一の頼みである。

『おそらく全てを知っているはずの光栄次郎が、今の今まで手元に置いて旅をしてきたんだ。今彼女を確保しておく事は、君がこちらの世界に帰還する唯一の糸口だ。というより彼女ぐらいしか手がかりが見あたらない。翔太郎、一度直接話したい。出してもらえるか。』

 砂塵が突風となって、翔太郎の中折れ帽を揺り動かす、慌てて直す翔太郎の耳と鼻に感覚で分かる程の砂粒が入り込んでくる。先の戦いの熱量が拡散するまでこの強風は止まらないだろう。

「相棒、」翔太郎は頬の泥をつけて放心する夏海を眺めていた。「オレも、違った意味であの子が切り札だと思うぜ。オレは見たんだ。あの門谷士の背中を。あいつの背中は泣いていた・・・・、ああいうやつが、あの子をこのままこの世界にひとりぼっちにするはずがない。」

 大気が強風によって洗われて吸い込まれそうな澄んだ青空が広がる。照りつける太陽がはっきり分かる濃い影を3人に差す。
 翔太郎はスタッグフォンを耳から離して画面を眺め、項垂れる少女、夏海の元へ足を向けた。

「光夏海、オレの相棒がアンタと直に話したいそうだ。どうする、そのままいつまでもボーッとしててもいいぜ、オレにはそんくらいの時間をあけてやるくらいしか、アンタの慰めになってやれねえからな。」

 顔に煤をつけて放心する夏海は、それでも表情が変わらず、目だけ一瞬翔太郎に向いた。

「すいません」

 翔太郎は力無く片手をあげて受け取る夏海に、重症だ、とだけ感じた。

 半熟のおまえに帽子はまだ早い、

 実感した翔太郎は少女を相棒に任せる事にして、もう1人、片足を失って動けない偉そうな男の元へ歩を進めた。
 夏海はまた言った。

「すいません」

『君が光夏海君だね。まずボクの質問に答えてくれたまえ、君は、門谷士に会う勇気がまだ残っているかい?翔太郎がこちらの世界に帰る方法を捜し出せば、君はあの門谷士と対峙する力を得るだろう。』

「・・・・・・」

 もし閉ざされた暗闇に、一条光を差されたら、追い込まれた人間のする行動は決まっている。
 光夏海の瞳孔に、意識が灯った。


6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その1





『笑いのツボってこういう意味じゃ、ねえだろ。夏みかん。』

 あの顔は嘘だったの?士クン、

『オレは世界を撮りたいだけだ。』

 アタシを騙してたの?

『大丈夫だ、オレが決めて始めた事だ。おまえが悲しむ事じゃない・・・・』

 アタシは、士クンに、騙されていた・・・・