2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その38







「士クン、今度は」赤く腫れた目を拭って、震える唇を強く噛んで我慢した。「今度は私タチで旅の行く先を決めて、ユウスケを取り返して、」


 取り返した後、2人で小さな家を建ててそこでずっと暮らそう、

 私のそんな想いは、たぶん旅に疲れていたからだと思う。


「・・・・・・・」


 士クン、ディケイドはずっと私の顔を見ていた。早く素顔を見せて欲しかった。

 ディケイド、

 私はあの夢の中ではじめて見たディケイドの顔と、そう言った私を思い出していた。


「友情とは、友の心が青くさいと書く。」


 もう1人の仮面ライダー、ソウジさんが片足を引きずってディケイドの肩に手を置いた。結局一生このままで生きていく事になるんだ。ソウジさんはそれでも強がって精一杯の手向けをくれたんだと思う。

 ディケイドがゆっくりと振り返った。


「そう言えば、おまえにはあの時借りがあったな。」


 信じられない事が起こった。

 士クン、いやディケイドがもう1人のライダーに向かって大きく足をすり上げ蹴り込んだ。ソウジさんは大きく仰け反って倒れ込んで、その衝撃で異物になった右足がボロボロに砕け散った。


「ディケイド・・・・」


 あの夢も風が耳元でうっとおしくて、煙の匂いが煩わしかった。


「じいや、戻るぞ。アジトへ。」


 私の方へ向かってディケイドが叫んだと思った、でも声をかけたのは私の掴んだ手で袖が湿っていたお爺ちゃん、光栄次郎の方だった。


「ごめんよ、夏海、本当の孫でもかまわないと思ってたんだ。」


 光栄次郎が袖を強く振りほどいて、ディケイドの元へ歩み寄っていく。


「ハッ!大首領!」


 お爺ちゃんの別人の声が私の耳を犯した。

 孫じゃなかった、じゃあいままで私はなんでお爺ちゃんと思っていたんだろう、お爺ちゃんがお爺ちゃんじゃなかったら、私の本当の家族はどこなんだろう、思い出せない。


「士クンっいや!」


 私は誰に縋るともになく士クンの名前を叫んで手を伸ばしていた。

 ディケイドと光栄次郎の目の前にオーロラのカーテンが現れて呑み込んでいく。


「夏海、全て忘れろ、もう会う事は無い。」


 手が届こうとしたその時、カーテンがディケイドを消した。私はずっと、ずっとずっと手を伸ばし続けていた。

 風が耳元でイヤな音を立てて、膝を着いた地面はごつごつ痛くて、まだどこかで臭い煙が漂ってて、見渡す限り緑も人の家も無い荒野だった。

 私はいままで何をしていたんだろう、私の家族や私の友達、士クンに会う前何をしていたんだろう、思い出せない、思い出せない。


「ディケイドっっ!」


 私どうして、いままで自分の記憶が無い事を不思議に思わなかったんだろう。


(完)

5 カブトの世界 -クロックアップ- その37







 晴れる砂塵の中心は大きく抉れたクレーター中央。

 右腕を軽く上げるだけで構えるその者は、マゼンダのボディが硬質なシルバーを基調としたカラーへ上塗りされ、複眼は逆にマゼンダに発光。もっとも目を引くのが斜めに走ったゼブララインに代わり配された9枚のカード、左肩から胸を横断して右肩に達するマゼンダレールに乗って9枚の、それまで巡った世界のライダーの顔の描かれたライドカードが並ぶ。だがカードはもう1枚ある。それは額、今のディケイドの姿のカードが装着されている。そのカードに描かれたディケイドの額にもカードが着けられ、そのカードのディケイドにもカードが、無限のディケイドがそのカードには描かれている。バックルのドライバーはベルトを伝って右腰にカード差し込み口を空けた状態で移動、ディエンドから貰った元の位置にケータッチが差し代わっている。これこそ『ディケイドコンプリートフォーム』。歩く完全ライダー図鑑だ。


「ツ・・・・カ・・・・サぁ!」


 蹴撃したクウガ、その攻撃力はディケイドを伝って地面を抉り、大気を揺るがしたが、ディケイドコンプリートの右腕一本で弾かれ、顔面から突っ込んで土を咬む。

 起き上がったアルティメットクウガの硬質な口元がその時初めて開いた。


「オレは、おそらく今のおまえには勝てない、ユウスケ。」


 吠えたクウガの背後に既に立つディケイド。

 賺さず振り返り右前腕を再生させ直刃状に延ばし振り抜く。

 手応えの無い残像が立ち消え、ディケイドの姿が完全にクウガの視界から消える。


「だが今おまえの前に立っている者には、ユウスケ、おまえは勝てない。なぜなら、」


 遙か遠くから士とユウスケの名を叫ぶ女の金切り声がする。

 クウガの聴覚がそれとは別に、風が揺らぐ低音を捉え振り返る、しかし既にディケイドの姿はない、反対方向から再び低い唸りを捉える、やはり振り返っても姿を捉える事ができない。


「なぜなら、これはオレ達の旅そのものだからだ。オレ達の積み重ねに、オレ達が勝てるわけがないんだ。」


 クウガ、もはや目で捉える事を諦め、俯いたまま動かなくなる。そうして徐に左拳を握りしめながら上げ伸ばし、ある一点を指し示す。

 発射、

 左前腕が胴から切り離れ、噴流を上げながら射出される。

 突き当たる腕の前面に現れるディケイドの姿、踏ん張るディケイドの足が地面を引きずる。

 動きを止めたクウガがゴウラムに変身しながら今度はその身ごと突っ込んでいく、

 その容積の数百倍ある噴流を上げる腕を片腕の握力だけで潰して勢いを止めるディケイド、

 既にゴウラムが鋏角を拡げ眼前に迫る、

 捕えられるディケイド、捕らえられながら直上を一直線、

 ゴウラムの大気を切り裂く音がディケイドの耳に劈く、だがある瞬間その音の一切が消える、ディケイドはもはや雲が下にしか見えない事に気づき、地球のゆるやかな弧と大気に色がある事をはっきりと見て取った。

 鋏角がゆるんでディケイドが落下していく、

 跳躍頂点でゴウラムはクウガへ、

 落下していくディケイドに蹴撃で加速、

 互いの姿が摩擦で灼熱、

 激突する大地、

 クウガが離れても受けたディケイドの勢いは止まらず地面を一直線に抉る、

 50メートルを越える土の山が半月状に盛り上がる。

 震動が崩壊した電波塔の残った家屋を総崩れさせる。


「ツカサっっっっっっっ!」


 瞬く間に腕が体内から物質変換されるアルティメットクウガ、今度は両腕を射出、

 爆炎あげて土盛りへ突撃する2つの前腕、 着弾と同時に消し飛ぶ土盛り、中より現れたディケイドの胸に2つとも食い込んでいくクウガ前腕、


「ユウスケ、いくぞ。」


 さらに噴流をあげる前腕にしかしディケイド、まるで意に介さず歩を進め、クウガへの間合いを詰めていく。

 クウガは徐々に腕を再生させ身構えている、

 歩み寄りながらディケイド、クウガ前腕を握り潰して噴流を止め祓う、

 ディケイドの胸に二つのクウガの紋章、ディケイドはそれを気合い一つで消し去った、

 3メートル、2メートル、1メートルまで間合いを切ってディケイドが足場を固めた。


「ツカサぁ!!」


 クウガの拳が鎌のように振り上がる、


「ユウスケっっ!」


 既に上体が沈んだディケイドの拳がアマダムへ。

 そのたった一発だけだった。


 ツ……カ……サ…………ッ!


 クウガのアマダムがバックル内部で縦に割れる、地に崩れるクウガ、悶え苦しみ、体を土に塗れさせる。


「終わりだ、ユウスケ。」


 悟ったディケイドはケータッチからカードを抜く。ボディがあのマゼンダピンクに修復された形で戻る。その顔も仮面に覆われた。


 ツ……カ……サ…………


 震えた手をディケイドに伸ばすクウガ。


「立てるか?」


 それは攻撃かもしれないがしかし、構わずディケイドもまた手を差し出した。

 上体を持ち上げるクウガ、その背に突如としてカードが刺さる、


「返せ海東!」


 瞬時にしてそれが、ディエンドの投擲した『ケルベロス』のカードである事を見て取るディケイドは、しかし同時に銃撃を喰らった。

 宙に浮くケータッチ、ディケイドの手を離れ、なにか透明な存在が持ち運ぶように宙を流れて、ディエンドの手元に収まる。もう一方の手には『ケルベロス』ともう1枚のカードが既に握られている。


「いやだなぁ士、コレをディエンドが管理する仕様にしたのは、そもそも君じゃないか。」


「私タチのユウスケを返して!」


 目を腫らした夏海が栄次郎の手を引く形で駆けてくる。


「おやおや、むしろ感謝して欲しいな君達。アルティメットクウガはあのままだとアマダムの暴走でどうなっていたかわからない。このエネルギー、ボクのお宝にさせてもらう。」


 ケータッチを自身のバックルに収めたディエンドは、ディケイドを威嚇しつつもカードをドライバーに装填、


『ATTACK RIDE INVISIBLE』


 銃撃が止んで一気に間合いを詰めるディケイドの拳がディエンドの残像を掠めた。


「海東・・・・」


 ディケイドは自分の握り拳を見つめるしかなかった。

 電波塔は既に跡形無く、大地はさらに巨大な瓦礫で散乱している。風は絶えず砂塵を巻き上げ皮膚に細かく掠り、空は黄色みがかった白。どこを見ても緑の見えない世界が、ディケイド達が今戦った跡だった。


「士クン・・・・・・」


 息を切らし、その柔らかい頬に土がついた夏海は、ディケイドに伸ばした手の先に、あの2眼のトイカメラを掴んでいる。

 ディケイドはしばらく夏海の顔を見つめていた。表情は分からない。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その36







「スゲー、クレーターになっちまってる、、、、」


 衝撃波に身構え、必死になってトレードマークの中折れ帽を抑え、ついでに片足の不自由なライダーを1人支えていた男がいた。


「悪い事は言わん、早く逃げた方がいい。」


 カブトは片足で衝撃に耐え切った。むしろ隣のカジュアルスーツの男を片腕で押さえ込んでいた程だ。


「悪い事は言わね、アンタが逃げた方がいいぜ。あの2人を止めねえといけないからな。」


 翔太郎は、既にカブトから自身のドライバーを掏り取ってヒラヒラと見せびらかした。


「お婆ちゃんが言っていた。身の程知らずの取り越し苦労程厄介なモノは無い。止めておけ、2人に任せればいい。」


「おめえみてえなキャラクターはな、風都じゃ吐いて捨てる程イんだからな、慣れてんだこっちは。」


 といいつつ翔太郎はカブトから手を放してベルトを巻き、今時嵩張りそうな青い携帯の方へ既に集中していた。


『興味深い。だが翔太郎、今回のケースは……』


 メモリをペン回ししていた手を止める翔太郎。


「おめえもかよ!・・・・亜樹子がどう・・・・、オレは依頼っ、・・・・分かったぜ相棒、おめえがそんなに押すなら、今は様子見だ、いいか、もしなんかアブねえようならオレは生身でも行くからないいな。」


 翔太郎はカブトへ振り返り、アワアワと口を空けて指差す。


「風都じゃ、相棒やおめえのようなやつはゴマンといるんだ、オレはもう慣れっこさ。」


5 カブトの世界 -クロックアップ- その35







「オレが旅に引きずり回した・・・・・・、オレが作ったというのか最強の敵を・・・」


 ディケイドの喉から顔面、並び両掌から物質変換が蝕んでいく。


「ツ、カ、サ…………」


 目元に精気が無い。ディケイドにはその猛々しい呼吸が耳障りだ。

 アマダムから朧気のように光が放たれ、アルティメットクウガの体中に入った裂け目のようなラインもまた光り出す、そして腕先のピックもまたマゼンダに輝いた。

 マゼンダ?

 それはアマダムとは全く違った光だった。

 爆破、


「ツカ」


 吹き飛ぶアルティメットクウガ、打ちのめされるディケイド、クウガの右前腕がマゼンダのエネルギーで暴発し、砕け散る。砕け散った欠片と共に数十あったライドカードもちぎれ飛ぶ。クウガはマゼンダのエネルギーが未だ蓄積されて身悶えし、ディケイドは顔面の直撃以上の衝撃で放心した。


「オレたちの、旅が・・・・・・」


 いままで積み重ねてきたなにもかもを、積み重ねてきた2人で破り捨ててしまった、旅をした業?次元を越えて世界を変えてきたそれがツケだというのか?

 だがその士の間隙もほんの一瞬に過ぎない。

 たった1枚満足な状態のカードを手に取るディケイド。“COMPLETE”のロゴが入り、今やディケイドを含む10のシンボルが輝く使途不明だったあのカード。


「海東、そこにいる事は分かっている。」


 私の記憶を返して!いったいどうして!どうして!

 取り出せ、こいつの頭から。

 おのれディケイド、またオレを殺す気かぁぁ!

 次の世界の奴を用意しろ。

 朦朧とするディケイドはしかししゃがみ込みながら叫んだ、


 オォォォォォォォ


 ディケイドの視線はクウガがマゼンダのエネルギーを振り払って高く舞い上がる軌跡を追っている。


「やあ、士。後でちゃんと報酬は貰うよ。」


 無空より出現する場違いな程屈託の無い声、シアンカラーに身を染めたディエンドがインビジブルを解いて、夏海に程近い、ディケイドの背後より卑屈に笑いながら、自身のバックルを外す。バックルはほぼ長方形、その表面積の大部分を占めるディスプレイはタッチパネル、ボディはそこから両サイドに伸びシアンと黒のストライプ。これこそこの世で唯一のアイテム『ケータッチ』。


「よこせ!」


 士の短く威圧的な口調に、苦笑で誤魔化して投擲するディエンド。

 既にクウガは跳躍頂点から、蹴撃の態勢、下角65度で降下している。

 片手で掴んだディケイド、COMPLETEカードをケータッチの中に差し込むと、画面にカードの模様が浮かぶ、ボディのシアンもマゼンダに変わる。浮かんだ9つのライダーのシンボルを順になぞるディケイド。


『KUUGA AGITO RYUKI FAIZ BLADE HIBIKI KABUTO DENO KIBA』


 地響きがする、大気も揺れる、はるか上空クウガの躍動がこの段階で既に伝わってくる、砂塵が舞い立ち渦となる、ディケイドを周囲から隠す、


『FINAL KAMEN RIDE DECADE』


 直撃、

 砂塵の渦の中に突撃するクウガ、

 混濁した大気が爆音と共に周辺の人々に吹き付ける、


「ツサカクン!」


 視界の取れないままその長い黒髪が靡き、衝撃波紋が地面を伝って陥没していくのに驚いて栄次郎に必死に縋り付く夏海だった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その34







 どうして私にこんなものを見せるの?

 2人が戦ったら、もうあの夢の通り、世界が破壊されてしまう、どうして、こんな事をするの、2人共どうして戦いをやめないの?バカじゃないの?

 私はいつのまにか耳を塞いで、目をを閉じた。


「大丈夫、まだ世界は破壊されないよ。」


 お爺ちゃんにしがみついた時、息が上がって自分が震えているのが分かった。喉の奥が今でもビー玉が入っているように詰まってる。お爺ちゃんは泣きすがる私の髪を両掌でいつまでも撫でてくれた。


「あれは、カードが守っている。士君を。」


5 カブトの世界 -クロックアップ- その33







 恐れるだけの歴史をゼロに巻き戻す

 英雄はただ独りでいい

 今、あの崖を飛び越えて

 クウガ 声無き声が

 クウガ 君を呼んでる

 クウガ 強さの証明

 No Fear No Pain

 壊す者と護る者

 No Fear No Pain

 答えは全てそこにある

 頂上疾走、オレが変えてやる

 超変身 仮面ライダークウガ






 黒い影がユラユラと力無く立つ。複眼にもアマダムにも精気が無い。

 アルティメットクウガ。

 その名を対峙するカブトはまだ知らない。


「お婆ちゃんが言っていた。人が歩むのは人の道、その道を拓くのは天の道。」


「待て、触れるな!」


 ディケイドの制止も聞かず、既にモーションに入り消えるカブト。

 刹那、ディケイドの後方から爆音が轟く。アルティメットが刺さったコンクリートの柱に激突した。


「感覚が、ない!?」


 振り替えると当然カブトがいる。


「いわんこっちゃない。らしくない。」


 カブトは倒れ片足を押さえ呻いている。踵から腿の半ばまでが光沢を帯びた金属質に変換してしまっている。

 手を差し出すディケイドの手を振り払い、もはや肉体ではない右足を支え棒のように不器用に立ち上がるカブト。


「知っているのか?」


 一生残る深傷を負ったカブトは息切れが収まらない。


「奴はオレが決着をつける。そこにいろ。」


 言って振り返った途端だった、

 パイロキネシス、

 顔面で悶絶するディケイドが膝を屈した。

 そのディケイドの視界には、既に音も無く懐近く立つクウガのアマダムが見える。

 クウガは首を掴もうとして横に空振り、


「ユウスケ!」


 ディケイド、反射的にアマダムを打つ、


「!」


 表情なくただ後退りするクウガ、この時アルティメットクウガの全てが停滞する、


「オレが、」


 ディケイドのワンツー、


「戦ってやると、」


 間合いが空いたのを見計らって、


「言っている!」


 一足入れて蹴り、

 クウガはさらに後退、その足が水音を立てる、


「変わった」


 ディケイドもまたその変化した風景、静寂な湖面に立ち、互いの波紋が交差する。葉緑素の臭みがし、羽虫が微睡んだ大気に溶け込んで挙動が無い。そう羽虫すら気づかなかった。


「いない」


 ディケイドが目を離したのは瞬きする間も無い。そのコンマ何秒にクウガを見失い、音も無く水面の軌跡が回り込んでディケイド後背へ伸びるのみ。

 振り返った刹那、


「くそ」


 顔面を躱したつもりでも勢いだけで足が宙へ浮いている。飛ばされて湖面に大響音を立てる。羽虫や鳥が一斉に羽ばたき静寂がかき消される。クウガのヒッティングから戻すまでがあまりに疾く自然体のままの不動にしか見えない。


 ゲホ、


 水面に身を落とす、よく見ればマスクの半分が銀の光沢に溢れた別の物質と化している。銀の部分がボロボロと崩れ、士の素顔が露出、同時にマスク内に浸水して慌てて起き上がるディケイド。


「足が!?」


 ディケイドの踏む水音がかき消される、音を立てる水がクリスタル状の物体に硬質化、クウガは仁王立ちのまま、足から湖面全ての水を物質変換させた。さらにクウガ、ディケイド周りのクリスタルだけ残して全てを右前腕に吸収、4メートルはあろうかという透明なランスを振りかぶる、ディケイドは動けない、


「ユウスケ!!」


 叩きつけられるディケイド、

 クウガはランスを360度遠心力の限り叩きつけ、ディケイドの胸装甲を砕き、士の大胸筋が血まみれに露出する。ランスもまた砕け散った。


「………ツカサ…………」


 額からも血が一筋流れる士の耳には、クウガの呼吸がそう聞こえてならない。だが明らかに幻聴ではない奇声がディケイドに降りかかってくる。


「ディィィィィィケイィィィィィドゥゥゥゥ、いくつもの世界と私を破壊してきた罪、償って貰うぞ!」


 いつのまにか元の電波塔倒壊跡に倒れるディケイド、クウガはその瓦礫の上を踏みしめゆっくりと間合いを詰めてくる、クウガの先のカブトはどういうわけか先に倒したWの中折れ帽が肩を貸し、背後には夏海が栄次郎の胸に縋って震えている、そして鳴滝=DDは崩れかかった電波塔施設の上に立ち狂喜に悶えている。


「ユウスケ・・・、夏海を泣かせて平気なのか、あいつが目を背ける事なんて、無いぞ、」


 ごくごく擦れた小さな呻きを上げる士、

 クウガの4本の角が、光沢に煌めく。


「まず貴様のトリックスターを破壊する、そして貴様の存在を消し、貴様の臭みがついた世界を清掃してやる、その為のアルティメットクウガ、重心バスターを。ディケイド、貴様はもう手も足も出ないはず、光線は全てアマダムが吸引し、触れれば物質変換だ、その為に私はライダー3体使って物理的な技のキレで対しやっとゲットしたのだぁ、貴様では、キサマではできまぁぁぁぁ」


 絶叫するDD、

 クウガはいつのまにか制止している、

 ディケイドは晒された片目でクウガだけを凝視して立ち上がる。


「オレの命、ここで終わる、かもしれない、だが鳴滝、おまえじゃない。」


 バックルを両腕を使って開く、バックルが90度回転して、カードリーダーが表れる、ブッカーを装着した状態から見ないでカードを1枚、装填、腕を交差させるようにバックルを元に戻す、


『FINAL FOAM RIDE kukukuKUUGA』


 変形するのは精気のないクウガ、頭が後方にトイギミックに倒れ、背中に甲羅が発生、四肢が整頓して鋏角と4つの足、甲羅が割れて翼と化し飛翔、


「はぁ!」


『FINAL ATTACK RIDE kukukuKUUGAaa!!』


 宙を周回するクウガゴウラムに飛び乗るディケイド、ブッカーをソードモードに構え起つ。


「バカァなぁぁ」


 一直線に突撃するディケイドアサルト、

 三つの鋭角の刃がダークディケイドを刺突、掬い上げ、はるか直上へ突き飛ばす、宙返りし、ディケイドが落とされる形で着地、宙でゴウラムが変形してクウガに戻り並び立つ。


「そんなぁぁぁぁぁぁぁ」


 落下してくるのはドライバー、ディケイドのそれではなくDD、落下の衝撃で砕け、小さな澄んだ透明な珠が転がる、鳴滝もまた帽子とメガネだけの全裸で紙ペラのようにクルクルと落下し俯せで腹打ちバウンドして埋まる。


「そんな・・・バカな・・・・、また私を殺すのか・・・・・ディケイド・・・・!」


 倒れる鳴滝は、転がるトリックスターに手を必死に手を伸ばした。喉の限り叫び、目が血走り、毛細血管の隅々まで行き渡らせて赤面させて手を伸ばした。だが、触れようかしまいかという刹那、その眼前で破裂するトリックスター。

 一気に血の気が失せると同時に、その露出する毛穴という毛穴から泡が吹きだした鳴滝は、帽子とメガネだけを残して大気に溶けていった。


「奴は、何がしたかったんだ・・・・」


 ディケイドは、一瞬期待した。つい先の体験も引きずっていた。だが生半可な自信を、現実は笑う。

 クウガに振り返るディケイド、


「士、そのうっとおしい彼は、心を完全に閉ざしたよ。」


 クウガの視線を落とした複眼に未だ精気はない、アマダムも光の反射すらなかった。既に腕が動いて首を掴みにきている。


「ヤバぃ」


 咄嗟にブッカーで構える、

 反射でクウガがその刃を握る、

 握った先から物質変換、

 手を放してしまうディケイド、


「知らないよ士。」


 みるみる内に腕と一体化した二つ叉のピックに変化するクウガの右腕、腕はそのままピックが伸び、ディケイドの首を挟む。


「んっ」


 喉を押さえつけられ、抗って両腕でピックを掴む。武器も全てのカードも失ったディケイドの指先が、徐々に物質変換に蝕まれていく。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その32







 カブトが運んできた人達の様子を見ていたお爺ちゃん、あの姿を見て急に私の元にやってきて、なにかわめいて私の手を引っ張っている。

 あの時、ユウスケと士クンがはじめて出会った時、私はイヤな予感のまま叫んでいたっけ。

 今、イヤな予感がそのままの姿で私の前に現れた。

 どうしてだろう、声が出ない、

 こんなに震えているのに、こんなに涙が出ているのに、喉の奥が詰まって声にならない、

 もうどうしようもない、

 私は、絶望しているの?


「ぉうわ」


 私の膝に中折れ帽が当たった。眼前にカジュアルなスーツを着た士クンと同い年くらいの子が転がってきた。ライダーだった人。 私、咄嗟に帽子を拾っていた、そして起き上がるその人に渡していた。


「ねえ、アナタ!ライダーなんですよね!あの2人、士クンを、士クンとユウスケを戦わせないでっ!あの2人が戦ったら、戦ったらっ」


「落ち着けそこのかわいい子、あの下品なピンクが門谷士、ユウスケはあのオレの顔入れた奴か?」


 私は黙って、あの黒いクウガを指した。


「2人が戦ったら、世界が破壊される!」


 私の動悸も脈の乱れも止められなかった。たぶん大声で叫んだんだと思う。士クンが、一度だけ私を見た。

 その人は私の唇に一本指をあてがった。


「落ち着けってかわいい子、とにかくここは逃げろ、そこの爺も。確認だが、そりゃ依頼だよな?」


 このガキ何言ってんだろ。


「依頼?」


 このガキ逐一かっこつけて怒らせたいんかい、


「オレゃこう見えても、探偵、なんだ。依頼なら受ける、ぜ。」


 なんでもよかった、肯いた。


「世界の破壊者を倒す事が世界の破壊・・・メンドくせぇ、フィリップに聞くしかねえ。スタッグフォン通じんのかよココ。」


 ガキはブツブツ言いながら中折れ帽を被り直した。そのキザったらしいポーズが癇に障る。大きすぎる衣着てるガキ。でも私、依頼?してしまった。


「夏海、危ないよ。」


 そういえばずっと隣にお爺ちゃん、いたんだ。私、ひさしぶりにお爺ちゃんの顔を真正面から見た気がする。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その31







「鳴滝、とか言ったな。本当におやっさんを連れてきてくれるんだろうな。」


 まだその時点での『仮面ライダーW』は、右半身を風を象徴する緑に、左半身を切り札を隠す黒で彩っていた。Wの特徴である片目のどちらかが明滅しながら喋る様は、そのシンプルな面持ちと相まって不気味である。今は左の複眼が明滅している。


 ワァハハハハハハハハハハ


 DDは相変わらずふざけたハイテンションで笑い続けている。


『翔太郎、念を押しておくけど、ボクはこの男に頼るのは気が進まない。』


 Wの右目が明滅し、先とはやや違う声色が流れる。2つの声、2つの意志、2の色でひとつの実体を持つ、それがWの意味だ。


「亜樹子を、おやっさんの娘を、泣かせたくねえんだ!」


 黒い方の左腕を軽くスナップさせ、100メートル5コンマ2秒でマフラーを靡かせ疾走をする。


「煩いっ、爺ぃの方へ行ってろ、」


 と言って夏海の背を推す門谷士は、眼前のWを見据え、ベルトを巻く。


『KAMEN RIDE DECADE』


「どんどんイクぜ!」


 打ち込んでくるW、軽く捌いて逆撃を加えるディケイド、だが既にWは合わせている、クロスカウンター、両者とも後退り、


「仮面ライダーW、『ガイアメモリ』の組み合わせで、9つというもっとも多様なフォームで柔軟に全てに適応できる、だがそのもっとも特徴的なのは、」


 ディケイド、ブッカーをソードモードへ、ステップして蹴り込んでくるWに待ちから伐つ、軸脚の腿に入る、


「ぐぉ」


 ディケイドの頭を越す形で宙を横回転、転倒するW、追い打ちをかけるディケイドを、倒れながら脚捌きだけで威嚇して反動で立ち上がる。その動きはストリートパフォーマーのよう。


『翔太郎、対手の攻撃を防いで手詰まりにしてくれるだけでいい。』


 右目が明滅する。同時にWの左腕がベルトからメモリを一つだけ取り出す。


『メタル』


 奇妙なシャウトは『ガイアメモリ』から。


「おっしゃ」


 左目が明滅して、銀に輝くメモリを差す。


『サイクロン メタルぅ!』


 左側に差すメモリのシャウトの方がやや感情的だ。

 華麗なビートがベルトから流れ、Wの左半身が闘士の意志を示す鋼色へ刷り変わる。


「あれも姿が変わったという事なのか、W。」


 Wの背から出現する一振りのロッド、全長を上回る長さに至る鋼鉄の『メタルシャフト』を軸回転させるW、ディケイドがブッカーで受け止めるもその高速のスピンに弾かれ、シャフトの反対側に即座に脇を伐たれる。


「速い、」


 呻いて蹌踉けるディケイドを尻目に、


『ヒート』


 続け様右手でメモリを入れ替えるW。


『ヒート メタルぅ!』


 軽快なビートを響かせて今度は熱き意志を示す赤に右半身を染めるW、シャフトはそのままやや両腕を開いて握り込む。


 伐つ、


 ガードを弾かれ伐たれるディケイドは一瞬脳震盪を起こす。


「なんてパワーだ、」


 それでも踏ん張るが、一振り一振り強力なシャフトの同方向からの攻撃に、ブッカーでなく、左の肩でガードするディケイドはしかし、ジリジリと後退る。


「このままブレイクだ。」左目が光る。


『まだ彼には余力がある。焦るな翔太郎。』右目も光った。


 連射するブッカー、


「2人で1人のライダー、知っているぞ。」


 至近でガンモードを食らってたじろぐW、持ち直したディケイドはさらに、


『ATTACK RIDE BLAST』


 さらに連射してWを引き離す。


「くそ、」


『だから、手を抜くな翔太郎!』


 片膝を地に着けるW。ディケイドの攻勢はカードの連動によって続く。


『ATTACK RIDE ILLUSION』


「分裂しやがったっ」


 Wは唖然とする。はじめて見るディケイドの分身、視界270度に広がるディケイドイリュージョンを。


『慌てるな翔太郎、検索は既に完了している。』


 右目が明滅すると同時に、バックルからベルトを二つとも差し替えるW。


『サイクロン トリガーぁ!』


 右が風を象徴する緑、そして左は銃撃手の静かなコンセントレーションを表す青に塗り代わる。同時に青のボディ胸元にSMGクラスの銃が出現。その名も『トリガーマグナム』。


「風が、」


 突如十数に分裂したディケイドに横殴りの強風、いやWを中心に緑の渦が巻いている。堪えるすべてのディケイド、つまり動きが停滞した。


「ぶっ放すぜぇ。」


 右腕一本抱えたマグナムで扇状に弾幕、極限まで速力を強化した弾丸が一瞬で数百発射され、十数のディケイドが1体を除いて全て消え跳ぶ。


「が」


 残ったディケイド、本体が宙を舞って転がった。だがその勢いを殺さず屈みながらの姿勢になったと同時にカードを差す。


『ATTACK RIDE INVISIBLE』


「消えた、どうする相棒、ガジェットは持ってきてねえぞ。」


 ディケイドの姿がWの視界から消える。一瞬狼狽えるW、


『落ち着け翔太郎、彼は手詰まりになると数あるカードの内、自分のオリジナルの技を選択し一旦場を制する。想定済みだ。』


 左のメモリを抜き、マグナムセンターにあるスロットに差す。


『トリガーぁ!マキシマムドライブっ!』


 メモリから発せられる渋い音声と共に再び風がWを中心として渦を巻く、マグナムを片手で上向け、その渦をゆっくりと臨むW、


『FINAL』


『気流の流れが乱れている一帯がある、それが彼だ。』


『ATTACK』


「いねえ、いねえぞ相棒、」


『RIDE』


 ディケイド必殺の光の壁がWまでの道を展開、それは、


『想定内だ翔太郎、上だぁ!』


 W直上、さらに上に向かって整列する光の壁が視界に入る、


『dededeDECADEee!』


 はるか高々度から直下してくるディケイド、


「『トリガー、エアロバスターっっ!』」


 対空迎撃、ディケイドに向かって直上へ小型の竜巻が数条射出、


「ぐぁ」


 地上スレスレで巻き起こる爆破、吹き飛ばされるW、跳ねるディケイド、


『ルゥナ、メタルゥ!』


 転がりながらもWの右が幻想の月をイメージする金色、左が闘士の鋼色へ塗り代わり、同時に先のメタルシャフトも出現、転がる電波塔の残骸に突き刺し、爆圧を堪えた。


「これがW・・・」


 一方瓦礫の起伏に背を強く打って窒息気味のディケイド、


「縛につきな破壊者。」


 Wがシャフトを遠心力を込めて振る、すると不可思議な事にシャフトが軟質化し、それどころか容積が伸び、まるでムチかヘビのようにディケイドへ巻き付いた。拘束され身動きがとれないディケイド。


『翔太郎、彼にトドメを刺した方がいい。捕らえて鳴滝に引き渡す君の考えは甘い。』


 風すら無かった。


「戦士には向かないタイプだな。」


 Wに密着して紅いライダーが立っている。


「な」


 何者、と翔太郎が言う暇すら与えられなかった。意識する事すら許されず、顔面の痛みと共に翔太郎は宙を舞っていた。翔太郎の視界には、自分の気に入りのソフトフェルトハットが揺れながら地面に落ちている光景が映った。


「だらしがないぞ。」


 カブトが同時性を破綻させ急接、腰からWのドライバーを奪い、軽く装着者を吹き飛ばした。装着者の中折れ帽の青年は哀れ丁寧に扱いたジャケットを泥塗れにする。

 一方のディケイド、頭を上げて何かを認め、凝固した。


「おい、それどころじゃないぞ。」


 カブトに向かって語りかけるものの、視線は前方の一点を捉えて凝固していた。


「ディケイドゥゥゥ!最初からザコ2人に頼ってなどいないわ!やれ!アルティメッッットクゥゥゥガァァ!ブルぁぁぁぁぁ!」


 ディケイドとカブトの眼前に、黒い影が立っていた。深く深く塗り込められた漆黒と4本の角、肩アーマーと共に上に向かって角が伸び、それはさながら暗闇の中で明かりを灯した時できる影のよう。影は無機質に右腕を上げる、


 発火、


 2人のライダーの直近を数十という火球が突如わき上がる、もんどり打って転倒するライダー、


「ユウスケ・・・・」


 首を振るディケイドの耳に少女の黄色い声も聞こえてくる。その眼はカブトが立ち上がり、今にも黒い影に挑みかかろうとする姿を捉えている。

 ディケイドは、黒い影を、変わり果てた男の姿を正視する事ができなかった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その30







 カブトの両脇に抱えられた二人の男女で最後であった。全てが遅滞するカブトだけの世界。塔の上でディケイドと対戦していた二人を、バイクから降りようと犬のように片足を上げている栄次郎の横へ、他の人間と纏めて放り投げた。


『CLOCK OVER』


 正常に流れ出す世界。轟音と共に倒壊する電波塔、人間サイズのパイプが断続して降り注ぎ、パイプの落下が土砂と瓦礫、アスファルトを宙に舞わせて、その1つが門谷士の額に傷を入れた。


「他人から面倒をかけられるのは御免だ。分かっているのか!」


 カブトに気づいた士は、光夏海の頭を抱きかかえながら起き上がる。


「煩いっ」


 威勢の良さはカブトを安心させるに十分だっだ。対面を振り返るカブト。


「ごめんよ、君を倒せば、比奈ちゃんのお兄さんを助けられるんだ。君もまんざら悪くない訳じゃないみたいだし、遠慮なくイクよ。」


 そこに立つ一振りの片刃刀剣を握るライダーがいる。漆黒のボディに頭は赤のラインが入り、肩から肺を覆う形で腕の先まで黄色いライン、脇から足先まで緑のラインが入るライダー、ベルトに3つのメダルを装着する『仮面ライダーオーズ』が『メダジャリバー』片手にカブトの眼前に立つ。


「そんな言い訳程度の偽善を纏わなければ、おまえは世の中全てを見下せないのか?」


 鉄骨がカブトの頭上に落下、


『CLOCK UP』


「言い訳?君は何を、消え、」


 鉄骨が地面に落下して轟音と砂塵を発する、既にオーズの視界から消えているカブト、

 だが、オーズはタカの目を持っている。タカの目はカブトの同時性を破綻した動作を最後まで見切っていた。

 弾かれるメダジャリバー、

 掴むのはカブト、

 だがオーズ装着者の脳が判断する前に既にカブトは間合いに入り、腕が動く前に、肘一つ浮かせて片刃刀剣をもぎ取る。


『CLOCK OVER』


「ふんっ」


 振りかぶるメダジャリバー、

 至近でカブトを捉えるオーズ、至近から奪われた自身の得物で斬りつけられ後方へ跳ばされるオーズ、辛うじて踏ん張り立ちの姿勢を保つオーズ、


「くそ、アンク、メダル、奴の動きを抑え込むコンボで、・・・・・アンクいないんだったっ!」


『1、2、3』


「お婆ちゃんが言っていた。良い人間と、自分を良い人間と言う奴は天と地ほども違う。ライダーキック!」


『RIDER KICK』


 炸裂する右回し蹴り、

 トラの両腕を立てて頭をガードするのが手一杯のオーズ、折れるトラの爪、弾かれるガード、胴が割れる、顔面に皴、オーズ、勢い後ろへヨロヨロと下がる、

 そのオーズの後背より次元のカーテンが出現、オーズを呑み込み、この世界から消し去った。鳴滝は役に立たないライダーをイレギュラーとしてすぐに消す。


「アラタに、似ている。」


 カブトは対手が消えた事を認めて、自分の右の脛を眺める。深々と鋭角的に切り込みが入って、軽く出血すらしていた。


「奴に怪我を負わせた覚えはないがな。それとも対手の方が手強いのか?」


 カブトが首を上げる。

 そこに映った光景は、ディケイドが一本のロープのようなものに絡め取られた姿であった。実はそれが金属のロッドであると聞かされれば、カブトはさぞや驚いた事だろう。ディケイドと対峙する、今は金と銀でボディを彩った『仮面ライダーW』に。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その29







 3








 私は、いつもこうして士クンに守られてきた。

 士クンは私と瞳う合わせると、いつものようにすぐ目を逸らして逃げる。

 もうちょっとちゃんと視ろ、

 私はアナタが知りたいんだ、

 だけど、あの夢はなんなんだろう?昔起こった事?それとも予知夢?

 私の士クンへの静かな願望かしら?じゃあ私が殺されそうになったのもなにかの願望?


「ディケイド・・・・・・?」


 私達を攻撃してきた、あそこにも『ディケイド』そっくりな気色の悪い敵がいる。助けてくれた士クンをアレと私は混同していたのかもしれない。

 そうだ、きっとそうに違いない、

 士クン、悪くない、きっと悪くないです、士クンは私を、ずっと守ってくれていた私の・・・・・・、

 答えを教えろ、門谷士。

 もっと私を視ろ、ちゃんと視て、私が私の事を忘れるくらいに士クンの事で頭をいっぱいにしろ。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その28

『THEBEE POWER』

 Dカブトは殲滅を選んだ。

『DREKE POWER』

 いかにもと言わんばかりにチラつかせるハイパーゼクター奪取よりも、何をされるか分からない対手を討つ事を優先した。

『SASWORD POWER』

 不動のまま、形状はガンモード。

『ALL ZECTER COMBINE』

 同じく不動のままのディケイドに向けて、パーフェクトゼクターを両腕で構えるDカブト、

『MAXIMUM HYPER CYCLONE』

 だがその強大な咆吼がディケイドに直撃する事は無かった。

 自爆、

「なに!?」

 カブトが仰け反った、

「やはりな」

 それは2つのゼクター、ザビーとサソードのゼクターの突如とした自爆、

「なにをした!?」

 仰け反り思わずパーフェクトゼクターを放し倒れるカブトは、頭を振ってディケイドに叫んだ。

「音っていうのは便利だな。握り潰す事ができないゼクターの内部に浸透して破壊しちまうんだからなぁ。」

 既にあの響鬼の一撃は、サソードの身を焦がしただけでなく、余波を受けたゼクター2つの命脈を断っていた。

「キサマ・・・・・・・」

 立ち上がりそれでも動揺を見せないカブト。

「分かっているんだろう、ハイパーゼクターもお釈迦だって。これでおまえはオシマイだ。」

「聞いているぞ、別の世界から来た事もな。ならば別の世界のゼクターもあるはずだ。力づくで言う事を聞かせる。」

 ディケイドは既に1枚カードを装填している。

『KAMEN RIDE AGITO』

 ディケイドは黄金と漆黒の姿その身を変える。ディケイドが選んだのはアギト。

「だから、オシマイなんだ。ついてこい!」

 ディケイド-アギト、後ろ飛びで電波塔最上から地面へ一気に落下。戦場を移す。

「オレには、どんな姿も通用しない。付け焼き刃である限りな。」

『CLOCK UP』

 同時性を破綻させカブトもまた手すりを跨ぎ、両足を揃えてキックスタート。

『1、2、3』

 ディケイド-アギトの落下に追いつき追い越すカブト。両者の仮面の奥の視線が交差する。

「ライダーキック!」

 着地しディケイド-アギトに対空迎撃の脚を繰り出す。その一角にエネルギーが迸る。

『RIDER KICK』

 地下道の暗闇で奔流がディケイド-アギトへ炸裂、砂漠で横に跳ね2、3転し、森茂る浅瀬の河原へ俯せになる。

『CLOCK OVER』

 そうしてゆっくりと変転する世界を確認しながらディケイド-アギトへ歩み寄り、片足でその首を踏みつけるカブト。

「オレには絶対に勝て・・・・・消えた?!」

 だが砂利の音を立てるカブトの足裏、消えたと思ったほぼ同時に背後に殺気を感じるカブト、

「急所を外したぞ、焦っているなおまえ」

 交差する前腕と前腕、

 既に背後から右の一撃を繰り出しているディケイド-アギト、半身翻し受け止めるカブト、

「コイツの方が疾いのか?!」

 左を受け右に流し、右で仕掛け左で返される。両者の返し技の連続はあたかも申し合わせた組み手のように、ナチュラルなリズムに乗った舞いを見ているよう。

「おまえ、自分が致命的なミスを犯している事に気づいているか、ぁ?」

 カブトは後方に下がって転じてのカウンターを狙い、ディケイド-アギトは円を描く脚捌きで受けながらもあくまで重心を崩さない。

「オレは焦ってはいない、ミスもない!」

 ディケイド-アギトの左を自らの脇へ流す形でカブトが内懐へ半歩入る、右の裏拳で心臓を狙う、

「そのらしくない台詞で気づけよ!」

 アギトの2本の角が扇状に6枚へ展開、

 カブトの拳を右で掴む、それだけではない、掴んだままの右肘でカブト顔面へ、重心も掛けている、

「ぐわ」

 ヒット、仰け反り後退するカブト。頭を振ってディケイド-アギトを睨む。

「アギトとは、限りなく進化する力、だ。」

 深追いせず、対手を待って構えを取るディケイド-アギト。

「進化?・・・・加速し続けているとでも言うのか。」

『CLOCK UP』

 消えるカブト。

「ライダーキック!」

 ディケイド-アギト、脇を突き上げる衝撃に宙を舞う、世界が滝壺から体育館、南国の砂浜へと移り変わる、

「ライダーキックっ!」

 照りつける太陽を直視した時、既に上空から逆光の影がディケイド-アギトに向かって蹴撃を押し込む、

「カブト、」

 そしてディケイド-アギトは港の倉庫へ落下していく自分を自覚し、既に落下地点で、背を向け待ち構えるカブトの姿をはっきりと見た。

『1、2、3』

 ゼクターのボタンを3つ立て続けに押す、ゼクターから頭部へエネルギーが迸る。

「ライダーキックっっ!」

『RIDER KICK』

 軸足の指、足首、腿から腰を捻り、全身の体重を蹴り足に傾ける、

「焦りすぎだと、言っている!」

 宙にあってディケイド-アギト、姿勢を正し蹴り足を向ける、そのカブトとの軌道の間に2枚のアギトのエンブレム、1枚潜ってその落下速度が加速、2枚潜ってさらに加速、

「オレの進化は光より速い!」

 振り返り様蹴り足で半円を描くカブト、

 1号の時と全く同じだ、

 だがディケイド-アギトはなお加速する、

「バカなぁぁぁぁ」

 吹き飛ぶのはカブト、

 ディケイドのカウンターよりなお速く、ディケイド-アギトがヒィッティング。

 カブトが地を舐めた。

「どうした、おまえは決定的な差を見せつけて、オレに言う事を聞かせたいだろ、こいよ。」

「バカな・・・・・、クロックアップの領域なんだぞ・・・・・、いや、まだある、まだな!」

 立ち上がって蹴りに入るカブト、カブトの蹴り足を片腕で捌くディケイド-アギト、捌かれた足を反転させ逆サイドから、これもまた手首のスナップ一つで捌く、何十とそれを繰り返しカブトの足が錯覚を纏って数十に分裂しているよう、アギトの捌く片腕もまた数十に分裂、

「おまえは致命的なミスをしているっ、」

 均衡が破れる、

 だが吹き飛ぶのはディケイド-アギト、カブトの蹴り足が掬い上げられ、抉られる形で門谷士の身体が宙を舞った。ドライバーは腰から離れ路上フォークリフトに跳ね返ってカブトの足下へ。

「取った!おまえは所詮、そのベルトで借り物の姿を纏っているに過ぎない!」

「おまえは所詮、そのベルトで借り物の姿を纏っているに過ぎない。気づくのが遅すぎた。それがおまえの致命的な、ミスだ。」

 額から細く血を流す士は起き上がり様、掴んだベルトを肩に背負う。反動でカブトゼクターがベルトから離れ、ソウジを周回し始める。時もまた元に戻っている。

「なに!?」

 除装されるDカブト。ディケイドはソウジからベルトを奪う程に加速していた。

「なにより、おまえはオレを屈しなければならない。だがアギトは一撃で致命傷を与えない限り成長する、おまえはそのジレンマを事の最初から抱えていた。まだやるか?」

「お婆ちゃんは言っていた、全宇宙の何者をもオレの進化についてこれない!」

「進化だと!」

 士の眉が釣り上がった。

「ある男がいた。そいつは世界を敵に回す宿命を帯び、自分の女という居場所を守る為、敢えて孤独を選んで女から離れた。本当に強い男だ。」

「オレは、世界を敵に回そうと、どんな孤独に耐えようと、妹を取り戻す!」

「だが女は、男を世界から自分の持てる全て注いで守ろうとした。孤独に忍んでもだ。強い男は自分の強さが女を孤独にする事を知り、そして互いを守り合うより困難な道を選んだ。それは、生き物の進化を超えた、人の交わりの進化だ。ババアに寄りかかって自分の哀れを押し売りするキサマとは違う!」

「貴様は、何者だ!?」

 ソウジ、足下のディケイドライバーを士に放り投げる。

 士もまたライダーベルトを放り投げる。

 宙を交差して互いの手元に収まるツール。

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」

 ソウジ、ベルトを片腕と遠心力だけで装着、 士、ブッカーの振動を感じて、数枚のカードを取り出し、やや驚いてカードを見た、

「そういう事か。」

 ソウジ、カブトゼクターを手元に呼び寄せる、

 士、ドライバーを巻いて、カードを1枚投入、

「変身!」

『HENSIN』

「変身!」

『KAMEN RIDE DECADE』

 向かい合う両者に纏わり着く姿は、一方はメタリックの装甲、もう一方はショッキングピンクのスーツ、

 カブトはさらにゼクターの角を引く、

「キャストオフ、」

『CAST OFF』

 ディケイドもまた、1枚のカードを投入、

『FINAL FOAM RIDE kakakaKABUTO』

 カブトは装甲を飛散させてその人体に近いフォルムを晒す。

『CHANGE BEETLE』

「クロックアップ、」

『CLOCK UP』

 クナイガンを振りかざし、動作が遅滞したディケイドに向かって一直線、

 裂ける時空、

「なんだと!?」

 ソウジにとって見慣れた1本の紅い角が眼前から時空を割って突き込まれてくる、押し戻されながらソウジは、それが人間の容積程に巨大化したカブトゼクターである事に戸惑う、戸惑うカブトを引っ掛けながら巨大ゼクターは鋭角に上昇、上昇から垂直で降下、急降下でカブトの肉体を波止場に叩きつける。

 そうして巨大ゼクター、一旦上昇、宙を旋回し、そしてメカニカルなギミックで人の姿に変身、錘を外したように動作が軽くなったディケイドの隣へ着地、並び立つ。

「お婆ちゃんが言っていた、自分に勝てる者はただ1人、1つ先の未来の自分だけだ。」

 それは紛れもない深紅に彩られた一角の『仮面ライダーカブト』。ディケイドの隣にいるのも、対峙して波止場のコンクリートに皴を入れて伏しているのも同じカブト、カブトが同じ時に、同時に二人存在している。

「だけ?まだクロックアップが解かれていない、」

 ディケイドは全て遅滞している周囲と、その中でカブトと並んで対話できている自分とを見比べている。

「オレは自身を含めてあらゆる者を自在にクロックアップさせる事ができる。それが、おまえがオレにもたらした力だ。」

「ライダーキックっ!」

 眼前のカブトが立ち上がり跳躍蹴撃を仕掛ける。

「そしてその逆も然り、」

 宙にあるカブトの動作が突如遅滞、いやクロックアップが解かれる。

「いくぞ!」

 ディケイド、さらにもう一枚カードを差し込んだ。

『FINAL ATTACK RIDE kakakaKABUTOoo!』

 隣に並ぶカブトが再び変形、巨大なカブトゼクターとなって飛翔、停滞する眼前のカブトへ一直線、

 激突するカブトとカブト、

『1』

 ゼクターの1角に掬い上げられる形でカブトぐんぐん上昇、

 衝突する電波塔中央、

 煙を吹いて貫通、

『2』

「はぁっ」

 貫通し突き抜けるカブト、しかし巨大ゼクターは見られない、

 対面側に既にいる未来のカブト、

 対面側にいて宙で姿を戻しスピンキック、

『3』

 蹴り入れられ錐揉みしながら斜めに落下するカブト、

 その先に立つのはディケイド、

「ライダーキック!」

 ディケイドに並び立つ未来のカブト、

 互いの外側の軸足から足首、腿を捻り、両腕を振り、腰を入れ、内側の蹴り足を遠心力のまま振りかぶる、

 炸裂!

「ぐぉぉぉぉぉぉオぉぉぉレっっっっ」

 両者のエネルギーの奔流が注ぎ込まれる、飽和するエネルギーは圧倒的な光量を発して、落下してきたカブトは跡形もなく消失した。

「やったか!?」

 ディケイドは並び立つカブトを振り返る。

「ヤツは時空を割り、走馬燈のように次々と過去を覗く事になる。そこでヤツは過去に飛ばされた妹を見つける。1人で成人するまで必死に生き抜き、当たり前に友を作り、当たり前にパートナーを得て、そして子供を1人設けた。それから主人に死なれ、子供と別れ、老いた時、ある3人の子供を拾って養う事になる。ヤツはその時はじめてお婆ちゃんのゆりかごにずっといた事を気づくのだ。」

 既に変身を解く両者。

「ババアがな、」

「ヒヨリが子供を産んだ時、オレに見せた事の無い笑顔を愛する者に向けていた。オレは激しく嫉妬し、またその幸福な顔を守ってやりたいとも思った。」

 士はまたしても出し抜かれて口元を歪める。ソウジは天に向けて、人差し指を高く高く伸ばしている。

「ババアはこの世界の重心だった。バハアが別の時間に飛んでしまった事で、この世界の本格的な崩壊は始まっている。」

 士が語るそばからソウジは、腰の裏より二つのアイテムを取り出す。よく見るとハイパーゼクターと、あのコーカサスのゼクター。

「妹が過去に飛ばされる直前の時間に行った時、貰ってきた。この世界はもうどうにもならん。が少なくとも別の時間で、そうでない未来があってもいい。」

「そうか、おまえも飛んだんだったな。」

 士は散々である。

「この世界は崩壊する。だが、そんな中でも喜びも楽しみもある。オレはずっとこの世界を見ていくつもりだ。お婆ちゃんがそう決めたようにな。」

「オレは写真を撮る事だ。あれだけは上手くいかない。おまえは?」

「なんだ?」

「できない事だ。オレ達完璧超人にも一つや二つできない事があるだろ。誰にも言わないから言えよ。」

「オレには、そんなもの・・・・・・、逆上がりだ。」

 ソウジは視線を合わせず、顔面の毛細血管の血量が増加している。

「鉄棒?」

「アラタが悪い、あいつが軽々と先にやってのけてしまった。くだらないと思っている内に、ついにいままで一回も出来ないでいる。アラタが悪い。」

 士はそれを聞いて腹を抱えて高笑いしはじめた。ソウジは指を差してなにか必死に言い訳し、士の欠点を攻撃するも、士の笑いは止まらない。ソウジの顔面の充血はなお治まらない。

「ハイ、チーズ!」

 その背後から女の声が響く。振り返ると同時にフラッシュが焚かれる。派手な二眼トイを抱えた黒髪の長い少女が、門谷士に向けて微笑んでいた。夏海の背後には、ディケイダーをまだアイドリングさせている光栄次郎が皮ジャンをキメている。

「夏海・・・・・」

 士は不思議だった。あれほどいっしょに過ごしてきたごくありふれた黒髪の少女が、今日は何故か光夏海という名前から意識していた。

『私の記憶を返して!いったいどうして!どうして!』

 だが士は頭痛と共にフラッシュバックする断片的映像に苛まれた。

 トイカメラから出た写真を手ブラさせながら笑顔で士に歩み寄ってくる夏海。ソウジは小さめのジーンズのポケットに無理矢理両手を突っ込んで、士の動揺した顔に性悪にもニヤついていた。

「忘れモノです、士クン。」

 夏海は吊り下げたトイカメラを本来の持ち主に渡そうと首から外す。一旦頭から持ち上げて背中に回して長いストレートの髪の毛を潜らせて首を振ってほどく。揺れる髪の毛は軽く流れて、一瞬だが夏海のうなじが露出する。髪の毛を正して、シメの思い切りな笑顔で士にトイカメラを差し出した。全て計算ずくで女はこれをやる。

「夏、みかん……あのな……、」

 と言い辛そうな態度の士はそれでも辛うじて受け取ろうとした。

 だが、ショッキングピンクの2眼は、ついに士の手に渡る事は無かった。

『SCANING CHARooGE』

 爆裂する電波塔、

 上から3分の2が倒壊、

 士はまずなにより夏海の頭を包み込んで伏した。

 ハァッハァッハァッァァァァッッッッッ

「この不快な低い声は鳴滝・・・・」

 顔を上げた士、電波塔の倒壊で鉄筋が一面に広がり、砂塵が跳ね上がって数メートル先の視界が取れない。

「ディケイドゥゥゥゥゥゥおまえのぅぅぅぅぅぅ最後サイゴサイゴダァァァァァァ」

 引く程のハイテンションの声がする先に、辛うじて3人の影が見える。1人は今電波塔を切断した主で、やや短い片刃刀剣を振り下ろして刃を祓っている。1人は首から大きくなびくマフラーをしている。その間に挟まれた者の姿がもっとも士を驚愕させた。

「ディケイド・・・・・」

 士は知らない。鳴滝が同じドライバーを使って変身したダークディケイドというライダーを。

5 カブトの世界 -クロックアップ- その27









 シゲル……!


 タックルの光がほのかに萎んでいく。

 それは首に絡めた両腕の違和感からであった。恐怖に駆られ力の限り右腕を引くタックル、鮮血が斜めに走る、タックルの右前腕はクウガの肉体に癒着し埋もれていくようにその形状を喪失していく。


 アネサン・・・・・・・・・・、


 目に光がなく、等身大の黒フィギュアのように棒立ちのクウガ、だがバックルだけが黒々と輝く、千切れて先の無いクウガの腕先をタックルの腹に押しつける、タックルの背中が盛り上がって掌を象っていく。


「ァァァァァァァァァっっ!!」


 甲高い悲鳴が上がり、膨大な血量がタックルの背中から飛び散って、電波の残り火で即座に乾燥し、染みだけ残す。半分抉れた腹部からジリジリと肉の焼ける煙が立ち上る。


 アネサン…………


 再生した右腕でタックルの頭を自らの胸へ押しつける。もはや意識の無いタックルが白目を剥いてクウガの漆黒の胸にその体を埋めていく。クウガの肉体容積が比例して肥大化していき、頭、肩、手足の各部が鋭角的に伸びていく。


「誕生!アルティメットクウガぁぁぁ!」


 DDが諸手を挙げて狂喜する。いやそれは恐怖の裏返しかもしれない。

 その暗い異形の姿は、人類が猿から進化してはじめて火を持った瞬間から見えるようになった恐怖の影。闇夜で相手を照らしたすぐ背後に先に行く程鋭角的に伸びた影、その得体の知れない、触れる事すらできない影は、火を得て闇を克服した類人猿に、恐怖から逃れる事ができない事を植え付けた。その姿を黒く染めた異形が、吹雪きつつある白銀の世界にポツンと立ち尽くしていた。


『ATTACK RIDE CLOCKUP』


『FINAL FOAM RIDE itititICHGO!』


 その漆墨のクウガの眼前に立つのはほぼ同じ姿の『仮面ライダー1号』が3体。その即背に高笑いするDDが立つ。


「最初からだ。本来選ばれた者でない君にベルトを渡し、他の2つのアマダムを破壊させ、重心砕きの性質を持たせた。そしてこの瞬間しかない。キサマが進化直後のもっとも隙を産む瞬間にな。いくぞ!」


 ダークディケイド、バックルの左右を引く、腰のブッカーを開いてカードを一枚取り出し、ドライバー中央に差し、バックルを閉じる。


『FINAL ATTACK RIDE itititICHGOooo!』


 色味の薄い1号が跳ぶ、深緑マスクの1号が跳ぶ、肩から両腕に伸びた2本線の1号が跳ぶ、3体並列に宙を一回転、イヤになるほど遅滞する動作のクウガに向けて蹴撃の態勢で降下、


「封印されろ、私の切り札よ!」


5 カブトの世界 -クロックアップ- その26







「ライダースティング」


 無防備のディケイドの眼前、ザビーのおぼろげな影が立つ、


『RIDER STING』


『KAMEN RIDE DENO CLIMAX』


 蜂型ゼクターを装着した左手首、突き出すザビー、


「はぁ!」


 ザビーの複眼が全て炎の反射で埋め尽くされた。炎の中から火の粉のように弾き出される人影、ザビーはそれが先のライダーとまるで違う姿である事に戸惑いを覚えた。


『FINAL』


 ザビーの支配する時空間で、焦れったい動作で一旦宙を浮き、放物を描いて落下しようとするディケイド-電王。


「これがこいつのキャストオフ?」


 その4つの顔をもつ敵に生理的な嫌悪を抱きながら、ザビーは再びゼクターを捻る。


『RIDER STING』


 1度どころではない、掬い上げに1撃、宙を舞っているところ1撃、そして横に跳ねた着地点に先回りして叩き落としにさらに1撃加えた。


『ATTACK』


 だがディケイド-電王は、無様ながら無重力を遊泳しているかのようにスローに宙を舞っているだけ。傷一つない。


「どうして、ダメージがない?」


 ヒッティングの手応えは確かなのに、相手を絶命させる事ができない。だがしかし、クロックアップのタイムリミットに追われ拙速に撃ち続ける選択せざるをえないザビー。カブト系ライダーの宿命であった。


『RIDE』


「なにをしている!?」


 ザビーは気づく。いつのまにかディケイド-電王の所々に張り付いているグロい仮面が一カ所、右肩から右掌にかけて整列している。


『dedede』


 ディケイド-電王、ザビーの強烈な対空迎撃で宙を高く舞って、優雅に一回転、足を揃えて着地しつつある。


「ええい!」


 ザビーは頭に血を上らせてディケイド-電王の急所を狙う為敢えて前に踊り出て、再び必殺技を繰り出す。蹴りでも弾丸でも無い拳のヒッティングは、そのもっとも自在できめ細かい命中精度が真価なのだから。


『CLOCK OVER』


『DENO CLIMAXuu!』


『RIDER STING』


 両者が対峙し、互いの右拳がほぼ同じタイミング、同じ速度で繰り出され、互いの胸を狙う。

 それはクロスカウンター、

 両者ほぼ同時にヒッティング、

 受け止めるディケイド-電王、

 反動で跳ね飛ぶザビー、


「ミサキーヌっ」


 紫のライダー、傍観していたサソードが前から後ろへ視線を移す。

 ザビーは甲高い音を立てながら、網目の踏み板を歪めて跳ね転がり、仰向けに顎が上がって起き上がれずにいる。脇に当たる装甲が砕けている。おそらく肋骨を何本か持っていかれている。


「おかしい。」


 ディケイドが姿を戻す。自身の右手首を握り込み、その右で足下のライドブッカーを拾い上げる。

 ディケイド-電王、電王の精神体としての能力を纏う事で、精神体を前にしたディケイドが手こずった、物理的なダメージを受ける事が無い。それは精神体と実体の相互干渉が無いという事であり、逆に精神体から実体への攻撃も触媒となる契約者と一体にならない限りダメージを負わせる事はできない。つまりディケイドのこのフォーム、実体系最速を誇るカブトの世界に対して鉄壁の防御を誇るものの、ほぼ無力の幽霊と同じであった。


「キサマ、ミサキーヌを、」


 サソードが振り返ってその得物を祓う。その刃から粘度の高い液体が飛び散った。


「こっちに関わらず、あの女は自分の力をまともにカウンターされたはず。装甲一枚じゃ済まないはずだ。それがあの程度なのは、やはり、オレの腕が痺れて押し負けたって事なんだろうな。電王は加減がわからん。」


 腕の痺れ。ディケイドはマジマジと自身の右腕に一閃入った傷と、サソードの刃の液体の交互を見比べた。


「ディスカリバーの錆にしてくれる。」


 勝手にネーミングしているサソード。クロックアップで鎬を削るライダー同士の戦いにおいて、対手よりも速くあるよりも対手を遅滞させる事に主眼を置き、神経毒によって刃を引くだけの傷を負わせる事で多少のスペック差があろうと関係なく勝敗を推移できるライダー、それがサソード。大気に毒液を飛散させショッキングピンクの対手に突進。


「くそ、やつが3人に見えるぞ。」


『KAMEN RIDE HIBIKI』


 一方ディケイドはショッキングピンクからマジョーラパープルのディケイド-響鬼へ。


「二刀流など小賢しい!」


 腰元水平に構え突きで向かってくるサソード、


『FINAL ATTACK RIDE hihihiHIBIKIii!』


 既に連続投入しているディケイド-響鬼、両腕の枹を大上段に構えるその筋肉の撓りが音として聞こえてくる。

 サソードの刃が喉元に迫る寸前、弁髪めがけて振り下ろされる2本の枹。


『CLOCK UP』


 枹が空を切り、そのまま地面に叩きつけられる、地面には光の鼓が浮かぶ、一打加えると甚大な音撃の波紋が全周に迸る。しかし同時性を破綻させたサソードは消えたまま捉える事ができない。


『RIDER CUTTING』


 刺さる、

 現れるサソード、それはディケイドの後背、

 ディケイド-響鬼の肩口から振り下ろされ深々と毒液を流しながら刺さる片刃刀剣、


「はぁぁっ!」


 打ち下ろす2打、

 だが構わず光輝く鼓に向かって枹を振るディケイド-響鬼、屈んだ腰から背筋、肩、腕が隆起して両腕を伝って枹に注がれる、

 広がる波紋は、サソードの肉体を通過し、倒れるザビーの距離まで達する。


『CLOCK OVER』


「抜けん………、なんだっ!熱いっ!」


 サソード、薙ぎ入れた得物で振りかぶり二の太刀三の太刀を繰り返すはずが、全く動けず動揺しついには時間切れを起こす。それどころかスーツが異様に蒸せ、思わず得物から手を放す。スーツの節々から毒液と同じ色の蒸気が吹き上げ、ついには転倒して転げ回って悶えるサソード。


「オレが響鬼を選んだ理由は3つ、」


 立ち上がり、刺さったままの剣をその身から刃を持って引き抜いて、剣に装着されているゼクターを抜き取るディケイド-響鬼。片肺を縦断している傷が見る見る内に癒着し傷の位置がもはや分からなくなるほどに回復する。


「ナニヲ、・・・・・なにをしたぁ!」


「音撃というそうだ。ヒビキの世界でな。」


 悶えるサソードのスーツが消え去り、華奢で唇のやや色暗い青年が顕れる。だが超熱地獄から解放されてもなお起き上がれなかった。

 士が響鬼を選んだ理由は3つ。

 一つは回復力、毒すら即座に治してどれほどのダメージもものともしない治癒能力。もう一つは身体、太刀をどこに受け止めても放さない鍛え抜かれ自在に動く肉体。そしてもっとも決定的な最後の一つは音撃。ザビー、サソード共近接しなければ攻撃できない。音撃を全周に張れば、どれほどの速さで動こうと、その音の波紋、音の障壁を潜るしかディケイドを倒す術が無い。そして音撃には別の面がある。


「音・・・・・・超音波で、そうか・・・」


「おまえの決定的な敗因はレンジでチンじゃあない。惚れた女の身体を放置して、勝ち負けのメンツにこだわりオレに向かってきたところだ。恋人ごっこの連携では、オレに勝てないのさ。」


 片刃刀剣を破棄すると同時にショッキングピンクの姿を顕すディケイド。その片手で動かなくなったサソリ型のゼクターを弄んでいる。名も知らない若造が失神しているのを見て取り、同じくいつのまにかハチ型のゼクターが転がって装着の解けたボンテージスーツの女へ足を向ける。


「ラッキーだったよおまえは。毒液、特に神経毒はイオンとして電荷を持つケースが多い。だがマイクロ波を吸収して振動する十分条件ではない。マイクロ波を出す事自体ぶっつけ本番だったんだじゃないか。だが、オレの方がラッキーだ。」


 聞き慣れたキザな声だった。エレベーター横の非常階段。黄金の剣を振りかざした濃厚な黒のボディ。

 振り返るディケイドの手元からサソードゼクターがこぼれ落ち、踏み板を小さな金属音をさせて伝って黄金剣の柄にしがみついた。ザビーゼクターも同じ、舞い上がって羽音を立てて周回し黄金剣先端に留まる。


「どうした、日焼けサロンでもしたか?」


 ディケイドの眼前に、再び現れる仮面ライダーカブト、いやダークカブト。


「まあ、そんなもんだ。」黄金剣で指すDカブト。「さっき青いやつが去り際に言っていた。おまえが、ハイパーゼクターを持っているとな。オレはラッキーだ、詰んだも同じだからな。」


 ディケイドは腰裏からハイパーゼクターを手にし、あからさまにカブトに見せつけた。


「おまえの事は大体分かった。この世界でおまえに敵うライダーはいないかもしれない。しかし、この世でおまえに勝てるライダーはいくらでもいる。それをいつまでもお婆ちゃん離れできんおまえに見せてやる。」


 2人の戦いは既に始まっている。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その25









「電波投げ」


 赤き女戦士タックルが雪原に立つ。彼女はクウガが立ち上がる度に両腕を無空に振りかざし、見えない衝撃によってクウガを宙に飛ばし地に叩きつける。


「電波投げっ」


 仮面ライダーストロンガー。それが彼女のパートナーだった。この世界に共に飛ばされ、あるいはあれが愛情のふれ合いとも言える毎日を過ごしながら、ある夜突如あのクワガタの化け物が現れた。


「電波投げ!」


 そのストロンガーがクウガと対峙した時、彼女は変身した途端にボウガンのようなもので攻撃を受け失神、気がついた時にはストロンガーは断末魔の叫びを上げていた。


「電波投げっ!」


 彼女は一定の距離を置いて尾行し機会を待った。観察していく内にクウガは本能で強力なものを求めて戦い続けようとする事に気づく。この強力なライダーが集う世界で、そんな事をすれば必ず致命的なダメージを負う。彼女は敵がボロボロになるまで根気よく待った。


「電波投げっっ!」


 途中、鳴滝によるオーロラの壁によって運ばれた時は途方に暮れたものの、この世界の破壊者が電波塔を目指しているという噂を聞いていたタックルはまっすぐにここを目指し、エレベーターが降りてくるのも待たず一跳躍でこの二段目まで登った。辺り一面白景色に変化した時は戸惑ったがそれも一瞬、逆に白の景色の中一点染みのように黒い姿を見つけるのは容易い事だった。


「電波投げっっ!!」


「あの無敵のクウガをここまで、あの女こそ最強だとでも言うのかぁ!」


 鳴滝、DDは呻いた。遠距離からの射撃は吸収され、触れればどんな一瞬であろうと肉体を変換される。そんな無敵な存在を、たった1人のか細い女が圧倒している。電波エネルギーを照射して大気を揺すってクウガの肉体を投げ飛ばす。こんな見えない掌の攻撃が、あるいは唯一クウガの攻略手段かもしれない。


 ォォォォォォォォォォ


 クウガ、左腕が無く左の大腿が折れ、それでも立ち上がり残った右腕を振り上げる。


「おまえの動きは見切っている、」


 クウガが掌をタックルへ、

 タックルは両腕を振り上げる、

 タックル眼前で炎が巻き起こる、パイロキネシスだ、

 だがその炎はタックルに届く事なくかき消された、電波投げの応用だ、


「エイ」


 タックル跳躍、これもまた両腕を振り上げて。


「電波エネルギーで自らを動かすのか!」


 一瞬で見えない点になる程上空に達するタックル。

 頭上にパイロキネシスの弾幕を張るクウガ、 だがタックルは降下しつつなお電波エネルギーの波動を送って炎の渦をかき消し、さらに上空からクウガへ向けて波動を叩きつける、


「ヤァー」


 クウガの体表面が変化していく。甲殻的な角やアーマーは萎びていき、軟質の部位には水ぶくれが泡のように沸き立つ、その赤い複眼から煙が吹き表層が沸騰する。


「体内の水分の極を揺すって加熱している、いつものクウガならば、オレがここまで負わせたダメージが無ければ、」


 DDは立ち上がり、思わず目を塞いだ。


「トゥォォォォォ!」


 腕から落ち、クウガの首に絡みつくタックル、クウガはその衝撃に耐えきれず、右の膝が地に着く。


「ウルトラサイクロンっっ!」


 両腕をしかと絡みつけ、乳白の光となる。あまりの眩しさはタックルのボディラインを隠してクウガを呑み込もうとする。


「自らの肉体を電波エネルギーで発光し、敵に電波エネルギーを送りつつも自らをエネルギーの塊としてっっ!」


 DDは言いかけて背を見せ小走りに駆け出す。その圧倒的な破壊力を想像できたからだ。


 duuuuuuuuuuuuuuuuu


 クウガはもがき振りほどこうとして残った片腕を振り上げ、タックルの頭を撲打する。

しかし命を込めたタックルの両腕は依然千切れる事はない、


「シゲル・・・、」


 それどころか圧倒する熱量でクウガの肉体に癒着しつつある。ただ彼女の仮面が縦割れし、素顔を晒した彼女の額から出血が滴るのみ。彼女はただ愛するストロンガーの名前を叫び、彼の為に命すら惜しまない自らを喜んだ。


「アネサ…………」


 クウガの動きが止まる、呆然としている。 白光の中、その眼前に映る顔は、この男にとって懐かしい、求めて止まない顔そのものだっだ。やや疲労感のある細い輪郭、小さいもののはっきりと意志の感じる目元、やや自己主張する前歯、ストレートの黒髪、


 この世界のアネさん……、

 なんでそんな目でオレを見る、

 オレまた叱られるような事をしたか、

 アネさんには笑顔で、

 笑顔でなきゃいけないのに、


 彼の抱えた琥珀色の思い出が、全て血塗られたトラウマへと反転していく。


「シネ!私とトモにっっ!」


 アネさんを笑顔にしたかっただけなのに……


 クウガの心が、その時閉じた。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その24









 ソウジがデニムに両手を突っ込んだポーズで乗るエレベーターが止まる直前、上方で爆音と立っていられない程の震動が迸った。ソウジが目指す最上階ではない。そこは、3つある展望台の最下の位置。エレベーターの中から見える風景は、一面鉄格子の床を敷き詰められたグレー一色の展望台だった。ところが一歩踏み出した瞬間、まず皮膚に飛沫を感じる。次に荒々しく流れ落ちる滝が見え、耳がイカれる程の曝音がする。大気の流れは多量の湿気で体温を奪い、足元の震動はそこが大地でなく、吊り橋の上である事をソウジに教えた。


「6、7人か。」


 既にジョウントしてやってくるカブトゼクター。

 ソウジの前後は切り立った崖に、照葉樹が密生している。その恐怖心を呼び起こす程の闇の中に見え隠れする影が7つ。


「キックホッパーっ」


「パンチホッパーっ」


「チョップホッパーっ」


「ヘッドバットホッパーっ」


「スープレックスホッパーっ」


「サミングホッパーっ」


「ヨンノジホッパーっっ!」


 それは全て同じ、リペイントであるものの全てが同じ頭に3つの角、その角と同じ形状のショルダーアーマー、ベルトにはそれぞれのペイントのバッタを模したゼクターが装着されている『ホッパー軍団』であった。


「変身」


 そのテンションに冷や水を差すようにカブトへと変身するソウジ。


「ライダージャンプ」


 翠のホッパーがバックルを操作した後跳躍、他のホッパーも全く同じ動作で追随し空へ。


「お婆ちゃんが言っていた。手の込んだ料理ほど不味い。」


 カブト、即座に黄金剣パーフェクトゼクターを召喚、さらにドレイクゼクターも周回しながら宙でパーフェクトゼクターと合体、カブトの腕に収まる。


「ライダーキックっ」


「ライダーパンチっ」


「ライダーチョップっ」


「ライダーヘッドバットっ」


「ライダースープレックスっ」


「ライダーサミングっ」


「ライダーヨンノジっっっっ!」


 全ホッパーが跳躍頂点に達した時、一斉に叫んでカブト一点に向けて降下、


『DRAKE POWER』


 直上高々と剣を掲げるカブト、モードはガンモード。


『HYPER SHOOTING』


 天高く放たれる一撃の光球、ホッパー軍団を一旦すれ違い上昇、


「なにっっ」


 1人のホッパーが叫んだ、

 光球が上方で分裂、7本の歪曲した光となってホッパー全てを追尾、

 爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破、

 火達磨になりながら吊り橋のさらに下へ落下していくホッパー軍団、

 火の粉降り注ぐ中悠然と吊り橋を渡って行くカブトであった。


「・・・・・・・・、おのれ、オレの4の字さえ極まっていれば・・・・」


 渡り切った先の崖に、落下してきたホワイト地にスカイブルーのドット柄ホッパーが、俯せのまま起き上がれず、ただ震えた指でカブトを差す。


「一つ聞いておきたい、いったいジャンプしてからどうやって固め技に入るんだ?」


 やや精神が高揚しているソウジだった。


「時空渦を起こし、世界を滅ぼし、そして自らを孤独に貶めて、呑まれるがいい・・・・・、黒い、カブト・・・・」


 事切れるホッパー。誰が変身したかソウジはついに知る事が無かった。


「黒い・・・・・」


 そう言われ初めて、自らの掌から二の腕、そしてボディを眺めたカブトは、先程の爆炎のせいか、ボディのところどころ黒く染まっている事に気づいた。気づいて、何を悟ったのか天を仰ぐカブト。


「いいだろう、その洗礼、受けよう。」


 彼の身に夕日が差す。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その23









「婆さんにそんな理由が・・・・」


 士がディケイダーを転がして向かう先は電波塔。液状化した路面の起伏を読みながら疾走するのにもそろそろ飽きてきたその時、瓦礫の風景に立つ人影を見つける。人影は、天井方向に銃を向け1発放った。


『KAMEN RIDE DIEND』


 それは屈託なさ過ぎる笑顔の海東、つまりディエンドだった。


「おまえ、またオレに邪魔されたいのか!」


 ブレーキをかけ、イタズラにスレスレで停めた士もまたドライバーを腰に巻く。


『KAMEN RIDE DECADE』


 シアンブルーのディエンドはわずかにディケイダーのカウルが接触したものの動じていていない。


「君が欲しいと思って用意してあげたんだ。」


 マゼンダピンクのディケイドは降車して、ブッカーをガンモードにした。だが実際士は間違っても撃ち合う事がないと直感していた。安心していたのかもしれない。


「何を?」


「正確には、君と対立するカブトが求めて止まないものさ!」


 ディエンド背後よりオーロラのカーテンが迫る。ディエンドが潜るとその姿がディケイドから見えなくなり、そのままカーテンはディケイドをも呑み込んだ。満天の青空広がる細かな格子状の円盤だけが広がる金属の展望台、ディケイドはそこが電波塔最上階である事も、空間の歪みが最上階だけは緩和されている事も、認識するのに若干の刻を要する。


「ボクにとって、君があの2人のゼクターを持っていてくれた方がマシなのさ、士!がんばってくれよ。ボクの為に。」


「海東、余計な事を。」


 士は直覚した。海東はソウジと自分を徹底的に咬み合わせたいのだ。


「もしやヤツの狙いも同じか?」


 だがそんな疑問を処理する間も無く、士の眼前には2人のライダーが立っている。いつもの事だ。


「ミサキ~ぬ。あいつを倒せば、このボクの愛を受けてくれるか~い。」


 1人はパープルに全身を彩った、頭頂にサソリの尾のような触角を持つ『サソード』。その得物は片刃刀剣『サソードヤイバー』。


「私、貴方と出会えて変わった気がする。返事は、考えてあげてもいいわ。ツルりん。」


 もう1人はどうやら女。その黒地を縦に割るようにメタリックイエローを配した彩色の『ザビー』。左手首には、ハチ型のゼクターらしきものが、ヘラクスやケタロスと同じように備わっている。


「海東、厄介事を全部押しつけやがって。」


 ブッカーを開いて親指を強く押し出すようにカードを2枚取り出し、一振りでブッカーを閉じ再びブッカーガンモードを構え直す。だがブレイドや龍騎のそれに比してすこぶるオペラビリティが悪い。つまり大きく隙を生じる。


「ゼクトマイザーは、ザビーにこそふさわしい。」


 女声のザビーが握る野球のグローブ大の『ゼクトマイザー』、扇状に4つのポートを展開させて、ポートの先端一つ一つから、小さな虫のような誘導弾『ザビーマイザー』を放出、次々打ち出される数十の豆粒大のそれらは、


「くそ、うっとおしい」


 フリーランスな軌道と圧倒的物量で掠めてまとわりつき、視界を塞ぎ、うっとおしい羽音を立て、ディケイドの動きを抑止する。


『CLOCK UP』


 ドレイクが剣を正眼に消える、


『CLOCK UP』


 ザビーがボクシングスタイルで消えた、


「なにっ」


 ディケイドの左サイドに突風でも吹いたような衝撃、思わずブッカーをこぼし、胸元が大きく空く、ディケイドの視覚に捉えきれぬ紫の影が左腕を大きく弾いて駆け抜けた、


「ライダースティング」


 無防備のディケイドの眼前、ザビーのおぼろげな影が立つ、


『RIDER STING』


 蜂型ゼクターを装着した左手首、突き出すザビー、


「はぁ!」


 ザビーの複眼が全て炎の反射で埋め尽くされた。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その22







 海抜65メートルに立地した電波塔は地上高165メートル。日本で言えば6番目に高い塔であり、4番目に高い電波塔であった。塔の軸として鉄筋コンクリートのほぼ直管のチューブに4方向から鉄骨トラスで支え、上から眺めると十字に見える。頭頂部に3段の円盤状の展望台があるものの、本質的にアンテナやライトを設置する為のものであって、人が立って行動するには安全上問題がある。

 それが日本を壊滅させた「巨大隕石」と、世界を壊滅させた「時空渦」を経てなおこの荒廃した地に建っている。


 Oooooooooo!


 『クウガライジングマイティ』がオーロラのカーテンが素通りした時、クウガの全身が強風に揺れる。そこが電波塔展望台の2段目である事をクウガの知能は既に理解できない。


「フハハハハハハハハハハハハハハハ」


 電波塔中央の軸塔に埋め込まれる形で施設されているエレベーターよりせり上がってくるのはあの鳴滝。萎びた帽子と黒縁のメガネ、腰には既にドライバーを巻いている。全裸だ。


「おまえが、ここまで強力になるのを、待ち望んでいた。おまえを捉える算段も手札も、全て揃えた。おまえはディケイド討伐の切り札として私に囚われるのだ、私の深慮遠謀に酔い痴れるがいい!」


『KAMEN RIDE DARK DECADE』


 纏わり付くDDスーツ。

 DDが一歩踏み出すと鉄格子の床が一面雪原へと変わる。


 Fuooooooooooッッ!


 クウガはその記憶の断片に酷似した姿に頭を抱え悶える。


『KAMEN RIDE SUPER ONE』


『KAMEN RIDE KETAROS』


 その隙を突くように、2体のライダーを召喚するDD。


「まずは遠距離からだ」


 スーパー1、右腕を突き出し円を描く。


「チェンジ、エレキハンド!」


 ケタロスがクナイガンを抜いて逆手で握り、手首のゼクターを捻る。


「ライダービート!」


 そしてDD、ブッカーをガンモードに、カードを1枚ドライバーに収める。


『FINAL ATTACK RIDE DARK dededeDECADEee!』


 エレキハンドから稲光が迸り、

 クナイガンの閃光が唸り、

 そしてブッカーの弾が光の壁を幾枚も透過してクウガに向かう、

 それはまさに一斉砲火。

 全ての光がクウガの腰のベルトへ集約していく、


 Gooooooooooooooooo!


 いや集約されていく。

 人語でない叫びを上げて、その体皮を紅から漆黒へ変貌させていく『アメイジングマイティ』。


「やはり、エネルギーはヤツに力を与えるだけ。ならば肉弾戦ならどうだ、」


 スーパー1に向け顎を振るだけのDD。

 スーパー1跳躍。


「スーパーライダーぁぁぁぁ月面ンンンンンンンキッッッッィィィィクゥ!」


 宙でポーズを決め、次いでムーンサルトしてクウガに降下、

 無防備にヒッティング、

 だがその瞬間、

 スーパー1のボディが見る見る変色し、クウガ手前で石化して落ちる、

 それがスーパー1の生命活動の最後となった。

 クウガの胸には、スーパー1の足跡が煙を吹いて残るのみ。


「やはり肉体に触れるだけでも変換される。だがダメージは残る。ではこれならどうだ。」


 DD、今度はケタロスに合図を送った。


『CLOCK UP』


 ケタロス以外が悠然とスローにモーションする世界が展開。それは決して雪原の雄大さに合わせているわけではない。


「ライダービート」


 ゼクターを捻って即座に跳躍、宙にあって両足を揃え、全身を伸ばし、腰を広角に折る、くの字になったケタロスはなお宙にあって全身を回転、やや放物にクウガへ降下、

 クウガの首が見続けていても気づかない程の動きでケタロスを追う、それは超感覚の為せる技、

 切断、

 扇状に鮮血が散らばる、

 クウガから腕が一本切り離れ、悠然と舞う、


『CLOCK OVER』


 UUUUUUUUUUUoooooooooooooooっっっ!


 クウガが吠えた。


「やはりダメージは負わせる事ができる、しかし、」


 DDもあっという間に変化した状況を呑み込んだ。


「足が!足がぁ!」


 ケタロスであった。クウガの腕をそぎ落としたものの、その態勢のまま地面に倒れ、起き上がれないでいる。よく見れば両足が硬質に変化して直立のまま動かず、起き上がろうにもできない。仕方なくケタロス、もはや錘でしかない足を引きずって、できる限りクウガから離れようと必死である。


 GGGGGuuuuuuuuuooooooo!


 追いすがって片腕でケタロスの足を掴むクウガ、


 ぉぉぉぉぉぉ、


 見る間に全身が角質化するケタロス、それがケタロスの有機生命体としての最後だった。


「クロックアップで制する事ができんが、これならどうだ。」


 続いてカードを繰るDD。


『KAMEN RIDE KAMENRIDERBLACKRX』


 深緑のスタイリッシュなボディがクウガの眼前に立つ。


「リボルケイン!」


 野太い声を上げてベルトのバックルから『リボルケイン』を取り出すRX。


 JoJoooooooooo!


 既にケタロスを2メートル近いブーメランに変形させたクウガが、振りかざし、吠え、投擲。


「ウェィックアップ!ザッヒーロー!」


 腕組みして唄い出す鳴滝。

 一跳躍するRX、

 クウガ即近に着地、


「与えてくれぇぇぇぇぇ」


 RX背後より迫る巨大ブーメラン、


「黒いボディィィィ」


 身を回転させ遠心力で一旦ブーメランを弾く、


「真っ赤な目ぇぇぇぇ」


 その回転のままリボルケインをクウガ腹部へ、


「仮面ラァァァイダァァァァァブラァァァァェクRXっっ!」


 踏ん張り受け止めるクウガ、

 踏ん張り抉り込むRX、

 腹部を貫通した先から火花散るリボルケイン、


「仮面ラァァァイダァァァァブラッッッッッぁぁぁぁぁぁぁぁクRェXぅ!」


 Fo!


 クウガ吠える、火花が収まる、


「ん!?」


 RX右腕が見る間に変換、硬質化して二の腕へ連鎖していく。


「分かっていた。武器を使ったところで物質の変換は防げない、だが、ここからだ。」


 DDの息が上がる。


「キングストーン、フラッシュっ!」


 上半身の半分が硬質化するも、RX、バックルの輝きと共にボディが元の深緑に戻り、変化が逆走する。リボルケインの火花が再び飛び散った。


「アマダムとキングストーンは、それぞれの世界の重心、つまり等質の力を持っている。ライダーの中でも重心そのものなのは、1号、アマゾン、ブラック、RX、電王、そしてクウガとドライバーを持つ者だけだ。その先を見せてみろクウガ、そこから先が私が望む力だ!」


 RXとクウガの間、

 爆破爆破爆破爆破爆破、


 Doooooo!


「くぉぉぉぉ!」


 DDの叫びに呼応するかのように、両者の間のわずかな隙間にパイロキネシスが何発も弾ける。だがRXは顔面にすらまともに食らいながら微動だにしないでリボルケインを抉り込む。


「見せてみろクウガ、重心の中でももっとも特別な、重心を葬れる、ディケイドを葬れる力を!!」


 Wuuuuuaaaaaっっっっ!


 クウガの右拳が光る、

 RXの胸へ一撃、

 それでも怯まないRX、


「・・・・・・っ、ぉ!」


 だがしかし、徐々に同じ光が胸から拡がり、RXが全身を奮わせて、クウガから離れる、


「それだ、おまえはおまえ自身の世界で同じ2人の重心を葬った、おまえだけがこの世で特別なのだ、その刻印だけが!」


 DDの言う刻印、クウガの紋様がRXの胸からベルトへ奔流を迸らせ、


「ぐっっっっぉぉぉぉ」


 爆破っ!


 雪原に方円の窪みが出来る。

 DDが思わず顔を覆う。

 RXの最期は、キングストーンの内部爆破だった。


「見事だ、見事だぁディケイドぉぉぉ!」


 もはやなんでもディケイドの鳴滝は、眼前の、度重なる爆圧に苛まれ、腕が一本無く、肋骨がむき出し、角も片方しかないアメイジングマイティを指差す。徐にバックルを両手で開き、ブッカーを開いてカードを3枚取り出す。


「そしてこれでおまえを捕獲だぁぁ」


 だが仮面の中で確実に涎が溢れているであろう彼には、背後から近づいてくる者に感づくゆとりは無かった。


「電波投げ!」


「ハ、ぁ~」


 突如宙に舞うDD。数回錐揉みして、雪原を頭から突っ込む。そのまま失神したのだろう、動かなくなる。


「誰だか知らないけど、感謝するわ。ストロンガーの仇は私が討つ!」


 女の声だった。雪原に所々黒の紋がある赤いスーツ、吹雪く大気にミニスカートと露出した腿の肌。テントウ虫を模したその者は、


「電波人間タックル!」


5 カブトの世界 -クロックアップ- その21







「時空渦を起こすには、ハイパーゼクターが必要だ。だが、その制御の為にパーフェクトゼクターと選ばれた3つのゼクターもまた必要だ。それらが揃って電波塔に行けば、思った通りの時間に飛ぶことができるだろう。過去で何かをやり直す事も、未来を見て現在をイジる事もな。」


 士クンが、私のワールドには許容できない猿の惑星みたいな人を連れて帰ってきた。なぜか青いバラを一輪掴んで放さないのが腹が立つ。


「士クン、おかえり。」


 私、この言葉をずっと士クンに言っていくんだろうか・・・


「この錘を担いで疲れた、水か何か無いのか。」


 私、士クンの前で正座して、ステンレスボトルの一本を取って、フタに注いで、士クンに差し出す。なんかいいよね、こうやってるの。


「お婆ちゃん迎えに行ったんじゃないんですか?」


 士クンは私の差し出した容器をごく自然に手にして一気に飲み干した。


「こいつにも出してやれ、ババァの変わり果てた姿だ。」


 ウソ・・・・・

 私、士クンの背をマジマジと見つめる。

 いやいくらなんでも、でもでも、今まで信じられない事ばかりだったし、士クンは背中を見せたままこっちに顔を向けない、なにこの静寂なレスポンス、なんでお婆ちゃんがこんなマントヒヒに!


「嘘・・・・」


「嘘だ。」


 士クンはなぜか唇を富士山型にして言った。


「バカぁ」


 背を思い切り叩いてやる。


「ブェ」


 士クン、さっき呑んだお茶を床にぶちまける。ざまあかんかん。キタネエー。


「何してるんですか、みっともない、」


 私は笑ってみせる。


「カメラが汚れた、」


 怒ってるけど振り返った士クンの眼は笑っている。ようやく士クンの顔が見れた。


「ハイハイ」


 私は私のハンカチを取り出して、あのピンクカメラを首から外してやる。


「もう1度時空渦が起これば、この世は本当に崩壊する・・・・・、渦が全てを呑み込む、分かってるのか、おまえ・・・」


 士クンの目線が、大男に向いた。士クンの眼差しは、目の前の人に対してじゃないここにいない人に向けている事だけは分かった。スゴく悲しそうだった。


「人類滅ぼし尽くして妹を取り返して、だが妹と子供を作ってでも人の世界を再生させようとするだろう。てめえ勝手な事を押しつけて、独りよがりな責任感を振りかざす、あいつはたぶん、そういうヤツだ。こんなに腹の立つヤツはいない。」


 士クンが立ち上がった。


「出かけるんですか?」


 私は少しマヌケかも。


「ババァは、歩いて帰ってくる。アンタの願いは分かったとだけ伝えておけ。」


 そのまま外へ飛び出す士クン。背中を追う私。


「じゃあな夏みかん。」


 私、なぜかすごく不安になる。そんな事士クンに言われた事あったっけ?士クンは背中を見せるだけで何も言ってくれない。


「士クン、忘れモノ!」


 私はそんな口実しか思いつかなかった。

 そんな私達2人の間に、玄関の扉が間に入る。士クンの背中が見えなくなった。


「あの・・・・・、お取り込み中すいません、お水を・・・・、2日飲んでないんで・・・・」


 黙れケダモノ、

 私は親切な事にこのKYの為に黙って囲炉裏のステンレスボトルを指差してやった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その20









 電波塔直下で対峙するライダー。

 周辺の路面は液状化し、その割れた皴からは逞しく雑草が生い茂っている。


『ATTACK RIDE RADAR HAND』


 ダークディケイドに金のグローブが装着される。金のグローブには、ミサイルが備えられ、その手の甲には円形の線画ディスプレイがある。


「電波塔に近づく程に空間が歪んでいる。」


 腕を天に伸ばしてミサイルを打ち出すDD。その視線は眼前の男に注がれている。


「これが時空渦の痕跡か。クロックアップ。」


『CLOCK UP』


 カッパーメタリックのライダーがDDから突如姿を消す。


「この空間でクロックアップとは愚かな。」


 DDもまた消える。超速の残像もなく、透明の喪失感もない、まるで隣の部屋に入るように数歩で消え去るDD。

 DDの視界は廃墟の路上から、河川敷へと一変。


『RIDER BEAT』


「アバランチスラッシュ!」


 得物の短刀を振りかぶる銅のライダー、だがしかし破砕するのはアスファルトの瓦礫、


「無駄だ。別の世界に入ってしまえば、一切の物理現象は伝達しない。時空の支配者である私には、クロックアップなど児戯に等しい。」


 自画自賛のDDが嘲笑する声を、銅のライダーが聞いたのは、得物を打ち付け、半歩後ろに下がったところが、DDと同じ世界だったからだ。


「くそ、逐一景色が変わる。」


 頭を振る銅のライダー。


「仮面ライダー『ケタロス』、時空渦の影響で乱れたこの場所、なまじ倍速で動けばどうなるか、めまぐるしく世界が入れ替わる空間酔いにもはや立つ場所も分からんはずだ。」


 再び横一歩踏み出して消えるDD。

 ケタロスと呼ばれたライダー。右を向けば廃墟が見え、左を向けば砂丘が広がり、背後を振り返れば廃校のグランド。立ち眩みするケタロス、もはや微動だにせず、得物で頭を守る形で構える。


『FINAL ATTACK RIDE』


 どこからともなく音が響いてくる。

 どこからともなく手刀が飛び出してくる、


「捕まえたぞ!」


 だがケタロス、右後背から迫った銀の腕を捕まえ、絡みついて拘束、得物を振り上げボディに一撃賭ける、


『DARK』


「チェンジ、パワーハンド!」


 銀のグローブが突如赤に変わる、

 アバランチスラッシュを受け止められる、 そして逆に首に腕を絡みつけ逆に拘束されるケタロス、


「何者だこいつ!」


 ケタロスはそこで気づいた。自らをがんじがらめにするライダーはDDではない、銀のマスクに微妙に釣り上がった紅い広角の眼を持つそれは『スーパー1』。


『dededeDECADEee!』


 蹴り足が突如出現、

 どこに?

 ケタロスの腹部を割いて、体内から飛び出てくるダークディケイド、


「おまえの名前が!もっともダサぃぃぃぃぃ」


 爆破、

 DDが蹴撃の態勢から遠く離れ着地した直後爆破するケタロス、絡みついたスーパー1もろとも、爆風となってDDを仰ぐ。


「これで、準備は整った。」


 爆心に歩み寄ったDDは、土に埋もれる1枚のカードを手にする。先のケタロスの顔が描かれているカードを。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その19







「まず聞こう、あのソウジという男の妹はどうなった?」


 お婆ちゃん、はやや卑屈に笑みを浮かべた。


「見込み通りだね。だけど、アンタ、そこで胡座かいちゃ、私が育て上げたソウジに到底敵わないねえ。」


 お婆ちゃんはそう言いながら、先に士に倒されうつぶせになった悪漢の背によっこら腰を落とした。ウッと死後硬直の反応ではない呻きを上げなお失神している男。


「自明だ。あいつが妹と口にした段階から気になっていた。在って当たり前の存在、つまり家族だ。この世界のものが手当たり次第に消えていく現象と関係あるのか?」


 士は、ソウジの時もそうだったが、いつも通り対話のイニシアティブを取れない事に苛立ちを覚え始めている。もちろんこの手合いはこれまでにもあった。整然としてやるだけだ。


「この世界がおかしくなったのは、あのけたたましい音で渋谷に降ってきた隕石からだ。この辺まで風と火の粉と岩が飛んできたものさ。世界中、海の向こうもこの国も全部津波に襲われて人が死に、海の底に眠ってた悪い菌が広まって人が死に、人手が無くなって全てに立ちゆかなくなって、まともな生活ができなくなって、世界中飢えと過労で人が死んだ。最後に聞いたラジオ放送だと、世界の半分は死に絶えたそうな。」


 士はこのままこのババアをノセてみるかと思い始めている。


「だが災難はこれからさ。隕石の中からアンタが持ってるそれ、虫が何匹も出てきた。何の為に使うのか分からないままにね。大概人ってのは、そういう時力を見せる為に使うか儲ける為に使う。儲ける事はもうこの世の中じゃできないから、人を従わせようと、どっちみち暴力に走るものがまず来る。次にその暴力から人を守る為に力を使うものが出てくる。必ず力を持った者同士がぶつかり合う事になる。そして、」


 お婆ちゃんは尻の下にへばっている悪漢の頭を杖で2、3度叩いた。男は呻いて意識を取り戻すが、容易に動けない。未だ、足があらぬ方向を向いている。


「オレは、ただ・・・・・、こいつのバイクと食いもんを獲りたかっただけだ・・・・」


「落ちぶれたもんさ。この世の力の全てを手に入れたこいつは、あそこに見える電波塔に昇って、奪った虫の全部の力を出してみた。たぶんこいつ自身知らなかったんだろうよ。集まった力はただ暴走し、世界中のあちこちの空に穴を開けて、建物だろうが人だろうが全てを吸い上げて、そして御覧の通りの廃墟になった。もう半分人が減った。たまたま穴から生還した人間も中にはいてね、違う場所や、昔に戻っちまった人間が何人も出てきた。口伝えに、こいつが起こした天変地異は、時空渦って言われて恐れられたのさ。ひよりも飛ばされてしまったんだよ。気の遠くなる程の時間の果てに。」


「ひよりというのか、ヤツの妹の名は。」


「ソウジとアラタは、こいつに挑んだ。ひよりを取り戻す為に。止めたんだけどね。だけどソウジは聴かなかった。なまじ金色の剣をこいつから奪った事で、なんでも出来ると思い込んじまった。」


「てっきり世界のあちこちで消えかかっているせいだと思っていた。ババアが身動き取れないと思って、ロープやら救急箱やら積んできたんだぞ。」


「バカにされたもんだねえ。そんなこたぁもう慣れっこさ。それより、いつまでもノビてるこの馬鹿たれを家に運んでくれんか。私は自分の足で帰るよ。」


「時空渦は、」悪漢が起き上がった。「おまえが起こすのではないのか?!」


「誰がそんな事を言った。」


「バカだねえ、この子は。本当に。」


 士とお婆ちゃんがほぼ同時に叫んだ。

 お婆ちゃんの尻に敷かれた巨漢の男が、ヒィヒィと泣き始めた。


「ごめん、ごめんよ、おふくろ・・・・、おふくろにだけは、謝ろうと、思ってたんだ・・・」


「母親?」


 驚く士に、杖で何度も頭を叩くお婆ちゃんだった。


「そう、私のただ一人、腹を痛めて産んだ子がこいつさ。だから捜して懲らしめて欲しかったのさ。こいつの父親はかわいい男でね。それなりの幸せにしてくれたんだけどねえ。育て方を間違えちまった。」


 士は悲しい母子を前に、動く事ができないでいる。


「望みはなんだ、アンタが冥土に行く前くらいにはかなえてやる。」


 お婆ちゃんは、よっこら立ち上がって、デニムについた埃を祓った。


「ソウジに会ったら、もう妹は帰らないと懲らしめておくれ。それから、アンタ達を拾ったあの頃、私の半分くらいの背で、アラタと3人して私にしがみついて泣いてたあの頃を思い出せって。」


 士は掌を1度交互に祓った。


「要するに、一発ぶん殴れってこったな。」


 お婆ちゃんと士、互いに高笑いした。だがそれもほんの一時、ほぼ同時に真顔になり、笑いが止み、微風だけが音を立てた。


「バハア、そこまでの事ならアンタはオレをここに呼んだりはしない。」


「アンタが私の期待通りのもんだった時、教えておこうと思った事がある。」


「それは誰にも、この世界の誰にも聞かれたくない事だ。だからこそオレをここまでやってこさせた。それは即ち、」


「アンタは私の期待に見事応えた。二人だけになるように動いてくれた。これから話す事は即ち、」


「アンタ自身に関わる事だからだ。ババア。」