2011年1月3日月曜日

2 剣の世界 -進化の終点- その9






「油断した、だがもう遅い、ここからはアンデッドの世界だ、見ろ!」



 カリスが間合いを取って、指し示したのはカズマ。



「アマネちゃぁぁぁaaaaa」



 カズマの目には苦悶と後悔の涙が途切れる事がない、そしてもはや留まるところを知らぬ衝撃波がカズマの全身を逆光でくるんでいき、カズマを人外の怪物へと変貌させていく、その頭は長い2本の触角、耳まで裂ける口元、伸びる爪、黒皮のスーツが全身を拘束していく、ベルトは、あのウルフや鎌田と同じ楕円の大きなメダル。



「『ジョーカー』、カズマの奴がこの世界のジョーカー。」



 ディケイドはなぜか知っている記憶の断片が憎くて仕方なかった。



 ジョーカーの拳が足下の歩道橋を裂く、

 中央から折れて陥没する歩道橋、

 下の駐車車両のルーフがへしゃげた、

 アマネが落下、カリスもディケイドも、そして砕いたジョーカー自身が落下する、



「見境が無い」



 ディケイド、アマネを抱きかかえつつ落下、アスファルトに背中を強く打った。

 ジョーカーであるカズマはワンボックスの中へ落下、やや静寂の後で子供を含む家族連れの悲鳴が轟き、ワンボックスの窓という窓が赤い色に染まった。



「ディケイド、さっきはよくもやってくれたな。」



 倒れたディケイドの視界に、髪の毛だけはきっちり整えた鎌田の引き攣った笑みが入った。脳震盪気味のところへ喉を踏みつけられ身動きが取れなくなる。



「下品ピンクのおかげでせっかくの舞台も仕切り直しだわ。まあこの子が手の内にあればいくらでもやり直せる。」



 ディケイドの震える腕から強引にアマネをはぎ取るのはカリス。



「待て・・・・」



 叫ぶディケイドの肉体はまだ指一本動かせない。



「こいつを殺せ、カリス!」



 鎌田が狼狽えたように叫ぶ。



「自分でやれば。こいつを殺してしまえば、私と共闘してる理由が貴方には無くなる。違う?」



「ええい、足元を見おって。」



「下品ピンク、アンデッドの弱点はベルトよ。」



 カリスはアマネを小脇に抱えて跳躍、車を蹴り、信号機を踏み越え、電線に釣り下がり、ビルからビルへ飛び移っていった。



「裏切る気か!」



 鎌田が悪い油汗をダクダクと顔に流しながら、しかしディケイドに向けて不敵な笑みを浮かべ、そして腰周りからベルトが浮かび上がる。ジョーカーと同じ楕円のバックルだ。



「足を退けろ、」



 ディケイドが足掻く。



「キサマの最後だ。我が戦友に捧ぐ。」



 おぼろげに姿が人間のそれで無くなる鎌田。



「加齢臭がするぞ。」



「する訳ないだろ、私はアンデッドだ。」



 と人間態に寄り戻る鎌田。ベルトだけが浮かんでいる。



「その通りだ。」



 ディケイドはバックルにカードを一枚装填している。



『ATTACK RIDE ILLUSION』



 倒れたディケイドが何人も出現、いつのまにか起き上がって鎌田を取り囲んで睨みつけた。



「こ、こいつ、」



 包囲された鎌田が計6人のディケイドから一斉にパンチを食らう。いやパンチは空を切った。



「鎌田、逃げるな!」



 見れば4つんばいになってディケイドとディケイドの隙間を潜り抜けて包囲から脱している鎌田。



「おまえの始末は、また今度にしてやる!」



 既に立ち上がっているディケイドに不敵な笑みを返す鎌田。そんな鎌田を例のオーロラが透過していく。鎌田は必死で髪の毛を整えていた。



「なんなんだ、あのバカは。」



 その背後、炸裂するワンボックス、



「ジョーカー、」



 ディケイドは振り返る。ワンボックスが前後に引き裂かれ爆炎を上げている光景が広がっている。だが対手の姿は見えない。



 頭上、

 打ち下ろされる爪、

 紙一重で躱すディケイド、

 爪はそのままアスファルトに亀裂を、



「どうした、理性を失ったか、それとも誰かからオレが悪魔だとでも聞いたか!」



 ディケイドはブッカーをソードモードに切り替え数合に渡り、ジョーカーの爪と伐ち合う。

 野生そのものでありながら、ただ力を暴走させている訳ではないジョーカー、隙の無い素早い爪の動きは、ジリジリとディケイドを推す。



「殺るしかない!」



 下から掬い上げのディケイド、

 打ち下ろしで刃を合わせるジョーカー、

 それを流してブッカーごと刃を地面に刺すディケイド、

 そうした上で拳を繰り出す、

 だが多少怯むだけで動じないジョーカー、

 もう一度繰り出す拳、

 今度はジョーカーも応える、

 クロスカウンター、

 互いに怯んで後退り、間合いが開く、

 中央に突き刺さったブッカー、

 向かって駆ける両者、

 すれ違う、

 抜いたのはディケイドの方、

 刃を振り上げるディケイド、

 袈裟斬りにされるのも構わず懐に踏み込んで爪を振り落とすジョーカー、

 倒れるディケイド、

 しかしその爪によってではない、自ら倒れた、倒れ片足を上げ、足裏でジョーカーの腕を受け止めている、

 銃口はジョーカーのベルトへ密着、



『ATTACK RIDE BLAST』



 ゼロ距離から数十の光弾が圧する、

 棒立ちで放心するジョーカー、見る間にその姿がカズマのそれに戻っていく。



「殺せば、良かったものを・・・・」



 ディケイド、立ち上がりフォームを解く。額から血を流した門矢士がその卑屈な顔を晒す。



「殺すつもりでやった、アンタがしぶといだけだ。」



 士の眼前にはなお煙が吹く廃墟が広がっていた。

2 剣の世界 -進化の終点- その8






 風に掬われるようにブレイドの手元からカードが飛んでいく、

 それどころかブレイドがバックルに収めているカードが次々と宙を舞って、鎌田の方へ意志でもあるかのように流れていき、

 最後には、エレメントが展開、スーツが強制的に着脱され、スペードAのカードまでもがバックルから飛び出していった。



「ケルベロスか。」



「カズマ!」それは女声。同じ歩道橋である。「これで貴方は丸裸。まずはブレイバックルをお返し。」



「天王路みゆき。」



 立つ女はBOARDの社長。男装でネクタイを絞めているものの、髪は束ねておらず、なお止まぬ爆熱の気流になびいて、うなじが見え隠れする。



「逃げないでね。貴方が逃げちゃうと、この子の人生がここでオシマイになっちゃうから。この子、アンデッドと違って死んじゃうんですものね。」



「カズマちゃん!ごめんなさい!」



「アマネちゃん!」



 みゆきが手を引いているその少女は、ランドセル姿のアマネ。アマネが学校から消えた事がハカランダのハルカに伝えられたのは、午後を回ってからであった。



「社長、私が確保しました!」



 呆然とするカズマの背後から忍び寄ってバックルを奪い取り、サクヤ菱形は高々と掲げた。



「あの男も始末してしまいましょう。もうギャレンも一新されていい頃だ。」



 小声で鎌田が囁く。みゆきもその細腕で足掻くアマネを拘束しつつ目を細める。



「どうしてあの子は空気が読めないのかしら。」



「社長!もういいでしょう、その子はもう要らないはずです!」



 叫ぶサクヤをカズマが制した。



「ムダだ。奴はベルトも社則も目的ではない。奴の目的はただ1つ。オレとの闘いだ。」



「會川カズマ、そこで待っていなさい!」



 どんなにもがいても解けないみゆきの腕の中で、アマネが狂ったように叫んでいる。



「存分に楽しむがいい。私は今は、このハートのジャックだけで十分だ。」



 鎌田は吸引した十数枚のカードを扇状に持ち、その内の1枚を引く。そこには狼の絵が描かれていた。



『FINAL ATTACK RIDE dededeDECADE』



 鎌田斜め頭上、既に蹴撃の体勢から突っ込んでくる目眩がするほどのマゼンダの発光。



「ディケイドぉぉぉ」



「ちょっと痛いぞぉぉぉ」



 鎌田の首筋にディケイドの爪先が入る、

 悶絶して倒れる鎌田、

 そのまま首を足で抑え込むディケイド、

 緑の血が歩道橋一面に散乱した。



「オレは、不死身だ、この程度でやられはせんぞ!」



「20年前ならそれでビビる奴はいただろうが、今じゃこう言うんだ、どの程度まで切り刻んでも死なないか試してやろうかってな。」



「ひえぇ」



 泣きわめく鎌田の頭を依然抑えつけ、みゆきにブッカーを構えながら、歩道橋一面に散乱した内1枚のカードを拾い上げる。蜘蛛の絵が描かれている。



「これがラウズカードか。」



「貴方がディケイド。噂通りの悪趣味なピンク。これは貴方の玩具じゃなくてよ。」



 速い、



 ディケイドは鳥肌が立った。至近である。眼前にみゆきの笑顔があり、手にあったカードをひったくった。もっとも驚くべき事は、全てアマネを抱えたままでみゆきが動いている事である。



「なんだこいつ、」



 ディケイドの危機感は生身のみゆきにブッカーを乱射させた。本来なら卑怯の領域である。しかしみゆきの高慢な笑みは至近からの銃弾を紙一重で躱し間合いを取る余裕すらあった。



「変身」



 アマネを抱えたままハート型のバックルを腰に充てる。たちまち姿を顕す『カリス』。弓のようにも見える左右双刀の得物を振りかざし、踊り掛かってくる。



「なんだ、この強さは、」



 といいつつ引きながらその刃をブッカーで受け止めるディケイド。受け止めつつも立て直し、リズムを外して死角に一撃掛けようとする。



「甘い甘い」



 だがその死角にアマネを抱えているカリスが一枚上手だ。

 この時ようやく首から足を除けられた鎌田が起き上がり、まず髪型を直し、次いで緑の血を拭った。ウルフのカードだけは手放していない。



「へ、ディケイド、ここで討ち取られるがいい。」



「どけ!」



 鎌田が飛ばされる。それはまあ塵が一息だけで飛ぶように。見事な放物線を描いて。歩道橋の柵を越えて路上へ頭から落下。



「アマネちゃんを放せ、目的はオレのはずだ!」



 勢い突き飛ばしたのは、歩道橋を上がってきた會川カズマ。カズマのバックルを取り上げたはずのギャレンは、どこをどうやられたたか知らないが、そのバックルを掴んだまま路上で大の字にノビていた。



「この子を殺せば、貴方は私に本気になってくれるかしら。」



 カズマの全身から湯気立つ程の凛気が感じられる。



「ふざけるな!」



 カリスはディケイドに向かって、得物から光弾を放ち威嚇。



「そうね。貴方は私に近づいてもうウズウズしているはずよ。こんな子の事も頭から吹き飛んでただ戦うだけしか考えられなくなってる!」



 うぉぉぉぉぉ、



 カズマの猛り狂った顔が、人外の領域に入る、吠えたその奇声も既にヒトのそれではない、凛気が物理的なエメラルドの輝きを伴って物理的に歩道橋の柵を圧迫して歪めていく、



「イタイ、目が、目が!」



 カズマから円周状に衝撃波が放たれ、アマネも充てられた瞬間視野を失った。

 もがくアマネをなお抱えつつ、カリスもなにか恍惚したかのように立ち尽くす。



「さあ、闘いなさい。私もこれで本気で」



「隙だらけだぞ。」



『ATTACK RIDE SLASH』



 カリスの背後より迫る多重の像と化したブッカーの刃、それはディケイド顔面の縦縞のよう。

 前のめりになるカリス、そこでようやくアマネが解放され、ディケイドが代わりに抱きかかえた。



「油断した、だがもう遅い、ここからはアンデッドの世界だ、見ろ!」

2 剣の世界 -進化の終点- その7







「社長!許可を願います!」



 入室した黒スーツ社員の手に握られているのは、『アンデッド封印の件』と名打った稟議書。既に経費の経理部、アンデッド探知報告の警戒センター、対アンデッド資料出荷許可の情報管制部、そして武装の使用許可を司る装備管理課、労災を処理する厚生課、エースの勤怠を管理する勤労課、その他諸々の総務部のそれぞれの許可が判され、後は社長の許可を待つばかりである。



「4分かかってるわ。10から6に降格よ。」



「社長、それだけは!私には澄子という身重の妻がぁ!」



「家族なんて非合理的なものを持つからいけないのよ。それとも、北条くん、と呼ばれたいの?」



 無言で退出した6クラスの社員であった。

 みゆきは、ノートパソコンを開いて、社内LANで『アンデッドサーチャー』のデータを眺める。格子のグラフに線だけで地形が映像化され、その中の一点『CRAB A』とロゴを掲げるポイントが微妙に動いている。



「全ては、ムツキがレンゲルを装着する事から始まる。」







 路上センターラインを糸を垂らしながら疾走する異形。

 周辺市民の避難が完了しないままに展開される銃撃戦。

 車中に身を潜める者、歩道を逃げ惑う者、ケータイで写メを撮ろうとして首を寸断された者、逃げ惑う友人に推し倒される形で首を複雑骨折した者。炎の弾丸に穴を空け爆破する一般車。

 たった一匹のアンデッドの為に街は地獄絵図と化した。



「マテェェェェェ」



 と叫びながら追いかけるのは濃紅のギャレン。おいかけられるアンデッドは『スパイダーアンデッド』だ。

 その惨状を四駆から眺める男がいた。



「何をやっているんだサクヤ。これではアンデッドと同じだ。」



 トラックの幌に登ったスパイダー、逃げ惑う女性の1人を糸で絡め、ハンマー投げの要領でギャレンに投げつける。



『ドロップ』



『ファイヤ』



『バーニングスマッシュ』



「トドメだぁ!」



 放り投げられた女性を避け様跳躍するギャレン、そのまま宙で放物を描いて、スパイダー直上より炎を纏った蹴りを見舞う。



 爆破するトラック、



「奴は既に別の車両に移っている。」



 炎上する中心に立つギャレンの影は、なお敵を求め首を左右に動かす。



「アンタもいたのか。」



 カズマは路上、女性を抱えていた。放り投げられ失神している女性から糸を払い除け、そのまま路上へ横たわらせる。

 立ち上がり、『ブレイバックル』を握るカズマ。バックルに『スペードA』のカードを挿入、腰に充てると、トランプが数珠繋ぎしてカズマに纏わり付きそれはベルトと化す。



『ターンアップ』



 バックルのレバーを引くとAのカードがバックル内部に収まり代わってスペードの文様が現れる、同時にカズマ前面に展開するのは光の壁エレメント、それが自動的に後退してカズマの全身を通過していく。



「ブレイド!」



 ギャレンが叫び突進する。

 カズマが纏ったその姿こそ『仮面ライダーブレイド』と呼ばれる紫紺の戦士だった。



『ビート』



 向かうギャレンに拳で迎撃、顔面を直撃したギャレンが弾き返され路面を転がる、



「裏切り者・・・・」



 ギャレンのマスクが半分欠け、サクヤの血まみれの左目が露出している。



「おまえの武器は街に被害を与えすぎる。黙って見ていろ。」



「会社は人命よりアンデッド捕獲を優先している、キサマは会社の所有物を無断で使用し、」



「おまえもそれがおかしい事は分かっているだろ!ベルトに振り回され過ぎていると言ってるんだ!」



 サクヤは呆然とその紫紺の背中を眺めた。

 トラックから歩道橋に移って何人もの人間を糸で絡めて捕獲し吊すスパイダーアンデッド。そのスパイダーに向けブレイド、手まねきをして挑発する。



「おまえもアンデッドなら、オレと戦いたいはずだ。人間に八つ当たりするよりもな。」



 言う通り、ブレイドにその3つの目を留めたスパイダーは震えながら吠えて歩道橋を跳んで突進。



『スラッシュ』



『サンダー』



『マッハ』



『マッハスラッシュ』



 スパイダーの口から糸が飛ぶ、

 だがブレイドの肉体を透過、既にそれは残像、

 狼狽えるスパイダー、

 脳を突くように聞こえる衝撃音、

 スパイダーの周囲を取り囲む十数枚の刃、

 中心スパイダーに時計回りに斬り裂く、

 絶叫を上げ爆破、

 刹那大気から朧げに出現するブレイド、

 スパイダーのバックルが縦に割れる、

 カードを投擲するブレイド、

 吸引されるスパイダーの肉体、

 カードは蜘蛛の絵とクラブのAの文字を刻んでブレイドの手元に戻る。



「貰ったぞ。ブレイド。」



 男の声が歩道橋から聞こえた。頭髪の薄さを隠す為に横から無理に髪を持ってきているあの鎌田だ。あの鎌田が、1枚のカードを振りかざし、高笑いしている。

2 剣の世界 -進化の終点- その6






「はい、食券1枚と交換で、エースの4弁当ですね。ありがとうございます。」



 まずごはんを一口。



「うむ、それはエビが美味いぞ。」



 続いて酢の物を半分。



「今度10枚綴りの食券が同じ値段で12枚綴りになりましたよ!各ランクさん共通です!この機会に是非どうぞ!」



 ごはんをもう一口。



「うむ、お得感倍増だ。」



 そしてメインのカツへ入る。



「士!」



 多少怪訝な顔でブロッコリーを口の中に入れる士だった。



「おまえ何エース弁当を客の前で食ってんだ!」



 腹が減っていたとは口が裂けても言わない。



「プレゼンテーションだ。ここでオレが食ってる姿が、次の購買意欲に繋がる。」



「ヌケヌケとそういう事をだな、」



 と言い終わらない内に巨漢女性が体当たりを敢行、



「私もこれちょうだい!」



 続いて2人、3人と寄り集まり、



「今日は牛丼じゃなくこっちにするぞ。」



「ハク、ハク、私は千尋よ、」



 そして怒濤のごとく人が押し寄せて一斉に去り、煙が晴れた時、食券と空の弁当箱、そして割り箸とどういう訳か靴跡にまみれて伸びているユウスケと士がいた。



「どうだ、10分で完売だ。新記録だ。」



 と立ち上がる士からは震えが止まらない。ユウスケもやはり震えながら目に青痣をつけて立ち上がる。



「初日だ今日・・・・、とにかく、後は上級への配達だけだ。これが『剣の世界』なのか?」



 違う。







「K弁当だ。」



 士は知らないが、彼が対面している2人こそはサクヤ菱形と、ムツキだった。

 ムツキはKの弁当を素直に受け取るが、蓋を開けず士と目を合わせようともしない。



「待て、」と目を血走らせて叫んだのはサクヤ菱形。「エース弁当はどうした!」



 Aとマジックで書いた食券を突き出す。



「言ったぞ。今日はエース弁当が売り切れだ。その代わりこの2の弁当が残っていると。」



「なんだとキサマ!オレはな、ハカランダの弁当だけがこの会社の楽しみなんだ!分かってるのか!エースだぞエース!」



 実は先に士が食べていたものがエース弁当であったが、士はそんな事おくびにも出さない。



「エース?食券にマジックで書いてある程度で、おまえのような品の無い奴がエースだと信じると思っていたか。」



「キサマ、無礼だぞ、大体この会社でエースはオレただ1人、なんでただ1人の為に作られた弁当が売り切れになるんだ!」



「そんな理屈は知らん。売り切れたものは売り切れなんだ。エースだかなんだか知らんが、品が無い、頭が悪い、きっと頼りにならないような奴の言う事は信用できない。」



「ムチャクチャだぞ士。申し訳ありません。明日私が特上のエース弁当をご用意しますので。」



 と事情が事情だけに士を制止するのもはばかるユウスケだったが、さすがに最後は止めた。謙って手もみし愛想を振り撒くユウスケの姿は、ある世界ならば英雄であり救世主である男のそれとはとても思えない。



「そこがまあ、こいつの良いところだ。」



「何言ってるんだ士。」



 そこへけたたましい警報が鳴り響き、士とユウスケ以外の、BOARD社員全ての顔が引き締まり、忙しなく動き出す。



『アンデッド出現、アンデッド出現、社員一丸となってアンデッドを封印しましょう。』



 サクヤ菱形の顔もまた引き締まる。



「ムツキ、社内の案内はこれまでだ。おまえは先に行って管理課から装備と車両の承諾を手続きしろ。」



 士を一瞬見やった青年ムツキは、不敵な笑みのままサクヤに一礼した。



「キングですよ。ここでは。これ、食べてもいいですから。」



 と一口もつけていないK弁当をサクヤに差し出し、他の社員の流動に乗って行ってしまった。



「アンデッドだぞ!士!」



 テンションがはねあがるユウスケ。



「小物臭いぞユウスケ。」



 その2人を黙して眺めるサクヤ菱形だった。



「おいおまえら、ハカランダの人間なんだろ。」



「そうですよ。」



「おかしな事を聞くな。何が言いたい。」



「カズマ先輩に言っておけ。そこはもうバレている。オレはアンタと力でケリをつけたい。」



「どういう事です?」



「大体分かった。」



「分かったのかよっ」



「今度のアンデッドを封印すればオレに新たな力が宿る。それを続ければいつかは・・・」



 とそのままブツクサ言いながら2人を置いていくサクヤだった。



「なにバカな事言ってんだ。士も。」



「大体分かった。言ったぞ。」



 士にしてみれば、明瞭である。

 サクヤ菱形はこの会社で唯一のA、つまりこの会社で唯一の仮面ライダーである。この仮面ライダーが力で越えたいというのだから、カズマもライダーかライダーだった者だろう。そして自身があのハカランダにいる必然性を考慮し、なおかつサクヤや会社が狙っているのだから現在でもなおライダーである可能性が高い。サクヤは、そのカズマに忠告してやっているのだ。カズマは会社から狙われるライダー。ならばその戦いに乱入してみるのが、この世界での自分の役割だろう。

 だがそこまではちんぷんかんぷんのユウスケに解説してやる必要も、態度も出さない士だった。

2 剣の世界 -進化の終点- その5







「COMPLETEのカードにキバと龍騎のシンボルが刻まれた。これが世界が救われたフラグか?」



「そんな分からない事仕方ないじゃないですか。それより、どうして士クンは、あのボードビルにいかないんですか?」



 私の目の前には、とても大きな栗が上でツヤツヤと乗るモンブランがある。食べてくれ食べてくれと私の耳に聞こえてくる。だから食べてあげないとかわそうでしょ、そうでしょ?



「現代に蘇った不死身の生命体『アンデッド』を封印する会社BOARD!」



 丸テーブルの隣でサンドイッチを頬張るのは小野寺ユウスケ。赤いチェックのシャツの上から赤いジャンパーをかけている。もうすっかりこの3人でいる事が自然になってしまった。なんかイイよね。



「知るか。オレはこの世界では、料理人なんだ。」



 同じ丸テーブルで脚を組んで小指を立ててブラックを啜るのはジャージの上からヒラヒラ付きのエプロンをつけ、頭にタオルを巻いてるのは士クン。



「ツボ!」



 たちまち激笑して椅子に凭れながらあられもない姿を晒す士クン、ざまあみろ。



「士クンは昨日、このお店のまかないになったばかり!」



 そう、客席に私達しかいないがここは喫茶店、桐モドキが和名のハカランダ。その安心感を覚えるはっきりした木目で彩られた店内はなんとなく好き。しかもこの雰囲気で意外と料理はオイシイ。モンブランがおいしい。たとえ他のケーキ専門店で仕入れていたとしても。



「ふざけてないで、配送の準備をしろ。運転はオレ、助手と客の応対はおまえだ。」



「いてえ、煩えな。」



 この人を目の前にした士クンの態度は、いつもと少し違ってておもしろい。士クンは椅子に座って背の高いその人を怪訝に見上げ、その人は直立した姿勢で見下ろしている。

 その人は、このお店の従業員會川カズマという人だった。年齢はたぶん士クンと同じくらい。背は士クンより頭ひとつ高くて、顔も士クンとどっこいくらい。ちょっと少年っぽい顔かな。でもどういうわけかこっちの方のが貫禄というの?落ち着きといういうか、枯れた魅力が薫ってくる。そして絶対士クンは苦手な人だ。カッコ笑い。



「2人ともまだ弁当の準備ができてないよ。こっちへ早く!」



 と黄色いクチバシから出たような声が厨房から響いて、飛び出してくる少女がいた。まだ7、8歳だろうな。



「アマネちゃんはもう学校に行く時間だよ。」



「走っちゃうからあと20分大丈夫だもん。やるもん!」



「仕方ないなぁ。」



 ああ、カズマさんの顔が蕩けていく・・・、これが無ければイッツパーフェクトなんだけどなぁ。







 叱るのはこの店の店主にしてアマネの母親である栗原ハルカという細面の女性。もしかしてアマネを10代で産んだのだろうかと勘ぐってしまう程若く見える。



「だって勿体ないと思ったから・・・」



 叱られるのはアマネ。ステンレス台に5×3に並べた弁当容器へ、大皿と菜箸をそれぞれ持って次々と盛っていく作業中、ブロッコリーを一個落としてしまった。それだけならまだ良かったが、それをアマネはAランチに泥を祓っただけで戻してしまったのだ。

 母親のハルカは激怒する。客にお出しするのだから失礼であると。至極当然である。



「いいもん、じゃあ私が食べるもん!」



 母子が感情的になりそうなところ、アマネの肩に両手を置くカズマの間は重い。母子の2人が、そして同じ厨房にいる士すらカズマを凝視して口を閉じる。

 カズマはアマネに微笑みかけた。



「アマネちゃん、アマネちゃんがお腹壊したら、オレが悲しくなっちゃうよ。」



「カズマさんまで、」



 アマネは黙って俯いた。そんなアマネに腰を落として目線を合わせるカズマ。



「じゃあ中を取って、オレの昼飯にしよう。それなら誰も困らない。」



「イヤ!カズマちゃんがお腹壊しちゃイヤイヤ!」



「ね、それを食べたら、誰かが今のアマネちゃんみたいに思うんだよ。その気持ちが分かった?」



「うん・・・・ごめんなさい、カズマちゃん。ごめんなさいお母さん。」



「よしいい子だ。もうこんな時間だ。今日は僕がバイクで途中まで送っていってやろう。」



 頭を撫でてやるカズマ。カズマとの2人乗りと聞いて喜び勇んでランドセルを取りに駆けるアマネだった。

 ハルカが一礼し、士に気まずそうな顔で仕事をうながすカズマ。そんなカズマを見て士は唇の端がせり上がった。



「子供に甘いなぁ。ズルを覚えて世間を甘く見る年頃だぞ。徹底的にだな。」



「昨日今日来た新人はあまり口出ししない方がいい。」



 士の目が輝く。敵の急所を見つけた瞬間だ。



「大体分かった。ロリコンという事で収めておくさ。」



 士は挑発した。

 カズマはしかし、動揺を見せず一心に弁当に炊きたてのごはんを詰めていた。

 士は劣等感にさいなまれたものの、顔には出さず、あえて優越したふりを顔に出した。







 10時を越えると配達の時間。小さな会社数件には、あらかじめ注文を受けていた数を用意して置いて周るだけの仕事である。そして大きな会社で昼に弁当を売りながら、帰りに逆ルートをたどって空容器を回収していく。つまりはこれが門矢士がハカランダにてあてがわれた仕事である。



「でユウスケ、おまえはどうしてこの4駆に乗り込んでるんだ。」



 ハカランダは弁当の配送に、2リッターの4駆を使う。



「そりゃ士が半人前だからさ。」



 士がそうであるように、士の隙を見いだそうとする人間もはなはだ存在するのが世間というもの。後部座席で士とユウスケが並んでいる。



「ていうか、ユウスケ、どうやって写真館についてきてるんだ。」



 カズマの手前、世界を跨いでいる事を伏せる士。



「それは、私がいるからよ。」



 ピュー、



「そうだ、おまえも前々から聞こうと思ってたが、何者だ。」



 それは奇っ怪な生き物だった。もしかしてロボットかただのリモコン玩具かもしれない。



「キバーラだよ。キバの、キバのさ。」



 『キバの世界』と言いかけ冷や汗をかくユウスケは『キバーラ』と言った、自在に車内を飛び回る掌サイズの白いワッペンのような、それでいてコウモリのようなその女声の物体を、肩に乗せた。

 そうして左の人差し指をキバーラの牙のところまで近づける。キバーラはその指に囓り付き、なんとユウスケの血を吸い出しはじめた。



「おまえら、怪し過ぎだぞ。」



「あ~ら、怪しさは女のチャーミングポイントよ~ん。」



 空を切る音だけをさせて浮くキバーラ。この掌サイズのくせに人語をスラスラ語る事でもいびつに恐怖すら覚えるが、行動もその能力も言動も全てが怪しい。



「でも、こいつに連れてきてもらったお礼にオレの血を分けてやってるだけだし。こいつ血しか食べられないんだ。栄次郎さんも言ってくれてたじゃないか。旅は道連れって。」



「おまえら、こそこそダベってないで、そろそろBOARD本社だ。ここだけは売り子をしてくれ。オレは駐車してるから車内から離れるわけにいかない。おまえたちだけだが頼む。」



「はい、カズマさん!」



 ユウスケは対士の為に味方を増やす手段を打った。



「このオレの手にかかれば、一瞬で全て売り尽くしてやるさ。」



 士は右の人差し指を高くかかげで大言を吐くも、車の天井に突き指した。



「そういうんじゃない。食券を持ってくる人に手渡しで交換してくれればいい。食券にはそれぞれAからKまでの数字が描かれているその割り当てで弁当を交換してくれ。25階層働いてる社員の4割ほどが詰めかけてくる。置いてるだけじゃ裁き切れない量だから、店の方がやる事になってるんだ。いいか。上級ランクは1人1人配達するんだぞ。」



 このカズマという男は絶えずゆとりを失わなかった。たとえ、キバーラがその頭上を旋回しようとも。微動だにしなかった。

2 剣の世界 -進化の終点- その4







 ここは「いせや」という呑みや。

 屋外まで立ち上る焼き鳥の煙に誘われる重労働者が、今日もお湯割りを飲み干している。



「ここは焼き鳥じゃなく、実はシューマイと煮物なのだ。スポンサーがついたのだ、どんどん呑みたまえ。」



「君にはすまないと思っている。それもこれも全てがディケイドのせいだ。」



 誰がどう見ても人生の斜陽に入った中年男性2人、あの鎌田と鳴滝がカウンターで立ち飲みしていた。



「私は君の力を借りて、マスターに成り代わりこの世界の重心となる。君はディケイドを倒す。君のおかげで、私は他のアンデッドに対して絶対のアドバンテージを手にいれる事ができた。アビスもそうだが。全ては順調にいっている。」



「うむ。アンデッドマスターは実体があって無い存在だ。マスターの敷いた闘争の原理をその胸の中に抱くアンデッドが1人でもいれば、不滅なのだ。それに対抗する為には君に様々な世界の力を得てもらいたい。私の切実な願いだよ。」



 どうやら鎌田の目頭は煙にやられたものではないらしい。



「ビールはどうだ。」



 鎌田も鼻を押さえた。



「いや私はうめぼしで十分だ。」



「共に世界を。」



「共にディケイドを。」



 2人の間を焼き鳥の煙が漂う。



「ところで、例のモノは。」



 鎌田はハツをひと囓りした。



「これだ。違う世界で見つけた。」



 鳴滝は、ボンジリを横囓りしながら1枚のカードを取り出す。絵柄は三つ首の獣、文様はトランプ4種のどれにも属さない事を意味するワイルドベスタ、そのAのカードだった。







 BOARD(株)。

 この世界の脅威である『アンデッド』への対抗手段を、特許として独占し、半ば傭兵として働き、その支援金を以て営利とする民間企業。ライダーシステムという世界に4つしか存在しない希少な『バックル』を、会社の資産とし、行使できる者は、会社の社員に限定し、日夜経費の削減とアンデッドの完全封印を目指している。

 その装着者の資格は、数百人規模の社員全員にありながら、実際の装着者は現時点で1名、サクヤ・菱形のみである。それ以外の候補者は全て後方要員となり、純粋な戦闘集団として独特の階級が設定されている。待遇も厳格に決められたポジションはその実流動性があり、働きに応じて分単位で配置換えなどという事がこの会社では当たり前に起こる。つまり力量があれば即座に上の階級に上がれるが、少しのミスでそれこそ下に転落する可能性がどの社員にもありうるという事だ。社長天王路みゆきの方針は、公正な自由競争、でありそこから生まれる活性された組織活動をこそ、BOARDを企業力の根底であると自負している。天王路社長の果断な性格は、階級に応じた社内入出エリアの制限や社員食堂のメニューに格差を設けるところまで貫徹している。



「この度の世界的な大不況を受けて、我が社への支援金も大幅に削減される事になった。そんな中エース、」



 みゆきは個人名サクヤ菱形と絶対に言わず、階級で呼ぶ。



「は!」



 サクヤ菱形は手を後ろ組みに姿勢を正す。



「貴方の失敗は、会社に損害をもたらした。従ってエースより7へ降格。」



「は!」



 と即応しつつ、この社長室、自身と天王路社長の他に、学生服を着た少年がいる事が気になって仕様がないサクヤ菱形だった。



「素直ね。そういう子好きよ。どう、私と勝負してみない?」



「勝負?」



 またか、とサクヤ菱形は眉をひそめた。会社体質を決定するのはつくづく社長なのだ。



「この、」みゆきはデスクの引き出しから新品の鉛筆と細めのマジックを取り出す。「鉛筆の先に、今から数字を書く。」



 座席を回してサクヤ菱形に見えないように鉛筆をいじるみゆき。デスクに自動の鉛筆削りを用意し、差し込む。

 振り返り様、

 投擲、

 サクヤ菱形の鼻先を横切って、玄関の木製のドアにまっすぐ突き刺さる鉛筆、



「さすがハートのベルトを持つだけの事はある。」



 無表情だった少年が、その時けたたましい笑い声を発した。



「今の数字は?」



「3!」



 即答したサクヤ菱形。

 みゆきの目の色が輝きを増し、ドアまで革靴を鳴らしながら歩み寄る。その時やや首を傾けて振り髪を片側に寄せる、必然うなじが露出して強調される、その首の傾きのまま鉛筆をサクヤ菱形に手渡す。その時みゆきの眼はサディスティックな微笑みを称えた。



「おめでとう。まだエースと呼んであげる。」



 目を閉じて安堵するサクヤ菱形。その姿をケラケラと笑う少年。ひっかかり続けていたサクヤ菱形は、思わず声に出した。



「この子供は誰なんです?」



「私の秘蔵っ子。」



「秘蔵っ子なんですか・・・・・」



 それで納得できる男、サクヤ菱形。



「次はないわよエース。」



 サディスティックな微笑みが絶えないみゆきの視線に見送られ社長室を後にするサクヤ菱形だった。



「キング、」みゆきは少年にキツく言葉を発した。「貴方よキング、」



「ああ僕?」



 少年は社長室の窓に息で曇りを作って遊んでいた。



「次で『レンゲル』が誕生する。レンゲルの力はこの会社に無限の利益を産むわ。」



 社長は高笑いする。なぜみゆきという女はこれほど人を蔑むような笑いが似合うのだろうか。



「そして、我々は永遠の『バトルファイト』を、人間との戦いも組み込んだアンデッドの平和を勝ち取る事ができるのだ。」



 と男が1人、いつのまにかドアを背にして立っていた。頭髪を横から無理にセンターに流している、そうあの鎌田だった。

2 剣の世界 -進化の終点- その3








『メタル』



 紫紺の『仮面ライダーブレイド』、ラウズカードを刀剣の得物『ブレイラウザー』にスラッシュリードする。光と化すカード、胸プレートに吸引され、それはブレイドの力へと還元される。

 月に吠える異形、

 対するは『ウルフアンデッド』。目にも止まらぬ動きで左から爪を立てたかと思いきや既に背面に回り込んで強烈な蹴りを食らわせてくる。

 しかし、ラウズカードによって防御力を強化した不動のブレイドにはビクともしない。予めウルフの能力を熟知してその攻撃に対抗したブレイドは、続いて対手が攻めあぐねている間隙を見いだし、次のカードを繰る。



『マッハ』



 今度はブレイドの姿がウルフの視界から消え失せる。ウルフの右に突風、刹那右肩が抉れ、緑の血を吹いて倒れようとする前面にブレイドが現れたかと思いきや見えない刃の連斬でウルフを傷だらけに推しやり、振り返って逃亡を図ろうとするウルフの脚の腱を一閃、ウルフはあえなく転倒する。



『キック』



『サンダー』



『ライトニングブラスト』



 ウェェェェェェェ



 跳躍するブレイド。その蹴り脚の先に稲光が煌めく、

 必死に起き上がるウルフが頭上を見てしまう、

 ウルフの胸部に衝撃が走る、

 絶叫、

 アンデッド特有のエネルギーの瞬間放出、大気の爆裂が起こる。中心になお立つブレイドとなお五体満足なウルフ。しかしウルフのベルト、特有の青銅の光沢を帯びた楕円のバックルが、縦半分に裂ける。



「バトルファイトを・・・・終わらせる。」



 無地のラウズカードをウルフに投擲するブレイド。ウルフの肉体が光粒子のレベルにまで分解し、見る間に薄い1枚のトランプカードに吸引されていく。ウルフの肉体はラウズカードの図柄と化し、その力は、ラウズするものの為に引き出されるのみ。生きる事も死ぬ事も、生かされる事すら許されないそれがアンデットの『封印』だった。

 闇夜。人知れぬ公園の出来事。



「分かっているぞぉ。APは限界だとな!変身!」



 男のベルトのバックルが表裏逆転しダイヤの紋章が顕になる。



『ターンアップ』



 ビルの屋外非常階段から飛び降りる男がいた。



「サクヤ、おまえがギャレンになったのか。」



 サクヤと呼ばれた男は、飛び降り様『オリハルコンエレメント』、光の壁を透過し、戦闘スーツを身に纏う。濃紅の『ギャレン』だ。



 撃つ、

 ギャレンはその得物であるSMG『ギャレンラウザー』を連射、

 もろに受けるブレイドは、怯まず、棒立ちのままギャレンを直視していた。



「・・・・」



「先輩!なぜ黙っているんです!」



 ギャレンは叫ぶ。しかしブレイドは黙して動かない。その態度がギャレンのプライドを傷つけた。



「オンドルuregy&!>JKaaaa!(本当に裏切ったんですか!)」



 3枚のカードを取り出すギャレン。



『ドロップ』



『ファイヤ』



『ジェミニ』



『バーニングディバイド』



 ZAYOKoooooooouuuuuu!



 3枚のカードがギャレンの胸板に光となって張り付く。跳躍するギャレン、その軌跡は鋭角的な放物線、跳躍頂点に達した時、腰を捻って錐揉みし、蹴り落としの体勢でブレイドに直下降下、その踵には炎が吹き上がり、しかもギャレンはその体勢のまま2体に分離した、どちらかが虚像ではない、



「サクヤ、もっと勉強しろよ。」



 ブレイドはそう言って、先程封印したばかりの狼のカードをラウザーにスラッシュした。



『チャージ』



 続けざまに次のカードをスラッシュ、



『タイム』



 ギャレンの蹴り脚が激突、

 亀裂が走る、

 炎が巻き上がる、



「いない?」



 だがギャレンには手応えが無かった。

 地面に亀裂を走らせても、大気と緑を炎上させても、その中にブレイドの姿は無かった。

 ラウズカード『タイム』。時を止める効果。







「エースにしてやったのに、失敗ね。」



 今1人。サクヤのいた非常階段のさらに上、ビルの屋上に佇むライダーがいた。2本の反り返った長い角、ハート型のアイマスク、漆黒の『カリス』。その細く美しい四肢の佇まいは優雅ですらある。



「降格しちゃいなよ。みゆきお姉ちゃん。」



 その背後に学生服を着た少年がいた。襟を何度も触って落ち着かない。



「ムツキ、社長とお呼び。一度くらい私との勝負に勝ったからって図に乗るんじゃないわ。ライダーは全て、私が雇う社員なんですからね。」



 そのブレイドとは違うハート型のベルトバックルを取るカリス。水飛沫のようにその姿が弾け、1人の、鼻のラインと顎のラインがパーフェクトな美貌の女性が表れる。その姿はスーツ。細い四肢にやや小さめのサイズを着こなして、男装でありながら実に見事にその女性を演出している。みゆきと呼ばれた女性は、緩んだネクタイを絞め直す。その動作は首筋の細さを注目させる演出かもしれない。



「僕用のエースのカード、早く欲しいな。社長。」



 ムツキと呼ばれた少年は、少年らしい不敵さで社長の眉の動きに気づかない。



「その為にもまだギャレンには働いてもらわないとね。貴方も、今日から我が社の社員になるわけだから、ムツキではなく、キングと呼ばれる事になるわ。」

2 剣の世界 -進化の終点- その2







 クハ



 と白目で羽黒レンが息を吹き返す。ユウスケは頭を抱き起こす。



「レンさん!」



 レンは皮肉な笑みを浮かべる。



「まだ性懲りもなく、生きているのか。」



 やや曲がった腹部の痛みで呻き、逆にその痛みのおかげで失神しないで済んでいるレン。



「あの鏡の中で、2人が戦っています。」



「そうか、お互い、パートナーには苦労させられるな・・・見せてやろう・・・」



 レンは自身の『カードデッキ』を取り出しユウスケにそれを掴むように指示した。



「これが・・・・ミラーモンスター・・・士、後ろを見ろ!」



 ユウスケの見た光景は圧倒的だった。ディケイドの姿、それを囲むように何十という金属質でカラフルな体皮を持つ巨大な化け物が呻いている。



「シンジは・・・・」



 そのモンスターめがけて、2匹の、全く同じ龍の姿をしたドラグレッダーが口から炎を吐く。圧倒的な火力の合力がモンスターの半ばを焼き尽くした。

 その炎の壁を突っ切って、巨大な鮫、アビソドンがディケイドに迫る。

 だが次の瞬間、ユウスケは目を見張った。



「オレの姿・・・・・・」







 なにか聞こえたような気がする。



「分かっている」



 ディケイド、迫る疾風を背後に触覚しながら、2枚ブッカーよりカードを取り出す。



『KAMEN RIDE KUUGA』



 その姿はユウスケの変身したクウガ、先の龍騎と同じ、バックル以外その姿になり、その能力を行使できる。キックもブッカーも補助的な装備に過ぎない。これがディケイドの本来の力。



「サメは銛を打ち込むのが一番。」



『FORM RIDE KUUGA PEGASUS』



 カードを挿入し、姿がさらに変わる。クウガの緑の力へ。変身しつつブッカーを展開、クウガの分子再構成の力でペガサスボウガンへと変貌させる。こうして幾種類の姿と攻撃をカードによって使い分ける。これがディケイド。



 疾風を一旦聴覚だけで回避、

 前転しつつ、腕はボウガン背部レバーを引く、

 ボウガン銃口に大量の空気が送り込まれ、内部で圧搾、ディケイド-クウガのエネルギーと相まって一塊の弾丸と化す、

 反転するアビソドン、今度は地上1メートルを滑空し迫る、

 ディケイドの胸を切断かというスレスレ、転ぶようにスウェー、いやバック転のように両足は宙を舞い、その銃口は真上、至近でアビソドンの腹を狙っている、

 発射、

 反動で地にたたき付けられるディケイド-ペガサス、

 上から突き上げられる衝撃に触角が上向くアビソドン、

 そのアビソドンの横腹めがけて、ドラグレッダーの尾が叩きつけられ両断、

 爆破、



「やったな。」



 ドラグレッダーから姿を戻し、地に降り立つ龍騎。



「当たり前だ。」



 その龍騎の手を掴み起き上がるディケイドは既に元のフォームに戻っていた。



「私に勝てるライダーはいませんよ!」



 アビス、ディケイドに踊り掛かる。歩調を合わせて残り9体のライダーと契約モンスターもディケイド1人群がった。



「ああ、みんなそう言うんだ!」



 しかし上空よりドラグレッダーが吐く炎の渦が、ディケイド周辺のライダー達をことごとく駆逐していく。



『FINAL ATTACK RIDE ryuryuryuRYUKIii!』



「はぁ!」



 跳躍するディケイド、

 それを取り囲むように舞う2匹の紅い龍、

 渦が起こり、その気流に錐揉みするディケイド、

 2匹の龍がディケイドの背面に回り込む、

 ディケイド、蹴撃の体勢、

 ディケイドに向かって火を吹く2匹の龍、

 炎を纏って対手に向かって降下急襲、



「うぁぁぁぁぁ」



 アビスに直撃、

 炎は『ガイ』に移り、

 『ライア』は炎圧で転がり、

 『王蛇』は地面に転がりながら摩耗、

 モンスターは全て光の珠となり、10人いたライダーは全て地に伏した。



「やったな。パートナー。」



「また言わせるのか?当たり前だ。」



 頷き合う2人のライダーはしかし、地に倒れ、ライダーの姿を除装した10人の人間が立ち上がる姿を見て愕然とする。



「全て、鎌田・・・・」



「緑の血、」



 鎌田という中年から老年に差し掛かり、頭髪の寂しさを右側のまだ伸びる髪を強引にセンターに寄せて隠す痩せた男が立つ。

 また1人、頭髪の寂しさを右側のまだ伸びる髪を強引にセンターに寄せて隠す痩せた男が立つ。

 さらに1人、頭のハゲを隠す男が立つ。

 ナイトに倒されていた男もまたハゲ。

 それら全て、11人全てが同じ鎌田という男の顔だった。11人の鎌田が同時に負傷に呻き、11 人の鎌田が同時に嘲笑った。

 それらの姿が全て半透明になって折り重なっていく。11人の鎌田が今1つに。



「紹介しよう。私の友人、パラドサキアンデッドっっっ!」



 1つになった鎌田の背後より現れ絶叫する別の男が1人。縒れた帽子とコートを纏った中年。鳴滝だ。



「アン、デッド?」



「アンデッド、地球の生物それぞれの種の始祖、互いに戦い合い、最後に人類の始祖が勝って地球の支配者が決まった。緑の血を流す・・・・なんでオレは知っている。」



 士達は既に変身を解き、対面の奇っ怪な2人を唖然と眺めていた。



「この世界の実験も終わりだ。そろそろ行くとしよう。」



 鳴滝がそう言って手を振り上げると、例のオーロラの壁が彼と、鎌田を透過していく。ちなみに鳴滝が何をこの世界で実験していたか、終生士が知る事は無かった。



「ディケイド、この世界もおまえによって破壊されてしまったぁ!」



 そう、なぜか大笑いして姿を消す鳴滝と鎌田だった。

 唖然とするシンジと士。



「誰だ、あの中年。」



 士の疑問に答える者はもはやいない。

 もう既に、次の世界への旅は始まっていた。

2 剣の世界 -進化の終点- その1







 『ミラーモンスター』が飛び交う『鏡の中の世界』。地下駐車場、車のボディの反射とガラスを伝って13のモンスターが互いを攻撃し合う。畜生等は現実には形を成していない。光が反射する、その中だけに存在する。モンスターにはそれぞれ‘契約’する鉄仮面の主達が居り、彼らも鋼鉄のスーツを纏って、光の反射だけの世界で我を忘れたように戦い合っていた。

 ここは『龍騎の世界』。



「レンさん、どうしてオレなんかを助けた!」



 滴るオイルが匂う暗い路上。辰巳シンジは仰向けで伏す羽黒レンを抱きかかえた。



「パートナー、なんじゃ、ないのか?」



「ごめん。オレが、オレ、あんたを誤解してた・・・」



「1人と差し違えてこのざまか・・・戦ってくれ・・・・・オレの代わりに、編集長、玲子を頼む。あれはオレと似て、ただの寂しがりなんだ・・・・」



「レンさん、レンさん!」



 眼を閉じたレン。叫ぶシンジ。シンジの手には『カードデッキ』が握られている。



「ボヤボヤするな、」



 マゼンダの輝きを放つライダーが1人、シンジの背後に立っていた。ディケイドだ。

 その手には数枚のカードが握られており、光を放って絵やロゴを浮かべる。



「士、おまえは‘ミラーワールド’に入れないだろ。」



 ディケイドに叫んだのはユウスケ。なぜ『クウガの世界』のユウスケがこの世界にいるかは据え置く。



「オレに抜かりは無い。」



 ディケイド、バックルを開き、カードを挿入。



『KAMEN RIDE RYUKI』



 姿が変わるディケイド。バックルだけはそのまま、それはそうまさに『仮面ライダー龍騎』。



「ウソだ、変身!」



 シンジが訝しんで立ち上がり、カードデッキを車のミラーに翳す。現れるベルト、填るシンジの腰、カードデッキをバックルに横填めすると、鏡からスーツ、『仮面ライダー龍騎』のスーツがシンジに装着される。



「おまえの姿借りたぞ。そうか、ミラーモンスターってのはあんな玩具みたいな形してんだな。」



「鏡?」



 唖然とするユウスケに、ディケイド-龍騎が叫んだ。



「そいつはまだ助かる。」



 悠然と車のガラスへと歩み寄るディケイド-龍騎。このままでは激突する。構わず突っ込む。しかし割れない。そのまま反射の中に吸い込まれていく。



「仇は討つ!シャーっ!」



 龍騎は一足で車のガラスに飛び込んだ。割れない。やはり反射の中に入り込んでしまった。

 1人取り残されたユウスケ、眼を閉じ動かないレンの心臓に耳を充てる。



「オレ、どうすんだよ、士!」



「肋全部折っていい!」



 鏡の中からパートナーの声を聞き、ユウスケはハッと表情を変え、レンの心臓に両掌を重ね、体重をかけた。







 龍騎、

 ミラーワールド突入直後に『ベルデ』のヨーヨーを受け軽く脳震盪を起こす、

 その隙を伺って『ライア』がムチで龍騎の首を絞める、

 動きの拘束された龍騎に『ガイ』が角でメッタ撃ちにする、

 ディケイド-龍騎、

 突入した途端『タイガ』の突進に見舞われる、しかしこれを紙一重で躱し、後頭部を殴りつける、

 上空から『ファム』が襲い来る、すかさずライドブッカーをソードモードに、掬い上げるように撫で、『ファム』の得物を両断、

 『インペラー』が脚をそそり上げて向かってくる、脚を回避し肌が接触する程肉迫、腰の捻りだけの肘打ちで顎、

 『ゾルダ』が雨のように銃弾を浴びせる、『インペラー』の首根っこを掴んで盾にして防ぎ、反撃にライドカードブラストを発動、同じ銃の連射で圧倒、

 『インペラー』を投げ飛ばし、そのまま弾幕を龍騎周辺の敵に向けて蹴散らすディケイド-龍騎、龍騎の危機を救い、なお10体はいるだろう敵ライダーのほとんどをその弾幕で威嚇、

 だがそんなものに気にも止めず駆けて来る『王蛇』、得物で銃弾を弾きながら肉迫してくる、銃は諦めソードモードに切り替え数合打ち合う、

 その打ち合いを狙って上空より『オーディン』の契約モンスター『ゴルドフェニックス』が金色の羽根を降らせる、数十の羽根が近接爆破、これにはディケイド-龍騎もたじろぐ、たじろいで姿がディケイドに戻る、

 ディケイドの視界には、10人いるライダー、

 対手の数が多いという事は、対手の方が手数がどうしても多い、何人かと差し違えても他の何人かは残る、不利は免れなかった。



「お返しだ!」



『アドベント』



 火のような龍が降臨、『ゴルドフェニックス』を口からの炎で払い除け、続けざまに火を噴いてモンスター達をたじろかせる。それは龍騎の契約モンスター『ドラグレッダー』。



「力の強い者が判決を下す。ならば、この場で私が死刑を申し渡す。」



 というのはサメ型モンスター2匹と契約したライダー『アビス』。その頭部はまさにサメの触角。



『ファイナルベント』



 契約モンスター、『アビスハンマー』、『アビスラッシャー』が宙で合体、その姿は巨大なノコギリサメ、『アビソドン』だ。

 宙で絡み合うと『アビソドン』と『ドラグレッダー』、サメは龍騎等に向かってそのノコギリを刺そうとあくまで突進、締め付けてそれを阻止する龍。

 だがそうなると群がるモンスターの数が龍騎とディケイドを襲う事になる。



「オレ達は弱くても、愚かでも、独りじゃない。」



「今はオレ達がチームだ!」



 ディケイドが1枚のカードをバックルに差す。



『FINAL FORM RIDE ruyryuryuRYUKI!』



「ちょっとくすぐったいぞ。」



 ディケイドが龍騎の背に触れると、龍騎の胴が左右に割れる、左右の手足が揃って並び、左には龍の頭、右には龍の手が生え、それはまるで『ドラグレッダー』だった。

2010年8月18日水曜日

1 クウガの世界 -超絶- その16

走るユウスケ。

「好きな女の死に目に立ち会えないのが、男は一番後悔するんだ!」

同じく走る士はいつのまにかユウスケを追いかける形になっていた。

「縁起でも無い事言うな!」

病院である事も構わない。看護士に止められようと構わない。
だが、八代の病室に入って、光夏海という少女が黙ってイスに座っている背中と、ニット帽の先の震えを見た時ユウスケの脚は竦んだ。

「ずっと笑顔でした。」

八代はベットの上で仰向けに寝ている。両腕は胸の上で組まれ、髪は櫛で梳いてストレートに整われ、やや薄く化粧されている。
死後硬直と片付けるのは酷だ。

「姐さん・・・・・・」

ユウスケが見た、それがもっとも美しい八代の笑顔だった。

「間に合わなかったか。」

士もユウスケに付いて現れる。
八代に両膝をついてすがりつくユウスケの背中は、士の眼にとても小さく映った。

「夏みかん、いくぞ。」

士は、夏海という少女が肩から脆く崩れてしまいそうな危うさを感じた。

「冷たいんですね。」

振り返る夏海の表情は案の定、この上無く綺麗だったが、この上無く見たくなかった両眼の潤みでもあった。
強引に手を引いた。

「もう要は無い。」

士は旅人の分を言い訳にした。
夏海はユウスケと八代だけの病室を一旦振り返って、何を感じたか足早に出た。

「ユウスケ、この人のこの笑顔を、オレ達は守ったんだ。」

ユウスケは答えない。
士も期待せず、ユウスケに背を向けた。



「あんな言い方無いと思います。」

帰り道。すがすがしい空気が強い日差しと相まって、冬から春へ向かう風は、冷たかったが肌を心地よく刺激してくれる。

「オレ達のこの世界での使命は終わった。見ろ。」

士は1枚、ライドカードを取り出す。それはあの暗いまま何も描かれず、ただ「COMPLETE」というロゴだけがあったはずのカード。だがしかし、どういう訳か隅の方にクウガのシンボルが刻印されていた。

「この世界の滅びを止める事、それが使命だったんですか?」

並んで歩く夏海は、士の微笑みにやや見とれた。

「じゃあなんで病院から出た?」

夏海は眼を見張り、病室の2人を思い出した。

「御邪魔虫はイヤでしたから。」

哀しかったが、それでもユウスケと八代の事を考えた時、自然と足が動いた。そう自分が判断した事を良かった事だと思っている。そんな自負を抱えた眼で士を眺めた夏海は気づいた。士が今の自分と同じ眼をしているのだという事を。少なくとも夏海はそう思った。

「だが、なんだか少し分かった気がする。」

「なにがですか?」

「オレも思い出さなければならない事がある、て事だ。まずは、笑顔、だな。」

士、強引に両眼と口の端を釣り上げた顔で、夏海の顔に迫っていく。

「気持ち悪いです!」

両手で突き飛ばす夏海。しかしその変質ピエロのような笑みをしながら士はなお迫ってくる。口でもケタケタ笑っている。

「変な人です!」

いっそう力を入れながら、ツボ押しには入らずただ軽く突き飛ばすだけの夏海。

「気持ち悪いですぅ」

夏海も笑いはじめた。
帰り道。すがすがしい空気が強い日差しと相まって、冬から春へ向かう風は、冷たかったが肌を心地よく刺激してくれる。



「この写真は士君にしては中々よく撮れてる。」

光栄次郎が手にした2枚の写真、八代の2つの表情が重なったピンボケた写真、それぞれの八代が、それぞれの表情でユウスケを眺めている写真だった。

「女の人は、こんなにもいろんな顔を持ってたんだね。」

「ただいまお爺ちゃん。」

光写真館に士と夏海が帰ってきた。

「おかえり。」

栄次郎は部屋のあちこちで写真に合う額を探していた。夏海がこの栄次郎の言葉を聞かなかった日は無い。

「夏海、士君、良いベーグルとクリームチーズが手に入ったんだよ。お昼にしよう。それから、士君が撮った写真を額に飾ったんだ。中々立派なもんだよ。いっしょに、ほら、これ。」

の「これ」と言うか言わないかというところで、額を手から零す栄次郎。そして偶々落とすと、例の背景ロールを動かすチェーンが絡む。そして偶々今まで引っかかって動かなかったチェーンが、偶々額を錘にして動き始め、そしてクウガ世界の背景が1枚のロールによって覆い隠される。

「え?」

「ありゃ・・・・」

絶句する3人。
その背景に描かれた風景は、一面の夜空と浮かぶ月、そしてビルに埋もれた巨大な西洋竜だった。

1 クウガの世界 -超絶- その15

うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

ビルの谷間、グロンギのうめき以外が聞こえない路上で、ただ1人、人間としての叫びを発する士。その叫びに応える者を、士は自分の視界に捉える事はできなかった。

「どうした、門矢士!」

それは『ン・ガミオ・ゼダ』へ斜め下方からの『マイティキック』。

「力が」

ガミオは寸前で回避、しかしそのまま蹴撃は放物を描いて降下、その先には士を中心に渦のように群がるグロンギの大軍団。

「来たか」

その全てのグロンギが天敵の姿を自失して見上げる。隙を狙ってしがみついていたグロンギを振り払う士。士の待っていた小野寺ユウスケがついに来た。

「あの人が笑ってくれる為にっっ!」

一体に蹴りが入る、
勢いのまま推し倒し、
地面に亀裂、
一体に浮かんだクウガの刻印、
刻印が地面に浮かぶ、
浮かんで地から足を伝い、
周辺グロンギのベルトへ伝達、

「人間は強さを求める、」

ガミオは路上グロンギの一斉爆破を、恍惚しながら眺めていた。

「違うな。」

その声は士。

「違わない。グロンギになるのも宿命だ!」

ガミオを見上げる形で、ビル屋上ヘリポートに立つ、クウガの肩に掴まってようやく立っている。

「オレはこの男を知っている、この男が戦うのは、誰も戦わなくていいようにする為だ!」

ユウスケもまた全力を出し切ったのか息切れのように姿を戻す。

「なに、」

吠えるガミオに、士はユウスケを指差した。

「自分1人が闇に落ちたとしても、誰かを笑顔にする、そう信じてる!こいつが人の笑顔を守るなら、オレは!こいつの笑顔を守る!」

唖然としたのはむしろユウスケだった。

「さっき守ったのはオレの方だ。」

士の頬を手の甲で小突くユウスケ。士はなおガミオに向かって不敵な笑みを浮かべた。

「知ってるか。こいつの笑顔、悪くはない。」

士とユウスケ、なんの力か、いつのまにか息を吹き返した。

「キサマは何者だ!」

ガミオの世界の外にいる男を、ガミオは知った。

「通りすがりの仮面ライダーだ!いくぞ!」

士、ディケイドライバーを腰に回す。ブッカーが出現する。ドライバー両端を左右に引くとトリックスターを内蔵した中央バックルが90度回転しカードインスペースが顕れる、ブッカーからライドカードを1枚取り出した。

「おう!」

ユウスケ、念じてアマダムを腰に露出させる。左手を腰に据え、右手を伸ばし、右の指先を視線の高さのまま左から右へ流す、

「変身!」

士がドライバーにカードを装填、纏わるマゼンダのスーツ。仮面ライダーディケイド。

「変身!」

回した右腕と左拳を繋ぐ、変質する炎のボディ。仮面ライダークウガ。

「ならば、私を倒して闇を晴らしてみせろ!」

ガミオがビル屋上、2人と同じ土壌に立つ、両腕に力を込める、迸るアマダムの光が掌から放出、

「ぐぉぉぉ!」

クウガは跳躍してガミオに突進、

「戻った」

ディイケドは側飛びして回避、その手にはブッカーから飛び出してきた何枚かのカードが。手にする全てのカードの曇りが晴れ、クウガかそのシンボルの画を取り戻す様を眺めていた。

ぐぉぉ!

ディケイドの足下に転がってくる者、それはクウガ。ガミオの力に返り討ちにあったようだ。

「来たのは、あの人の為か。」

手を差し伸べるディケイド。

「おまえ1人で戦わせたら、あの人は笑ってくれない。」

その手を取り並び立ちするクウガ。
ディケイドはバックルを開いて1枚のカードを挿入した。

『FINAL FORM RIDE kukukuKUUGA!』

「ちょっとくすぐったいぞ。」

クウガの背中に手を伸ばすディケイド、

「え?お、お、ォ・・・アウ」

迂闊な声で応えるクウガの背中に虫の背のような装甲が出現、クウガの頭がありえない後方に折れ曲がり、脚ががに股、腰から第3の肢が左右に伸びる、
宙に浮いた姿はまるで金属質の巨大なクワガタムシ。

「これは・・・・」

自らの姿に驚愕するクウガにディケイドが応える。

「これがオレとおまえの力だ。」

ファイナルフォームクウガ、それが『クウガゴウラム』。

「フン!」

再びアマダムのパワーを腕から迸らせるガミオ、その破壊エネルギーを眼前に避けない両者、

はぁぁ、

切り裂く、
クウガゴウラムの2本の角の突進、ガミオの闇のエネルギーを切り裂いてなお突進、

一撃、

「ぉぉぉぉぉ!」

ゴウラムの突撃を食らって落下するガミオ、
反転上昇し、円を描いてディイケド上空を舞うクウガゴウラム、
ディケイド、上空のゴウラムの脚を一本掴んでぶら下がる、

『ATTACK RIDE BLAST』

宙をゴウラムと共に飛翔するディケイド、ガミオに向けて光弾を連射、

ぐぉぉぉぉぉぉぉ!

上方からの直撃に路上に伏すガミオ、

「これが、」

「オレ達の力か。」

着地する両者。クウガはゴウラムから戻ってその何層も滲むような濃厚な紅いアーマーを輝かせる。

「闇は不滅だっっっ!」

立ち上がるガミオ、突如そのベルトのアマダムが輝く、呼応して悲鳴をあげる路上のグロンギ達、それら全てが悶え苦しみながら黒い煙と化す、煙は全てガミオの体内に吸収されていく、
路上だけではない、四方八方、あらゆる方向からガミオに向かって煙が集まってくる、ガミオのアマダムがまばゆい光芒を放つ、

ぉぉぉぉぉぉぉ!

迸るエネルギー、
アスファルトを蒸発させ、露出した大地を蒸発させ、地の底を深く抉り、2人を紅蓮の炎で推し出し、小石かなにかのように弾き飛ばした。

ぉぉぉぉぉぉぉ!

ビル屋上に向けてエネルギーを迸らせるガミオ、爆砕し、ヘリポートが一面全て、倒れる2人の元に落下。

「士、任せろ」

クウガ、再びゴウラムへと変身、落下するヘリポートと真っ向対峙して突撃、その2本の角で両断。反転錐揉みしながら降下、ガミオ頭上を強襲。

ォォォォォォォ!

ガミオの黒い渦のような衝撃波がゴウラムと真っ向勝負、

「うぁぁぁぁ!」

一度は推し返した対手だった、引力すら味方し、太陽を背にした全てにおいて優位な攻撃だった。しかし結果は紙ペラのように弾き返され、炎をあげるビルを突っ切り、隣のビルに激突、100メートル平方のビル20階より上が粉々に砕け消失炎上した。

「言わばグロンギの総力だからな。」

ディケイド、いつのまにかマシンディケイダーに跨り、カードを1枚取り出す。その絵柄はクウガのマスクを象形化したシンボルマークが描かれている。

『FINAL ATTACK RIDE kukukuKUUGAaa!』

上空から一転降下し、ディケイダー直上で頭と胴が分離するクウガゴウラム、ディケイダーの前後にそれぞれ被さるように合体。

エンジン音を轟かせ猪突、

「はぁぁぁぁぁ!」

「やぁぁぁぁぁ!」

ゴウラムの角にマゼンダの光が灯る、
構えるガミオ、
激突、
圧倒され吹き飛ぶのはガミオ、
だがそれだけでは終わらない、
クウガゴウラム分離、
宙に浮いたガミオに追いつき2本の角で拘束、
天高く上昇、
燃えさかるビルの炎を突っ切ってなお飛翔するゴウラム、
太陽に向かって点になる、
小さかった点が大きくなる、
反転し急降下してくるゴウラム、
ガミオを掴んだままだ、

「士っっっっ」

ライドブッカーを剣にするディケイド、ブッカーを地に差し待ち構える、
ゴウラムとディケイドの間、下から上へ浮かぶ光のカード、
1枚1枚くぐり抜けていくのはゴウラム、その都度光彩が増していく、

「ユウスケ!」

柄頭に片掌だけ体重を預けて倒立、それは天空に向けての蹴撃の体勢になる、

爆破っ!

頭、胴、手足、そしてアマダムと粉々に砕け、それぞれが炎に塗れた、

「キサマもかつて、人だったのかもしれないな。」

ディケイドとクウガは既に着地し、ガミオのアマダムの珠が燃え尽きるのを眺めている。

「ならば・・・・おまえは・・・・どこから来た・・・・」

アマダムから呻きが聞こえた。

「悪い、忘れた。」

ディケイドの、それが似た者に対する手向けだった。

「リント・・・・闇が晴れるぞ・・・・・」

爆砕するアマダム。闇が炎に呑まれた。
吹き飛ぶ黒い圧風にさらされ踏ん張る若者2人。
風が突如病む。

「やったな。」

クウガが視界を取り戻した時、青空が広がっていた。
そのクウガの左の手の甲を、ディケイドの手の甲が打った。

「当たり前だ。このオレが協力してやったんだ。病院へ急ぐぞ。」

「お、おう。」

ディケイドの背中を追い、トボトボと歩き出すクウガ。

「ベルトの翳りが消えてない・・・・」

だがユウスケは、その姿を戻した後も俯いて、自分の腹のあたりを眺めていた。

1 クウガの世界 -超絶- その14

ビル街。
路上に溢れるのは人が変貌したグロンギと、そのグロンギに殺された死骸の山。元々極めて秩序的な存在であるグロンギはその無秩序な増大と餌より同胞が多いという稀な状況にほとんど戸惑っている。

「リントもグロンギも、全ては一つの美しい闇に包まれる。」

それをはるか上空、10階層のビルのさらに上空で浮いて眺める『ン・ガミオ・ゼダ』は箱庭の完成をただ眺めるだけが感情の行き場であった。

エンジン音、

「来たか。」

ガミオの耳にかすかに聞こえる秒単位の連続内燃焼による駆動音。グロンギの群れをマシンディケイダーが突っ切って行く。ガミオは彼の登場を待ち構えていた。

「おまえはクウガでもリントでも無い。お互いこの世界には居てはならない者のようだ。」

このグロンギはオレよりはるかに強い、

「知るか。」

宙に浮くガミオを見上げる門矢士。既にディケイドライバーを腰に装着し、バックルを回転させ、カードホルダーを開けている。

「消えよ。リントは全て殺し合うグロンギと化す。力を求めたそれが宿命だったのだ。」

やるとすれば一撃で倒すしかない、

士は既にディケイドのマスクが描かれたカードを手にしている。

「似てるな。オレも、アンタと同じような事を考えた気がする。人間とは戦い合うしか無い、全てを破壊する、そんな存在だと。変身!」

でなければもう勝てないだろう、

『KAMEN RIDE DECADE』

装着されるマゼンダのスーツ。

賭けてみるさ!

『FINAL ATTACK RIDE dededeDECADE!』

勝負に出たディケイド、即座に最強の技をライドし、地面から宙へ向かって蹴撃を敢行、ディケイドとガミオの間に等身大のトランプが列を成してディケイドの軌跡を描く。

ダメか、

「フォ!」

それはガミオの右腕の一振りに過ぎない、 跳ね返されるディケイド、衝撃は落下の重力加速に大きく力を加味し、ディケイドを地面に打ち付ける、アスファルトに蜘蛛の巣状の亀裂が走った。

この程度でオレがか、

変身が解ける士。四方八方に十数体のグロンギが取り巻いている。
1体が首を掴んできた。抵抗できない士。
1体が背中を押した。押されるままの士。
1体が腹打ちする。呻く士。
もしかしてグロンギはこの1人残った獲物の殺害をゆっくり楽しんでいるのかもしれない。

オレの死に場所か、

「ふざけるな!」

想像を絶する衝撃を何度も食らい、やっと立っている状態の士。蹌踉けて前方にいるグロンギに無闇に拳を食らわす。しかしそんなものは対手に効いていない。しかも反撃はその前面の対手ではない。背後にいたグロンギの蹴りである。
ボロ雑巾のように転がる士。そこに蝙蝠型のグロンギの牙がよだれを垂らしながら迫ってくる。逃げようとするも、両手両足をいつのまにか十数体のグロンギに掴まれている。

うぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

ビルの谷間、グロンギのうめき以外が聞こえない路上で、ただ1人、人間としての叫びを発する士。その叫びに応える者を、士は自分の視界に捉える事はできなかった。




1 クウガの世界 -超絶- その13

「・・・・・・ユウスケ・・・」

八代さんが目覚めたのは病院に担ぎ込まれて3時間くらい経ってからだろうか。ユウスケ君はその間ずっと八代さんの手を握っていた。八代さんの目覚めはたぶん一時的なものだと私でも分かる。

「姐さん!」

「ここで、何してるの・・・」

ユウスケ君は八代さんの強さに哀しい眼をした。

「オレは、アンタに誉めてもらえるのが嬉しかった。アンタに笑って貰いたくて戦ってただけだ。アンタがいなかったら戦えない!」

それは、プロポーズにも似た子供の訴えだったと思う。

「私はもうすぐ死ぬ。この体もグロンギに変わるわ。その時貴方は、私を殺せる?」

「できない!」

「私の笑顔の為に、あんなに強いなら、世界中の人の笑顔の為だったら、貴方はもっと強くなれるわ。私に見せて、ユウスケ。」

「命令かよ。八代刑事。」

「ええ、命令よ。」

哀しい失恋が、私の目の前で血の生暖かさと肉の感触の悪さを引き連れて映し出されていた。人はこんなにも温かいのに、どうしてこんなに残酷なんだろう。
ユウスケ君は八代さんを置いて、飛び出していった。
でもあんな風に言われたら、私なら出来ないと思う。



トイレの洗面所の水が止まらない。

「ガスで無くなった患者を運び込まないで!」

「まだかすかに息はあるんです!」

「未確認になって暴れ出すんでしょ!」

そんな受付の騒ぎが耳について離れない小野寺ユウスケは、何度も何度も顔を洗った。

「ユウスケ、」

何度も顔を洗い、その度に鏡を覗いて自分の目を見つめた。そうして何度めか顔を上げた時、鏡に士が立っていた。

「オレは・・・・オレは戦えない・・・・」

ユウスケは鏡から眼を離さない。

「元々奴は目覚めるはずの無い存在だった。だが、オレ達の世界を襲った時と同じ、滅びの現象が起きはじめている。」

「オレ達の世界?」

「オレ達は、別の世界から来た。」

「だったら、とっとと他の世界に行けばいいじゃないか。」

士はそんなユウスケに背を向けた。

「そうだな。」



私はそんな士クンとユウスケ君を遠くから眺めていた。
士クンは男の顔をして出て行こうとする。 その顔はすごく怖かったけど、私は彼の腕を必死で掴んだ。

「貴方もグロンギになっちゃうんですよ!」

顔を見て、ダメだろうなという事だけは分かった。

「もしかしたら、元はグロンギと同じようなものかもしれない。」

士クンはもう私の言う事など聞くモードじゃない。颯爽とバイクに乗ってガスの方へと走っていた。

「ずぅと、ユウスケが心配だった。」

「八代さん」

私は仕方なく八代さんの病室に戻った。あのツバキって得体の知れない人は、看護士と相談して八代さんを別の、病院じゃないところへ移そうか相談してるみたい。

「私弟がいなくて。あの子の気持ちを利用してた。」

私は逃げ出したくなった。何かが重かった。でも逃げ出したら、私は一生これからの自分が許せないと思った。違う違う、私はただなにも出来なかっただけだ。

「これは罰ね・・・・」

「違います。そんな。」

私はどうしてこんなに格好をつけちゃうんだろう。だから、ダメなんだ。
八代さんの心拍をモニタしているグラフが、ゆるやかになっていく。
1台のバイクのエンジン音が耳につくまで、八代さんとどのくらいの間会話が途切れていたんだろう。

1 クウガの世界 -超絶- その12

あふれ出るグロンギ、
これは黒い煙がもたらした警官達のなれの果てである。
煙はなお吹き上げ、麓の街を浸食しつつあった。その原因、最奥に位置する洞窟で吠える者こそ『ン・ガミオ・ゼダ』。既にそのベルトはグロンギの紋章から脱皮して、クウガのそれのようにアマダムが剥き出しに成長している。

ォォォォォォォォ!

ガミオが遠吠えする度に警官の遺骸がグロンギへと変貌していく。彼のベルトから吹き出される煙、黒いガスこそアマダムを増殖する唯一の存在であり、グロンギというひたすら生物兵器として滅ぼし合う存在の中ただ一つ種たらしめている性質の特殊なアマダムである。

「今度こそ、終わらせる!」

その充満する視界不良の中、マゼンダの閃光が走る、ガミオに閃光の一撃、ライドブッカーソードの刃がガミオを直撃する、ディケイドが全ての元凶であるガミオと対峙した、

折れる、

だがグロンギ一体をあっさり消滅させる程の刃が、ガミオの肉体の前にあっさりと折れた。ガミオの方は足下がややグラついた程度だ。

バゼゴセバレザレダ

「なんだって!」

既に拳での攻撃に切り替えているディケイド、

「オレはもう目覚める宿命ではなかった!」

だが打ち込まれるガミオの腹筋はビクともしない。

「そうかよ!」

連打は腹から胸、心臓の難しい位置まで打ち込まれたが、心地よい音だけが洞窟に木霊する。

「目覚めが早過ぎた。なぜだぁ!」

空しい連打が止まると今度はガミオの番だった。頭を掴まれるディケイドはガミオの片手だけで持ち上げられる。

「知るかぁぁ!」

今のディケイドは対手を呑む余裕が、セリフからすら伺えない。

「クウガもダグバも未熟なままなのに、究極の闇だけが起こってしまった、なぜだぁ!」

「ぐぁ」

投げ飛ばされ、洞窟に打ち付けられるディケイド。

「もう遅い、リントはグロンギとなり、この世を究極の闇が覆い尽くす!」

打ちつけられたディケイドを無視しガミオは、自らを黒い煙へと拡散し、大気に踊り出していった。

「ザギバスケゲル、ファイナルゲーム。たった1人淘汰された優良なグロンギが、再び全てをグロンギと化す。このサイクルこそがグロンギという生態。」

ディケイドが、朦朧としながら、いや朦朧になるまで脳を揺すられなければ思い出せなかった事を口にした。



「どちらにしても戦うだけの生物兵器になるという事です。」

光夏海の眼は絶望に呉れた。
ユウスケが警察病院まで八代を担いできた。八代とユウスケの事情を知る眼前の監察医、ツバキという男がたまたま玄関ルームにいなければ、グロンギ化するかもしれない八代の受け入れは数時間から数日手間取っただろう。 ツバキの説明は夏海の理解を超えていた。ツバキは、ユウスケの体内の霊石と同じ放射性物質が霧状になって人体に吸い込まれ、それが放射線を発して細胞レベルで人体を変質させていっているのだという。

「八代はここか。」

病院にズケズケと入ってくる士を見た夏海は、真っ先に士の切った唇に触れた。反射的に顔を仰け反らせ、夏海の細い指先を払い除ける士だった。

「どうしたのこれ士クン、」

「八代は助かるのか」

「このままですと戦うだけの生物兵器に。」

ツバキは夏海にしたのと同じ説明を士にも繰り返した。
問題は八代だけはその変化の兆候が遅延しているという状況である。これをツバキは、ユウスケとの接触によるものと推測した。グロンギのアマダムをクウガのアマダムは駆逐する。それはミクロ単位でも同じだった。ユウスケとの接触が頻繁である程にユウスケのアマダムにも汚染させられている可能性が高い。つまり八代の体内でグロンギとクウガのアマダムがせめぎ合っているのである。

「まどろっこしい。助かるのか助からないのか聞いている!」

「どの道、戦うだけの生物兵器。」

グロンギのアマダムが人体組織を変化させる。クウガのアマダムはそれを駆除していく。しかしそれは人体組織を再生させている訳ではなく、人体を蝕んでいるか、ユウスケと同じクウガへの変貌を加速しているに過ぎない。この変化が脳に達すれば、ユウスケすら兵器になるとツバキは断じた。

「奴を倒してみるしか道は無いのか。」

夏海は悲嘆に暮れた士を背中を見て分かるようになっていた。

1 クウガの世界 -超絶- その11

「うめえ。」

結局ユウスケ君は光写真館へとやってきて、私が朝食をごちそうする事になった。
今日の光家のメニューはポトフ。キャベツ、ニンジン、玉葱、ウィンナー、牛肉、鶏肉を荒切りし、しおコショウで味を調えて煮込む。お爺ちゃんは日本のおでんも、ポトフもお手の物だ。

「うめえだろ。昨日の夜から仕込んどいた。」

士クンや私達3人がテーブルを囲んで遅い朝食を済ませている部屋を跨いだ台所に、お爺ちゃんが座っている。窓側のテーブルはテレビが見られるので、お爺ちゃんは朝食が終わるとそこで士クンの失敗写真を使って貼り絵を作りしながらワイドショーを観るのが日課になってしまった。お爺ちゃんは貼り絵を作るのを写真への供養と言ってた。3枚の見事な深海魚の画を完成させている。そろそろ店に飾ってもいいかな。

「お爺ちゃんありがと。」

光家の料理番はお爺ちゃん8で私が2だ。お爺ちゃんが昨日のポトフを捨てていたら、今朝食べるものがなくて、夏海ちゃんはお腹と背中がくっついて死んじゃってただろう。

「なんでおまえが着いてくる?オレは優雅な朝食をたしなむのがだな。」

士クンはユウスケ君を招いた事が気にくわないようだ。でもそんな事態と気にしないふりしたユウスケ君はテーブルにたまたま置いてあったピンボケ写真を手に取る。

「なんだこれ?」

ユウスケ君が今度は薄ら笑いする番だった。

「おまえ達が、オレにふさわしくないだけだ。」

唯一の弱点をユウスケ君に見抜かれて視線を合わせようとしない士クン。ざまあみろ。

「どういう意味だぁ~?」

ユウスケ君も人が悪い。士クンの強がり発言に、ここで徹底的に付け込む気だ。

「おまえ達の物語がつまらないと言うことだ。」

なぜか士クンとユウスケ君、自分の嫌いな野菜を相手の皿に投下しはじめた。でもでもお互い嫌いな野菜はどうやらいっしょだ。

「物語?」

その内ニンジンを1つの皿に集めた2人は、互いの皿を交換し始めた。

「惚れた女に誉めて欲しいから戦う、それじゃ感動できない。」

ユウスケ君がやや呆然となった瞬間すかさず士クンは自分の皿をウィンナーだけのものに換えた。やはり狡い奴だぜ門矢士。

「2人とも、好き嫌いはやめなさい!」

このいたずら兄弟に私は、ポトフの残りの野菜と、私の分のニンジンも2人の皿にオタマで投下してやった。

「うわ・・・・・おまえのせいだ、この悪魔!」

「・・・・、ああそうだ。」

2人はシオシオと私の分のニンジンを食べたのだ。やったぜ私。とその時、

「あららら、」

お爺ちゃんだ。お爺ちゃんが何か仰天してる。そんな風に見えないが、私はお爺ちゃんが尋常じゃなく驚いた声だと分かった。そう聞こえた。

『灯溶山の中腹より、黒い煙が発生しているのが確認されました。この黒い煙は山火事などとは違う現象で・・・。』

お爺ちゃんが驚いているのはテレビだ。どうやらいつものワイドショーが芸能ニュースじゃなくて、緊急ニュース速報をはじめたみたい。

『黒い煙の発生源が特定されたとの情報が入りました。警視庁の未確認生命体対策本部が1時間ほど前に現地入りしたという報告も入っています。今現在、灯溶山の黒い煙の勢いは衰えておらず・・・』

火事じゃなきゃ、なんなんだろう?いやでも煙が出てるんだったらその煙に巻かれる人もいるだろう。もしかして八代さんも、そう私が思ってたら、

「姐さん!」

ユウスケ君も同じ事を考えたに違いない。皿を乱暴に置いて、血相変えてお店を飛び出していった。

「この世界での私達のやるべき事って、まだ終わってなかったんですか!」

私は立ち尽くす士クンの袖を引っ張った。

「八代、いや、ユウスケがヤバいよな。」

士クンはコートのボタンをいつもよりゆっくり留めていた。こういう時の士クンは、頼りになる。



洞窟。

「退避!退避!」

「なんだこの煙は!」

「私はもう歩けません、どうか置いて、」

灯溶山前人未踏の奥深くにそれはある。人を寄せ付けぬ洞窟は、数万年前よりクウガのアマダムの力でその存在すら知られる事無く、時間の中に埋もれていく運命だった。
しかし、黒い煙、つまり『ゲームの為のゲーム』は、起こってしまった。
上空では、あのオーロラのカーテンが輝きながら灯溶山を包んでいた。

「八代、これは、ダメだ、」

これは八代が招いた結果である。八代が士の言葉を信じて対策本部を総動員し、八代が包囲を計画指揮し、突入の号令も八代が行った。その結果が吹き出す煙による甚大な被害であった。
同行し全てを任せてくれた頭髪の薄い警部は、煙が吹き出した途端、直感したヤバさから八代を追い立てる形でいち早く洞窟から脱出した。だが眼前の警官同様、脱出した入り口でもはや視界すら取れなくなり、立ってるのか寝ているのかの自覚も無いまま、最後に八代に逃げるよう手だけ振った。

「警部・・・・・ッ!ッ!」

咳き込みながら警部が絶命していく様を見つめる八代は、自分の無力を痛感する。その八代の耳に洞窟の中から叫び声が聞こえた。

ォォォォォ!

それは狼の遠吠えにも似た叫びであった。

「グロンギに!」

その叫び声に呼応するかのように八代の眼前で悪夢が起こる。倒れていた警部補、先に死んだ警部、洞窟内で煙に巻かれた警官のほぼ全ての肉体が変化していった。まずあの特徴的なグロンギのベルトが死体の腰に浮かびあがり、クウガのそれのような肉体が再構成されていく。ある婦警は蜂、ある巡査は豹、全てが変貌していく。
煙は、グロンギのアマダムと言えるものだった。体内にナノ単位で侵入し、集結してベルトとなる。それが洞窟の奥の叫び声によって成長を促進している。

「人間が、グロンギに!」

その恐怖を八代は知った。煙に巻かれた人間が人で無くなる事、そして眼前の警部がそうであるように死んで立ち上がって異形の姿になって自分に襲いかかろうとする事、そしてその原因となった煙を自分もまた吸った恐怖をである。

「姐さん、」

唖然とする八代と警部だった異形の間に立つ者が1人。

「ユウスケ!」

「こっちへ」

口を袖で塞いだユウスケが八代の手を引いてひたすら逃げた。八代もまた引かれるまま走る。グロンギとなったばかりの警官達はまだなにか朦朧とした動きで追随できないでいる。

姐さん、こんなに細かったんだ、

八代をしっかり抱きしめながらユウスケは灯溶山を後にした。

1 クウガの世界 -超絶- その10

「おい、バカバカタンマ、いてっっ!」

一方、今日はピンクのスパッツにショートパンツ、ピンクのニット帽の光夏海、変身を解いた門矢士にツカツカと歩み寄って、いきなり鼻を摘んだ。
そのしおらしい2本の指が摘んだ鼻から、固形物が砕ける音がした。

「ぐぁぁぁ!」

士の声が一際高く山間に木霊した。押さえた鼻の穴からは夥しい血が。

「貴方の使命は!」

「9つの世界を巡って、おまえの世界を救う事だろ。」

鼻声士はまるでいたずらを説教されたやんちゃ坊主のようだ。

「貴方の世界でもあるでしょ!他のライダーと戦う必要なんてありません!」

寒空の中、夏海の説教は1時間続く事になる。
並行して、八代もまたユウスケに説教を開始。

「私の命を救ってくれたんだぞ。それが分からなかった?」

と言われムッとするユウスケ。

「なに怒ってんだよ、」

「門矢士は人間だった。なぜいきなり戦いを仕掛けた?」

あるいは八代達の世界は、まだ人間で無い者とだけ戦える分幸福な世界かもしれない。

「聞いていたんだ。ディケイドという敵が来ると。はじめてベルトを手にした日に。」

そもそもユウスケがクウガとなった時点に話は遡る。

「いつか君の前に悪魔が立ち塞がる。」

ユウスケは灯溶山にたまたまハイキング中、ある洞窟で草臥れた中年男性、つまり鳴滝に誘われるままベルトを渡された。

「悪魔?」

鳴滝は、そのベルトこそがこの世界の悪魔であるグロンギを封印する鍵の役割を果たしていた事を十二分に承知していた、はずである。

「全てを破壊する存在、ディケイド、それが君の本当の敵だ。」

ユウスケはその時は軽く聞き流した。あるいは半信半疑だった。それがディケイドを、門矢士を眼前にした時、半信半疑だった鳴滝の言葉を信じてしまったのだから、人の心はわからない。

「門矢巡査!」小一時間説教した上で八代は士に声をかけた。「聖なるゲゲルとは、本当なのですか。」

八代も必要以上に恥ずかしがり屋なのかもしれない。
その八代の声で、夏海の説教が中断され、士が人を食った顔を再び取り戻し振り返った。

「本当だ。あの山に、キュウキョクの闇、とやらが眠ってるそうだ。」

「その目覚めは阻止されたって事ね・・・・」

八代は携帯で上司である警部を呼び出した。

「今なら警察で対処できる。」

八代、そのまま覆面パトカーに搭乗した。もはやその眼光には灯溶山しか映っていない。

「姐さん!」

八代から置いていかれたユウスケ、捨てられた子犬のように夏海の方へと視線だけで会釈した。

ざまあみろ、

そんなユウスケの顔をネチネチと薄ら笑みで眺めている士だった。



八代は車中から携帯電話を使い続けていた。警官なのだから許されると思って欲しくはないが。

「お願いします警部。すぐ手配を。今が絶好の好機、いや得体の知れない対手です。これが唯一の好機と思った方が、お願いします!」

片手の上余所見運転で免停確定なのだが、八代の顔はこの辺りの警官には知られているし、このような状態をもし制止すれば、自分の方が要らぬ精神的痛手をこうむる。それが知れ渡っている。
八代は、だがしかし、携帯のスケジュールのアラームが鳴り響いた瞬間、ため息をついて車を止めた。

「そっか、忘れてたわ。」

しばらく携帯を見つめていたが、忘れるといけないから、と通話ボタンを押した。

「ああ、アタシ。」

「起き取った?看護婦長が病気しとっていかんがや。」

「ようやくメドついた。そっち戻るん日も近いかもしれん。」

「結婚は当分せんが。そんなん言うなら、もう電話せんね。」

「いい人は・・・・・」八代はしばらく考えた。「おらんよ。」

携帯を切って、ため息をつき、しばらく車の流れを傍観する八代。だが時計を見るとそうもいかない事を痛感する。

「弟クンで我慢しろって神様が言ってるのかな。」

ハンドルを回して警視庁への進路を取る八代だった。

1 クウガの世界 -超絶- その9





「ディケイド、おまえはこの世界にあってはならん。」

‘鳴滝’がディケイドとクウガが戦うさらに上の路線に萎れた帽子を被り萎びたコートを着て立っている。
腕を動かすと、例のオーロラのカーテンが2体のライダーの左右から迫り、ある間隔で立ち消える。運んできたのだ。
何を運んできた?それはディケイドでもクウガでも、またこの世界に属する者でも無いライダーを3体。

「アニキ、ここにもいたよ。ライダーが。」

「ああ、いくぜ相棒。」

クウガの背後に立つのは『パンチホッパー』と『キックホッパー』。

「ベルトを貰う。」

ディケイドの背後には『カイザ』が立っていた。

「これもおまえの仕業か!」

「冗談じゃねえ、知るかあんな辛気くさい奴等。」

ディケイドとクウガ、互いを見合って状況の激変に戸惑った。

「汚してやる、ライダーなんて!」

パンチホッパーがクウガに殴りかかる。そのラッシュに一旦は戸惑ったクウガだが、ドラゴンフォームに変身した途端、その俊敏さで逆に翻弄する。

「おまえいいよなぁ、オレなんか趣味の悪さを人から罵られる事もない。ピンク野郎!」

キックホッパーがディケイドに足技だけで格闘を挑む。それを見切って防御するディケイドだが、足技で挑む対手には上手くカウンターをかけるポイントを見いだせない。胴が遠くなる。

「おまえ、記憶が無いんだってな!」

そんなディケイドに『カイザブレイガン』が連射される。しかしディケイド、そんなカイザの動きを見切って、咄嗟にキックホッパー後背に回り込む。
キックホッパーは吹き飛んで悶絶、
なお続くカイザの銃撃、
横に躱しながらディケイド、ソードのブッカーを畳み、グリップを半開きにする、これが『ガンモード』、ブックの背軸がバレルとなるこれを使って撃ち合いに応じる、
撃ち合いながら近接する両者、
至近の間合いに詰め寄り、互いの胸に互いのノズルが接着、

「なぜオレと戦う?」

ディケイド、ブッカーをソードに切り返し、カイザを斬り上げ、

「邪魔なんだよ、オレの思い通りにならないものは全て!」

カイザ、ブレイガンをソードモード逆手に、擦り上げられた腕を戻し刃を合わせる、
拮抗するライドブッカーとカイザブレイガン、

「おまえら、オレを笑ったなぁ!クロックアップ!」

そこへ悶絶していたキックホッパーが立ち上がり、超高速運動を仕掛けてくる。

「なんのつもりだ、おまえら!」

カイザはキックホッパーの見えない蹴りに倒れる、

「クロックアップ、自分の時を速め、高速で敵を倒す。だが、」

ディケイドはどの方向からやってくるか分からない鎌鼬のごとき攻撃に翻弄されながらも、1枚カードを取り出す。

『ATTACK RIDE BLAST』

ブッカーガンのノズルがいくつも分裂して見える、それは眼の錯覚、しかし撃ち出される無数の光弾は実威力がある。

「ぐおっっっ!」

3つの方向に手当たり次第にブッカーの弾幕を敷いたディケイドが、見えない対手をついに捉える。実体を顕したキックホッパーが銃弾の横雨を食らいながら崖に押し付けられ、最後は爆破した。

「よくもアニキを笑ったな!」

ドラゴンクウガに圧され気味のパンチホッパーが叫んで突如姿を消す。いやキックホッパーと同じクロックアップの領域に入った。

「なんだっ」

4態変化の中でもっとも素早いはずのドラゴンクウガが成す術も無く、一方的な見えない打撃を食らう。ドラゴンの動きが仮令追随出来たとしても、対手は自身が知覚して脳に伝達するまでの間に既に次のモーションに入っている。

「おいユウスケ、おまえがなんとかしろ!」

ディケイドも又同じである。知覚できない打撃を被り踊らされるままクウガと背中合わせになる。

「さっき貴様なんとかしてたろ!」

「ああオレは強いからな。だがもうダメだ。あれ1枚しかカードが使えない。」

「どうすん、イテ!」

とクウガがディケイドに振り返るとブッカーの銃床で眉間を打った。

『RIDER JUMP』

『RIDER PUNCH』

ぐぉ!

吹き飛ばされたのはディケイド、いままで右腕に握られていたブッカーが無い。

「おまえなら動きを捉える事ができる!」

ディケイドの叫びに、その手に握られたライドブッカーを眺めるクウガ。

「超変身!」

緑に体色が変化、ペガサスクウガへチェンジすると共にブッカーがペガサスボウガンへ。

『RIDER JUMP』

挙動が止まるクヴカ。

「ユウスケ!」

ディケイドが叫んでも全く動かない。

『RIDER PUNCH』

「この世界にライダーはオレ1人で十分だ!」

その声を、クウガは捉えた。ボウガンのトリガーを引き絞った。

「そこだ!」

発射、

真正面に出現制止するパンチホッパー、ペガサスクウガが狙った位置、そこはベルト、爆裂するパンチホッパー。

再び現れるオーロラ、
3ライダーの姿が役割を終えたように跡形も無く消失する。

「なんなんだあれは。聞いてるのか!悪魔!」

戸惑い叫ぶクウガに答えず、腹を押さえてかがみ込むだけのディケイド。

「よくやった、本当に出来ると思ってなかった。」

「なんだと!」

「なぜオレを助けた?」

クウガは黙ってブッカーをディケイドに返した。

「一応、あんな形でも、姐さんを助けてくれた。それだけは感謝している。」

視線を合わせないクウガだった。

人の良さでバカを見るタイプだ、

ディケイド-士は、そんなクウガ-ユウスケを見直した。

「なぜだ・・・ベルトが・・・・」

クウガのベルト、アマダムはなぜだろう、いつのまにか暗い影を差していた。

「これからはオレの事を門矢様と呼べ。オレの強さに嫉妬しないで身の程を知るんだ。いいな。」

ディケイドはそのクウガをただ項垂れているだけだと思った。

「おまえ、実はガキだろ。」

嫉妬?そういう事か・・・?。

ユウスケの旅が始まったのは、実はこの時からかもしれない。





「ディケイド、これがはじまりだ。」

‘鳴滝’はじっと眺めていた。
その腕も動かず、その足も1ミリとズレず、ただ自分が用意した3体のライダーの失態を眺めていた。カラスがその萎びた帽子に糞を落としてもただじっとしていた。

「次はこうはいかん。」

だがその眉間は痙攣していた。

1 クウガの世界 -超絶- その8

「あの2人が。」

嫌な予感でも覚えたのだろう、光夏海が駆けていく。警察を突破して徒歩でやってこれたのは、灯溶山という広大な距離空間の包囲が動員した警官数の手に余るという事だ。

あの夢・・・・・

夏海はクウガの姿が記憶に引っかかっていた。あのよく見たディケイドの夢。確かにあのライダー達の屍山血河の中に、4号-クウガも居た。

この2人が戦ったら、

夏海の記憶が復元されていく、この2人が対峙した場面が確かにあった。

『待て』

クウガの、その澄んだアマダムの輝きが霧に包まれるように濁り、クウガの燃えるような紅いボディもさらに上から黒く禍々しい鎧を纏ったようになる。それがクウガの人間性と尊厳と人生の全てを捨てて変貌した『アルティメット』である事を夏海は知らない。

『どけ』

ディケイドがそのクウガアルティメットに向けて、例の破壊光線をその身から迸しらせる。

盾を形成するクウガ、
それは足元に転がっていた『仮面ライダー響鬼』の死骸を再構成したもの、
盾がマゼンダの光線に粉々となる、アルティメットは不動のままだ、

『コロスッ!』

『殺す!』

両者が間合いを詰める、
拳と拳が交差する、
ぶつかるエネルギー、

『きゃ』

夏海の眼前に夥しい炎が拡がる、それは両者の暴走する衝突の結末、炎は夏海を包み、荒野を拡がり、世界を包んだ。

「2人が戦ったら!」

そのデジャブでもあるのかように、路上に2体のライダーが対峙していた。

「こうなったら戦ってみるさ。夏みかん。」

夏海が傍にいる事をディケイドはそう、気づいている。

「悪魔!」

飛び出し危険の道路標識を引き抜いてロッドへ再構成するドラゴンクウガ。

「ダメっっっ!」

夏海は叫ぶ以外何も制止する力を持てなかった。

1 クウガの世界 -超絶- その7

「4号、あっちを頼むぞ。」

ディケイド、ユウスケにそう言って、ライドブッカーを剣状にし、その刃を柄から切っ先へ軽くなぞって高い金属音を立てる。

「やはり貴方だったのね。」

「あれが、ディケイド・・・・・、」

未確認とディケイドを交互に見て、取りあえずはベミウに戦いを挑む事にしたユウスケも即座にポーズを取った。

「変身!」

ユウスケもまた赤いクウガに身を変える。

『FINAL ATTACK RIDE dididiDECADE』

ライドブッカーの刃がマゼンダに輝く、ディケイドからビランの間に等身大の光のカードが数枚並ぶ、ディケイド、ブッカーを振り抜く、刃から光が飛んでカードを突き抜けていく。

グハ!

爆破するビラン。
白いスーツの男の前髪が乱れる。立ち尽くす男は爆風にたじろぎもせず、ただディケイドを睨んでいる。

「まだ早すぎる。僕はあのクウガと同じように不完全でね。」

白いスーツが朧気に入れ替わり、そこにはクウガと似た異形が立っていた。ボディカラーは白。眼は複眼ではない。ベルトもアマダムがはっきりとある訳でなく、グロンギのベルトが被っている。

「ダグバ・・・・」

なぜかディケイドは彼を知っていた。記憶が曖昧な彼にはその名前しか分からなかった。



ザギゲゾクウガ!

ディケイドにノセられるままなのが気にくわないユウスケ-クウガだったが、自分がこの場を放棄すると背後の八代の身が危険に晒される。それだけは出来ない。出来ない事がディケイドには分かっている。分かって顎で使われている。それが悔しい。

「あの悪魔め!」

眼前の『ゴ・ベミウ・ギ』、クウガの憂さの捌け口にされたのを知ってか知らずか先制を取る。ムチをクウガの左に右に振るい威嚇する。河に先端零下150度の『冷凍ムチ』がほとばしり、水蒸気のように冷気がわき起こる。

「超変身!」

掴む、

身動きが取れなくなったクウガ、ペガサスに変身。なんと、先端速度はマッハを超えるベミウのムチを掴んで引っ張る。零下150度の先端がどれほど危険か全く無知であるが故の無謀な判断が偶々上手く行ったに過ぎない。

「うっ」

先端が腕に掠り、火傷を負うクウガ。それは普通の肉体ならショック死するほどのダメージである。しかしクウガの血の上った頭はその一瞬以外気にしなかった。

「超変身!」

さらに変身するクウガドラゴン。ベミウのムチがあっという間に分子変換しロッドへ再構成される。

ガっ!

得物を奪われ後退りするベミウ。クウガ最大の技は4態変身でも超絶的な体術でも無くこの物質変換かもしれない。

突く!

「どうだディケイド!」

逃げ惑うベミウよりもさらに早く腰から脚の先までの全ての力をロッド先端に込めて、一足で突くドラゴンクウガ。

クウガ!!!

ベミウはクウガの刻印を乳房の右下に受け、女声を叫んで爆破した。



「何者だ!」

体術で躱すダグバ。

「オレも分からない!」

ライドブッカーを剣状に、畳み掛けるディケイド。いつものディケイドの戦いぶりからすると逆だ。

腹部、

屈んでクウガばりブローを打つダグバ、
怯むディケイド、
畳み掛けに顔面に連打、ディケイドをさらに遠い間合いに弾き飛ばす。

「強いな。さすがグロンギの頂点。」

と知らないはずの事柄を口走るディケイド。
蹌踉けながら立ち上がるディケイドにダグバ、利き足をやや踏み躙り、ディケイドに向かって全力疾走、幅飛びの要領でディケイド寸前で跳躍、宙を一回転、蹴撃の体勢で突進。

「かっこいいぞおまえ!」

だがそれはディケイドのスタイル、相手の攻撃を見切って返す、の状況となる。

ライドブッカー一閃、
宙を弾き返されるダグバ、

「隙だらけだがな。」

ディケイド、ブッカーの刃に掌を充て流し金属音を響かせる。

クウガ、ラザ、ダダバグボザ、ザジャギ!

弾き返るもダグバ、直立で着地、
するも勢い止まらず後退り、
刺さる腹部、

「邪魔だ!」

その後退りした先に、『クウガタイタンフォーム』が『タイタンソード』を手に待ち構えていた。
クウガの刻印が刺さった腹部に浮かぶ。既にエネルギーがダグバのベルトに流れ込み反応している。

爆破、

爆炎に巻き込まれるクウガタイタン、やや離れた距離で髪が乱れその場の岩に必死にしがみつく八代、呆然と爆炎の中から歩いてくるクウガを見つめるディケイド。

「聞いていた通りだな、悪魔!」

そのディケイドに向かって、無傷のクウガが剣を向けた。

「何を言ってる!」

「いつか現れると聞いていた、全てのライダーを倒す為に!」

敵愾心、対等の対手へのプライド、八代への対面、存在が脅かされる恐怖、嫉妬、それらが混濁して今のユウスケ-クウガを突き動かす。
ディケイドが距離を置く為跳躍、河原の一段上の路上へ達する。
クウガもまたグローイングフォームにチェンジして跳躍。
舞台は八代の声の届かないところに移った。

1 クウガの世界 -超絶- その6

夜が明けた。
朝の光写真館は空気が静かに沈殿している。

「これもダメか。」

士クンは徹夜したみたい。
現像室を覗くと、自分で撮ったらしい写真を眺めていた。らしいじゃない、あきらかにどうやってそんな風に撮れるのかというレベルのピンボケ写真、間違いなく士クンのだ。

「この世界も貴方を拒絶してる?貴方がこの世界の人じゃないから、ですか?」

八代さんから勉強して貴方呼ばわりしてみる私。
士クンはできあがった写真を現像液に放置して、店先の方へ行く。

「分からない。」

士クンが向かう、昨夜八代さん達がコーヒーを呑んだテーブルには、あのディケイドのカードがズラリと並んでいた。

「分からないって。」

こいつ変なヤケ起こさないだろうな。

「これと同じだ。」

画像が曇ったカードを繰りながら、『COMPLETE』というロゴだけが入ったカードを1枚朝日に翳す士クン。

「9つの世界を巡るって言っても、何をしたらいいのか分からない。だから、」

「だから?」

士クンは拡げたカードを掌に収めて、店の玄関を開けた。不思議な事に警官の格好になった。

「取りあえず遊んでみる。グロンギって奴等と。」



八代もまた徹夜明けで車を走らせる。いい加減居眠り運転でパクられそうだが、そんな事も言ってられない。あの門矢士という巡査風の男が、八代を呼びつけた。違う可能性がどうとか携帯に連絡してきた。
呼び出された河原で長い脚を窮屈に折って座っている士を見止める八代は、即座に車を停車した。川のせせらぎは今日は荒い。

「どういう事?貴方の推理が間違えてたって。」

おそらく門矢士という人間性は、自分から間違えたなどと言わない。それは八代が記憶を脳内分析した結果だった。

「見なよ。」

士は八代に1枚の地図を拡げて手渡す。この灯溶山周辺の地図だ。門矢士は、灯溶山のロゴに赤いマジックでいろいろな線を引っ張っていた。八代が記憶と照合すると、それは女性警官達と灯溶山を繋いだ点と線であり、灯溶山を中心に見事に放射状の線となっている。もう一本、八代達が立つ地点のそれも含めて。つまり5つの地点と灯溶山山頂は、等しい距離にある。

「次に、女性警察官が襲われるのは、」

門矢士は地面を指差す。

「ちょっと待って、それって、」

八代は一瞬、身に危険を感じた。

「ここ。」

「あの山がどうしたって?」

第三者が現れる。小野寺ユウスケだ。

「やっぱり保険をかけておいたか。オレもそうする。あの山にグロンギの遺跡がある。そこに眠る『究極の闇』とやらを復活させる為、普段とは違うゲゲル、ゲームをしていたらしい。」

ユウスケが門矢士と八代の間に割って入る。

「ずいぶん詳しいんだな。グロンギの事に。」

「聞いただけだ。昨日のグロンギから。」

それはあの炎渦巻くバベルとの戦いの中、八代達が到着するほんの少し前の事である。

「聞いたって、だったら例のミナゴロシは、何?」

「嘘に決まってるだろ。女性警官の誕生日なんてグロンギがどうやって知る事ができる。山から等距離の5箇所、戦うリントの女性、つまり女性警官を殺していくって言うのが奴等のルールだ。」

「どうして嘘の推理で、警察を。」

ユウスケは、グロンギの回し者じゃないのか、とすら考えた。

「そうか、警察の警備を警視庁に集中させれば、ここに近づく女性警官はいない。」

八代はもう一つ、もっと突拍子も無い推測、いや予感があった。それは根拠は無いが正解であった。‘昨日のグロンギから’。

「そう、今ここにいる女性警官は、貴方だけだ。八代刑事。」

だが門矢士のどうしようもなくあふれ出る怪しさに、不安を拭い切れない八代とユウスケがいた。さらに驚くべき事に、

「ゼデボギジォ、ビデスンザソ!」

といきなりグロンギ語を発する士。

「言語学者が解析しよとしてもできなかったモノを。」

驚く八代、士のその視線の先を辿ると、『ゴ・ベミウ・ギ』が。

「ゲゲルを始める。」

背後には白いスーツを纏った男、そしてそれに従う『メ・ビラン・ギ』。

「今回は、大詰め、御大将の登場だ。ここで5人めを殺せば、究極の闇が復活するとさ。」

八代にジリジリと包囲を縮める未確認。八代の前に立ちはだかって庇うユウスケの腹部には既にアマダムが浮かんでいる。

「邪魔」

そんなユウスケを突き飛ばし、士は八代と相対する。

「ッウ」

鼻へクリーンヒットの拳が決まる。未確認に対してではない。八代に対して。八代の鼻の穴から実に見事なラインの血が流れた。

「おまえやっぱり!」

士に掴み掛かるユウスケ。ユウスケは士への疑惑を確信に変えた。しかしそれは即座に否定される事になる。

「グロンギをよく見ろ。」

なぜか未確認達が動揺している。

「よく分かったな。」

白いスーツの男が士にこれ以上無い程の憎悪の眼を向けた。

「1人めは毒殺、2人めは心臓麻痺、3人めが絞殺,4人めが焼殺。つまりこいつら一滴の血も流さずに殺していた。それが最大のルール。だが失敗だ、これでな。」

「やっぱりこの人が、」

八代は理屈は無いが確信した。

「アンタ、何がしたいんだ。回りくどい。」

訳の分からなくなったユウスケが呆然としている。

「オレは最初から一直線に目的を果たしたぜ。余計な犠牲を出さず、ゲゲルを終わらせる。後はこいつらを始末するだけだ。」

既に士の手にディケイドライバーが握られている。丹田の位置に付けると、バックルからベルトが射出し士の腰に装着される。そうしておいてバックルを90度回転させ、続いてライドブッカーを開いてカードを取り出す。

「変身!」

カードをバックルに装填、

『KAMEN RIDE』

対極図を腕で描きバックルを元に戻す。

『DECADE!』

士の肉体に装着されるディケイドスーツ。
頭に光のカードが縦に5枚差しされ、ディケイドの仮面が形成された。

1 クウガの世界 -超絶- その5

私は追いかけた。
八代さんも鈍感なのか警察の方へ士クンと行ってしまった。ユウスケという子に呆れたのかもしれない。けど八代さんとこの子が終わってしまうのはなんだか勿体ない。そんな気がして私はユウスケという子を追いかけた。

「なんだ。」

ユウスケという子はセンス悪いバイクのエンジンを吹かしていた。何度も何度も足でエンジンのレバーを下げる。でもエンジンが掛からない。後で聞いた話だが、このバイクはちゃんとセルモーターというボタン一発でエンジンが吹かせるのだそうだ。

「コーヒー代か。」

目当ての人が来なくてごめんね、とは言いたくない。

「貴方・・・・4号?」

私の背後で車が一台通りすぎた。

「だったら何?」

今横の道を走っていたタクシーの客はこちらを見ていた。たぶん私にとても理不尽な誤解で笑っているだろう。

「すごいなって思って。誰かの為に戦えるなんて。」

「誰かの為?オレは自分の為に戦ってるだけだ。戦わなきゃオレは、なんにも無いからな。」

ああなんて子供な。

「八代って人、貴方の事、本気で心配してる。」

その時驚いたのかなんなのか、バイクのエンジンをかけてしまうユウスケ君。

「なんだよおまえ。」

戦う運命の大事な人がいて、その人を助けられる人を見つけて、どういう形でも助けて欲しいって一生懸命お願いしてるんだぞ。
でもそんな事言ってもこいつに通用しないだろうな。

「アンタも、誰かを心配しているって事か。」

戸惑う私に、妙な事を言って去っていくユウスケ。私の話じゃないぞ。子供のくせに生意気だ。



「女性警察官の共通項は、誕生日。」

先の会議室。夜の八代の招集に警部や警部補連中はカリカリしている。
警部を退けて、巡査の警官-士がその椅子にふんぞり返り、茶のおかわりを要求する。

「誕生日?」

その茶わんに素直にお茶を注いでしまう頭髪の寂しい警部。なぜか警官-士の前だと警視クラス以上と対したような不思議な感覚になる。いや、ただ人がいいだけなのかもしれない。
頭を抱える警部の注いだ茶に口もつけず立ち上がってホワイドボードに向かう警官-士。

「この人は13日、この子は27日、こっちは5日、そしてさっき焼死した彼女は26日。」

数字をホワイドホードに一列に書き、何を思ったかその全ての一の位を円で囲った。

「ミ、ナ、ゴ、ロ、」

そして端に4を書き加えた。

「シ」

会議室にいる全員の頭が一つに閃いた。

「そうか、次は誕生日が4の数字で終わる者が狙われる。」

「全女性警察官の誕生日をチェックさせろ!末尾が4の数字の者を重点的に警備する。」

会議室の警部補全員が直覚して行動を開始した。だが八代だけは、その背後にいる警官-士の含み笑みが気になってしょうがなかった。

「少しはお役に立ちましたか。八代刑事。」

「貴方何者?」

八代はその大胆な推理力にではなく、たったこれだけの事でこうも警官達を手玉に取って思うままに動かしてしまえる、カリスマ、と言える力に、得体の知れない恐ろしさを感じた。



そこは灯溶山の奥深く、マクロな岩石が作った隙間ではなく、なんらかの破壊力によって綺麗に球型に空いた洞窟。
中央には石棺があり、なにやら暗い煙を吹き出している。

「僕のへそから伸びた花から君が、君の額からクウガが生まれた。」

その至近、2体の未確認を背後に従えた白いスーツの、あの男が棺をジッと眺めていた。

「何故これほどまでに早く目覚めてしまったのか。クウガも僕も全く未熟なまま出会ってしまった。」

黒い煙が充満しつつある洞窟の中、2体の、『ゴ・ベミウ・ギ』と『メ・ビラン・ギ』がなにやらグロンギの言葉を口走りながら頭を垂れた。

「そうだ。『ゲームの為のゲーム』を完了する。散れ!」

と言われ、2体の未確認は姿を消した。

「ゲーム、死も恐怖も超越した僕らがたどり着いたこの世で生を実感する為の所作。超越する前あれほど焦がれていたモノが、この煙と同じ暗く淀んだ世界とはね。」

1 クウガの世界 -超絶- その4

「マっちゃん、マっちゃっ!」

そこは灯溶山の登山コース出発点である橋の上。ミニパトは煙を吹いて大破、9号と呼ばれる事になる『ゴ・バベル・ダ』。刺股でエンジンを貫通するとミニパトが爆破。中で気絶していた女性警察官1人があっという間に炭化した。接触襲撃されたところで車外へ放り出され、左の手足を複雑骨折した同僚の女性警官は、車外に飛ばされた事で逆に一命を取り留める事になった。

クウガ!

もう1人に刺股を向けたがしかし、バベルは背後に危険を感じた。
振り返ると異様に光る照明が見える。警察の緊急車両よりも疾く現場に到着したそれをDN-01改め『マシンディケイダー』と名付けられた事をバベルは知らない。

「違うな。」

マシンディケイダーを停車して降りる姿は既に変身されたライダーの姿。

「拳の強さを見せてみろ!」

構わず襲いかかるバベル。
刺股を横薙ぎ、
一の太刀をスウェーで躱し、返しの太刀をさらに腕でガードして弾くディケイド、
返しを弾かれると握りの位置の関係で重心が崩れる事になる、
対手の姿勢の崩れに隙を見いだしこめかみに拳を一撃、

「それよりちょっと話を聞かせてもらおうか。」

ディケイド、明らかに数段上のレベルの体術で得物持ちのバベルを圧していた。



「4人めの犠牲者。」

いち早く覆面で到着したのは八代。単身ではない。後続にバイク「トライチェイサー2000」に乗るユウスケが。2人だけで現場に先行したのは八代が警官全員に山を包囲させた事による。
炎上するミニパトを眺め、側近で倒れ泣き叫ぶ女性警官の肩に手を置いて首を横に振るくらいの事しかできなかった。

「9号は?」

ユウスケが聞くと、脱力感で言葉が出ない女性警官は視線だけを炎の先に向けた。

ガァァァァ

炎を潜って飛んでくる、いや飛ばされてくるのは9号バベル。
続いて炎を潜って悠然を間合いを詰めるディケイド。既にバックル90度回転させ、1枚のカードを装填している。

殴りかかるバベル、
受け止めて裁くディケイド、

「やはり連れてきたか。」

怯んだものの即座に体勢を立て直すバベル、
その隙を突いて顎先を揺するディケイド、 殴り飛ばした位置は先の炎の中、
ディケイドはいつのまにか八代達と9号の間に入ったポジションを取っている、
そしてバックルを元に戻した、

『FINAL ATTACK RIDE dididiDECADE!』

ディケイドからバベルの間に10枚の光の薄膜が出現、あえて言おう、人間大のそれをカードと、
ディケイド跳躍、
跳躍に追随する形でカードもせり上がり、せり上がりつつもバベルとディケイドの間を連結、まるでそれは軌跡、

「ふん!」

カードを次々と透過、その軌跡通りに突撃、

ン!?

呆然としたバベルのそれが命取りとなる。ディケイドのキックを食らい、アスファルトを小石のように転がって爆破、
クウガ=4号のそれは、クウガのアマダムのエネルギーとグロンギのアマダムとの連鎖反応での爆破だが、ディケイドのそれは本質的にディケイドのみが持つ破壊的なエネルギーがグロンギの細胞を物理的に爆殺する。

「なんだアレ、」そのデタラメさ加減を直覚するユウスケだった。

「10号?」

八代のそれは根拠の無い思いつき、不可思議な力を持つ者は全て未確認になりつつあるこの世界のあるいは世論の代弁だった。

「待て!なぜ同じ未確認を倒した!」

八代の言葉を鵜呑みにして叫ぶユウスケ。
そんな両者に背を向けながら軽く手を振るディケイド。

「オレは、グロンギじゃない。」

言うべき事は全て言ったディケイドは、マシンディケイダーに乗って反対側へと去っていく。

「答えになってないぞぉぉぉぉ!」

叫ぶユウスケの声が、山に木霊した。



あいつめ、私の事忘れてるんじゃねえだろうな、

「士クン、まさか自分の使命忘れてしまったんじゃ。」

光写真館は今日も暇だ。刺激が欲しい。

カランコロン、

「士クン・・・?」

じゃなかった。

「ここって喫茶店じゃなかった?」

男が聞いてきた。空気読めない奴、私が分かるわけねえだろうが。

「どう見ても違うでしょ!」

一目で上下関係が分かるカップル。女の人は細身の顔立ちに男臭い大きなコート。ああいう着こなしもあるんだな。今度やってみよう。赤いジャンパーの男は、もしかしてヒモか?

「ええ、ここ写真館です。」

私がそう言うと、この逆援カップル(断定)が気まずそうに扉を閉めようとする。そこへお爺ちゃんがひょっこり出てきた。

「コーヒー、自信ありますよ。どうぞどうぞ。」

ええ、商売になんねえだろうがお爺ちゃん。

「じゃあ、良かったらどうぞ。」

私はお爺ちゃんに従っただけですから。全部お爺ちゃんのせいですから。



お爺ちゃんは100円ショップで買ってきたドリッパーとフィルタだけで淹れる。こんなん客に出してええんかい、と口は出さない私。

「彼、何者だと思う?」

「未確認10号だろ。次は倒してやる。」

男の方は店のカメラのアンティークぶりに物珍しそうに触っている。まだ現役なのだ。壊したら弁償させて、新しいモノと換えてやる。

「彼は、グロンギよりも貴方に近い存在に見えたわ。」

おお、なんだかこの世界の核心に迫るような刺激の予感がする。私の耳は逃さない。

「オレに近い?」

「彼もまたグロンギと戦う者なら、もっと話を聞いてみたい。」

「なんの為に!オレの代わりに戦わせると言うのか!」

戦う者?士クンかな?というかこの男なにキレてんの?ホント空気読めない男嫌い。
テーブルを叩いた振動で、私が危うくコーヒーをこぼしてしまうところではないか。なんの三角関係か知らないけど、子供の男はホント嫌い。

「ユウスケ、」そう言って大人の女の人は私に頭だけ下げた。「貴方の力になるかもと思っただけ。」

貴方、なんて言ってもらえるんだぞこのKY男子(断定)。

「オレの、力ね。そうか。」

けどこのカップルは何者だろう。私の知りたい事に近い人達なんだろうか。そういえば大人の方のコートは刑事モノっぽく見えるぞ。もしや、彼って・・・・

シャッター音、

「士クン!」

と頭に浮かべたら、門矢士が背後に立っていた。こいつは私のスタンドかよ。

「はぁ~い八代刑事。」

ずいぶん昔のDVDで見た加藤茶のようなふざけた警官挨拶で眼が笑っている士クン。こういう時のこいつは、この八代と呼んだ大人の方から何か引き出したい時の態度だ。

「この方は?」

戸惑う八代さんを畳みかける士クン。興味はこのKY君か。

「この人は、小野寺ユウスケ。ちょっと捜査に協力してもらってるんです。」

ああ、この大人の人も士クンのペースに呑まれてる。食い物にされないだろうか。

「へえ。」とだけ言う士クン。もう知りたい事は知ったっぽい。その証拠に、「それより、未確認について、ちょっと思いついた事があるんですけど。」と話を別に切り返してきた。

「シロートに何が分かる。」

KYが突如士クンに口出ししてきた。マズイぞ。絶対こういう時の士クンは受けて立つ。

「いやあ、八代さんが4号とか言う化け物の世話しているのを見てて、お手伝いしたいと思って。」

何言ってんだこいつ。何を言ってるか飲み込めないが、人を挑発する時の顔だぞ。

「おまえ今なんテった?」

胸倉を掴まれる士クン。士クンとKYではやや士クンの方が背が高いのか。いや、そんな事より、KY君が・・・・・そういう事なんだ。八代さんも大変だな。そうか、だからか、なんとなく分かった気がする。断定訂正。

「話を聞かせて。」

一発触発に割って入る大人の八代さん。そんなにユウスケという子供君を大切にしてるんだな。

「!」

無言のどよめきがユウスケ君の顔に浮かんだ。士クンから手を離し、1人ムクれて写真館を後にした。
あの子は絶対八代さんが士クンの方を取ったと誤解したんだろうな。

1 クウガの世界 -超絶- その3

八代が目覚めた時、心地よい人肌の温度と感触がまず頭から背中にかけて感じられた。次に視界を落ち着かせると自分の頭上にユウスケの笑顔があった。ユウスケはどうやら夕焼けを眺めているようだ。気がつくと自分はコンクリートの上に半分倒れ込んで、ユウスケにしがみついている。

「おはよう。姐さん。」

八代は性的な恥じらいを、ユウスケという青年に気づかれないようにただそのままの状態、寝ぼけた顔で押し通した。

「なんで貴方の肩に、」

ユウスケは素朴な笑顔を八代に向けた。八代は平常心を自分に言い聞かせながら、ゆっくりと上体をユウスケから離す。

「まあ、いいんじゃない。」

「一生の不覚。」

そんな八代の表情を眺めて、何も読み取れないユウスケは戸惑う。ただ自分は笑顔を作って、飄々と惚けるしかない。

「いつもどうも。」

起き上がる八代に、ユウスケは先の拳銃をアメリカガンマンのように回しながら返した。

「犠牲者が出てるのよ。浮かれないで。」

凛と鉄板でも前面に張り出したような抑揚の無い八代。周囲とセイフティーを見ながら胸元のフォルダーに拳銃を収めた。

「はいはい。」なお惚けるユウスケ、というより惚けるしか思いつかないユウスケ。「それより、どう?オレの、変身。」

「まあまあね。8号7号、2体を確実に倒したわ。」

間抜けな受け答えをしてしまっている事に八代は、内心で自分に幻滅していた。浮かれているのかもしれない。

「だったら、なんかメシでも奢ってくれよ。姐さん。」

ユウスケは、それでもデートの約束を取り付ける好機はなんとか見いだした。

「ユウスケ、ゆっくり体を休めなさい。4号についてはまだ分からない事が多いんだから。」

とユウスケとは完全に別方向、既に次の未確認への対策へ思索を走らせる八代は、振り返りユウスケを後にする。

もっとオレを見てくれよ、

取り残されたユウスケは、青空の下、ただ戸惑うしかなかった。



対策本部会議室。
本庁警備部長兼対策本部長、同じく兼対策本部参事官、実働部隊の長である頭髪の寂しい警部が上手に位置するホワイドボードを背にしたテーブル、そしてその他40名ほどの対策本部員が下手のその4人と対面する形で座していた。

「また被害者は女性警官でした。3人めです。服務中の女性警察官ばかりです。」

八代と同階級の警部補はこの室の中に4人いる。八代が本部長に詰め寄ってホワイドボードを占有したのは、彼女が独自の未確認ゲーム行動原理説を演説した為である。

「1人は毒殺、1人は心臓麻痺、この間のは絞殺か。」

頭髪の寂しい警部は紙カップを振ってにコーヒーのおかわりを要求した。

「なぁ八代、未確認が出現すれば、すぐに警察が出動する。被害者が警察官なのはむしろ当然じゃないのか?」

「規則を守って殺す。人間の世界ではゲームという単語しか当てはまらない。奴等にとっては生きる事がゲームなのかもしれない。」

八代はやかんに水を持ってきた若い警官に不覚にも注意を払わなかった。

「しかしこれまでも未確認は!一定の手順に従って殺人を行い、被害者にも共通点がありましたっ!」

八代がこうなると手がつけられない事は直属の上司であり、対策本部に引っ張ってきた警部が一番良く分かっている。

「グロンギゲーム殺人説か・・・・」

‘説’という言葉を用いる時人は、理屈はありうるがにわかに信じ難い、もっと他に事実があるのではないか、という含みを当然持つ。従って続く言動は、

「奴等にそんな知性があるのか?」

という疑問句で括られる事になる。
だが警部のそんな疑念も、眼前にいるやかんを抱えた警官の行動でかき消される。

「本当に女性警察官ばかりが狙われているとして、全員に護衛つけろっていうのは、現実不可能・・・・」

と八代と同じ警部補が、八代の癇癪に対抗しようとした。しかし、眼前の警官の奇妙な行動に結局浮いてしまった。

「・・・・」

「グロンギ。いったいどういう生態なんだ。おもしろい。」

背中で室内の空気が変わったのを感じた八代が振り返る。奴がいた。あの倉庫で出会った玩具カメラを首から、今もぶら下げている背ばかりでかくて、それ以上に態度がバカでかい巡査。
警官-士は思索を巡らせつつやかんを紙コップに傾けた。ブラックが僅かに残っていたカップに注がれるのは水、薄めただけではない、溢れてもなお傾けるのを止めず、こぼれるまま固まっている。それどころか、そのまま脚だけ横移動し結果として警部のカップから警備部長のカップまでテーブルごと水浸しにしている。
室内の全員がその水浸しのテーブルと、テーブルからこぼれるコーヒー混じりの汚水が警視長、警視正、警部の制服に染みを落としている様を、唖然と眺めている。
ただ1人、八代だけはそんな傍若無人な行動を起こす男と視線を交わした。

「ここは対策班の会議よ。君どこの所属!」

女性が君づけする時は、上手の立場を取りたい時のカマである。

「まあまあ、君は所轄の者だろ?対策本部は今や花形だから、こういう突拍子も無い、」

などと内心、残る染みである事だけが心配の警部が八代を諫める。
だが事態は会議室の外側で動いている。

『緊急通報、別種の未確認生命体が、警邏中のパトカーと接触した模様・・・・』

室内の総員立ち上がり、警官-士どころでは無くなった。

「・・・・・、9号・・・・・」

八代は警官-士の怪しさがひっかかったがやはり皆と同じく、今は未確認に集中するしかなかった。




1 クウガの世界 -超絶- その2

警察が対策本部総員かけて車両によるバリケードを作る。


未確認はこの警察車両を片腕で持ち上げる事ができる。油断は出来ない。拳銃で威嚇しつつ誘導するしかない。拳銃を撃つという事は市民がいない事が前提となる。避難させつつ、対手を誘導しなければならない。決定的な打撃力を警察自身が持っていない事が悔やまれる。端的に言えば、現場責任者の臨機応変な判断力が問われる。そのポジションを任されている者こそが、長野より対策本部に引き抜かれた八代藍である。



「4号が現れた。例の場所は、封鎖してある?」



「はい八代警部補。しかし4号が我々の思う通りに動くとは、」



丸棒の警官に気まずい顔をする八代は、切り返して威圧的な態度になった。



「彼は味方よ!それより7号はどうなの!」



7号と呼ばれる未確認「メ・ギャリド・ギ」は、女性警官を1人絞殺、同行婦警の通報を受け対策本部と所轄が包囲して車両で進行を妨害、誘導し、廃倉庫にまで追い込む。

八代は、ここまでのお膳立てをして、「クウガ」に後を任せるつもりだった。







未確認7号は最初の婦警を含めて警官3人を殺害、12人に負傷を与え、パトカーを1台大破した。



「姐さん」



ユウスケ、は警官の中心にあって陣頭を指揮する八代をそう呼んだ。

警官全員7号の方に注視して、ユウスケが駆けてくるのに気づかない。



「変身!」



ユウスケの腰に「アマダム」が浮かぶ。体組織が変貌していき、胸、脛、腕、肩などが紅く硬質化、クワガタのようなマスクが纏われ、ここに「仮面ライダークウガ」=未確認4号へと変身する。



一跳躍、



「4号だ!」



「紅い2号だ!」



「クウガ!」



バリケードを飛び越えるクウガ。7号に踊り掛かり対手の腕を放さず拘束、ジリジリとある方向に背を向けさせ、手を離して即座にドロップキック。壁に穴を空けて7号が飛ばされたのは倉庫の中。今は所有者がおらず、荷物もない、泥と埃が充満する日の差さない倉庫。



「上にも敵がいるわ!対手に付き合わないで、身軽に動いて!」



その権限で自分以外の警官全てを倉庫の外の包囲に回した八代は、クウガへも変わらないテンションで命令を与える。クウガは序盤のキックで優勢に立ったものの、突進した途端逆撃を食らい、ギャリドの攻撃に圧されている。

八代は、クウガと7号の頭上には別の未確認、即ち8号が様子を伺っているのを見逃していない。八代もクウガも、そのカラスの翼を持ったグロンギを「ラ・ドルド・グ」という事を知らない。



「分かってるよ姐さん!」



そんな八代の言う事に素直に応じるクウガは、コンクリート上に落ちているモップを一本、脚で掬い上げて手に掴む。



「超変身!」



『クウガドラゴンフォーム』、青い姿にチェンジしたクウガは、モップも又『ドラゴンロッド』に変形させた。

足腰を強化した青の力で素早く回り込み、得物のロッドでやや開いた間合いから伐つ。

そんな戦いを頭上から眺めていた7号、クウガドラゴンのロッドが伸び切った瞬間を狙って急降下してきた。

だがクウガは既にそのタイミングを読んでいる。7号を推し飛ばしたロッドで一旦地面を叩き、反動で頭上から降ってくる8号を横薙ぎする。



「あれがクウガ。」



100メートル四方の広大なコンクリートの屋内。2体の怪物の戦いを、クウガが空けた鉄板の穴から眺めるのは警官-士。警官の姿になってもなぜかあの2眼カメラを首からぶら下げており、さっそく戦いを撮り始める。



「それは何?私物?後退しろと命じておいたはずよ!」



誰が見ても怪しい警官-士に気づいて当然のように怒声で反応する八代。



「仮面ライダークウガ、戦闘に合わせてフォームチェンジ、周囲の物体を武器に出来る・・・、ところで1枚。」



と八代を煙に巻こうとする警官-士。

八代はこの手の男に慣れているのか、やや怒気を納めて無言で対手のペースに巻き込まれないように務める。優先事項のクウガへと視線を向けた。



「おりゃ!」



横飛び一撃、

ロッドのリーチで2体のグロンギを翻弄していたクウガ、囲まれた状態から抜け出るや否や7号に一足飛びでロッドを突く。クウガを象形した‘刻印’が7号、メ・ギャリド・ギの胸に浮かび、エネルギーが腰の丹田、捲かれたベルトのバックルまで達し爆破。



ゴドゲデギソソ



至近にあった8号がその爆破に巻き込まれ血を流して負傷。不利を悟ってか飛翔し、倉庫の天井を突き抜けていく。



「ユウスケっ、使いなさい!」



八代は携行していた拳銃をクウガに投げた。



「サンキュー姐さん!」



7号が空けた天井の穴を自慢の青の跳躍力でひと飛び。



「超変身!」



青空の元へ踊り出たクウガ。体色を青から緑、『クウガペガサス』へフォームチェンジ。そして八代から貰った拳銃もまた『ペガサスボウガン』へ。



「拳銃を投げた。つまり奴は民間の人間か。」



「言いふらさないでよ。」



八代はそう士に警告し屋上へ階段から回り込んでいった。やや八代の目つきに威圧された警官-士は余裕を装って口元を綻ばせ、空いた穴を眺めやり、そしてある方向の人影へと視線を向けた。



「君はクウガと同じ臭いがする。ドブ臭い。」



人影、白いスーツに身を固めた青年も子供じみた笑顔を警官-士に向けた。いつのまにか倉庫内に立ち尽くしていた青年は、あるいは実体の無い陽炎のようなものなのではないかとすら思える。



「そう言うおまえもグロンギの臭いがするぞ。」



警官-士も白いスーツの男も、不敵な笑みで互いを威嚇する。



「‘ゲームの為のゲーム’で、つまずく事はできない。」



「取りあえず1枚、」



警官-士はふざけて2眼を向けた。ファインダーから覗いて、白いスーツの男を被写体に捉える。ファイダーをシャッターが塞ぐ。再び開くと、既に白いスーツの男の姿は無い。



「ゲームの為のゲーム、か。」



事態に置いていかれている感の士、それでも余裕を保っていた。少なくとも体裁は。







射貫く!



「ギャ」



爆破!



八代が屋上に上がった時には既に決着がついていた。飛翔し逃亡を図る8号ラ・ドルド・グの逃げ足はマッハを越えていた。しかしそれを射貫いたペガサスボウガンの刻印エネルギーは、音速を凌駕していた。



「姐さん、ごめんよ!」



7号とクウガ等の距離は数百メートルを越えていた。しかしその7号の爆圧は、廃倉庫全体を炙り、八代の細身の肉体を枯れ葉が舞うように吹き飛ばす。吹き飛ばされコンクリートに頭を打ち付けた八代は、クウガペガサスが抱き起こす腕の中で失神した。

1 クウガの世界 -超絶- その1

『光写真館』を飛び出た士クンは、何故か、警官の衣装を纏っていた。階級は巡査。ミリ単位の着こなしのズレなんだろうけど、士クンが着込むと奇妙にだらしなく見える。ざまあみろ。




「凶悪犯、逮捕する、」



士クン、私の腕を急に掴む。



「ツボ!」



私は護身のお決まり技、腕を逆手にとって背後に回り込み、腕の痛みで硬直した対手に必殺「笑いのツボ」を突き込んだ。



「ハハハハハハハハハハハハハハ、無差別ツボ押しは犯罪だろ!夏みかん、いつか剥いてやる!」



セクハラ野郎を無視して周囲を見渡した私はある事に気づいた。



「ここ、どこなんです!」



隣近所が違っていた。前に舗装した道路なんて無くて、すぐ向かいに豆腐屋があったはず。街路樹なんて見た事ない。



「本当に違う世界へ来ちまったようだな。」



士クンは家の前のアメリカンポストを開いて朝日新聞の一面を眺めている。ちゅうか家は20年来の赤ポストなのに。



「未確認生命体・・・・」



士クンは新聞の一面の文字を口にした。私は即座に新聞を取り上げ続きを読んだ。



「学者の間ではグロンギという古代語の呼称が一般的に用いられている・・・・?」



「スポーツ紙には4号って奴が載ってるぞ。6号撃破だ!幼年誌の見出しかよ。」



士クンは隣家のポストからスポーツ紙を勝手に取り出し読み始めた。コイツなにやっとんじゃ。



「人ん家の新聞読むんじゃありません!」



私は凝固した。私の場合は眼に入ったのだ。そこに見覚えのある‘ライダー’が。赤いボディ。クワガタ、違う、鬼のような角。昆虫のような赤い眼。士くんのディケイドにも少し似ているこの一面の‘ライダー’がここでは4号と呼ばれてるんだ。



「どうやらここでは、警官がグロンギと戦ってるらしい。そしてオレの役割は、」



士クンは警察手帳を取り出した。ちゃんと士クンの顔写真が入っている。よく出来てる。



「門矢巡査。つまり、オレはグロンギと戦えって事だ。」



「そんな単純な!」



「戦ってグロンギを倒したら、こいつの力も取り戻せるかもしれない。」



士クンはこの間使って画がシルエットになった、力を失ったカードを束で取り出し扇に開いた。



「なんでそう男の子は勝手な思い込みで、」



士クンには私の言葉など聞こえてないみたい。



「特にこのカード、これが一番よくわからない。差しても何も起こらなかった。」



士クンが取り出したのは、他のように画がシルエットになっていない、ただ「DECADE COMPLETE」とロゴが打たれた以外真っ黒なカードだった。士クンはバカみたいに太陽に翳したりしたが、透けて何か見えるわけじゃない。



『警邏中の各移動に連絡。富士見二丁目の北二倉庫にて、未確認生命体の出現を確認。事件現場の指揮は、警視庁未確認生命体対策本部員が担当する。現場にて対応する署員は、対策本部員の指示に従い、未確認の接近に注意。負傷・事故等無いように注意されたい。以上、警視庁。』



それは士クンの肩口に付けられている警察無線。



「ほらな!」



士クンは、どういう訳か家の前に停まっている白い警官用の自転車に飛び乗った。脚や背が長い男が自転車に乗ると非常にかっこわるい。かっこわるいその背中を私は唖然と見送るしかなかった。



「お~ぉい、夏~海、おいで、おもしろいテレビがやってるよ~」



そんな私をお爺ちゃんの声は癒してくれる・・・・・訳ない。

2010年5月14日金曜日

0 見初められた女 -旅立ち- その8

「おかしいなぁ、テレビが映らなくなっちゃったよ。おーい、夏海、士君かい?ちょっと申し訳ないけど、このテレビ見てくれないかな。お爺ちゃんは腰が痛くて動けないよ。」




 と玄関が開いた音はしっかり聞こえているお爺ちゃんは、帰ってきたなり私ら2人に甘えた戯言を言った。いつもの事だ。



「つまり、貴方がこの世界を救うんですね。」



 私は士クンの背中が大きく見えた。



「ああ、大体そういう事らしい。」



 この時が静止し、窓から見える爆炎が間近に見えてるのに、呑気に構えているお爺ちゃんに私は何かが落ち着いた。



「撮ってみるか。9つの世界を。そうすれば・・・」



 士クンの悦びとも哀しみとも希望とも使命感とも取れない顔を私は眺めた。決心する時の男の子の顔はカワイイ。

 でもあの夢との関係はなんなんだろう。

 もしあれがただの夢じゃないなら、士クンはいつか、ライダー達に・・・・・・



「分かりました。行きましょう。」



 私はなぜかそう言ってしまった。



「なんで夏みかんまで行くんだ?」



 煙たがってるようで、私の身の危険を案じてくれているのは分かってるんだから。



「士クン、アテになりませんから。」



 でも実はすごく頼りになる事は分かってるよ私。



「それに・・・・・」



 なんだか話の方向を変えなきゃヤバい気がして私は言葉を必死に出した。



「この機会に借金を踏み倒すつもりかも。」



 士クンはそれに答えず、呆れたのか、それとも核心を突かれたのか読み取れない顔をした。少しじれったい。



「それでどうやって別の世界に行くんです?」



 私はもうスッパリ切り上げて実務な話をした。



「聞いてない。」



 なんだこいつ本当にアテにならないじゃないか。



「肝心な事を聞いて無いなんて、」



 私は士クンをツボ責めしてやろうかと思った。



「人はさ、誰でも旅人だよ。」



 祖父は時々頭がオカシイのではないかという気がする。聞いてるようで、聞いて無いようで、得体が知れない事を言う。詩人かよ。

 祖父は窓から見える風景を夕焼けと勘違いしたのだろう、店終いの時の日課にしてる写真館の背景ロールの具合を見ていた。



「あれ?」



 いつも使い慣れた撮影用背景ロールを引っ張る綱になぜか今日は手間取ってるお爺ちゃん。何か引っかかってるようだ。これだから光栄次郎は。



「何やってるのお爺ちゃん。」



 私が手伝ってやろうとしたその時、唐突に垂れ幕が落ちてきた。



「こんな背景見た事ないな。」



 頭にクエスチョンマークがついてるお爺ちゃん。私も奇妙に見慣れない背景が降りてきてびっくり。士クンのいたずらかと顔を見たが、彼もやっぱり驚いている。



「山、灯溶山・・・・」



 士クンは山の事を知ってるみたいだ。

 だが問題はそれを背景にしてる人影。

 マントを羽織り、何日も洗ってないような縮れて伸びた髪の顔の見えない男。どんな女性もそこまで伸ばさないだろう牙のような爪の指先が掴むのは一本のベルト。どこか士クンのあのバックルにも似ているけど、真ん中の珠のようなものが違っている。

 私はその人影を見て、さっきの残酷な出来事を思い出さずにはいられなかった。



(0章了)