2013年7月9日火曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その7





 左探偵事務所『もう1つの風都事件』調書、
 光夏海。20歳。特技「笑いのツボ」。
 自身の世界で、門谷士と出会い、
 『クウガの世界』で、ユウスケ出会い、
 『キバの世界』でキバーラと出会い、
 『龍騎の世界』ではじめて鳴滝を目撃し、
 『剣の世界』でディエンドを知り、
 『ファイズの世界』でモモタロスと出会う。
 これが反転するのが『アギトと電王の世界』、まずモモタロスが消える、
 『響鬼の世界』でユウスケが消える、
 『カブトの世界』で元々居た祖父、キバーラや鳴滝、そして門谷士までもが夏海の前から消えた。
 『スカルの世界』、直前の世界でほぼ全てを失った代わりのオレと、そしていままでの住み処だった写真館を失おうとしている。
 今回の依頼は結局先送りになった。
 驚いた事に、オレの世界はオレがいない事で相当ヤバい事になるらしい。フィリップから聞いた話はよく理解できなかったが、オレはどうやらそんなに風都に愛されているんだと納得する事にした。
 光夏海にそれを説明すると、あの子はあのクソ丁寧な敬語で自分も独りで旅をするつもりでしたと返した。門谷士の前まで連れて行くという依頼は、彼女自身の力でしないければならないと気づかせてくれたという。だがオレは半ば達成というあの子の言葉を遮って、先送りという事にしてもらった。その時が来るまで様々な世界をゾーンのメモリで渡って、光夏海に協力するライダーをできるだけ多く集めるとフィリップも約束した。オレが受けた依頼は、次の段階に移ったという事にしておこう。
 風都沿岸地帯は壊滅状態に陥った。しばらくは食糧とライフラインが風都全てで困窮するだろう。だがオレは見た。倒壊する風都タワーの瓦礫に寄り集まって、誰に言われるでもなく互いを助け、怪我人を介抱し、迷子の親を必死で見つけ、自前のかゆを振る舞って、そしてただのお祭りであるかのように笑い合ってる風都住民と、それを鼓舞し続けるこの世界のおやっさんの姿を。
 結局あの黒幕だった包帯の女はメモリのエネルギーで細胞が崩壊し死を免れなかった。園咲来人も跡形もなく消えた。今度産まれてくる事があるのなら、風都の風はあいつの友人を運んできて欲しいぜ。他2人の男と1人の女はベルトの保護機能のおかげで身体に深刻なダメージを負わず生き残った。フィリップによると奴らはある特殊な薬で命を長らえている。おやっさんが、人の良いドーパント専門の医者がいるって事で、薬の精製を頼んでみると言っていた。取りあえずは風都住民に頭叩かれながら、被災地でこき使われている。
 違う世界と言っても、風都は風都だ。風都の風が、風都の住民を作ってんだって、オレは思う。





「おまえに帽子は早い。この帽子はやらん。」

「分かってる事言われるとな、余計腹が立つんだ。それが1番の気に入りだって事は、オレも弁えてるさ。」

「だが、これならやる。オレがこの世で2番目に気に入っている帽子だ。ありがたく受け取れ。」

「は?これ、これか?!」

「翔太郎、その緑のチューリップハットは、某国営放送で工作のおじさんが愛用したそれに酷似している。ゾクゾクするね。」

「オレをからかってるのかこいつ!!」

「モデルチェーッンジ!」

 アキコに連れられ男3人がたむろする仮設事務所の前に立った光夏海は、視線を誰にも合わせず、表情を落ち着かせる事がなく、よく見れば頬が若干紅潮している。影に入った草地の深い緑の色をしたランニングシューズ、同色のやや短めのソックス、緑に加えてオレンジ、ベージュの縞のスパッツ、オリーブのカーゴパンツは袖を3重に捲り、カーキのタンクトップ、そしてオリーブのジャケットを上から羽織って同じく袖を肘が見えるまで上げている。

「切ったのか。いいんじゃねえか。」

 翔太郎は荘吉にコーヒーを淹れていた。

「髪は女の命というのを知っているかい?翔太郎。そもそも髪自体に神性がある国では、」

 手で制され、泣く泣く白紙の本を音を立てて閉じるフィリップ。

「印象的な髪を切ると、隠れていた眼の力が姿を顕す。いい女の条件のひとつは眼に力がある事だ。」

 荘吉は翔太郎の淹れたコーヒーには満足したようだ。
 光夏海の黒髪が10センチ切り取られ、うなじが露出するボブカットになっていた。光夏海は、未だはにかみながら、髪の毛の数本をつまんで、下に引っ張っている。
 仮設事務所である風麺の屋台では、オヤジが手早く座椅子を用意し、2人の為に麺を湯に投下した。アキコは翔太郎がストーブを片付けている間にそのラーメンを横取りして、割り箸を口に咥えて割った。

「その帽子よう見たら、ウチがお父ちゃんにあげたもんやんか。あげんの?ウチ聞いてへん!・・・・・ま、アンタやったらええわ。それよりドヤ?バカ助手、うちもショートにしたろかな。」

「ダメダメ、顎が出っ張ってる奴は髪で隠さなきゃ、それよりオレのとってんじゃねえよ、ナルト一口で平らげやがったチクショー。」

 頬を膨らませて、アキコは荘吉に眼を向けた。翔太郎はこれでまた数少ない良縁を逃した事になる。

「自分自身の決断で髪を切れ、そしてショートカットになってから、自分の髪を数えろ。」

 父親の後ろ盾を得たアキコ、翔太郎にアカンベーを返す。

「オレゃ反対だ!」

 孤立した翔太郎、それでも父子に意地を張ってみせる。
 そんなのどかなやりとりをそよ風に煽られながら、箸を手に付ける夏海、丼に顔を近づけて、つい癖で短くなった髪を左手がかき上げてしまう。
 だがそんな夏海に誰も気づかなかった。ほぼ同時に、屋台に置いたドでかいイギリス電話と、これまた携帯としてはドでかい翔太郎のスタッグフォンが同時にけたたましい音を立てたからだ。必然2人は立ち上がりやや距離を置いた。

「アキコ、」荘吉は歪曲した送話器を握りながら言う。「ダマルチアンだ。」

 観察していたフィリップが訝しんで翔太郎へと眼を向けた。

「翔太郎、興味深いねえ、こちらの世界の荘吉は、犬の迷子も請け負っているんだねえ。」

「被災地で子供や犬とはぐれた住民はまだまだいるからな・・・・・亜樹子!分かったよすぐ帰るって。それから、戻ったら、ちょっと話す事があるからよ・・・・、告白じゃねえよ、誰がおまえなんかによ!いいよもう!忘れてくれ!!」

 と強引にスイッチを切った翔太郎、フィリップに向き返る。

「なあフィリップ、あのおやっさんは、オレのおやっさんじゃねえんだ。今回の件でそれがよく分かった。」

「ようやく気づいたかい。ボクはすぐ分かったよ。君の態度が、ボク等の世界の鳴海荘吉に対してなら絶対しないものだったとね。」

「亜樹子にとっても、おやっさんは、ただ1人だよな。」

 12月に入ったばかりの風都は、先の青空が嘘のようなどんよりした、雪が降ってもおかしくない厚く濃い雲が大気を覆っていた。

「みなさん、そのままそのまま。」

 そんな4人をずっと眺めていた光夏海は、ピンクの2眼レフを手にした。

「ん?」

「君の記念写真なら歓迎だ。」

 未だ麺を啜っているアキコが右端、フィリップは既に反応し気に入りの角度でキメて左端、

「借りはいずれ返すお嬢さん。」

「依頼は必ずやり遂げるぜ光夏海。」

 そして、どういう訳か光夏海が撮ったにも関わらず、電話を手にした2人の男が重なって写っていた。念の為もう1枚撮ってみたが、やはり同じだった。どういう訳か光夏海、その2枚を微笑んで眺めて、

「私の旅が始まったんですね。」

 とだけ小声で呟いた。
 後に撮った1枚をアキコに手渡す。その夏海の背後に突如としてあのオーロラのカーテンが現れる。

「どうやらディエンドライバーを使いこなせているようだね。ボクは正直、君が次元を渡って、各世界のライダーに協力してもらう事を考えていた。だが君は想定外だ。」

「相棒の最高の褒め言葉だぜ。身1つで行くんだよな。」

 4人はそれぞれ指を1度だけ振って、挨拶を夏海に向けた。決してさよならとは言わなかった。
 大人の階段を上り始めた少女は、カーテンをすり抜け、この『ハーフボイルドのいない世界』の大気に溶け込んで消えた。

「なぁ、あの子、1人で大丈夫なん?事務所といっしょに、あの子の家への扉も消し飛んでしもたんやで?」

 アキコがさりげなく翔太郎に肩と肩をすり合わせた。結局のところ翔太郎は2度とこの世界に来る事無く、1人の女との縁と気づかず終わる事になる。

「大丈夫、光夏海の心は、今はそう簡単に折れやしねえ。」

 丼をバケツの水にいれてスポンジで洗う翔太郎は、鼻先に洗剤をつけながら言った。

「そやな、仮面ライダーになったんやもんな。ウチもこれから、お父ちゃんとこの風都を守っていくんや、仮面ライダー、クレイドールとしてなぁ!」

 唖然と固まる翔太郎の耳元に、一陣の風が音を立てた。


(完)

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その6





「なんでだ、オレ達の全力だった。それを一瞬でオレ達の方が・・・・・」

「奴は風都の風を吸収して立ち上がった。奴は風都に守られている。」

 フィリップは言って後悔した。翔太郎は愛すべき風都が敵に荷担していると知ってどれほど落ち込む事だろうか。その漆黒の仮面からフィリップは表情を読み取る事ができなかった。

「そうだよな、」

 その時フィリップの想定を、凌駕するただの凡人、

「なに?」

「そうだよフィリップ、風都ってのは、街の住人になら誰にも良い風をくれるんだ。たとえ街を泣かせる住人だったとしてもな。」

 この姿が見られるからこそ、この大いなる凡人の傍にいるのだ。

「だからこそ、」

 その2人に骸のライダーが言い放つ。男の胸から腹にかけて溝のようになった綺麗な傷な刻まれていた。その背後にはディエンドがいる。

「だからこそ、街を泣かせる奴を許さない探偵が要るんだ、この街にはな。来るぞ。」

 風の怪物が先の最強の攻撃波を再び放とうと12本に増えた腕を振り上げる。

『KAMEN RIDE KANTOUZYUUITIONI』

 かまいたちが放たれる寸前、3人のライダー達の前に、11人の影が肉の壁となって立ちはだかる、スクラムを組んで先のライダーを一瞬で消し去った攻撃を大量の血飛沫をあげながらも耐え、裂けた皮膚が即座に回復していく。

「ディエンド、切り札はまだ持っているね?」

 サイクロンが言う。

「もちろん」

 とまた応えるディエンドが取り出したのは3枚、

『FINAL FOAM RIDE sususuSCULL』

「オレか。」

「痛くしないから。」

 背中にむけてドライバーを放つディエンド、スカルが手足を窮屈に曲げ、背から腰を小さく丸める、巨大な頭蓋となって宙を浮かぶスカル、

『FINAL ATTACK RIDE sususuSCULLuu!』

 ドライバーから舞い上がるカードの奔流に乗ってスカルが高く高く打ち上がる、

『FINAL ATTACK RIDE dadadaWyuyuyu!』

 さらにドライバーに装填すると、サイクロンとジョーカーが天高くスカルを追随、追いつき追い越し蹴撃の体勢からサイクロンは右足、ジョーカーは左足をそれぞれスカルに接着、降下、

 FuuuuuuuuuOoooooooooo

 対して圧倒数の腕を生やす風の怪物、この風都の怪物の眼が異様に光り、全ての腕が、3人のライダーめがけて集約する風都の風全てをさらに集中させる、果てしなく直線の細い渦となる、

「耐えろ」

「おやっさんもな」

「風都がヤツを味方している。このままでは。」

「男なら耐えろ!」

 スカルの頭蓋が斬圧で切り刻まれ、だがなお押し切られる事なく宙で静止、

「がんばって仮面ライダー、」

 威嚇するも微動だにせず攻撃を3ライダーに集約する風都の怪物、仮面をつけながらも弱音を吐いた、ディエンドの頬は仮面で覆われ、その微風の変化に気づかなかった、

『がんばれ』

『がんばるでやんす』

「フィリップ、風だ、耳鳴りがする」

『鈍らせんな、がんばれ』

「これは?・・・・風に乗って、ボク等がブレイクしたメモリの記憶・・・?」

 信号や街灯に電力を送る小型風車が逆回りする、

『貴方達の気持ちは本当に嬉しかった、負けないで』

『がんばって、大好きな翔ちゃん』

「ああ、その声だフィリップ、」

「マネーやアロマノカリスまで聞こえる、」

 海に立てられたビルの緊急蓄電用の大型風車も逆回りし始める、

「がんばって、仮面ライダーなら、がんばって。」

 ディエンドも祈った。

「フィリップ、風だ、風都の風がっ!」

「ボク達に力をっ!」

 ついには科学法則を無視した風の集約が、怪物の反対方向から起こる、衝突する同じ風都の風と風、均衡が崩れる、頭蓋が紫炎を放って落下、2人のライダーの威力も相まって徐々に加速する、敵の急所である眼球を狙い、風都の風を相殺した、強靱な魂が貫いていく、

 Fooooooooooooooouuuuuuuuuuuuuuuu

 貫通する眼、
 紫炎の骸が眼球を風船のごとく破裂させ、中から生身の男の肉体が露呈し、爆圧のまま推し込められる、その四肢の先からは0と1の羅列が漏れ出し、肉体の形骸が徐々に崩壊していく。

「これが、死か・・・・・・・」

 肉体もその無邪気な安堵も全てエメラルドの文字列となって拡散。
 余剰の熱量が大気を爆炎で染める、3人のライダーの影を覆い隠す、ディエンドはあまりの爆風に仮面の顔を手で守った、
 風が一気に収まる、
 熱が一気に引き、再び海岸一帯へ微風を呼び込んでいく、

「雲1つ無い、風都では珍しい青空だ。」

 着地する両者の脚、
 そこは偶然にも半壊した探偵事務所前の路上。骸のライダーはまず帽子を脱いで胸に置き、天を仰いだ。

「フィリップ、奴は、」

『ああ、園咲来人はボクと同じデータ人間の肉体だった。メモリブレイクは即ち彼の、』

 右の明滅は、心無しか暗い、

「ああ、地球の記憶に還ったんだな。」

 左の明滅は、ただスカルと同じ天を仰いだ。

「私はまだまだ、様になってないよね、あの2人みたいになれるだろうか。」

 駆けつけたディエンドは、強い日差しに長い影を作るライダー達の背中を眺めていた。




6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その5





「いくわ!」

 ルナが両腕をあり得ない長さでゴムのように伸ばして怪物の首元に巻き付けた。

「りゃぁぁぁぁ」

 その2本の綱のように張った腕を、ジョーカーの頭を飛び越えて乗るのはファング、高速で綱渡りしていく、

「続くぞ、翔太郎、」

「おうよ、」

 続いて駆け上がるジョーカーとスカル、
 上空ではヒートがメタルを抱えて飛翔、頭上まで達して、メタルを落とす、

「うぉりゃたぁぁぁ!」

 落下の勢いと全腕力を込めたロッドの先端から火が噴く、その突端が怪物の眉間に刺さり、着地したメタルは二度、三度同じ眉間への攻撃を繰り返す、

 ホッッッォォォォ

 ビル風のような咆吼をあげる怪物がその唯一飛び出した巨大な掌でメタルを弾き上げる、
 さらに眼光で攻撃しようとメタルに狙いをつける怪物のその顎にあたる位置へ、ファングとスカルが跳躍して切り込みダブルライダーキック、怯んで像が歪む怪物、

「そうか、力合わせられるかい、」

 その後方、ルナの腕からまるでスカルの影のような形でメタルへと跳躍するのはジョーカー、メタルの高度を超え、蹴撃の構えで降下、

「おいマッチョ、足合わせろ!」

「おおともさ!」

 メタル、ジョーカーに足を向け反り上がる形で直立、頭は風の怪物に向け、ジョーカーのキック力を両足に受け突撃、それはさながら金属の弾丸、
 貫通、風穴をあけるメタル、
 風の巨体がビル風の呻きをあげ大きく仰け反る、

「総攻撃だ」

 不動だったサイクロンの左右に着地するのは先のジョーカーとヒート、そして駆け寄ってくるルナとトリガー。ヒートとルナの両肩に手を置くサイクロン、トリガーはマグナムをジョーカーの肩を支えに構える、
 巨大な三日月が風に舞って飛ぶ、炎の渦が果てしなく直線に撃たれる、そしてトリガーマグナムが敵の急所へミリ単位の精度で放たれる、

 ホフォォォォォ

 ついには倒壊する怪物、連鎖して倒壊しガラスと瓦礫の芥子粒になるビル群、路面が一気に網目が走り、未だ開発途上の空き地に亀裂が走る、

「やったか」

 ジョーカーがマキシマムを仕掛けようとする、だがサイクロンが肩を掴んだ、

「待て、翔太郎、まだだ」

 怪物によって倒壊したビル群が、いずこからともなく風が呼び込まれ粉塵となって周辺を渦巻き、ついには怪物に吸引されていく、メタルの空けた穴も、全弾発射の抉れた痕もみるみる内に修復していく。それどころか1本だった腕が6本無作為に生える、生えた腕が同時に撓る、撓った先端が一瞬視界から消える、風の音が唸る、周辺全てに衝撃波となって伝わる、これが、風の怪物最大の攻撃、
 メタルが金切り声で裂かれる、ヒートが女の声を出してしまう、ルナが野太い声で叫ぶ、トリガーはあくまで無言だった、

「翔太郎だけでも」

 サイクロンが衝撃波の正体を瞬時に見抜いて、唖然とするジョーカーに向かい合わせの形で立ちはだかる、

「フィリップどけ!」

 だがジョーガーの動きではそのかまいたちにもサイクロンの挙動にも間に合わない。
 爆風が2人を襲う、
 メタルも、ヒートも、ルナもトリガーも悶えながら光へと拡散、あれだけいた仲間がたった半瞬で消え去った。
 そう、2人を残して。

「おまえたちは、まだ、生きてるんだろ?」

 ジョーカーを庇ったサイクロンのさらに前面、白きライダーのその腕の牙が、半分に折れた。

「ファング」

「これだけは忘れるなフィリップ、アンタ意外と家族に愛されてるぜ。」

 そして光となって消えた。



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その4




 2者のライダーが同時に指差す、
 その先に立つのは、もはや人外の疾風、風都港湾を真空波で削り取りそこに住まう人々の生活とライフラインを破壊。
 食い止めるべくディエンドが『仮面ライダーJ』と『仮面ライダーアーク』を既に召喚し、ジャンボフォーメーションとレジェンドアークがそれぞれ絡み付いている。だがそれも過去形、ジャンボライダーキックを放とうと成層圏のさらに上に舞い上がったJは、跳躍頂点での突如とした爆風に呑み込まれ、アークの火球も気圧の壁に阻まれて届かずかまいたちにその翼を身ごと切り刻まれる。

「骨ぐらいならくれてやる。」

 マキシマムのシャウトを鳴らして、スカルが跳躍、その疾風の渦の中心である1つ目に向かって突進、

「待ってください」

 Wの左側が続こうとするも、右が背後からの女声に足を留めた。

「なんだっ、光夏海」

『仮面ライダーディエンド。』

 左の明滅の疑問を右の明滅が答えた。

「さっき絵を取り戻したカードがあるんです。」

 ディエンドは、手元に返ってきた2枚のカードを右の腰に収める代わり、1枚のカードを取り出す。

『FINAL FOAM RIDE dadadaWuuu!』

「痛くしないから。」

 ディエンドライバーを向けた先は漆黒と翠の仮面ライダーW、無抵抗に受けるWが光を放ち、センターラインから半身が別れ左右に拡がり、その割れた先から次々と相似な半身が出現していく。計7つの半身がそれぞれ細胞分裂のように自らのもう片側を組成していき、完全な7つの人型へ。

『サイクロン』

「翔太郎、これが僕らがディエンドと力を合わせた象徴。僕らが持つメモリそれぞれのライダーが誕生した。」

『ジョーカぁぁ!』

「フィリップ、おまえがサイクロンで、オレがジョーカーって事は、他誰だ?」

『ヒート』

「アンタら、アマすぎ。」

『メタルぅ』

「ぶっ潰してやる。」

『ルナ』

「おっしゃる通りだワ」

『トリガぁぁ』

「ゲームスタート。・・・・、出ないかハラハラしたぜ。」

『ファング』

「地獄の、牙を、楽しみな!」

 最左翼に漆黒、朱、鋼、黄金、紺碧、白妙、そして最右翼に翠の7人のまったく同じシンメトリのライダーが並ぶ。

「フィリップ、こいつらはどういう基準なんだ?」

「安心したまえ翔太郎、彼らはメモリの本来のパーソナルキャラクターだ。」

「何を安心しろというんだ」

 7人のV字角がビンビンと耳鳴りする。まるで風都中の風が集約して吹きすさんでいるように、7人と怪物の間に立ちはだかる。

「ボクが奴の風の力を相殺している。その間に頼む。」

 翠のライダーを両腕を拡げて十字架に磔にされたように固まる、途端、耳鳴りが止み、上空に澄んだ青空が拡がり、太陽が強い光を怪物に浴びせかけ、7人のライダーに影を落とす。

『FINAL ATTACK RIDE dididiDIENDo!』

 既にディエンド、そしてトリガーの銃口が火を吹いて怪物の片腕の動きを牽制している、

「やべ」

 完全に無風となる風都タワー一帯、その拡がる青空の中に一点、黒い点をジョーカーだけが見定める。

「おやっさん!」

 抱き留めたのはスカル、必殺技を風で弾き返されたスカルだった。足をもつれさせ、ジョーカーに寄りかかった。

「なに、今日はバーボンの飲み過ぎだ、おまえが7人に見える。」

 おやっさん、そのギャグは昭和だぜ、などと、ジョーカーは口が裂けてもいえなかった。

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その3




 フィリップはそのコートを抑える、

「見るがいいぃぃぃぃ」

 エコーを放つ大音量と共に、渦の中から巨大な片腕が出現、一撃横振り、沿岸埋め立て地に向かって大気の亀裂が走る、亀裂は爆圧となって高架道、遊園地、ビルを根こそぎ大地から引き抜いて裏返し、海の中に墜落させていく、爆圧はさらに海面から高波を引き連れて露出し荒れた大地に覆い被さって残った人々を呑み込んでいく、

「くそ、見境無しか!」

「待て翔太郎、君にも分かっているはずだ、奴は僕らの攻撃のエネルギーを吸収したと言った、おそらく生半可な攻撃では、いやボクらでは、」

「強大過ぎる・・・」

 2人の足がいつのまにか止まっていた、2人はそれに気づかなかった。

「男の目元を帽子が隠すのは、男が背負う苦しみ、そして怯えを見せない為だ。小僧ども。」

 翔太郎の眼に大きな掌が飛び込んでくる。掌の影でほとんど何も見えなくなる。

「貴方は・・・」

 翔太郎は声すら無かった。

「そうか、おまえがフィリップだったのか。それはオレが男の中の男と認めた者の名だ。大事にしろ。」

「なぜ?ディエンドの力?」

 白いスーツは上から下まで皺1つ無くピンと張っている、薄く生えた髭はそろそろ白みがかってきている、白い帽子の縁には皴のような切れ込みが入っている、男が年輪である事を証明するその男は、

「おやっさん、あんた、無理して粋がってんじゃねえ!」

 指2本でその口を制するナルミ荘吉だった。

「フミネは、オレに良い事を教えてくれた。人が生きる為には、死の怖れを受け入れる事も大切な事だと。」

「怖れ?・・・・・テラーのマキシマムはむしろ生命力を振り絞ったというのか。」

 そんな2人の困惑を一向無視して、メモリを取り出す荘吉。フィリップからロストドライバーを受け取り、一直線に背筋を伸ばし、丹田に宛がうと自動的に腰に巻かれる。

「アンタにはアキコがいんだからな。忘れるんじゃねえぞ。」

 はにかんで並び立ち、同じくダブルドライバーを巻いた。

「翔太郎、君のそんな顔、はじめて見るよ。」

『サイクロン』

 荘吉の右隣にフィリップ、

「・・・・・、いくぜフィリップ。」

『ジョーカぁぁぁぁ!』

 荘吉の左隣に翔太郎、

「おまえら、男でいたければ、魂が砕かれても、膝を折るな。」

『スカル』

「「「変身」」」

 翔太郎の周りに風が舞い、
 荘吉の肉体が変貌していき、
 フィリップから気が抜けて倒れ込み、
 荘吉の肉体に装甲が纏わり付き、
 翔太郎の肉体に2色の装甲が纏わり付き、
 最後に白いフェルト帽を被る、
 そして、2人のライダーが並び起つ。

「さあ」

 スカルが右腕を上げのたうつ怪物へ指を差す、

「『おまえの罪を』」

 Wがスカルの腕に這わせるように左腕を上げ、差した指先を両者同時に捻る、

「「『数えろ』」」

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その2




 フィリップがギャリーを回して風都タワー直下にたどり着いた時、既に翔太郎はCAが墜落した瓦礫の山を散策していた。

「今のところ収穫はこれだけだ、相棒。」

 翔太郎がフィリップに向けて投擲したのは、1本のメモリ。フィリップが調子を見ると、

『クレイドール』

 と正常に機能している。

「驚きだ。あのエネルギーの衝突の中、この世界のメモリは、ボクらのより恐ろしく頑丈に出来ている、」

 翔太郎の脳裏に、おぼろげに直感が働き始めた。頬に当たる風の強さもやたら気にかかった。

「他のメモリで生きてるものがあるのか、」

 フィリップが自分の顎を撫でた。
 彼は、エターナルの直撃を食らった、
 半ば自身のマキシマムごとその身に受けたはず、
 彼はデータ人間、マキシマムを食らうという事はその身がデータの飽和を迎えるという事だ、
 エターナルが彼が絶命する前にその機能を停止してしまったとしたら、
 彼が吸収したメモリは甚大だ、
 もし喪失しつつあった彼に、マキシマムのエネルギーが逆に彼の生命力を醸成したとしたら、

「たとえば、」

 フィリップの声は珍しく上ずっていた。

「「サイクロン」」

「その通り!!」

 爆発、
 瓦礫の中から光が一瞬飛び、次いで巨大な破片が2人を爆風と共に襲う、劈く耳に圧倒量のボリュームで爆音が響き、それに紛れて人の奇声が錯覚でなく聞こえてくる、

「お前達は失敗したぁ!!」

 そこに未だ輝きを失わず、一糸まとわぬ出で立ちで立つ男の姿が、傷も無く、むしろ産まれたてのような活きた細胞で満ちた肉体、

「生きてたか」

「園咲来人」

 爆風収まってなおその眩しさに目を覆う探偵2人、

『サイクロン』

「お前達がオレを倒す為に使ったエネルギーは全て、プリズムに残っていたエネルギーと共に全て、そう全てデータ人間であるこのオレの体内に吸収されたぁ、このエネルギー、そして適応率100%のメモリを直差しする力で、オレは、人間を捨てるぞぉっっ」

 刺すのは後頭部、下垂体に直接刺さる角度、
 同時に肉体がデータ処理され変貌していく、翠の染みが行き渡り、渦の中に見え隠れする眼、渦が拡大して瓦礫という瓦礫が上空に舞い上がり、まるでその者に寄り集まるよう、渦は高く高くタワーよりも高く立ち上り、ついにはタワーすら粉々にしてその身に舞い付けてゆく、

「デケえ」

 帽子を抑える翔太郎、

「50メートル以上はある、」



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第四部 その1




 光夏海がアキコを認めた時には、あの包帯の女の姿は跡形も無かった。幸いにしてアキコはそれを目撃する事も無く、意識を取り戻した時には既に日差しは冬独特の眩しくも強くない輝きだった。アキコの眼に映ったディエンドライバーを持つ夏海は、奇妙な程不似合いだった。

「ケガはそれほどでもないね。血も出ていない。良かった。アキちゃん、助かるわ。」

 覗き込んだ夏海は涙目である。

「ナツミン、どうしたん、敵はどうしたん」

「大丈夫、彼がやってくれた。」

 夏海が指差した先に、ハードタービュラーに跨って降りてくる翔太郎が見えた。

「あん男、頼んないけど、お父ちゃんの代わりにやってくれたんやな、お父ちゃんとチャウけど、悔しいけど、かっこええ。」

「帽子をつけるともっとかっこいいですよ。」

「ほんま?」

「ほ、ん、ま」

 夏海はアキコを起たせて、膝についた泥を祓った。

「そうか・・・・」その嬉しそうな表情の意味するところを自覚し、慌ててキツい眼差しで夏海を見るアキコ。「ナツミン言うたらあかんで、あいつの事アタシ褒めてたなんて言うたら、」

 顔を赤らめて大声をあげるアキコだった。それ見て夏海に何時間か、はたまた何日ぶりに笑顔を浮かべた。

「わかりました。でも2人相性いいなと思ってたんです。」

 笑い合う2人の少女の長い髪が、突如動き出したリボルギャリーの疾走に靡いた。
 埃が舞い上がり、漂い、そして拡散してもなお、2人の髪の毛は強い海からの風で靡いていた。再び風都の風は活発に動き出している。

「なぁ・・・・、強すぎへん?」

 アキコの怪訝な顔は、全くもってただの勘であり、特殊な能力でも、クレイドールの力が働いてるわけでも、おそらくない。


2013年4月5日金曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その17





『ゾンビドクターエイプゼロバクテリアゼブラビードルフィンドッグブロードキャストカーコンピュータークラブフィンガーシカスフラワーエッジインジャリーブックブレッドヌードルパンゲアゆ~・・・・』

 CAの全身がエメラルドに輝き、朝日を背に雄叫びが上がった、

「さあ、地獄を楽しみな!」

 CAはその時僅かに風景が変化した事に気づいた。街の風景、回り続ける風車、全てが一見してわからない程同じ営みだったが、日差しの濃さ、太陽の位置、影の差す方向、そしてそよぐ風のベクトルが全て違っていた。

「ここは、元の風都・・・」

『サイクロン メタルぅぅ』

 CA斜め頭上から急速降下してくるそれは、3つのローターで推進するハードタービュラー、そこから飛び降り様フォームチェンジし最速の攻撃で先制するのはCM。フォームとして最速はCJだが、Wで考えられる限りもっとも最速なのはCMのメタルシャフト先端だ、

「しゅ」

 それでも回避し切る加速する疾風、2度3度の突貫を両の手で捌いて背中合わせに絡む、

『ルナ メタルぅぅ』

 LM、CAを引きはがしてアメイジングにロッドを歪曲させ伐つ、一旦飛び退いたCA、着地の反動で脚が止まり、それでも上体の捻りだけで躱すも、蛇よりさらに奇っ怪なロッドの動きについに一撃食らい怯んだ、2フォームで精神的余裕を削り落とされた、

『ヒート メタルぅぅ』

 ロッド突端に火を灯したHM、右脚噴流の一跳躍で詰め、CA脇にダメージの一撃を与える、

『ヒート ジョーカぁぁぁ』

 そのまま勢いを殺さずインファイトに入るHJ、顔面に拳を一撃、立て続け脚を一撃、

『園咲来人、君との戦いは非常に参考になった、君は適時適切に様々なメモリを使いこなしていた、もっと僕らも変化する状況にメモリを使い分けるべきなんだ。』

 あまりの火力にガードしながらも仰け反るCA、間合いが開いたのを良い事に、たまらず跳躍で逃げを打つ、

「どんどんいくぜぇ」

『ルナ ジョーカぁぁぁ』

 LJの右腕がアメイジングに10数メートル、跳躍するCAの片足をひしと掴み、そのまま引っ張り落とす、いや叩き落とす、拍子に背のプリズムの十字の一辺が砕けた、背骨から落ちたCAが呼吸不全で地にうずくまる、

『ルぅナ トリガぁぁぁぁ』

 自ら間合いをバック宙で放し、なお足を着く前にトリガーマグナムを縦横無尽に連射、

「ぐぉぉぉ」

 ようやく立ち上がったCA前後左右に、アメイジングな曲線軌道の光弾が雨あられと降ってくる、顔を覆うしかないCA、

『サイクロン トリガぁぁぁぁっ』

 着地と同時に半身を翠へ染めるCT、連射性能の限りを尽くして、横殴りの雨のように翠弾を叩きつける、

「舐めるなぁ」

 CA、抜刀したセイバーで目だけ塞いで立ち上がる、喉に撃ち込まれ、胸に食らい、腕が痺れ、まともに視界が取れないながらも間合いを詰める、背の十字架が完全に砕けるもなお前へ前へと詰めるCA、弾丸の軌道と速力から対手の位置を見極めセイバーを横薙ぎ、やや動きが鈍ったのは雨のような弾丸に神経がそぎ落とされた証左、本来の力なら仕留めていた対手の手応えが無い、さらに弾幕の停滞に敵が眼前にいない事を悟るCA、

『ヒート トリガぁぁぁぁっっ!』

 CAが見つけた時には、既に上空で3回転しているHT、着地際を伐ちに行くCA、着地際に撃ちに行くHT、ごく僅差のタイミング、CAの切っ先が着地した無防備の脇にセイバーを入れるその寸前、Wの中でも最強の攻撃がCA顔面にカウンターの形で入る。

「このオレがぉぉぉぉ」

 標高100メートルはあろうという金属の足場から一瞬だけ宙に浮くCA全身が炎に塗れ、1転して後頭部を足場に打ち付けた。

『エターナルで、勝負だ。』

『サイクロン ジョーカぁ!』

 右腰のスロットへ不気味な程白いメモリを差すCJ、

『エッエッエッエターナル』

「フィリップ、なんか調子悪いぞこのメモリ、」

『勝負だ翔太郎!』

 試作メモリの挙動の悪さにたじろぐCJ、

「まだ、まだだ、この剣に蓄積されたメモリのエネルギーがあれば、」

『プリズム マキシマムドライブ』

 セイバーを杖に立ち上がるCAが光を帯びて跳躍、風都タワー最上の足場からさらに上方、風車の回転軸芯に仁王立ち、

「メモリの数が違う、終わりだぁっっっ」

 セイバーを下に横一線、直径50メートル近い風車が軸から切断され風の勢いで回転しながら2メートルも無いWの頭上に降ってくる、

「『ぉぉぉぉぉぉ』」

 風車の羽根の1つがWの立つ足場に激突、砕けてやや跳ね上がって羽根を砕きながら足場を削る、散乱する巨大な破片がWの頭へ勢い激突、両足が地から離れ、風車と共にWが頭を下に100メートルを落下、姿勢が崩れ、身の重心を完全に見失ったWは、重力のまま墜ち行くしか打つ手はなかった。

『KAMEN RIDE』

 彼女が立つのは、サザンウィンド・アイランドパーク誇る大観覧車の頭頂、今はタワーの爆破で停止している。

「がんばって、仮面ライダー。」

 ディエンドは得物の銃へカードを1枚差し込み、天頂方向へ銃口を向けた。

『HABATAKI』

 召喚するは翼を持つ『仮面ライダー羽撃鬼』、ディエンド横に召喚、互いに手を挙げて掌を合わせる、羽撃鬼、その自在の滞空機動力と鷹の目で芥子粒のようなWを見つけ一気に飛翔、

「負けないで。」

 再度ドライバーへカードを1枚差し込むシアンの女、

『FINAL ATTACK RIDE dididiDIENDoo!』

 ディエンドライバーを巨大風車に向ける、銃から数十枚のカードの光が射出し、バレルとなるように渦を巻く、巨大荷粒子の渦が光芒となって直径50メートルの落下物に直撃、塵単位に撃滅した。

「あんがとよ、光夏海、」

 塵と粉塵の中から羽撃鬼がWを片手で吊り下げてディエンド頭上まで羽ばたいてきた。

「仮面ライダー、ディエンド。」

 親指を立てるディエンドだっだ。

『言うね。君は興味深い。さっきは言う通り奴をこちらへ呼び戻してくれて感謝するよ。』

 右の明滅はそう言いながら爆炎の先を眺めている。

「私決めました。これまで士クンはいつもライダー達と争ってきました。でも私は、士クンに見せてやるんです。ライダーは本来助け合うものだって。」

「おっしゃる通り、ダワ。頼むぜワシのライダー、」

 鷹のライダー、羽撃鬼が直上、タワーの高度をさらに越え急上昇、両手でWを投げ上げる、やや浮き上がって倒立宙返り、揃えて伸ばした羽撃鬼の腕を踏み台にさらに一跳躍するCJ、

『エターナル マキシマムドライブ』

 両足を揃え、下に見据えるCAに向かって一直線、

「ぬぉぉぉぉぉ」

 まず右のメモリを右腰のスロットへ差す、

『サイクロン マキシマムドライブ』

 そして左のメモリを、セイバー柄頭に設けられるスロットへ差す、

『アクセル マキシマムドライブマキシマムドライブマキシマムドライブ・・・』

 ギシギシと身から音を立て、自らの剣に光を集中させるCA、

 これが・・・・痛みか・・・

 新たな身体を得た園咲来人は、身体が感覚を訴えるものだという事を思い出す。
 得物であるプリズムセイバーを逆手、右腕を振り抜く、刃より飛沫のように翠の光が放たれ、宙で巨大な球体となって、頭上から降下するCJを直撃、

「『うぉりゃぁぁぁ』」

 宙にあってCJ、両足を屈し全身のバネを込めて大きく伸ばす、両足裏が球体に直撃、エネルギーの衝突で、球体がさらに大きく膨らみ、CJの身をCAの視界から消す、依然膨らむ球体、崩壊四散、その中央をCJのボディが錐揉みしながら突進する、

「ぬっぉぉぉぉぉぉ」」

 CAが気づいた時には、既に胸部への圧迫が、だが腕だけは反応してセイバーの刃が辛うじてブロックしている、いやセイバーの刃が折られ、刃ごとキックが胸へ圧し込み、既にCAの足がタワーの床から離れている、

『あの人が残したエターナル、全てのメモリの力を無効化する!』

 CJ、風都タワーの軸心に着地、右の明滅が叫ぶ、

「たった1つのメモリがぉぉぉぉ」

 CA、宙にあってブレイクのエネルギーが熱へと還元、全身が炎の渦へ呑まれ、爆発と共に四散、

「おっと」

 と風車を失ったタワーに立つCJが四散する破片の1つを掴む、よく見ればそれはアクセルのメモリだった、光はもはや無い、

『この世界では、ブレイクと言っても本体が破壊される訳ではないようだ翔太郎、だからこちらも、』右腕がエターナルのメモリを引き抜いた。『こちらも限界を超えたメモリの無効化をしてバックファイアを起こしている。もうこのメモリは使えない。』

「ヤツを倒しただけで、」Wがバックルから2本のメモリを引き抜いた。現れる左翔太郎の得意げな顔。「満足しようぜ、フィリップ。」

 翔太郎は、風都でもっとも高いところからの風を感じてみたかった。





6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その16





「うぉぉぉぉぉ」

 降り立った先は風都タワー。今日はとびきりの風で重厚ながら勢い込んで風車が回っている。全てがコンクリートのグレーが塗り潰す工業地帯。海に注ぐ大河の流れもまた風に煽られ波打っている。潮と鉄の入り交じった香りは、マスクをした園咲来人には感じる事ができない。

「風都のメモリの全てをプリズムの中に集約し、この街を破壊し尽くし住民全てを地球の記憶に落とし込んでやる、見ていろ、たとえこの世界のオレ自身であっても、このオレを止める事はできん、この街を失ったおまえは、全てを恨むようになる、このオレのようになぁ!」

 CAの世界との違いはただ1人の男の不在とただ1人の男の存在。たったそれだけの違いがなぜここまで彼を追いつめたのか、未だ彼も、いや対手の彼らにすら理解できていないだろう。

『プリズム』

 CAが背負った十字の4つの先端が全て光を発し、そしてその光に向かっていずこからともなく無数のメモリが街から寄り集まってくる、メモリは全てエメラルドのロゴへと変換され、4つの先端に吸引されていく。

『マグマビーンアンモナイトブレッドドラキュラドラゴンイヤーズーくぃぃぃんナイトハウス妻ゾーンUFOえりざっべすっ・・・・』

 徐々にCAの肉体もプリズムの光に包まれ、彼の悲鳴にも似た高笑いが、風都の空へ木霊した。
 この街の住人達は、街始まって以来の危機を未だ知る事もなく、冗談を言い額に汗していた。




「いったいどうしたと言うの!」

 この世界の園咲冴子は、ちょうど邸宅の門をハイヤーで出た直後にその事を知った。ヒステリーを起こす程にこの冴子という女は輝いて可愛く見える。右手に携帯を持ち、それを左耳に黒髪をかき分けあてた。

「どうして貴方を管理主任にした途端そんな事態に陥るの、工場のメモリのほとんどがいきなり消えたなんて・・・・」

 彼女の怒りは、自らの夫へ3時間近く向けられる事になる。それは自らの父親に対しての恐怖の裏返しでもあった。
 その父親、この世界の園咲琉兵衛は、なお邸宅のダイニングにて、下の娘、園咲若菜と共に朝食を嗜んでいた。琉兵衛は邸宅で放し飼いしている鶏が産んだ今朝一番の卵を塩だけで味つけしたスクランブルエッグを半分食して皿を杉下へ下げ、ナプキンを取った。

「あの光・・・・」

 琉兵衛は、既に風都タワーの小さな光を見つけていた。

「なに?でも・・・綺麗・・・」

 娘の若菜もまた視線を揃えて、風都第3ビルの先、巨大風車に僅かに灯るエメラルドの光が消え入ってなお見とれていた。

「・・・・そうかね、どの道後1度はあの光を観測しなければならんという事か。よかろう、よくやった・・・・・あの女?いや、私にも分からん事がこの地球にはあるという事かね?」

 琉兵衛が自らの携帯を杉下の差し出す盆へ置いた時、ふと娘の懐に眼が止まった、それはほんの偶然の賜物だった、光だった、懐から光が溢れているのを見逃さなかった。それが、冴子を見捨て若菜を選択した瞬間だった事を、琉兵衛自身後になって自覚する事になる。





6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その15





「頼むぜ、フィリップ。」

 翔太郎が差し出したバックルとメモリの代わりに、フィリップはスタッグフォンから抜き出したメモリを翔太郎に差し出した。

「アナタ・・・・は」

 フィリップの見つめる先、瀕死の包帯の女とはじめて目の当たりにする『園咲若菜』の顔をしたナルミアキコに、奇妙な感覚を覚えずにいられない。包帯の女が伸ばした手を思わず握ってしまったフィリップだった、手袋をとった女の手は、火傷に犯されたような被れがくまなく皮膚に爛れていた、そのザラザラする手を柔らかく握るフィリップ。

「ボクは本来なら泡となって未来で収束するはずの可能性の分岐から来ました。フィリップと言います。」

「そう、そうなのね、全てが分かった、」

 初めての大人の女性の掌が、フィリップの左頬に触れた。怖気とも寒気とも似た不慣れな感触に拒絶感を覚えるフィリップ、それでもフィリップは気丈に表情を保った。

「貴方のご子息はもはや貴方の掌から飛び出した鬼子だ。このままでは全ての人間が彼と同じデータ人間かドーパントにされてしまう。ボクはそれを止めに来た。クレイドールのメモリを渡して欲しい。」

「そうなのね、貴方だけがあの子を、止められる・・・」

 そのフィリップの背後では、CAとジョーカーの死闘が繰り広げられる。フィリップへ半歩でも肉迫しようとするCAを横合いから妨害するジョーカーの趨勢が変化するのは、CAがやや落ち着きを取り戻したその時からである。

「蚊蜻蛉の方から落とす!」

 ジョーカーの眼前から突如消える翠と紅の光、死角から来る衝撃、振り返った途端逆サイドから斬撃、次々と伐ち込まれジョーカーの脚がもつれ倒れる、

「速えな、だが」

 倒れたジョーカーの頭上に現れる翠と紅の実体、CAXはその得物を勢い振りかぶる、ジョーカーの頭を横に凪ぐ軌道のそれはしかし、ジョーカーを絶命させるに至らなかった。

「いつのまに、」

 空振りする、ジョーカーは不動である、CAXは確かにジョーカーの頭を振り抜いた、問題は得物であるプリズムセイバー、その刃が半身折れている、

「見えてはいるんだぜ、」

「キサマ」

 激情のまま持ち手と逆の手刀で空を裂いて爆熱を叩きつけるCAX、

『ゾーン』

 だがジョーカーが一手早い、既に腰のスロットへメモリを差し、空間を溶けていく、空を掠り地を抉るCAXの爆熱、

「今度はこっちのバンだ!」

 CA後頭部にキレのある漆黒の一太刀、振り返るCA、しかし既にジョーカーは転位している、既に振り返ったCAのさらに背後から肘を伐つ、思わず蹌踉けるCA、先の攻守が完全に逆転している、

「くそぁ」

 思わず飛翔して逃れようとするCA、

「待たせるなよおまえ」

 既にその頭上に転移し、両拳を脳天へ叩きつけるジョーカー、
 急降下するCAはそれでも両足で着地、

「この姿の真の力を見せてやろう、」

 むしろ余裕すら伺える、CAXセンター部のクリスタルサーバーが小魚が大量に滝登りするかのように光る、徐に手刀を振り上げ、そして空のある一点を断つ、

「ぉぁ」

 まさにそれはジョーカー出現の位置、胸元に食らって大きく仰け反るジョーカー、全身に電撃のような痺れを受けたかと思った刹那、ベルト左より射出されるゾーンメモリ、宙に浮いたメモリを手を伸ばして掴むのはCAXだった。

「検索されたメモリは一太刀で能力を断つ事ができる。メモリを使う限り、オレとの差は埋まらん。そして、」CAの片腕が光り、制止したはずのゾーンメモリが再び光を放った、「地球の記憶を精製する今のオレは、メモリをいつでも作る事ができる。即ち、全人類がドーパントと化した時、その生殺与奪は全てオレが握る、オレがメモリの帝国の王となる!」

 ジョーカーはたじろいだ。その脅威の能力への怖れではない、尋常ではない対手そのものに脚が勝手に後ろへ逃げた。

「なんなんだ、この男・・・・・、おいフィリップ、まだか!」

 ジョーカーは視界に入った相棒が、倒れる女の傍からじっと離れないでいるのが目に留まった。その間CAの再三の攻撃を躱し、立ち位置が再三入れ替わり、そして相棒を背に立ちそのまま相手の攻撃をガードし続ける。

「すまない翔太郎、もう少し堪えてくれ。」

「どうした?!」

「頼む」

「分かった、相棒」

 ジョーカーの無謀な、屈んでのタックルがたまたまCAの鳩尾に入り、突き飛ばされスカルギャリーの駆動輪の1本に激突、若干間合いが開いた。

「貴方に、貴方に、これ・・・・を」

 フィリップは依然その爛れ窶れた腕を見つめ、その手から2本のメモリを受け取った。

「クレイドールと、これは?」

 黄土の色のクレイドールと、そしてラメを塗したような乳白の光沢を放つメモリを受け取るフィリップ。

「エターナル、これを使えば、今のあの子と対等になれる・・・・」

 その萎れた掌を潰さないように握るフィリップだっだ。

「大丈夫です、このクレイドールがあれば、貴方の傷は、」

 包帯の女は首を振った。

「ネクロオーバーには・・・・・、クレイドールは効かない・・・・」

「そんな」

 ボクは、なぜ泣いている・・・・?

 フィリップは頬へあふれ出るものを掌で抑えた、それでも溢れて止まらなかった。そのワケを知るまでフィリップはまだ幾分時を要する事になる。

『アクセル マキシマムドライブ』

 CAかかとを振り上げ、軸足が跳躍の形で合力するバックスピンキック、除装された翔太郎の絶叫が木霊する、アスファルトに打ち付けられ、口の中を切った事を手で拭って気づく翔太郎だっだ。

「ジョーカーのメモリは検索できない。だがメモリブレイクで過負荷を与えればいいだけの話だ。オレにとってなんら優位点にもならん。」

 CAは諸手を挙げ、倒れる翔太郎にその影を差す。翔太郎は押しても押しても反応しない漆黒のメモリを硬く握りしめた。

「逃げねえよ今度は、」だがしかし立ち上がった。「守ってやるさ、この世界のおやっさんと、そしてオレの中に生きてるおやっさんに誓って、オレがっ!命張ってな!!」

「それを言うならオレ達が、だ。」

 背後からの声で目を閉じて口元が弛み、そして大きく深呼吸する翔太郎、振り返り様ジョーカーのメモリを手渡した。

『クレイドール マシキマムドライブ』

 フィリップが手にしたメモリにマグナムからの光を充てると、漆黒のメモリが再び充実した光を取り戻す、フィリップは既に修復したメモリスロットが2つあるドライバーと共に翔太郎に渡した。

「クレイドールのマキシマムは、自己修復どころかあらゆる物質、機械、身体、そして地球の記憶の修復まで能力を拡充する。」

 ダブルドライバーを受け取った翔太郎は、即座に腰に充てる、翔太郎曰くやはりロストドライバーとは微妙に感触が違うらしい、ドライバーは自動的にベルトが腰を回り定着、同時にフィリップの腰にも全く同じダブルドライバーか現出した、

「よう、兄弟、いやそれ以上の・・・・、魔物同士だ。」

 CAはここに来て一切動いていない、待っている、

「ボクは生まれた時悪魔だったかもしれない、だがあの人に誓う、人の痛みを感じられない、君のような悪魔にはならない!」

「では何者だというのだ!」

「オレ達は、風都を守る、2人で1人の探偵で、」

 フィリップではない、翔太郎が言った。

「仮面ライダーだ。」

 フィリップがそれを受ける。

「いくぜフィリップ」

 手先を捻る翔太郎の右に並び立ちするフィリップがメモリを翳す、

『サイクロン』

 翔太郎もまたフィリップの左でメモリを翳す、

『ジョーカぁ!』

「「変身」」

 フィリップがまず自らのバックル右へメモリを差す、極至近を転送したメモリを左掌で押し込みつつも、右腕のメモリをバックル左へ押し込む、両腕を交差したままバックルを左右に開く、大気が硝煙と油の臭みを乗せて翔太郎の周囲を渦巻く、フィリップは生気が抜けて地面に倒れる、翔太郎の身にスーツがまとわりつき、右を吹きすさぶ翠、左を全てを覆う漆黒に染める、マフラーたなびくその名は2人の街の住人が敬愛を込めて呼んだ『仮面ライダーW』、漆黒の左手で対手を指し示す、

「『さあ、おまえの罪を数えろ!』」

「今更数え切れるか!」

 メモリで変身するライダー同士の戦いが始まった、翠と朱の尾を引いて消えるCAX、2色の軌跡がサイクロンジョーカー左サイドをギリギリ擦る、動じないCJ、背後を横切る2色の軌跡、だが僅かなサイドステップだけで重心崩さぬCJ、

「1人で変身して分かった事がある、てめえのメモリは相性がいいかもしんねえが、オラッ!」

 抜き打ちの左、

「ぐぉ」

 CJの打ち出された左拳が出現したCAXの鼻先にクリティカルヒッツ、

「オレとフィリップのコンビも、負けてねえぜ。」

「ほざけ」

 さらに尾を引いて加速するCA、だがワンステップで見切ってその疾風を躱すCJ、

『サイクロンを加速する事でおよそこの上無い疾さを得る事ができる、だがその疾さと競う必要はない、見切って迎え撃つ疾さがあればいい。』

 右目が明滅しながら、左の蹴り脚を繰り出す、ものの見事に正面に現れたCA顔面に直撃、たじろいで腰が泳ぐCA、

「だが分かっているだろ、オレの本領はこれからだ。」

「その通り、君の本領は適切なメモリ使いにある、」

「フィリップ!ありゃ、」

 CJの左目がCAの手に握られたメモリを見止める、

「これで貴様はブレイクして終わりだ。」

 CA、折れたプリズムセイバーを背から引き抜き、その握り手にメモリを装着、

『クレイドール マキシマムドライブ』

 見る見る内に折れられた刀身が復元し、穢れ無き輝きを放つセイバー、

『さすがに疾い、ボク等の気づかない内にボクの握っていたクレイドールを掠め取るとは。その疾さでメモリの性質を検索して伐つ。サイクロンアクセルエクストリーム。』

「褒めてる場合じゃねえ!」

 慌てて撃ちに行くCJ、

『スチーム』

 CJ前面の視界が全て噴煙で覆われる、思わず目を庇うCJ、

「目を塞ぐ方法はいくらでもある、」

『プリズム マキシマムドライブ』

「さらばだ兄弟!」

 CAがセイバーからの七色の光を振り下ろす先はおぼろげな黒い影、だが空を切る、

「目だけで見てるわけじゃないぜ」

 CA右側面死角に強打する漆黒の突風、それはCJの延髄斬り、地に屈するCA、見て取ったCJ、腰のメモリスロットにメモリを差し込んだ、

『ジョーカぁぁ マキシマムドライブ』

 大気が翠の旋風となってCJのボディを舞い立たせ、同時にCAを膝をつかせたまま凝固させる、

「『ジョーカーエクストリーム!!』」

 両脚を揃えた蹴撃が左半身をスライドした変形片足蹴りとなって降下、

「認めてやる、おまえ達をな、だからおまえ達、オレと対等の地平に立ってもらう、その上でどちらが地上最強か決めようではないか!」

 動けないCAがメモリを取り出し、CJと規格を同じくする腰のスロットへメモリを差した、

『ゾーン マキシマムドライブ』

 直撃寸前、霞むCA、透過し地を抉るCJ、思わず振り返って、舌打ちと左指の鳴る音が同時だっだ。

『お互いマキシマムを放ちながらトドメを刺せなかった。互角というところか。やはり彼の本領は複数のメモリを適時適切に使いこなす事だ。ボク等にとってはじめて出会ったもっとも対等の相手。』

 右腕は親指と人差し指を指紋を消すかのごとく擦っている。

「感心してる場合かよフィリップ!ヤツはどこだ、気配も感じねえ!」

『翔太郎、残念ながら彼の行き先は分かっている。』

「だったら行こうぜ、とっとと!」

『残念ながらと言ったよ。彼はボク等からゾーンのメモリも奪っていた。その時点でその記憶からボク等の素性を知ったはずだ。そしてボク等と同じく違う世界があるという事を認識したはずだ。同じ文字の羅列であっても、認識によってまるで違うものになる。それが地球の記憶であってもだ。彼は、ボク等の世界に飛んだ。ボクと同じようにゾーンメモリを使って。彼はボク等の風都を徹底的に破壊しようとするだろう。ボクが彼と同じく、なにもかも失うように。』

「落ち着いてる場合かよ!オレ達ゃ、メモリがなきゃ風都に戻れねえって事じゃねえか、街がぁ!」

 右腕が左腕の手首を掴んだ。

『さあ翔太郎、ハードボイルダーをタービュラーに換装しよう、急ぐよ。』




6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その14





 デスバニッシュ炸裂、
 そこは探偵事務所向かいの15階層マンション屋上、探偵事務所とほぼ同じ方向から風都タワーの大風車の回転が見えている。そのさらに直上から仮面ライダーベルデが仮面ライダールナを脳天逆さ落とし、コンクリートを蜘蛛の巣状に突き刺した。

「ありがとう。」

 既に同じ屋上にディエンド-夏海は立って突風を感じた。風都と言うだけあって高度が上がる程に風力は凄まじいものになる。ディエンドに指を立て合図を送ったベルデはそのまま無言で次元のカーテンへ。

「終わりとは思えないけど」

 吹きすさぶ風の中、ゆっくりと間合いを詰めるディエンド、立てた銃口にすら緊張感がある。ルナは依然逆さで頭をコンクリートに突き刺したまま硬直している。人間の腕のストロークまで歩みを一旦止め、そこから銃口で突く。もしこれが門谷士ならば、問答無用で数発撃ち込んでいたろう。だがディエンド-夏海にはそこまで無抵抗の者に踏ん切れる程の度胸も想像性も無かった。全くである、感触がない、まるでそこにあるルナの肉体が存在しないかのように銃口が空を切る、まるで幻のように、

「幻を見せられるという事は、本物を見せない事もできるのよ~」

「!」

 ただ闇雲に後ろだと思って振り返るとあの仮面ライダールナがタコ踊りをして自在に手足を伸ばしてバカにしている、ディエンドには少なくともそう見える、
 乱射乱射乱射、

「クネクネェ~腰が踊るよヌルヌルゥ~」

 骨格が無いかのように自在に肉体を歪曲させ、時には自ら肉体に穴を空けて弾丸を素通しさせるルナが肉薄、

「こないでキモい」

 怯んだところへ腕1本を触手として伸ばしディエンドライバーを叩き落とす、そのまま片腕に絡んで両足を叩きつける形で圧し倒す、ルナが数本の触手からディエンドを引き込んで飛びつき、人体に戻って相手を重さで前転させて圧し倒し、腕を跨ぎ、十字固めに極める。ディエンド-夏海初のダメージはオカマからの腕挫十字固であった。

「ワタシ、実は女にはキビしいの。」

「銃・・・・」

 完全に極められ、落としたディエンドライバーまで手が届かない、ディエンドの全ての攻撃と召喚はディエンドライバーに集約する、ルナは知ってか知らずかディエンドの全てを封じた事になる、喉の圧迫がディエンドの神経を寸断にかかる、失神してしまえば、そこでこのオカマ触手野郎のやりたい放題だ。

「ガキ、オレの顔汚した罰は受けてもらうぞ」

 とここに来てルナの声色が野郎のそれになった、関西訛りがある、経歴は指詰め注意のルナだった。

「頭は、」

 ディエンドが首を圧し絞められながら呻いた、

「なんじゃ」

「頭は、どうやっても、変形しないようね、」

 たどたどしく、しかし声にはっきり気の強さが感じられる、

「なんじゃそりゃ」

 ディエンド、腰裏に空いた手を回した、取り出すのは、先のカブトの世界でディエンドライバーと共に拾っていた、鉄甲状の白い、瞬間電圧5万ボルトの、『イクサナックル』、

「武器はまだあるんです!」

 ナックルの狙う先、それはルナの顔面、一撃で失神させうる2つの孔が光を帯びる、

「なんじゃそりゃって言うとん、や!」

 だがそのルナの左脚が伸びる、触手が腕を叩きつけ、ナックルが宙高く上がった。もし、対手がルナでなかったら間違いなく詰みだったろう。野太い半笑いが、いつもの裏返った冷笑に変わるルナ。

「う」

 悶絶寸前の吐息をあげるディエンド、高く舞い上がったナックルは、やや前のめりの重心に振り回される形で宙をクルクルと回る、

「その首を引き裂いて、あ、げ、る」

「もう・・・・」

 周囲の景色が薄ぼんやりとしていくディエンドの視界、動きのあるナックルの回転だけが多少区別できる、そのナックルの動きが止まった、宙で止まった、ディエンドの肉体から力が失せぐったりとする、

「なんですって!」

 宙で止まった、いや何かが宙にあるナックルを掴んだ、

「おまえのようなヤツを在らしめた過ち、私が正すっ!」

 掴んだ腕は白い陶磁器のようなスーツを纏っていた、声は女性、細くとも強い芯の声、『仮面ライダーイクサ』が自らのナックルを手に、ルナの頭側近に立っている。

「オカマの何が悪いの!」

 ルナが気づいた時にはもう既に遅い、顔面に直付されたナックルの一撃が轟く、思わずディエンドから手を放すルナ、ルナの後頭部のコンクリートは蜘蛛の巣のように割れている、さらに一撃、ルナは必死に触手を伸ばしてイクサに絡みつこうとする、さらに一撃、メモリのエネルギーが飽和してブレイク、ルナが生身の野獣のような男の姿を晒す、だが男はさらに生身のまま固め技を極めようともがく、さらに一撃、さらに一撃、さらに一撃、

「ありがとう。」

 ディエンドは首元を正しながら、立ち上がる。既に野獣のような屈強な男は四肢に力無く失神し、そしてイクサもまた立ち上がり、ナックルをベルトのバックルへと収めた。

「貴方を見て、女でも戦える事を知りました。」

 ディエンドとイクサが掌を合わせ、互いに頷いた。イクサは薄ぼんやりした大気の中へ溶けるように消えた。




6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その13





 包帯の女のサングラスが、今反射の翠で満ちている。それはクイーンのドームではない、スカルギャリーからのはちきれんばかりに漏れる光だった。

「待ったわ、私はずっとこれを待っていた。」

 ギャリーのボディが圧倒する光に圧し負けて左右に展開、輝くプリズム・エクシア・グリッターよりさらに光量を増し、その皮膚に0と1の光が羅列する一人の青年の影、明らかにリュウと呼ばれる男ではないその青年に包帯の女は、アスファルトに倒れる娘を放置して、半ば衝動的にギャリーへ上った。

「おふくろ・・・・なぜだ」

 包帯の女は最後にサイクロンのメモリをプリズムから抜き取って、ドライバーとともに息子に手渡した。

「それより来人、さあ、これをお使いなさい。」

「なぜ俺は、もっと一人になれないんだ」

 ドライバーを丹田の位置に配すると自動的にベルトが巻かれ腰に定着、

「なにを言っているの来人」

 息子が奇妙なのは目線を合わせないところからも明らかだ。だが包帯の女の狂喜はそれに気づこうとしなかった。

『サイクロン』

『アクセル』

 右半身が草原を捲く大気の翠、左半身がその大気と激しく摩耗する紅、仮面ライダーサイクロンアクセル。

「リュウの肉体を使って、今や貴方は両方のメモリーと限りなく100%の適合率になる。そしてあのプリズムを装着する事で、」

 言われるままCAは、設置された十字架を引き抜いて、斜めに背負う形で固定、そのまま軸だった部位を背から抜くと、

『プリズム』

 ちょうど直刀状の得物になる。『プリズムセイバー』。CAがその刃を掌で一度撫で、その動きを目で追い、表裏を返して眺め、徐に隣の女の腹に突き入れた。

「なに、を」

 機械的に引き抜くと鮮血が飛び、CAの右半身を染めた。剣を背に収めた掌で顔面の血を拭って眺めると、掌が母親の血が滴る程塗れていた。女は、震えながら辛うじてCAの身体にしがみついた。

「メモリに封じられている必要が無くなった。だから、運び役のアンタもお役御免という訳さ。喜べよ。息子の巣立ちの日だ。」

 その時であった、

『ジョーカぁぁ!マキシマムドライブ』

「ライダーチョップっ」

 耳に響く周波の高い破壊音、ギャリー周辺の光の膜が、一瞬で天頂まで縦に亀裂が走って、全周囲が一気に砕けた。亀裂の起点に立つのは仮面ライダージョーカー、その能力は人体の急所を見切り、物質の急所を見切り、そして勝敗の要衝を見切る。

「来たな。さっきのようにはいかん。」

 包帯の女を振り払って、ギャリー上からかなぐり落とすCA、

「てめえ!」

 落ちてきたのを人間と認め、慌てて落下を受け止めるジョーカー、黒幕の1人である事に顔を覗き込んで初めて驚く事になる。

 うぉぉぉぉぉぉぉ、

 CAが雄叫びをあげる、両の手をその身のセントラルパーテーションにあてがい、今、輝きの中でその幅を推し拡げていく、即ちその身が中央のクリスタル状の『クリスタルサーバー』を挟んで右に翠、左に紅、そしてその両複眼が海に鉛を沈めたそれのようなコバルトへ。『サイクロンアクセルエクストリーム』。

「まさか・・・・、自分の力だけで、」

 包帯の女はその神々しいまでの光に、手を差し伸ばした。

「形が変わった、でもやる事は変わらねえ。」

 2人をアスファルトへ寝かせ、賺さずスタッグを飛ばすジョーカー、

『ゾーン マキシマムドライブ』

 CAXに向かって、上角直線の軌道を爆進するスタッグ、セイバーで反応できているCAX、直前、コバルトの視界から突如消失するスタッグ、振り下ろされたセイバーが空を切った、

「瞬間移動であろうと今のオレは見切る、」

 ジョーカーは立ち上がり、利き腕の人差し指と親指をイジった。

「相棒、言う通りにしたぜ。」

 ジョーカーの態度に危機感を覚えたCAXの頬に風がそよいだ、吹いてくる右方向を咄嗟に振り返りセイバーを切り返す、ギャリー右側面、その全てが蜃気楼のように揺れている、それはCAXが初めて見る事になる次元のカーテン、徐々に黒い影が迫ってくる、カーテンを潜ったそれを見たCAXは、驚愕せざるえなかった、

「ギャリー!?」

 車上でもんどりうった、
 ほぼ同質量の衝突だった、
 左車線の無からパワースライドで図太い後輪をスカルギャリーに叩きつける、
 スカルギャリー、そのまま歩道を横滑りし探偵事務所壁面へ激突、めり込んだ、
 スカルギャリーは総6輪のカットスリック、だがそれは総8輪のブロック、ボディ周りも空力重視と剛性重視の相違があり、何より後方に伸びる14連エグゾーストとリボルハンガーとが違う。

「来たか、リボルギャリー、」

 ジョーカー、翔太郎の世界において使用されるギャリーが今、そのボディを左右に展開、沸き立った砂埃をかき消していく、

「あれは、・・・・・、そう、あの子が・・・」

 半死の包帯の女が降り立つ少年を見て愕然とする、

「そうか来たか兄弟。」

 頭を振ったCAの目撃した少年の手には、先の翔太郎のスタッグフォンと、ゾーンメモリが握られていた。

「相棒。おまえが言うもう1本のメモリは今この敵の女が握っている。かなり重体だ。」

 少年の出で立ちは、やや小さめのストライプのシャツに体格を隠す程ダブついた脚まで届く翠のパーカー、指先の出たグローブ、ぎこちない表情、本気で周囲を見ていない目つき、だが迎えたジョーカーはその男を指して相棒とまで呼び、作動しないダブルドライバーと2本のメモリを手渡した。

「翔太郎、しばらくあの男を食い止めてくれたまえ、ボクがここでこうして立つ限り、あの男はボクを死にものぐるいで消しにかかるだろう。」

「頼むぜ、フィリップ。」

 魔少年と言われるフィリップが今、翔太郎の世界から次元の壁を越えて、スカルの世界の風を肌で感じた。




6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その12





 この世の果てにもっとも安息する場所があるのなら、それは今園咲来人という青年の立つ一面空白の『星の本棚』ではないだろうか。空白の空と空白の大地、果てしなく空白が拡がる。

「やはり一人はいい、一人になれるのなら、どんなことでもする。」

 あのネクロオーバー達と同じ黒のジャケットを着て、頭髪にエメラルドのラメを一筋入れた出で立ちの青年の彼は、眼を閉じ、この世界を堪能していた。だがその安息はすぐにかき乱される事になる。

「今回の謎はクレイドールメモリの所在だった。君は知らないだろうが、ボクの世界ではあのメモリの事を検索しようとするとカタマルからね、どうしようも無かった。だから君に主導権を与えてしまった。というより、君に答えを見せてもらう、それが唯一謎の答えにたどり着く正解だった。君の肉体についてもあの3つのメモリが関わってボクではどうしようもない。だが収穫だった。少し知らない事の沿革が見えたんだからね。その点だけは感謝する。」

 青年の彼の目の前に現れたのは、分厚い皮で覆われた一冊の本を抱えた十代の少年の彼だった。

「誰だ?」

「僕はフィリップ、はじめまして。いや失敬、この姿ではないが一度君と対面している。」

 聖域に立つ青年の彼と少年の彼、

「なぜここにいる」

「愚問だね。君が一番分かっているはずだ。ここに来れる人間という意味を。」

「俺と同じ、データ人間。そうか、おまえがあのもう1人のWの片割れか。」

「遅いね。同じデータ人間として恥ずかしいよ。せっかく同じ人間である君に興味を持って来たのに。ボクはいったいどういう感情を抱くだろうとね。でも興醒めだ。」

「この世の全てを知る者は2人要らない。おまえにはいずれ消えて貰う。」

「いや、君とボクでは見ている世界が違う。」

 少年の彼が諸手を挙げると、どこまでも空白の世界に数万という本棚が一斉に羅列する、横も奥も高さも見果てぬが、全ての本棚が同じ等間隔で整列した。

「君は今ボクが見えている本棚の100分の1も見えていないだろう。ボクは今回程思った事はない。知る事と知らない事の認識の差を。たったそれだけでここまで世界が違う。」

「ハッタリでオレを挑発しているのか、このクソガキ。」

「ジョーカーのメモリも、ボクは閲覧可能だ。」

 青年の彼の顔が苦痛を耐えるように歪んだ。少年の彼の顔はその顔を見計らっている。

「今すぐここで消してやる。」

 少年の彼は、何かを得心した。

「だから君に聞いておきたかった。なぜ僕は君を検索するとカタマルのか。」

「知るか!」

 青年の彼が手を伸ばし掴もうとする、
 咄嗟に背後へ飛ぶ少年の彼、

「君は、ボクに絶対近づく事はできない。」

 そうして、少年の影が薄く透けていく、

「オレを挑発しているつもりか!」

「その通り。そうそう、君は1人がいいらしいが、本当に1人でいいなら、他人に質問を投げかける事はない。他人を宛てにしていないはずだからね。」

 青年の彼の腕が少年の彼の胸座を掴んだ、いや掴んだその手が素通りして、本棚の一つに当たり、空白にいくつものハードカバーを散乱してしまう。
 少年の彼は、既にその永遠に中身の無い世界から消えていた。

「生意気なガキめっ!」

 園咲来人は、本棚に拳を叩きつけた。




6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その11





 光夏海は、未だドライバーを握り続ける指の第一関節をもう1つの手で剥がすように1本1本曲げて、最後はドライバーを地面に落とした。ドライバーを放した方が右腕の震えが酷くなった。

「私は、本当はどうすればいいんですか、貴方は本当は私に何をやらせたいんですか、教えてくたざい・・・・」

 彼女はそうとしか言えない自分に唇を噛み締め、地面に両膝をつけて、必死に倒れるナルミ荘吉の顔を拭った。

「歯を食いしばって、おまえの、欲しいものの名を、叫べ・・・・」

 意識が事切れようとする寸前、カッと目を見開いて再び悶え苦しむ、それをずっと、2つのマキシマムを食らった荘吉は繰り返していた。
 夏海は、突き放された思いがした。苦しいのはこの男の方であり、自分ではない。その理屈は分かっていた。だがあふれ出る濁った感情は、自分でもどうする事もできない。

「でも、私は・・・・」

「オレは、この街で最初のドーパントを、スカルになって討った。」

 ナルミ荘吉の物語である。
 荘吉がこの街で探偵をする傍らに絶えず立つ男がいた。名を松井誠一郎、荘吉程でないにしても浅黒く骨太で、それでいてどこか潔癖な程の清潔感が漂う男だった。2人は時の流れが風車に吸い上げられるようなこの街の尻ぬぐいを、軽妙な身のこなしで次々と解決していき、住人はナルミ探偵事務所の名を拠り所に、この特別自治都市をたくましく営んでいく。
 だが街の住民の記憶に残るワードは、ナルミであって、ナルミと松井ではなかった。松井のコンプレックスは荘吉の背を間近で視るが故に増大し、1つの些細なきっかけがその自浄を堰き止めた。コンプレックスはいつしか世間全てへの怨みとなり、ある1つのチートな手段が彼の暗闇に一条の光を差した。
 はじめてこの世界にドーパントが誕生した。
 ドーパントとは即ちナルミ荘吉を育んだこの街のツケかもしれない。

「あいつの想いも、差し出したコーヒーのレシピも受け取ってやれなかった。オレはだから、決断しあいつを殺した。その決断に後悔は無かった。だが、本当はそうじゃなかった。あの若造のまっすぐな目を見て、オレはただ後悔に背を向けていただけなんだと思えるようになった。所詮ハードボイルドなんて男の甘えだってな・・・・・、あいつには言うな。」

 荘吉の手が落ちている銃のバレルを握り、夏海の手にそのグリップをコンと打った。

「歯を食いしばればいいんですか・・・」

 手に取る夏海の手、

「自分の欲しいものは、自分が決断し、そして掴んだ罪を黙って数えろ。」

 荘吉の大きな手が、夏海の手をグリップごと包んで、その震えを抑えつけた。

「今助けてやっからな!」

 そこへあの翔太郎が脚の裾を濡らしてやってきた。今包帯の女が落としたマグナムを拾い上げた。

「無事だったんですね」

 夏海は、力なく腕を落とした荘吉を見続けている。

「光夏海、あのドームはなんだ?」

 翔太郎の指先が忙しなく動いている。

「あの中で敵が、」

 翔太郎のフィンガースナップが、夏海の言葉を制止した。

「あそこか、フィリップの言ってた肉体の再生ってやつか。あそこにメモリがあるのか。」

『ジョーカぁ!』

 ベルトを巻き、白のソフトフェルトを脱いで、円盤投げの要領で夏海へ投擲、

「おやっさんにずっと、話しかけててくれ。オりゃまだ、その帽子は早えってな。」

 ベルトにメモリを差し、再び黒き衣を纏う翔太郎は、手首を一捻りした。
 そこにちょうど光の天幕から透けて出てくる月の光のライダーがいた。

「なに!?アンタ、アタシの仲間どうしたの?その娘といい、キッッーー!!」

 裏声で激昂するルナが、動く度に乱反射するその両腕を上げて、思い切り振り下げた。

「イッテラッーャーーーイ!」

 振り下ろした腕から鱗粉のように光が舞って、粒の一つ一つが人の形となり、無数の黒い影が湧き出てくる。それは先に園咲邸に現れた肋の顔にスーツ上下の『マスカレイド』そのものだった。

「ワラワラ引き連れてやんのかよ!」

 ジョーカーは一瞬で見渡す限り埋まったマスカレイド軍団が、ルナの幻影の力の産物である事を知らない。
 左から来るマスカレイドを裏拳一つで凌ぎ、右から来るマスカレイドを膝の捻り一つで蹴り倒す。蹴ったままの慣性を保って背後のマスカレイドを伐つ、さらに反動で前から群がるマスカレイド2体を続けざまワンツー。

「キィーーー!」

 だが次々繰り出すマスカレイドの幻覚の波に、本体のルナとの間合いを詰められないジョーカーは、刻々と疲労だけを蓄積していく。
 光夏海は、その光景を見ながら立ち上がって、その長い髪をヘアゴムで1本に束ねた。

「翔太郎さん、早くドームの方へ!」

「光夏海!?言われなくてもやってる!」

「そいつは、私が止めます。」

「なに」

「私が、止めてみせます!」

「なに!?」

 夏海が、『ディエンド』のカードを手にした。

「士クン、アナタを、私の前に引きずり出してやる」

 ディエンドライバーは左持ち、内側に寝かせ、スロットを開ける、そのまま『DIEND』のロゴが入ったカードを装填、天に銃口を向け、澄んだ眼でルナを睨んだ。

「変身」

『KAMEN RIDE DIEND』

 銃口から3つの光が発射、3原色を象徴するシンボルが縦横に駆け巡って夏海の肢体と重なる、黒を基調とした細身の四肢にやや碇肩、そして極めて締まったヒップのスーツ、顔面に填り込む10のスリット、シアンカラーに彩られた『仮面ライダーディエンド』が再誕する。

「おやっさんを頼むって」

 唖然としているのはむしろジョーカーの方。

「荘吉さんもこちらでなんとかします。」

『KAMEN RIDE RIOTROOPER』

 既にディエンドは次なるカードを装填、撃ち出されたシンボルが十数体のライダーを空虚から実体化する。

「そうか、あのライダーなら。」

 ジョーカーが呑み込んで、数十の敵を突破しにかかる。
 ディエンドの召還したライダー、ライオトルーパーは1枚で幾体も呼び出して組織的にで行動し、今もディエンドの前に魚鱗で整頓、その数を眼前にしたマスカレイド全てがその褐色のボディに一瞬凝固した。ディエンドは後尾のライオ一体の左掌と自分の右掌を合わせ、

「お願いします」

 とだけ口にした。大きく肯いたライオトルーパー軍団が、一斉に得物のナイフを手にし、そして一斉にマスカレイドに突入を開始。カッパーメタルとブラックが入り交じるそれは乱戦だった。

『KAMEN RIDE ANOTHERAGITO』

 再度召還するのはアギトにしてアギトにあらざる者、やはり手と手を合わせて、

「お願いします」

「ふむ!」

 アナザーアギトは空手のような気合いを込め大きく肯き、もはや虫の息の荘吉を肩で担いでビリヤードの看板の奥へ一跳躍した。

「アタシの顔を傷つけた罪は重いわ重いわっ、アンタなんかフーンっだ!!」

 一体をようやく倒しても体力が続かずもう一体に敗れ、その背後から伐った者が流れ弾に頭を射貫かれる、そんな土煙が舞うライオトルーパーとマスカレイドの乱闘を差し挟んで、ディエンドとルナが立ち尽くし対峙する形になる。召喚されたどの一体も両者にまで攻撃が及ぶに至らない。
 ルナは、圧倒的に増えた敵に対してさらに幻影を増員し、ジョーカーの足止めを忘れず、ライオトルーパーを数で圧倒していく。
 だが、そんな風景を眺めるディエンドにはゆとりがあった。

「敵はあの数を操っている間、動けない。」

『KAMEN RIDE BELDE』

「お願いします」

 召還した全身薄緑の『仮面ライダーベルデ』が大きく肯き、自らのバイザーにカードを装填、

『ファイナルベント』

 突如街灯上から色がにじむように浮き出てくる『バイオグリーザ』、ベルデ跳躍、跳躍するその両足にグリーザの長い舌を延ばして絡め、ベルデを振り子のようにぶら下げる、その振り切った先はルナ、上下逆に抱きつくベルデ、両者をすくい上げるように回して、最上段に達したところで投擲、

「シックスナイィィィィ」

 ベルデに抱きつかれたままのルナは、事務所からはるか離れた15階層あるマンション屋上へ。見えなくなったディエンドの耳に、まだそのカバを絞め殺したような絶叫が聞こえた。

「さあ!早く」

 途端統制が取れなくなったマスカレイドがライオトルーパーの集団戦法に駆逐され、包囲され、殲滅していく。それはジョーカーがフリーになる事と直結する。

「見直したぜ、女の子」

 指でサインするジョーカーを既に見ていないディエンドはそのままルナを追って跳躍した。




6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その10





 クイーンの天球がスカルギャリーを覆った内側、ギャリーはボディカウルを左右に展開している。台車の上では既に再変身したCAがその片腕で倒れる姉、アキコの頬を、ルナ、包帯の女が囲む中で撫で続けている。そのアキコには、いくつも配線が繋がれ、ギャリーに設置された『プリズム・エクシア・グリッダー』に接続され、翠のロゴの羅列がアキコの体躯から配線を伝って蓄積されていく。

「サルベージはもうすぐ終わる。そうだな、肉体の年齢は30、身体的な絶頂期に設定する。それでいいか、おふくろ。」

 そうしてアキコの光がすべてプリズムの内に吸い上げられ、スロットの一つが光彩を放った。

「映像通りの理想の貴方におなりなさい。精製が完了した、来人。」

『クレイドール マキシマムドライブ』

 包帯の女はプリズムのスロットへ立て続けにメモリを差し込んでいく。

『タブー マキシマムドライブ』

『テラー マキシマムドライブ』

「ルナ、この子をギャリーの外へ。」

「私オンナ触んのはもうまっぴらだわ!」

「貴方の命は私が。」

「・・・、その代わり外の女、私のスキにするわっ」

 支離滅裂に言いながら、腕だけを蛇がうねるように伸ばして、ルナは未だ気絶するアキコに巻き付け抱えた。

「私の方がおっぱい大きいわ、私の方が、おっぱい大きいわ!」

 ギャリーから飛び降り、アキコを乱暴に地に投げ置いたルナは、自ら張った壁を透過して外へ。

「ジェンダーの怨みは深くそしてバカバカしい。リュウ、貴方もこの街への深い怨みを晴らす時が来たわ。」

「さあ、悪魔の儀式の始まりだ。」

 高揚するCAのバックルから2本同時にメモリを引き抜く包帯の女、CAはたちまち除装され中から青ざめた青年の顔が露呈する。そんな立つのもやっとの男を目に止めず、最後に空いたスロットへメモリを差す包帯の女だった。

『サイクロン マキシマムドライブ』

 全てのメモリを差し込んだプリズムの十字架が七色の光を放って、降車しながら見つめる包帯の女のサングラスに反射する。

『マキシマムドライブ マキシマムドライブ マシキマムドライブ・・・』

 青年一人残してボディカウルが閉じ、スカルギャリーのフロントガラスから2条の光が放たれ、クイーンの壁に乱反射して天球内外が文字列の光彩で満ちた。

「ようやく、これであの男から奪われたものを取り戻す事ができる。」

 女の声が上ずっていた。




6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その9





「その仮面をひっぺがして、アンタの泣きっ面見てあげる!」

 天空高く舞い上がる赤と黒のライダー、

「放せ」

 ジョーカーの肘がヒートの鳩尾に入り、手の弛んだところ無理に引き離す、共に高々度から落下、ジョーカーは高層ビルの壁に5指を突き入れコンクリートに縦縞のラインを引きながら摩擦し失速、地面スレスレまで至ってビルから蹴り離れ、ちょうど探偵所裏の一級河川橋の上へ着地、だがそのジョーカーに、ラリアートを構え右肘から噴流を放って突撃するヒート、諸共名ばかりの細い一級河川へ落下、水位は靴底が浸る程度、ヒートは衝撃を足膝腰で緩和し着地、ジョーカーは受け身の要領で左背に衝撃を全て受ける落下、

「フフフ」

 飛沫を立てながら姿勢を正そうとするジョーカーのみっともない姿を見やって、精神にゆとりが生まれるヒート、だが振り返ってみればその瞬間こそがヒートにとっての最後のチャンスだったと言える、

「さぁイこうか、ファイアガール」

 中腰でなんとか起き上がり、恥を鼻下を擦って誤魔化すジョーカーはクラウチングスタートで突進、
 両者の足技の応酬、脅威の足技を誇るあのヒートが水場に足を取られ迎撃だけに手数が抑えられる、ジョーカーも全く同じ条件ながら逆に手数が増えていくのは、そのメモリが特に身体能力の強化に特化し、水場に秒単位で適応、ツカんでいるからだ。
 その内足だけでなく、腕を顔面から腹へたて続けにヒットさせヒートを推し倒す、

「ガキが調子乗って」

 一旦距離を置いて起立の姿勢に正すヒート、ジョーカー渾身の右回し蹴りを空中を大の字の側転で躱し後背を取る、ジョーカーが振り返る暇を与えないタイミング、ジョーカーが下に重心を集中させるのを折り込んだ上で足を祓いに飛沫を蒸散させた回し蹴り、

「調子に乗るさ!」

 だがジョーカーの鋭利な感覚は一跳躍で対手を躱す、
 逆に中腰から起き上がり防御する前のヒートの顔面に蹴りを2発、
 怯みながらも反撃に移行、足を繰り出すヒート、
 水蒸気を発散させながら繰り出されるこの攻撃を紙一重、腰の一捻り、首の一捻りで躱し続けるジョーカー、
 その鋭敏な感覚で既にヒートの動きを完全に見切りつつあるジョーカー、敢えてヒート渾身の蹴りを両手ガードで受け止めつつ密着、腕が伸びきらない互いの間合いからヒートの手刀を受け掴み、掴んだままで腹部へ蹴りを3発、次いで顔面に裏拳を1発、

「坊や!」

 怯みながらもジョーカーの蹴りをまたしても大の字に宙を回って反対に踊り出るヒート、

「女!」

 回り込まれながらなお手を出すジョーカー、捌くヒートはしかしその時、脇に受けた計4発の攻撃に、身体機能が悲鳴を上げている事に気づかない。ネクロオーバーの性というしかない。ヒート、渾身のつもりの反撃の蹴りがジョーカーの片手で捌かれ、次いで食らった顔面の同じところへの5発めが入った時、意識が一瞬途切れ、もつれた足で後退り、頭を振った。

「アンタなんかに、ワタシの気持ちがかき乱されてたまるか!!」

 ヒート、バックルからメモリを取り出し、右腰のスロットへ差す、

『ヒート マキシマムドライブ』

 全身から煙が立つ、次いで赤色に輝く、浸かった河川の僅かな水が蒸気となって体積を数百倍にも増大、互いの間に濃霧を発生させ、そして互いの姿が視認できなくなる、

「これで決まりだ」

 ジョーカーも全く同じモーションでメモリを右腰に差す、

『ジョーカぁ マキシマムドライブ』

 見えない対手に向かって駆け出すジョーカー、その右足首に紫炎が灯る、
 ジョーカー眼前の霧が渦になる、渦になって蒸気が外周へ逃げるように拡散、ヒートの女の圧倒的熱量が蒸気を弾いている、うっすらと互いが互いの影を認めながら、そして互いに突進、

「ヒートマシンガンドライブ!!」

 跳躍し、その右足裏から爆炎を吐きながらのそれは右飛び膝蹴り、

「ライダーキック!」

 ジョーカーも又ヒートと全く水平に蹴撃に構える、
 推進を伴ったヒートの右膝と、キレのあるジョーカーの脚がすれ違う、
 ややジョーカーが上手、
 互いの腰が捻られる、
 リーチはジョーカーがある、
 ヒートは既に顔面をブロック、
 だが受け止めたその紫の光の威力はヒートのカウンターを加味し、両腕を弾いてヒート顔面へインパクト、
 弾き返されたヒートが蒸気を発しながら水辺を滑走、

「・・・・ァン」

 弱々しい喘ぎがヒートの女の最期だった、
 爆破、
 背を向けてその赤熱輻射の直視を避けるジョーカーの背筋は、何かを入れたように凛としていた。

「待ってろおやっさん、すぐいく。」

 右手首にスナップを効かせるジョーカーに、小型の物体が周回する。それは翔太郎のスタッグフォン。

「すまねえフィリップ、Wをブレイクされちまった。」

 ブレイクされてその長い黒髪を濡らしながらのたうち回って悶絶する女を見やり、ジョーカーも又除装、スタッグフォンのコールに応じた。

『クレイドールのメモリを人体の中に記憶させているとはね。翔太郎、さっきも言ったが実に君らしい失敗だった。敵の意図を知りながらそれでもドーパントを放置できなかった。ナルミ荘吉への手前もあったんだろうが』

「うるせえ」

『だがその一番の理由は、ドーパントもまた風都の住民だからだ。敵はそう思っていないだろうが、君に究極の選択を迫った。実に効果的な足止めだったよ。』

「説教なら後で聞く」

『そう、今ボクが連絡を取ったのは他でもない。ドライバーとメモリ、このままではボクらは変身できない。だが極めて危険だが、戻す方法が先程検索して1つある事が分かった。多少固まったけどね。ドライバーは本来マキシマムから装着者を保護するブレーカーの役割を』

「わかった、わかった。フィリップ、要点だけ言ってくれ。」

『手に入れて欲しいメモリが2つある。それから、』

「それからどうする?頼むぜ頭脳担当。」

『それからこれは、今ボクの目の前にいる亜樹ちゃんからの言伝だ。あの時、君がその世界のクイーンとエリザベスを放置して逃げていたら、翔太郎と永久に絶交していた、と。』

 絶句する翔太郎だった。

「・・・・そっちかよ」




6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その8





 私は、何とか脚の痺れを我慢して立ち上がった。
 なんでか、カッコツケル君が今黒い姿になってアキちゃんを連れ去った敵と戦いを始めた。カッコイイ氏がさっき倒されるのは見た。そこから離れる形で3人の色違いのライダーが戦って、

「危ない」

 今包帯の透明女が失神しているカッコイイ氏に近づいているのに、カッコイイ君は気づいてない。

「無様ね荘吉、あんな子を庇って。あの時、松井誠一郎を殺した時の、痺れるほどの非情な貴方はどこへいったの?私が取り付く島のない程のトゲトゲしかったあの時の貴方を見て、私は貴方の傍にいるのが頼もしくもあったけど、恐ろしくもなった。でも残念だわ。あの鋭利な刃物のような貴方でいて欲しかったのに。こんな無様な姿になって。今楽にしてあげる。」

 透明の女が銃を取り出した。そしてメモリを1つ差し込んだ。

『テラー マキシマムドライブ』

 私は眼を覆った。女は、カッコイイ氏に無造作に銃を撃ち放った。微動だにしなかったカッコイイ氏がか細い呻きを上げて身悶えしはじめた。なんて酷い事をする女だ。酷い女はそのままカッコイイ氏に何も言う事もなく背を向けた。

「ひどい」

 私は足を引きずってカッコイイ氏に歩み寄った。苦しいのに無理矢理唇を噛んで、それでも汗が噴いて震えるのだけはどうしようもなく止められないみたい。

「透明女、そこを動くな!」

 カッコツケル君が女を止めている間、とりあえずここ何日か着替えてない服の袖で汗だけは拭った。

「俺はいい・・・フミネを止めろ・・・・」

 魘されているように私に言ってくる、私のような無力な人間にどうすることもできないじゃない、

「私に、なにができるんですか」

「自分が欲しいなら」

 私の肩に震えた手を乗せようとして、滑って力無く垂れる。たぶん本人も意識して指したわけじゃないと思う、でも私はその指の先にあの海東大樹の持っていた銃、これから長く付き合っていく事になる『ディエンドライバー』が転がっているのが見えた。たぶん私が探偵事務所に置いていたものが、あの大きなガイコツ車が飛び出してきた時、いっしょに投げ出されたんだと思う。

「でも私は、」

 いつも士クンやあのカッコツケル君に守ってもらってきた、

「自分が決断しろ、」

 自分が苦しいのに、白目を剥いて苦しんでいるのに、私に、笑いかけてくれている。私は無我夢中で、ドライバーを拾った。

『ゾーン マキシマムドライブ』

 あの女が、赤いライダーに羽交い締めされたカッコツケル君に狙いを定めてさっきの銃を構えている、私は両腕で構えて、当たらないように祈りながら目を瞑って撃った、銃声なんてメじゃないくらい耳から背骨に響く震動がした、目をあけると土埃が入って痛くてまともに周りが見られなくなった、カッコツケル君がいなくなってる、あの包帯の女が銃を落としたのはなんとか見えた。

「何?この後におよんで」

「私に撃たせないでください!」

 銃を放したかった、でも放したら、たぶん私殺される、夢中で撃った、

「未知にも程がある、その銃もいったい」

 埃が収まって、私は目を真っ赤に腫らしながらなんとか開けた、

「私に撃たせないでって!」

 私は闇雲に銃を撃ち放った、でもその弾はあの女に届く前に弾かれた、どこからともなくウネウネとしたトイレでしか見ないような色艶の気持ち悪い腕が伸びて、先っぽに掌があって小指立てて弾の全てを弾いた、弾いてもう1本の腕が女を巻き付けて宙を浮かせて引っ張っていく、引っ張ったのはやっぱりカッコツケル君と色違いのライダーだ、その行く先はあのガイコツ車、ライダーの足元には私の知らない男とアキちゃんが寝そべっている。私は何度も何度も撃った。でもその蔓みたいな腕に当てても、そのトイレ色な体や顔面に当てても相手のライダーはビクともしない。

「あいつ、今顔撃ったわ、私の顔撃ったわ、あのアマ乙女の命を、ぶっ殺す!!」

 と完全に無理矢理喉締めてる裏声でトイレ色のライダーが喚いている。

「そんな事より、この場で来人の再生をする、これを差しなさい。」

 女は、トイレライダーにメモリを1本渡した、

『クイーン マキシマムドライブ』

 トイレが腰にメモリを差すと、ビカビカ光って全身から朧気な膜をドームの形に拡げていく、その亀の甲羅のような透明な膜は女とライダーどころか二人の立つガイコツ車のボディも全て包んでいく。アキちゃんも中だ。

「どうして、私は」

 いっぱいディエンドライバーを撃ち込んだ。でもその全てが虚しく光の壁に弾かれていく。撃ち疲れて、爪の間に油臭い黒ズミが溜まっているのに気づいて、止めた。

「私には、無理です。」

 息の乱れが全然収まらなかった。
 ドームは光輝いて、中はもう見えない。




6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その7


「おわりだっ」

 だがその拳が阻まれる、眼に光の無い翔太郎の、しかし片手が受け止めている、いや、翔太郎の帽子が受け止めている、

「この帽子は砕けねえ、」CAを睨んだ翔太郎の目はいつのまにか生気が漲っていた。「おめえは、おやっさんに絶対勝てねえ!」

 動きの止まったCAにすかさず飛来する荘吉のスタッグフォン、急降下してCAの胸ををスレスレ、足元寸前でUターン、

「バカな」

 CAの足元を落下するダブルドライバー、外れる2本のメモリ、CAのスーツが瞬間光の粉末となって拡散、中から翔太郎がまだ逢った事の無い男の顔が現れる。

 ぐぁ、

 そこへ翔太郎のスタッグフォンが男の眉間を突く、そうして大きく円を描いて翔太郎の胸を横切り、拍子に翔太郎の足元へ何かを落としていく、帽子をヒト吹き、被り直し翔太郎は足元のそれを拾う、掌でマジマジと凝視する翔太郎だった。

「やらせてんのはフィリップか」

 立ち尽くす翔太郎に2人の影が素早く取り囲む、

「アンタまたまたウザったいね」

「ぉりゃたぁっっ!」

 それはWと全く同じ容姿のライダー2人、炎のヒート鋼のメタルが翔太郎を挟み込んだ、

「色男パラダイス!!」

 そうして黄金の腕が伸びて、落ちている2つのメモリと倒れる男を掬い上げ、スカルギャリーまで引きずり込む。ギャリーには既に捕らえられたアキコが気絶し抱えられている。その抱え立つのも又、翔太郎と同じライダー。

「絶対、助ける、2人共、切り札は、このオレの手にあんだからな!」

 翔太郎、右手には荘吉から貰ったロストドライバーを、左掌には包むようにメモリを掴んでいる。

『ジョーカーぁ!』

 キーメモリはおよそライダーを含むドーパントに対して決定的に優位な1本だが、そのマキシマムは、メモリを強制着脱させる事は出来ても、ブレイクするに至らない。
 腰にドライバーをあてると自動的にベルトが巻かれて固定、ジョーカーメモリを装填、決意を右拳に漲らせ、

「変身」

 左腕でスロットを倒す、シャウトが再びメモリの記憶を叫び、同時にバックルから塵のように光が拡散して翔太郎の肉体に蒸着していく。

「おまえは!?」

「ナニモン!」

 左半分が切り札を隠す漆黒、そして右半分もまた切り札を隠す漆黒のボディに染められたそれこそが、

「仮面ライダー」

 左手首を小気味良く捻るのが翔太郎のサイン、

「ジョーカー。」

 銀と赤が黒を挟んで、3人のライダーが居並んだ。

「あんたってホント腹が立つ」

「ぶっつぶしてやる」

 前後から歩調を合わせて突撃する二人のライダー、

「見える、はっきりとな」

 ジョーカー、自らメタルの方へ間合いを詰め、突き込まれるロッドを神懸かり的に避け、相手の首筋に肘打ち、後方からヒートがチャージをかける、それは両足から熱波を発したブーストダッシュ、あまりの推進力はメタルごとジョーカーの足を浮かせ、事務所にブラ下がったビリヤードの看板に3者もろとも激突、歩道に落下、最初に起き上がったのは屈強なメタル、それに絡まるようにジョーカー、脳震盪を起こしたヒートはまだ失神している。敢えて密着したままショートに打ち込み続けるジョーカー、振り払うようにロッドを大きく回すメタル、そのままジョーカーに突き込む、ジョーカー背後にはヒートも復活して再び突っ込んでくる、

「手に取るように」

 だがしかしそのロッドを錐揉み1つで躱すジョーカー、ジョーカーの躱したロッドの先端はさらに先、ヒートの眉間を直撃、怯んだヒートにさらに追い打ち裏拳を首からやや耳裏に伐つジョーカー、再び失神して倒れ離れるヒート、

「いやぁぁぁ」

 逆サイドのメタル、隙を見て全身を一回転ロッドを薙ぐ、咄嗟に両肘でブロックするも、ロッドの薙ぎに振り回され事務所の壁を激突するジョーカー、背が地に着いた状態でロッドの突端を食らう、左右に転がりながら致命打を避ける、転がりながら反撃に手足を出すもそのことごとくをロッドで捌かれ封じられる、いつのまにか一方的に胸から腹に食らってしまっているジョーカー、鳩尾に食らい、

「うぐ」

 思わず呻きを上げた、あるいはその一撃こそが死活を分けた、機を見たメタル、腰から上の全身を連動させて渾身の突き、爆砕音が轟く、メタルの顔面をアスファルトの欠片が擦る、だがジョーカー、またしても紙一重で突端を躱した、地面深くロッドが刺さって容易に抜けない、

「おりゃ」

 それは厄介なメタルのロッドがついに止まった事を意味する、すかさず蹴りをメタル顔面へ、怯んだが後退るだけでヒートのように意識を途切れさせる事はない、強靱に鍛え込まれた闘士だった。

「いくぜウルトラマン」

「ライダーぁぁぁ!」

 メタルは一度だけ倒れるヒートを見やり、意を決してバックルからメモリを取り出しスロットへ、

『メタル マキシマムドライブ』

 鋼色に光る全身の筋肉という筋肉が充実、両腕を碇に構え、脈打って伝わり右肩に全てが集中し、肩アーマーが千切れた。

「メタルデラシウムぅっっっ」

 右肩を突き出してのそれはショルダーチャージ、

「勝負だ」

 ジョーカー、刺さったロッドを支えに立ち上がり、即座にメモリを腰のスロットへ。

『ジョーカーぁ マキシマムドライブ』

 握った右拳に紫炎が灯る、

「ライダーパンチ」

 メタルの突進、左半身で待ちかまえるジョーカー、メタルの肩が衝撃を伴って直撃する寸前、左足バックステップの紙一重で躱すジョーカー、バックステップから腰の捻りを伴って紫炎の右拳がメタルの下顎をカウンター、すれ違いそのまま熱帯魚専門店前電柱にその身を激突させるメタル、だが平然と起き上がり、振り返り、五体満足に動くメタルのしかし首が60度下へねじ曲がっていた。

「まだ、まだ、」

 スーツが除装され、その身を晒す剛三という男の顔はスキっ歯に愛嬌のある微笑みだった、微笑みながら、白目を剥いて卒倒した。

「透明女、そこを動くな!」

 ジョーカーの眼に止まったのは、倒れる荘吉にすり寄る血まみれの夏海と、その側近く、落ちていたメモリのいくつかを回収している包帯の女。

「キーをブレイクするとはね。この世界の人間全てをドーパントにすれば、その力を剥奪し、メモリーを精製する来人だけが全てを支配する事ができる。だけど来人が完全な肉体を得れば、キーなど問題無くなる。」

「動くなよ!」

 CAか彼女を抑えれば全てが決する。ジョーカーにもそれは理解できた。
 だが包帯の女は、トリガーマグナムのリペイントに拾ったメモリを込め構え余裕で迎え撃たんとする。

『ゾーン マキシマムドライブ』

 包帯の女にしてみれば、得体の知れない敵を一旦遠ざけるだけで事足りる選択だった。しかし、結局はそのトリガーを引く事はなかった。

「よくもゴウゾウをやったね!」

「おめ」

 包帯の女に右手を振り上げ手首のスナップを効かせるジョーカーのその背後から、羽交い締めする熱き両腕があった。ジョーカーとボディカラー以外寸分違わぬヒートの女が、ジョーカーを拘束したまま跳躍、いや跳躍どころか両足から噴炎を迸らせるそれは飛翔だった。






6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その6





 スカル、ナルミ荘吉が計13体のドーパントを処理しスカルボイルダーに跨って事務所に帰ってきた時には、既にWはCAに討たれ、アキコも包帯の女に拉致された後だった。スカルの眼前のギャリーの影に入る形でCAが見え隠れし、その先に項垂れる翔太郎がいる。アキコと包帯の女、複数のライダーはそのさらに先の路上にいる。

「あのハナタレ坊主のせいでまんまと敵の術中にハマった。しかしあいつのおかげで、敵の大元が出張ってきた。アキコのベビー服かなにかに縫い付けているのかと思っていたが、まさかそんな事になってようとはな。今全てを終わらせるぞ、アキコ。」

 スカル、上座したままバックルからメモリを抜いて腰に装填、

『スカル マキシマムドライブ』

 スカル、スロットルを吹かして向かう先は敵ライダー、翠と紅のサイクロンアクセル、ボイルダーのカウルにスカルの紫炎が覆う、

「来たか、」

 翔太郎へのトドメを踏みとどまって、ギャリーを飛び越え上角50度からのボイルダーの降下を直視するCA、振り返ってそのままメモリを腰のスロットへ、

『キー マキシマムドライブ』

「貰う」

 スカル、クラッチを放した腕を水平に保つ、

「勝利の鍵は、常にオレの手にある」

 CA、左腕手刀で突きの体勢、
 すれ違う両者、
 すれ違い様CA首にラリアット直撃、スカル胸部にCA手刀が刺さる、
 ボイルダーからスカルの肉体が宙を浮き、ボイルダーは慣性のまま地に傷をつけながら転倒、スカルボディが蒸発して荘吉の白いスーツが覗かせたところでアスファルトに一回転受け身を取る、

「大したヤツだ、」

 宙にあってスカルメモリが射出し、CAの足元まで転がった、転倒し受け身を取った段階でドライバーが外れ、そのまま二転した反動で立ち上がる、

「おやっさん!」

 翔太郎は思わず駆け寄った。全身白ずくめの出で立ちで立ち上がった荘吉の一点、鮮血に染められた右脛が視界に入って咄嗟に動いていた。

「若造、てめえのケツを拭えないなら、とっとと消えろ。」

 荘吉は腰からスタッグフォンを取り出している。

「逃げるしかねえ、オレもアンタももう変身できねえんだ、」

 と言い終わらない内に、荘吉が振り返った。

「バカヤロウ」

 それは鉄拳、翔太郎にとってやはり“あの時”の感触だった。

「・・・・・、かっこつけんじゃねえよおっさんよ」

 語る程には眼に力が無い翔太郎だった。

「キーのメモリをブレイクするか・・・・褒めてやろう貴様・・・、だが腕一本までだ、」

 それを遠間で眺めるCAは身震いが止まらない、なぜなら負傷しているから、紅い側の二の腕から先が喪失している、その残った掌に握られたメモリも煙を吹いている。

「おまえは、いい仲間を持った、あの時トリガーの男の一発が無ければ、今おまえは立っていない。あいつは大した奴だ。」

 脚を引きずってスタッグフォンを放す荘吉の眼は既にCAに向かっている、

「ほざけっ!」

 その場に立って右の手刀を振りかざす、たちまち起こる翠の竜巻に、突撃するスタッグフォンが煽られ首を上げた。

「とぉ」

 間合いを詰め、出血している方の脚を大きく振り上げる荘吉、右サイド、欠けた腕の死角、

「バカめ」

 CA、何を思ったか右腕で竜巻を手刀で裂く、竜巻の気流が乱れる、乱れた気流の交錯するごく小さな隙間、真空が生まれた、

「ぐぉ」

 かまいたちに晒され弾き返される荘吉の肉体、白いスーツが傷だらけになって、地面に頭を打った、倒れながらそれでも中折れ帽を正す荘吉。

「アンタはアキコのとこにいきな、こっちよりあっちを優先すんのがハードボイルドの決断って奴だろ、」

 翔太郎は、棒立ちで髪をかき上げ、頬を撫でた、

 今度はオレだよな、おやっさん、

「園咲来人!ライダーの偽物!」

 翔太郎は頭にない帽子を触ろうとし、空虚を掴むと気づいて、手を眺め、置き場のない掌で襟を正した。その間時計回りに、荘吉から距離を置いて足が動く。

「お前は、俺には勝てるかもしんねえ、だがおやっさんには負けてんだ!」

 翔太郎の指差す自らの足下を見やるCA、自ら描いたサークルから飛び出している足先を見て、その意味を激昂で理解した。

「キサマっ!」

『エンジン マキシマムドライブ』

 激昂のまま腰スロットにメモリを差すCA、手刀が紅の光を帯び、正拳突きのように押し出すと、宙でAのフォントに変化して直進、

 こっちの世界のおやっさん、ちゃんと逃げんだぜ、

 翔太郎、目を閉じ静かに待った、だが運命はそれを良しとしなかった、
 閉じた途端横合いからマキシマムのそれとは違う力に推され体ごと吹き飛ばされた、皮膚が焼ける臭いだけが鼻についた、聞こえる呻きは当然自分のものではない、

「おやっさんっ!」

 あの時と全く同じだった。
 目を開いた翔太郎の見た風景に倒れるのはあの時と同じ鳴海荘吉の背中、そしてそれを眺めるのは、いつも自分だった。うつ伏せの身体を返してその顔を見ると、未だ余裕の笑みを浮かべる翔太郎の憧れの男、

「・・・・・・、人は、誰も」

 翔太郎の手をとって、いつのまにか拾っていたロストドライバーを乗せ握らせる、そしてやや焦げ臭い帽子を自分の頭から翔太郎の頭に乗せ、乗せた手が力無く垂れた。

「見せてやりてえって思ったんだ、俺の今の力をよ、バカ野郎、何にも変わってねえじゃねえか、粋がって、半端な自信に振り回されて、・・・・・死なせねえ、今度は絶対死なせねえからな!」

 そこへ近づくCAの拳、

「おわりだっ」


2013年3月3日日曜日

6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その5





「あちらのダブルドライバーは、来人のそれと同じくキーへの対策も講じて変身が解けない。マキシマムへの保護もやはり施されている。いったいなんなのあの存在は。」

 上を向いているのか下を向いているのかもさっきまで分からなかった。
 世界が真っ赤で、手の甲で拭って赤が取れた。

「失神してんぜこの娘、」

 私の事じゃなかった、全身を流し台の色に光るライダーが、黒いコートと長い黒髪の女、同じ姿の金色や赤のライダーに向かって、喚いている。ライダーはあのカッコツケル君の変身した姿にもそっくりで、あのベルトまで同じ。コートの女の顔は包帯がグルグル巻かれて、なんだか透明人間みたい。

「ワカナ・・・・、なんて酷い、それもこれも全て私達家族を踏み台にしたあの男のせい、でも安心なさい、あの男は既に来人が消し去った、」

 死んでいたと思った、私は目を背けて喉元まで胃の内容物が出てくるのを我慢した、目頭が酸っぱくなった、もう人が死ぬところ、けっこう慣れちゃったと思ってたけど、さっきまでしゃべってた子は、脳の中の想像がいっぱいいっぱい出て、目をもっと酸っぱくした。

「安心しなさい。貴方はこのくらいの傷では死なない、」

『ジーン マキシマムドライブ』

 黒いコートの女がメモリとかいうものを銃の中に収めてアキちゃんに撃ち込んだ、ムゴイ、と一瞬思った私の目が間違えていたのはすぐ分かった。

「イタイ・・・・イタイよお父ちゃん・・・」

 むしろそれを見ている事の方がさっきより気持ちが悪かった。さっきまでボロボロだったアキちゃんの肌がすべすべに戻って、アキちゃんが拭った血の痕から真新しい肌が出てくる、エメラルドに光る0と1の数字の羅列がアキちゃんの体を流れて、立ち上がって困惑するアキちゃん、さっきまでの気持ちの悪さがその光を見ているとなんだか安らいだ、お母さんの中にいるような暖かい光だった。

「貴方のDNAに直接クレイドールのメモリーを封印しておいた。テラー、タブー、クレイドール、全てのメモリーをサイクロンと共にマキシマムで発動した時、貴方の弟は完全な肉体を取り戻し、そして検索を越える地球の記憶との一体化を果たし、地球そのものになる。」

 アキちゃんは全てに怯えて、唇を振るわせて後退った。

「いやや、アンタなんかうちの母親ちゃう!うちは、うちの家族は、お父ちゃんだけや!」

「荘吉に私は2つの依頼をした。1つは貴方を安全なところへ匿う事、もう1つは園咲リュウベエから来人を取り戻す事。あの男は貴方を預かる事は承知したのに、来人は取り返すどころか、見殺しにした。私が辛うじてサイクロンメモリーの中にサルベージしなければ、来人は永遠に失われるところだった。貴方の家族を見殺しにしようとした男よ。そんな男に騙されてはダメ。」

「ウチは、ナルミアキコやっ!」

 もう向かい合って立つのもイヤなんだと思う。アキちゃんは、振り返って今頼りにするしかないカッコツケル君の元へ逃げようとする。でもそんなアキちゃんの背中を指差す真っ赤なライダーがいた。

「ヒート、駄々っ子をお仕置きしておあげなさい。」

 あのカッコツケル君を真っ赤に炙ったような姿のライダーがその指先に炎をつけて弄んでいる。

「足の一本焼き潰していい?」

 そう言って指先の炎を下手から投げる女声のライダー、逃げ惑うアキちゃんの左足に当たって、燃えて黒こげになって体を支え切れず倒れる、私はでもその時アキちゃんに流れるエメラルドの光が、すぐさま足を元通りにしていく様も分かった。一番困惑しているアキちゃんの顔も分かった。

「貴方は来人が可哀想だと思わないの?家族なのよ。」

「逃げられない、逃げられへんなら、」

 アキちゃんはまたあの包帯の女や同じ姿のライダー達を振り返り立ち上がった、

「ウチはお父ちゃんの子や、お父ちゃんの事信じてる、お父ちゃんがアンタラを倒す言うんやったら、ウチもお父ちゃんといっしょにアンタラを倒したるんや!!」

「最近の子供は生意気だね、この私の前でヤケになるなんて」

 また指先から炎を発する赤いライダー、
 アキちゃんの髪が後ろに引っ張られるようにたなびいた、アキちゃんはそれでも眼を細めながら逃げない、大気が熱を帯びて突風になる、突風を追う形で炎がアキちゃんの顔に向かって飛んでいく、アキちゃんの耳にまとわりつくように、頭と同じ大きさくらいのエメラルドの珠が左右2つ浮かぶ、エメラルドの珠が向かってくる炎を受け止めかき消す、もう1つの珠が炎の軌跡を真逆に辿る、赤いライダーが自分の放った火で眼が眩んだせいでお腹にまともに食らった、エメラルドの光が帯電したように全身を掛け巡って赤いライダーがもんどりうって苦しみ出した、

「クレイドールとのシンクロ率が高い、細胞を活性し回復させ、過剰になれば神経を痛めつける能力、死んだ細胞のネクロオーバーには、生き返った細胞は癌に等しい。地獄の苦しみを味わう事になるわ。でもね、」

 包帯の女が背後にいるもう2人のライダーに指図する、キンキラなライダーが昔見たペッタン人形みたいに両手を異様に伸ばしてアキちゃんの喉を絞めようとする、なんかキモい、でもアキちゃんの珠がそれを祓い除ける、キンキラなライダーがしつこく絡みつきながら、今度は足を伸ばして仲間の流し台ライダーの腹に巻き付いてそのまま天高く放り投げる、

「いってらっっしゃぁぁぁぁ」

「ていやさぁ!」

 放り上げられ、さらにキンキラの足裏を踏み台にして飛んだ流し台がアキちゃんの真上から落下して棒を突き出してる、アキちゃんはキンキラに手一杯になって、見上げた時にはもう棒が首筋を強く伐っていた、

「不死身だろうと、一撃で意識を断ち切る事はできる、どれほど優秀なメモリーと高いシンクロ率があろうと、しょせん生身のシロート。闘士のスキルには敵わない。」

 アキちゃんは一打で失神し、流し台の太い腕に抱えられた。ギンギラはそのまま肩に背負って包帯女の元へ。

『スカル マキシマムドライブ』

『キー マキシマムドライブ』

 包帯女が見たのは、少し離れたところで戦う、あのカッコツケル君達の方。

「来たわね、荘吉。でももうこちらのモノよ。」



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その4





『ルナ ジョーカぁぁ!』

 LJの眼前には2体のドーパント、
 1体は四肢の無いチェスのクイーンの駒そのものであり、その頂点に一つ目が光る、
 もう1体は体こそは黒の競泳水着を着けた女性の体型であるが、肩、腿、そして首から先の本来あるものが無く、ただひたすら5つの穴からジェット水流をまき散らし、宙を回転している、
 肉体を月の光の右半身と切り札を隠す左半身に染めたLJ、無言で腰のスロットへメモリを差す。

『ジョーカぁぁ!マキシマムドライブ』

 途端いくつもLJの肉体が分身し、まるで幻想のようにアスファルトを滑りながら両ドーパントを方円に囲んだ、その間絶えず右の腕を人体としてありえない溶かした飴のように伸ばしてうねるままドーパントを威嚇、分裂したLJの1人1人から伸びる触手はしかし、その1つ1つが実ダメージを与えドーパントを怯ませる、

「『ジョーカーストレンジ!』」

 全包囲に光の硬膜で防御するクイーンドーパントのその隙間を縫うように、LJの1体から分裂した左半身が高速の手刀を急所に一閃、水流で圧倒数のLJ右の攻撃を弾きながら耐え忍んだオーシャンドーパントの実体めがけ、自ら描いた金色の円の中で黒い直線の軌道を何度も反射しながら波状攻撃、

『翔太郎、分かっていると思うが、これは明らかに足止めだ。』

 右の眼が明滅しながら周囲を警戒し、2人の人間からメモリが射出し、破壊するのを確認、

「イヤという程分かってる。だが、あっちのおやっさんなら、絶対逃さねえぜフィリップ、ちゅうか、あの2人、クイーンとエリザベスじゃねえかっ」

 倒れる2人の人間、女子高生は仮面ライダーWにとって、既知の顔だった。だがLJが駆けつける前に、飛び込むように寄り添ったのはアキコだった、

「ともちんとチュウやないかぁ、なんでこんな事なったんやぁ、昨日収録したばっかりやのに!」

『どうやら、この世界では別人らしい翔太郎。』

 LJは左指の収めどころがない。

「収録って、おいアキコ、おまえもしかしてラジオとかやっねえ?」

「3人でやってんで、タイトルは」

「「ヒーリングプリンセス」」

 ハモってしまった。

「タイトルだけはいっしょかよ、」

『翔太郎、敵は知るよしもないだろうが、君にもっとも効果的な足止めをしている、』

「わかってるってばよ相棒、忘れてたかもしれねえ、顔見知りが、ドーパントになるって事をよ、あの男も、あのアキコも、それを分かってるんだな、」

 だが動けないLJ、右頬に生暖かい風都の風を感じるLJは、そこに危機を察知する、

『翔太郎、来るぞ』

 右腕が強引にジョーカーのメモリを引き抜き、代わりを差し半身を鋼色に染めた、だがしかし、違うシャウトが、LMのバックルではないいずこからか轟いた、

『サイクロン』

『アクセル』

 同時に衝撃が走り、ビリヤード場の看板が突如コンクリートの爆流と共にLMに襲いかかる、

「なんだっ!?」

『あれはギャリー、事務所の通路を逆進してきた』

 粉塵がLMの視界を奪う、そのもののスピンターンがかき消していく、それは荘吉が奪われたギャリー、スカルギャリーが探偵事務所を突破半壊させて路上を飛び出してきた。

「アキコ、光夏海!」

 辛うじて両脇に抱えた2人の少女はその腕の中で失神している。だがLMの得物であるメタルシャフトは手にしていない。

『翔太郎、もう2人も心配する事はない。今は、敵に集中だ。』

 路上で倒れた女子高生2人の方はLMの右腕が投擲したシャフトが、まるで蛇のようにのたうって自律的に2人に巻き付いてなお勢いを失わず2人を宙へ持ち上げ裏路地へ引っ張り込んだ。むしろ両脇から下ろした2人の方が破片をわずかに食らって出血してる。

「あれはさっきの」

『あれは、ボクら?』

 正面で対峙するスカルギャリーのボディが左右に開く、中には1人の異形が立つ、それは右半身をそよぐ翠、左半身を拍車をかける紅に染めた、翔太郎達と寸分違わぬライダーの姿がそこにあった。『仮面ライダーWサイクロンアクセル』。

「よぉ!」ギャリー上にあって、両腕を大きく広げるCA。「おふくろが随分入れ込んでるやつの方か。オレと同じWドライバーを持つ男。」

 CA眼前のWは既に翠の右と漆黒の左へチェンジし、CJ眼前のWはゆっくりと瓦礫が散乱するアスファルトに降り立った。あり得ないはずの複数メモリ使い同士の戦いの火ぶたが切って落とされる。

「てめえ、仮面ライダーってのは、この街の住人が希望を込めてつけてくれた名前なんだ、」

『この世界のサイクロンの持ち主、』

 即座に負傷した2人から足早に離れるCJ眼前のWは、エッジの効いた剣を中折れさせ、メモリを装填している、

「だがオレには勝てん」

『キー マキシマムドライブ』

 そうして一旦担いで、
 振り抜く、
 瑪瑙の衝撃波がCJ一直線、
 見切ってステップするCJ、
 だが左肩を擦れ、膝を地につくCJ、

「なんだと、」

 キーの衝撃が左半身からバックルへ伝わり、左サイドに差さるメモリが1人でに抜き放たれ、宙を渡ってCAの手に届く。

『相手のメモリを自在に抜き取る事ができる、ドーパントに対してならほぼ無敵の能力。』

『サイクロン トリガぁぁ!』

 抜かれたメモリの代わりをすぐ様差し込み、左半身を冷徹な碧へ染めるCT。

「これが、検索に引っ掛からないメモリ。あってはならないジョーカーのメモリ。どうやら、天敵というのは、本当らしい、なっ」

 一瞬目を背けたCAの油断が、CTの速射をその掌に直撃させる。弾かれCAの手よりこぼれるジョーカーメモリ。

「よくもアキコ達を傷つけたな!」

 立て続けに5連射で圧すCT、

「この程度か」

 だが以降そのことごとく避け、捌くCA、その右腕一本の捌きはもはや見えない領域に至っている、

『さすがはサイクロン、疾い』

「感心してる場合じゃね!」

『ヒート メタルぅぅ!』

 CTからHMへその身を変え、背のシャフトを回し遠心力を保持、そのままCAへ突進、
シャフトの先端に渾身を込めて振りかぶる、

「格闘してやる」

 受けて立つCAもまた右手一本ブレードを振りかぶった、
 弾く、
 弾かれるのはHMの方、怯んで後退、

「なんてパワーだ」

『HMのパワーを、サイクロンを加速する事で上回っている。なんて相性がいいメモリだ。』

 シャフトを一振り、背筋を伸ばすHMを眼前にしCAは、ブレードの先端で対手を差し示し、次いでその先端でアスファルトに白いラインを引き、自分をグルリと囲む輪を描く。

「ここからオレの足が半歩でも出れば、負けを認めてやる、こい。」

「なめんな!」

 HM、再度突進、今度はそのままいくのでなく、フェイントで向かって右下から脇へ、

「セコいな」

 左手逆手に既に持ち替え受け止め弾くCA、シャフトを回して逆方向から伐ちに行くHM、さらに持ち替え受け止めるCA、CAは姿勢すら崩していない、幾度となく伐ち込むHM、幾度となく受け止めるCA、炎を纏ったシャフトの先端、目視できない速度に達するブレードの先端、

「『なに!』」

 いつのまにかシャフトで受けるだけで手一杯になるHM、シャフトで受けているつもりが相手の腕が目で捉え切れなくなった段階で、肉体へ一閃入り、全く対応できないまま上段から左肩へ重圧を食らって膝を地につける、その肩にCAのブレードが深々と刺さる、

『サイクロン メタルぅぅ!』

 倒れ様、右腕が素早くメモリを交換、右半身を赤から翠へ染め変え、シャフトを素早く跳ね上げて対手のブレードを腕から弾き飛ばす、

『対手に勢いを与えないっ』

 シャフトの先端が見えない程に遠心力のまま振りかぶり、素手となったCAを左右から伐ちつける、だが重心を崩すに至らない、それどころか片足を擦り上げ威嚇、CM顎を仰け反らせるCA、間が若干開く、

『トライアル』

 それはCA右腰にあるメモリスロットへの装填、未だ自分の描いたサークルの中片足立ちのCA、再び向かってくるCM疾速のシャフトを足一本で弾き、反動でむしろ速度を上げるシャフトの動きを、残像を伴った足技で躱し、拮抗し、いくつもの残像の脚がついには圧していく、CMすらシャフトで防御を取る事しかできない、

「地獄を楽しみな!」

 ついにはシャフトが軸の真ん中から折れる、

「『ぐわ』」

 CMは哀れ、宙をしぼむ風船のように舞って、アスファルトに打ち付けられた。

「底が見えた。おふくろを夢中にする程のやつじゃない。メモリでボディをチェンジするからどれ程かと思えば。」

 依然サークルの中で高笑いするCA。

「ヤツにだけは負けねえ」

『もうこれしかない』

『ルナ トリガぁぁ!』

 幻想の金、冷徹な碧へその身を染めるLT、胸に出現したトリガーマグナムをCAに向け、数発を立て続けに連射、その数発全てがまるで違う曲解した軌道を描いて動かないCAへ、

「ルナの能力は分かっている、」

 躱す躱す躱す、
 上体の動きがほぼ全ての光弾紙一重で躱していく、
 ほぼ全て、

「ぐ」

 それはCAの左眼への辛うじての一発だった。

「いけるぜ」

 即座にマグナムにメモリを装填、

『トリガぁ!マキシマムドライブ』

「『トリガー フルバースト!』」

 先よりも巨大な光弾が、一気に数十発、曲線を描いて怯むCAに畳み掛ける、

「ルナの能力は分かっていると言った、この程度の釣りに引っ掛かるとは、なぁ!」

 だがCAは自身の腰のスロットにメモリーを差す、

『ゾーン マキシマムドライブ』

 ある空間の一面を通過する数十全ての光弾が消え、決してCAに届く事がない、

「『なにっ!?』」

 光弾の行く先、転位した先はLT前面、全てがそのマキシマムの運動量を保存しつつ、位置と方向を変化させられた、

「『ぐぁぁぁぁぁぁぁっっっ』」

 全て直撃、自らの力で袋叩きに合う、足が地から離れ、いつのまにか頭が地を打ち、打った自覚も無い翔太郎の視界に、自分のワイシャツの袖が入る、ベルトにエネルギーが逆流した事によるメモリブレイク、地面と挟まるベルトの違和感で自分がようやく俯せである事に気づく。

「ルナの光が消えて・・・・・トリガーのメモリがうごかね・・・・」

 CAよりも自分の命よりも、形見の意味すらある腰のバックルとメモリに手をやり、一旦破損していない事に安堵するものの、何度押してもシャウトの響きがないメモリに絶句した。今、左翔太郎はアイデンティティが崩壊した事を自覚した。

「おまえを永久に闇の中に閉じ込めてやる。」

 俯せで放心する翔太郎に、再び右腕にメモリを握ったCAの高笑いが響いた。



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その3





「大学付属病院になったのは1ヶ月前だがな。」

 バックルからメモリを抜いて、腰のスロットへ差す、

『スカル マキシマムドライブ』

 その胸の肋模様が開いて、胸骨の部位から魂が抜け出たような骸が、朧気に燐火をあげて上空高く浮遊していく。

「とぉ」

 帽子の角度を直し、泰然自若な叫びと共に跳躍するスカル、
 スカルの眼下には、見上げ吠えるスパイダーとバットの両ドーパント、
 宙にあって巨大な骸と並ぶスカル、
 その絞り凝縮した腰からヒップの捻りだけの回し蹴りを骸へ、
 ドーパントの頭上60度から衝突する骸、燐火が2匹の怪物を包んで、断末魔を上がった、
 2匹の体内からメモリが射出すると同時に収まる燐火、

「よう、刃野警部補、道で寝転がっていると、風邪を引くぞ。」

 既に荘吉は変身を解いて、メモリに支配された2人の人間を起き上がらせていた。

「ックション!そうかぁ、このだるさは風邪かぁ、ナルミの旦那じゃねえかっ」

「そっちの若いのも、後で病院に行け」

 自分の名を腹の底から叫ぶバットだった若い刑事に、既に背を向ける荘吉。
 彼の腰に収めたスタッグフォンがその時震動した。

「アキコ、・・・・・若造が、言いつけを守らなかったな、簡単な足止めに引っ掛かりやがって。」





6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その2





 帰ってきた2人、いや3人に増えてたけど、あのカッコツケル君と、まるでカッコツケル君がワープ進化したみたいなイタニツイタカッコイイ氏がやって来て、なんだかスゴく雰囲気悪い。そしてあのアキちゃんは涙目になっている。カッコツケル君は早々に写真館の方へ閉じ籠もって、カッコイイ氏は上着を脱ぎ、帽子などは円盤投げしてミラクルに壁にひっかけ、そのままコーヒー豆を出して網で煎り始めた。
 いったい何があったんだ?

「ホンマすまんねんけど、あいつ呼んで来てくれんかな。お父ちゃんが取りあえず腹満たしとけって」

「いやオレが行く。その繋がった部屋というのを見ておきたい。」

「お父ちゃん、いっつもそうやねんから!お父ちゃんだから胡散臭がられんねや!」

「アキコ、オレのやる事だ。」

 そう言ってトイレの看板のかかったドアをカッコイイ氏は入って、やたら無神経な音を立てた。男2人が怒鳴り合ってるギスギスした音が響いてくる。ヒトの家で何やっとんじゃ?だけど、ほんの少ししたら、2人とも素直に出てきた。ムスっとしてるけど。
 ああ、この2人はライダーなんだ、そう私は納得した。士クンはいつも他の世界のライダーと出会うとすごく反発し合った。私じゃ絶対できないな。

「納得してねえからな!それだけは、おやっさんでも引かねえ・・・」

 などと無邪気に吠えるカッコツケル君を見てると、意外に士クンは大人な方だったんだなと思えてくる。

「これで全てが揃った?・・・・・、謎はやつらが狙うメモリの場所、いやそれより急いでここを引き払う。黙って腹を満たせ小僧。二度は言わん。」

 カッコイイ氏が用意した塩でしか味が無い硬いパン、冷蔵庫に入れっぱなしで冷えすぎたチーズ、そしてなにか拍子抜けなブラックコーヒーは、どれも女子としては満足できないものだった。私、毎日おいしいコーヒー飲んでたんだな。私も隣のアキちゃんもコーヒーに大量の砂糖とミルクを投下した。カッコツケル君はどういう訳か、

「くそ、なつかしい」

 と聞き間違えかもしれないけど、小声で言った気がした。

『風都の諸君、オレの名は、仮面ライダーW。おまえ達を窮屈な現実から解放する救世主だ。』

 一斉にブラウン官白黒テレビに4人の目が向けられた。そして一瞬だけ間を置いて4人の耳が古いダイヤルつまみのラジオに向けられた。アキちゃんがテレビのダイヤルをペンチでグリグリイジッて変えても同じライダー、あのカッコツケル君によく似たライダーが出てくる。もう私は見慣れてるよ、似てるライダーが敵同士とか。

『この風都を影から支配し、ガイアメモリで暴利を貪っていた園咲リュウベエは、このオレが倒した。やつが独り占めしていたメモリの力を、おまえ達全てに解放する。』

「バカな」

「バカヤロ」

 男2人が同時に叫んだ。それがどれだけ哀しい意味があるのか、その瞬間の私には分からなかった。
 カッコイイ氏とカッコツケル君が同時に立ち上がった、だが同時にカッコイイ氏がカッコツケル君の肩を上から片手で抑え込んで座らせた。
 ブラウン管のライダーが、手にしたアタッシュケースをあける、中にはカラフルに光るキャンディーみたいな棒がいっぱいウレタンに埋められている。ライダーはその中の何本かを見せつけるように取り出し、一つを腰に吊した大きな刀みたいなモノを中折れさせて装填した。まるで西部劇のライフルみたいな仕組みで一振りで元の刀にするライダー。

『ゾーン マキシマムドライブ』

 そうして手にした残りの棒を宙に放り上げて、光を帯びた刀で斬った。でも壊れる事無く棒はことごとく消え去った。

『見るがいい』

 ブラウン管の風景が暗い室内に1人立つライダーから、日の光が眩しい整頓された花壇の庭に石畳を敷いた路上の散歩する人々に映り変わった。その中の2人にさっきのメモリとか言う棒が突然現れて、後頭部に刺さって体に埋まった。

『スパイダー』

『バット』

 その人達が怪物になっていく映像を見て、私以外の3人の顔が引き攣った。私は、この世界の怪物は普通の人がなるんだ、と悪い意味で慣れてしまっていた。こんな事3人に口に出して言えない。
 怪物が突然現れて、画面の中の人々が奇声をあげて逃げ惑った。耳でなく頭に直接打ち付けてくるような子供や親達の悲鳴。怪物が吠えて、突然画面が一面白く光って、耳にしばらく残る重い爆発音がして、私は思わず目を閉じた。私は今ライダーに守られているから、落ち着いてられる。でも画面の中の人達は、私が最初に怪物達を見たあの時と同じでただ怯えて逃げるしかない。誰かに守ってもらえないって、こんなに違うんだろうか・・・・、私は今すごく性格悪いと思う。

「お前達は、今から教える男に会え、」

 カッコイイ氏が机のメモに手で削ったえんぴつでなにか書き出して、1枚剥いてアキちゃんに渡した。その動作一つ一つが手際良くて様になってる。

「尾藤さん?あのテキ屋の?」

「アキコ、はっきり言うぞ、おまえが狙われている。オレの事を知っているフミネは、オレがドーパントを相手にしている間、ここを襲撃するだろう。」

「待てよ、」フレミングの法則にカッコイイ氏を指差すカッコツケル君。「アンタを警戒してここを襲ってこねえって事なら、アンタが娘を守って、オレが今テレビ映ってるとこに行けばいいんだろ、分かってるぜ、あそこは風都病院だ。別の世界でもここは風都、裏道の猫の住み処までオレは知ってんぜ。」

 でもカッコツケル氏は構わず壁掛けの帽子を選んでいる。

「いや、風都大学だ。おまえがさっき聞いたように別の世界の風都のライダーとして立派に務めていたとしても、この世界では門外漢、些細な見立て違いが命取りになる。」

「アンタの知り合いだった女なんだろ、あの透明人間モドキ。だったら、アンタの知り合い根こそぎ調べてマークしてるぜ。アンタ自身がこの子の側にいてやれよ、親なんだろ!」

「オレは尾藤を知っているが、尾藤なら、オレの知らん隠れ家をいくつも知っている。それよりおまえのような半人前が見立てを誤る事の方がオレ達全てを危険に晒す。おまえのその依頼人を含めてな。」

 カッコイイ氏は私を指差した。そうだ、私はこの頼りないヤツに守って貰っているんだった。

「半人前・・・・・」

 強気なカッコツケル君はもう少し言い返すと思ったけど、ものすごくダメージを受けたような顔して口をパクパクさせてる。

「いいな、おまえの役目は、アキコを尾藤のところまで連れて行く事だ。」

 間隙を縫うように既にドアを開けて私達に背を見せているカッコイイ氏は、そう言って帽子を直し、静かにドアを閉めた。

「なんだアイツ!バカにすんのもいい加減しやがれ!」

 この子と会ってそんなに経ってないけど、他人を悪し様に口にするのはけっこう珍しいかも。

 ぉて!

 そんなカッコツケル君の後頭部に45度仰角で緑のスリッパが打った。

「なにスネてんねん、なぁナツミン」

「だよねアキちゃん」

「・・・ツテ・・・、なんだいきなりこの女、顔がいいからってオレが手を抜くと思うなよコラ、ていうか、おまえらいつのまに仲良くなってんだっ」

 だってさっきお友達だもんね、って2人で確認し合ったとこなんだもん。
 カッコイイ氏のバイクの音が遠退いたのを見計らって、カッコツケル君がグダグダ言って2階から1階へ私達を先動した。

「もっと気ぃつけえな。みえへんとこから襲われたらどうすんねや」

「このビリヤード場から出るのに危険はねえさ。ちゃんとこっちのおやっさんも死角に鏡を置いてる。玄関には昼でも夜でもちゃんと影が出るようにいつも照明が炊いてる。」

「あ、だからお父ちゃん電気消さへんのんか、・・・・・・・・、アンタが偉いんちゃうからね、お父ちゃんがちゃんと日頃から気ぃつけてるから偉いんや。」

 この2人相性がいいな、
 私は2人に黙って着いていく形で、朝日が柔らかく差す玄関先を出た。裏口から入ったから分からなかったけど、目の前はごく普通の寂れた商店街だ。いたるところに風車がある。お向かいのいかにもさらしななそば屋であのカッコイイ氏がもり食ったり、あのお肉屋のコロッケを立ち食いしてたりするんだろうか。

「おっきな風車」

 街道のずっと先で何十メートルあるか分からないオランダ風車の親玉みたいなのが回っている。

「あれが風都名物、風都タワーや。」

「あれがねえと風都じゃねえんだ。どこだ?その尾藤っての、」

 この2人絶対仲良いよね、

「メモはうちが見る、慌てんでええ、アンタ、お父ちゃんと違って頼んないねんから、ちゃんと尾藤のオッチャンのとこ連れてくんやで。」

「オレだって、あっちの世界じゃおやっさんの代わりにちゃんとライダーやってんだぜ!大体なんだアンタ、あいつに包帯女もろとも撃たれるとこだったんだぞ、なんでそんなヤツ庇えるんだ!」

「お父ちゃんは自分が全部背負うつもりやったんや」

「なんだよそれ!」

「あの人、うちの本当の親ややねん。」

 彼女がそう言って道の真ん中で立ちすくんだ、先頭を歩いていた彼は振り返って、口をパクパクさせて、目を瞬かせていた、私はそんな彼女の背中を黙って見ていた。

「うちの本当の母親が風都ひっくり返すような悪い事企んでるってお父ちゃんが知ってから、お父ちゃんうちに言っとったんや。オレの弱みはおまえだから、あの女は絶対おまえを人質にしてくるって、うちはだから言ったんや、うちはかまへんからうちといっしょにうちの母親を止めてって。お父ちゃんは分かった言うたんや。お父ちゃんはだから、正しい事したんや、」

「おまえ」

「したんや!」

 彼女の背中は正しいと言ってなかった。肩が震えていた。
 彼は指を何度も向けて、何かを言おうとした、でも遮られた。

『クイーン』

『オーシャン』

 いつのまにか彼の真後ろから2つの怪物が吠えながらやってきていた。
 カッコツケル君、私達に背を見せて、ただベルトを握った。巻く様は私の知っている誰かとよく似てる。

「逃げた方が!」

 たぶんこの子と私を守ってここに居る事は、すごくマズイと私は思った。

「今度も、いやだからこそ破るぜ、街を泣かせるヤツを、放っておけねえんだ。これは気休めだ。」

 カッコツケル君があの妙に大きな携帯にメモリとかいうのを差し込んだ。

『スタッグ』

 カッコツケル君の携帯が虫の形になって、私達の周りをグルグルと舞った。

「アホ言いな、かっこつけて」

 彼女も私と同じように考えてるみたい。

「アキコ!」

 彼は背中を見せたままだ。

「え?」

「おまえも街の住人だ。だから、おまえを泣かせるおやっさんを、オレは、放っておけねえ。産みの親を育ての親が殺しちゃ、結局おまえは泣くだけだ。そんなの、オレの知ってるおやっさんなら、しねえ・・・・・、いくぜフィリップ!」

『サイクロン』

『ジョーカぁぁ!』

「変身!」

 私の髪の毛が思い切り突風に流れて、まともに目を開けられなくなった。その時私ははじめて自分の髪の毛が邪魔に感じた。



6 スカルの世界 -Rの立つ世界- 第三部 その1






 風都の中央には、街最大規模の発電施設でありなおかつ最大の送信所である『風都タワー』なる巨大な風車が、昼夜を問わず回っている。北からの冷気と南からの暖気が絶えずせめぎ合うこの街は、近代に入るまで天災による被害で、作物と魚介に恵まれたが人が都市を築けるような立地では無かった。それがここ20年急速な伝導技術の発達によって、その激しい気候を逆に膨大な電力に替え、頑強な建造物と逞しい生命力でメガシティへ変貌させる。他国より警察機構が常駐しているものの、ほぼ園咲の家が創設より援助した自治団体によって運営が為されている。
 フミネ、という包帯の女が園咲の家を壊滅させ風都全体を敵に回したかのような感があるが、実は事前に自治団体の代わりになる財団を繋ぎ、警察機構は財団経由の圧力で無力化、実力行使で街のシンボルである風都タワーを易々と占拠した。荘吉達が敵にしようとしているのは、そういう者達であった。
 その風都タワーの電力制御室のドアが、けたたましく蹴破られる、

「ゴウゾウちゃん、なんで?ケンちゃんがなんでなのよ!」

「キョウスイ、少しは黙ってろ!頼むから今だけは勘弁しろ!」

 容積は平均男子の二倍以上あるくせに語り口調が女な『キョウスイ』が、ほぼ同じ屈強な筋肉がはみ出している『ゴウゾウ』にヒスっている。

「レイカっ、アンタもよ、アンタ達がついててナニしてんのよ!あの探偵絶対許せないわ!」

 キョウスイは続くロングの髪をかき上げるリアルな女の『レイカ』にも当たり散らした。レイカはその性格のにじみ出た眉をつり上げた。

「あの来人と同じ力を持ったガキがいなければ、アタイ達も遅れは取らなかったわ。」

「サイクロンアクセル以上よ。単純に力だけならばね。」

 そして最後にあの包帯の女が最上階制御室内に足を踏み入れた。そのサングラスの見つめる先に、ダンボール箱を積んだた台に寝かされた『リュウ』と呼ばれた男がいた。
 室内はほぼバームクーヘンのような円形の空間。壁に沿って計器が並べられ、電気事業者やメディア事業者がここで電力と電波を統制する。包帯の女は4人を使ってこの部屋の中央に巨大な十字架にも風車にも似た装置を持ち込んだ。十字架の先端は全てメモリースロットが埋め込まれ、回転軸には10インチ程のモニタ画面がある。
 今コートのポケットから取り出した翠色のメモリを十字架の右サイドに差す包帯の女。

「検索なさい来人。」

 包帯の女が語りかけるのはモニタ。光が灯り、映し出されるのは野心によって人格を醸成したのような青年の顔。青年は椅子に座してやや左サイドを向く形でモニタの反対側を覗き込んでいる。その姿は3人となったネクロオーバー達と同じ黒いジャケットに、ゆとりの笑みの消えない目つきに、やや翠のラメの入った髪。

『キーワードを言え、おふくろ。』

 一言一言に手振りが入るその青年の声は紛れもなくあのサイクロンアクセルだった威圧と狂気が混じったそれだった。

「ガイアメモリー、ジョーカー。」

 画面の中の青年がイスを捻って立ち上がり、背を向け、大きく両腕を拡げた。

『さあ、検索をはじめよう』

 それは何かの宣誓のようだった。宣誓と共に青年の立つ風景が全て白一色になる。青年の肌と髪と衣服だけが色のついたものだった空間に突如浮かぶ本棚の群れ、

『ガイアメモリ』

 そのハードカバーの本を下から上まで満載した重量級の本棚がいくつも滑るように青年の周囲を動き回り、どういう訳が白色の景色の中へ大半が消えていく。

『ジョーカー』

 本棚が一つになり、その本棚からハードカバーの本が重量を拡散して飛び出し、本一つ一つが消え、そしてついには再び白一面の空間が青年の眼前に拡がった。

『おふくろ、検索に一致する項目が、ない。ありうるのか?オレは地球の記憶を支配したんじゃないのか?おふくろ!』

「そう、やはり地球の記憶に無いメモリーなのね、ジョーカー、あり得ない、あのWはいったい何者?まあいい、分からないという事は分かった。今はそれで満足しましょう。それより、」

『おふくろ、まずオレの肉体だ。全てはそこからだ。見つけたんだろ?最後のメモリを。』

 包帯の女は、指を三本だけ伸ばした。

「テラー、タブー、そして『クレイドール』、この3つのガイアメモリーを集め、この、」中央に打ち立てた十字の機械を握り拳で叩く。「『プリズム・エクシア・グリッダー』にサイクロンを含む4本を差した時、来人の肉体が錬成される。3人共、プリズムをここからギャリーにお移し。」

「なに、苦労してここまで運んだのに、また下に降ろすって、もうアンタの言う事なんか聞いてやる義理は、」

 ヒスを起こすレイカに黙してマグナムを振りかざす包帯の女。それは殺傷能力を振りかざしているのではない、むしろ逆だ。

「貴方達3人は、既にネクロオーバー。一定の間隔細胞酵素を打たなければ細胞が分解してしまう。そして酵素を精製する為にはタブーのメモリーを分析する必要がある。貴方達にこのメモリーを分析し酵素を精製する知識がある?」

 髪をかき上げるレイカはその美脚をなめらかに旋回させてダンボールの一つを破砕、だが結局他の2人と同じく、溶接された土台を切断にかかった。

『おふくろ、リュウが回復次第オレが直々にその探偵を排除してやる。そうすれば女だろうがクレイドールだろうが』

 画面のモニターの真下で火花が飛びながらも、モニターの中の青年は軽妙に舌先を動かしている。

「いえ、直接いけば貴方もタダでは済まない。それより、荘吉はこの街にただ一人、あのもう一人のWもね。だったら、もっとリスクの少ない方法がある。」

 包帯の女はコートのポケットから、無作為な数のメモリを取り出した。



2013年2月2日土曜日

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その6





「お父ちゃぁん!」

 助けて、とまでは言ってはいけない事を知っている娘だっだ。
 そのアキコの腕を捻って盾にする包帯の女。

「あの大坂の女に産ませた子?私を止めたいなら、この子を犠牲になさい。私の来人や、あの貴方の相棒のように。」

 対面し、ただ銃口を向けるスカル、その硬質のマスクに表情というものは無い。

「おまえに、その子はやらせん。」

 一発、
 スカルの放った弾丸が、アキコの頬を掠め、包帯の女の肩を掠める。
 アキコの頬から血が流れ、目に大粒の涙が潤んだ。

「お父ちゃん撃つんや!どうせ私お父ちゃんの本当の子や無いもん、だから、私平気やもん!!」

 少女の肉体は見て分かる程震えていた。

「養女?まさか、この子が、そうなのね、荘吉、貴方娘としてこの子を傍に置いていたのね、これで全てが揃った、」

 包帯の女はそんな少女を強引に引っぱりながらジリジリと間合いを空ける。スカルはジリジリと間合いを詰める。

「この子は私のものよ、来るな荘吉!」

『スカル マキシマムドライブ』

「オレは、もう決断を鈍らせない。」

 スカルマグナムへ再度メモリを装填、充実する銃口の光、そのドーパント一体を葬り去る光弾が、アキコに向かって放たれた、

「なにすんだぁ!」

『ルナ メタルぅぅ!』

『メタルぅぅ マキシマムドライブ』

 その時、横合いからその紫の影の光弾を、無数の円環が自在に追尾して擦ってはUターンして再度突進を繰り返し、砕けては円環が分裂して突進、増殖する円環が少しずつ紫弾の軌道を逸らし、ついにはアキコと包帯の女が免れる位置で爆破、砕けない弾丸を横合いから逸らした、二人の長い黒髪が至近の爆風に靡く、
 飛びそうな帽子を抑え思わず人質から手を離す包帯の女、アキコは逃げるというより爆熱に仰け反って地面に倒れる、

『ルナ ジョーカーぁ!』

 そうしてW、左半身を黒く染めて右腕を伸ばし、スカルマグナムのバレルを上から抑え込み、スカルに詰める形で腕を縮める。

「どけ小僧」

「なにやってんだぁんた、娘を巻き込むのか!」

「決断するという事はそういう事だ」

「おやっさんがそんな事すんじゃねぇ!!」

 だがそんな二人を震動が襲う、

「ぉぉぁあぇあ!」

 それはギャリー、そしてメタルの咆吼、メタルドーパントが転倒したギャリーを再度起き上がらせた。大上段から振り下ろされる前輪を回避する二人のライダー、スカルは自らのスタッグフォンを取り出す、

「ムダよ荘吉、私が作ったもの、マスターコードは私が握っている、」

 包帯の女もまた同型のフォンを片手に握っている、メタルがヒートを抱えて動き出すギャリーに飛び乗った、ギャリーはスピンターンで包帯の女の円周の軌道で背後へ、包帯の女が再びアキコに手を伸ばす、

『ルナ メタルぅ!』

 右ボディを銀に染め、メタルの剛腕でスカルを絡め取りながら、出現したシャフトをあり得ない軟質な動きに10数メートル伸ばし、まるで撓るムチのごとく包帯女の側近地面を打ち、アキコに触れさせないW。

「未知数のライダー、いいわ、来人が回復してからその恐ろしさを味わせてあげる。」

 ギャリーの側面に捉まる包帯の女、ギャリーは二人のライダーにエグゾーストを向け逃走、

「待て」

 スカルがLMをようやく振り払って、マグナムを連射、だがギャリーの装甲はことごとく弾き返し傷一つない、

「うぉりゃ」

 LMがシャフトを伸ばしエグゾーストの一本に巻き付けようとする、

「うぉりゃぁ!」

 だがギャリーの頂に立ち、ロッドを振るうメタルドーパントがシャフト先端を弾き返した。

「くそっ」

 もはやスカルギャリーを捕らえる術を失い、立ち尽くして睨むしか二人のライダーにはできなかった。
 黙って変身を解く両者は共にメモリをバックルから抜くスタイルだった。

「馬鹿野郎」

 静かな挙動でシャープな拳が翔太郎の不意を襲った、

「おやっさん・・・」

 殴りつけられ、よろめき、それでも隣の壮年の顔をマジマジと眺める翔太郎。顔、その足先から白いスーツ、全縁の帽子、そしてあの最後に殴られた頬の感触までもが全て同じ。

「何を逃したか分かっているのか」

 脚の震えを留める事しかできない翔太郎は、喉を鳴らした。

「たとえ、どんな野郎だとしても、誰かを犠牲にするような、そんなやり方、オレの知ってるハードボイルドなら、絶対しねえ!」

 あの時と違って多少の口答えできたのは、歳月が経ったからに過ぎない。

「オレに誰かを重ねるな、小僧!」

 雨がいつのまにか二人の肩と崩壊した園咲の庭を濡らしていた。荘吉は青年に背を向け、翔太郎はその男の背を見るしかなかった。

「アンタ、お父ちゃんに盾突いたらあかんで、お父ちゃんはな、間違った事言うた事無いねんから!」

 心無しか翔太郎の耳に、髪が濡れ雫が滴る少女の声が震えて聞こえた。唖然として見上げる翔太郎に、視線を合わせず手だけを差し伸べ下唇を噛むアキコだった。





6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その5





 メタルを前方、ヒートを後方に、絶妙のタイミングで同時攻撃を迎えなければならなくなったHJ、

「ジョワッッ」

 メタルの振り下ろすロッドに、背を向けるHJ、

『ヒート メタルぅ!』

 左半身を鋼に変えるWの背にロッド軸が出現、メタルのロッドを受け止める形になる、

「うっぜぇぇぇ」

 そして正面から受け止める形になったヒートの膝打ちを十字ブロック、左前腕で相手を抑えながら、背の得物をメタルを弾きつつ抜いて、リーチを伸ばしヒートへ横薙ぎ、その勢いのまま両者から間合いを開けるHM。

「ナニモンだこいつら、」

 得物のメタルシャフトを時計回り1度、反時計回りに半円だけ振って眺めるHMの視界には、悠然と2対1の状況にゆとりを見せ居並ぶ2体のドーパントがいる。今HM向かって左にメタル、そのいぶし銀のボディにもたれ掛かるように右にヒートが立つ。

「てめえは引っ込んでろ!」

 そのメタルの咆吼が合図となってHMと2体のドーパントが間合いを詰める、ドーパントは同時にHMの左右へ回り込む、HMがメタルのロッドを弾いた反動でヒートを威嚇し一旦退かせた上でシャフトを旋回させ再びメタルへ打ち込みにいく、しかしメタルもまたロッドのモーメントを保存しつつ打ち込みをかけ、互いの得物が交差し弾き返され互いの姿勢が崩れる、そのHMの死角からヒートが再び摺り足をかけてくる、その急激な体感温度の上昇から背後の敵チャージに気づいてたまらず跳躍し逃れようとするHM、

「さっきは3人に囲まれて凌いだのに、」

 翔太郎が囲まれた敵にHMを多用するのは、メタルシャフトという武具の属性が反動を利用する事にある。HMのパワーで打ち込んだ反動がそのままモーメントに変換され別の敵へ打ち込む力とレスポンスを産む。パワーがあればあるほどシャフトの速力も増す形になる為、本来ならレスポンスで凌駕するCJやCMに匹敵する速力を、一対多の状況でHMに発揮させる事ができる。

『敵の連携は先程とは段違いだ。』

 だからこそ敵の包囲を崩し各個に相手取る為、HMは跳んだ。

「上げて」

「飛べ!」

 それを追って跳躍するヒート、ただ跳躍するのではない、メタルの掌に片足を乗せ、メタルが押し上げ、そして自身の脚から噴煙を吐き、もはやそれは飛翔、圧倒的な速度でHMの頭上を越える、

「『なに?!』」

 振り下ろされる踵、後頭部に食らう、地に叩きつけられるHM、メタルに首を掴まれ持ち上げられ、その得物の鉄の爪で肉体を引き裂かれる、同素材同士の摩耗が火花を生む、片腕だけのメタルの膂力で50メートル先の大木に投げ飛ばされるHM、

「バイバイ」

 傷だらけのHMにヒートが追い打ちの火球を放つ、
 爆発、

「『をぁぁ!!』」

 近接爆破を食らって天地逆に宙へ舞い上がるHM、そのまま落下して背を強く打ち地に転がる。

「こいつらツエエ」

 立ち上がろうとして思わず片足が滑り膝をつくHM。その視線の先に映るのは2体のドーパント。だがその2体は、HMを視ていない、別のライダー、厳密に言えばそれと対峙し、今まさに揮発的に消失したドーパントを凝視していた。

「ケンが、どうして!?」

「ケンなんだぞ、あの、許せネエ!」

 それはWにとって意外な程ドーパント達の反応だった。そしてそこに千載一遇のチャンスを見た。

『ヒート トリガーぁ!』

 左半身を冷徹な蒼へ変え、トリガーマグナムへメモリを差し込み、バレルを大口径へ、

『トリガーぁ! マキシマムドライブ』

 ヒートサイドの腕で構える、口砲に閃光が蓄積する、

「『トリガー エクスプローション!!』」

 轟く火芒、反動で両足を引きずり地に跡をつけるHT、

「どけレイカ」

 メタルがその急激な熱輻射に気づく、

「どくのはアンタよ」

 だがメタルを制して前面に踊り出たのはヒートの女、その全長を越える火の塊がヒートを呑み込む、呑み込むと同時に圧倒的熱量がヒートを圧搾し過熱、背後のメタルも吹き飛ばされそうなヒートを背を構えて支える、

「うりゃぁっ!!」

 ヒート、なんと圧搾する熱量を圧し返し火芒をかき消した。だが息荒く、全身から煙を吹いている。思わず片膝を折った。

「ブレイクしねえ、凌ぎやがった、ヒートの女、」

『Wのもっとも強力な攻撃を同じヒートの属性で堪えた?』

 むしろ攻撃したHTが棒立ちする。

「おめえまで死んでもらっちゃ、オレが困んだよ!」

 ヒートの背後にいたメタル、HTを睨みつけつつヒートを肩で担いでジリジリと後退していく。
 目で追うだけのHT、まだ脚にダメージがある。

「それより、」

 その時点でようやくスカルを振り返るWだっだ。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その4





「私を撃つというの荘吉、幼なじみを。」

 包帯の女は両の手をコートのポケットから出さずに佇み、

「ヤツが復活すれば、街を泣かせる。オレは、ヤツの中の悪魔を見た。」

 骸の仮面は、ただスカルマグナムを構えている。

「悪魔?たったそれだけの事が、あの時来人を救わずに見捨てた理由?」

「男が決断するという事は、そういう事だ。」

 スカルマグナムが放たれる、幾発もの弾丸が包帯の女を一直線、だが女は動けない、

「プロフェッサー!!」

 スカルの放った弾丸を弾くのもまた弾丸、撃ちながら割って入り、なお弾丸を連射するスカルの弾をその身に受け、さらに左腕の砲身で反撃するのはトリガー、
 互いに対手の弾丸を食らって怯むも、同時に立て直し反撃、トリガーの胸を弾丸が貫通、やや射線がズレたトリガーの弾丸はスカルの右脛を掠めた。
 硝煙が両者の間を割って入った。

「逃がさん」

 そのトリガーの背後にあって右サイドへ逃走しようとする包帯の女、スカルの銃口が追随しつつ連射、

「ゲームオーバー」

 だが視線を外したスカルの目元をトリガーの弾丸が掠り、次いで脇に数発の弾がめり込む。スカルの硬質化したボディだけが荘吉の命脈を辛うじて保つ。

『スカル マキシマムドライブ』

 スカル、そのトリガーに銃口を転じ、マグナムへメモリを差し、差した腕を固定、銃を流して前腕にかけ、Wと同じくバレル下部を底上げ、マキシマムモードへ形状を変える。
 トリガー、敢えて待つ、
 スカルの紫煙を放つ弾丸が射出、朧気に骸に見える、
 トリガー、その弾丸を撃ち落としにいく、その意図は敵の最強の一撃を弾き飛ばしての2射め、
 スカルの弾丸とトリガーの弾丸が0角度で衝突、

「男の魂は砕けない。」

 砕け飛散するトリガーの弾丸、スカルの弾は、トリガーが正確であるが故に一直線のベクトルで重心同士衝突し、角度を変える事無くスカルの硬度と威力がトリガーの弾丸を上回る、
 2射めを放つほぼ同じタイミングで直撃するトリガーの肉体、

「・・・・・・・」

 一瞬だけ漏れる呻き、全身を紫光が迸り、オーバーロードしたトリガーメモリが体外へ射出、

「く」

 トリガーが放った2射め、スカルのソフトフェルトを掠め、倒れるスカルギャリーの装甲に反射跳弾、なんとスカルの右足を直撃、あの鉄壁の硬度を誇るスカルのボディに初めて皴が入り、あのスカルが片膝を折った。

「・・・・・、ゲーム、オーバー・・・・」

 仰向けに倒れたトリガーの男、倒れ震えそして辛うじて首だけをスカルに向け、その群狼のような両目には笑みが浮かんでいた。

「撃っていいのは、撃たれる覚悟があるやつ、だけだ。」

 スカルは、どういうわけか泡が吹いて全身が蒸発していくかのような男を見て、トリガーの勝利に賛辞を送った。
 スカルは包帯の女が目的である、トリガーはその妨害が目的である。トリガーが割って入った段階でスカルは女を撃てず、トリガーを対手にせざる得なかった。既に割って入った段階でトリガーの詰みだった。

「フミネ、おまえは、こういうヤツを犠牲にできるという事か。」

 スカルの背後は、スカルギャリーがあり、そしてそこまで包帯の女は駆けていった。

「お父ちゃん!!」

 なぜなら、フミネは聞いていたのだ、おまえは来るな、と。

「貴方の娘よね?貴方が追えないところまで行けば、解放する。それまでは、人質。」

 包帯の女は、ギャリーが倒れ失神するアキコの腕を捻って抱える形で銃口を向けた。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その3





「こっちもいい男、あっちもいい男、いい男祭りだわ!」

 左側面からクラゲの化け物のようなルナドーパントが牽制、その触手のような腕が物理現象ではありえないアメイジングなストロークで伸び顔面を打ちにいく。スカルはそれを上体をスウェーさせるだけで躱していく。
 無言のスナイパー、トリガードーパントが逆の右から足元を狙う、その正確な射撃がスカルの足捌きを抑止する。スカルはその敵だけは眼で追って、擦る程度なら着弾させてもフットワークを止めない。

「ウォリァタぁ!」

 スカルより二回りある体躯のメタルドーパント、前面にあってスカルともっとも組み合う。スカル、一度はロッドを掻い潜って拳を一撃加えたものの、途端左右からの攻撃に晒され3倍するダメージを負う。

「うっとおしいオッサン!」

 後方にあって必殺の美脚で極めたいヒートドーパントは先も寸でで躱されイキリ立つ。スカルは大気の感触だけでその急接を察知して躱した。

「しつこい」

 スカル、1度はこの4者の連携を解いた。翔太郎と全く同じクワガタムシ型の『ガジェット』フォンに『ギジメモリ』を装填してトリガーの眼元へ体当たりさせ、メタルのボディへブローを放って拳の跡を胸元へ付け、ヒートの振りかぶる脚を肩パットで弾き、そしてルナの伸びる触手を一跳躍で躱して外の庭へ逃れた。そうして戻ってきたスタッグフォンを手にアキコの電話を取った。
 だが敵は上手で、ヒートが奥の手の火球弾を放ってトリガーとの十字砲火を形成、メタルに肉薄を許し、再び四面包囲の形でジリジリ体力を削られていく。

「もたつき過ぎよ!」

 ヒールを鳴らして玄関へ体を傾けた包帯の女は、聞いた覚えのある駆動音にいきり立った。

 駆け抜けるギャリー、
 直前まで全速力、
 前輪のブレーキを強め、
 スピンターンで制動、

「堅いわ、スゴク堅いぁ!!」

 車体に横殴りされ、吹っ飛ぶルナ。

「うぉわ」

 後輪に巻き込まれ、ロッドを突き立てながらも倒れ潰されるメタル。

「来たか、スカルギャリー!」

 待っていたスカルは、ヒートとトリガーの対空迎撃を敢えて食らいながらも跳躍、スタッグフォンで呼んでおいた『スカルギャリー』、頭蓋骨を思わせる巨大バギーの5本後ろに流す巨大エグゾーストの上へ立った。車体の丸みがトリガーからもヒートからもその身を遮蔽する。その上でスカルは自らの得物『スカルマグナム』を出現させる。

「うっとうしいオッサン!」

 ヒートとトリガーに向けてマグナムを乱射するスカル。上を取られたトリガーは即座に撤退、ヒートは同じく跳躍しようとして迎撃され地に倒れた。

「中から開いた!?」

 足元が震動、僅か姿勢を崩したスカル、それはスカルにとっても意外なギャリーの震動だった。

「スゲー、見渡す限りのドーパントだぜ。おやっさんどこだ?おい、園咲若菜、離せ!」

「ワカナちゃう!なんべん言うたらわかんねん!」

 それはギャリーが左右にボディを開いた震動、開いたギャリーの前半部は車両1台を入れるメンテナンススペースの台座、そのフリースペースに立つのは二人、翔太郎と依然腕に噛みつくアキコ。

「スカルギャリー、あの子達は誰?」

 困惑する包帯の女を含む敵、

「おまえは来るなと言ったはずだ、アキコ。」

 もっとも困惑しているのは、翔太郎頭上にあって二人を見下ろすスカルだった。

「お父ちゃん!加勢に来たでぇ!」

 いい加減な事を言うアキコだった。

「・・・・・スカルだ。ホントこっちの世界のおやっさんなんだな、」鼻下の汗を2本指で拭う翔太郎。「見せてやるぜ、今のオレを。」

 翔太郎、ダブルドライバーを取り出し、腰に据える、巻かれるドライバー、

『サイクロン』

 フィリップが次元を越えた先から左腕でメモリを作動させる姿は、スカルや包帯の女には見えない。

『ジョーカーぁ』

 見えるのは右手で掲げたメモリを作動させる翔太郎の動きのみ。

「ダブルドライバー?私以外にも作った者がいるという事、ジョーカー?そんなガイアメモリー地球の記憶に存在しない。いったい何者?」

 包帯の女は知るが故に驚愕した。

「『変身』」

 フィリップがバックルに垂直、右に差す、
 翔太郎の元に転送されるサイクロン、
 続いて翔太郎が垂直、左に差す、
 腕を交差してバックルを開く、バックルがW字の形状になる、

『サイクロン ジョーカーぁ!』

 両手を拡げる翔太郎、ファンファーレと共に細かい破片のような光が翔太郎の肉体を包む。

「まさか」包帯の女はその意味の成すところを理解した。

「はんぶんこ怪人や!」巻き起こる乱気流に髪を逆立てながらもギャリー外装の銀パイプを掴む。

「『さあ』」おもむろに黒い左腕で包帯の女を指差す。「『おまえの罪を数えろっ!』」

 右半身が翠に輝き、左半身が漆黒に光る、マフラーを靡かせる独特の大きな複眼を持つそれが『仮面ライダーWサイクロンジョーカー』。

「なんだあいつは」

 この世にいるドライバー持ちは自分を含めて二人しかいないと思っていた荘吉もまた困惑し、トリガーからの弾丸をジョーカーの素手で掴むライダーに見入った。

『あれはトリガー、そしてあれはヒート?まさかボク達のガイアメモリのドーパントに出会うとは思わなかった。ゾクゾクするねぇ。』

 CJ背後より、

「何この紛らわしいガキ!」

 ヒートが踵落としの体勢から放物を描いて落下してくる、

「感心してる場合かよ!」

 ギャリーより飛び降り様、ヒート腹部に跳躍力を伴ったカウンターの左、弾き返り転倒するヒート、その動きを抑止しようとトリガーが弾幕を張る、着地様食らうCJ、だが食らうのはそれまで、弾幕が止む、スカルがトリガーを牽制している、

『ヒート ジョーカーぁ!』

 立ち上がり再び向かってくるヒートに、敢えて待ちながら右腕を炎に焦がすHJ。

「おらぁ!」

 互いに殴り合い、推し勝つ、そのまま2度3度ヒートの顔面へ拳を連打。

「私がついに頓挫したフォームチェンジを、いったい何者なの、財団?それともミュージアム?いやこの世界で私よりガイアメモリーを知っている者などいない、ルナ!加勢よりリュウが先よ!!」

 包帯の女は今失神から触手を体ごと振って回復するルナを手招きする。

「あら、イイ男に絡みつけるのネっ」

 男声の怪物が、10数メートルもの物理的にあり得ない伸びの触手を、なお倒れる屋敷のホールで『リュウ』なる青年を巻き付け惹き付けると同時に跳躍、月光の煌めきから木の陰に一瞬で飛び消えた。

「逃がさ」

 揺れる足元、

「おと、ちゃぉぁっ」

 命からがら這い上がってヘタり込む金属の床が右斜めに隆起し思わず父の名を叫びながら滑り、もはや地面と直角する床を落下するアキコ、

「うぉりゃぁたぁぁぁ!」

 スカルギャリーの片輪が宙を浮く、いや持ち上がる、持ち上げるのは轢き潰され、地面へ埋もれたメタル、雄叫びを上げて復活だった。

「おやっさんが危ねえ」

 ギャリーの90度転倒に地面へ落下したスカル、メタルが迫り、それを視界に入れたHJ、左チョップのキレがクリティカルにヒートをたじろかせたのを見るや、右拳を発火、右フックの状態でメタルに突進、そのままアックスを首へ、メタルをはね除けるHJはスカルに向き返った。

「助けてやるぜおやっさん」

「どけ」

 だが身を呈して飛び込んだWなど見もしないで手で祓い、包帯の女へ駆けるスカル。

「おやぁ……」

『背後から来るぞ翔太郎!』

 スカルの背中を呆然と見つめるHJに、脳震盪を起こす事もなく復活したメタルが鉄の爪を振りかぶる。

「首鍛えてんなこいつ」

 右脚のステップで辛うじて躱すも爪跡が一線左胸に入る、だが怯む事無く左を入れて顎を掠めるHJ、

「ぐぉぉぉ」

 メタルの肘がHJボディへ、
 顎を揺すられながらまるで姿勢を崩さないメタルがHJを吹き飛ばす、

「クソ生意気なガキっ」

 吹き飛んだHJの先に踵をキメにくるヒート、

『あいつはメタル、翔太郎、やはりこの世界は中々興味深い。』

「言ってるな相棒!」

 メタルとヒートに前後挟撃されるWだった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その2





 また例の夢、
 ディケイド、
 私はいない、
 ディケイドの目の前に数え切れないライダー達、
 ライダーの一人が攻撃してきた、
 危ないディケイド、
 私の思いと繋がってるみたいに手で顔を庇うディケイド、
 反対の手でピンクの光を出してライダー達を溜まった埃のように吹き飛ばす、
 止めてディケイド、
 でも今度は私が何を願ってもディケイドはライダー達と戦うのを止めなかった、
 止めて止めて止めて、
 私はディケイドの血に染まった掌を眺めた、 見てるだけで臭ってきそうな気がして目を背けたくなった、
 そんな私の気持ちと同じように目を背けるディケイドの視線、
 違う、
 私の思った通りにディケイドが動いてる、 でもライダーと戦う事を止めない、
 違う、
 私だ、私が止まらない、
 私がディケイドになって、戦うの止められない!



 今日はとびきり酷い夢だっだ。
 私が目を開けると、いつもの湿気を感じる白い壁と埃がうっすら降りた木目が綺麗な床、いつもの私の家、もう私しかいない写真館。
 テーブルは倒れ、ディエンドの銃は暖炉の灰に刺さって、カードは床に散らばった。
 今私の目の前に、士クンが一番気にしてた同じ『COMPLETE』のロゴが入った、いくつかマークが入ってるカードが落ちている。あの海東大樹さんもいろんな世界回って集めてたのね。

「やったぁ!」

 あの帽子のだらしないカッコツケル君が、命が助かったからか、それとも自分の世界に帰ってきたからなのか、玄関を開けた途端大声ではしゃぎだした。たぶん後者。

「トイレだぜフィリップ、大変だ、これからオレ達トイレ無いぜ。」

 カッコツケル君、玄関の戸を半開きに私を手招きする。

「気づいたか、光夏海、・・・・どうしてだ、もう電話なんてイラねえだろ、いねえ?オレはこうして2階の廊下にいるぜフィリップ。」

 カッコツケル君が床板がミシミシ言う廊下を出る。私が写真館を出て振り返ると、といれと少女趣味の彫刻看板がかかった扉になっていた。カッコツケル君は先に進んで廊下にもう一つある扉を開けた。

「ええい、このナルミ探偵事務所に押し入るたぁ、舐めたもんヤなぁ!」

 頭上80度からカッコツケル君に振り下ろされる細い足首、そのつま先には緑のスリッパが履かれている、私はその時ピクリとも動けなかった、

「てぁ!」

 床板に思い切り顎を打ち付けて倒れた。あれ絶対お腹真っ赤になってる。彼の持ってたやたらデカイ携帯が私の足元に転がってくる。

『翔太郎、まだそこがボク等の風都だと決まったわけではない。現にボクが廊下を出ても君達を見つけられない。いいかい、思い当たるだけで2つ、そこがボク等の事務所に偽装しているか、似ている別の世界かだ。だが君達はランダムに転移した。敵がいるとしても先周りするのは不可能だと推理する。おそらく翔太郎、そこはボク等の風都と似て非なる』

 なんだかよく分からないけど、たぶん電話の先の子は内に籠もっちゃうタイプだと思う。

「ナルミ荘吉の娘にして嫁(仮)、このナルミアキコが、お父ちゃんの留守預かってるんやでえ。か細い美少女やからって、ナメたらあかんねんでぇ!」

 どちらかという、無遅刻無欠席で表彰何枚か持ってる健康優良児が両手を腰において鼻息を飛ばしている。(仮)ってなんだよ。

「亜樹子、おめえ、翔太郎だバカ、この鳴海探偵事務所を預かって・・・・・、誰だ、亜樹子じゃねえ!どこだフィリップ!!」

「ナニヌカしとんねん、私は正真正銘、風都一番のナニワの美少女アキコやでぇ!アンタこそナニもんやコソ泥!」

「おまえ、ちゅうか、園咲若菜じゃねえか!なんだ!これはテレビか!どっきりか!白状しねえとアンタの素の性格全国放送しちまうぞ!!」

「シロップがなんやねん?今レーコー呑んでる場合ちゃうちゅうねん!」

「って言ってます」

 私はそんなカッコツケル君より、電話のコモル君の方がマシだと思った。アキコを名乗る子がカッコツケル君を立ち上がらせてネクタイ締め上げてるせいもあるけど。

『そちらの亜樹ちゃんが若菜さんに似ているのは意外過ぎるが、やはりそんなやる必要も無い事まで違いがあるのに確信が持てた。そこは、別の風都だ。夏海さん、そちらのアキコさんに聞いてみてくれないか?鳴海荘吉が生きているかどうか、いや、鳴海荘吉がどこにいるかを聞いてくれればいい。』

 私は何がなんだか分からないが、とにかく頼りない藁のような2人のどちらかの言う事を聞くしかなかった。こんな時士クンは平然としていたな。

「あの・・・・、」

 アキコさんがこっちに怖い顔を向けた。私もあのスリッパでボコられるんだろうか、私生きていられるだろうか、きっと頭ザクロにされるんだわ、助けて神様!

「アンタ、分かったで、誘拐されたんやな!可哀想に、」

 なんか生きていられるみたい、神様ありがとう、でも神様、この台風娘をなんとか止めて!

「私は、その、」

「ああ、皆まで言わんでエエ、私はこの事務所の主、今日も街の為に駆けずり回ってるナルミ荘吉の娘やで、あいつに誘拐されて、イヤイヤいっしょにいるんやろ、待っとき、今すぐこの風都泣かせる変質者を退治したるさかいな!」

 私の肩を掴んで揺する女の子の背を叩くカッコツケル君、

「おやっさん、鳴海荘吉がこの世界じゃ生きてんのか!」

「人の旦那(仮)捕まえて不吉な事いいナ!」

 見ないで上段バックキック、顔面にスリッパ裏をくっきり、
 もんどり打って廊下を倒れるカッコツケル君、ああこれをコモル君は予想できてたんだわ。

「・・・・あの、荘吉さんは今どこにへ、」

「は?まさかアンタら依頼人?ウチ聞いてへん!それならそうと早よ言うたら、」

 この豹変した台風娘が私の手を引っ張って事務所と言うレトロな雰囲気の室内に招き入れた。疲れるわこの子。天井に剥き出しのプロペラがまったり回ってるんだけど、その風はただただ室内の埃を巻き上げてるだけで、なんでだろう、この子こんなところに住んでる事が可哀想になってきた。おしゃれしたい年頃なんだろうし。
 私はトゲっぽい電話を、ヨレヨレで入ってくるカッコツケル君に渡して、窓寄りの3人掛けソファに腰を降ろした。そうするつもり無かったけど、思いっきり腰掛けたんで埃がバッと舞った。そう言えばおばあちゃんの小屋から掠われてずっと休む事無かった。

「別の風都って何だよ、早く言えよ相棒。そっちの園咲若菜も、実はもっと底は凶暴かもしんねえぞ。この間なんか目じゃないくらい」

 そう言って勝手に流しまでズカズカ入っていって棚からコーヒー豆を出すカッコツケル君。携帯を手にしながら台風娘はヒスってるけど、部屋の中不作法に障りまくって、そつなく湯を沸かし始めた。

「あ、お父ちゃん、今どこおんの?・・・・ギャリーに乗るな?ちゅうかなんやその後ろで聞こえる奇声は?オカマに襲われてる?なんやそれ、ええか、依頼人来とんねんから、早よ帰ってきぃ!・・・・すんまへんな、うちの人ゲイバーで遊んでるみたいで、」

 眠くなりそうな目をこすりながら、私は携帯をかける二人を黙って眺めて、何か言ってくるのを黙って肯いていた。
 突然ブザーが響いた、思わず眠気がふっとんだ。

「おい、こっちのアキコ、今ギャリーつうたな。ちゅう事は隣の部屋ぁ」

 親指と中指を2回弾いて、カッコツケル君が入ってきたドアと違うこの事務所のもう一つの扉を唐突に開けた。中からムワっと油の臭みが私のいるソファまで拡がって来た。

「何してんこのガキゃ、ウチのプライベート侵害やで!」

 慌てて携帯切ってカッコツケル君に掴み掛かるアキコさん、

「在んじゃねえか。おいフィリップ、間違いねえ、おやっさんのピンチだ、イテっ」

「なにヌカしとんねん!」

 カッコツケル君がかっこつけてる中、緑のスリッパで何度も張り倒すアキコさん。
 私は依然鳴り響くブザーに耳を塞いで隣の部屋をソファから眺めていると、金網の床がキンキンな音を立ててせり上がっていくのが見えた。

「この世界のライダーは、間違いねえ、おやっさんだ。おい、光夏海、」

 困惑する私に上から目線な態度のカッコツケル君、こういう置いてけぼりなところ、どっかの誰かみたい。

「はい?」

「門谷士もいつもこんな唐突なメに遭ってんのか?」

「士クンは、貴方よりずっとずっとスマートに知らない世界を渡り歩いてました。」

「そうか、ライダーってなぁ、どいつもこいつも。行ってくらぁ、ちょっと待ってな、ここのライダースカウトして、ついでにオレの風都の亜樹子に会わせてやる。」

 そう言ってカッコツケル君、隣の部屋へ勢いつけて飛び込んでいく、しがみついてあがいたアキコさんもスリッパを振り回して飛び込んだ。
 私は、士クンを褒められた事が、なぜだか少し嬉しかった。
 そんな私を置き去りに、何かものすごく大きな機械がものすごくグルグル回ってものすごく轟音を立てた。

「キャッ」

 私が立ち上がって隣の部屋を覗いた時、髪が水平になるほどの突風が吹いた、
 もう既にそれが発進して、私にはちらしずしで使う盥の親玉みたいなのが車輪履いて去っていく姿にしか見えなかった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第二部 その1





 ハッハッハッハッハ

 街でもっとも巨大な建造物は『風都タワー』であるが、個人所有でもっとも広大なのは『園咲』の屋敷だ。正門から2キロ歩いてたどり着く洋館の、その5メートルの高さの扉を開けるとすぐに昇り階段が前方に伸びるホール、その階段の途中に起立する一匹の化け物、肩幅を超えるクラウンを頭に頂く闇夜のような漆黒の『テラードーパント』がホール全体を通る高笑いを上げた。

 ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ

 テラーの眼下に5人の男女、内4人は統一された黒のパット内蔵ジャケットを着込んで、それぞれ屈強な肉体を包んでいる。だがそのことごとくがテラーの足元から伸びるヘドロのような影に差された途端阿鼻叫喚の断末魔をあげ、汗を吹き、眼を血走らせ、体液をばらまき、震えが止まらず、得体の知れない言葉を羅列しながら、最後は白目を剥いて卒倒した。死因は厳密には心不全である。

「来人の為に揃えた4人なら、もう少し耐え切れると思ったのだけど、」

 やや後ろに位置し影から辛うじて逃れているもう1人は、全身を包帯と黒いコートで隠しているものの、女の体型である事は明白だ。サングラスと長いカツラ、つばが魔女のように広いハット、手袋、ブーツ全てが黒で染められ、肌が全く外気に触れていない。

「どうしたフミネ、頼りの尖兵は全て死に絶えたぞ。それでよく私の前に再び立てたものだ。」

 ホールの端から端に通るテラーの男声は、まるで透明人間であろうとするかのような女を下の名前で呼んだ。

「ごろつき、樵夫、傭兵、女囚、死の恐怖に耐性があると思っていたけど、死に近い程死を怖れるのね。いいわ。」

 覆面の女が取り出すのはあのWのトリガーマグナムのリペイント。Wのそれと同じくメモリを一本差し込んで傾いた銃身前部を跳ね上げる。

『タブー マキシマムドライブ』

 続けて4連、敵テラーに対してではない、その銃口を向けたのは、未だ恐怖の闇が全ての毛穴からドクドクと染みこんでいく4つの死体。
 マキシマムの光が灯った死体は、不思議な事に眉間が動き、目蓋の裏の眼球が左右にぶれ、開き、4人の男女の眼に光が戻る。

 チゥッウッセッィ、グッジョブ、開発反対、地獄にしては殺風景なところね、

 立ち上がる4体の男女は、もはや足を闇に漬けても動じず、眼光はむしろ迸る程に凛としている。

「タブーでネクロオーバーにしたか。そのメモリを手にする為にフミネ、おまえは、家族を犠牲にしたというのか!」

「アナタは家族が欲しかったんじゃない、重荷にしか思っていなかった!」

 共に嗄れているが、ホールの隅まで通る男と女の対峙。その間に割って入るようにワラワラと数十人の黒スーツで整えた者達が現れ出でる。それぞれメモリを首筋に刺す。

『マスカレイド』

 スーツはそのまま肉体だけが液状の膜に覆われ、黒い覆面に後頭部から頭上を回って唇まで大型動物の根本である脊椎が張り付いている。『ドーパント』の中でも人体が持つ潜在能力を引き出す力が弱い代わりに毒素が人体の復元力を越える事の無いそれがマスカレイド。黒い仮面の男達に囲まれ、包帯の女ら5人を囲む。

 クネクネっ!

 フミネを除く戦闘集団4人は銃、ロッド、ムチ、女に至っては格闘でマスカレイドに対抗し、ホール全体がドーパント対ネクロオーバーの乱闘の場と化す。
 だが二人、階上にいるテラーと正面扉近くに立つ包帯の女は呆然と立つのみ。
 包帯女の背後の扉が突如開く、そこにもさらに数十のマスカレイドが、振り返りその長い黒髪が乱れる包帯の女、
 マスカレイドの挟み撃ち、しかし、そのさらに背後、庭園から強烈な光が放たれた。

『ゾーン マキシマムドライブ』

 一斉である。
 一斉にマスカレイド全ての上半身が差別無く寸断されて消失し、下半身もまた消え去る。消えた肉体は、その者の背後、園咲の美しい庭園を血塗れにして断裂した死骸が散乱した。
 ゾーンメモリは空間を制する。空間内にある物体の座標を自在に変化させる。物体の一部、上半身と下半身を別の場所へ配置する事も可能だ。

「来たわね、来人」

 包帯の女がそう呼んだ者は腰に巻くドライバーも同じ『仮面ライダーW』。右半身がややエメラルドがかった緑と同じだが、左半身がメタリックな光彩を放つ紅だった。

「おふくろ、やつのメモリ、テラーを奪えば、本当にオレの肉体を取り戻す事ができるのか。」

 その声には、少年の幼さが一切感じられず野心が満ちあふれていた。もう一人のWとも言える仮面の男は、テラーを指差した。

「おまえか来人。その肉体は借り物か。誰の肉体を乗っ取った?おまえが、この私に敵うと思っているのか!」

 テラーが眼前のライダーを叱り飛ばした。
 もう一人のWの周りに、黒いジャケットで統一された4人の男女が居並ぶ。

「たとえ貴様でも遠慮はしない」差した指を親指と曲げ換え真下を力強く差す。「さあ、地獄を楽しみな。」

「生意気な!お仕置きを受けたまえ!」

 再びテラーの足元から影が居並ぶ5人を差す。だが平然と弾倉を交換する男、平然と髪をかき上げる女、首を回して鳴らす男、首を奇っ怪にクネらせる性別不問、そしてもう一人のWも全く意に介さず、メモリを1本取り出し、腰の『マキシマムスロット』へ差す。

『キー マキシマムドライブ』

 腕を一閃し、瑪瑙色の斬撃を放つもう一人のW、テラーへ直撃、

「ん!?」

 テラー全身が輝き、液状化して全ての形状が崩れ、液体が腰のベルト1点に集約して、1本のメモリ、テラーのメモリが排出され、ただ窶れた初老の男が現れる。老人は唖然と口を開けてただもう一人のWを見ていた。

「園咲リュウベエ。年貢の納め時だ。」

 バックルの左から紅いメモリを取り出し、腰裏から取り出した大剣『エンジンブレード』にさながら中折れ後装式散弾銃のように差す。

『アクセル マキシマムドライブ』

 だがそれで終わらない、さらに右側から翠のメモリを腰の『マキシマムスロット』へ差す。

『サイクロン マキシマムドライブマキシマムドライブマキシマムドライブマキシマムドライブ・・・・』

 延々とリピートされる発動音、全身を紅い濃密な渦を纏って呻きを上げるもう一人のWが刀剣をホール床に突き刺し自身は跳躍、

「待ちなさい来人!」

 跳躍頂点に達したその者は肉体で十字架を描く、上昇気流が渦巻いてモーメントを加速、その体勢のまま、一介の老人に錐揉みで足を向けさらに加速降下していく、

 ぉぉぉぉぉぉ、

 衝突する肉体、同時に老人の肉体が渦を巻いて肉片からさらに塵になり風のまま四散、老人の立ち尽くす階段もその先の壁ももろとも吹き飛んで、園咲の家の裏庭と星空とイルミネーションを輝かせる巨大な風車が見えた。
着地したもう一人のWが再び親指を力強く下へ差し示すと、紅の渦が爆発的にかき消える。

「この風都の支配者は、今日よりオレが成り代わる!」

 大笑をあげるもう一人のW、ホールに狂気が震撼した。

「来人、なぜそんな事を!」

 包帯の女がまるでヒステリーのようにもう一人のWに近づいていく。

「どうしたおふくろ、」二つのマキシマムよりメモリを引き抜く。「未練が残っていたという事か?」

 除装された仮面より顕れる男の目つきはまるで狼のようだった。やや巻き毛、深紅のジャケットをした、細身の、まだ幼さの残る青年だった。

「そうじゃない」

 !

 声も無く突如苦しみ倒れる紅の青年、倒れなお震えが止まらず、転がった紅いメモリを握りしめ、目を充血させる。それを尻目に翠のメモリの方を拾って凝視する包帯の女。

「違うわ。ツインマキシマムは威力が絶大だけど、このリュウが保たない。最後のメモリーが揃うまで、迂闊に気取るのはおやめなさい。いいわね。来人。」

 包帯の女は、ただじっと翠の『サイクロンメモリ』に語りかけていた。

「そのガイアメモリが、フミネ、おまえの息子のなれの果てか。」

 月光を背に立つ皺一つない白の上下、白のソフトフェルト、

「荘吉、来たわね」

 日本名を持つにはあまりにギャップあるその身長と脚の長さ、『ナルミ荘吉』という男の名を、この街の住人は知っている。

「あら、いい男」

 屈強なあごひげの男が裏声で思わず叫んだ。
 荘吉は完全にフミネ以外の者を無視してソフトフェルトに隠れた眼光を向ける。

「タブーの女の死に顔は、美しかった。」

 白のソフトフェルトを脱ぐ荘吉、その目つきは野獣を繋いでいる。

「プロフェッサー、今やるのか?やらないのか?」

 SMGを抱えた切れ長の目の男は、タバコ焼けした喉を振るわせた。

「おまえたち、メモリーをお使い、」

 ジャケットの4人が一斉に右手に持つそれは、それぞれ特徴的な色をしたWと全く同じ規格のガイアメモリ。

「恐怖の帝王にも使わなかったのに、こんなヤサ男に使えってか。」

 すきっ歯がどこか憎めないターバンのロッド持ちのガタイに比べれば、人類の大半はヤサ男にされるだろう。むしろ隣のヒゲがそれとどっこいの体格である方がレアだ。

「フミネ、おまえとおまえの息子は、園咲リュウベエを倒した後何をするつもりだ?」

 荘吉は帽子を持った手をゆっくり伸ばし包帯の女を差した。

「アタシらガン無視?なんかムカつく。」

 ジャッケト集団の中にあって紅一点のパンツルックが、そのストレートの黒髪を片手でかき上げる。

「荘吉、私はこの」包帯の女はサイクロンを振りかざす。「息子の肉体を取り戻す。タブー、テラー、そして残りのクレイドールを手に入れて。いずれこの風都の、真の帝王となる、貴方が見殺しにしたこの来人の肉体をね。おまえたち何をしている!」

 メモリを持った4人が、

『ルナ』

『トリガー』

『メタル』

『ヒート』

 それぞれ額、掌、後頭部、胸元に出現した生体コネクタに差す、それぞれの肉体に吸い込まれるメモリ、4つの肉体が4色に光輝き、人体とは異質な形状へ変化させていく。一体は金色に輝くクラゲのよう、一体は片腕が銃器、一体は光沢と鈍さが交差する金属の塊のよう、一体は朧気に揺れる炎、この街の住人はそのバケモノを『ドーパント』と呼んでいる。
 だが、荘吉は1体だけでも恐怖すべき理解不能の敵を4体眼前に見据えなお動じていない。

「帝王だと・・・・・、外を見てみろ、おまえの息子が何をしたのか、あの時と変わり無い、街を泣かせるだけの存在だ。」

 荘吉の腰にはいつのまにかWのドライバーに似て非なるモノが巻かれている、スロットが一つしかないそれこそが『ロストドライバー』。左手には帽子、そして右手には指先2本で摘んだメモリ、

『スカル』

 私、聞いてない、とどこかで聞いたような台詞をまくし立てる『ルナドーパント』、

「変身」

 荘吉、スイッチを押したメモリをドライバーに軽く装填、撫でるようにスロットを倒し、右腕を軽く振り流す、
 銃を構える『トリガードーパント』、
 バックルより拡散する黒い欠片、それが荘吉に纏わり着き、漆黒のスーツと化す、
 ロッドを半回転肩から脇に抱える『メタルドーパント』、

「タブーの女の依頼だ。おまえ達母子を止める。」

 最後に荘吉の頭を包む骸の仮面の額に稲妻の刻印が記される、その刻印を敢えて白い帽子で隠す。
 吐息を漏らし小指を立てた先に炎が灯る『ヒートドーパント』、
 骸の戦士は、徐に人差し指で包帯の女を差す、

「さあ、」

 そして掌を上向けに返す、

「おまえの罪を数えろ。」

 ナルミ荘吉のもう一つの姿、風都で知らぬ者のいない『仮面ライダースカル』が、4体のドーパントと対峙した。



 

2013年1月3日木曜日

6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その9





 記憶が無いと言われました、
 私の周りからみんないなくなりました、
 絆が全て無くなりました、
 そうか、士クンは絆をずっと求めて旅をしていたんですね、
 笑ってしまう、士クンをずっと見てきて、士クンとずっといっしょにいて、でも私はずっと士クンを上から哀れんでて、同じだったのに、
 そんな傲慢な女、捨てられて当然だよね、 名前も偽名と言われました、
 仲間も全て偽物でした、
 せめてユウスケだけでも取り返そうと、ディエンドから銃を奪った私は、必死でカードを繰ってユウスケを探しました、少しだけ希望を持って、
 でも無かった、何度も何度も繰って、2枚かもしれないから傷つける程擦って、でも1枚で、結局無かった。
 私、なんで神様にこんなにイジメられなきゃいけないの?なんでこんな目に逢わなきゃいけないの?
 そんなに私のひとりぼっちが、この世の中のみんな嬉しいの?

「そこのかわい子ちゃん、ドライバーを渡しな。」

『光栄次郎は、用心深いね。なんの痕跡も残していない。カメラにもタペストリーにも次元移動の秘密はない。門谷士の能力であるにしても、その引き金となる行為を光栄次郎は担っていたはず。どうやっていたんだ?』

 今私達は見慣れた写真館のリビングにいた。
 この2人、今1人の・・・・ええい、なんで私がそんな事気に掛けて煩わされなきゃいけないのかしら、もうなにもかも理不尽だわ!

「ああ・・・・、気分替えようか。」

 あの緑と黒の、ディケイドより絶対へんてこなライダーの変身を解いて、あの帽子カッコツケル君が現れた。途端彼のダサデカい携帯が鳴った。

「フィッリプ、まあ落ち着けや、分かってるさ。別の世界にいるのは、オレなんだ。」

 私がディエンドの銃を渡そうというタイミングでカッコツケル君はクルリと後ろを向いてキッチンに入っていった。なんてタイミングの悪い、この私の差し出した手をどうしてくれるんだコイツ。絶対コイツ女にモテねえ。
 しょうがないからリビングの丸テーブルに銃を置いた私は、コーヒーやらカップやら場所が分からずパニックってるカッコツケルくんを鎮めにいく事にした、しようとした、でも出来なかった。

「音撃殴っ一撃怒涛!!」

 突然写真館全体が立てないくらい揺れ出した。私も揺れた、背骨にくる震動に、私はついにこの世界で一生を終わると、あっさり思った。

「うぉぁぁ、目がぁ!入ったぁぁ!」

 キッチンでコーヒー豆かぶって転げ回るカッコツケル君、

「音撃殴!音撃殴!!」

 士クンならこんな無様な事はしない。揺れた瞬間すぐに私の元へ駆け寄って、抱きしめて、私を守ってくれる、はず。

「その銃だ、銃を寄越せ!」

 カッコツケル君が私に何か叫んでいる。私はテーブルに振り返って銃を取ろうと手を伸ばす、

「音撃殴っっ!!」

 でも銃は向こう側へ転げ落ちた、私は立っていれなかったし屈んでテーブルの下へ手を回した。

「イタ」

 テーブルがその時倒れて私は思いきり頭を打つ、
 花瓶が割れる音がした、
 壁にも皴が入っていく、

「音撃殴っっ、音撃殴っっっ、音撃殴ぁぁぁ!」

 相変わらず骨が響く震動に、私は割れそうになる、頭に変な音も響いてくる、
 銃はフローリングを跳ねてどんどん私の手から遠のいていく、

「光夏海、もう銃はいい、オレが出て、」

 カッコツケルが何を叫んでいるか私に聞き取れなかった、
 私は壁に突き当たった銃まで這って、手に取ろうとした、でもその間カメラが倒れ込んできた、レンズの破片が私の顔に飛んできた、思わず目を塞いだ、銃は重いカメラの下敷きになった。

「士くん!」

 訳も分からず叫んだ私の背後に、留め金の外れた緞帳が降りる鈍い音がした、
 振り返って私は見た、
 タペストリーに描かれていたのは、中折れ帽を被った背の高い男性の背中と、その人が眺めるオランダ風車のような塔が立つ夜のビル街の風景、

「風の街・・・・・?」

 そのタペストリーが突然光り出した、
 それは私が何度も体験した、別の世界へ飛んだ合図だった。




6 スカルの世界 -Lのいない世界- 第一部 その8





 ディエンドに並ぶライダーは、失神した夏海を抱えたカリス、そして新たに召喚した『凍鬼』だった。凍鬼は金棒を肩で担いでいる。夏海を下ろしたカリス、自らの得物『カリスアロー』にカードをスラッシュする。

『ライフ』

 見る間に夏海の柔らかな頬から擦り傷が消え、汗が引き、乱れた息が整って、苦痛に歪んだ眉間の皺が弛んでいく。一度寝返りを打った夏海はその反動で意識が覚醒し、柔らかな両目蓋が開いて日差しに目が慣れるまで瞬きを繰り返す。

「あらかじめ言っておくが、ボクも今からやる事はらしくないと思っている。」

「ここは、どこ?」

 粘り付いた上唇と下唇を引き離すとプルンと揺れる。夏海はそこがようやくその世界の写真館だと理解した。

「早く出てこないと、夏メロンの命は無い。そして、キミも永久に写真館から出られなくなるよ。」

「音撃殴、一撃怒涛!」

 凍鬼が無空に出現した幻影の銅鑼を叩くと、音の暴圧が発生、大気を拡がって写真館の崩れかけた扉を震えさせる。窓ガラスが割れ、枠が崩れ、辛うじて立っていた1枚の壁が横揺れして、反動で扉がごく僅かに開く。

「さあ、早くダブルドライバーをこっちに投げな。」

 だが投げられる気配はない。その代わり声がした。

「いいか。泥棒はな、探偵に弱いって相場が決まってるんだぜ。」

『ルナ トリガぁ!』

 ドアの僅かな隙間、一旦上方へ撃ち上げられた数本の閃光が屈曲してカリスと凍鬼に幾角度から突入、カリスはアローを振り回し全弾弾き返すが、威力に圧し負け後退り。凍鬼は目元に直撃を食らって倒れ様、放り上げる形になった自らの金棒を首に打ち付けノックダウン。

『トリガーぁ!マキシマムドライブっ!』

「『トリガー、フルバーストっっ』」

 10数本の光がさらに扉の後ろから発射、歪曲して怯むカリス一点に集約、直撃したカリスは大爆発を起こす。

「調子に乗らない方がいい、どうやったって、このボクにはどのライダーも適わない。」

 爆風を背に受け微動だにしないディエンドは、堪える夏海の頭にディエンドライバーを密着させた。

『ディエンドの検索は既に完了している。彼はカードの限りライダーを召喚できる。やろうと思えば、ボク等の体力が尽きるまで。』

 その段階で扉の影、写真館から姿を晒す仮面ライダーW、右半分はまばゆい金で彩られ、左半分は鮮やかなブルーで彩られている、ルナトリガーの右目がしきりに明滅しながら聞いてもいない解説を始める。

「その通り、仮面ライダーWの右の方はさすがにボクをよく分かっている。」

 既にディエンドは3枚のカードをドライバーに装填。銃口を高く掲げた。

『KAMEN RIDE IXA IXA IXA』

 ディエンド、それぞれ3体の同じ『イクサ』を召喚、内1体はフェイスをオープンして高熱を発し、さらにもう一体は、ライジング、の電子音と共に装甲を除装し蒼きイクサとなる。

『検索は既に完了している。ディエンドはどうやってもそのカード召喚に隙が生じる。今だ、翔太郎、』

「おうよ相棒!」

『ルナ ジョーカーぁ!』

 バックルのメモリを素早く切り替え左半身を黒く染めたW、その金の足を振り上げると関節が抜けてゴムになったかのように足先が伸び、遠く離れたディエンドの手からドライバーを蹴り弾き、足が返って今度は金の腕が夏海まで伸び回り込んで、宙に浮かぶディエンドライバーごと夏海を抱えてWの元まで引っ張り込んだ。

「その命」

「神に」

「帰しなさい」

 内2人は女性の声だ。

「お嬢ちゃんは返してもらったぜ。駆け引きは大体探偵の方が勝つんだぜ。」

 既に夏海を脇に抱えて左の人差し指と親指を二度ほど擦った。

「一人で、立てます、」

「大丈夫か?」

 夏海が藻掻いたのに、やや驚くW。最後の見た時の状況からは考えられない回復ぶりだった。思わず手を離し、足の下から頭のてっぺんまでマジマジと眺めるW。

「二人をこの世界から逃す訳にいかない。写真館に絶対入れるな!」

 手ブラのディエンドから指図された3体のイクサがWに近接、もっとも身の軽いライジングが短銃『イクサライザー』をバーストで放ちながら先頭を走る。

『イクサの検索は完了した。彼らはヒートと相性がいい。』

 夏海を壁の方へ突き飛ばしつつ、3メートルほど伸ばした金の手をムチのように撓らせ、ライザーの光弾を防ぐW。
 ライジングイクサは銃を反対の手に持ち替え、空いた拳に体重をかけた。銃撃が止んだ。

『ヒート ジョーカーっ!』

 交差する拳と拳、右半身を赤に染めたWの右拳は赤よりも紅い炎を纏った、

「おらぁ」

 推し勝つWの拳、ライジングイクサの顔面に炎がいつまでも纏わりつき、その蒼きボディから灼熱に染まる。

「顔は止めなさい、顔は止めなさい!」

 立て続けに連打されるWの右拳にもんどり打って後頭部から倒れ、なお身に炎が纏わり続け悶えるイクサライジング。

「うちの人に何を!」

 W直角方向より、閃光のような白き斬撃が振り下ろされる、

「つぇぇ」

 それはバーストモードイクサの『イクサカリバー』の刃。ヒステリー気味な女声を伴って左上から袈裟斬り、

「今は青空の会もロクに顔出さなくなって、私がお店出て食わせてるけど、あれでもちゃんとした亭主なんですからね!」

 さらに返す刀で右斜めから打ち込んでくるイクサに、打たれるままのWは退くしかない。

「お店では、レイナよ!よろしくね!」

「聞いてねえ!」

 ジョーカーの左腕で刀身を辛うじて掴み、大きく弾く、逆の腕にはメモリが握られている、

『ヒート メタルぅ!』

 左半身を金属色に塗り替えるWに、なお振りかぶるイクサ、半身を捻って背を見せるW、『メタルシャフト』が折りたたまれて背負われている、シャフトがカリバーを受け止めた、シャフトを手に取る形でカリバーを弾くW、即座にシャフトが3倍に伸び、半回転させてイクサの腹を打ち、反転させシャフトの逆端、炎の灯った先端で顔面を直撃、

『イクサは機械だ。エネルギーの調整はかなりのデリケートだ。だから過剰に熱を与えるだけで動かなくなる。』

 もんどり打って倒れるバーストモードイクサ。

「どんどん行くぜ」

 追い打ちをかけようと奮い立つWは、メタルシャフトを右へ一回転、左へ一回転し、脇に挟む。

『イ・ク・サ・ナ・ッ・ク・ル・ラ・イ・ズ・ア・ッ・プ』

 そのW背後からセーフモードイクサが拳を繰り出してくる。

「おっと」

 反応しているW、先端に火のついたシャフトを振りかぶって威嚇する。

「私の魂が、おまえを討つ!」

 直接肩へ受け止めるイクサ、あまりの破壊力に片膝が折れる、だがシャフトを掴んだ、そう敢えて受け止めた、反対の拳には『イクサナックル』、ゼロ距離からの電磁砲がW右脇に入る、

「ぐぉ」

 Wの足が宙を浮いて重心を失い、気づかない内に天地が逆転、それでもシャフトを地に差し両足揃えて着地するWだった。

『今はまだ連携が取れてない、早い段階で討たないと厄介だぞ翔太郎。』

「強え、いい女。勝負だっ」

 W、バックルからメモリを一本だけ抜き、シャフト側に差し、シャフトを水平に構える、

『メタルぅ マキシマムドライブ』

「『メタルブランディングっっ』」

 シャフト両端から噴流が吹き、頭上へ掲げ回転させると炎の輪となって前方へ拡散、立ち上がりそれぞれのフエッスルを手にしていた3体のイクサは半歩遅い、炎に巻かれ一斉に消失した。

「強かったぜ、いい女、顔は分かんなかったけどな。」

 硝煙上がる大地には3人煙に巻かれた人影が見える。が、顔を見る前にカーテンに隠れてしまった。残ったのはWの足元に転がった、イクサの1人が落としたろうイクサナックルのみ。

「渡したまえ、それは今はボクのモノだ」

「イヤです」

 一方、その傍近く、遠く壁のドアに後ろ歩きでジリジリと下がる夏海、その両腕にディエンドライバーが抱えられていた。

「そうか」

 夏海の眼前には手を伸ばして迫るディエンドが。

『ジョーカーぁ マキシマムドライブ』

 そのディエンドに横殴りの突風が吹く、思わず振り返って見上げるディエンド、

「『ジョーカーエクストリーム!』」

 両足を揃えて蹴りの態勢、Wの左側が縦半分に割れ、前方にやや突出、右側とズレる奇っ怪なスタイルで降下してくる、
 ディエンド直撃、から透過、素通りしたWは地面を抉って夏海の黒髪を大きく乱しただけだった。

「ディエンドに残った力でもこのくらいはできる。また会おう、夏メロン。」

 ディエンドの立つ地は、夏海達の至近にありながら全く違う別の世界、次元のカーテンは既にディエンドを覆って、Wからは揺らいだ幻想のように見えた。

「メロンじゃないですみかんです、みかんでもないです!」

 既にディエンドのスーツが蒸発するように着脱し、嫌味な程屈託のない笑顔を夏海に向け、海東大樹は空間に溶けていった。残ったのは、ディエンドの腰に巻かれていたカードケース。地に落ち、僅かに埃を立てた。

『探偵と泥棒の化かし合い、どちらが果たして化かされたのか。さあ、光夏海くん、ぼやぼやしていないで写真館へ行こう。』

 Wの右目の明滅が夏海を照らした。

「待てフィリップ、あのキバーラって変なのは、写真館を調べても無駄と言ってたぜ。」

『ディエンドライバーをこちらが手に入れたのは、まことに幸運だったよ翔太郎。』

「そうか、さっきの芸当、だよな。だとさ、お嬢さん。」

 Wの左眼が夏海に向かって明滅し、黒い人差し指と親指が忙しなく動いた。

「アナタ、キモチ悪いです」

 そんなWを端で眺めて首の2眼を弄ぶ夏海は、顔をしかめるしかなかった。