2011年7月10日日曜日

5 カブトの世界 -クロックアップ- その38







「士クン、今度は」赤く腫れた目を拭って、震える唇を強く噛んで我慢した。「今度は私タチで旅の行く先を決めて、ユウスケを取り返して、」


 取り返した後、2人で小さな家を建ててそこでずっと暮らそう、

 私のそんな想いは、たぶん旅に疲れていたからだと思う。


「・・・・・・・」


 士クン、ディケイドはずっと私の顔を見ていた。早く素顔を見せて欲しかった。

 ディケイド、

 私はあの夢の中ではじめて見たディケイドの顔と、そう言った私を思い出していた。


「友情とは、友の心が青くさいと書く。」


 もう1人の仮面ライダー、ソウジさんが片足を引きずってディケイドの肩に手を置いた。結局一生このままで生きていく事になるんだ。ソウジさんはそれでも強がって精一杯の手向けをくれたんだと思う。

 ディケイドがゆっくりと振り返った。


「そう言えば、おまえにはあの時借りがあったな。」


 信じられない事が起こった。

 士クン、いやディケイドがもう1人のライダーに向かって大きく足をすり上げ蹴り込んだ。ソウジさんは大きく仰け反って倒れ込んで、その衝撃で異物になった右足がボロボロに砕け散った。


「ディケイド・・・・」


 あの夢も風が耳元でうっとおしくて、煙の匂いが煩わしかった。


「じいや、戻るぞ。アジトへ。」


 私の方へ向かってディケイドが叫んだと思った、でも声をかけたのは私の掴んだ手で袖が湿っていたお爺ちゃん、光栄次郎の方だった。


「ごめんよ、夏海、本当の孫でもかまわないと思ってたんだ。」


 光栄次郎が袖を強く振りほどいて、ディケイドの元へ歩み寄っていく。


「ハッ!大首領!」


 お爺ちゃんの別人の声が私の耳を犯した。

 孫じゃなかった、じゃあいままで私はなんでお爺ちゃんと思っていたんだろう、お爺ちゃんがお爺ちゃんじゃなかったら、私の本当の家族はどこなんだろう、思い出せない。


「士クンっいや!」


 私は誰に縋るともになく士クンの名前を叫んで手を伸ばしていた。

 ディケイドと光栄次郎の目の前にオーロラのカーテンが現れて呑み込んでいく。


「夏海、全て忘れろ、もう会う事は無い。」


 手が届こうとしたその時、カーテンがディケイドを消した。私はずっと、ずっとずっと手を伸ばし続けていた。

 風が耳元でイヤな音を立てて、膝を着いた地面はごつごつ痛くて、まだどこかで臭い煙が漂ってて、見渡す限り緑も人の家も無い荒野だった。

 私はいままで何をしていたんだろう、私の家族や私の友達、士クンに会う前何をしていたんだろう、思い出せない、思い出せない。


「ディケイドっっ!」


 私どうして、いままで自分の記憶が無い事を不思議に思わなかったんだろう。


(完)

5 カブトの世界 -クロックアップ- その37







 晴れる砂塵の中心は大きく抉れたクレーター中央。

 右腕を軽く上げるだけで構えるその者は、マゼンダのボディが硬質なシルバーを基調としたカラーへ上塗りされ、複眼は逆にマゼンダに発光。もっとも目を引くのが斜めに走ったゼブララインに代わり配された9枚のカード、左肩から胸を横断して右肩に達するマゼンダレールに乗って9枚の、それまで巡った世界のライダーの顔の描かれたライドカードが並ぶ。だがカードはもう1枚ある。それは額、今のディケイドの姿のカードが装着されている。そのカードに描かれたディケイドの額にもカードが着けられ、そのカードのディケイドにもカードが、無限のディケイドがそのカードには描かれている。バックルのドライバーはベルトを伝って右腰にカード差し込み口を空けた状態で移動、ディエンドから貰った元の位置にケータッチが差し代わっている。これこそ『ディケイドコンプリートフォーム』。歩く完全ライダー図鑑だ。


「ツ・・・・カ・・・・サぁ!」


 蹴撃したクウガ、その攻撃力はディケイドを伝って地面を抉り、大気を揺るがしたが、ディケイドコンプリートの右腕一本で弾かれ、顔面から突っ込んで土を咬む。

 起き上がったアルティメットクウガの硬質な口元がその時初めて開いた。


「オレは、おそらく今のおまえには勝てない、ユウスケ。」


 吠えたクウガの背後に既に立つディケイド。

 賺さず振り返り右前腕を再生させ直刃状に延ばし振り抜く。

 手応えの無い残像が立ち消え、ディケイドの姿が完全にクウガの視界から消える。


「だが今おまえの前に立っている者には、ユウスケ、おまえは勝てない。なぜなら、」


 遙か遠くから士とユウスケの名を叫ぶ女の金切り声がする。

 クウガの聴覚がそれとは別に、風が揺らぐ低音を捉え振り返る、しかし既にディケイドの姿はない、反対方向から再び低い唸りを捉える、やはり振り返っても姿を捉える事ができない。


「なぜなら、これはオレ達の旅そのものだからだ。オレ達の積み重ねに、オレ達が勝てるわけがないんだ。」


 クウガ、もはや目で捉える事を諦め、俯いたまま動かなくなる。そうして徐に左拳を握りしめながら上げ伸ばし、ある一点を指し示す。

 発射、

 左前腕が胴から切り離れ、噴流を上げながら射出される。

 突き当たる腕の前面に現れるディケイドの姿、踏ん張るディケイドの足が地面を引きずる。

 動きを止めたクウガがゴウラムに変身しながら今度はその身ごと突っ込んでいく、

 その容積の数百倍ある噴流を上げる腕を片腕の握力だけで潰して勢いを止めるディケイド、

 既にゴウラムが鋏角を拡げ眼前に迫る、

 捕えられるディケイド、捕らえられながら直上を一直線、

 ゴウラムの大気を切り裂く音がディケイドの耳に劈く、だがある瞬間その音の一切が消える、ディケイドはもはや雲が下にしか見えない事に気づき、地球のゆるやかな弧と大気に色がある事をはっきりと見て取った。

 鋏角がゆるんでディケイドが落下していく、

 跳躍頂点でゴウラムはクウガへ、

 落下していくディケイドに蹴撃で加速、

 互いの姿が摩擦で灼熱、

 激突する大地、

 クウガが離れても受けたディケイドの勢いは止まらず地面を一直線に抉る、

 50メートルを越える土の山が半月状に盛り上がる。

 震動が崩壊した電波塔の残った家屋を総崩れさせる。


「ツカサっっっっっっっ!」


 瞬く間に腕が体内から物質変換されるアルティメットクウガ、今度は両腕を射出、

 爆炎あげて土盛りへ突撃する2つの前腕、 着弾と同時に消し飛ぶ土盛り、中より現れたディケイドの胸に2つとも食い込んでいくクウガ前腕、


「ユウスケ、いくぞ。」


 さらに噴流をあげる前腕にしかしディケイド、まるで意に介さず歩を進め、クウガへの間合いを詰めていく。

 クウガは徐々に腕を再生させ身構えている、

 歩み寄りながらディケイド、クウガ前腕を握り潰して噴流を止め祓う、

 ディケイドの胸に二つのクウガの紋章、ディケイドはそれを気合い一つで消し去った、

 3メートル、2メートル、1メートルまで間合いを切ってディケイドが足場を固めた。


「ツカサぁ!!」


 クウガの拳が鎌のように振り上がる、


「ユウスケっっ!」


 既に上体が沈んだディケイドの拳がアマダムへ。

 そのたった一発だけだった。


 ツ……カ……サ…………ッ!


 クウガのアマダムがバックル内部で縦に割れる、地に崩れるクウガ、悶え苦しみ、体を土に塗れさせる。


「終わりだ、ユウスケ。」


 悟ったディケイドはケータッチからカードを抜く。ボディがあのマゼンダピンクに修復された形で戻る。その顔も仮面に覆われた。


 ツ……カ……サ…………


 震えた手をディケイドに伸ばすクウガ。


「立てるか?」


 それは攻撃かもしれないがしかし、構わずディケイドもまた手を差し出した。

 上体を持ち上げるクウガ、その背に突如としてカードが刺さる、


「返せ海東!」


 瞬時にしてそれが、ディエンドの投擲した『ケルベロス』のカードである事を見て取るディケイドは、しかし同時に銃撃を喰らった。

 宙に浮くケータッチ、ディケイドの手を離れ、なにか透明な存在が持ち運ぶように宙を流れて、ディエンドの手元に収まる。もう一方の手には『ケルベロス』ともう1枚のカードが既に握られている。


「いやだなぁ士、コレをディエンドが管理する仕様にしたのは、そもそも君じゃないか。」


「私タチのユウスケを返して!」


 目を腫らした夏海が栄次郎の手を引く形で駆けてくる。


「おやおや、むしろ感謝して欲しいな君達。アルティメットクウガはあのままだとアマダムの暴走でどうなっていたかわからない。このエネルギー、ボクのお宝にさせてもらう。」


 ケータッチを自身のバックルに収めたディエンドは、ディケイドを威嚇しつつもカードをドライバーに装填、


『ATTACK RIDE INVISIBLE』


 銃撃が止んで一気に間合いを詰めるディケイドの拳がディエンドの残像を掠めた。


「海東・・・・」


 ディケイドは自分の握り拳を見つめるしかなかった。

 電波塔は既に跡形無く、大地はさらに巨大な瓦礫で散乱している。風は絶えず砂塵を巻き上げ皮膚に細かく掠り、空は黄色みがかった白。どこを見ても緑の見えない世界が、ディケイド達が今戦った跡だった。


「士クン・・・・・・」


 息を切らし、その柔らかい頬に土がついた夏海は、ディケイドに伸ばした手の先に、あの2眼のトイカメラを掴んでいる。

 ディケイドはしばらく夏海の顔を見つめていた。表情は分からない。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その36







「スゲー、クレーターになっちまってる、、、、」


 衝撃波に身構え、必死になってトレードマークの中折れ帽を抑え、ついでに片足の不自由なライダーを1人支えていた男がいた。


「悪い事は言わん、早く逃げた方がいい。」


 カブトは片足で衝撃に耐え切った。むしろ隣のカジュアルスーツの男を片腕で押さえ込んでいた程だ。


「悪い事は言わね、アンタが逃げた方がいいぜ。あの2人を止めねえといけないからな。」


 翔太郎は、既にカブトから自身のドライバーを掏り取ってヒラヒラと見せびらかした。


「お婆ちゃんが言っていた。身の程知らずの取り越し苦労程厄介なモノは無い。止めておけ、2人に任せればいい。」


「おめえみてえなキャラクターはな、風都じゃ吐いて捨てる程イんだからな、慣れてんだこっちは。」


 といいつつ翔太郎はカブトから手を放してベルトを巻き、今時嵩張りそうな青い携帯の方へ既に集中していた。


『興味深い。だが翔太郎、今回のケースは……』


 メモリをペン回ししていた手を止める翔太郎。


「おめえもかよ!・・・・亜樹子がどう・・・・、オレは依頼っ、・・・・分かったぜ相棒、おめえがそんなに押すなら、今は様子見だ、いいか、もしなんかアブねえようならオレは生身でも行くからないいな。」


 翔太郎はカブトへ振り返り、アワアワと口を空けて指差す。


「風都じゃ、相棒やおめえのようなやつはゴマンといるんだ、オレはもう慣れっこさ。」


5 カブトの世界 -クロックアップ- その35







「オレが旅に引きずり回した・・・・・・、オレが作ったというのか最強の敵を・・・」


 ディケイドの喉から顔面、並び両掌から物質変換が蝕んでいく。


「ツ、カ、サ…………」


 目元に精気が無い。ディケイドにはその猛々しい呼吸が耳障りだ。

 アマダムから朧気のように光が放たれ、アルティメットクウガの体中に入った裂け目のようなラインもまた光り出す、そして腕先のピックもまたマゼンダに輝いた。

 マゼンダ?

 それはアマダムとは全く違った光だった。

 爆破、


「ツカ」


 吹き飛ぶアルティメットクウガ、打ちのめされるディケイド、クウガの右前腕がマゼンダのエネルギーで暴発し、砕け散る。砕け散った欠片と共に数十あったライドカードもちぎれ飛ぶ。クウガはマゼンダのエネルギーが未だ蓄積されて身悶えし、ディケイドは顔面の直撃以上の衝撃で放心した。


「オレたちの、旅が・・・・・・」


 いままで積み重ねてきたなにもかもを、積み重ねてきた2人で破り捨ててしまった、旅をした業?次元を越えて世界を変えてきたそれがツケだというのか?

 だがその士の間隙もほんの一瞬に過ぎない。

 たった1枚満足な状態のカードを手に取るディケイド。“COMPLETE”のロゴが入り、今やディケイドを含む10のシンボルが輝く使途不明だったあのカード。


「海東、そこにいる事は分かっている。」


 私の記憶を返して!いったいどうして!どうして!

 取り出せ、こいつの頭から。

 おのれディケイド、またオレを殺す気かぁぁ!

 次の世界の奴を用意しろ。

 朦朧とするディケイドはしかししゃがみ込みながら叫んだ、


 オォォォォォォォ


 ディケイドの視線はクウガがマゼンダのエネルギーを振り払って高く舞い上がる軌跡を追っている。


「やあ、士。後でちゃんと報酬は貰うよ。」


 無空より出現する場違いな程屈託の無い声、シアンカラーに身を染めたディエンドがインビジブルを解いて、夏海に程近い、ディケイドの背後より卑屈に笑いながら、自身のバックルを外す。バックルはほぼ長方形、その表面積の大部分を占めるディスプレイはタッチパネル、ボディはそこから両サイドに伸びシアンと黒のストライプ。これこそこの世で唯一のアイテム『ケータッチ』。


「よこせ!」


 士の短く威圧的な口調に、苦笑で誤魔化して投擲するディエンド。

 既にクウガは跳躍頂点から、蹴撃の態勢、下角65度で降下している。

 片手で掴んだディケイド、COMPLETEカードをケータッチの中に差し込むと、画面にカードの模様が浮かぶ、ボディのシアンもマゼンダに変わる。浮かんだ9つのライダーのシンボルを順になぞるディケイド。


『KUUGA AGITO RYUKI FAIZ BLADE HIBIKI KABUTO DENO KIBA』


 地響きがする、大気も揺れる、はるか上空クウガの躍動がこの段階で既に伝わってくる、砂塵が舞い立ち渦となる、ディケイドを周囲から隠す、


『FINAL KAMEN RIDE DECADE』


 直撃、

 砂塵の渦の中に突撃するクウガ、

 混濁した大気が爆音と共に周辺の人々に吹き付ける、


「ツサカクン!」


 視界の取れないままその長い黒髪が靡き、衝撃波紋が地面を伝って陥没していくのに驚いて栄次郎に必死に縋り付く夏海だった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その34







 どうして私にこんなものを見せるの?

 2人が戦ったら、もうあの夢の通り、世界が破壊されてしまう、どうして、こんな事をするの、2人共どうして戦いをやめないの?バカじゃないの?

 私はいつのまにか耳を塞いで、目をを閉じた。


「大丈夫、まだ世界は破壊されないよ。」


 お爺ちゃんにしがみついた時、息が上がって自分が震えているのが分かった。喉の奥が今でもビー玉が入っているように詰まってる。お爺ちゃんは泣きすがる私の髪を両掌でいつまでも撫でてくれた。


「あれは、カードが守っている。士君を。」


5 カブトの世界 -クロックアップ- その33







 恐れるだけの歴史をゼロに巻き戻す

 英雄はただ独りでいい

 今、あの崖を飛び越えて

 クウガ 声無き声が

 クウガ 君を呼んでる

 クウガ 強さの証明

 No Fear No Pain

 壊す者と護る者

 No Fear No Pain

 答えは全てそこにある

 頂上疾走、オレが変えてやる

 超変身 仮面ライダークウガ






 黒い影がユラユラと力無く立つ。複眼にもアマダムにも精気が無い。

 アルティメットクウガ。

 その名を対峙するカブトはまだ知らない。


「お婆ちゃんが言っていた。人が歩むのは人の道、その道を拓くのは天の道。」


「待て、触れるな!」


 ディケイドの制止も聞かず、既にモーションに入り消えるカブト。

 刹那、ディケイドの後方から爆音が轟く。アルティメットが刺さったコンクリートの柱に激突した。


「感覚が、ない!?」


 振り替えると当然カブトがいる。


「いわんこっちゃない。らしくない。」


 カブトは倒れ片足を押さえ呻いている。踵から腿の半ばまでが光沢を帯びた金属質に変換してしまっている。

 手を差し出すディケイドの手を振り払い、もはや肉体ではない右足を支え棒のように不器用に立ち上がるカブト。


「知っているのか?」


 一生残る深傷を負ったカブトは息切れが収まらない。


「奴はオレが決着をつける。そこにいろ。」


 言って振り返った途端だった、

 パイロキネシス、

 顔面で悶絶するディケイドが膝を屈した。

 そのディケイドの視界には、既に音も無く懐近く立つクウガのアマダムが見える。

 クウガは首を掴もうとして横に空振り、


「ユウスケ!」


 ディケイド、反射的にアマダムを打つ、


「!」


 表情なくただ後退りするクウガ、この時アルティメットクウガの全てが停滞する、


「オレが、」


 ディケイドのワンツー、


「戦ってやると、」


 間合いが空いたのを見計らって、


「言っている!」


 一足入れて蹴り、

 クウガはさらに後退、その足が水音を立てる、


「変わった」


 ディケイドもまたその変化した風景、静寂な湖面に立ち、互いの波紋が交差する。葉緑素の臭みがし、羽虫が微睡んだ大気に溶け込んで挙動が無い。そう羽虫すら気づかなかった。


「いない」


 ディケイドが目を離したのは瞬きする間も無い。そのコンマ何秒にクウガを見失い、音も無く水面の軌跡が回り込んでディケイド後背へ伸びるのみ。

 振り返った刹那、


「くそ」


 顔面を躱したつもりでも勢いだけで足が宙へ浮いている。飛ばされて湖面に大響音を立てる。羽虫や鳥が一斉に羽ばたき静寂がかき消される。クウガのヒッティングから戻すまでがあまりに疾く自然体のままの不動にしか見えない。


 ゲホ、


 水面に身を落とす、よく見ればマスクの半分が銀の光沢に溢れた別の物質と化している。銀の部分がボロボロと崩れ、士の素顔が露出、同時にマスク内に浸水して慌てて起き上がるディケイド。


「足が!?」


 ディケイドの踏む水音がかき消される、音を立てる水がクリスタル状の物体に硬質化、クウガは仁王立ちのまま、足から湖面全ての水を物質変換させた。さらにクウガ、ディケイド周りのクリスタルだけ残して全てを右前腕に吸収、4メートルはあろうかという透明なランスを振りかぶる、ディケイドは動けない、


「ユウスケ!!」


 叩きつけられるディケイド、

 クウガはランスを360度遠心力の限り叩きつけ、ディケイドの胸装甲を砕き、士の大胸筋が血まみれに露出する。ランスもまた砕け散った。


「………ツカサ…………」


 額からも血が一筋流れる士の耳には、クウガの呼吸がそう聞こえてならない。だが明らかに幻聴ではない奇声がディケイドに降りかかってくる。


「ディィィィィィケイィィィィィドゥゥゥゥ、いくつもの世界と私を破壊してきた罪、償って貰うぞ!」


 いつのまにか元の電波塔倒壊跡に倒れるディケイド、クウガはその瓦礫の上を踏みしめゆっくりと間合いを詰めてくる、クウガの先のカブトはどういうわけか先に倒したWの中折れ帽が肩を貸し、背後には夏海が栄次郎の胸に縋って震えている、そして鳴滝=DDは崩れかかった電波塔施設の上に立ち狂喜に悶えている。


「ユウスケ・・・、夏海を泣かせて平気なのか、あいつが目を背ける事なんて、無いぞ、」


 ごくごく擦れた小さな呻きを上げる士、

 クウガの4本の角が、光沢に煌めく。


「まず貴様のトリックスターを破壊する、そして貴様の存在を消し、貴様の臭みがついた世界を清掃してやる、その為のアルティメットクウガ、重心バスターを。ディケイド、貴様はもう手も足も出ないはず、光線は全てアマダムが吸引し、触れれば物質変換だ、その為に私はライダー3体使って物理的な技のキレで対しやっとゲットしたのだぁ、貴様では、キサマではできまぁぁぁぁ」


 絶叫するDD、

 クウガはいつのまにか制止している、

 ディケイドは晒された片目でクウガだけを凝視して立ち上がる。


「オレの命、ここで終わる、かもしれない、だが鳴滝、おまえじゃない。」


 バックルを両腕を使って開く、バックルが90度回転して、カードリーダーが表れる、ブッカーを装着した状態から見ないでカードを1枚、装填、腕を交差させるようにバックルを元に戻す、


『FINAL FOAM RIDE kukukuKUUGA』


 変形するのは精気のないクウガ、頭が後方にトイギミックに倒れ、背中に甲羅が発生、四肢が整頓して鋏角と4つの足、甲羅が割れて翼と化し飛翔、


「はぁ!」


『FINAL ATTACK RIDE kukukuKUUGAaa!!』


 宙を周回するクウガゴウラムに飛び乗るディケイド、ブッカーをソードモードに構え起つ。


「バカァなぁぁ」


 一直線に突撃するディケイドアサルト、

 三つの鋭角の刃がダークディケイドを刺突、掬い上げ、はるか直上へ突き飛ばす、宙返りし、ディケイドが落とされる形で着地、宙でゴウラムが変形してクウガに戻り並び立つ。


「そんなぁぁぁぁぁぁぁ」


 落下してくるのはドライバー、ディケイドのそれではなくDD、落下の衝撃で砕け、小さな澄んだ透明な珠が転がる、鳴滝もまた帽子とメガネだけの全裸で紙ペラのようにクルクルと落下し俯せで腹打ちバウンドして埋まる。


「そんな・・・バカな・・・・、また私を殺すのか・・・・・ディケイド・・・・!」


 倒れる鳴滝は、転がるトリックスターに手を必死に手を伸ばした。喉の限り叫び、目が血走り、毛細血管の隅々まで行き渡らせて赤面させて手を伸ばした。だが、触れようかしまいかという刹那、その眼前で破裂するトリックスター。

 一気に血の気が失せると同時に、その露出する毛穴という毛穴から泡が吹きだした鳴滝は、帽子とメガネだけを残して大気に溶けていった。


「奴は、何がしたかったんだ・・・・」


 ディケイドは、一瞬期待した。つい先の体験も引きずっていた。だが生半可な自信を、現実は笑う。

 クウガに振り返るディケイド、


「士、そのうっとおしい彼は、心を完全に閉ざしたよ。」


 クウガの視線を落とした複眼に未だ精気はない、アマダムも光の反射すらなかった。既に腕が動いて首を掴みにきている。


「ヤバぃ」


 咄嗟にブッカーで構える、

 反射でクウガがその刃を握る、

 握った先から物質変換、

 手を放してしまうディケイド、


「知らないよ士。」


 みるみる内に腕と一体化した二つ叉のピックに変化するクウガの右腕、腕はそのままピックが伸び、ディケイドの首を挟む。


「んっ」


 喉を押さえつけられ、抗って両腕でピックを掴む。武器も全てのカードも失ったディケイドの指先が、徐々に物質変換に蝕まれていく。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その32







 カブトが運んできた人達の様子を見ていたお爺ちゃん、あの姿を見て急に私の元にやってきて、なにかわめいて私の手を引っ張っている。

 あの時、ユウスケと士クンがはじめて出会った時、私はイヤな予感のまま叫んでいたっけ。

 今、イヤな予感がそのままの姿で私の前に現れた。

 どうしてだろう、声が出ない、

 こんなに震えているのに、こんなに涙が出ているのに、喉の奥が詰まって声にならない、

 もうどうしようもない、

 私は、絶望しているの?


「ぉうわ」


 私の膝に中折れ帽が当たった。眼前にカジュアルなスーツを着た士クンと同い年くらいの子が転がってきた。ライダーだった人。 私、咄嗟に帽子を拾っていた、そして起き上がるその人に渡していた。


「ねえ、アナタ!ライダーなんですよね!あの2人、士クンを、士クンとユウスケを戦わせないでっ!あの2人が戦ったら、戦ったらっ」


「落ち着けそこのかわいい子、あの下品なピンクが門谷士、ユウスケはあのオレの顔入れた奴か?」


 私は黙って、あの黒いクウガを指した。


「2人が戦ったら、世界が破壊される!」


 私の動悸も脈の乱れも止められなかった。たぶん大声で叫んだんだと思う。士クンが、一度だけ私を見た。

 その人は私の唇に一本指をあてがった。


「落ち着けってかわいい子、とにかくここは逃げろ、そこの爺も。確認だが、そりゃ依頼だよな?」


 このガキ何言ってんだろ。


「依頼?」


 このガキ逐一かっこつけて怒らせたいんかい、


「オレゃこう見えても、探偵、なんだ。依頼なら受ける、ぜ。」


 なんでもよかった、肯いた。


「世界の破壊者を倒す事が世界の破壊・・・メンドくせぇ、フィリップに聞くしかねえ。スタッグフォン通じんのかよココ。」


 ガキはブツブツ言いながら中折れ帽を被り直した。そのキザったらしいポーズが癇に障る。大きすぎる衣着てるガキ。でも私、依頼?してしまった。


「夏海、危ないよ。」


 そういえばずっと隣にお爺ちゃん、いたんだ。私、ひさしぶりにお爺ちゃんの顔を真正面から見た気がする。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その31







「鳴滝、とか言ったな。本当におやっさんを連れてきてくれるんだろうな。」


 まだその時点での『仮面ライダーW』は、右半身を風を象徴する緑に、左半身を切り札を隠す黒で彩っていた。Wの特徴である片目のどちらかが明滅しながら喋る様は、そのシンプルな面持ちと相まって不気味である。今は左の複眼が明滅している。


 ワァハハハハハハハハハハ


 DDは相変わらずふざけたハイテンションで笑い続けている。


『翔太郎、念を押しておくけど、ボクはこの男に頼るのは気が進まない。』


 Wの右目が明滅し、先とはやや違う声色が流れる。2つの声、2つの意志、2の色でひとつの実体を持つ、それがWの意味だ。


「亜樹子を、おやっさんの娘を、泣かせたくねえんだ!」


 黒い方の左腕を軽くスナップさせ、100メートル5コンマ2秒でマフラーを靡かせ疾走をする。


「煩いっ、爺ぃの方へ行ってろ、」


 と言って夏海の背を推す門谷士は、眼前のWを見据え、ベルトを巻く。


『KAMEN RIDE DECADE』


「どんどんイクぜ!」


 打ち込んでくるW、軽く捌いて逆撃を加えるディケイド、だが既にWは合わせている、クロスカウンター、両者とも後退り、


「仮面ライダーW、『ガイアメモリ』の組み合わせで、9つというもっとも多様なフォームで柔軟に全てに適応できる、だがそのもっとも特徴的なのは、」


 ディケイド、ブッカーをソードモードへ、ステップして蹴り込んでくるWに待ちから伐つ、軸脚の腿に入る、


「ぐぉ」


 ディケイドの頭を越す形で宙を横回転、転倒するW、追い打ちをかけるディケイドを、倒れながら脚捌きだけで威嚇して反動で立ち上がる。その動きはストリートパフォーマーのよう。


『翔太郎、対手の攻撃を防いで手詰まりにしてくれるだけでいい。』


 右目が明滅する。同時にWの左腕がベルトからメモリを一つだけ取り出す。


『メタル』


 奇妙なシャウトは『ガイアメモリ』から。


「おっしゃ」


 左目が明滅して、銀に輝くメモリを差す。


『サイクロン メタルぅ!』


 左側に差すメモリのシャウトの方がやや感情的だ。

 華麗なビートがベルトから流れ、Wの左半身が闘士の意志を示す鋼色へ刷り変わる。


「あれも姿が変わったという事なのか、W。」


 Wの背から出現する一振りのロッド、全長を上回る長さに至る鋼鉄の『メタルシャフト』を軸回転させるW、ディケイドがブッカーで受け止めるもその高速のスピンに弾かれ、シャフトの反対側に即座に脇を伐たれる。


「速い、」


 呻いて蹌踉けるディケイドを尻目に、


『ヒート』


 続け様右手でメモリを入れ替えるW。


『ヒート メタルぅ!』


 軽快なビートを響かせて今度は熱き意志を示す赤に右半身を染めるW、シャフトはそのままやや両腕を開いて握り込む。


 伐つ、


 ガードを弾かれ伐たれるディケイドは一瞬脳震盪を起こす。


「なんてパワーだ、」


 それでも踏ん張るが、一振り一振り強力なシャフトの同方向からの攻撃に、ブッカーでなく、左の肩でガードするディケイドはしかし、ジリジリと後退る。


「このままブレイクだ。」左目が光る。


『まだ彼には余力がある。焦るな翔太郎。』右目も光った。


 連射するブッカー、


「2人で1人のライダー、知っているぞ。」


 至近でガンモードを食らってたじろぐW、持ち直したディケイドはさらに、


『ATTACK RIDE BLAST』


 さらに連射してWを引き離す。


「くそ、」


『だから、手を抜くな翔太郎!』


 片膝を地に着けるW。ディケイドの攻勢はカードの連動によって続く。


『ATTACK RIDE ILLUSION』


「分裂しやがったっ」


 Wは唖然とする。はじめて見るディケイドの分身、視界270度に広がるディケイドイリュージョンを。


『慌てるな翔太郎、検索は既に完了している。』


 右目が明滅すると同時に、バックルからベルトを二つとも差し替えるW。


『サイクロン トリガーぁ!』


 右が風を象徴する緑、そして左は銃撃手の静かなコンセントレーションを表す青に塗り代わる。同時に青のボディ胸元にSMGクラスの銃が出現。その名も『トリガーマグナム』。


「風が、」


 突如十数に分裂したディケイドに横殴りの強風、いやWを中心に緑の渦が巻いている。堪えるすべてのディケイド、つまり動きが停滞した。


「ぶっ放すぜぇ。」


 右腕一本抱えたマグナムで扇状に弾幕、極限まで速力を強化した弾丸が一瞬で数百発射され、十数のディケイドが1体を除いて全て消え跳ぶ。


「が」


 残ったディケイド、本体が宙を舞って転がった。だがその勢いを殺さず屈みながらの姿勢になったと同時にカードを差す。


『ATTACK RIDE INVISIBLE』


「消えた、どうする相棒、ガジェットは持ってきてねえぞ。」


 ディケイドの姿がWの視界から消える。一瞬狼狽えるW、


『落ち着け翔太郎、彼は手詰まりになると数あるカードの内、自分のオリジナルの技を選択し一旦場を制する。想定済みだ。』


 左のメモリを抜き、マグナムセンターにあるスロットに差す。


『トリガーぁ!マキシマムドライブっ!』


 メモリから発せられる渋い音声と共に再び風がWを中心として渦を巻く、マグナムを片手で上向け、その渦をゆっくりと臨むW、


『FINAL』


『気流の流れが乱れている一帯がある、それが彼だ。』


『ATTACK』


「いねえ、いねえぞ相棒、」


『RIDE』


 ディケイド必殺の光の壁がWまでの道を展開、それは、


『想定内だ翔太郎、上だぁ!』


 W直上、さらに上に向かって整列する光の壁が視界に入る、


『dededeDECADEee!』


 はるか高々度から直下してくるディケイド、


「『トリガー、エアロバスターっっ!』」


 対空迎撃、ディケイドに向かって直上へ小型の竜巻が数条射出、


「ぐぁ」


 地上スレスレで巻き起こる爆破、吹き飛ばされるW、跳ねるディケイド、


『ルゥナ、メタルゥ!』


 転がりながらもWの右が幻想の月をイメージする金色、左が闘士の鋼色へ塗り代わり、同時に先のメタルシャフトも出現、転がる電波塔の残骸に突き刺し、爆圧を堪えた。


「これがW・・・」


 一方瓦礫の起伏に背を強く打って窒息気味のディケイド、


「縛につきな破壊者。」


 Wがシャフトを遠心力を込めて振る、すると不可思議な事にシャフトが軟質化し、それどころか容積が伸び、まるでムチかヘビのようにディケイドへ巻き付いた。拘束され身動きがとれないディケイド。


『翔太郎、彼にトドメを刺した方がいい。捕らえて鳴滝に引き渡す君の考えは甘い。』


 風すら無かった。


「戦士には向かないタイプだな。」


 Wに密着して紅いライダーが立っている。


「な」


 何者、と翔太郎が言う暇すら与えられなかった。意識する事すら許されず、顔面の痛みと共に翔太郎は宙を舞っていた。翔太郎の視界には、自分の気に入りのソフトフェルトハットが揺れながら地面に落ちている光景が映った。


「だらしがないぞ。」


 カブトが同時性を破綻させ急接、腰からWのドライバーを奪い、軽く装着者を吹き飛ばした。装着者の中折れ帽の青年は哀れ丁寧に扱いたジャケットを泥塗れにする。

 一方のディケイド、頭を上げて何かを認め、凝固した。


「おい、それどころじゃないぞ。」


 カブトに向かって語りかけるものの、視線は前方の一点を捉えて凝固していた。


「ディケイドゥゥゥ!最初からザコ2人に頼ってなどいないわ!やれ!アルティメッッットクゥゥゥガァァ!ブルぁぁぁぁぁ!」


 ディケイドとカブトの眼前に、黒い影が立っていた。深く深く塗り込められた漆黒と4本の角、肩アーマーと共に上に向かって角が伸び、それはさながら暗闇の中で明かりを灯した時できる影のよう。影は無機質に右腕を上げる、


 発火、


 2人のライダーの直近を数十という火球が突如わき上がる、もんどり打って転倒するライダー、


「ユウスケ・・・・」


 首を振るディケイドの耳に少女の黄色い声も聞こえてくる。その眼はカブトが立ち上がり、今にも黒い影に挑みかかろうとする姿を捉えている。

 ディケイドは、黒い影を、変わり果てた男の姿を正視する事ができなかった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その30







 カブトの両脇に抱えられた二人の男女で最後であった。全てが遅滞するカブトだけの世界。塔の上でディケイドと対戦していた二人を、バイクから降りようと犬のように片足を上げている栄次郎の横へ、他の人間と纏めて放り投げた。


『CLOCK OVER』


 正常に流れ出す世界。轟音と共に倒壊する電波塔、人間サイズのパイプが断続して降り注ぎ、パイプの落下が土砂と瓦礫、アスファルトを宙に舞わせて、その1つが門谷士の額に傷を入れた。


「他人から面倒をかけられるのは御免だ。分かっているのか!」


 カブトに気づいた士は、光夏海の頭を抱きかかえながら起き上がる。


「煩いっ」


 威勢の良さはカブトを安心させるに十分だっだ。対面を振り返るカブト。


「ごめんよ、君を倒せば、比奈ちゃんのお兄さんを助けられるんだ。君もまんざら悪くない訳じゃないみたいだし、遠慮なくイクよ。」


 そこに立つ一振りの片刃刀剣を握るライダーがいる。漆黒のボディに頭は赤のラインが入り、肩から肺を覆う形で腕の先まで黄色いライン、脇から足先まで緑のラインが入るライダー、ベルトに3つのメダルを装着する『仮面ライダーオーズ』が『メダジャリバー』片手にカブトの眼前に立つ。


「そんな言い訳程度の偽善を纏わなければ、おまえは世の中全てを見下せないのか?」


 鉄骨がカブトの頭上に落下、


『CLOCK UP』


「言い訳?君は何を、消え、」


 鉄骨が地面に落下して轟音と砂塵を発する、既にオーズの視界から消えているカブト、

 だが、オーズはタカの目を持っている。タカの目はカブトの同時性を破綻した動作を最後まで見切っていた。

 弾かれるメダジャリバー、

 掴むのはカブト、

 だがオーズ装着者の脳が判断する前に既にカブトは間合いに入り、腕が動く前に、肘一つ浮かせて片刃刀剣をもぎ取る。


『CLOCK OVER』


「ふんっ」


 振りかぶるメダジャリバー、

 至近でカブトを捉えるオーズ、至近から奪われた自身の得物で斬りつけられ後方へ跳ばされるオーズ、辛うじて踏ん張り立ちの姿勢を保つオーズ、


「くそ、アンク、メダル、奴の動きを抑え込むコンボで、・・・・・アンクいないんだったっ!」


『1、2、3』


「お婆ちゃんが言っていた。良い人間と、自分を良い人間と言う奴は天と地ほども違う。ライダーキック!」


『RIDER KICK』


 炸裂する右回し蹴り、

 トラの両腕を立てて頭をガードするのが手一杯のオーズ、折れるトラの爪、弾かれるガード、胴が割れる、顔面に皴、オーズ、勢い後ろへヨロヨロと下がる、

 そのオーズの後背より次元のカーテンが出現、オーズを呑み込み、この世界から消し去った。鳴滝は役に立たないライダーをイレギュラーとしてすぐに消す。


「アラタに、似ている。」


 カブトは対手が消えた事を認めて、自分の右の脛を眺める。深々と鋭角的に切り込みが入って、軽く出血すらしていた。


「奴に怪我を負わせた覚えはないがな。それとも対手の方が手強いのか?」


 カブトが首を上げる。

 そこに映った光景は、ディケイドが一本のロープのようなものに絡め取られた姿であった。実はそれが金属のロッドであると聞かされれば、カブトはさぞや驚いた事だろう。ディケイドと対峙する、今は金と銀でボディを彩った『仮面ライダーW』に。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その29







 3








 私は、いつもこうして士クンに守られてきた。

 士クンは私と瞳う合わせると、いつものようにすぐ目を逸らして逃げる。

 もうちょっとちゃんと視ろ、

 私はアナタが知りたいんだ、

 だけど、あの夢はなんなんだろう?昔起こった事?それとも予知夢?

 私の士クンへの静かな願望かしら?じゃあ私が殺されそうになったのもなにかの願望?


「ディケイド・・・・・・?」


 私達を攻撃してきた、あそこにも『ディケイド』そっくりな気色の悪い敵がいる。助けてくれた士クンをアレと私は混同していたのかもしれない。

 そうだ、きっとそうに違いない、

 士クン、悪くない、きっと悪くないです、士クンは私を、ずっと守ってくれていた私の・・・・・・、

 答えを教えろ、門谷士。

 もっと私を視ろ、ちゃんと視て、私が私の事を忘れるくらいに士クンの事で頭をいっぱいにしろ。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その28

『THEBEE POWER』

 Dカブトは殲滅を選んだ。

『DREKE POWER』

 いかにもと言わんばかりにチラつかせるハイパーゼクター奪取よりも、何をされるか分からない対手を討つ事を優先した。

『SASWORD POWER』

 不動のまま、形状はガンモード。

『ALL ZECTER COMBINE』

 同じく不動のままのディケイドに向けて、パーフェクトゼクターを両腕で構えるDカブト、

『MAXIMUM HYPER CYCLONE』

 だがその強大な咆吼がディケイドに直撃する事は無かった。

 自爆、

「なに!?」

 カブトが仰け反った、

「やはりな」

 それは2つのゼクター、ザビーとサソードのゼクターの突如とした自爆、

「なにをした!?」

 仰け反り思わずパーフェクトゼクターを放し倒れるカブトは、頭を振ってディケイドに叫んだ。

「音っていうのは便利だな。握り潰す事ができないゼクターの内部に浸透して破壊しちまうんだからなぁ。」

 既にあの響鬼の一撃は、サソードの身を焦がしただけでなく、余波を受けたゼクター2つの命脈を断っていた。

「キサマ・・・・・・・」

 立ち上がりそれでも動揺を見せないカブト。

「分かっているんだろう、ハイパーゼクターもお釈迦だって。これでおまえはオシマイだ。」

「聞いているぞ、別の世界から来た事もな。ならば別の世界のゼクターもあるはずだ。力づくで言う事を聞かせる。」

 ディケイドは既に1枚カードを装填している。

『KAMEN RIDE AGITO』

 ディケイドは黄金と漆黒の姿その身を変える。ディケイドが選んだのはアギト。

「だから、オシマイなんだ。ついてこい!」

 ディケイド-アギト、後ろ飛びで電波塔最上から地面へ一気に落下。戦場を移す。

「オレには、どんな姿も通用しない。付け焼き刃である限りな。」

『CLOCK UP』

 同時性を破綻させカブトもまた手すりを跨ぎ、両足を揃えてキックスタート。

『1、2、3』

 ディケイド-アギトの落下に追いつき追い越すカブト。両者の仮面の奥の視線が交差する。

「ライダーキック!」

 着地しディケイド-アギトに対空迎撃の脚を繰り出す。その一角にエネルギーが迸る。

『RIDER KICK』

 地下道の暗闇で奔流がディケイド-アギトへ炸裂、砂漠で横に跳ね2、3転し、森茂る浅瀬の河原へ俯せになる。

『CLOCK OVER』

 そうしてゆっくりと変転する世界を確認しながらディケイド-アギトへ歩み寄り、片足でその首を踏みつけるカブト。

「オレには絶対に勝て・・・・・消えた?!」

 だが砂利の音を立てるカブトの足裏、消えたと思ったほぼ同時に背後に殺気を感じるカブト、

「急所を外したぞ、焦っているなおまえ」

 交差する前腕と前腕、

 既に背後から右の一撃を繰り出しているディケイド-アギト、半身翻し受け止めるカブト、

「コイツの方が疾いのか?!」

 左を受け右に流し、右で仕掛け左で返される。両者の返し技の連続はあたかも申し合わせた組み手のように、ナチュラルなリズムに乗った舞いを見ているよう。

「おまえ、自分が致命的なミスを犯している事に気づいているか、ぁ?」

 カブトは後方に下がって転じてのカウンターを狙い、ディケイド-アギトは円を描く脚捌きで受けながらもあくまで重心を崩さない。

「オレは焦ってはいない、ミスもない!」

 ディケイド-アギトの左を自らの脇へ流す形でカブトが内懐へ半歩入る、右の裏拳で心臓を狙う、

「そのらしくない台詞で気づけよ!」

 アギトの2本の角が扇状に6枚へ展開、

 カブトの拳を右で掴む、それだけではない、掴んだままの右肘でカブト顔面へ、重心も掛けている、

「ぐわ」

 ヒット、仰け反り後退するカブト。頭を振ってディケイド-アギトを睨む。

「アギトとは、限りなく進化する力、だ。」

 深追いせず、対手を待って構えを取るディケイド-アギト。

「進化?・・・・加速し続けているとでも言うのか。」

『CLOCK UP』

 消えるカブト。

「ライダーキック!」

 ディケイド-アギト、脇を突き上げる衝撃に宙を舞う、世界が滝壺から体育館、南国の砂浜へと移り変わる、

「ライダーキックっ!」

 照りつける太陽を直視した時、既に上空から逆光の影がディケイド-アギトに向かって蹴撃を押し込む、

「カブト、」

 そしてディケイド-アギトは港の倉庫へ落下していく自分を自覚し、既に落下地点で、背を向け待ち構えるカブトの姿をはっきりと見た。

『1、2、3』

 ゼクターのボタンを3つ立て続けに押す、ゼクターから頭部へエネルギーが迸る。

「ライダーキックっっ!」

『RIDER KICK』

 軸足の指、足首、腿から腰を捻り、全身の体重を蹴り足に傾ける、

「焦りすぎだと、言っている!」

 宙にあってディケイド-アギト、姿勢を正し蹴り足を向ける、そのカブトとの軌道の間に2枚のアギトのエンブレム、1枚潜ってその落下速度が加速、2枚潜ってさらに加速、

「オレの進化は光より速い!」

 振り返り様蹴り足で半円を描くカブト、

 1号の時と全く同じだ、

 だがディケイド-アギトはなお加速する、

「バカなぁぁぁぁ」

 吹き飛ぶのはカブト、

 ディケイドのカウンターよりなお速く、ディケイド-アギトがヒィッティング。

 カブトが地を舐めた。

「どうした、おまえは決定的な差を見せつけて、オレに言う事を聞かせたいだろ、こいよ。」

「バカな・・・・・、クロックアップの領域なんだぞ・・・・・、いや、まだある、まだな!」

 立ち上がって蹴りに入るカブト、カブトの蹴り足を片腕で捌くディケイド-アギト、捌かれた足を反転させ逆サイドから、これもまた手首のスナップ一つで捌く、何十とそれを繰り返しカブトの足が錯覚を纏って数十に分裂しているよう、アギトの捌く片腕もまた数十に分裂、

「おまえは致命的なミスをしているっ、」

 均衡が破れる、

 だが吹き飛ぶのはディケイド-アギト、カブトの蹴り足が掬い上げられ、抉られる形で門谷士の身体が宙を舞った。ドライバーは腰から離れ路上フォークリフトに跳ね返ってカブトの足下へ。

「取った!おまえは所詮、そのベルトで借り物の姿を纏っているに過ぎない!」

「おまえは所詮、そのベルトで借り物の姿を纏っているに過ぎない。気づくのが遅すぎた。それがおまえの致命的な、ミスだ。」

 額から細く血を流す士は起き上がり様、掴んだベルトを肩に背負う。反動でカブトゼクターがベルトから離れ、ソウジを周回し始める。時もまた元に戻っている。

「なに!?」

 除装されるDカブト。ディケイドはソウジからベルトを奪う程に加速していた。

「なにより、おまえはオレを屈しなければならない。だがアギトは一撃で致命傷を与えない限り成長する、おまえはそのジレンマを事の最初から抱えていた。まだやるか?」

「お婆ちゃんは言っていた、全宇宙の何者をもオレの進化についてこれない!」

「進化だと!」

 士の眉が釣り上がった。

「ある男がいた。そいつは世界を敵に回す宿命を帯び、自分の女という居場所を守る為、敢えて孤独を選んで女から離れた。本当に強い男だ。」

「オレは、世界を敵に回そうと、どんな孤独に耐えようと、妹を取り戻す!」

「だが女は、男を世界から自分の持てる全て注いで守ろうとした。孤独に忍んでもだ。強い男は自分の強さが女を孤独にする事を知り、そして互いを守り合うより困難な道を選んだ。それは、生き物の進化を超えた、人の交わりの進化だ。ババアに寄りかかって自分の哀れを押し売りするキサマとは違う!」

「貴様は、何者だ!?」

 ソウジ、足下のディケイドライバーを士に放り投げる。

 士もまたライダーベルトを放り投げる。

 宙を交差して互いの手元に収まるツール。

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ!」

 ソウジ、ベルトを片腕と遠心力だけで装着、 士、ブッカーの振動を感じて、数枚のカードを取り出し、やや驚いてカードを見た、

「そういう事か。」

 ソウジ、カブトゼクターを手元に呼び寄せる、

 士、ドライバーを巻いて、カードを1枚投入、

「変身!」

『HENSIN』

「変身!」

『KAMEN RIDE DECADE』

 向かい合う両者に纏わり着く姿は、一方はメタリックの装甲、もう一方はショッキングピンクのスーツ、

 カブトはさらにゼクターの角を引く、

「キャストオフ、」

『CAST OFF』

 ディケイドもまた、1枚のカードを投入、

『FINAL FOAM RIDE kakakaKABUTO』

 カブトは装甲を飛散させてその人体に近いフォルムを晒す。

『CHANGE BEETLE』

「クロックアップ、」

『CLOCK UP』

 クナイガンを振りかざし、動作が遅滞したディケイドに向かって一直線、

 裂ける時空、

「なんだと!?」

 ソウジにとって見慣れた1本の紅い角が眼前から時空を割って突き込まれてくる、押し戻されながらソウジは、それが人間の容積程に巨大化したカブトゼクターである事に戸惑う、戸惑うカブトを引っ掛けながら巨大ゼクターは鋭角に上昇、上昇から垂直で降下、急降下でカブトの肉体を波止場に叩きつける。

 そうして巨大ゼクター、一旦上昇、宙を旋回し、そしてメカニカルなギミックで人の姿に変身、錘を外したように動作が軽くなったディケイドの隣へ着地、並び立つ。

「お婆ちゃんが言っていた、自分に勝てる者はただ1人、1つ先の未来の自分だけだ。」

 それは紛れもない深紅に彩られた一角の『仮面ライダーカブト』。ディケイドの隣にいるのも、対峙して波止場のコンクリートに皴を入れて伏しているのも同じカブト、カブトが同じ時に、同時に二人存在している。

「だけ?まだクロックアップが解かれていない、」

 ディケイドは全て遅滞している周囲と、その中でカブトと並んで対話できている自分とを見比べている。

「オレは自身を含めてあらゆる者を自在にクロックアップさせる事ができる。それが、おまえがオレにもたらした力だ。」

「ライダーキックっ!」

 眼前のカブトが立ち上がり跳躍蹴撃を仕掛ける。

「そしてその逆も然り、」

 宙にあるカブトの動作が突如遅滞、いやクロックアップが解かれる。

「いくぞ!」

 ディケイド、さらにもう一枚カードを差し込んだ。

『FINAL ATTACK RIDE kakakaKABUTOoo!』

 隣に並ぶカブトが再び変形、巨大なカブトゼクターとなって飛翔、停滞する眼前のカブトへ一直線、

 激突するカブトとカブト、

『1』

 ゼクターの1角に掬い上げられる形でカブトぐんぐん上昇、

 衝突する電波塔中央、

 煙を吹いて貫通、

『2』

「はぁっ」

 貫通し突き抜けるカブト、しかし巨大ゼクターは見られない、

 対面側に既にいる未来のカブト、

 対面側にいて宙で姿を戻しスピンキック、

『3』

 蹴り入れられ錐揉みしながら斜めに落下するカブト、

 その先に立つのはディケイド、

「ライダーキック!」

 ディケイドに並び立つ未来のカブト、

 互いの外側の軸足から足首、腿を捻り、両腕を振り、腰を入れ、内側の蹴り足を遠心力のまま振りかぶる、

 炸裂!

「ぐぉぉぉぉぉぉオぉぉぉレっっっっ」

 両者のエネルギーの奔流が注ぎ込まれる、飽和するエネルギーは圧倒的な光量を発して、落下してきたカブトは跡形もなく消失した。

「やったか!?」

 ディケイドは並び立つカブトを振り返る。

「ヤツは時空を割り、走馬燈のように次々と過去を覗く事になる。そこでヤツは過去に飛ばされた妹を見つける。1人で成人するまで必死に生き抜き、当たり前に友を作り、当たり前にパートナーを得て、そして子供を1人設けた。それから主人に死なれ、子供と別れ、老いた時、ある3人の子供を拾って養う事になる。ヤツはその時はじめてお婆ちゃんのゆりかごにずっといた事を気づくのだ。」

 既に変身を解く両者。

「ババアがな、」

「ヒヨリが子供を産んだ時、オレに見せた事の無い笑顔を愛する者に向けていた。オレは激しく嫉妬し、またその幸福な顔を守ってやりたいとも思った。」

 士はまたしても出し抜かれて口元を歪める。ソウジは天に向けて、人差し指を高く高く伸ばしている。

「ババアはこの世界の重心だった。バハアが別の時間に飛んでしまった事で、この世界の本格的な崩壊は始まっている。」

 士が語るそばからソウジは、腰の裏より二つのアイテムを取り出す。よく見るとハイパーゼクターと、あのコーカサスのゼクター。

「妹が過去に飛ばされる直前の時間に行った時、貰ってきた。この世界はもうどうにもならん。が少なくとも別の時間で、そうでない未来があってもいい。」

「そうか、おまえも飛んだんだったな。」

 士は散々である。

「この世界は崩壊する。だが、そんな中でも喜びも楽しみもある。オレはずっとこの世界を見ていくつもりだ。お婆ちゃんがそう決めたようにな。」

「オレは写真を撮る事だ。あれだけは上手くいかない。おまえは?」

「なんだ?」

「できない事だ。オレ達完璧超人にも一つや二つできない事があるだろ。誰にも言わないから言えよ。」

「オレには、そんなもの・・・・・・、逆上がりだ。」

 ソウジは視線を合わせず、顔面の毛細血管の血量が増加している。

「鉄棒?」

「アラタが悪い、あいつが軽々と先にやってのけてしまった。くだらないと思っている内に、ついにいままで一回も出来ないでいる。アラタが悪い。」

 士はそれを聞いて腹を抱えて高笑いしはじめた。ソウジは指を差してなにか必死に言い訳し、士の欠点を攻撃するも、士の笑いは止まらない。ソウジの顔面の充血はなお治まらない。

「ハイ、チーズ!」

 その背後から女の声が響く。振り返ると同時にフラッシュが焚かれる。派手な二眼トイを抱えた黒髪の長い少女が、門谷士に向けて微笑んでいた。夏海の背後には、ディケイダーをまだアイドリングさせている光栄次郎が皮ジャンをキメている。

「夏海・・・・・」

 士は不思議だった。あれほどいっしょに過ごしてきたごくありふれた黒髪の少女が、今日は何故か光夏海という名前から意識していた。

『私の記憶を返して!いったいどうして!どうして!』

 だが士は頭痛と共にフラッシュバックする断片的映像に苛まれた。

 トイカメラから出た写真を手ブラさせながら笑顔で士に歩み寄ってくる夏海。ソウジは小さめのジーンズのポケットに無理矢理両手を突っ込んで、士の動揺した顔に性悪にもニヤついていた。

「忘れモノです、士クン。」

 夏海は吊り下げたトイカメラを本来の持ち主に渡そうと首から外す。一旦頭から持ち上げて背中に回して長いストレートの髪の毛を潜らせて首を振ってほどく。揺れる髪の毛は軽く流れて、一瞬だが夏海のうなじが露出する。髪の毛を正して、シメの思い切りな笑顔で士にトイカメラを差し出した。全て計算ずくで女はこれをやる。

「夏、みかん……あのな……、」

 と言い辛そうな態度の士はそれでも辛うじて受け取ろうとした。

 だが、ショッキングピンクの2眼は、ついに士の手に渡る事は無かった。

『SCANING CHARooGE』

 爆裂する電波塔、

 上から3分の2が倒壊、

 士はまずなにより夏海の頭を包み込んで伏した。

 ハァッハァッハァッァァァァッッッッッ

「この不快な低い声は鳴滝・・・・」

 顔を上げた士、電波塔の倒壊で鉄筋が一面に広がり、砂塵が跳ね上がって数メートル先の視界が取れない。

「ディケイドゥゥゥゥゥゥおまえのぅぅぅぅぅぅ最後サイゴサイゴダァァァァァァ」

 引く程のハイテンションの声がする先に、辛うじて3人の影が見える。1人は今電波塔を切断した主で、やや短い片刃刀剣を振り下ろして刃を祓っている。1人は首から大きくなびくマフラーをしている。その間に挟まれた者の姿がもっとも士を驚愕させた。

「ディケイド・・・・・」

 士は知らない。鳴滝が同じドライバーを使って変身したダークディケイドというライダーを。

5 カブトの世界 -クロックアップ- その27









 シゲル……!


 タックルの光がほのかに萎んでいく。

 それは首に絡めた両腕の違和感からであった。恐怖に駆られ力の限り右腕を引くタックル、鮮血が斜めに走る、タックルの右前腕はクウガの肉体に癒着し埋もれていくようにその形状を喪失していく。


 アネサン・・・・・・・・・・、


 目に光がなく、等身大の黒フィギュアのように棒立ちのクウガ、だがバックルだけが黒々と輝く、千切れて先の無いクウガの腕先をタックルの腹に押しつける、タックルの背中が盛り上がって掌を象っていく。


「ァァァァァァァァァっっ!!」


 甲高い悲鳴が上がり、膨大な血量がタックルの背中から飛び散って、電波の残り火で即座に乾燥し、染みだけ残す。半分抉れた腹部からジリジリと肉の焼ける煙が立ち上る。


 アネサン…………


 再生した右腕でタックルの頭を自らの胸へ押しつける。もはや意識の無いタックルが白目を剥いてクウガの漆黒の胸にその体を埋めていく。クウガの肉体容積が比例して肥大化していき、頭、肩、手足の各部が鋭角的に伸びていく。


「誕生!アルティメットクウガぁぁぁ!」


 DDが諸手を挙げて狂喜する。いやそれは恐怖の裏返しかもしれない。

 その暗い異形の姿は、人類が猿から進化してはじめて火を持った瞬間から見えるようになった恐怖の影。闇夜で相手を照らしたすぐ背後に先に行く程鋭角的に伸びた影、その得体の知れない、触れる事すらできない影は、火を得て闇を克服した類人猿に、恐怖から逃れる事ができない事を植え付けた。その姿を黒く染めた異形が、吹雪きつつある白銀の世界にポツンと立ち尽くしていた。


『ATTACK RIDE CLOCKUP』


『FINAL FOAM RIDE itititICHGO!』


 その漆墨のクウガの眼前に立つのはほぼ同じ姿の『仮面ライダー1号』が3体。その即背に高笑いするDDが立つ。


「最初からだ。本来選ばれた者でない君にベルトを渡し、他の2つのアマダムを破壊させ、重心砕きの性質を持たせた。そしてこの瞬間しかない。キサマが進化直後のもっとも隙を産む瞬間にな。いくぞ!」


 ダークディケイド、バックルの左右を引く、腰のブッカーを開いてカードを一枚取り出し、ドライバー中央に差し、バックルを閉じる。


『FINAL ATTACK RIDE itititICHGOooo!』


 色味の薄い1号が跳ぶ、深緑マスクの1号が跳ぶ、肩から両腕に伸びた2本線の1号が跳ぶ、3体並列に宙を一回転、イヤになるほど遅滞する動作のクウガに向けて蹴撃の態勢で降下、


「封印されろ、私の切り札よ!」


5 カブトの世界 -クロックアップ- その26







「ライダースティング」


 無防備のディケイドの眼前、ザビーのおぼろげな影が立つ、


『RIDER STING』


『KAMEN RIDE DENO CLIMAX』


 蜂型ゼクターを装着した左手首、突き出すザビー、


「はぁ!」


 ザビーの複眼が全て炎の反射で埋め尽くされた。炎の中から火の粉のように弾き出される人影、ザビーはそれが先のライダーとまるで違う姿である事に戸惑いを覚えた。


『FINAL』


 ザビーの支配する時空間で、焦れったい動作で一旦宙を浮き、放物を描いて落下しようとするディケイド-電王。


「これがこいつのキャストオフ?」


 その4つの顔をもつ敵に生理的な嫌悪を抱きながら、ザビーは再びゼクターを捻る。


『RIDER STING』


 1度どころではない、掬い上げに1撃、宙を舞っているところ1撃、そして横に跳ねた着地点に先回りして叩き落としにさらに1撃加えた。


『ATTACK』


 だがディケイド-電王は、無様ながら無重力を遊泳しているかのようにスローに宙を舞っているだけ。傷一つない。


「どうして、ダメージがない?」


 ヒッティングの手応えは確かなのに、相手を絶命させる事ができない。だがしかし、クロックアップのタイムリミットに追われ拙速に撃ち続ける選択せざるをえないザビー。カブト系ライダーの宿命であった。


『RIDE』


「なにをしている!?」


 ザビーは気づく。いつのまにかディケイド-電王の所々に張り付いているグロい仮面が一カ所、右肩から右掌にかけて整列している。


『dedede』


 ディケイド-電王、ザビーの強烈な対空迎撃で宙を高く舞って、優雅に一回転、足を揃えて着地しつつある。


「ええい!」


 ザビーは頭に血を上らせてディケイド-電王の急所を狙う為敢えて前に踊り出て、再び必殺技を繰り出す。蹴りでも弾丸でも無い拳のヒッティングは、そのもっとも自在できめ細かい命中精度が真価なのだから。


『CLOCK OVER』


『DENO CLIMAXuu!』


『RIDER STING』


 両者が対峙し、互いの右拳がほぼ同じタイミング、同じ速度で繰り出され、互いの胸を狙う。

 それはクロスカウンター、

 両者ほぼ同時にヒッティング、

 受け止めるディケイド-電王、

 反動で跳ね飛ぶザビー、


「ミサキーヌっ」


 紫のライダー、傍観していたサソードが前から後ろへ視線を移す。

 ザビーは甲高い音を立てながら、網目の踏み板を歪めて跳ね転がり、仰向けに顎が上がって起き上がれずにいる。脇に当たる装甲が砕けている。おそらく肋骨を何本か持っていかれている。


「おかしい。」


 ディケイドが姿を戻す。自身の右手首を握り込み、その右で足下のライドブッカーを拾い上げる。

 ディケイド-電王、電王の精神体としての能力を纏う事で、精神体を前にしたディケイドが手こずった、物理的なダメージを受ける事が無い。それは精神体と実体の相互干渉が無いという事であり、逆に精神体から実体への攻撃も触媒となる契約者と一体にならない限りダメージを負わせる事はできない。つまりディケイドのこのフォーム、実体系最速を誇るカブトの世界に対して鉄壁の防御を誇るものの、ほぼ無力の幽霊と同じであった。


「キサマ、ミサキーヌを、」


 サソードが振り返ってその得物を祓う。その刃から粘度の高い液体が飛び散った。


「こっちに関わらず、あの女は自分の力をまともにカウンターされたはず。装甲一枚じゃ済まないはずだ。それがあの程度なのは、やはり、オレの腕が痺れて押し負けたって事なんだろうな。電王は加減がわからん。」


 腕の痺れ。ディケイドはマジマジと自身の右腕に一閃入った傷と、サソードの刃の液体の交互を見比べた。


「ディスカリバーの錆にしてくれる。」


 勝手にネーミングしているサソード。クロックアップで鎬を削るライダー同士の戦いにおいて、対手よりも速くあるよりも対手を遅滞させる事に主眼を置き、神経毒によって刃を引くだけの傷を負わせる事で多少のスペック差があろうと関係なく勝敗を推移できるライダー、それがサソード。大気に毒液を飛散させショッキングピンクの対手に突進。


「くそ、やつが3人に見えるぞ。」


『KAMEN RIDE HIBIKI』


 一方ディケイドはショッキングピンクからマジョーラパープルのディケイド-響鬼へ。


「二刀流など小賢しい!」


 腰元水平に構え突きで向かってくるサソード、


『FINAL ATTACK RIDE hihihiHIBIKIii!』


 既に連続投入しているディケイド-響鬼、両腕の枹を大上段に構えるその筋肉の撓りが音として聞こえてくる。

 サソードの刃が喉元に迫る寸前、弁髪めがけて振り下ろされる2本の枹。


『CLOCK UP』


 枹が空を切り、そのまま地面に叩きつけられる、地面には光の鼓が浮かぶ、一打加えると甚大な音撃の波紋が全周に迸る。しかし同時性を破綻させたサソードは消えたまま捉える事ができない。


『RIDER CUTTING』


 刺さる、

 現れるサソード、それはディケイドの後背、

 ディケイド-響鬼の肩口から振り下ろされ深々と毒液を流しながら刺さる片刃刀剣、


「はぁぁっ!」


 打ち下ろす2打、

 だが構わず光輝く鼓に向かって枹を振るディケイド-響鬼、屈んだ腰から背筋、肩、腕が隆起して両腕を伝って枹に注がれる、

 広がる波紋は、サソードの肉体を通過し、倒れるザビーの距離まで達する。


『CLOCK OVER』


「抜けん………、なんだっ!熱いっ!」


 サソード、薙ぎ入れた得物で振りかぶり二の太刀三の太刀を繰り返すはずが、全く動けず動揺しついには時間切れを起こす。それどころかスーツが異様に蒸せ、思わず得物から手を放す。スーツの節々から毒液と同じ色の蒸気が吹き上げ、ついには転倒して転げ回って悶えるサソード。


「オレが響鬼を選んだ理由は3つ、」


 立ち上がり、刺さったままの剣をその身から刃を持って引き抜いて、剣に装着されているゼクターを抜き取るディケイド-響鬼。片肺を縦断している傷が見る見る内に癒着し傷の位置がもはや分からなくなるほどに回復する。


「ナニヲ、・・・・・なにをしたぁ!」


「音撃というそうだ。ヒビキの世界でな。」


 悶えるサソードのスーツが消え去り、華奢で唇のやや色暗い青年が顕れる。だが超熱地獄から解放されてもなお起き上がれなかった。

 士が響鬼を選んだ理由は3つ。

 一つは回復力、毒すら即座に治してどれほどのダメージもものともしない治癒能力。もう一つは身体、太刀をどこに受け止めても放さない鍛え抜かれ自在に動く肉体。そしてもっとも決定的な最後の一つは音撃。ザビー、サソード共近接しなければ攻撃できない。音撃を全周に張れば、どれほどの速さで動こうと、その音の波紋、音の障壁を潜るしかディケイドを倒す術が無い。そして音撃には別の面がある。


「音・・・・・・超音波で、そうか・・・」


「おまえの決定的な敗因はレンジでチンじゃあない。惚れた女の身体を放置して、勝ち負けのメンツにこだわりオレに向かってきたところだ。恋人ごっこの連携では、オレに勝てないのさ。」


 片刃刀剣を破棄すると同時にショッキングピンクの姿を顕すディケイド。その片手で動かなくなったサソリ型のゼクターを弄んでいる。名も知らない若造が失神しているのを見て取り、同じくいつのまにかハチ型のゼクターが転がって装着の解けたボンテージスーツの女へ足を向ける。


「ラッキーだったよおまえは。毒液、特に神経毒はイオンとして電荷を持つケースが多い。だがマイクロ波を吸収して振動する十分条件ではない。マイクロ波を出す事自体ぶっつけ本番だったんだじゃないか。だが、オレの方がラッキーだ。」


 聞き慣れたキザな声だった。エレベーター横の非常階段。黄金の剣を振りかざした濃厚な黒のボディ。

 振り返るディケイドの手元からサソードゼクターがこぼれ落ち、踏み板を小さな金属音をさせて伝って黄金剣の柄にしがみついた。ザビーゼクターも同じ、舞い上がって羽音を立てて周回し黄金剣先端に留まる。


「どうした、日焼けサロンでもしたか?」


 ディケイドの眼前に、再び現れる仮面ライダーカブト、いやダークカブト。


「まあ、そんなもんだ。」黄金剣で指すDカブト。「さっき青いやつが去り際に言っていた。おまえが、ハイパーゼクターを持っているとな。オレはラッキーだ、詰んだも同じだからな。」


 ディケイドは腰裏からハイパーゼクターを手にし、あからさまにカブトに見せつけた。


「おまえの事は大体分かった。この世界でおまえに敵うライダーはいないかもしれない。しかし、この世でおまえに勝てるライダーはいくらでもいる。それをいつまでもお婆ちゃん離れできんおまえに見せてやる。」


 2人の戦いは既に始まっている。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その25









「電波投げ」


 赤き女戦士タックルが雪原に立つ。彼女はクウガが立ち上がる度に両腕を無空に振りかざし、見えない衝撃によってクウガを宙に飛ばし地に叩きつける。


「電波投げっ」


 仮面ライダーストロンガー。それが彼女のパートナーだった。この世界に共に飛ばされ、あるいはあれが愛情のふれ合いとも言える毎日を過ごしながら、ある夜突如あのクワガタの化け物が現れた。


「電波投げ!」


 そのストロンガーがクウガと対峙した時、彼女は変身した途端にボウガンのようなもので攻撃を受け失神、気がついた時にはストロンガーは断末魔の叫びを上げていた。


「電波投げっ!」


 彼女は一定の距離を置いて尾行し機会を待った。観察していく内にクウガは本能で強力なものを求めて戦い続けようとする事に気づく。この強力なライダーが集う世界で、そんな事をすれば必ず致命的なダメージを負う。彼女は敵がボロボロになるまで根気よく待った。


「電波投げっっ!」


 途中、鳴滝によるオーロラの壁によって運ばれた時は途方に暮れたものの、この世界の破壊者が電波塔を目指しているという噂を聞いていたタックルはまっすぐにここを目指し、エレベーターが降りてくるのも待たず一跳躍でこの二段目まで登った。辺り一面白景色に変化した時は戸惑ったがそれも一瞬、逆に白の景色の中一点染みのように黒い姿を見つけるのは容易い事だった。


「電波投げっっ!!」


「あの無敵のクウガをここまで、あの女こそ最強だとでも言うのかぁ!」


 鳴滝、DDは呻いた。遠距離からの射撃は吸収され、触れればどんな一瞬であろうと肉体を変換される。そんな無敵な存在を、たった1人のか細い女が圧倒している。電波エネルギーを照射して大気を揺すってクウガの肉体を投げ飛ばす。こんな見えない掌の攻撃が、あるいは唯一クウガの攻略手段かもしれない。


 ォォォォォォォォォォ


 クウガ、左腕が無く左の大腿が折れ、それでも立ち上がり残った右腕を振り上げる。


「おまえの動きは見切っている、」


 クウガが掌をタックルへ、

 タックルは両腕を振り上げる、

 タックル眼前で炎が巻き起こる、パイロキネシスだ、

 だがその炎はタックルに届く事なくかき消された、電波投げの応用だ、


「エイ」


 タックル跳躍、これもまた両腕を振り上げて。


「電波エネルギーで自らを動かすのか!」


 一瞬で見えない点になる程上空に達するタックル。

 頭上にパイロキネシスの弾幕を張るクウガ、 だがタックルは降下しつつなお電波エネルギーの波動を送って炎の渦をかき消し、さらに上空からクウガへ向けて波動を叩きつける、


「ヤァー」


 クウガの体表面が変化していく。甲殻的な角やアーマーは萎びていき、軟質の部位には水ぶくれが泡のように沸き立つ、その赤い複眼から煙が吹き表層が沸騰する。


「体内の水分の極を揺すって加熱している、いつものクウガならば、オレがここまで負わせたダメージが無ければ、」


 DDは立ち上がり、思わず目を塞いだ。


「トゥォォォォォ!」


 腕から落ち、クウガの首に絡みつくタックル、クウガはその衝撃に耐えきれず、右の膝が地に着く。


「ウルトラサイクロンっっ!」


 両腕をしかと絡みつけ、乳白の光となる。あまりの眩しさはタックルのボディラインを隠してクウガを呑み込もうとする。


「自らの肉体を電波エネルギーで発光し、敵に電波エネルギーを送りつつも自らをエネルギーの塊としてっっ!」


 DDは言いかけて背を見せ小走りに駆け出す。その圧倒的な破壊力を想像できたからだ。


 duuuuuuuuuuuuuuuuu


 クウガはもがき振りほどこうとして残った片腕を振り上げ、タックルの頭を撲打する。

しかし命を込めたタックルの両腕は依然千切れる事はない、


「シゲル・・・、」


 それどころか圧倒する熱量でクウガの肉体に癒着しつつある。ただ彼女の仮面が縦割れし、素顔を晒した彼女の額から出血が滴るのみ。彼女はただ愛するストロンガーの名前を叫び、彼の為に命すら惜しまない自らを喜んだ。


「アネサ…………」


 クウガの動きが止まる、呆然としている。 白光の中、その眼前に映る顔は、この男にとって懐かしい、求めて止まない顔そのものだっだ。やや疲労感のある細い輪郭、小さいもののはっきりと意志の感じる目元、やや自己主張する前歯、ストレートの黒髪、


 この世界のアネさん……、

 なんでそんな目でオレを見る、

 オレまた叱られるような事をしたか、

 アネさんには笑顔で、

 笑顔でなきゃいけないのに、


 彼の抱えた琥珀色の思い出が、全て血塗られたトラウマへと反転していく。


「シネ!私とトモにっっ!」


 アネさんを笑顔にしたかっただけなのに……


 クウガの心が、その時閉じた。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その24









 ソウジがデニムに両手を突っ込んだポーズで乗るエレベーターが止まる直前、上方で爆音と立っていられない程の震動が迸った。ソウジが目指す最上階ではない。そこは、3つある展望台の最下の位置。エレベーターの中から見える風景は、一面鉄格子の床を敷き詰められたグレー一色の展望台だった。ところが一歩踏み出した瞬間、まず皮膚に飛沫を感じる。次に荒々しく流れ落ちる滝が見え、耳がイカれる程の曝音がする。大気の流れは多量の湿気で体温を奪い、足元の震動はそこが大地でなく、吊り橋の上である事をソウジに教えた。


「6、7人か。」


 既にジョウントしてやってくるカブトゼクター。

 ソウジの前後は切り立った崖に、照葉樹が密生している。その恐怖心を呼び起こす程の闇の中に見え隠れする影が7つ。


「キックホッパーっ」


「パンチホッパーっ」


「チョップホッパーっ」


「ヘッドバットホッパーっ」


「スープレックスホッパーっ」


「サミングホッパーっ」


「ヨンノジホッパーっっ!」


 それは全て同じ、リペイントであるものの全てが同じ頭に3つの角、その角と同じ形状のショルダーアーマー、ベルトにはそれぞれのペイントのバッタを模したゼクターが装着されている『ホッパー軍団』であった。


「変身」


 そのテンションに冷や水を差すようにカブトへと変身するソウジ。


「ライダージャンプ」


 翠のホッパーがバックルを操作した後跳躍、他のホッパーも全く同じ動作で追随し空へ。


「お婆ちゃんが言っていた。手の込んだ料理ほど不味い。」


 カブト、即座に黄金剣パーフェクトゼクターを召喚、さらにドレイクゼクターも周回しながら宙でパーフェクトゼクターと合体、カブトの腕に収まる。


「ライダーキックっ」


「ライダーパンチっ」


「ライダーチョップっ」


「ライダーヘッドバットっ」


「ライダースープレックスっ」


「ライダーサミングっ」


「ライダーヨンノジっっっっ!」


 全ホッパーが跳躍頂点に達した時、一斉に叫んでカブト一点に向けて降下、


『DRAKE POWER』


 直上高々と剣を掲げるカブト、モードはガンモード。


『HYPER SHOOTING』


 天高く放たれる一撃の光球、ホッパー軍団を一旦すれ違い上昇、


「なにっっ」


 1人のホッパーが叫んだ、

 光球が上方で分裂、7本の歪曲した光となってホッパー全てを追尾、

 爆破爆破爆破爆破爆破爆破爆破、

 火達磨になりながら吊り橋のさらに下へ落下していくホッパー軍団、

 火の粉降り注ぐ中悠然と吊り橋を渡って行くカブトであった。


「・・・・・・・・、おのれ、オレの4の字さえ極まっていれば・・・・」


 渡り切った先の崖に、落下してきたホワイト地にスカイブルーのドット柄ホッパーが、俯せのまま起き上がれず、ただ震えた指でカブトを差す。


「一つ聞いておきたい、いったいジャンプしてからどうやって固め技に入るんだ?」


 やや精神が高揚しているソウジだった。


「時空渦を起こし、世界を滅ぼし、そして自らを孤独に貶めて、呑まれるがいい・・・・・、黒い、カブト・・・・」


 事切れるホッパー。誰が変身したかソウジはついに知る事が無かった。


「黒い・・・・・」


 そう言われ初めて、自らの掌から二の腕、そしてボディを眺めたカブトは、先程の爆炎のせいか、ボディのところどころ黒く染まっている事に気づいた。気づいて、何を悟ったのか天を仰ぐカブト。


「いいだろう、その洗礼、受けよう。」


 彼の身に夕日が差す。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その23









「婆さんにそんな理由が・・・・」


 士がディケイダーを転がして向かう先は電波塔。液状化した路面の起伏を読みながら疾走するのにもそろそろ飽きてきたその時、瓦礫の風景に立つ人影を見つける。人影は、天井方向に銃を向け1発放った。


『KAMEN RIDE DIEND』


 それは屈託なさ過ぎる笑顔の海東、つまりディエンドだった。


「おまえ、またオレに邪魔されたいのか!」


 ブレーキをかけ、イタズラにスレスレで停めた士もまたドライバーを腰に巻く。


『KAMEN RIDE DECADE』


 シアンブルーのディエンドはわずかにディケイダーのカウルが接触したものの動じていていない。


「君が欲しいと思って用意してあげたんだ。」


 マゼンダピンクのディケイドは降車して、ブッカーをガンモードにした。だが実際士は間違っても撃ち合う事がないと直感していた。安心していたのかもしれない。


「何を?」


「正確には、君と対立するカブトが求めて止まないものさ!」


 ディエンド背後よりオーロラのカーテンが迫る。ディエンドが潜るとその姿がディケイドから見えなくなり、そのままカーテンはディケイドをも呑み込んだ。満天の青空広がる細かな格子状の円盤だけが広がる金属の展望台、ディケイドはそこが電波塔最上階である事も、空間の歪みが最上階だけは緩和されている事も、認識するのに若干の刻を要する。


「ボクにとって、君があの2人のゼクターを持っていてくれた方がマシなのさ、士!がんばってくれよ。ボクの為に。」


「海東、余計な事を。」


 士は直覚した。海東はソウジと自分を徹底的に咬み合わせたいのだ。


「もしやヤツの狙いも同じか?」


 だがそんな疑問を処理する間も無く、士の眼前には2人のライダーが立っている。いつもの事だ。


「ミサキ~ぬ。あいつを倒せば、このボクの愛を受けてくれるか~い。」


 1人はパープルに全身を彩った、頭頂にサソリの尾のような触角を持つ『サソード』。その得物は片刃刀剣『サソードヤイバー』。


「私、貴方と出会えて変わった気がする。返事は、考えてあげてもいいわ。ツルりん。」


 もう1人はどうやら女。その黒地を縦に割るようにメタリックイエローを配した彩色の『ザビー』。左手首には、ハチ型のゼクターらしきものが、ヘラクスやケタロスと同じように備わっている。


「海東、厄介事を全部押しつけやがって。」


 ブッカーを開いて親指を強く押し出すようにカードを2枚取り出し、一振りでブッカーを閉じ再びブッカーガンモードを構え直す。だがブレイドや龍騎のそれに比してすこぶるオペラビリティが悪い。つまり大きく隙を生じる。


「ゼクトマイザーは、ザビーにこそふさわしい。」


 女声のザビーが握る野球のグローブ大の『ゼクトマイザー』、扇状に4つのポートを展開させて、ポートの先端一つ一つから、小さな虫のような誘導弾『ザビーマイザー』を放出、次々打ち出される数十の豆粒大のそれらは、


「くそ、うっとおしい」


 フリーランスな軌道と圧倒的物量で掠めてまとわりつき、視界を塞ぎ、うっとおしい羽音を立て、ディケイドの動きを抑止する。


『CLOCK UP』


 ドレイクが剣を正眼に消える、


『CLOCK UP』


 ザビーがボクシングスタイルで消えた、


「なにっ」


 ディケイドの左サイドに突風でも吹いたような衝撃、思わずブッカーをこぼし、胸元が大きく空く、ディケイドの視覚に捉えきれぬ紫の影が左腕を大きく弾いて駆け抜けた、


「ライダースティング」


 無防備のディケイドの眼前、ザビーのおぼろげな影が立つ、


『RIDER STING』


 蜂型ゼクターを装着した左手首、突き出すザビー、


「はぁ!」


 ザビーの複眼が全て炎の反射で埋め尽くされた。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その22







 海抜65メートルに立地した電波塔は地上高165メートル。日本で言えば6番目に高い塔であり、4番目に高い電波塔であった。塔の軸として鉄筋コンクリートのほぼ直管のチューブに4方向から鉄骨トラスで支え、上から眺めると十字に見える。頭頂部に3段の円盤状の展望台があるものの、本質的にアンテナやライトを設置する為のものであって、人が立って行動するには安全上問題がある。

 それが日本を壊滅させた「巨大隕石」と、世界を壊滅させた「時空渦」を経てなおこの荒廃した地に建っている。


 Oooooooooo!


 『クウガライジングマイティ』がオーロラのカーテンが素通りした時、クウガの全身が強風に揺れる。そこが電波塔展望台の2段目である事をクウガの知能は既に理解できない。


「フハハハハハハハハハハハハハハハ」


 電波塔中央の軸塔に埋め込まれる形で施設されているエレベーターよりせり上がってくるのはあの鳴滝。萎びた帽子と黒縁のメガネ、腰には既にドライバーを巻いている。全裸だ。


「おまえが、ここまで強力になるのを、待ち望んでいた。おまえを捉える算段も手札も、全て揃えた。おまえはディケイド討伐の切り札として私に囚われるのだ、私の深慮遠謀に酔い痴れるがいい!」


『KAMEN RIDE DARK DECADE』


 纏わり付くDDスーツ。

 DDが一歩踏み出すと鉄格子の床が一面雪原へと変わる。


 Fuooooooooooッッ!


 クウガはその記憶の断片に酷似した姿に頭を抱え悶える。


『KAMEN RIDE SUPER ONE』


『KAMEN RIDE KETAROS』


 その隙を突くように、2体のライダーを召喚するDD。


「まずは遠距離からだ」


 スーパー1、右腕を突き出し円を描く。


「チェンジ、エレキハンド!」


 ケタロスがクナイガンを抜いて逆手で握り、手首のゼクターを捻る。


「ライダービート!」


 そしてDD、ブッカーをガンモードに、カードを1枚ドライバーに収める。


『FINAL ATTACK RIDE DARK dededeDECADEee!』


 エレキハンドから稲光が迸り、

 クナイガンの閃光が唸り、

 そしてブッカーの弾が光の壁を幾枚も透過してクウガに向かう、

 それはまさに一斉砲火。

 全ての光がクウガの腰のベルトへ集約していく、


 Gooooooooooooooooo!


 いや集約されていく。

 人語でない叫びを上げて、その体皮を紅から漆黒へ変貌させていく『アメイジングマイティ』。


「やはり、エネルギーはヤツに力を与えるだけ。ならば肉弾戦ならどうだ、」


 スーパー1に向け顎を振るだけのDD。

 スーパー1跳躍。


「スーパーライダーぁぁぁぁ月面ンンンンンンンキッッッッィィィィクゥ!」


 宙でポーズを決め、次いでムーンサルトしてクウガに降下、

 無防備にヒッティング、

 だがその瞬間、

 スーパー1のボディが見る見る変色し、クウガ手前で石化して落ちる、

 それがスーパー1の生命活動の最後となった。

 クウガの胸には、スーパー1の足跡が煙を吹いて残るのみ。


「やはり肉体に触れるだけでも変換される。だがダメージは残る。ではこれならどうだ。」


 DD、今度はケタロスに合図を送った。


『CLOCK UP』


 ケタロス以外が悠然とスローにモーションする世界が展開。それは決して雪原の雄大さに合わせているわけではない。


「ライダービート」


 ゼクターを捻って即座に跳躍、宙にあって両足を揃え、全身を伸ばし、腰を広角に折る、くの字になったケタロスはなお宙にあって全身を回転、やや放物にクウガへ降下、

 クウガの首が見続けていても気づかない程の動きでケタロスを追う、それは超感覚の為せる技、

 切断、

 扇状に鮮血が散らばる、

 クウガから腕が一本切り離れ、悠然と舞う、


『CLOCK OVER』


 UUUUUUUUUUUoooooooooooooooっっっ!


 クウガが吠えた。


「やはりダメージは負わせる事ができる、しかし、」


 DDもあっという間に変化した状況を呑み込んだ。


「足が!足がぁ!」


 ケタロスであった。クウガの腕をそぎ落としたものの、その態勢のまま地面に倒れ、起き上がれないでいる。よく見れば両足が硬質に変化して直立のまま動かず、起き上がろうにもできない。仕方なくケタロス、もはや錘でしかない足を引きずって、できる限りクウガから離れようと必死である。


 GGGGGuuuuuuuuuooooooo!


 追いすがって片腕でケタロスの足を掴むクウガ、


 ぉぉぉぉぉぉ、


 見る間に全身が角質化するケタロス、それがケタロスの有機生命体としての最後だった。


「クロックアップで制する事ができんが、これならどうだ。」


 続いてカードを繰るDD。


『KAMEN RIDE KAMENRIDERBLACKRX』


 深緑のスタイリッシュなボディがクウガの眼前に立つ。


「リボルケイン!」


 野太い声を上げてベルトのバックルから『リボルケイン』を取り出すRX。


 JoJoooooooooo!


 既にケタロスを2メートル近いブーメランに変形させたクウガが、振りかざし、吠え、投擲。


「ウェィックアップ!ザッヒーロー!」


 腕組みして唄い出す鳴滝。

 一跳躍するRX、

 クウガ即近に着地、


「与えてくれぇぇぇぇぇ」


 RX背後より迫る巨大ブーメラン、


「黒いボディィィィ」


 身を回転させ遠心力で一旦ブーメランを弾く、


「真っ赤な目ぇぇぇぇ」


 その回転のままリボルケインをクウガ腹部へ、


「仮面ラァァァイダァァァァァブラァァァァェクRXっっ!」


 踏ん張り受け止めるクウガ、

 踏ん張り抉り込むRX、

 腹部を貫通した先から火花散るリボルケイン、


「仮面ラァァァイダァァァァブラッッッッッぁぁぁぁぁぁぁぁクRェXぅ!」


 Fo!


 クウガ吠える、火花が収まる、


「ん!?」


 RX右腕が見る間に変換、硬質化して二の腕へ連鎖していく。


「分かっていた。武器を使ったところで物質の変換は防げない、だが、ここからだ。」


 DDの息が上がる。


「キングストーン、フラッシュっ!」


 上半身の半分が硬質化するも、RX、バックルの輝きと共にボディが元の深緑に戻り、変化が逆走する。リボルケインの火花が再び飛び散った。


「アマダムとキングストーンは、それぞれの世界の重心、つまり等質の力を持っている。ライダーの中でも重心そのものなのは、1号、アマゾン、ブラック、RX、電王、そしてクウガとドライバーを持つ者だけだ。その先を見せてみろクウガ、そこから先が私が望む力だ!」


 RXとクウガの間、

 爆破爆破爆破爆破爆破、


 Doooooo!


「くぉぉぉぉ!」


 DDの叫びに呼応するかのように、両者の間のわずかな隙間にパイロキネシスが何発も弾ける。だがRXは顔面にすらまともに食らいながら微動だにしないでリボルケインを抉り込む。


「見せてみろクウガ、重心の中でももっとも特別な、重心を葬れる、ディケイドを葬れる力を!!」


 Wuuuuuaaaaaっっっっ!


 クウガの右拳が光る、

 RXの胸へ一撃、

 それでも怯まないRX、


「・・・・・・っ、ぉ!」


 だがしかし、徐々に同じ光が胸から拡がり、RXが全身を奮わせて、クウガから離れる、


「それだ、おまえはおまえ自身の世界で同じ2人の重心を葬った、おまえだけがこの世で特別なのだ、その刻印だけが!」


 DDの言う刻印、クウガの紋様がRXの胸からベルトへ奔流を迸らせ、


「ぐっっっっぉぉぉぉ」


 爆破っ!


 雪原に方円の窪みが出来る。

 DDが思わず顔を覆う。

 RXの最期は、キングストーンの内部爆破だった。


「見事だ、見事だぁディケイドぉぉぉ!」


 もはやなんでもディケイドの鳴滝は、眼前の、度重なる爆圧に苛まれ、腕が一本無く、肋骨がむき出し、角も片方しかないアメイジングマイティを指差す。徐にバックルを両手で開き、ブッカーを開いてカードを3枚取り出す。


「そしてこれでおまえを捕獲だぁぁ」


 だが仮面の中で確実に涎が溢れているであろう彼には、背後から近づいてくる者に感づくゆとりは無かった。


「電波投げ!」


「ハ、ぁ~」


 突如宙に舞うDD。数回錐揉みして、雪原を頭から突っ込む。そのまま失神したのだろう、動かなくなる。


「誰だか知らないけど、感謝するわ。ストロンガーの仇は私が討つ!」


 女の声だった。雪原に所々黒の紋がある赤いスーツ、吹雪く大気にミニスカートと露出した腿の肌。テントウ虫を模したその者は、


「電波人間タックル!」


5 カブトの世界 -クロックアップ- その21







「時空渦を起こすには、ハイパーゼクターが必要だ。だが、その制御の為にパーフェクトゼクターと選ばれた3つのゼクターもまた必要だ。それらが揃って電波塔に行けば、思った通りの時間に飛ぶことができるだろう。過去で何かをやり直す事も、未来を見て現在をイジる事もな。」


 士クンが、私のワールドには許容できない猿の惑星みたいな人を連れて帰ってきた。なぜか青いバラを一輪掴んで放さないのが腹が立つ。


「士クン、おかえり。」


 私、この言葉をずっと士クンに言っていくんだろうか・・・


「この錘を担いで疲れた、水か何か無いのか。」


 私、士クンの前で正座して、ステンレスボトルの一本を取って、フタに注いで、士クンに差し出す。なんかいいよね、こうやってるの。


「お婆ちゃん迎えに行ったんじゃないんですか?」


 士クンは私の差し出した容器をごく自然に手にして一気に飲み干した。


「こいつにも出してやれ、ババァの変わり果てた姿だ。」


 ウソ・・・・・

 私、士クンの背をマジマジと見つめる。

 いやいくらなんでも、でもでも、今まで信じられない事ばかりだったし、士クンは背中を見せたままこっちに顔を向けない、なにこの静寂なレスポンス、なんでお婆ちゃんがこんなマントヒヒに!


「嘘・・・・」


「嘘だ。」


 士クンはなぜか唇を富士山型にして言った。


「バカぁ」


 背を思い切り叩いてやる。


「ブェ」


 士クン、さっき呑んだお茶を床にぶちまける。ざまあかんかん。キタネエー。


「何してるんですか、みっともない、」


 私は笑ってみせる。


「カメラが汚れた、」


 怒ってるけど振り返った士クンの眼は笑っている。ようやく士クンの顔が見れた。


「ハイハイ」


 私は私のハンカチを取り出して、あのピンクカメラを首から外してやる。


「もう1度時空渦が起これば、この世は本当に崩壊する・・・・・、渦が全てを呑み込む、分かってるのか、おまえ・・・」


 士クンの目線が、大男に向いた。士クンの眼差しは、目の前の人に対してじゃないここにいない人に向けている事だけは分かった。スゴく悲しそうだった。


「人類滅ぼし尽くして妹を取り返して、だが妹と子供を作ってでも人の世界を再生させようとするだろう。てめえ勝手な事を押しつけて、独りよがりな責任感を振りかざす、あいつはたぶん、そういうヤツだ。こんなに腹の立つヤツはいない。」


 士クンが立ち上がった。


「出かけるんですか?」


 私は少しマヌケかも。


「ババァは、歩いて帰ってくる。アンタの願いは分かったとだけ伝えておけ。」


 そのまま外へ飛び出す士クン。背中を追う私。


「じゃあな夏みかん。」


 私、なぜかすごく不安になる。そんな事士クンに言われた事あったっけ?士クンは背中を見せるだけで何も言ってくれない。


「士クン、忘れモノ!」


 私はそんな口実しか思いつかなかった。

 そんな私達2人の間に、玄関の扉が間に入る。士クンの背中が見えなくなった。


「あの・・・・・、お取り込み中すいません、お水を・・・・、2日飲んでないんで・・・・」


 黙れケダモノ、

 私は親切な事にこのKYの為に黙って囲炉裏のステンレスボトルを指差してやった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その20









 電波塔直下で対峙するライダー。

 周辺の路面は液状化し、その割れた皴からは逞しく雑草が生い茂っている。


『ATTACK RIDE RADAR HAND』


 ダークディケイドに金のグローブが装着される。金のグローブには、ミサイルが備えられ、その手の甲には円形の線画ディスプレイがある。


「電波塔に近づく程に空間が歪んでいる。」


 腕を天に伸ばしてミサイルを打ち出すDD。その視線は眼前の男に注がれている。


「これが時空渦の痕跡か。クロックアップ。」


『CLOCK UP』


 カッパーメタリックのライダーがDDから突如姿を消す。


「この空間でクロックアップとは愚かな。」


 DDもまた消える。超速の残像もなく、透明の喪失感もない、まるで隣の部屋に入るように数歩で消え去るDD。

 DDの視界は廃墟の路上から、河川敷へと一変。


『RIDER BEAT』


「アバランチスラッシュ!」


 得物の短刀を振りかぶる銅のライダー、だがしかし破砕するのはアスファルトの瓦礫、


「無駄だ。別の世界に入ってしまえば、一切の物理現象は伝達しない。時空の支配者である私には、クロックアップなど児戯に等しい。」


 自画自賛のDDが嘲笑する声を、銅のライダーが聞いたのは、得物を打ち付け、半歩後ろに下がったところが、DDと同じ世界だったからだ。


「くそ、逐一景色が変わる。」


 頭を振る銅のライダー。


「仮面ライダー『ケタロス』、時空渦の影響で乱れたこの場所、なまじ倍速で動けばどうなるか、めまぐるしく世界が入れ替わる空間酔いにもはや立つ場所も分からんはずだ。」


 再び横一歩踏み出して消えるDD。

 ケタロスと呼ばれたライダー。右を向けば廃墟が見え、左を向けば砂丘が広がり、背後を振り返れば廃校のグランド。立ち眩みするケタロス、もはや微動だにせず、得物で頭を守る形で構える。


『FINAL ATTACK RIDE』


 どこからともなく音が響いてくる。

 どこからともなく手刀が飛び出してくる、


「捕まえたぞ!」


 だがケタロス、右後背から迫った銀の腕を捕まえ、絡みついて拘束、得物を振り上げボディに一撃賭ける、


『DARK』


「チェンジ、パワーハンド!」


 銀のグローブが突如赤に変わる、

 アバランチスラッシュを受け止められる、 そして逆に首に腕を絡みつけ逆に拘束されるケタロス、


「何者だこいつ!」


 ケタロスはそこで気づいた。自らをがんじがらめにするライダーはDDではない、銀のマスクに微妙に釣り上がった紅い広角の眼を持つそれは『スーパー1』。


『dededeDECADEee!』


 蹴り足が突如出現、

 どこに?

 ケタロスの腹部を割いて、体内から飛び出てくるダークディケイド、


「おまえの名前が!もっともダサぃぃぃぃぃ」


 爆破、

 DDが蹴撃の態勢から遠く離れ着地した直後爆破するケタロス、絡みついたスーパー1もろとも、爆風となってDDを仰ぐ。


「これで、準備は整った。」


 爆心に歩み寄ったDDは、土に埋もれる1枚のカードを手にする。先のケタロスの顔が描かれているカードを。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その19







「まず聞こう、あのソウジという男の妹はどうなった?」


 お婆ちゃん、はやや卑屈に笑みを浮かべた。


「見込み通りだね。だけど、アンタ、そこで胡座かいちゃ、私が育て上げたソウジに到底敵わないねえ。」


 お婆ちゃんはそう言いながら、先に士に倒されうつぶせになった悪漢の背によっこら腰を落とした。ウッと死後硬直の反応ではない呻きを上げなお失神している男。


「自明だ。あいつが妹と口にした段階から気になっていた。在って当たり前の存在、つまり家族だ。この世界のものが手当たり次第に消えていく現象と関係あるのか?」


 士は、ソウジの時もそうだったが、いつも通り対話のイニシアティブを取れない事に苛立ちを覚え始めている。もちろんこの手合いはこれまでにもあった。整然としてやるだけだ。


「この世界がおかしくなったのは、あのけたたましい音で渋谷に降ってきた隕石からだ。この辺まで風と火の粉と岩が飛んできたものさ。世界中、海の向こうもこの国も全部津波に襲われて人が死に、海の底に眠ってた悪い菌が広まって人が死に、人手が無くなって全てに立ちゆかなくなって、まともな生活ができなくなって、世界中飢えと過労で人が死んだ。最後に聞いたラジオ放送だと、世界の半分は死に絶えたそうな。」


 士はこのままこのババアをノセてみるかと思い始めている。


「だが災難はこれからさ。隕石の中からアンタが持ってるそれ、虫が何匹も出てきた。何の為に使うのか分からないままにね。大概人ってのは、そういう時力を見せる為に使うか儲ける為に使う。儲ける事はもうこの世の中じゃできないから、人を従わせようと、どっちみち暴力に走るものがまず来る。次にその暴力から人を守る為に力を使うものが出てくる。必ず力を持った者同士がぶつかり合う事になる。そして、」


 お婆ちゃんは尻の下にへばっている悪漢の頭を杖で2、3度叩いた。男は呻いて意識を取り戻すが、容易に動けない。未だ、足があらぬ方向を向いている。


「オレは、ただ・・・・・、こいつのバイクと食いもんを獲りたかっただけだ・・・・」


「落ちぶれたもんさ。この世の力の全てを手に入れたこいつは、あそこに見える電波塔に昇って、奪った虫の全部の力を出してみた。たぶんこいつ自身知らなかったんだろうよ。集まった力はただ暴走し、世界中のあちこちの空に穴を開けて、建物だろうが人だろうが全てを吸い上げて、そして御覧の通りの廃墟になった。もう半分人が減った。たまたま穴から生還した人間も中にはいてね、違う場所や、昔に戻っちまった人間が何人も出てきた。口伝えに、こいつが起こした天変地異は、時空渦って言われて恐れられたのさ。ひよりも飛ばされてしまったんだよ。気の遠くなる程の時間の果てに。」


「ひよりというのか、ヤツの妹の名は。」


「ソウジとアラタは、こいつに挑んだ。ひよりを取り戻す為に。止めたんだけどね。だけどソウジは聴かなかった。なまじ金色の剣をこいつから奪った事で、なんでも出来ると思い込んじまった。」


「てっきり世界のあちこちで消えかかっているせいだと思っていた。ババアが身動き取れないと思って、ロープやら救急箱やら積んできたんだぞ。」


「バカにされたもんだねえ。そんなこたぁもう慣れっこさ。それより、いつまでもノビてるこの馬鹿たれを家に運んでくれんか。私は自分の足で帰るよ。」


「時空渦は、」悪漢が起き上がった。「おまえが起こすのではないのか?!」


「誰がそんな事を言った。」


「バカだねえ、この子は。本当に。」


 士とお婆ちゃんがほぼ同時に叫んだ。

 お婆ちゃんの尻に敷かれた巨漢の男が、ヒィヒィと泣き始めた。


「ごめん、ごめんよ、おふくろ・・・・、おふくろにだけは、謝ろうと、思ってたんだ・・・」


「母親?」


 驚く士に、杖で何度も頭を叩くお婆ちゃんだった。


「そう、私のただ一人、腹を痛めて産んだ子がこいつさ。だから捜して懲らしめて欲しかったのさ。こいつの父親はかわいい男でね。それなりの幸せにしてくれたんだけどねえ。育て方を間違えちまった。」


 士は悲しい母子を前に、動く事ができないでいる。


「望みはなんだ、アンタが冥土に行く前くらいにはかなえてやる。」


 お婆ちゃんは、よっこら立ち上がって、デニムについた埃を祓った。


「ソウジに会ったら、もう妹は帰らないと懲らしめておくれ。それから、アンタ達を拾ったあの頃、私の半分くらいの背で、アラタと3人して私にしがみついて泣いてたあの頃を思い出せって。」


 士は掌を1度交互に祓った。


「要するに、一発ぶん殴れってこったな。」


 お婆ちゃんと士、互いに高笑いした。だがそれもほんの一時、ほぼ同時に真顔になり、笑いが止み、微風だけが音を立てた。


「バハア、そこまでの事ならアンタはオレをここに呼んだりはしない。」


「アンタが私の期待通りのもんだった時、教えておこうと思った事がある。」


「それは誰にも、この世界の誰にも聞かれたくない事だ。だからこそオレをここまでやってこさせた。それは即ち、」


「アンタは私の期待に見事応えた。二人だけになるように動いてくれた。これから話す事は即ち、」


「アンタ自身に関わる事だからだ。ババア。」


5 カブトの世界 -クロックアップ- その18







 鳥のさえずりさえ聞き取れない圧迫する程スローな流れで、身動きが取れないカブト。

 ヘラクスに絡め取られ、前方からドレイクの必殺弾が発射され、正対する後方よりも同じものが巨大なしゃぼんのように悠然と迫ってくる。

 地面の影が前後に伸びていく中、拘束がややゆるんできた。ヘラクスが十字固めの手を放した。


「死ぬがいい!」


 ヘラクス、仰向けのカブトへまず肘一発、続け様腰から斧状の、カブトと同型のクナイガンを叩きつけ、自らは跳躍、前後の光弾から退避。


「お婆ちゃんが言っていた。」


 アックスのダメージから寝ながらにして、ゼクターへ手を伸ばす。


『1、2、3』


「二兎を追う者は二兎とも取れ。」


 飛来、

 カブト側近に空を割ってジョウントする黄金剣、パーフェクトゼクター。

 柄を握って立ち上がる紅のボディ。

 一閃、

 高速で接近する光弾を寸でで下から縦位置文字、真っ二つに裂くと破裂する光弾、

 次いで自ら黄金剣を地面に差すカブト、


「ライダー、キック」


『RIDER KICK』


 逆サイドから近接する光弾に、柄を握りながらのスピンキック、

 爆砕する光弾、ドレイクへと振り返る五体満足のカブト。


「往生際が悪い。」


『1、2、3』


 そのカブトへ既に3発目のシューティングを構えるドレイク。


「遅い。」


 だがカブト、パーフェクトゼクターの唾を畳み、柄を折り込む。パーフェクトゼクターガンフォーム。


『KABUTO POWER』


 黄金剣の刃先から発射される光芒、

 ドレイクゼクター先端で膨れあがる光弾、

 その光弾を突き破ってくる光芒、

 破裂する光弾、

 ドレイクはその合力した爆発を至近で受け吹き飛んだ。


「ぐぁ」


 頭から落ち、砂を巻き上げながら地面を転がり、さらにはドレイクゼクターが逃げるように宙を舞い除装されるスーツ、生身で泥塗れになりぐったり動かない装着者。


「アナベル!」


 絶句するヘラクス、


「撃つ直前に視界が取れなくなる事、それが欠点だ。」


 カブト、黄金剣を頭上に掲げる。するとドレイクゼクターが自ら寄り添って剣の刀身に留まる。


「アナベルの名誉は、私が守る!」


『RIDER BEAT』


 ヘラクスのゼクターより、得物のクナイガンの幅広の刃へエネルギーが迸る。突進する女の叫声。


「おまえの欠点は、使いこなしていない事だ。奪って間もないのだろうな。本来の持ち主から。」


『DRAKE POWER』


 パーフェクトゼクターより迸る奔流、ドレイクゼクターの二枚の羽根の先に轟く。


「だまれぁぁぁぁ」


 すれ違う、


『CLOCK OVER』


 微動だにしない二人に、一塵の風が流れる。

 カブトが剣を一振り祓う、

 ヘラクスが前のめりで倒れる、


「おまえ、電波塔へ、行く、のか・・・」


 倒れ様ゼクターが離れ、素顔を晒す女の顔が土に付く。


「・・・・・・」


 カブトは、もはや倒れる二人の事など視界には無い。

 ただ遙か先の電波塔があるのみ。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その17







 液状化し、網目のように皴の入ったアスファルトを走破するマシンディケイダー。固めの足回りが災いし、士はやや胃に来ている。

 アラタは4人と言った。ソウジとアラタとあのお婆ちゃん、あと1人いるという事。そして今はいない。

 全ての謎がそこに集約している事を察するのは容易だ。だが、穴だらけの答えを埋めるピースを片手にぶら下げて、あのお婆ちゃんがシタリ顔で微笑んでいるのが、士にとってたまらない苦痛だった。何よりあのお婆ちゃんの意図が理解できながらもそれに乗る以外道が無いのが我慢できない。そして我慢できない性分である事を見抜かれている事も腹立たしい。


「なんだ?」


 起伏を感じながらもディケイダーを走破させていた士だったが、線路との立体交差でマシンを停車させざる得なくなる。地下に潜る形で伸びる舗装路が、上側の線路が崩落して全く進めない。


「歩けって事かババア、・・・・雪、いや花びら、」


 ディケイダーを乗り捨てるつもりで降車し、勢い俯く形になって視線を落とすと、白いモノが一つ路面に落ちているのを見つける。凝視しても溶け込む気配がない。気づけば周囲の地面に白い、いや、やや青みがかったバラの花びらが一面積もるように落ち、見上げると士の頭上いっぱいに花びらが舞い降りてくる。


「私の薔薇に彩りを加えましょう。」


 全てが純白のスーツ、純白のマント、そして純白の高帽子。おそらく白面の貴公子イメージの男子ならこれ以上無いほど2次元ルックだったろう。


「おろか者の紅い血と、屈辱の涙を。」


「哀しい程におまえが言うべきではない台詞だな、変身!」


 だがどこをどう行き違いがあったのか、それを着込む者は遠洋漁業で数ヶ月海に居るような屈強の類人猿系、もしくは穴子さんである。その声もまた鍛え過ぎた肺活量に、退化しつつある喉が耐えられず、豚の首を絞めたようなそれである。

 士は既にバックルを取り出している。


『KAMEN RIDE DECADE』


 ビビットピンクのボディ光るディケイドが理由を聞く事も無く戦闘態勢に入った。


「ディケイド?貴方ですか、また電波塔で時空渦を起こそうとしている破壊者というのは、せいヤ!」


 右正拳突き、その手首に巻かれているリストバンド、いずこから羽音を立てて舞い降り手首に装着される金の『コーカサスゼクター』。


『CHANGE BEETLE』


 自動的にヘクス模様が男の肉体を包み、実体化する金のボディライン。頭部には3つの角が上左右に生える。『コーカサス』、それが男の名である事を士は知らぬまま終わる事になる。


『KAMEN RIDE BLADE』


 金属の分厚い胸板をしたブレイドへと速やかに変身するディケイド。


「この世界のライダーは、もうオレの敵じゃない。かかってこい。」


 そしてブレイドの姿のままライドブッカーの刃を掌でなぞった。


「貴方は戦う前に既に敗北しています。」


『CLOCK UP』


「自分で言うと、品が無くなるんだぜ。」


『ATTACK RIDE MACH』


 消える両者の姿、いやインビシブルではない、動いた直後に抉れたアスファルトの破片がまるで花びらのようにゆらりと舞う、両者の目には。


「ついてこれますか、褒めてあげましょう。」


 ブッカーを前腕で受け止めるコーカサス、


「やはり、身体の全てが加速している。いける。」


 ブッカーを振るいながらも、ディケイドはコーカサスの蹴りを空いた腕で裁く。


「バラが見つめてくれるのは、もっとも強く、もっとも美しいもの。」


 コーカサス、ディケイドの手首に手刀を当て、同じ手で肘をディケイド顔面へ。


「コーカサスだからバラか、」


 ブッカーを落とし仰け反るディケイド-ブレイド。

 そのまま脚を上げ、コーカサス脇へ一撃、 踏ん張って直に受け止めるコーカサス、

 インに入って拳の連打を胸、

 直接受けるも微動だにしないコーカサス、

 コーカサス、ただ一撃の左ニーキック、


「ぐわ」


 吹き飛んでいくディケイド-ブレイド、そのインパクトした胸装甲に足形が付いている、


「バラの花言葉は愛、愛と共に散りたまえ。」


 左腕を高く伸ばすコーカサス、その指し示す方向に空を割ってジョウントしてくるゼクターが一体、そのゼクターは限りなくカブトのそれに近いながらも、全身がグレー、翼も無く、生物感よりもガジェット感がより強い。『ハイパーゼクター』のそれが召喚だった。

 コーカサス、それを腰の左側へ回し付け、胴体部のボタンを押す。


『HYPER CLOCK UP』


 ディケイドが見失った、


「ヒッティングが重く速い、ぉ!」


 見失った事を認知するよりも早く顔面へ激痛が走り、宙を舞ってる事を認知するよりも早くさらに脇に激痛、高架線に自分の型を作ったの理解した時には、既に地に伏していた。だがディケイド-ブレイドの速度が下がったのではない。ディケイドは未だ花びらのように舞う瓦礫が見えている。


「貴方の目的はこのハイパーゼクターだったんですね、」


『MAXIMUM RIDER POWER』


 倒れるディケイド-ブレイドの眼前に敢えて不動の姿を見せるコーカサス、ハイパーゼクターの角を倒すと、ゼクターよりコーカサスの角に向かってエネルギーが迸る。


「なんの、話だ・・・・・」


 ディケイド-ブレイドにとって幸運だったのは、倒れたそこから手を伸ばした位置にライドブッカーがあった事。


「知っているはずだ。時空渦を起こす為には、パーフェクトゼクター、それに適合する3つのゼクター、変身者のカブター、そしてハイパーゼクターが要る。ハイパーキック!」


 コーカサス、右腕のゼクターを捻る。


『RIDER KICK』


 一足、

 一足で間合いを詰めるコーカサス、

 立ち上がるディケイド-ブレンド、

 軸足を液状化した大地に埋めて全身のバネと体重を乗せたコーカサスの左ミドルキック、 ディケイドはバックルに一枚のカードを収める、


『ATTACK RIDE TIME』


 止まった、

 何が止まった、

 舞い落ちる瓦礫が、

 コーカサスの足下の砂塵が、

 そしてコーカサスの蹴り足が、ディケイド-ブレイドに紙一重で止まった。

 ディケイド-ブレイドが、同時性から抜け出した。


「言ったぞ。敵ではないんだ。このコンボはこれからだ。」


 ゆっくりと回れ右して歩み出すディケイド-ブレイド。コンボ、即ちもう一枚取り出した。


『ATTACK RIDE MAGNET』


 止まった時の中で唯一動けるディケイド-ブレイド、その中でもう一つだけ動く、宙を飛んで引き寄せられる物体がある。コーカサスより分離したそれを、ディケイドは後ろ向きのまま掴んだ。


「こっちだけか。」


 ブレイドの像が消えていく。ディケイドに戻りながら、掴んだハイパーゼクターを二本指で摘んで弄ぶ。

 時が動き出す。


「ギグォォォォ!あしァァァァァ」


 動き出す瓦礫、

 静まる砂塵、

 そして動き出すコーカサス、

 だが一つ違うのは、彼の時間はハイパーゼクターの喪失で、急激に減速、力の三つの法則がコーカサスを支配してねじり込み、その肉体を限界にまで酷使、ついに軸足が破綻する。思わずコーカサスは転倒。


『FINAL ATTACK RIDE dededeDECADEee!』


 ブッカーをガンモード、ディケイド前面に等身大のパネルが幾枚も縦列に出現、


「考え直しだな。」


 発射される光弾、光の壁を通過する毎に巨大化、コーカサスに向かって一直線、


「何を、したぁぁぁ」


 爆破、

 コーカサスもろとも、路面先の高架の瓦礫まで直撃、炸裂する線路、地下に潜った舗装路が日の光に晒された。


「ゼクターも意志で剥がされるのを抵抗する。」


 金のゼクターを拾い上げる士。装着者の男は白目を剥いて伸びているのに、コーカサスゼクターは傷一つ無い。


「参ったね。アンタに頼みたかった事の内の一つを、こうもあっさりやってのけるとはねえ。さすがは異邦人。」


「ようやく、話せるって訳だな。全てを、ババア。」


 その地下道を潜った先に人影を見えた。

 賺さず翻ってぶら下がった二眼トイのシャッターを切る士。


「美味しい物を食べるのは楽しいが、一番楽しいのはそれを待っている間だ。小僧、ソウジと気が合いそうだね。」


 手製のわらじ、端布で作った足袋、端布で繕ったデニム、二羽織、指先の空いた軍手、タオルで巻いた頭。そしてややしなりがある一本の杖。先に遭った時とは違うが、それは間違いない、あのお婆ちゃんだった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その16







「風に逆らうと、全てを剥ぎ取られる。いわゆる一つの、えっ・・と」


 2,5次元の顔立ちをした長身の、とりわけ足の長さ、いやへその高さが尋常じゃない男が立っている。その腕には、トンボを模した銃型のゼクターが握られている。


「寝た子を起こす、かな?」


 もう1人の女はそれに負けていない劇画調のメリハリあるボディにやはりスレンダーな足を網タイツで強調している。右腕には銀のリストバンド、そしてそれにいずこからともなく現れ付帯するヘラクレスオオカブトを模したゼクター。


「そう、それ・・・・かな?」


「ご託はいい、オレは急いでいる。」


 そのお似合いの2人の前に立つのは既に変身したあのカブト、ソウジだった。


「名前を聞いておこう。ボクはアナベル加藤。彼女はボクにメイクアップされる為に生まれてきたチリだ。」


『CHANGE DRAGONFLY』


 イケメン加藤の変身した姿、トンボをモチーフにし、左胸から右肩へ流れる銀の羽根が光るその名も『ドレイク』。


「おまえがカブトだな。ライダーを次々と倒してゼクターを集め、また“時空渦”を起こしたいのか!」


『CHANGE BEETLE』


 パーフェクトボティチリの変身した姿、ヘラクレスオオカブトの頭部そのままの銀マスク、その名も『ヘラクス』。


「名乗りというのは、対等と認め合って始めて交わすものだ。おまえ達に名乗る名前など無い。」


「ほざけ!」


 カブトと同じ形状のクナイガンをガンモードに連射しながらヘラクスが突進、


「それを奪ってまだ間もないな。」


 跳弾に微動だにしないカブトは、対手のチャージを眼で計っている。

 ヘラクスは連射を止め、アックスへ変形させながらそのまま突進、

 カブト、動かない、

 ヘラクス、アックスを前腕のかぎり振りし切る、

 カブト、片腕で受け止めると同時にヘラクスを柔軟に流す、

 ヘラクス、カブトの後背まで傾れ込んで美脚をすり上げカブトの頭へ、

 カブト、上体だけのスウェーで躱す、

 なお縋り付くヘラクス、

 なお躱すカブト、


『1、2、3』


 もみ合うカブトとヘラクスに、銃口を向け、後部グリップを引くドレイク。


「ライダーシューティングっ」


『RIDER SHOOTING』


 ドレイクゼクターから紺碧の巨大光球が放たれる。質量感と速度を兼ね備えた破壊力がカブトに迫る。


『CLOCK UP』


 カブトが同時性を破綻させ、姿を消す。


「させん!」


『CLOCK UP』


 やや腕絡みのヘラクスもまた超速の彼方へ追う。

 砂塵の粒の流れが一つ一つ目視できる世界、ドレイクの放った光球が亀のように近づいて、ゆっくりとヘラクスに影を差していく。

 超速にしてなお対手より優位な俊敏さをもって一撃離脱を繰り返すカブト、

 その場から動かず上体の動きだけでその連続攻撃を裁き、ついにカブトの右拳を掴むヘラクス、

 左をフック気味にリバーへカブト、

 その左を脇で挟み込み、身動きが取れない状態にした上で脚をすり上げカブトの頭へ巻き付ける、そうして軸足をも浮かせ、全体重でカブトを押し倒し、右腕を両足で固めに入る、


「そうやって男を落としてきたのか?」


「煩い!首をへし折ってやる!」


 そのゼロ距離での柔軟なボディにしてやられたカブトは、左腕が外されても身動きがもはや叶わない。


「ボクを忘れないで欲しいな。」


 それは光球迫る逆サイドからの声だった。既にクロックアップの域に入ったドレイクが立ち、絡む両者に向けてゼクターを構える。


『1、2、3』


「ライダーシューティング」


『RIDER SHOOTING』


 同じ紺碧の光球の前後挟撃、それがドレイク最大の技だった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その15







 士の足が細かい砂利を踏むごとに苦い音を鳴らす。川から土手に直角に水路を造り、コの字に曲げてまた土手に穴を開けて水を帰す。コ字の内側は大きなログハウスであり、おおよそ母屋、物置、そして網で囲まれた家畜小屋がある。網の内側で独特の臭みが漂い、甲高いテンポの鶏のさえずりが聞こえる。玄関前には干したばかりの魚が十数匹、鼻に水の臭みを差してくる。


「やあ、ずいぶん寝ていたらしいな。」


 母屋の木戸の意外な重さを感じなら、徐々に中の情報が士の目に入ってくる。一段上がってすぐに囲炉裏があり鉄鍋が天井から吊り下げられている。囲炉裏の側近には大きな葉でくるんだ弁当らしいものが4つ。ステンレスボトルが4つ。窓は士の立つすぐ横に一つ東と西に一つずつ、北側は3つ扉が見える。

 中に人はただ1人。未だ背中を見せて、魚を1枚1枚捌いている士の知る人物がいる。今日のスパッツは白。靴下は黄色。だが一本だけ。グルグル巻きに固定された包帯がもう一方を覆っている。


「ん」


 ぎこちなく顔半分だけパッと向けて手に掴んだトゲ抜きを振った光夏海だった。


「このヤロ」


 突如夏海の背後からネックハンキング、


「ナニなに、子供みたいなマネして、」


 士の腕を必死にタップしながら藻掻く夏海。

 士はニヤつきながら自分の頭を夏海の髪の毛に近づける。


「泣いた顔だ。」


「泣いてません、」


「泣いたね。」


「泣いてませんってば。」


「ここ2日オレを看病して、オレに何かしたろ。正直に言えこら。」


「してません、士クンの世話はお婆ちゃんがして、私は、士クンの裸なんか見てないですから!」


 というところで不自然にならないように用心して両手を放した士は、囲炉裏の一辺に座り込んで、笹葉の包みを二つ取る。


「もう昼だろ。玄関に太陽が差せば昼だ。」


「いいです、二人が戻ってからにします。私は、あと10枚小骨を抜かなきゃいけないんです。お婆ちゃんに言われているんですから。」


「ふ~ん」


 二人の会話はそこで止まった。

 士は適当に家屋の配置を眺め、夏海は依然干物作りに没頭している。

 二人になるシチュエーションが世界を巡ってからそれほど無い。もちろんそれは二人の脳裏に浮かぶあの笑顔の似合う彼のおかげである。


 グロゴロ、


 転機が訪れるのは夏海のお腹。


「怪我人は我慢しない方がいいぞ。」


 板間に包みの一つを滑らせ渡す士。


「士クンが、どうしてもって言うなら、」


 と足を引きずって体を囲炉裏に向ける夏海だった。


「あのアラタとソウジ、それからお婆ちゃんというのは何者だ?」


 包みを取るとにぎりめしが2つ、ぬかで漬けた大根がふた切れ、ゆで卵が一つ。

 士は意外に豊かな塩だけのにぎりの味を噛み締めながら、ただ大根を噛む夏海の表情の変化をジッと眺めていた。夏海はしかめた顔で士を見つめ返す。


「お婆ちゃんから言われてるんです。士クンにヘタな事しゃべるとなにするかわからないから、大事な事は私が言うって。」


 まただ。


「爺ぃもそうだが、よく1日2日遭ったばかりのやつの言う事を鵜呑みに出来るな。」


 士は卵の殻を剥き始める。1度上端と下端だけを取る。薄皮も剥く。そうしておいて卵を両掌で覆って一息、両手を拡げると、どういうわけか卵と殻が二つ分かれている。


「・・・・・・え?」


「おまえのもやってみようか。」


 唖然とする夏海に、ドヤ顔の士が夏海の卵を指だけで要求。

 再び息を吹きかけものの数秒で卵の殻と中身を分離する士。夏海に渡しドヤ顔のまま自分の卵を一呑み。夏海もまた細かく細かく卵を食べつつステンレスボトルの茶を士の分も開けて用意する。


「士クンが吹きかけたもの食っちゃった……」


 そうして卵を全て茶で流し込んだ後に気づく夏海だった。


「お婆ちゃんとやらはどうした?」


「薬草を採りに朝から。お婆ちゃんが私の足、毎日湿布で薬変えて固めれば、軽いから一週間くらいでなんとかなるって。だから、大量に要るって。」


「軽度って事だろうな。骨折じゃなかったのか。」


「それよりさ。士クン、」夏海の眼がキラキラと輝いた。「お爺ちゃんと、あのお婆ちゃん、なんだかいい感じじゃないですか?」


 こういう時ユウスケなら、同じように眼を輝かせて頷いただろう。しかし士は怪訝な顔しかしない。


「爺ぃには爺ぃだけの旅があるんだな。考えた事も無かった。ユウスケも自分の八代を見つけたら、オレ等と本当の意味で別れる事になる。旅の目的を果たしたら、」士は1枚のライドカードを取り出す。例の8つのシンボルが輝く正体不明のカードを。「こういう小屋を建てて、自分の食う分だけ作って暮らすのも、まあ悪くないか。」


 眼を見開いて士をマジマジと眺める夏海。


「二人で、ですか・・・・」


「これおまえが握ったのか、」


「え?」


 突如怪訝な顔で掴んだにぎりめしを突き出す士。


「石みたいに固い。」


 なぜか突然食べ物の味にクレームをつける士。


「一生懸命アツアツ我慢したんですから、そのくらいイイじゃないですか、」


 逆ギレしだす夏海。


「いいか、ここは味つけに手軽にスーパーで調味料なんて出来ないんだぞ。味を損なわないようにだなぁ」


「二人とも顔を合わせると元気になるんだねえ」


「お爺ちゃん~」


 士と夏海が半座状態で激化したちょうどその時、平和なる事最果てまでも光栄次郎が帰ってきた。


「オレ1人に運ばせるなんて聞いてませんよぉ」


 と後ろからアラタがザル一杯のアユやウグイを抱えて帰ってくる。

 栄次郎は囲炉裏の士と夏海に割って入る形で間に座り、早々とにぎりめしを頬張り始める。


「お爺ちゃん、そんなにガッついたら喉詰まらせるよ。もう年なんだから、・・・ホラ言わんこっちゃない。」


「いやあ、獲りすぎですよ。お婆ちゃんが言ってました。過ぎたるは及ばざるがごとし。オレもやったんですよ。いっぱい釣れるからいっぱい釣っちゃって、そしたらお婆ちゃんにこっぴどく搾られて。来年獲れないじゃないかって。」


「お爺ちゃんがごめんなさいね。」


「その婆さんはいつ帰ってくるんだ?」


 と故意なのかアラタの方へ向かって話を振る士と夏海。結局その日が終わるまで2人は目線を交わす事が無かったのである。


「お婆ちゃん?南西の方角に昔動物園だったところがあって、そこを道なりに行った平地だったかな。そこに薬草が生えてる。お婆ちゃん歩いていったから、たぶん夕方だろうな。」


 そういうアラタをあっけらかんとした表情で栄次郎が見やった。


「私ゃ山って聞いたよ。昔大学が二棟あって、今じゃ廃墟になってるとか。」


「ほう」


 その栄次郎の発言に、食べかけのにぎりめしを残して士が立ち上がる。


「士クンどうしたんですか?」


 もちろん夏海は、食べ残すなという意味が含まれている。


「デートさ。誘われたら断れないだろ。」


 士以外の3人は唖然とした。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その14







「いやいやいや、スゴイねしかし、」


「爺ぃ!」


 釣り竿片手に栄次郎が士の元へ駆けてくる。


「そうか、士君もようやく歩けるようになったかい。夏海もあっちの小屋でもう働いてるよ。」


 釣り竿を士の方へと手渡し、一件の家屋を指差した。家屋はあり合わせの木で作った、先程士が寝ていた裏手の小屋よりはるかに大きい、同じ土手を背に、引き込んだ川の水に囲まれた中にある。アラタは小屋の端側にある扉を開けて中に入った。おそらく物置なのだろう。

 士は栄次郎に顔を近づけた。


「爺ぃ、こいつらはどんだけオレ等の事を知ってるんだ?」


 栄次郎は掌を何度も振った。


「そんな事気にする人じゃないよ。第一、あの人に隠し事なんてできゃしない。」


 なぜかニヤニヤとする栄次郎だった。


「どんだけ骨抜きなんだ。」


 むしろあの『お婆ちゃん』への警戒を強くする士だった。


「それより、どっちか来てくれないかな。彼女から聞いたポイント行ったら、釣れる釣れる、ウハウハだよ。持ちきれなくて、向こうに置いてきてしまったよ。手伝ってくれないかな。」


「お婆ちゃんに釣り過ぎるなとあんなに言われてたじゃないですか。」


 農具を小屋にしまい込んでいたアラタがいつのまにか士の側近に立っていた。


「分かったオレが行こう、」


 まだ情報が欲しい士は、栄次郎の来た方向へ歩を進めた。だが今回は足が言う事を聞かなかった。歩き慣れぬ起伏細かやかな砂利に片足がつまずいて転びかける。

 アラタが手を掴んで軽く笑った。


「やっぱりお婆ちゃんの言う通りだな。そろそろ起き上がってくるから、変な無理をさせずまずメシを食わせるようにって。君はとっととあの小屋でメシを食うといい。オレが行ってくる。」


 士は口を開きかけ食い下がろうとするが、その士の眼前に栄次郎が手を入れた。


「助かるよ、30匹も釣ってねえ。」


「そりゃスゴい。もう干物は昨日釣った分で十分だから、今度は擂り身にでもするかなぁ。」


 もはや士には2人の背を黙って見送るしかなかった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その13







『私の記憶を返して!いったいどうして!どうして!』


『今度は何を忘れさせたの!どんなに忘れても、貴方なんかに心を挙げません!貴方みたいな悪魔に!』


『ごめんなさい・・・・、何も覚えていないんです、貴方に頼るしかなくて・・・』


『貴方はとても厳しい方ですけど、時々かわいい顔をなさるんですね。』


『子供を返して、どうして貴方の子を産んじゃいけないの!そんなに人が怖いの!』


『あの、はじめまして、夏海っていいます。さっきお爺さんが私の事そう呼んでて、ごめんなさい。何も思い出せなくて・・・』


「ここはどこだ・・・・」


 士が目を覚ましたその部屋は、裸電球だけがユラユラと揺れる、壁の隙間から日差しが漏れる暗い部屋だった。

 寝床から素足を下ろすと、ミシという鈍い響きと共に弾力が伝わってくる。

 用意され丁寧に畳まれた服を下着一つの体に一枚一枚着つけ、ジャケットを羽織って二眼トイを首から下げる頃には、部屋からのコケの匂いが嗅ぎ取れる程度になった。


「水の流れる音がする。」


 立ち上がり、小屋の扉を開けると、強烈な日差しに目を覆った。光は空と川の両方から士の目に差す。

 近くに川が流れているどころではない。そこは、川岸の橋の下に立てられた小屋。橋は中央が陥没し渡れないようになっている。川岸は本来砂利が多いはずなのだが、士が踏む小屋周辺の土は細かい砂利で丹念に均されている。

 小屋が面した堤防には大きく人が通れる程の穴が左右2つ開けられて、川の水が引き込まれている。


「水を引き込んで戻している。」


 士が上流側の穴に入る、先に光が見える。流れに沿って歩いていくと、堤防の反対側へすぐに出る。


「畑・・・・あいつは、」


 手前には刈取りの終わった稲田があり、やや離れて根菜が植わっている畑がある。


「よお、やっぱり似合うな。2日で起きたか。ソウジが面倒をかけて済まない。最初に言いたかった。もう動いて大丈夫なのか?」


 畑に桶で水を蒔いているのはあのアラタ。


「おまえはどうなんだ、」


 そこで士、トイカメラで1枚。


「お婆ちゃんが言っていた。日課が一番体に良い、だ。」


 彼も『お婆ちゃんが』だった。


「ここはおまえの畑なのか?」


 士は足下の大根の穴だらけの葉を掌で挟んだ。


「いや、お婆ちゃんの畑だ。それより、なんでソウジと戦ったりした、危ないじゃないか!」


 冷ややかな目線の士。


「おまえは危なくないのか、」


「オレはいいんだ、オレはあいつと幼なじみだからな!」


 そう推測はしていたが、話し辛いヤツだと士は確信した。


「ヤツも近所に住んでいたのか。」


 真南に上がった太陽を感じ、士は自然植わっている大樹の陰にもたれ掛かる。


「この一帯で人はお婆ちゃんに助けられた俺たちだけだよ。お婆ちゃんは時々ボケて、隣りのヤマグチさんとか言い出すんだけどさ。昔平和だった頃の記憶が混濁してんだろうな。」


「いっしょに住んでたのか?3人で。」


「いや、4人だった。もうオレとお婆ちゃんの2人になったけどな。」


「ヤツはなんで、ライダーと戦うようになった?」


「それは、いや、詳しい事はお婆ちゃんからする、オレは余計な誤解を蒔くから、その話はするなってお婆ちゃんから言われてんだ。」


 士があの、どこにで居そうな“お婆ちゃん”に興味を持った最初だった。


「ふーん、もう1人はどうした?」


「・・・・、それより、そんな暑そうなところに突っ立ってるより、お婆ちゃんとこにいって、昼を食べよう。」


「暑い?・・・・」


 士はいつのまにか自分の周りに影が消え、あったはずの大樹が喪失している事に気づいた。


「いくぞ、覚悟しておけよ。お婆ちゃん動ける事知ったら君に仕事言いつけるからな。」


 アラタの笑いに不自然さがない。


「ここの木が消えたのを見たか?ここではそんなこと当たり前か?」


 アラタが指差して笑った。


「君、いっしょの女の子もそんな事言ってたけど、頭打ったのかな?それともオレの見えないものが見えるのか?」


 始まっているのか、ここも、


「オレとアレの流行り遊びだ。逢おう、そのお婆ちゃんとやらに。」


 士は分かるはずのない人間に説明をしない。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その12







 荒廃しセンターラインも途切れ途切れに液状化した3車線高速道。


「仮面ライダー、ブラック!」


「カメンライダーセイレーン!」


「漢は黙って斬鬼!」


「あんまりキャラが違うけど、今の君を倒す為だったら、このくらいの措置は必要だろう。」


 ディエンドは3人のライダーを召喚し、自らも照準を、路上センターラインを跨いで立つライダーへと定めた。

 ただ一人、紅のボディ、顔の半分の面積を占める赤い複眼、額には短く金の2つの角、


 ぉぉぉぉぉぉぉ!


 それは紛う事無き赤いボディの、全身にやや金縁の増えたクウガである。が、目に光が無い。


「ライダーッパンチ!」


 ブラックの飛び込むような攻撃、

 クウガ、合わせ拳を突き出す、ブラックの顔面に入る、絡みつくように胸板に入るブラックの拳、

 弾き返されるブラックの肉体、宙にある事が災いする。

 不動のクウガ、その姿になんの感情も見えない。だがダメージがないわけではない。胸元に拳の形がくっきりと残っている。だがそれでも感情が見えない。


「やはり人格がそのベルトの重心にもみ消されたようだね。良かったよ。うっとおしかったんだ。ある意味士よりもね。」


「勝たなくちゃいけないんだ!」


 既にセイレーン、細い四肢を軽やかに動かしクウガとの間合いを詰め、ウィングスラッシャーを慣性に乗せている、その先端は音速に匹敵する両刃のラッシュ。

 クウガ、蹌踉けながらも無言で受け止め続ける、

 軽やかなステップでサイドからバックから多角的に攻撃を持続するセイレーン、

 重心を揺すぶられ、足下のおぼつかないクウガ、


「音撃斬!」


 野太い叫びで『烈雷』を突き込んでくる斬鬼、


「ライジングフォームの変態は、レアなお宝だよねえ。」


 だがしかし全身硬質化し紫のボディに変化するクウガは、胸に食い込んだ烈雷を金切り音を響かせて引き抜き、剣状に物質変化、現象にたじろぐ斬鬼から得物を奪い取る、


「甘いわっ」


 その背後から足を払おうとするファム、

 振り返り様青くボディを染めたクウガ、剣をさらにロッドに換えてセイレーンの軽快な動きに併せて一度薙ぎ、後背から縋り付こうとする斬鬼の鳩尾を見もしないで突き刺す。


「教えてやろう。君や士がいくつもの力を併せ持ったとしても、それぞれ力を持った者をいくつも召喚できるボクの敵じゃない。」


 乱射、ことごとくクウガのボディにヒット、それはやや距離を置いて傍観していたディエンドからの銃撃、

 たじろぐクウガ、ボディを緑に変えるも、側近のセイレーンからロッドを弾かれ腹打ち、項垂れるも無理矢理背後から斬鬼が羽交い締めに拘束、


「ライダーぁキッック!」


 そこへブラックが戦線復帰、拘束されたクウガ胸元へ蹴り足を向けて跳躍降下していく。


 ヴヴヴヴヴヴ


「あれがアメイジングマイティ。」


 クウガが吠え、ボディが黒く変色していく。


「足が、足がぁぁぁ!」


 だがその背後で羽交い締めする斬鬼もまた奇妙に変貌していく。まずクウガと密着した腕から胸が石化していき、上半身からあっという間に下半身がアスファルトと密着、最後に断末魔を叫ぶ顔がくすぶった色になって黙り込む。もはや口を聞く事など無い物質変換が完了する。


「うぉぉぉ!」


 そこへブラックの足がクウガのボディに入る。

 不動のままのクウガ、むしろ背面の石像が粉々に砕け散る。


「放せ!」


 そして不動のままクウガは、インパクトしたブラックの足首を掴んでいる。ブラックの足裏は、クウガのボディと癒着して違うモノへと変化していっている。


「ナニモンなんだ、おまえ」


 狼狽えるセイレーンはそれでもスラッシャーを繰り出す。

 クウガ、胸から生えた石の棍棒のようになったブラックを胸元から折ってセイレーンに叩きつける。


「うっ」


 と咄嗟に頭を庇うセイレーン。叩きつけられる石の塊は液状化してセイレーン全身に浴びせられ、

続いてセイレーン全身に纏わり付き、喘ぐセイレーンはついに身動きの効かない程硬質の物体に拘束される事になる。


 一撃するクウガ、

 首が前から後ろへ流れていく、


「ついに覚醒が始まったか。」


 焦ってドライバーを連射するディエンド。 目元を庇う形で身構えるクウガ、やや後退。


「触れた瞬間物質変換するなら、触れさせないまでさ。」


 ディエンドが間断なく光弾をクウガへ浴びせ続ける。

 クウガ、目元から手を放さず反対の腕を伸ばす。


 発火、


「何!?」


 それはディエンド顔面至近、

 突如起こるパイロキネシス、

 手元の空気を急激に物質変化させ息を吹くように飛ばす、

 もんどり打って後頭部から倒れるディエンド、


「もはやボクの事を覚えてもいないだろう、さっきの異世界の住人達のように、殺したまえ。」


 頭を振って、上を眺めると、2本の角を生やした影がディエンドを見下していた。

 やがて影から手が伸びてくる。ディエンドの首を掴もうと。

 しかしその手が止まった。


「ヴヴヴヴ・・・・う、ぉ!!」


 黒のクウガ、突如頭を抱え苦しみ出す。

 跳躍90メートル。

 一瞬で上空の点となってクウガは逃げ出した。


「やれやれ、根性が無いなぁ彼は。士と違った意味でうっとおしい。」


 起き上がるディエンド。

 しかし声のする方向はディエンドからではない。それでいてディエンド、海東大樹の声だった。


「身代わりを用意したのにね。」


 そして無空より現れる、インビシブルを解いて現れるもう一人のディエンド。それはイリュージョンでは決してない。

 先程起き上がったディエンドの像が惚ける。霞んで入れ替わり現れる緑のボディ。コピーベントが今解除された。


「仮面ライダー、ベルデっ!」


「やりたかったんだね。ハイハイご苦労さん。」


 そしてベルデ自体も消失、残るはディエンドだけになった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その11









 士クンは、私の気づかないところで、私を護っていてくれたのかもしれない。

 もしかして、私の夢みたいに、本当に誰かを庇う為にこの人は、自分の身を捧げたのかしら・・・・。


「……泥が顔に付いてる。」


 士クンがようやく眼を開けた。片腕を上げて、私の頬を親指で擦った。


「おはよう。士クンこそ泥だらけです。」


 士クンの頭を膝に乗せて、私は見下ろす形で士クンのマヌケな顔を眺めている。まだまだ寝顔は幼い男の子なのだ。


「イタ」


「ごめん」


 私も士クンの頬に指を当てて乾いた泥を拭った。少し擦り傷に触れたようで、士クンは咄嗟に顔を背けた。でもそうやって動くと、私の足にも響くんだぞ。


「ヤツはどうした?」


 頭を膝に乗せたまま、士クンは聞いた。


「あの塔の方へいっちゃった。」


「あの気絶していたヤツは?」


 私は真反対に指差した。


「うん、大丈夫だって、助けを呼んでくるから動くなって。」


「・・・そうか、やはりな・・・・」


 士クンはうつろな眼で私の顔をジッと眺めていた。ていうか目の前に私の顔があるのかもしれない。私はそんな士クンの眼をずっと見返して、士クンが何か言うのを待った。


「得られるものと得られぬものが定められ、得られるものが当たり前に隣りにある事、それがヤツの天の道か・・・・」


 なにほざいとんじゃこいつ。


「士クン、これからずっと私達、二人っきりなんでしょうか・・・・」


 私は、何を言っているんだろう。


「そうかもな。」


 士クンは私の眼をじっと見ている。


「ねえ士クン・・・本当は・・・」


「おまえ、髪の毛が鼻にかかる。」


 士クン、煩わしげに寝ながら私の垂れた髪をかき上げ、そのまま手を私の首の後ろへ回して、半身起こした。でもお互い眼を逸らす事ができなかった。


「なにそれ」


 私は軽く笑ってみせた。


「昔飼ってた猫に似てるな、おまえ。」


「思い出した?」


「・・・・いや。」


「またぁ」


 私は首に触れる士クンの掌の感触が心地よかった。夕日は、私達を暖かく包んでくれるよう。このまま夜になれば、私はどうなっちゃうんだろう。

 でも中断だっだ。


「ユウスケも捜さんといけない、やる事はいっぱいある。こんなところで寝ているわけにいかない。」


「ユウスケ・・・・」


 私はすっかり忘れていた。そして胸の中で何かが後ろめたくなった。士クンに何か吐き出そうと思ったけど、それも何か悪い事をする気がして、行き場の無い後ろめたさが私をうつむかせた。


「どうした夏みかん?」


 ちょうど、エンジン音が聞こえてきた。士クンの注意がそちらにいってくれた。


「迎えだな。」


 遠くから砂煙が上がってるのが見える。


「車?」


「いや、あれはオレのだ、」


 確かに士クンのバイクだった。でも後ろになにかくっついてる。たぶんあれは荷車。そして運転してる人は、ボールを半分切ったようなヘルメットに、眼鏡の親分みたいなバイザー、茶色い革ジャンに黒い革手袋。ものすごくアメリカンなスタイル。もう一人いる。同じ格好で運転してる人にしがみついている。


「やぁ、士君、夏海、無事だったかい?」


「この世界に来てたのか。」


「一人でいたらねえ、突然タペストリーが降りてきて、びっくりしたよ。ひとりぼっちになったのかと思ってねえ。」


「お爺ちゃん・・・」


 ずいぶんハイカラな格好してるそれは私達のお爺ちゃんだっだ。


「その婆さんは誰だ?」


 士クンは、いっしょに乗ってきた人を指差した。なんだかお爺ちゃんとすごくお似合いなお婆ちゃんがお揃いのヘルメットを脱いだ。


「この子はいきなり初対面の目上を捕まえて、なんだいその口ぶりは、親の顔が見たいね。英ちゃん、この子にどういう教育してんだい、」


 お爺ちゃんが士クンとその人の間に入って右往左往している。ああ可哀想だけどなんだか様になってるお爺ちゃん。

 私達が、その人こそはあのソウジって人のお婆ちゃんだと聞かされるのは、それからお婆ちゃんの家に着いてからの事になる。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その10







「オレは太陽の子、仮面ライダーぶらっぁく!R!Xっっ!」


「太陽が本当に認知したのか!」


 湖面。

 波紋を立てて対峙する者が二人。一方はスリムな黒いボディ、真っ赤な眼の仮面ライダー。そしてもう一人は萎びた帽子に汚れた黒縁眼鏡だけを身に纏うあの鳴滝。


 フハハハハハハハ


 高笑いする鳴滝はそのままへそを隠すようにバックルを充てる。


「変身」


『KAMEN RIDE DARK DECADE』


「おまえはクライシスの一員か!リボルケイン!」


 水面が荒れる。


「フハハハ、やはり最凶のライダーだな。答える前に既に抜いている。だからライダーはどうしようも無いのだ。」


『KAMEN RIDE SHOCKER RIDER』


 カードをバックルへ装填、虚空より何人もの1号に似たライダー、似ているなどという次元でなくまさにコピー。ブーツは黄色、マフラーはそれぞれ黄、白、緑、青、紫、桃。6人のショッカーライダーが、水面をケバ立たせRXを全包囲する。


「ギッー」


「ギッー」


「RXっパンチぃ!」


 入り乱れながら拳を交える7人。そう、DD(ダークディケイド)はそれを傍観している。


「そうやってライダー同士つぶし合えばいいのだ!」


 そう言いつつもカードをバックルに収め、ブッカーをガンモードにするDD。


『ATTACK RIDE BLAST』


 乱射するイエローの弾丸、


「ギッー」


「ギッー」


 DDの放つ光弾はショッカーライダーもろともRXに振り掛かる。


「いまだ!」


 ブッカーの弾で蹌踉けるショッカーライダー6人。それを見たRX、乱戦の中から飛び出して、6人のライダーと距離を置く。


「ギッー!」


 とRXに反応して追随できているライダーは4人。再び取り囲もうとする。

 右から襲い来るショッカー桃に右肘を見舞って怯ませ、

 左からの緑の手刀を左二の腕で受け、

 同じく左から拳を見舞おうとする青をその同じ左の前腕で交差して抑止、

 そして空いたリボルケインを黄色のショッカーライダーに刺す、


「ギっっっっっ!」


 刺さったショッカーライダーの背から火花が飛び、一気に過熱爆破、四方一帯を爆炎と飛沫に塗れさせる。


「一体と差し違えたかぁ」


 傍観するDDが狂喜したが、その感情は即座に驚愕へ変わる。

 瞬時にかき消える炎、音を立てて落下する飛沫、水蒸気のモヤが徐々に晴れていき、4人の人影を晒していく。

 その中の一人、黒と黄色で彩られ、全身が明らかに金属質の鎧で包む、その見た目から伝わる重量感、


「RX!、ロボ、ライダー!」


 瞬間変身によって至近の爆風をRXは耐え切った。


「ロボパンチ!」


 未だ火照る金属の両腕を一関節一動作ずつの動かし、ダメージを負った桃を弾き飛ばし爆破、


「ボルテックシューター!」


 やはり右腕を一関節ずつ順に動かし右太腿に回すと光が結晶化して銃の形状になる。それを残った2人のライダーに向けると、銃から扇型に光線が発射。


「ギッーッッッ」


 2人もまたダメージの蓄積から爆破、その至近の火を受けてなお不動のロボライダー。


「ボルテックシューターっ!」


 その火に巻かれながらもDDと残りのライダーにハードショット。


「ぎぉぉぉ」


 緑のライダーが爆破、白のライダーはその爆風に塗れながらも転がるようにロボライダーとの間合いを詰める、DDはショットのエネルギーが身に蓄積し藻掻いている。


「ギッーッ!」


 最後に残った白のショッカーライダーがロボライダーに組み付いた。


「ん?!」


 その重量感と引き替えに俊敏さを著しく抑えているロボライダーは易々と懐に入られる形になる。


 吹き出すガス、


「ぐぉ、毒かっ」


 ショッカーライダーのクラッシャー、首元、ブーツの隙間、割れ目という割れ目から毒煙が吹き上げてくる。

 ロボライダー、それでも辛うじて絡みつくショッカーライダーを振り払う、しかしその様態は明らかに神経に来て足がもたついている。


「ギッー!」


 それを見届けた白ショッカーライダー。高々と右腕を上げ、一際声を荒げ自爆。


「よくやった。」


 既に回復しているDDがブッカーをソードへ。


『FINAL ATTACK RIDE DARK dededeDECADEee!』


 DD前面に光の壁が幾枚も出現、次々と体ごと突き抜け、向かう先は苦しむロボライダー、


 空を斬る、


「バイオ、ライダー!」


 DDのディメンションスラッシュ直前、ロボライダーはその身を瞬間変身させ、液状化し宙へとその刃を躱した。そうして液体のまま飛翔、DDの後背に回り込んで実体化、青いボディのライダーとなって両刃剣をベルトから出現させた。


「教えてやろう、このオレに毒は効かん。体内で免疫を作る事ができるのだ!バイオセイバー!」


 DDは悠然と振り返る。


「な、な、なんだと!・・・・などと言うと思ったか。私は全て知っている。憎きライダーの事は全てなぁ。フハハハハ。」


 とマスクの中を唾だらけにしながら、カードを一枚取り出す。


『ATTACK RIDE REINETU HAND』


 DDの両腕に緑のブーツが纏わり着く。手の甲に4門ずつの噴射口があるそれは、仮面ライダースーパー1ファイブハンドの1つ、冷熱ハンド。


「バイオアタック!」


 先制に打って出るRX。再び身体を液状化し、正面から肉薄する。


「炎に弱い事も知っている。そして炎を浴びせれば瞬時にロボにチェンジして耐える事も分かっている。だがもう一つの手にはどうする事もできまい!冷凍ガス、発射!」


 左手を突き出すDD。4つの孔から吹き付ける圧倒量の白いガス。それは数センチ先まで近接したRXの全身を凝固し、半歩手前で水面に落下させる。


「フハハハハハ、これだ、最凶のおまえは、マークされ研究されるのだ、ハハハハハ!」


『FINAL ATTACK RIDE DARK dededeDECADEee!』


 直上へ跳躍、そのベクトルと直角に並ぶ数枚の光の壁、ディメンションキックが、凍って動けぬRXに向かって降下していった。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その9








『KAMEN RIDE DECADE』


「ディケイド?」


 ソウジは再び周回するカブトゼクターを手に取る。

 ソウジの眼前で、縦横に9つのシンボルが動き集まってスーツと化し出現。


「拳を交えないと語れないヤツなんだろ?」


 マゼンダのボディが眩しいディケイドが指差す。

 ソウジは、舞う砂煙に目を覆いながらゼクターを構える。


「おまえのそれはスーツか?それともおまえの本来の姿か?変身!」


 それだけ聞いて再びバックルへゼクターを差し込むソウジ。


『HENSIN』


 再び纏わり着くシンメトリカルなマスクド・フォーム。


「めんどくさいスーツだな。」


 ディケイド、賺さず打ち込みに行く。


「設定上の欠陥と言うなよ。悪魔。」


 カブト、あっさり祓って同じ腕でディケイド額を掌底で軽く押す。


「聞いているのかやはり。」


 やや後退りながら態勢を崩さないディケイドは、カードを一枚取り出す。


『KAMEN RIDE FAIZ』


 クリムゾンのライン輝くライダーへ姿を変えるディケイド。


「姿を変える?」


 カブトはガタック戦から通じて変わらない待ちで構える。ディケイドを推し量っている。


「鳴滝の言う事を鵜呑みにしているわけではあるまい。」


 ややアンダーから左を入れるディケイド-ファイズ。


「ああ、実に胡散臭い。だが」


 ワンステップで躱すカブト、土を蹴る、土が跳ぶ、


「なに」


 一瞬ディケイド-ファイズの視界が土に塗れる。だがカブトの目的は相手の攪乱だけでは無い、土だけでは無い、煌めく何かがディケイドの眼前をクルクルと回りながら、カブトの手元に収まる。それは先のガタックが落としたカリバーの一振り。


 一閃、


「ぐわ」


 下から上へ袈裟斬りされるディケイド-ファイズ、宙を回って乾燥した大地に叩きつけられる。


「おまえも胡散臭い。」


 伏したディケイド-ファイズに、一歩一歩質量を大地に載せて近づくカブト。


「考えてみたら、今まで単細胞とやり過ぎたな・・・・」


 ディケイド-ファイズは既に起き上がりブッカーをソードモード、刃を掌でなぞる。


『ATTACK RIDE SPARKLE CUT』


 アンダースローでブッカーを振りかぶるディケイド-ファイズ。クリムゾン光の波が地を走り、カブトへ一直線。


「!」


 浮き上がるカブト、クリムゾンの光が全方位し、もがくカブトの平衡感覚を奪う。


 ディケイド-ファイズ一閃、


 エグれる装甲、割れ飛ぶマスク、胴の銀が光を反射しながら回転し、頭から落下。


「だが、アウェーの戦いは慣れているさ。」


 警戒しているディケイド-ファイズ、

 起き上がり得物のカリバーを逆手に構えたカブトは、バックルのレバーを引く。


「キャストオフ」


『CAST OFF』


 着脱されるオーバーアーマー、中から真新のボディが現れる。


「おまえ、向こうにいる女とは兄妹か?」


 カブト、カリバーを右手に、そして腰裏から『クナイガン』を取り出し、左足を前に出し右足に重心を置く。

 クナイガンを一振り、グリップ部が抜け銃身だけになるクナイガン、いやもはやそれは短刀。露出する蛍光の刃。


「妹?あんなのが肉親だったら、オレは当に禿げ上がってるさ。」


 ディケイド-ファイズは待っていない。カードを一枚既にバックルへ装填している。


『FOAM RIDE FAIZ AXEL』


 ディケイド-ファイズの胸部装甲が開く、フォトンのラインが銀に変色する、これが『アクセルフォーム』。


「ならば遠慮はしない。もはやおまえの敗北は決定だ。」


 逆手に持つクナイガンを振りかぶる、

 10メートル先まで伸びる蛍光の刃、

 ディケイド直撃、

 棒立ちのまま、

 揺らぐ、

 そう、それは既に残像、


「付き合ってやる10秒だけな!」


 視界から失せたディケイドに頭まで両刀でガードするカブト。


「消えた?」


 弾ける破片、

 カリバーの刃が突風と共に砕け散る、

 仰け反るカブト、

 だが左足に重心を残して堪える、


「手数が多いが、結局おまえは奇手だけだ。」


 カブト、カリバーを破棄。


「クロックアップ。」


『CLOCK UP』


 紅のラインを引いてカブトも消える。


「え、何?」


 やや距離を置いて傍観するしかない夏海は、視界に砂塵が舞う風景しかない事に驚く。だがそんな事は序の口だった。


 落とされる、


「ナニぃ!」


 突如夏海の左側近にドスとけたたましい音を立てて出現する物体があった。


「ぅ・・・ソウジ・・・」


 それは先の戦いでいままで伏していたあのアラタという男。


「私に、ナニしろってのよ!士!」


 夏海は足を引きずってリュックに括り付けた荷物の中からとりあえずハンカチだけ取り出した。


「捕まえた!」


 それは、ダブルカリバーが地面に落ちるまでの、一瞬の出来事である。


「捕まったのはどっちだ」


 ディケイド-ファイズがカブト眼前に立ちはだかり、先んじて右拳を繰り出す。

 カブトはそれを軽く制して、同じ腕でディケイド-ファイズの額を掌底で叩く。

 砂塵の流れは無いに等しく、夏海の動きも一つ一つがスロー、そしてカブトの手放したカリバーの落ちる速度もイラつく程スロー。

 だがそれもこれもこの両雄の体感する時間においてのみの現象である。


「くそっ」


 ディケイド-ファイズ、頭を推されながらも反対の拳を打ちに行く。だが上体が反っただけリーチが足りない。


「おまえが先制するのは、」


 ディケイド-ファイズ、蹴り、

 カブト、それを制して懐へ入り、ショートに裏拳を額に、


「ええい」


 仰け反るディケイド、

 追い打ちを掛け胸を打ちにいくカブト、

 左腕でガードするディケイド、

 一旦飛び退くカブト、


「スピードが上がっただけだからだ。」


 カブト、ディケイド眼前から姿を消す、

 ディケイド、振り返る、


「どうかな」


 だがディケイドの左側面から再び掌底で軽く打つカブト、

 ディケイド、腕を咄嗟に出してカウンターを狙う、

 だが既にカブトは消え、ディケイドの拳は空を切る、


「神経は26分の1秒の壁を越えていてない。おまえはオレの行動を読んで動いているに過ぎない。」


 反対側から掌底、頭を揺すられるディケイド、

 振り返る、

 やはりその後背からカブトの掌が伸びてディケイドの頭を揺する、


「だからメットかどうとか・・・」


 ディケイドの動きが止まる、

 カリバーが地に着く、


『タイムアウト』


 棒立ちのままふらつくディケイド-ファイズ、


『CLOCK OVER』


「時間を操作している訳ではない。」


 そんなディケイド眼前に背を向けて現れるカブト。


『1、2、3』


「ライダーキック」


『RIDER KICK』


 そして右足を180度振りかぶる。


『ATTACK RIDE INVISIBLE』


「そう、読みはいいんだ。」


 空を切るカブトの脚、


「芝居か」


 ディケイド-ファイズの姿が虚空に消える。それは超高速運動によるものではない。


「おまえは受けては軽く返しまた受けるを繰り返しながら頭を揺すり、意識が切れるのを狙った。」


「気づくか、そうだろうな。アラタを見ていれば。」


 カブトのボディが衝撃音と共に揺さぶられる。前後と言わず左右と言わず。


「天の道とはなんだ?」


 姿の見えないディケイドがブッカーのブラスターを発射。


「何?」


 その弾丸のわずかな光を見極め、クナイガンで弾くカブト。


「気になっていた。聞いてやる。」


 カブトの装甲が火花散る、見えないブッカーの一閃、


「当たり前である事だ。」


 転倒するカブト、


「当たり前?」


 バック転で飛び退くカブト、飛び退いた跡に土を掘るエネルギー光、


「進む道と進まぬ道を定め、進む道を当たり前に歩む事。得られるものと得られぬものが定め、得られるものが当たり前に隣りにある事だ。」


 だがカブトが飛び退いたのはその攻撃が分かっていたからではない、飛び退いた位置のあるものが落ちていたからだ。


「とんち問答か」


 カブトが拾ったもの、それは自ら捨てたクナイガンの鞘、つまりグリップ、再び装着しガンモードへ切り返える。


「当たり前に在るモノを得る為ならば、天は必要なものを与えてくれる、おまえに勝つ事もだ!」


 乱射乱射乱射、


 カブトが撃つ、ディケイドも応戦する、


「どこを撃っている、」


 カブトの身にマゼンダの弾がいくつも掠っていく。しかしカブトは正対して応射しない。彼が撃つのは地面、光弾が地を抉り、周辺大気温を一時的に上昇、砂塵を巻き上げる。


「おばあちゃんが言っていた。オレが望みさへすれば、運命は絶えずオレに味方する。」


 砂塵は両者の視界を奪う程ではない。やや何かが反射して淡い水飛沫のようにも見える。


「さっきの剣の刃か」


「クロックアップ」


 カブト、クナイガンから3つのレーザー光を発射、それはダットサイト。限りなく直線に照射されるレーザーが砂塵の中を縦横に反射、その格子の中で明らかに人の形を成した何かがいた。ディケイドだ。

 即座に回避にかかろうとするディケイドの像、

 しかし26分の1秒を越える時の世界に突入したカブトにとっては、その動きはカメのようなものだった。


『1、2、3』


「ライダーキック」


『RIDER KICK』


 左を軸にしながらも足先から腿までの力が腰の捻りと体重を乗せて振り脚の右に集約される。


「ぐわっ!」


 インパクトの瞬間、ディケイドが姿を現し吹き飛びながらバックルが取れ、門谷士の生身が落下、地面を転がった。


「オレと対面した時、既におまえの敗北は決まっていたのだ。」


 カブトは、右掌の人差し指を軽く伸ばし、天頂を差し伸ばした。


「本物のファイズなら、こんな事にならなかったさ・・・・」


 士は失神した。

5 カブトの世界 -クロックアップ- その8







 1人めの怪物はトカゲの化け物だった。

 噛みついてきたところタイタン化して左腕を斬撃するとトカゲの怪物はみるみる力を失って一刺しで倒れた。

 2人めは片腕が機械の男だった。

 首にロープを巻き付けられたが、ペガサスでも堪える事ができた。そのまま射た。

 3人めの怪物は3つの目を持った螽の化け物。

 どれだけ傷つけても再生してくるその生命力に手を焼いたが、いつのまにかできるようになっていたパイロキネシスで全身を焼き尽くした。

 そして4人め、カブト虫の怪物だった。


「電っキィィィィィク」


 ユウスケの眼前に現れた者は、異様な程盛り上がった大胸筋が特徴的なカブト虫の怪人。

怪人は足先に稲光を帯びさせて跳躍、蹴りの態勢が満月を背に影を落とす。


「おりゃっっっっっっ」


 クウガのボディが赤から黒へ変わる。両足脛に金のアーマーがわき出てくる。


 両目が赤く点るクウガ、

 跳躍するクウガ、

 宙にある敵に蹴り足を揃え突進するクウガ、


 激突する足と足、


 両者が共に弾き返り、枯れ葉茂る大地に両者共倒れ伏す。

 起き上がるのはカブト虫の男。胸にSのマークを輝かせ、もつれながらもクウガの元に歩み寄っていく。

 しかし、


「ぉぉぉぉぉあ!」


 突如腹を両腕で押さえ込む男。

 もがき苦しみながら、己が腹を見やる男。 そこには、クウガの紋章が2つ刻まれていた。


「やった・・・・」


 上体を起き上がらせそれを眺めるクウガ。


「ぉ!!」


 爆破、


 クウガ全身に枯れ葉が吹きつけ、クウガの視界を奪う。辛うじて残っていた枯れ木が燃えさかるも爆風がそれを即座にかき消した。

 クウガが立ち上がった時、その視界にはえぐれた大地と、もはや干上がった沼の跡、そしてはるか先に紫の照明が輝く電波塔が見えた。


「戻らない・・・」


 クウガは黒から赤に戻るも、そこからさらにユウスケの望む姿へ変化する事は無かった。

 肩を落とし、ただ電波塔へ向けて足を向けるしか選択肢は残されていなかった。


「シゲルが、そんな、」


 そんなクウガを見つめる朱い影があった。 鮮やかな朱のスーツ、ミニスカートの下から伸びる肢足は薄く血色のいい素肌、スーツの所々には黒い紋が彩られる。


「仇は、討つ・・・このタックルが。」


 彼女の柔らかな口元から、激しい軽蔑の念がクウガへ向けられた。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その7







 電波塔が側近にあるやや窪んだ、緑で彩られた大地がある。緑の人工芝、10数メートルの高さに掛けられ四方を囲むネット。


「旋風っっっっスーパーぁぁぁぁキック!!」


「オノレェェェェ」


 銀のブーツが斜め上から喉元に入る。

 全裸で芝を転げ回る男が伏した状態から眼鏡のズレを直し、再び立ち上がるも足はもたつき、そして泡が全身から吹き上げこの世から消えていく己が身に吠えた。


「鳴滝と言ったな。おまえがすべての元凶か!」


 銀と黒で彩られたライダー、『スーパー1』が指し示す鳴滝は、どういうわけか嘲笑した。


「おまえたち、ライダーは全てそうだ。元凶を、一人見定め、それを倒せば全て、片付くと思っている。どうしようもない短絡さだ。世の中はそれほど、単純ではない。」


 消えかかりそうな喉元から干涸らびた声を絞り出す鳴滝は笑顔のままだった。


「では、キサマがこの世界に連れてきたというのは嘘なのか!」


「当たり前だの、クラッカーぁ、ハハハハハハ」


 世代直撃なギャグで嘲笑する鳴滝はしかし無空にその身を喪失していった。


「なんだったんだ、あの男は・・・。」


 スーパー1は、男が消失して残った跡に用心しながら近寄って、唯一残った眼鏡と草臥れた帽子を拾い上げる。


「返してもらおうか。仮面ライダースーパー1。」


 背後よりの声、それはまるで、


「バカな、今死んだはず、」


 スーパー1の視界に入ったのはまず腕、己が手より帽子と眼鏡を取り上げる腕だった。次にスーパー1の眼前に拡がる暗闇、それを臭いトレンチコートと認識するのにスーパー1は剥ぎ取るまで2秒を要した。


「動揺が見えるぞ。仮面ライダースーパー1。」


 既に鳴滝は、そう鳴滝が既にスーパー1から距離を置いて全裸で立ち尽くしていた。


「死んだと見せかけたのか!」


 悠然と帽子と眼鏡をかけ直す鳴滝。いや全裸ではない。腰にベルト、あのディケイドライバーと同型のベルトが巻かれている。


「いや、死んだのは本当に私だ。ここにこうしているのも本当の私だがなぁ!」


 胸を張り嘲笑する鳴滝。親指と人差し指でカードを持ち、目線をやや上目遣いで相手を睨む、


「変身」


 かけ声と共にカードをスムーズに裏返し、賺さずカードをまっすぐドライバーを差し込む。もちろんバックルはあらかじめ開き、差し込んだ段階で回転させる。


『KAMEN RIDE DARK DECADE』


 鳴滝に纏わり着くその姿はやはりディケイド、いや、あのマゼンダのカラーがことごとく黒く塗りつぶされ、スリットラインがイエロー地に黒という姿が現れる。ドライバーは『ダークディケイド』の音声を発した。


「もう一度倒すまでだ、チェェンジエレキハンド!」


 スーパー1、グローブの銀が青に変わる。


「そう、そのファイブハンドの力が欲しいのだよ。」


『KAMEN RIDE SAIGA ZERONOS IKUSA』


 ダークディケイドの眼前に出現する3体のライダー。そして一斉にダークディケイドのブッカーを含めて5門の砲口がスーパー1に向けられる。

 ダークディケイドは1枚のカード、ディケイドと全く同じロゴのカードを振りかざした。


『FINAL ATTACK RIDE DARK dededeDECADEee!』


「右脚の怪我は、覚えているか?」


 5門の砲撃が一斉射された。

5 カブトの世界 -クロックアップ- その6







「ソウジ、幼なじみの名にかけておまえを止めてみせる!」


 まるで小学生のようなクセの無い髪の青年が空に向かって手を伸ばす。


「アラタ、俺はただ、天の道を行くだけだ。」


 もう一人の、顔から身体のパーツの一つ一つがマンガに書いたような男も天へ向け人差し指一本伸ばす。

 強い日差しに白みがかった太陽から、縦に裂け目が出来る。もちろん太陽そのものではない、大気の一区画、無である空間が割れるように裂けた。

 割れ目から飛び出してくる2つの物体。それは巨大な昆虫、いや、昆虫に模したメカ。


「こい、ガタックゼクター!」


 青い昆虫型のメカをアラタが掴む。青いメカはシンメトリカルに整理されたデザインで半分に割った楕円球の胴に6つの立方体の脚部、そしてプライヤの先端のような挟角が1対。

アラタが呼んだ『ガタックゼクター』。


「俺はこの手で未来を掴む!」


 赤い昆虫型のメカをソウジか掴む。赤いメカもまたシンメトリカルな半球ボディと6つのサイコロのような足、そして青いメカと違う1本の、反り上がった角。


「変身」


 アラタの全身を光る亀甲の編み目が細胞分裂のように急速に拡散、包み込んでいき、金属の外皮に実体化。そのように包まれたアラタの姿は、銀に光るシンメトリカルな円筒と立方体の組み合わせ、特に胸部と、バルカンランチャーを抱えた肩幅の盛り上がりは圧倒感すらある。『マスクド・フォーム』。


「変身」


 ソウジの全身を光る亀甲の編み目が細胞分裂し、実体化、アラタのそれに比べてやや丸みを帯びた『マスクド・フォーム』へ。


「ゼクター、カブトの世界か・・・・」


 その姿をやや離れた丘陵の上から眺めるのは士と夏海。


「諦めろっ、ソウジ!」


 アラタ、両肩から左右4門のバルカンを連射。バルカンの発する光弾のエネルギーは空間を転移して、つまりジョウントして無限に発射できる。


「オレは天の道を行く。それだけだ。」


 ソウジ、既にアラタの至近に立つ、アラタのバルカンが両肩を掠る。


「死角か」


 ショルダーを食らい推されながらも踏ん張ってしまうアラタ。


「固定砲は射角が致命的だ。」


 懐に密着し、さらに短銃『クナイガン』をも密着させ一撃、


「ソウジっ!」


 身体をくの字に曲げて後退るアラタ。だが距離が開いた。


「幼なじみを名乗りたいとふざけた事を言っていたな。ならばこのオレを止めてみせろ。」


 クナイガンを連射するソウジ、推しながらなおゆっくりを歩を進める。


「止めてみせる!キャストオフ!」


 アラタがバックルに張り付いたガタックゼクターの1対の角を軽く開くと銀に光るシンメトリカルなアーマーのジョイントが次々と外れていき、続いてゼクター角をそれぞれ180度回転胴に密着させると同時にアーマーが勢い数十に分裂して飛散、その一部がソウジに跳弾して同じ材質のアーマー同士激しい金属音を立てながら弾かれていく。


『CHANGE、STAGBEETLE』


 アーマーを脱ぎ捨てたアラタのその姿もまたスーツ。人型により近いスマートな、碧い、頭に1対の角を生やす、紅い複眼の勇姿。


「戦いの神、ガタック。」


 傍観する士は記憶の糸をたぐり寄せていた。


『1、2、3』


 ガタック、さらにゼクターの臀部を3度押す。そうして開いていた両角を元に戻し、


「ライダァァキック!」


 叫んでまた開く、開くとゼクターから四肢の先、角の先端に電撃が走る、


『RIDER KICK』


 跳躍するガタック、跳躍して右脚を前、左脚を後ろに捻る、腰と左右の両腿の力が加わった蹴撃。

 そのガタック最大の技に怯む事なく見据えるソウジ。ソウジがゼクターの1角をシフトレバーのように倒す、すると銀のアーマーのジョイントが次々と外れていき、


「キャストオフ。」


 角を思い切り反対側に倒し切るとアーマーが除装飛散、宙にあるガタックにその一部が降り掛かる。


「ぐぉぉぉ」


 ガタックがバランスを崩しもんどり打って落下。


『CHANGE BEETLE』


 オーバーアーマーを除装し顕れ出でたソウジの姿もまたスマートな人型、光沢流れる紅い、複眼の碧い、威光放つ1角、


「太陽の神、あれがカブト、ここは『カブトの世界』か。」


「カブトの、世界・・・・」


 士は呆然と紅く揺らめくカブトを見つめ、その士の横顔を背負いになお括り付けられた夏海は見上げていた。


「クロックアップ。」


 カブト、ベルト右のボタンを押す。


『CLOCK UP』


 士の視界から瞬時に消えるディケイドの姿、


「クロックアップ。時を越える動き。」


 士が呟くその刹那、


「クロックアップ!」


『CLOCKUP』


 それはガタック。ガタックもまた立ち上がり瞬時に消えた。


「見えない、」


 夏海はなにが起こっているのか見当すらつかない。


「ほとんど見えない。」


 そんな夏海の頭に掌を置いた士の目には、所々赤と青の影が交差して出現しては消える。それは眼球の動き、神経の伝達、脳の判断を越えるクロックアップ。


「見えた、」


 だが夏海が叫ぶ通り、一人、碧のライダーの動きが停滞し、姿を晒す。ただ呆然と直立し、若干頭をフラつかせている。


「なにが起こった?何を起こした?あいつ。」


 士の視線はガタックが立ち尽くす眼前に現れたカブトに注がれている。カブトはどういう訳かガタックに背を見せている。


『1、2、3』


 カブト、ゼクター歩脚に模した3つのボタンを右手で立て続けに押す。さらに左手でゼクターを押さえ込みながら右手でゼクターの一角をレバーにして倒す。


「ライダーキックっ」


 レバーを再び戻す。


『RIDER KICK』


 カブトの頭頂一角にゼクターよりエネルギーが迸る。

 依然ガタックは棒立ちのまま、

 カブト、振り返り様右脚をすり上げガタック右肩から左腰に向かって一閃、

 激音と共に砕けるガタック胸部、


「ぉぉぉぉ!」


 露出するアラタの大胸筋、

 勢い地に叩きつけられるガタック、

 軸足の筋力が大地を踏みしめた反動として腰の捻り、両腕の振り、そして蹴り足と合力し一気にたたき込まれるそれが、カブトの必殺技だった。


「お婆ちゃんが言っていた。誰も太陽が昇るのを邪魔立てする事はできない。」


 ガタックに再び背を向け、立ち去ろうとするカブト。しかし、


「待て!オレは、おまえの友達として、おまえを止めて、・・・」


 全身を奮わせて立ち上がるガタック。

 両腕には婉曲したショートソードを1対持っている。『ダブルカリバー』。


「オレとおまえは、友ではない。」


 振り返るカブト。しかし防御を構えない。あくまで自然体で直立している。


「ライダーカッティング!」


 ガタック、両腕の得物を交差させる。ゼクターより鋏型となったカリバーに宙を介してエネルギーが注入されていく。


『RIDER CUTTING』


 カリバーを前に突き出すガタック、両刃から十数メートル伸びるエネルギーの奔流、カブトの左右に回り込む形で歪曲し、ついにはカブトを挟み込んだ。


「うぉぉぉぉぉ!」


 カブトを持ち上げるガタック、挟まれた腹部がジリジリと焼けるカブト。


「おばあちゃんが言っていた。オレの進化は光よりも速い。」


 持ち上げられ足が大地より十メートル以上離れるカブトはしかし動じていない。徐に右腕を天に伸ばす。伸ばした先の空間が裂ける。そこからジョウントして一振りの剣が投下してくる。その剣『パーフェクトゼクター』がカブトの右腕に握られる。カブトはパーフェクトゼクターの柄のボタンを一つ押す。


『KABUTO POWER』


 パーフェクトゼクターの刃から光が伸びる。

 カブトが振りかぶる。

 カリバーの刃とパーフェクトゼクターの刃が交錯する。


「アラタ、おまえは、」


 交錯するエネルギーの暴発でカブトの一角が折れる。


「ソウジっっっ!」


 カブトからの攻撃に圧倒されカリバーを離して倒れるガタック。砕けた装甲の破片が飛び散る中にガタックゼクターも紛れていた。スーツが光と共に消え、胸元が裂け血を吹くアラタが地面を転がる。


「勢いでなんとかなると思っているところが、おまえの昔からの欠点だ。オレは絶対にそんなことは犯さない。」


 いつのまにか大地に立ち、飛び散る破片の中からガタックゼクターだけを掴み取るカブトだった。


「分かった・・・・オレ達は友じゃない・・・・」


 目は綴じた。しかし息づかいはまだ荒々しく続いているアラタだった。

 そんなアラタなどもはや気にしない態度で、パーフェクトゼクターと、先に掴んだガタックゼクターを並べて眺めるカブト。


「これではない。このゼクターでは、天の道へ行けない。」


 カブトは静かにガタックゼクターを手放す。ゼクターはふわりと浮き上がり、弧を描きながら天へと消えた。


「ヤツは強い。全てにおいて、最初から後の先を行っていた。」


 士は既に足を踏み出している。その手にドライバーとカードが握られいてる。


「士クン、戦うの、どうして!」


 夏海は足を引きづって士を止めようと手を伸ばす。そんな夏海の足下の荒れ地に刺さるカブトの角の欠片。


「ここが『カブトの世界』、とりあえずライダー同士がメンツを張り合う世界だからさ、変身!」


 既にベルトへカードを装填した門矢士だった。

 ディケイドの眼前には、カブトゼクターを手放して除装する一人の澄ますにも程がある男と、その遙か先にある電波塔が見えた。


5 カブトの世界 -クロックアップ- その5







「おにぎりオイシイ。おにぎりオイシイ。」


 私たちは荒野を彷徨っている。


「おまえオレ一人に歩かせてメシかよ!」


 ちなみに私は足を骨折してしまったから歩けない。士クンが背負子で私を運んでいる。


「その代わり太陽がまぶしいです。早く休みたいです。」


 私はユウスケが消えたあの時、足に激痛が走って、そして歩けなくなった。ヒビキさん達はそんな私の足に即座にそこらの木から当て木を作り、背負子をものの3分で作ってしまった。私と士クンは鬼達の逞しさに目を見張ったものだ。


「休みたいのはオレだぁ」


 私達はそのままお爺ちゃんの待つ写真館へ足を向けた。士クンが私を背負っていたけど。


「それにしても初めてです。いつもは写真館ごと違う世界に運ばれたのに。」


 私達がヒビキの世界の鬼たちと別れた直後だった。唐突にあの透明な幕が迫ってきて私を士クンごと呑み込んだ。


「オレは、あるぞ。鳴滝の仕業だ。」


 何自分は私よりスゴイって見せつけてるのかしら、子供よねフフン。

 そうして私達が飛ばされたのは、見渡す限り干涸らびた荒野。ドロなんだけど編み目に割れている土地が見える。雑草が短く生えるけどほとんど砂になってる土地もある。そんな中、私達の足跡をずっと数えている私がいる。二人分の重みがあるんだから私達の足跡なのよ。


「お爺ちゃんアリガト。よく噛んで食べますから。」


 私は鬼達と森に行く事になって、そいでお爺ちゃんがお弁当におにぎりを用意してくれた。これが最後のおにぎり。


「あまり食うな。いいか。一口だけ食って、液体になるまで噛み続けろ。そうすれば満腹だと脳が思う。」


「分かってマス。ハイ士クンあ~ん」


「そこは鼻だ、鼻。」


「だって後ろ向きなんだも~ん」


「態とだろおま、、、」


 士クン不意に立ち止まって黙りこくる。


「士クン疲れた、私が日焼けしちゃうじゃない、さっさと、」


「ライダーだ。」


 彼は指差した。目の前で繰り広げられている光景を。赤と青の輝く2人のライダーと、照りつける太陽と、2人の短い影を。

5 カブトの世界 -クロックアップ- その4







 それはまたあの夢。

 ライダー達が駆けてくる。一直線にあのドピンクの光に向かって。立っているのはディケイド。たぶん士クン。


「来るなら来い、全てを破壊してやる!」


 ディケイドが叫んだ。

 一斉に群がるライダー達。いままで旅で知り合った人達も、そうでない人達も、あのユウスケの姿も混じって。


「キャ」


 私の右すぐ近くで派手な爆発が起こって、私の白いウェディングドレスが激しくはためいて、思わず目を閉じて、耳を塞いだ。


「いくぞ、元凶、リボルケイン!」


 恐る恐る目を開けた私の前に、変なライダーが鉄パイプみたいなものを突きつけてきた。私が?なんで?


『ATTACK RIDE BLAST』


 私の目の前を光線が横切り、鉄パイプ持ったライダーのベルトに当たる。異常に悶えるライダーにディケイドが走り寄ってきて刀を振るった。私はそんなディケイドの背中を追っていた。


『1、2、3』


「ライダーキック!」


 私の間近に真っ赤なライダーが、片足を振り上げて影を差す。


「くそ」


 私が考えるよりも早くアタシは突き飛ばされていた。たぶん真っ赤なライダーの足先が頬に擦った程度だと思う。けどその代わり、


「ぐぁ」


 突き飛ばしたディケイドが私の代わりにその身に受け、私の隣まで推し倒された。


「ディケイド・・・」


「大丈夫だ、オレが決めて始めた事だ。おまえが悲しむ事じゃない・・・・」


 私はただ仮面に包まれた士クンの顔が見たかった。

 でも夢だから、無理だった。

5 カブトの世界 -クロックアップ- その3














「ライダーキィック!」


 1号は跳躍した。容赦なく照付ける太陽を背にその姿が隠れる。


『1、2、3』


 だが独特の長い一角を額から生やすライダーは天より降下する1号に背を向け大気だけを感じていた。


「ライダーキック」


『RIDER KICK』


 振り返る、

 振り返り様回し蹴りの構えに、

 そのモーションが対手の蹴り足を同時に躱す、

 交差する両者の蹴撃、

 撥ね除けられる1号、


「ライダーキックを破る者がいるとは・・・」


 起き上がれないライダー1号。

 全身を赤い光沢に包まれたライダーは振り返らない。その指先をただ天に翳すのみ。翳した指の影が1号の複眼に差す。


「お婆ちゃんが言っていた。守るべきモノがある者が最強なのだ。」


「この世界は、オレの守るべき世界ではないという事か、」


 同じように複眼のある対手のマスクからは、表情が読み取れない。


「名はなんと言うんだ、おまえの。」


 1号の吐息はもはや擦れていた。


「カブト。マスク・ド・ライダーシステムの名前だ。」


 赤い体色が、光沢のムラで濃くそして淡く変化していた。

 カブトを名乗った男は無限に広がる荒野で足を進めた。


「どこへ行く・・・」


 1号は、その直後事切れた。


「俺は、天の道を行く。」


 カブトの眼前には、その荒野でただ一つの、あるいはこの世界でただ一つの建造物が陽炎のように揺れていた。


「オノレディケイト、電波塔か。」


 その声にカブトは気づかず歩んでいく。なぜなら、その声の人物は次元のカーテンの先にいるのだから。

 鳴滝はカブトを眺めやり、ヨレた帽子を正し、そして動かない1号をカーテンに呑み込んだ。

5 カブトの世界 -クロックアップ- その2







「違うよ」


 全員と口を揃えて愛嬌ある笑顔を作るユウスケ。だが彼だけが最初に感づく。


「なんだ?」


 振り返る赤ジャージ。背後は樹海へ繋がる光差さぬ森。


「この振動、」


 まず気づいたのはユウスケ。距離の問題ではない。ユウスケ内部の進化が、周囲の練達の鬼等を超えているのである。


「少年、気をつけろ、」


「デカイ」


 続いて気づいたのはヒビキ、そしてディケイド。

 そして鬼達全員が気づいたときには、その姿を森の暗闇から出現させていた。


「オノレディケイド!このヨロイグモが始末してクレルルルファ!!」


 一足くの字に曲げ上がるごとに大気が揺れ、大地も揺れた。それがなんと八足。虫にして昆虫ではない。頭胸部と腹部が玉のようになって2つ繋がり4対の歩脚で爆震。口の鋏角が始終動いて眼前のディケイド達を捕食しようと狙う。

 それは巨大な蜘蛛。

 ただの蜘蛛ではない。光沢放つ鎧に包まれたそれはヨロイグモ。その背に草臥れた帽子の鳴滝がしがみついている。


「ボクが、ボクが、」


「少年は下がれ、戦えないのが見てて分かる、」


「中年もだろ、戦えないのは。」


 圧倒的な質量の猪突に、鬼達の銃撃も、斬撃も一切が歯止めにならない。ゴミのように飛び散っていくヒビキとアスムの仲間たち。


 そんな大した奴じゃない、


「ユウスケ、早く逃げて!」


 夏海の声が聞こえない訳ではないが、その場からユウスケは動こうとしない。動かけないのではない、動こうとしない。


「これは、」


 ユウスケは徐に自分の腰を見る。既に出現しているアマダム。赤でも紫でもない。金色に輝いている。


「イケそうな気がする」


 そう思った時には既にボディが赤に染まり、あのクワガタを連想するマスクになっていた。ただし、所々金のラインが入って。

 ユウスケが変貌したクウガが右足を一歩踏み出した時、踵から放電現象が発し、右の脛に金のレッグアーマーが浮かび上がってくる。


「どけっっっ!」


 鬼達が金色に輝いて疾走するクウガに唖然とする。ディケイドは言葉が無いほどに驚いている。


「どりゃ!」


 全力の疾走から一足で飛翔、腕で膝を抱えて前転、ヨロイグモの構造的弱点、頭胸部中心に直上から降下、


 猛獣が重低音に叫ぶ、


 クウガの蹴撃からの加重で4対の歩脚が股関節から断ち切れ、落下した胴体の風圧で、周辺の樹木と人間が塵芥のように吹き飛びヨロイグモを中心に円を描く、クウガの肉体に光が差し金のラインが輝く、


 爆砕、


 あまりの衝撃に破裂するヨロイグモの肉体、肉片が爆風と共に四散、


「見たか、士!」


 親指立てて右拳を突き出すクウガ。

 その親指の力が思わず緩む。

 見渡せば、変身を解いて全裸で転がる鬼達、立ち上がってヒビキに肩を貸して起き上がろうとするアスム、


「なんだこの・・・、ユウスケ一人でできる破壊力じゃないぞ、」


 夏海を包むように抱きかかえなお寝そべっているディケイドの姿が、クウガのその複眼に同時に入ってくる。


 なにやってんだオレ・・・


 八代が傍にいたならば、まず考えていたことをつい忘却した。


 なんだ・・・


 自失というのはこういう状態だろうか、ユウスケの脳裏にめぐるクウガに似たシルエット、暗いシルエットはタイタンに近いもののなにかが違う、それがおぼろげに現れては消えた。

 まじまじと自身の両掌を見つめるクウガ。


「おもしろい!おもしろいぞディケイドっっっ!」


 爆砕した煙の奥、狂喜したのはヨロイグモからいつのまにか転げ落ちていた鳴滝。腕の一人振りが例の光のカーテンを出現させる。


「なんなんだ!」


 脳内が紡ぎ出す映像に苦悩するクウガを、カーテンが押し寄せもみ消した。


「ユウスケっ!バカヤロー!」


 ディケイドが頬に泥をつけた夏海を立ち上がらせ吼えた。


「やはりあの男をキサマの傍に置いたのは正解だったぁっ、これからだ、これからディケイド抹殺計画のはじまりだぁぁぁぁ!」


 そう言って自らもカーテンの中に身を投じる鳴滝だった。


「おい分かっているのか!おまえの仲間が魔化魍を沈める機会を逃したんだぞ、分かっているのかぁ!」


 全裸だった細身の男が鬼の姿に変貌してディケイドに詰め寄っていく。

 反射的に頭を下げようとする夏海を片腕で制するディケイド。


「俺たちはいつでもこうやって敵と渡り合ってきた。この世界の細かいルールなど知ったことか。」


 強弁を吐くディケイドに周囲が総毛立つ。


「どこがよ!これほど瘴気が拡散したら、音撃の効果が限りなく薄れる、当たり前だわ!」


「ああ細かいな、おまえらの見てくれほどにな。遠目で眺めたら誰が誰やら分からんぞ。」


 と居並ぶ鬼達を指差すディケイド。


「みなさん!今はここで口論しているより、拡散した魔化魍の肉体をできる限り清めましょう!」


 そう言ってアスムは再びヒビキへと変貌。

 ディケイド、カードを眺めている。


「分かった、要するにユウスケのケツをオレが拭えばいいんだろ。アスム、ちょっとくすぐったいぞ。」


『FINAL FOAM RIDE hihihiHIBIKI』


「あ・・・・」


 か細い声をあげるアスム変身体。ディケイドが背中に触れるとパネルが現出し、宙を浮かび上がり、頭がメカニカルに埋もれ、肉体が構造上あり得ない角度に曲がって薄い円盤上の物体へと変化する。これが『ヒビキオンゲキコ』。

 腰元あたりで浮かんだままのオンゲキコを眼前に、ディケイドはどこからともなくバチを2本両手に抱える、


『FINAL ATTACK RIDE hihihiHIBIKIii!!』


 打つ、


 オンゲキコから大気を伝って、土の中、木の一本一本に響き渡る音、鬼達の肉体にもその響きが伝わってくる。


「なるほど。じゃあオレも罪滅ぼしに。」


 とヒビキが既に変身し、音撃棒を両手にディケイドの反対に着く。


 一撃、


「いくぞ!」


 ディケイドが連打する、


「いいぞ青年、」


 その合間合間に重い一撃を加えるヒビキ。 二人のセッションは、森に響き、大地に響き、そして大気に隈なく澄み渡った。