2011年6月11日土曜日

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その41








「ユウスケ!ユウスケ!」

「小野寺ユウスケ、ただいま帰ってまいりました!」

 写真館では、いつも通り栄次郎のコーヒーがユウスケ専用のカップに注がれて湯気が立ち込めている。

「おかえりなさい。」

 湯気の先にどうやら機嫌を直した光夏海の暖かい笑顔があり、

「いいのか?八代のアネサン、別れ際にまた会える?とか聞いてたろ。けっこう脈があったんじゃないか。ホレ。」

 背を向けて2眼をイジっていた士は、出来たばかりの八代の写真をチラつかせた。
 写真を士から強引に夏海が奪い、夏海は栄次郎やユウスケと共に眺め、笑い合った。

「おお、中々男らしい面構えになったな。」

 3人が覗く写真は、いつものごとくどうしようもなくブレている。左には芦河ショウチがやや後ろに立ち、右には上半身が見切れたユウスケがヘルメットを持っている。それを中央から眺めるのは八代淘子。八代の姿は2つダブリ、左でちょうどショウイチと並ぶ形の八代は屈託の無い笑顔を向け、ユウスケを眺める八代は凛々しかった。

「そうかな。オレも大人になったかな。」

 というのは士。

「誰がどう見ても士の事じゃないよ。」

「ユウスケ君だよ。」

 ユウスケ達が士を指差して笑った。

「八代さんは、いいの?」

 夏海の言葉はひどくユウスケを傷つけたが、ユウスケは呑気な顔で対した。

「いいからいいから。やっぱりここが一番。」

 八代と一言も言えなかったユウスケ。そんなユウスケに再度コーヒーを注いでくれる栄次郎。そして笑顔を向ける夏海。だが士はただ背を向けてカードを一枚眺めていた。

「このカードにアギトと電王のシンボルが加わった。空いているスペースは2つだけ。後2つの世界を回るのか。」

 そんな士を余所に、ユウスケを周回する白いワッペンのようなコウモリが1匹。

「キバーラがイチバン、だよね。」

 ユウスケは自分に妙に懐いてくるその人でも動物でもないモノに、小首をかしげる態度しか示せなかった。

「行こうか、士。次の世界へ。」

 そう話を換えるしかないユウスケ、平手を突き出す。

「当然だ。」

 ハイタッチする士。2人の男の儀式が完了した。

 士背後のロールが独りでに下がる、

「また訳のわかんない世界だな。」とユウスケ。

「もうここやキバの世界みたいなメに合うのはたくさんです。」と夏海。

「太鼓・・・・」

 士は唖然とした。いままで殺伐としたライダー達の世界と打って変わった風景画だった。深く先が見えない森、木々の1つ1つは植生ではありえない歪曲した幹が力強く生えており、それら全てにコケが寄生している。だが問題はそこではない。
 手前に、盆踊りの時にでも使うしかない巨大な和太鼓が、見る側の疑問をものともせず堂々と居座っていた。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その40








「旅に?」

 八代と再びトレーラーで対面したユウスケは、もう迷ってはいなかった。

「はい。オレ、何か分からないんですけど、オレに出来る事、それを探す旅の途中でした。ここで立ち止まってたら、」

 頭の中も八代、眼前にも八代、恥ずかし過ぎてとりあえず眼前から目を背けるユウスケ。

「ここで立ち止まったら怒られちゃうんですよ。約束した人に。」

 ユウスケのすがすがしい顔を見て、さすがに八代でももう止められない事が分かっている。

「分かった。」

 これ以上言うとこの子を傷つけてしまう事が、八代にも分かった。

「この世界は、この世界の仮面ライダーが護る。」

 唐突にトレーラーの扉を開いて見えるのは、30センチ径のボールをそれぞれ抱えたショウイチと、士だった。

「ショウイチ、」

 八代の足が動こうとして逆に一歩引く。

「さあ」

 ユウスケはそんな八代の手を強引に引っ張って、ショウイチのボールを引ったくり士に渡す。そうしておいてショウイチと八代の手と手を繋いだ。

「恥ずかしい奴だ。」

 士は士でボール2つを適当に計器並んだデスクの上に置き、3人に2眼のシャッターを切った。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その39









 古びた洋館の一室。
 光が溢れる庭の風景を、風にゆらぐ白のカーテン越しに眺める男がいた。男は小さなモックのテーブルに同じ材質のイスを2つ並べ、一人しかいないにも関わらず、ワイングラスを2つ並べていた。

「アンタか。」

 草臥れた帽子とコートを纏った鳴滝は、隣の席に声をかける。
 いないはずのイスに既に現れている黒い影。

「貴方に与えた、命も、残り少なくなりましたね。」

 黒い少年の手元に、ワイングラスを置いて注ぐ鳴滝。

「怖くはない。これは銀座一条の残りモノに三軒茶屋のヴェルエキップからいただいたものをブレンドしたものだ。半日かかったよ。」

 そうして自分のグラスを掴んで香りだけを堪能する鳴滝。

「人間は、いずれライダーを滅ぼす。最初からボクが手を下さなくても良かったのさ。」

 だがいい加減飽きたのか、ワイングラスを置いた。

「この世界の神にして、あちらの世界の唯一人の人よ。アンタは、人間を創りながら人間の事を、何も、知らない。」

 そうしてできるだけさりげない風を装って、掌を、眼前の少年に向けた。

「なに・・・ナニ!」

 瞳孔が開く少年リョウタロウ。白く透き通った額の中央から鮮血が飛び、それどころか鮮血が徐々に真上に向かって進行、その亜麻色の髪が赤く汚れ、頭頂を回って、後頭部まで届く。滝のようにリョウタロウの頭から血が噴いた。

「人は成長するのだ。特に、外の世界を知るとねぇ!」

 もはや隠す事無く狂喜を顔に顕わにした鳴滝は、その掌を大きく拡げる。すると少年の頭も左右に大きく開き、脳の奥底から鮮血よりも激しい光が迸った。

「ボクをなんでイジメ・・・・!」

 鳴滝は問答無用で少年の割けた脳へ手を突っ込み、1つの珠を取り出す。

「他の世界では現象や観念の形だったが、やはり1個人の形に集約した重心は、貴方から手に入れるのが手っ取り早い。」

 既に白目を剥いて唇を振るわせる少年が卒倒し、フローリングの床に倒れた。
 鳴滝は口元を綻ばせ光が収まったいびつな珠をマジマジと眺める。

「大丈夫ですよ。この世界の貴方でなく、あちらの孤独な世界の彼の重心を分断しただけですから。その傷もいずれ消えます。私の記憶も消しておきますけどね。大丈夫ですよ、これも全てディケイドのせいですから。」

 狂喜が室内を包み、取り乱した鳴滝は、ワインを思わず落として転がった少年の身に降りかかる。

「重心がようやく手に入った。世界を飛び越える力、そしてディケイドと対抗する力。トリックスター・・・・・。」

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その38








「効かない」

 G3-Xは機関砲を乱射するも、光の珠の寸前で歪曲していく。弾かれていくのではなく歪曲していく。

「はあ」

 並び立ちするアギトが、先に地のエルを看破した蹴撃を少年にも仕掛ける。斜角40度上昇で光の珠内部へ突入、

「バカ」

 しかしどういう訳かコンマ何秒もしない内に光の珠から斜角40度反転降下し、G3-Xへまっすぐ突っ込んできた。
 慌てて飛び退くG3、退いた水面は大きく水飛沫を上げ、亀裂が走って水底が抉れる。

「なんでおまえがオレの前に立っている!」

「おまえがオレの方へ向きを変えたんだろ!」

 困惑する2人のライダーを見下ろす光の珠。回転しながら降下、その通った軌跡は白く尾を引き淡く霞んで周囲に溶けていく。

「家が消えた、」

 ユウスケが叫ぶ。珠が降下し、地上にあった赤い屋根の一軒家が家族もろとも光に呑まれた。その跡は空白が一瞬ぼやけながら輝いたが、隣家が左右から迫って空白をかき消した。光の珠は空白の尾を引きながらゴロゴロと転がって、川に落下してくる。

「何を言っている?迫ってくるぞ!」

「あれが見えないのか。」

 アギトは呆然とするG3を突き飛ばしつつも横飛びし、転がる光の珠を回避。珠は堤防に直撃しその上の民家ごと空白を作っていく。そして空白は両隣が迫って消えていくのである。

「消しているのか、」

 ユウスケはもはや恐怖の声を上げた。そのG3の態度の方が不思議でならないアギト。

「何の話だ、転がっているだけだろ。」

「どうやら、この世界の住人は分からんらしいな。奴が世界を消している事を。在った記憶すら改竄されるとは。」

 そのアギト背後に立つディケイド。既にバックルを開いている。

『FINAL FORM RIDE aaaAGITO』

「ちょっとくすぐったいぞ。」

 アギトの背に手を当てるディケイド、

「オレに何を!?」

 アギトの背に出現する背部アーマー、両手両足にも同じ紅いアーマーが出現し、アギト、足を揃えて宙を数回ターン、スピードボード、『アギトトルネイダー』へと変形する。

「とぉ」

 飛び乗るディケイドはトルネイダーへ立ち乗り、アギトの腕にあたるトルネイダーノズルから噴流が吐き出され地上1メートル浮き上がって滑空する。

「おい士、こっちくんなってよっ、おい!ぁ・・・」

 アギトトルネイダー、ノーズを上げてターン、ジェット噴流を吹き上げて滑る先はG3-X、戸惑うユウスケをディケイド、片手で掬い上げトルネイダーへ前後立ち乗り。

「フレ~フレ~っ」

 デンガッシャー大団幕モードをひたすら振っているモモタロス。

「あいつ何やってるんだ」ユウスケ。

「あいつは薬にも毒にもならんのが一番いい。」ディケイドは空白を縦横に作りながら宙を転がる珠をただ指差した。

 急接、転がる珠に横並びのトルネイダー、
 GX05乱射、
 光の珠が思わず軌道を逸れ距離を置こうとする、

「今度は効くぞ、士、なんでだ、」

「ああ、大体そうだろう、」

フレ~っフレ~っっっっ

 光の珠は垂直に上昇、そこで制止し光彩を増す。いや輝く。

「くそぁ」

 光が広がり、連動して空白がこの世界を広がっていく。空が消え、家屋が消え、公共物が次々消失、そして空白は瞬時に塞がり、まるで最初から無かったかのように整然としている。全てが音も無く進行し、音も無く消える。
 トルネイダーは光の力で木の葉のように推し飛ばされ、アスファルトに3者のライダーの後をくっきりと残す。

 フレ~っっっっ

「一気に世界を消し去るつもりだ。」G3-Xが立ち上がる。

「同じ光だ、このベルトと、」アギトが立ち上がる。

「そうだ、あの光を打ち破れるのは同じアギトの力だけだ。」そしてディケイドがカードを一枚差した。

『FINAL ATTACK RIDE aaaAGITOoo!』

 再びトルネイダーへ反転するアギト、そして同じく立ち乗りするディケイド、G3はその背後に並び、GX05銃身をディケイド肩へ添えた。

 フレェェェェェフレァァァァァ、

「上がれぁぁ!」アギトが叫んだ。

 トルネイダーのノーズを上角60度ギリギリまで上げて上昇、そのカウル部分が白光し、光がアギトの形となって両翼を伸ばし飛翔、

「ユウスケ、残弾を残すな!」

「オウ!」

 ディケイド肩のガトリングが止む事なく上方へ威嚇、

 広がる珠の光とアギトの光が激突、拮抗、

「イケェェ、おめえらこんなもんじゃねえだろ、仮面、ライダァァァァァ!」モモタロスの喉が外れた。

「電王の一番の強さはチートな事、もう一枚くらいあって当然、」

『FINAL ATTACK RIDE dededeDENOooo!』

 ディケイドに張り付く4つの仮面が、今度は右腕に集結、ディケイドの右腕から灼熱のオーラが迸り、アギトの光へ添加していく、

「絶対消させないよ!!」

 珠の光を切り裂くアギトのシンボル、突き抜け突き抜け浮かぶ人影を見定める。リョウタロウだ。

「自分の未来を閉じているのは、キサマ自身だぁ!」

 トルネイダーのスピードに乗って、少年の喉にディケイド前腕がラリアット、

 四散、

「ボクがぁ」

 光の滴となって四散、
 光の珠も泡と消え、
 光もまた溶けて消えた、
 本来唯一の光である太陽が輝く青空が降下する3人を包む。

「やったなぁ、おめえら、やっぱ、オレの応援のおかげだぜぃ!」

 着地した3人に駆けつけるモモタロス。

「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

 思わずマスクを取って吹き出す汗を掃うユウスケ。

「そうなのか士?」

 アギトも変身を解いてヒゲを撫でる。

「見れば見る程ふざけた恰好だなオイ。寄るな、キャラが写る。おまえは補欠にもしてやらん。」

 そしてディケイドがバックルを引くと、3つの魂が飛びだして宙を舞う、

「イマジンの力がオレから接触したG3に流れただけだ。全然違う。」

 やや意地悪く言う士。
 そして3つの魂はモモタロスに同時に寄生する。

「おめえらイジメかよ、・・・・オレに参上されてみる?」

 突然モモタロスの体色が赤から青へ、続いて紫へ変貌、クルリと一回転。

「参上は聞いてない!」

 日本語になってない。
 さらに黄色へ変貌して四股を踏む。

「屁のツッパリは要らんですよ!」

 もはやテンプレですら無い。
 モモタロスは一人で顔をあちこち振り返りながらその都度声色を変えて独り言を捲し立て、ゲラゲラと笑い、オギャと絶叫し続けた。

「あのイマジン、自分の主人殺しといてノーテンキだな。」ショウイチが言う。

「さあな。神は人が2人以上いればその胸に宿る。不滅なんだ。」士は言う。

「あいつらそれが分かってるのか?」ユウスケは質問する。

「それもどうだろうな。イマジンは、そうだな、ボタンを押せば決まったセリフをしゃべってくれる街の住民なのさ。そうとしか反応しないし、そうとしか感じない。あくまで、オレの想像だがな。」

 士はユウスケに笑顔を向ける。
 だがユウスケは、青ざめた顔で、ある方向を指差していた。ユウスケの差す方向には、土に刺さったガニ股のグレーと黄色のスパッツがあった。
 ユウスケの青ざめた顔が伝搬した士は、見るな、とユウスケをノックダウンさせた後、即座に駆け出した。

「まず散髪屋だな。」呆れた顔のショウイチは聞き慣れた怒鳴り声が響くのに気づいて、G3のメットを拾う。「・・・・、ああ分かってる、肉は岡元やで下味をちゃんと漬けるんだろ、・・・ごめんな、らしくないか?・・・おまえも言うなよ。拍子抜けするじゃないか。」

 そのショウイチに肩を置く赤い掌があった。

「どうやら、迎えが来たようだゼ、」

 親指で差す背後にあのオーロラのカーテンが迫り、モモタロスを包んでいく。

「別れは言わんのか、一番の恩人に。」

 ショウイチは汚そうに赤い手を祓った。

「言えるか、そんな馴れ馴れしい事あいつにだけは。アバよ、釣られてみる?泣けるで、聞いてな~い。」

 モモタロスはオーロラの中へ溶けていった。
 そのオーロラすら無い風景、ただテレビの音声が漏れる一軒家をいつまでも眺めているショウイチだった。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その37









「ご免なさいは?」

 見下ろす少年の目は冷めている。

「リョウタロ・・・」

 頭を抑え込まれ動けない電王は、首が痙攣する程に回してみたが、視界に入る事が無く、それでも何度も振り返って見えない少年の声を聞く。

「ご免なさいは?」

「以前のオレだったら、おめえとの根比べに付き合ってやったかもしんねえ、けどな、」

「けどこいつはもう、外を見ちまった、キサマのところでは決して見られなかった外をな、こいつはおまえの頭の中だけの存在ではもう無いんだ。」

 ディケイドが叫ぶとライドブッカーが光り輝くのを感じた。

「汚れたコレはもう、要らない!」

 光が厚みを増し、少年の姿を覆い隠す。

「ふざけるなぁ!」

 バッファロー転倒、

「ぉわ」

 強引にバッファローを撥ね除けて、電王は立ち上がった。

「おめえがじゃねえ、オレが、このモモタロス様がいらねえっつうんだ!」

『FINAL FORM RIDE dededeDENOO!』

 電王が叫ぶ。ディケイドがカードを装填する。

「ようやく自分の名前思い出したな。おい。」

 背後から電王の頭を殴りつけるディケイド。

「てめえ!」

「ちょっとくすぐったいぞ。」

「くすぐったいどころかイテえ、あワワ」

 ディケイドが電王クライマックスに触れると、全身の仮面が剥がれてディケイドの四肢の先にそれぞれ張り付き、剥がれる序でに人間の肢体がいずこかを小石を飛ばしたように飛んでいく、仮面の取れた電王の頭が胴へメカニカルに落ち込んで、前部アーマーが2つに割れて紅く禍々しい胸板が出現、腕もまた金属質の装甲から有機質の紅い甲羅に変わり、胴が回転、再び首がメカニカルに上がってきて、額に2本の角が生えた、1匹の赤鬼がその身を晒す。『モモタロス』の姿が最終フォーム。

「なんか飛んでったな・・・、オレはこいつに肩車でもしろというのか?」

 自分に張り付いた右前腕のソード、左前腕のアックス、右足首ロッド、左足首ガンのそれぞれの仮面を眺める。

「ようし、オレもクライマックスだぜ!」

 とデンガッシャーを合体させ、ソードモードにしようとするも、勝手にロッドへチェンジし、しかも刃が出るどころか1枚の布が纏わり付き、風になびく。

「旗持ってどうすんだよ、」

「オッかしいなぁ~」

 と頭からクエスチョンマークを出しているモモタロスに、迫る影が1つ。

「ふざけすぎだキサマら!」

 それは『至高のトリアンナ』を振りかざす水のエル=バッファローロード。デンガッシャーで受け止める電王だったがしかし、

「なんでぁぁぁ」

 あっさり薙ぎ飛ばされる電王。

「弱っ」

 腰に手を当て電王の描く放物線を追うディケイド。その彼にもあの黄金の杖が振りかぶられる。

 折れる、

「ぁ!おまえ、・・・・これ、主の借り物なんだぞ、ナニしてくれてんだコラ。」

 『至高のトリアンナ』、あっさり折れた。

「オレのせいか、オレガードしただけだぞ・・・」

 ディケイドはただ左前腕で頭を守ったに過ぎない。ただそれだけで『至高のトリアンナ』が真っ二つに。バッファローロードは威厳もなにもかもかなぐり捨てて動揺し、受け止めたディケイドもまた唖然とした。

「ええい!」

 バッファローの拳がディケイド胸元にヒット、しかしリキみもなく微動だにしないディケイド。ディケイドの方が首を傾げている。

「これはまた、チートな。」

 拳を繰り出すディケイド、バッファローの鼻先を撲つ、小石のように吹き飛ぶアンノウン。吹き飛んで橋を粉砕し飛沫を上げて落下。

「なんだ、おまえは、何者だ?!」

 水面から起き上がると鼻から水が滴るバッファロー。

「二度は言わん。」

『FINAL ATTACK RIDE dededeDENOoo!』

 右脚を前に中腰で構えるディケイド、四肢の先にあった仮面が全て右脚の腿から足首に集結縦一列に並ぶ。

 ブフォ、

 起き上がって飛沫を飛び散らせ向かってくるバッファロー、一直線にディケイドへ。

 ハァ、

 ディケイドの上体が浮く、突進するバッファローの眉間に打ち込まれる蹴り脚、両者の運動量全てがバッファローに注ぎ込まれる。

 ぉぉぉぉぉぉ、

 推し返され、仰け反り、光輪を頭上に浮かべて絶叫、爆殺するバッファロー、ディケイドの目に炎が映る。

「いかんよな。命のやりとりにイジメの要素入れちゃ。」

 ディケイドはそう言いながらも平手を交互に2回叩いた。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その36








「アギト、許されない、人が神に近づくなど。」

 地のエルが指先の爪を立て振りかぶる、

「オレはただの人間だ!」

 掌底を軽く合わせ受け流すアギト、重心を崩す事無く、その肉体に余計な力が無い。
 地のエルは自身の力で自身の重心を崩す。

『ATTACK RIDE BLAST』

 地のエルの背を襲う光弾、一旦制止し、ゆっくりと上体を向ける地のエル。

「うりゃ」

 さらに畳み掛けようとディケイド、ブッカーで袈裟斬りに突進、が、

「近づくな!」

 叫ぶアギト。実はアギトはその力を受け流して敵の猛攻を防ぐのに手一杯だった。
 折られるソードブッカー。

「なに」

 それは地のエルの片手の横薙ぎに過ぎない、一振りで自身の得物の刃を折られて下がるディケイド、逃さない地のエルが返し手で薙ぐ。

「ぐわ」

 食らったディケイドは脳震盪気味に動きが乱れ、隙だらけになる。そこへ無空から一振りの剣『敬虔のカンダ』を振りかざす地のエル。

「士、」

 砕ける仮面、もんどり打って堤防に激突するのはディケイドを庇って踊り出たG3-Xだった。ユウスケの右目が露出し、危険な域の血量が流れているのが誰が見ても分かる。八代の叫び声がマスクから溢れ、それに応える事ができないで苦悶の表情を見せるユウスケだった。

「はぁ・・・」

 地のエルがディケイドへと向いて背を向けたところで、アギトが軽く両手と足を開き、気合いを声に出す、アギトの頭の両角が、花が開くように展開、浅い水面足下にアギトのシンボルが描かれ、渦を巻いてアギトの両足に集約していく。

「ん」

 膨大な神通のエネルギーを感じて振り返る地のエル、

「こっちだ」

 ディケイドが叫ぶ、
 振り向き様剣を薙ぐ地のエル、
 既にディケイドは屈んだ姿勢、ライドブッカーの銃口を地のエル脇に密着させる、

「ん!」

 推される地のエル、ゼロ距離からの銃撃に後退り、

「はぁ!」

 そこに跳躍したアギトの蹴撃がヒット、

 ぁぁぁぁぁ

 瞬間爆破する地のエルだった。

「寝てるかユウスケ、」

 己が掌を交互に掃って倒れるG3に手を伸ばすディケイド。

「一言でいいから心配してくれよ。」

 起き上がるG3-X、ユウスケの顔から流れていた血は既に収まっている。もちろんユウスケの体内に宿るアマダムの力だ。

「おい、アレ、いいのか。」

 アギトが指差す方向には、もう1人のライダーが戦っていた。

「おい、てめえら、呑気に構えてねえで助けろコラ!」

 いや伸されていた。見れば電王が俯せ倒れて足掻く背をバッファローが踏みつけている。

「人間どもは皆、オレ様の前にひれ伏す。」

 足掻いて助けを求める電王だったが、他の3人のライダー達はどうしたものか立ち尽くしていた。

「どうせ殺されても死なん。」と士。

「助けが、必要・・・なんだよな・・・。」行動が伴わないユウスケ。

「ホントにいいのか、体は、おまえの女のだろ。」とアギト。

「誰がオレの女だ!」血相変えて突撃するディケイド。

「そうだ、そうなのか?え?」なお戸惑うG3-X。

「そうにしか見えんが。」

 アギトも加勢しようとしたが、疾走しながらディケイドが振り返って2人を指差す。

「おまえらじゃダメだ、あっちイケ!」

 それを聞いてもアギトは、動揺を隠さないディケイドを放置できない。

「あんな奴とよくいっしょにいられるな!」

 だがG3が肩に手を置いて引き留めた。

「あんな奴だからオレや夏海ちゃんがいっしょにいなきゃいけないんだ。忘れたのか、イマジンにオレ達の攻撃は通じない。士は、そう言ってるんだ。それよりオレ達には、」

 G3は親指で天空のある一点を差した。

「神か。」

 宙を浮かぶ少年は、神々しい球体となって輝き、徐々に電王とバッファローロードに近づいていく。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その35








「士、行った!」

 そのG3-Xの短銃威嚇を頭上で躱した風のエルが、突破しディケイドに激突、

「ぐぉ」

 そのままディケイドをぶら下げ宙へ持っていく。

「油断しているからだ」

 といいつつアギト、地のエルに組み付かれる。

「なんとセンスの悪い、」

「おめえ、リョウタロウのセンスの悪さ、なめんなぁよぉ!」

 電王はデンガッシャーを肩に担いで水のエル=バッファローロードと対峙している。

「みんなの迷惑になりたいなら、するがいいさ。そうなる前に、みんながいなくなれば、君達の行動は全部ムダになる。悔しがればいいんだ。」

 少年が両手を軽く拡げ、宙に舞い上がりなにやら瞑想を始める。G3-Xは対空迎撃するが、どういう訳か少年の手前でことごとく弾かれる。

「くそ」

 G3-Xは照準を風のエルに切り替える。点にしか見えない程高々度に上がった風のエル、そうして抱えたディケイドを放逐。

「ユウスケ!」

 背中から落下するディケイドが邪魔になって風のエルが死角になる。G3-Xは短銃GM01を破棄し、両腕を空けた。

「士!」

 落下したディケイドをキャッチするG3-X、その衝撃で手と言わず足と言わず駆動系全てが悲鳴を上げ強制冷却剤が煙りを吹いた。

「アネさんの、G3-Xを壊すつもりか。」

 ディケイドは支えられ地に足を付けた途端に、G3を払い除ける。

「感謝しまくりだな士っ。」

 G3-Xは続いて急降下してくる風のエルに、ガトリング砲の照準を取る。

「それよりユウスケ、さっきのミサイルあれまだあるか、おい、聞いているのかユウスケ!」

「・・・・・、はい八代警部。士、ランチャーの信管は姐さんが手動でやる。」

 向かってくる風のエルにGX-05を構えるG3。

「さすが天才は話が早い。」

 発射される黄色い弾頭、
 上昇し風のエル至近、
 宙にあって直撃を躱す風のエル、
 近接爆破、

「グォ」

 着弾する事無く爆破するランチャーに、宙を錐揉みする風のエル、だが即座に姿勢を制御し、直下ディケイドを捜す。
 捜すが見つからない風のエル、

「上だ。」

『ATTACK RIDE SLASH』

 既に風のエルより上空に跳躍し、ライドブッカーを振り下ろすディケイド、

 叩き付ける、

「うぉぉぉぉ」

 墜落する風のエルに、G3-Xの乱射が注がれる。

 爆破、
 四散する風のエル、
 着地するディケイド、

「よくやったなユウスケ。」

 肩に手を置くG3-X。

「おまえ、デレ過ぎだ。」

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その34








「イマジンお得意の奇跡が起こった。」

 その浅い川の戦いをマンションの屋根から眺めるのは海東大樹。ディエンドライバーを片手で弄んでいる。

「世界にいくつもの可能性の未来が発生する。そして重心のある数少ない世界だけが生き残り、他は淘汰されていく。それこそ泡のように。本来の重心であるリョウタロウが健在な内に、同じ世界の可能性であるイマジンが重心と化すのは、珍しい現象だ。」

 そのクルクルと回転させるディエンドライバーに目を置く海東。

「そうか、奴等は記憶の存在、こいつと、それほど変わらない。過去の記憶は未来の礎として希望と願望を生み、その世界を覆す奇跡を起こす。」

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その33








「ダメだよ、みんなの迷惑になっちゃ。」

 そして橋の上には少年、リョウタロウが立ち、その体内に球体を受け入れる。
 徐に『至高のトリアンナ』を振り上げる。河川にいるユウスケとショウイチの頭上に、巨大な光の十字架が出現降下、

 うぁぁぁ

 叫ぶ両者は石ころのように川の中を転がる。

「どうしてそんな風になっちゃうのさ。」

 リョウタロウから分かれて並ぶ3つの人の像、それは先に死んだはずの風のエルと地のエル、そして新たに出現したクジラの顔の『水のエルロード』。

「ボクが何をしたっていうんだ」

 リョウタロウはそう言いながら、トリアンナを水のエルへと渡す。水のエルの後方より迫り溶け込む暗い珠、それは、

「悪の組織は永遠だ。」

 水のエルの姿が、ユラユラと液状化し中から墨が吹いたように染まっていき、角が生え、牛の頭に変わる。もはや水のエルでもネガタロスでも無いものが誕生する。牛、鷲、獅子、そして人の顔が揃った。
 リョウタロウは倒れる2人の人間を指差した。

「人は力を得れば、必ず間違った道を選んでしまう。なぜなら、」

「なぜなら、人は愚かだから、か?」

「士、」

「おまえ、」

 革靴に水がはねる。悠然と現れたのその姿は郵便配達の衣装を着ていた。

「そうだよ!力を持ってこの世を間違えさせちゃダメなんだ!必要無いんだ!」

 リョウタロウは痛みを訴えるように叫んだ。

「ああ、確かに愚かだ。死んだ女の面影を追って全てを捨てようとしてみたり、大切な人を巻き込まない為に自分1人で逃げ続けたり、な。」

 その士の背を見つめるのはユウスケ。

「その友達の為に体を張ってみたり、な。」

 ショウイチの腰からバックルが浮かび上がってくる。それはギルスのそれと酷似しているものの、より金属質の光沢を帯びている。その中央の『賢者の石』より取り出すのは、白いバックル。

「な。」

 受け取る士の顔は卑屈に笑っている。

「愚かだから、転んで怪我してみないと分からない、時には道に迷い、間違えたとしても、それでも旅をしている。おまえに道案内してもらう必要はない!」

 士の左右に並ぶユウスケ、ショウイチ。だがこの世界にはもう1人いる。

「お~っい、オレを忘れるなぁ~!」

 ピチャピチャ音立てながら河川を走ってくる赤水着の光夏海。

「全部ぶち壊しだな。」とショウイチ。

「夏海ちゃん、ここまであの恰好でずっと走ってきたんだ。」とユウスケ。

「見るな、無視しろ、いくぞ!」

 士はライドブッカーを開いて何枚かカードを取り出す。士の手に握られた瞬間、その全てが輝き放って図柄が浮かび上がってくる。

「変身!」

 ショウイチ、左拳を腰に充て、右手刀を突き出す。一旦構えたそこから、腰に巻いたベルト左右に掌を充てる。すると肉体が光放って変貌していき、ギルスのそれではない、雄々しい仮面の姿になる。『仮面ライダーアギト』。

「おまえら揃ってシカトしてんじゃねえ!変身!」

 赤水着の夏海が小器用に片手だけでベルトを捲く、さらに無空よりパスを出す、パスを翳す、ベルトからファンファーレが鳴り響く、夏海の肉体から浮き出てくるアーマー、肉体に覆い被さり、最後に逆ハートの面がマスクとなって張り付いて左右に先割れ、釣り上がった巨大な複眼のようになる。『仮面ライダー電王』。

「釣られてみる~」

「泣けるでぇ~」

「答えは聞いてない~」

 その電王に向かって背後より迫る光珠3つ。

「おまえら来たか、これからが、クライマックスだぜ!」

 次々電王に向かって憑依する珠、再び鳴り響くファンファーレ、電王のアーマーがさらに変形し、両肩と胸に、『ロッド』、『アックス』、『ガン』の各フォームのマスクが浮かび上がる、仕上げに、あの釣り上がった複眼が花びらが開くように4枚に展開、

「剥けたぁ!」

 これが『クライマックスフォーム』。他と違って一段パワーアップした姿。

「赤いのの最大の強みは、チートな事だな。」

「赤いの言うなっ、偉そうに、ナニモンだてめえ!」

 その電王を冷酷な眼差しで眺めながら、カードを翻す士。

「通りすがりの仮面ライダーだ、覚えておけ赤いの。変身!」

『KAMEN RIDE DECADE』

 9つのシンボルが縦横に走り士に重なる。マゼンダの輝きが眩しい『仮面ライダーディケイド』。

 銃撃で威嚇するG3-X、その後背に並び立つライダー達。計4人の仮面の男が、同じく4人の敵と対峙する。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その32








 ガードチェイサーが高架下から日の光に晒されると、大量のアントロードを手当たり次第に片付けているエクシードギルスを視界に入れる。

「こい!」

 ユウスケは即叫んだ。

「何処へだ、」

 獲物の殺害に野生が収まらないギルスはそれでもユウスケという男に答えた。

「G3ユニット、そこがアンタの居場所だ。」

 歩み寄るG3-X。

「馬鹿な、オレは戻れない。絶対に!」

 自らの変化した両掌を眺め答えるギルス。
 その言葉を遮るようになお語りかけるユウスケ。

「八代の姐さんが、アンタを待ってるんだ!」

「ショウイチ・・・・」

 G3のモニタは、八代の乗るトレーラーに送信されている。彼女は何かを語りかけようとしてマイクを自分の元に向けたが、あまりの言葉が記憶と共に脳内を駆け巡り、結局マイクから手を放した。

「オレの呪いが分かってたまるか!」

 突如G3に組み手して共に河川に落下するギルス。河川の水位は数センチ程度。体内の細胞に水が染みこんでいくのを実感するギルス。

「アンタは!」

 ギルスの左拳を払い除けたG3の右掌は、全くユウスケの動態反射の賜である。

「ぐぉ!」

 払って仰け反るギルスをその流れに逆らわず押し倒し、頭を押さえ込むG3-X。ユウスケ1348番めの技だ。

「自分がアンノウンに追われてると知って、八代さんを巻き込まない為に、姿を消した、」

 八代さんと姐さんが統一できないユウスケ。

「それしか無いだろ!オレが逃げるしかぁ!」

 この声はG3を介してトレーラーに全てモニタされている。

「八代の姐さんはとっくに気づいていたよ。」

 だが2人は他に気づかなければならない事があった。間近に数匹のアントロードと、そして獅子の顔を持つ『地のエルロード』。

「チリカラウマレシモノドモヨ、チリニカエルガイイ。」

 アンノウンが同じ河川の上で対峙する、今まさに地のエルが握り拳に顆粒状の物質をわき出していた。

『小野寺君、GX-05、アクティブ。』

 だがG3-Xの方が早い。

『解除シマス』

「はぁ!」

 既に重機関銃を腰裏から取り出してパスワードを入力、稼働させるユウスケ。120もの弾幕が一斉にアンノウンに捲かれ、水飛沫と硝煙と爆音に塗れながら破砕。

「このパワーは、」

 アンノウンを圧倒したG3に唖然とするギルス。

「オマエハアギトデハナイ、ナゼコレホドノチカラヲ。」

 そして唯一耐えた地のエル。

『GXランチャーアクティブ!』

「姐さんは、もっと強くしようとしている!」

 撃ち出されるロケット弾、まともに喰らった地のエルが為す術も無く爆散する。残ったのは、地のエルのコアである球体。フワフワと宙を漂い、河川の上、橋の袂まで舞い上がる。

「なぜか?アンノウンを倒す為だ。」

 ユウスケはギルスに夏海から貰った手紙を手渡す。人の姿へ戻って受け取る事無く呆然と見つめる芦河ショウイチ。

「姐さんは強いんだよ、オレや、アンタが思っているよりずっと。守って欲しいなんて思っていない。それどころか、アンタを守るつもりだ。」

 モニタ越しにそれを聞いていた八代淘子は、トレーラーの中に自分しかいない偶然に感謝した。一息だけ置いてマイクを近づける。

「芦河ショウイチは、決して逃げた事の無い男よ。」

 G3-Xのスピーカー越しに、懐かしい声がショウイチの耳に届く。

「おまえ・・・・、姐さんって言うな、」

「なに?」

「アレは、オレの作った朝飯でしか起きん女だ。」

 ショウイチは手紙を手に取った。

「おまえじゃない、小野寺ユウスケだ。芦河ショウイチ。」

 ユウスケの表情を、G3-Xのマスクは隠している。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その31








「怖くなったのさ。逃げ出したんだよオレは。河原を必死にな。足下がズブ濡れになるのも構わず!」

 エクシードギルスに変身するショウイチ、見下す少年に向かって突進、

「行け」

 少年の右側より飛び出てくる影、

「ヒトノタチイルベキトコロデハナイ」

 ギルスの踵落としを肩で受け止める嘴の鋭い『風のエルロード』。鷲のマスクは怯む事無く、腕と一体化する翼を軽く横振り、
 しかしギルスの方が先を行っている、対手の肩に乗せた側を軸足に、バック転で反対の足を摩り上げ風のエル顎へヒット。

「うぉぁぁぁぁ!」

 ギルスそのまま再反転で再び踵落とし、即ち『エクシードヒールクロウ』。

「ウォォォォォォォォォォ!」

 再び咆哮するエクシードギルスに炎が包む。風のエルが光輪を頭上に掲げ悶え爆破したのだ。

「・・・・ハリキリ過ぎだバカ」

 爆圧を生身で受けて、後頭部を高架下の金網にぶつける士。

「やっぱりどう繕ってもダメだよね。最初から一切を書き換えないと。」

「キサマっ!逃げるなぁ!」

 少年は既にギルスより数十メートル先まで距離を開けた。瞬きする毎に、同じ直立の構えのままさらに遠退いていく。それを超人的な筋繊維の脚力で跳んで追うギルス。咆哮を上げながら。
 立ちくらみが収まらない士は、それを目で追うしかない。士は幻聴と錯覚したが、サイレンが士に近づいて来ている。

「士。」

「やっと見つけた、居場所の居心地はどうだ?」

 悲鳴を上げる足腰を無理に奮い立たせ、平然とした顔を作る士。
 けたたましいサイレンを切って、ガードチェイサーを停車するG3-X。マスクを取ると、ユウスケの顔が晒される。

「手紙を見た。芦河ショウイチが八代さんにとってどういう人なのか。」

「そうか。」

 立ちくらみで思わず手をガードチェイサーカウルに肘をつくが顔だけは平然を装う士。

「八代さんの笑顔を、」

「またあんな思いは、オレも見たくない。」

「オレ、おまえの事分かりかけてきたよ。」

 笑顔を向けるユウスケ。

「ボヤっと、するなよ、アンノウンがあいつを狙ってる。」

 士はやはり何枚も壁を作る。

「お、おぅ。」

 素直に聞いてしまうユウスケは、素直にガードチェイサーのアクセルを吹かせターンさせた。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その30












 あなたが私の前を去ってから数ヶ月が経ちました。
 もしかしたら、前の家に戻ってきている事もあるかもと期待してこの手紙を出します・・・・・

 ・・・・私だって、あなたを守る事はできます。
 G3をより強化したG3-Xであれば、あの怪物たちとも対等に戦う事が出来るはずです。
 どうかもう一度帰ってきてください。
 私にはあなたが必要です。









 姐さんは、とてつもなく不器用な人だとユウスケは思った。自分に対してもそうだったんだろうか?

「小野寺君、何?!」

 そこはトレーラーの中、放心していた素顔を見られたくない為リアクションがオーバーになる八代淘子だった。
 突如対策本部トレーラーに入ってきたユウスケは無言でG3-Xのマスクに手を伸ばす。

「出動命令は出していないわ。」

 平静を装ってありきたりな事を言う八代。

「連れてきます。」

「え?」

「G3-Xの、本当の装着者を。」

 今日の八代は運が無い。放心した素の顔を見られてしまった。小野寺ユウスケには、驚かされてばかりである。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その29








 正面玄関からトライチェイサーをエンジンを掛けず押し動かす。

「捜して来ますと言ったものの・・・」

 桜田門警視庁前、守衛とお互いに顔を覚え合った程度にはここに滞在していたユウスケ。守衛の無表情さと無類の酒好きであるギャップに驚いたものだ。
 路頭に迷うとはこの事だ。待機を命じる八代を押し切って海東捜索に出たユウスケだったが、2分と歩かない内にアテが無い事に絶望した。いっそ士にでも頼ろうかと思ったものの、写真館を一旦出た身を思えば、再び足を向けるのも忍びない。

「ユウスケ!」

 だがこの辺りが、ユウスケという人間のラッキーな星回りだろう。なんと、東京メトロ桜田門駅から光夏海が駆け上がってきた。

「夏海ちゃん、」

「お願い、士クンを、助けて、」

 よほどユウスケを捜したのだろう。夏海の息はまだ上がっている。
 助けて欲しいのはこっちだ、などとユウスケは思っていたとしても言わない。

「あいつどうしたんだ?バケモノみたいなヤツを守るなんて」

「どけどげーっっ」

 ユウスケと夏海が同時に空を見上げる、カラスの大群を態々突っ切ろうとする光の珠を。

「あれは、アレか」

「危ない!」

 軌跡を目で捉えて、突っ込んでくる珠を同時に右左へ散って回避。光の珠は地面を一旦潜って急上昇、やや速度を落として2人の頭上を周回する。

「なんで避けんだコラぁ!」

「もうおまえに弄ばれるのは御免だぁ!」

 一字一句声を揃え指差すユウスケと夏海だった。

「なんでぇ、オレがそんなに嫌われなきゃいけねえんだっ!」

「当たり前だぁ!」

 やはり2人揃って口にするユウスケと夏海に、光の珠は問答無用で突撃してきた。

「緊急事態なんだぁぁぁ」

 弧を描いて夏海に向う光の珠、

「もう裸はNG!」

 目を閉じ、直前まで来たところでしゃがみ込んで躱す夏海。

「なつ!」

 だが不幸な事にその軌道上にユウスケが立っていた。

「メンドくせぇぇぇ」

 ユウスケの体にスッポリ収まる珠。硬直し顔から感情が消え、一旦指先からピンと硬直したかと思いきや酔ったようにフラフラと歩き出すユウスケ。

「ユウスケがぁぁ」

 夏海は頭を抱えた。

「それがおまえの姿なのか・・・・」

 呆然としながらもユウスケは言葉を発した。誰に向けたものでもない。自分の脳の中へ向けられた言葉。

「よう、おめえとこうやって話すのは初めてだよな。かっこいいだろ。特に角。」

 おもしろい程イカツイ人相の赤鬼が立っていた。
 白いもやのかかった空間に立つユウスケと赤鬼。赤鬼は、額に生える2本の角を何度も何度も撫でている。

「今のこのオレに、なんの用だ?」

「今のおめえだから、用があんだよ。」

 突如、白いもやだったものが四方映像と化す。全て八代とショウイチが映し出されている。

「姐さんの、過去。」

「全部だ、あの緑ヤロウと、おめえの相方と、見てきた女の過去の記憶全部を、おめえにやる。」

 それはまるで万華鏡だった。次から次へと八代淘子と芦河ショウイチの喜怒哀楽が流れ、そして終着した映像は、あの血まみれでショウイチの名を叫ぶ八代の姿。

「姐さんは、姐さんは、そこまで、」

「どうでえ、おめえ言ったよな。化けモノみてえなヤツをどうして羽根付き餃子の王将が守るかって。」

「ああ、どうして士はあんなおかしな、」

「決まってんだろ!化けモノが死ねばあの女が悲しむ、あの女の悲しむ顔を見るのは、」

「姐さんの悲しむ顔を見たくない・・・・、オレと、士しか知らない言葉だ、あいつ、」

「そうでえ、おめえの為だっつんだコンチクショー!分かったら、さっさといくぜ!」

「おまえ、気恥ずかしい事直接言えるんだな。」

「それがオレクオリティでぇ!」

『ツボっ!』

 ユウスケを覚醒させるに足る天井よりこのもやの世界全体に響く声。光夏海だ。

「女ぁぁぁ、余計ぁぁぁ」

 もやが薄れていき、その薄れ行くもやに溶け込んで拡散する赤鬼。

「待って、もっと、もっと姐さんの過去を!」

 消えゆく映像に思わず手を差しのばすユウスケ、しかしその手の先もまた消えていった。

「光家秘伝、代謝のツボ、」

 立てた右親指に煙が吹いているわけではないのだが、息を一吹きウィンクする夏海。

「夏海ちゃん、危ないよ、」

 ユウスケの視線は、そのユウスケから飛び出た光の珠の軌道を追って、そして得意がる夏海も視野に入る。

「悪い成分をみんな追い出す。アウ」

 などと蘊蓄に浸っている夏海の背中へ光の珠が憑く。放心し、寄り目になって、頭を揺すっていた夏海はしかし、

「やっぱ、このオンナ持ってたな。ほい、おめえも読むんだな。」

 男声になった夏海、ポーズも肩を張ってガニ股になっている。

「これは、八代の姐さんが出した手紙、」

 割かれた手紙がセロテープで継ぎ接ぎだらけで復元されいてる。ユウスケはその時、自分の瞳から涙が止まらなかった。

「おめえらはよ、オレに言わせれば、アマちゃんだぜ。」

「ありがとう。おまえ、役に立つ事もあるんだな。」

 ユウスケ、押し転がしていたトライチェイサーに跨り、エンジンを吹かす。

「おめえ、オラぁな、いつでもどこでも全人類の役に立ってるんだぜ!」

 ガニ股で見得を切り、適当な事を言う赤鬼だった。

「おまえ、その格好、いいかげんにしないと夏海ちゃんに消されるぞ。」

「おい、待て、オレも乗せてけぇ!」

 夏海を置いて、無心で走り出すユウスケだった。
 ちなみに、夏海は赤いワンピース水着一丁の姿になっていた。水着にはユウスケが見たあのイカツイ赤鬼の顔が夏海の上半身から下半身にかけて描かれていた。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その28







「オレからいい加減出て行け!」

 ショウイチが叫ぶ。

「目ぇ覚ましやがったこんヤロー!」

 ショウイチの肉体より飛び出る光の珠、イマジンだ。

「面倒だな逐一。」

 高架下の路上、影に潜んでいたショウイチと士がいた。だが、どこへ潜もうとも、天上より眺めるものは、見逃さない。

「ダメだよ。緻密な世界観が壊れちゃって。キャラもブレまくりだし。掃除しなきゃ。」

 『至高のトリアンナ』を振りかざすのは、車両が100キロ近いスピードで行き交う高架上に立つリョウタロウ。
 刃を振り上げると天空に巨大な十字架が出現、落下してアスファルトを圧壊させる。

「おまえか、決着をつけてやるぞオイ!」

 喚き散らすショウイチ。

「リョウタロウっ、やめてくれリョウタロウ、」

 リョウタロウ自身に触れる事はできないものの、周回して威嚇する光の珠。

「避けろ、今のおまえはムリだ、おい、赤いの、ユウスケを呼んでこい!」

 虚勢を張るショウイチを体当たりで押し倒し、十字架の爆風から逃れる士。既に光の珠は彼方の方向へ飛び去り、倒れるショウイチと士は地を這って高架下の死角、真下に回り込む。

「なぜだ、なぜそこまでオレを守る?言ったはずだ、おまえはオレを守る力は無いと。」

「少し前の事だ。ある男は必死になってある女を守っていた。女は男の支えがあってはじめて生きられるが、男は女を守ってはじめて、生きられるんだぜ。」

「オレは、違う。」

 ショウイチの眼が、怯えた犬のようになった。

「おまえが死ねば、八代が悲しむ。彼女は支えを失う。」

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その27



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 舞台は更衣室から何階層も下の警視庁地下駐車場へ移る。

「すごいじゃないか。G4チップは人間の脳神経をシステムとダイレクトリンクさせる。すばらしいお宝だよ。」

「お宝?」

 海東を追いかけてきたユウスケは、この場でも人が良い。

「士から聞いてないのかい?ボクが興味あるのは、世界に眠るお宝だけさ。」

 だがそんなユウスケも怒りが滾った。海東が途端に小さく見える。

「返してください。それは姐さんのものだ。」

 一歩踏み出し手を伸ばすユウスケ。軽く躱す海東。

「なあ小野寺君、彼女は君の姐さんじゃない。ここの世界の住人だ。分かってるだろ。」

 海東の言う事は事実である。事実であるからユウスケは憎悪に近いものが体からわき出た。

「それでもオレは、姐さんの悲しむ顔を、二度と見たくない。」

 ユウスケは迷いを捨て体内よりアマダムを出現させ、腕を振り上げるポーズを取る。だが海東の動きの方が一歩速い。既にユウスケの額にディエンドライバーを突きつけていた。

「ボクの旅の行き先は、ボクだけが決める!」

「旅、行先・・・」

 ユウスケの感受性に、海東の真意の深さが刻まれる。が理由が読めない。

「君の旅はここで終わりらしい。でもボクは、」G4チップをチラつかせる。「違う。」

 読めない、理解できないものを人は中々受け付けず軽蔑へ感情が雪崩れ込む。だが人が良ければ興味で踏みとどまる。ユウスケは苦労性な事に人が良かった。
 結果として2人の男の対峙が拮抗する。

 銃声、

 2人の男の間に割って入る火花と硝煙、

「アブねえ」

 ユウスケと海東の間に弾丸を見舞ったのは、

「姐さん」

 八代淘子は、待っている女ではない。

「止まりなさい!」

 既に不利を悟って背を向け逃げる海東にさらに弾丸2発で威嚇する八代。

「待て」

 ユウスケは八代と海東を交互に見やり、アマダムを消して生身で海東に追いすがりもみ合いとなる。

「G4チップ。」

 ユウスケに絡まれ思わずチップをコンクリートの床に落としてしまう海東。それを八代は見逃さなかった。

 炸裂するシリコンの破片、

「ボクのお宝を!」

 思わず叫ぶ海東。

「貴方の物じゃないわ。」

 胸を張る八代。

「参ってしまうな。大切な物の価値が分からないとは。」

 ディエンドライバーを手にする海東、コンクリートに向けて全周へ撃ち流す、
 思わず顔を庇う八代、身を伏せるユウスケ、

「大丈夫小野寺くん!」

 再び顔を上げた地下駐車場には、既に海東の姿は無かった。

「すいません、G4チップを」

 実は八代がチップを破壊した様を見た隙に、押し倒されたユウスケだった。

「いいのよ。」肩を貸してユウスケを抱き起こす八代だった。「あれはね。」

 ユウスケは首を傾げるしかなかった。
 そして彼もまた首を傾げた。
 地下駐車場、天井には無数の配管が縦横に走っている。左腕と左脚をその一本に引っかけ、右の足裏を側面の壁に押し付けた状態で天井に蜘蛛のように張り付いた彼。実は逃げずに残っていた海東だった。

「アレは?という事はもっと大切なお宝がある、だよねえ。」

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その26







 一日のゴタゴタを警視庁のシャワー室で落としたユウスケは仮眠室へ待機すべく、一旦更衣室へと足を向けた。

「ショウイチ、ショウイチ・・・」

 男子更衣室、ロッカーだった。

「私は、どうしてこうなの・・・・」

 それを見たユウスケは哀しくなった。とても小さかった。更衣室のロッカーは、上下2段10並んだものが4列、2つの通路で構成されている。そこで、ある下段のロッカーの前で屈み込んで頭から凭れ掛かる八代の姿があった。八代の細い手足を細い体躯で抱え込むとこんなに小さくなれる。ユウスケは自分の世界の八代をこんな風に見えた覚えが無かった。いや見たい八代だけ見えていた事を今はっきりと悟った。八代は細い女だったのだ。

「芦河、芦河ショウイチか・・・」

 ユウスケはロッカーの影に隠れて、ただ泣きすがる八代を、窓から夕日が差すようになるまで眺めていた。ロッカーの名前には芦河とある。そう言えば、配属の決まった初日に態々八代自身が男子更衣室に入り込んで、割り振りを決めていた。

「姐さん、そんな姿をオレに見せないでください・・・」

 ユウスケの耳にドアが開く音がした。誰か第3の者がこの更衣室に入ってきた。過剰にビクついたユウスケはドアからも八代からも見えない窓側の通路に回り込んだ。自分も八代が見えなくなる。

「どうやら、大切な物はそこにあるようですね。」

 ユウスケの耳にあの海東の声が聞こえた。今の八代に平気で近づいていく海東に、ユウスケは少なからず不快感を覚えた。

「海東くん?」

 ユウスケは慌てた。喧しい物音と八代の小さな悲鳴、時にロッカーの金属音も響いた。八代の身に危険を覚え飛び出すユウスケ。

「なにを、海東さん、」

 ユウスケが飛び出すと、突き飛ばされた八代をちょうど受け止める形になる。八代の肉体は硬く細く少し冷たくなっていた。
 海東はその八代を退かして芦河のロッカー天井に張り付けいる一枚の電子部品を取り出す。

「探しましたよ。G4チップ。やはり完成していましたね。さっきで確信しましたよ。」

 唖然とする八代とユウスケに笑みを浮かべながらディエンドライバーを握る海東。

「危ない」

 連射、
 狭い更衣室に跳弾が跳ね、硝煙が視界を塞ぐ。ユウスケは咄嗟に八代を押し倒して自らの体で覆った。

「小野寺君、彼を、早く追って、」

 八代は、1斉射した後背を向け更衣室から飛びだした海東の背中を目で追っていた。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その25







「ショウイチ、いない・・・」

 病室で一人倒れていた八代淘子は、夜風のせいで踊る白いカーテンに頬を撫でられ目を覚ました。ベットのシーツは乱れ、検知されなければならない患者のデータが得られず、機械はアラートを鳴らし続けていた。

「私、何をしているんだろう、ショウイチを目の前にして、何も言えなかった、もう、こんな思いしたくないのに、、、」

 駆けつけた看護士の制止も聞かず室外へ出た八代。今夜の合コンの話をしている若い看護士の集団とすれ違った時イラっとしたものを感じた。

「ボクに、釣られてみる、」

 拳一撃、

「や、アネ、八代警部!?」

 病院の外へ出ると、偶々ユウスケを視界に入れた。黒縁のメガネでフザケた事を言うユウスケが鬱陶しくなり顎先一発で済ませた。憑き物が霽れたように八代の名を叫ぶユウスケだった。

「戻るわよ。後で海東君の事を聞くから。」

 視線を合わせず早々と先へ進む八代。

「姐さん、背中、小さかったっけ。」

 ユウスケはこの時、八代の背中しか見ていない自分に気づいた。
 しかし、八代の思惑に反して、海東はいつのまにか対策班のトレーラーに舞い戻っていた。

「さすがね。グロンギ2体撃破。私の面目が保たれたわ。」

「しかし、新たな敵には敵いませんでした。」

 八代は即座に自分が現場に駆けつけるまでの事情聴取を求めた。海東は息を吸って吐くようにスラスラと言ってのける。

「新しい、敵、」

「グロンギをも倒す新しい敵が現れたんです。なぁ、小野寺君?」

 ユウスケはしばらく考え込んだ。事実を語ると、自らの素性にも関わる。

「はい。」

 八代の顔を見るとそうとしか言えなかった。

「アンノウン」

 八代の言動は時に唐突だ。

「は?」

 なぜ、知っている?
 当然海東は思った。

「私は、アンノウンと呼んでいるわ。未確認と区別する為に。これまでに数度目撃例がある。」八代は右肩を撫でた。「当然、その対抗策を用意してあるわ。」

「それは即ち、」海東の目が輝いた。「G3-Xのさらなるバージョンアップ。でもいいんですか、ただでさえ問題視されているG3-X。開発には相当抵抗があると思うんですがね。」

「ソエノ警部が、そう言いそうですね。」

 ユウスケは半ば話を逸らすつもりだった。が、八代はただ怪訝な顔をしただけだ。

「小野寺君の知り合いでいるんですよ。そういう規則ばった人が。」

 海東が突然そんな事を言い出した。今度はユウスケが海東に向けて怪訝な顔をした。しかし逆に八代はため息まじりに俯いた。

「そうね、でも、なんとしてでも。」

 八代はそれ以上言わなかった。ただ凛とした眼差しは、ここにいるものに八代の明確な意志を感じさせた。

「(姐さん、あんなになで肩だったかな。)」

 だがユウスケは、そんな八代の背中がどうしても一回り小さく見えて仕方なかった。

「海東さん、ソエノ警部がどうしたか知っているのか?なぜ姐さんは知らない?」

 だがユウスケにとって先に聞くべきはこの世界の異常であった。

「破壊されていっているのさ。世界が。」

 海東は表情を変えない。

「破壊?イマジンとは関係ないのか?」

「ある意味ではそうだけど、ある意味ではそうじゃない。君達も薄々感づいているだろうが、この世界、つまりアギトの世界と、イマジン、電王の世界が融合しつつある。それぞれの重心が1つになり、それぞれの世界の住人が、限定された世界の枠組みの中で生存を潰し合っている。イマジンがこの世界に大量に雪崩れ込んできた為に、本来のこの世界の人間は居場所を失い、喪失したのさ。ソエノ刑事は、本来彼に用意されたこの世界の座席を、イマジンに横取りされ、弾かれた。そしてこの世界の住人は、弾かれた者を覚えていない。まだここは、穏やかな方。他は文字通り生存競争となって、挙げ句座席そのものを壊していく。」

「そんなバカな・・・ソエノ警部はじゃあ、」

「喪失した者は時を遡っても戻ってこない。もはやこの世界の過去は、彼無しで紡がれているよう書き換えられた。君が覚えているのは、僕らがストレンジャーだからさ。世界が破壊されるという事はこういう事さ。」

「重心って、そんなの、」

「重心は、形は決まっていない。その世界の中心であり主体さ。この世界はライダーの敵であるさっきのアンノウンの親玉が、そして電王の世界ではイマジンという幻影を生み出したその世界でたった1人の少年が重心だった。君達と出会ったファイズの世界では、オルフェノクの王がそうだった。人や物に限らない。ひとつとも限らない。たとえば君の世界は、君とあと2つのアマダムだ。光の粒子なんて世界もある。」

 おそらく海東は、自分をバカにしているのだろう、士なら、大体分かったとウソでも言うのに、
 そんな屈辱感が腹の底からユウスケの脳裏直撃する。

「もういい!もういいだろ!」

 吠えてしまった。だが眼前の海東はその笑みを崩さない。この手の反応に慣れていた。

「すいませんでした」

 そう言ってユウスケは海東に背を向けた。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その24







「ほら、捜査一課のヤツから差し入れ。門出だって。なんなら、剥きましょうか。」

「こんなの、皮ごと食べてしまえばいいのよ!」

「栗ですよ、お腹壊しますよ。すいませんでした。オレが、全部剥いて出せば良かったんですよね。」

「そうよ!貴方が悪い・・・・・、ごめんなさい。子供だったわ。」

「・・・・、頭を下げるなんて、貴方の人生で無いと思ってましたよ。」

「貴方に謝られると、その方が気持ち悪いのよ。そのくらい、言わないでも分かりなさいよ。」

「それは、すい・・・、さあ、G3のシミュレーション再開しましょうか。」

 2人の馴れ初めは、最初は気に入らない捜査課の刑事と出向してきた部外者であった。

「起きろよ。」

 徹夜続きのG3開発で泊まり込みが当たり前の2人は、八代の借りている有楽町のホテルへ仕事を持ち込んで、それぞれベットとソフォで仮眠しながら仕事を続行。

「昨日徹夜したじゃない。いっしょに、なんでそんなに朝強いの?」

 その内ショウイチもマイ歯ブラシをホテルに置き、八代の世話を一方的にこなすようになっていく。

「昨日徹夜したから、今日はちゃんと生活を整える必要があるんだろ。それより、せめて食事だけでも取れよ。できてるぞ。あっちに。」

 だがショウイチは、自宅に菜園があり、週の半分八代のホテル生活に割いているには限界があった。

「ベットで食べる。一石二鳥。あーん。」

 八代は取り返しがつかない程にショウイチに家事を依存してしまっていた。

「さぞや効率的なヒラメキなんでしょうね。ハイハイ、あーん。」

 天才はムリを通す為なら道理をあっさり破棄する。八代はホテルを引き払って東村山にあるショウイチの家に転がり込んできた。今度は八代の歯ブラシがショウイチの家に置かれる事になる。

「やっぱり起きる。鼻に入った。」

 形ばかりの共同生活が、運命という脳内補完と、妥協とによって紡がれて本格的な同棲に発展するのは自然な事である。
 次なる運命は、G3の初出撃より始まる。
 未確認25号を呼称された『ズ・メビオ・ダ』を世田谷の公園まで追い込んだ夜の事だった。

『なんだ、あれは、未確認じゃ、』

 途切れるG3からのモニター。

『ヒトハヒトデアラネバナラナイ』

 G3に埋め込まれたコンディションアラートが、装着者の身の危険を訴える。

「どうした、芦河装着員、ショウイチ!応答して!」

 トレーラー内の八代の頬に赤の点滅する光が差す。

『体が、オレの体がぁぁ!』

 もはやトレーラーに居ても仕方ないと悟った八代は、応援要請した上でヘッドセットを置きショウイチがいる夜の公園に飛び出した。

「アァァァァギィィィィトァァァァ!」

 八代は見た。夜の公園、闇夜に白光するハイロゥを浮かべ爆破する豹の怪物を。明らかにグロンギのそれと違う。

「オレを見るな、おまえが来れば、オレはどうなるかわからん!」

「ベルト、光ってる、誰?ショウイチ?」

 爆炎上げるその奥、怪しい影が立っていた。八代の眼では腰の光で影の輪郭が見えない。

「未確認を捕捉、神経断裂弾の発砲を許可する!」

 そのタイミングで駆けつけた40名の警視庁未確認対策班。ステンレスのシールドの隙間からライフルを一斉に影に向けた。

「やめなさい、私の言う事が聞けないの?!」

「殺られる前にやれ!」

 八代は咄嗟に制止した、しかし一斉に浴びせかけられる銃弾の雨。影は硝煙に捲かれながらも微動だにせず、ただ額が縦に、ちょうど瞼が開くように左右に割れて黄金の光を放った。
 吠えた、
 それは人間的な感情の爆発だった。影の肉体からいくつもの爪が細く長く伸び、肉体が躍動し、一気に警官の1人へと近接してシールドをその爪で切断。

「うぉぉぉぉっっっっっ!」

 緑の体色だった。2本の角が頭にそそり立ち、金属質の口元が開いて、警官の喉元に噛みつこうとした。

「ダメ、ショウイチ!」

 だが血を吹いたのは立ち塞がった八代だった。緑の化け物は、無心に肩口を食いちぎろうとする。化け物の鼻孔に、慣れ親しんだ香りがした。化け物が制止し、狼狽え、後退る。

「淘子・・・・見るな、見るな!」

 化け物の顔面は八代の血に塗れていた。ウォと吠え、八代に背を向け銃弾を掻い潜って逃走した。

「ショウイチっっ!」

 八代は叫んだ。人前で泣いたのははじめての女だった。
 重傷者5名、軽傷者18名。破壊されたシールドは13枚。切断されたライフル5丁。そして八代淘子の右肩に一生消えない痣が被害として残った。

「おい、ホッといていいのかい?赤羽付き餃子?」

 その夜の公園、同じ場所のやや離れた木陰に立つ3人の人間がいた。1人はホームレス状態になったショウイチ、つまりそれに憑いたイマジンモモタロス。

「見たかったんだ。手紙では分からない事をな。」

 1人は門矢士。

「手紙を読んでいたんでしょ?なら、なぜまた過去に遡って見に来たんです?あんなオカシな電車に乗って。」

 夜空を指差したのは最後の1人光夏海。
 彼女の指差した天井に、白と赤で彩られた流面形をした先頭の4両編成が、弧を描いて流れていた。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その23







「いままで、ちゃんと食べてた?」

 ショウイチが目を開けると、眼前で八代がベットの手摺りに肘をついて頭を抱えていた。八代の目の下には明確なクマができており、今にも眠りそうである。
 ショウイチは怪訝な顔で、返答しない。

「食べる?」

 八代は、ガラスの器に盛られた大粒の苺を差し出す。苺が隠れる程の砂糖が塗してあり、さらにその上からミルクが並々と注がれている。自分の分とショウイチの分。それぞれ光るスプーンを差し込んであり、八代は薄くミルクの膜を張ったようなイチゴを1つ口の中に含んだ。

「オレは・・・」

 同じように貰ったガラス皿からイチゴを一粒掬って口に入れるショウイチ。
 八代はそんなショウイチを見ながら擡げた頭を上げ、背筋を伸ばした。

「聞いていい?」

「なんだ、」

 八代は低く言った。

「貴方は誰?」

 ショウイチの口の動きが止まる。

「ボク、ショウイチくんです、、」

 ショウイチは目を合わせない。

「ショウイチはね、イチゴ、潰すのよ。私のもいっしょにね。」

「キッタネー、おめえ、態と潰さなかったな、ズルいオンナだ、普通こういうのは、看病してるヤツが潰すもんだ、なんで潰さねえんだ、」

 八代はそこには答えない。

「ショウイチはそんなクドクド子供みたいに喚かない。アンタ、あの憑依するエネルギー体でしょ。私はイマジンと名付けたわ。さっさと私の質問に答える!」

 八代淘子は天才である。

「すいません。イマジンです。」

 何故か凶暴な女には苦手意識が体に染みついているイマジンだった。

「ショウイチから出て行きなさい。貴方がショウイチを助けてくれたのは感謝しているけど、それはそれ、これはこれよ!」

 天才は考えない、直覚する。直覚はどういう訳か正しい。

「ええい、殴られる前に殴れだ!」

 拳一撃、
 ショウイチ=モモタロスの拳が八代の顔面にクリーンヒット、
 一体なんの過剰防衛か。

「デジャブ・・・・」

 鼻血を一筋、八代はそのまま失神した。

「おめえがすぐ拳出そうなオンナだからいけねえんだ!」

 と言い訳するモモタロスの眼前、病室のドアを潜るように入ってきた男が1人。

「いかなくちゃならない、」

 そして付いてくる少女が1人。

「どうして守ろうとするんですか?!」

「よお、オレにこんな事させやがって、欲求不満はクライマックスだぜ!」

 すっかり本性を現して赤眼のショウイチが士と夏海を認め、見得を切る。

「ちょうど良かった赤いの、おまえの世界では、時を走る電車があるという話だな。」

「八代さん!アンタ何したの、また鼻血出して、いい、女は男を殴ってもジョークだけど、男が女を殴ったら即刻死刑なのよ!」

 わめく夏海を余所に、八代の首元に指二本充てて脈がある事は確認する士。

「これか」どこからともなくカードを一枚取り出すショウイチ。「こいつの頭に翳せば、こいつの過去にいけるぜ。分かってるぜ、こいつが化け物になった時に遡って、直に事情を知ろうってこったな。」

 執拗に自分のこめかみをカードの角で叩くショウイチ。

「いや、」士は、八代の鼻血をスーツの袖で拭ってやる。「こいつの、過去だ。」

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その22








 神様ありがとう。
 あの忌々しいイマジン共は全てユウスケを標的にして私から抜け出していった。気絶したユウスケを歩かせる為にあのモモタロスが憑いたんだけど、ユウスケでしょ、あんなキャラだからイマジン達の眼に止まっちゃったのよ。ありがとうユウスケ、貴方の尊い犠牲は永遠に私達の心に刻み込まれるわ。

「とにかくショウイチを警察病院へ。貴方達も!事情聴取よ。拒否するなら、公務執行妨害で拘束します!」

 こっちの世界の八代さんは、さらに鬼気迫る人だった。訳も分からず踊り狂うユウスケを速攻取り押さえて手錠を打ち、それを見て唖然とした私を引っ張ってやってきた救急車に押し込み、士クンに無理矢理手伝わせて重症のショウイチさんを中へ運んだ。士クンはそんな八代さんにニヤニヤしていた。たぶんそうやって体裁を保ってるんだと思う。

「士クンはどうして、」

 病院でショウイチさんの傷を塞ぐ手術が行われて、私達2人は病院にいながらそこでいろいろ聞かれた。病院独特の匂いと八代さんの顔は、私にイヤな事を想像させた。ユウスケは手錠で繋がれたままらしい。小一時間ノラリクラリと核心に触れない士クンに、八代さんは拉致が開かないと思ったか他の要件でそれどころで無くなったのかしばらくしてトレーラーの方へ戻った。どうして傍にいてあげないんだろう。医者の人が驚いた顔で私達2人に面会を許可したのは、八代さんがいなくなって6時間後だった。もうすっかり夜で、病院の廊下も消灯して、自販機と非常階段の明かりが癇に障った。

「ベルトを返せ。」

 やや狭い入り口に首をぶつけないように潜った士クンは、寝間着姿のショウイチさんに向かって労いの言葉1つ無かった。必要無いと思ったのかも。お医者さんが驚くのもムリが無い程ショウイチさんの血色は良く、尋常じゃないくらい回復していってるのが私でも分かる。

「ベルトが無ければ、おまえはただの人間だ。」

「オレはアンタを守る、そう言っただろ。」

 私は威圧された。2人に。これが男同士のつまんないメンツの張り合いってヤツなんだろうか。

「オレの前から、消えろ!」

 ショウイチさんが右掌を押し出した。
 不意に、私、髪の毛を抑えた。
 そして眺めた、士クンの体重が薄っぺらな紙のようにフワと浮いて病室の外へ飛んでいくのを。私の眼になんの感情も無かったと思う。あまりの不可思議な出来事に驚く暇が無かった。フワと浮いた士クン、壁にぶつかる音がしない、そのまま突き抜けてた、壁を壊してじゃない、まるで実体が無いように士クンが壁をすり抜け、そして廊下を横断してその先の車椅子に激突した。ありえない事だ。

「なんの騒ぎ!?」

「見舞いの方、困ります!」

 夜勤の看護士がスッ飛んできた。動ける患者が廊下に出てきて倒れた士クンを眺めている。額から出ている血を私はとりあえず持っていたハンカチで拭った。

「すいません、どうもすいません、」

 私は朦朧とする士クンに変わって周囲の人全部に何度も頭を下げた。士クンになにかあった時はいつも私が頭を下げている気がする。

「アンタを守ると・・・・」

 一旦立ち上がる士クン、でもすぐ足を崩してしゃがみこんだ。ショウイチさんもぐったり動かず意識が事切れている。心電図が危険なアラームを鳴らして煩かった。

「脳震盪起こしているわね。取りあえずその方、応急の処置くらいはしてあげるから、こちらへいらっしゃい。」

 たぶん看護士長の高齢の女性が人が私の手を取った。私はそこでようやく士クンに振り返って名前を叫んだ。ヤだ、私、ものすごい大声でうわずってる。
 眼が虚ろな士クン、私の髪に潜る感じでうなじに手を回して撫でた。

「大丈夫だ、オレが決めて始めた事だ。おまえが悲しむ事じゃない・・・・」

 失神して私に体重を預けた士クン。なにを言ってるんだコイツ。
 いつもと違うぞ士クン。いつもなら、ちょっと人に手出しされただけで10倍返し、ボコボコボコ、悪いな、忘れた、ボコボコボコっなのに。
 寝顔は割とカワイイなコイツ。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その21







 私は囚われのか弱い光夏海。
 体の自由が効かない恥辱にこのまま塗れるなら舌を噛んで死にたい。でも舌すら動かせない。ああなんて哀しい私。

「夏みかん・・・・」

「夏海ちゃん、どうしたのその格好。」

 どういう訳か私、頭の先からヒールの踵まで黒のボンテージでボディラインピッチピッチ。こいつらに私の豊満ボディを晒すなんて勿体ない。出してるのは顔とへそだけ。髪の毛すらボンテージの中。
 私の意志に反して警察の検問を突破して、士クン、ちょっとかっこいい服装のユウスケ、知らない水色のライダー、そして緑の怪人の前で、恥ずかしい格好を披露してる。死にたい。

「ボクに釣られてみる?」

 ちなみにこのちょっと気取ったオッサン声が私。
 見るな門矢士、生まれ変わっても笑うぞこいつ!

「イ、イマジンに憑かれ易い体質だな。あれはきっと、ひ、貧相なものを見せられても誰も喜ばねえぞ。」

 声がうわずってるぞ門矢士、

「夏海ちゃん・・・・雰囲気違うね・・・」

 ユウスケの笑顔が辛い・・・、雰囲気違うどころじゃねえ。

「今度はワシやで!」

 私、どういう訳か3人くらいの声色使って独り言言ってる。そして何故かクルリと一回転して違う姿に変わった。
 今度は振り袖袴、柄は熊とかすみ草が彩られピッカピカの金、髪は後ろ一本で束ねてる、帯には短刀を一本差し、右手に高々と京和傘、何故か紐で鞠がついてる。

「泣けるで!」

 そして裾をまくり上げ、素のままの両足を大きく開く。やっぱりオッサンの声で私しゃべってる。ああ神様、なんで私が褌なのよ!

「ユウスケ、見るな。」

「白いな、夏海ちゃんの腿・・・・・」

 ユウスケ鼻血を出してる、イヤ、これだけはあのキバの世界の屈辱を上回るわ。

「ボクもボクも、」

 また一回転する私。
 今度は白いブラウス、紫の吊りスカート、三つ編み、そして紫のランドセル、両手と素足にテディベアがしがみついてる。やっぱり若いオッサンの声でしゃべってる。若いオッサンなのよ。でもでもなんでこんなにスカート短くて褌が露出してるのさ!

「答えは聞いてない、ババン!」

 もうイヤ、もうイヤ、生まれ変わったら何も考えない玉虫になりたい。

「なんでぇ、おまえら、オレも混ぜろよ!」

 唖然と立っていた怪物から珠が飛びだしてくる。あいつモモタロスじゃねえか、来るな、これ以上私を苦しめるな疫病神共!

「オレ、参上!」

「先輩じゃないですか。」

「モモの字、あかんで、順番や、並んでんやから。」

「てーかおまえら、正気をようやく取り戻したな。カメ公にクマ公にええと。」

「王子だよ。」

「そうそう、ん?なんか違和感。」

「バカでぇ~、ボクはリュウちゃんだよ。頭悪~い。」

「キサマ!小僧、忘れてただけでぇ。」

「忘れるって頭悪いっ事だよ~」

 ああごちゃごちゃ頭の中で煩い!

「それよりこりん星の王子駅、なんでそいつら倒れてるんだ?」

「こいつらか、1人はおまえが抜けてダメージキツくて失神した。1人は、オレが殴って気絶させた。それより、いいかげん格好を直せ。なんだそのビキニは。」

 私、ついに赤い鬼面で胸2つと下の大事なところを隠した最悪ビキニ。もう、私は限界・・・・。

「おい、王子駅の隣は赤羽、この体のヤツ失神しちまったぞ。こっち向けよ!」

「正視に耐えん。」

 ここからは後から聞いた話になる。
 このややこしい中、あの八代さんそっくりな人が現場に駆けつけたそうだ。

「ショウイチ、ショウイチよね。」

 倒れているユウスケと、転がっているライダーの鎧を差し置いて、この世界の八代さんはホームレスのような男にまっすぐ歩み寄ったそうだ。
 八代さんが救急車の手配を取る緊迫した状況の中、私はただ鬼面3つのビキニで立ち尽くしていたという。勘弁してくれ。

「貴方、もう1人の、このG3-Xを装着していた彼を知らない?」

「海東なら、とっくに逃げてるぜ。」

 士クンは、誰から逃げたかは、言わなかったそうだ。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その20







「おい!」

 鋭角な放物を描き、跳躍頂点で2体に分離するギャレン、バック宙して蹴り足で円を描きながら士へ降下。唖然とその軌跡を眺めるしかない士だった。

「士ぁぁ」

 横から飛びだしたのはユウスケ、体ごとぶつかって士を救う。2体のギャレンが落下、士とユウスケのいないコンクリートの大地を抉る。

「危うくだったな。これが人間としてのおまえの限界だ。このベルトは、オレが預かる。おまえが身の程を知るまでな。」

 ギルス、ディケイドライバーを自身のバックル、『賢者の石』へ封入。

「おまえ、」

 士はギルスを見た。イヤその背後へ視線を向けた。ギルスもまた士の挙動から背後に危機を感じた。

「倒されるのはおまえだ。」

 ピックが横腹、

「新手?」

 突如攻撃を受けたギルスは蹌踉けながらも、背後に立つ対手が先に倒したアントロードで無い新たな同種と見た。体が朧気に紫に光る以外全く同じ容貌だが、過去何度もアンノウンが同じ種数匹で集まって活動するところもギルスは見知っている。しかし気取りすら伺える流暢な日本語をしゃべり始めたのはどういう訳だ?

「イマジンが乗り移ったようだね。」

 何を言っているあの青いの?

 ギルスはアントロードの再度の攻撃を辛うじて躱す。心無しか眼前のアンノウンの動きに野生のキレが失せたように思える。その敵を指してディエンドが奇妙な事を叫んでいる。

「さっきのイマジンか、」

「イマジン、って何だ?」

「煩い、今は大体分かったと言っておけ!」

 士とユウスケは生身のまま為す術も無く戸惑っている。

「うぉぉりゃ」

 ギルスは鈍った敵に攻勢に出る。腕の鎌がアントロードの首を両サイドから引き裂く。

「オレは弱いモノイジメはしない主義だがな」

 平然とするアントロードは、悠然とピックを振るう。

「バカな」

 またしても腹を打たれるギルス、嗚咽感が口元まで届く、

「オレより弱いモノしかいなければ、仕方がないだろ!」

 連撃するピック、
 圧倒的な手数に怯んで防御一方になるギルス、闇雲だったが触手を伸ばす、
 これが上手く対手の動きを拘束、
 ギルス跳躍、
 踵落とし、
 踵の刃がアントロードの弱点、背の瘤に突き刺さる、
 吠えるギルス、
 反転するギルス、
 先程のアントロードはこれで瞬殺されていた。

「なんだこいつは、」

 かぶりを振って対手の不可思議さを再認識するギルス、

「こんな小賢しい事しかできんとは、やはりおまえは負けムードだ。」

 隙だらけにピックを肩に乗せなお平然としている紫のアントロード。

「イマジンには、ギルスの物理的な力は通用しない。多少アンノウンの持ち味を殺しているが、ギルスには、手も足も出ない。」

 ディエンドはまるで視聴者気分な物言いで、2枚カードを取り出して扇のように自分の顔を仰いでいる。

「何?くそ、」

 見殺しにされている事を直覚するギルスはもはや後退りし、2対1になる前に逃げるしかない事を悟る。

「主の手から零れ、雑音を出すのが悪い。」

 アントロード、ピックを投擲、

「ぐ」

 ギルスの心臓近くに刺さり、背へ貫通するピック、刺さったまま胸と背からダラダラと血が垂れ落ちる。

「は」

 跳躍するアントロード、蹴撃の態勢で突撃、

「士、らしくないぞ、黙って見ているなんて。助けるんじゃなかったのか。」

「大丈夫だからな。見ていれば。」

 士が指差した方向を眺めるユウスケ、見つけるのは光の珠。珠はまっすぐギルスへ突入、体内へ同化。一度ブルと震えて凝固するギルス、再び背筋が張り、おもむろに自らに刺さったピックを引き抜く。

「いきなりイテェェ、なんじゃこりゃぁ!」

 引き抜いたピックを降下してくるアントロードへ投擲、

「キサマか」

 ピックに絡まって態勢を崩し落下するアントロード。ギルスと約5メートルの間合いで転倒。

「あれ、まさか、この間の、」

 ユウスケに苦い思い出がフラッシュバックする。

「そう、あの赤いのだ。」

 士が親指で指したギルスは、まるで掃除機のコードのように先端だけ持って右腕触手をいっぱいに引っ張り出している。
 
「ニセ、オレの必殺技パート4!」

 触手を頭上で振り回し遠心力を込め、最後の一振り目一杯伸ばして立ち上がったアントロードを横殴り、食らったアントロードの頭が粉塵と化す。

「オレ、参上ぉ!」

 そして見得を切るギルスだった。

「赤いの、挨拶はいいから、そいつの腹からだな、」

 士はいままで貯まっていたなにかを吐き出すように思い切り頭をグーで殴りつけた。

「このヤロ、残念だが今は緑なんだ、見当違いもハナハナしいだ。こりん星の王子め。」

 甚だしいだ。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その19







 G3-Xのスコープが復活したのは、アンノウン爆破によって偶々マスクが転がり閉じて回路が繋がったからに過ぎない。だがそれでも持続できるのはマスク内の予備電源であるから、5分間がせいぜいだろう。

「どうした、答えろ、海東!」

 吠えるのはトレーラー内でモニターする八代。G3-Xの映像だけは復活したが、装着者と敵のデータが一切フリーズしている。ソエノが止めなければ、現場へ足で飛びだしたところだ。
 だが、その八代自身が、モニタの光景に固まる事になる。

「アンノウン・・・・・・ショウイチ?あれは、もしかしてショウイチ!」

 未確認で無く、アンノウンである事を八代は理解した。そしてそれと戦うユウスケとディエンドも理解できた。初めて見たディエンド、そして後から出現したディケイドを過不足無く何者であるかはさすがに理解できないが、居る事は分かった。理解できるのは天才を通り越した変人か妄想持ちである。八代もその域には達していない。ただし、同じく乱入してアンノウンと対峙したギルスを指して彼女は、はっきりとショウイチの名を叫んだ。

「後ろよ!」

 八代は見た。ディエンド、対峙する装着を解かれた士、その背後のギルス、そして、さらに背後に立つ黒い影、アントロードを。
 八代の見た影は、奇妙な事に朧気に紫光を帯びていた。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その18







「こいつらを知っているんですか!」

 ユウスケ、2体のアントロードの攻撃を生身で必死に躱す。辛うじてGM01を拾い上げ、構えるも撃つまでに至らない。

「アンノウン。この世界の神の使者だ。」

 ディエンドもまた回避行動に専念しているが、どちらかというと敵の隙を伺っている。

 ぐぉぉぉぉぉぉ

「アギト」

「アギトデハナイ」

 そこへ猛然と突進してくる深緑の影。ディケイドと相対したトンネルを抜け、検問を抜けアンノウンに突進するのはあのギルス。
 グロンギを畳み掛けた得物のピックをものともせずに肉迫、
 一方からのピックを一旦掴んで、
 その対手を土台にして上体を浮き上がらせ、
 そしてもう一方の対手に踵落とし、
 ギルス踵に生えた刃が、アンノウン共通の背中の瘤という弱点を突く、

「ウラァァァァタぁ」

 今度は乗せた足を力点に宙返り、
 爆破、
 アンノウン爆破寸前でギルスは離脱。ギルスの猛攻はアンノウンを1匹瞬殺してしまった。

「あっちは、なんだ?」

「ギルス。アギトになれなかったものだ。」

 ギルス、もう1匹のアンノウンが先の爆破で大きく間合いを外しているのを見計らって、ユウスケとディエンドにはじめて振り返る。まず真っ先に眼に入るのは両者が持つ銃器。身構えるギルス。

「(敵の敵の敵は、敵・・・・・か?)」

 ギルスの挙動に警戒したユウスケ、GM01を構える。

「待て。」

 駆動音が鳴り響く、それはマシンディケイダー、

「士?」

「どういうつもりかな。」

 拮抗するユウスケとギルスの間を割って入るのはディケイド。この水入りにもっとも困惑したのはやはりユウスケ。

「オレはこいつを守る。そう言ってしまった。」

 ディケイダーから降り、依然ギルスを背にユウスケの銃口に身を晒すディケイド。

「なんで?」

 というユウスケだが、なぜこの怪物に銃を向けるのかを問われれば、味方とは限らないというに過ぎない。

「そこをどきたまえ士。」

 ディエンドにとっては、イレギュラーは少なくとも妨害する要素でしかない。むしろ容赦がない。

「海東、おまえの邪魔をすれば後はなんでもいい。そう言っている。こい、大歓迎だ。」

 ディケイドは2つの銃口の眼前に立ち、動こうとしない。ユウスケは、そのディケイドの仮面から士の意志が分からない。ユウスケやディエンドが手加減すると舐めているのだろうか。

「それじゃ、仕方ない。」

 ディエンド、ドライバーにカードを装填。3体召還したライダーは、残ったアンノウンと相対していたが、その内ギャレンが抜けだし進み出る。

『FINAL ATTACK RIDE gyagyagyaGYAREN』

 女の名を叫んで跳躍するギャレン。

「脅せばいいと思ってたか。」

 ディケイド、なおも悠然と立ち、ブッカーよりショットのカードを取り出す。しかし、その力を発揮する事は無かった。

「教えてやる。おまえは、ベルトが無ければただの人間だ。」

 それはギルス。ディケド背後にいつのまにか回り込んでディケイドライバーをもぎ取った。門矢士が大気に素顔を晒した。

「おい!」

 鋭角な放物を描き、跳躍頂点で2体に分離するギャレン、バック宙して蹴り足で円を描きながら士へ降下。唖然とその軌跡を眺めるしかない士だった。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その17







 虚勢で対抗しているのか、避けず構えずディケイド-クウガ悠然と立ち、カードをバックルへ装填。

『FORM RIDE KUUGA TITAN』

 ディケイドが紫、明らかに表面も生物感が失せて金属質に変化する。

 縦一直線に斬り込むデンガッシャー、
 火花散るディケイド-クウガ、

「だいなみっくちょっぷ」

 着地ザマ叫ぶネガ。

「クウガはそれほど甘くないぞ。」

 避けもしないで受け止めたディケイド-クウガはしかしその強力な防御力で堪えていた。
 折れたロッドの片側を破棄、残り半分が物質変換、刃幅の大きい段平へ変え、至近のネガ首元へ横薙ぎ。

「泣けるでぇっっっ」

 首を捻って骨が鳴る程打ち付けられ転倒し、アスファルトを転がるネガ。

『ガンフォーム』

 再び上半身の構成を変えるネガ。胸の装甲がV字に広がり、珠のようなフリーエネルギースラスターが両肩上にそれぞれ露出。多角的に力場を形成し、機動力を高くする。頭もまた東洋龍のようなシルエットと化す。憑依イマジンのフリーエネルギーが全フォーム中最大のそれが『ガンフォーム』。デンガッシャーも刃部と機関部が並列、軸部は機関部へ直列し、逆側斜めにグリップが接続、フリーエネルギーを制御し放出する為のそれが『ガンモード』。豊富なエネルギーを惜しげも無く光弾にして放出し続けるモード。

 連射、

「剣が」

 見るからに重たげな硬質の鎧のディケイド-クウガ、ゆっくり歩を進め近接するも、ネガの打って変わった俊敏なガン裁きに度肝を抜かれる形で剣を弾かれる。

「答えは聞いてない!」

 避ける必要も無いのだが、なぜか踊りながら得物の銃を片手で乱射するネガ。
 1動く間に10も20も動かれ、強力なフリーエネルギーの直撃に間合いを詰められず、後退りせざるえないディケイド-クウガ。

「おい、ちゃんコリン、いいザマだな。ええ。」

「黙ってろ!」

 トンネル出口の光を背中で感じる士だった。
 フリーエネルギーが直撃ごとにジリジリと圧され、その度に砂塵が舞って、トンネル内が上がった熱量と共に渦捲く。

「答えは聞いてない聞いてない聞いてない!」

 もはや視界が取れないにも関わらず、フリーエネルギーの弾幕で構わず圧倒しようとするネガ。

「おまえ、」

 その声は士。トンネル出口付近で砂塵と逆光で完全に姿が見えない。

『FORM RIDE KUUGA PEGASUS』

「答えは聞いてない?」

 士はいったい何を始めたか。動きを止め、視界が晴れるのを待つネガ。

「スペックで圧し、すぐに大技に頼る。勢いだけだ。」

 砂塵が収まり、徐々にその姿を現す緑のディケイド-クウガ。得物は無く、やや右の軸足に重心をかけ自然体で立つ。

「答えは聞いてない!」

 数発連射するネガ。
 その数発を研ぎ澄まされた知覚で正確に回避するディケイド-クウガ。

「聞いてない!聞いてないっ!」

 なお連射するネガ。

「フォームがネタギレらしいな。」

 駆けながら間合いを詰めるディケイド-クウガ。その間も十数発の光弾を平然と避けている。ついには拳が届く程の距離まで近接、それでもなお紙一重で回避し続ける脅威の超感覚。

「聞いてなっ」

 掴まれるデンガッシャー、同時に一撃したが、ディケイド-クウガの指先は正確に銃口を自身の左肩やや上へ外している。

「この武器が奪われればオシマイだ。」

 ディケイド-クウガの触れた先から、変形していくデンガッシャー、4つのパーツも何もかもが分子の段階から再構成され、同じ銃ながらも、銃口上下に弓のような反りのあるエッジが生える。『ペガサスボウガン』。

「聞いてない!」

 腹打ち一撃で武器を奪われるネガ、
 ボウガンをゆっくり構えるディケイド-クウガ、
 背を向けトンネルの反対側の光へ逃げるネガ、
 ディケイド-クウガ、ボウガン後ろのグリップを引く、大気が銃口より吸引される、

「おい、赤いの、ようやく出番が来たぞ。いいな。」

 ディケイド-クウガから朧気な光が発し、ボウガンへ注がれていく。

 シュート!

「いくぜいくぜいくぜ!」

 放たれた弾は朧気に赤い人型を実体となって突進、背を向けるネガに直撃、

「キサマ、」

 光の珠が1つ、変身を解きつつある夏海から飛び出す。夏海はそのまま萎れるようにアスファルトに倒れた。

「まずは夏みかん。」

 士はここに至って変身を解き、倒れる夏海の頬の汚れを拭ってやった。

「ええいこんちくしょー、おまえらも出て行け!」

「あれ、先輩じゃないですか」

「やで」

「聞いてない」

「お、思い出してきたぜ、なんでおまえらの事忘れてたんだろうな、まあそこに座れ、ひさしぶりだから今日は三日三晩飲み明かそうぜ、」

「私の中でゴチャゴチャうるさぁぁぁぁぁ」

 依然4体のイマジンが夏海の中でしっちゃかめっちゃかしている。

「関われば関わる程ややこしくなるだけじゃないか赤いの。」

 士はおもしろいのでしばらく放置した。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その16







『ロッドフォーム』

 ネガの上半身アーマーが一旦着脱、肩から上半身全てを覆うアーマーへ再構成され、マスクも巨眼が丸く、二本角の生えたそれに変化。
 同時にデンガッシャーも4つのパーツへ一旦分離、刃、軸、機関、グリップの直列繋ぎとなり、もっともリーチのある『デンガッシャーロッドモード』と化す。

「ボクに釣られてみる?」

 長竿を振り回しながらネガがゆっくりとディケイド-キバに迫る、振り回しているのは遠心力を保存している為、間合いに達したところで、ロッドを機関部からグリップに持ち替えて大きく薙ぐ。

「武器が変わった。」

 側転で躱すディケイド-キバ、持ち前の疾さからロッドを掻い潜ってセイバーを対手の身に打ち付けるものの、ネガは怯む事すら無くロッドを腹に打ち付けた。

「中のイマジンが入れ分かったぞ、分かってんのかこのカドマツ!」

 士は知らない。電王スーツは憑依したイマジンの能力を反映する事を。今は防御力を飛躍させるイマジン。故にオーラアーマーの表面積を拡げてその効果を最大限にする。

「力が足りない、オレの中に入れ赤いの!」

 ややネガと距離を置いて起立するディケイド-キバ、

「なんでもいい、ぶちこんでやるぜ!」

 トンネルを浮遊していた光の珠がディケイドの体内へ。

「オレ、参上!!・・・・オレに戦かわせろカドマツちゃんこ!」

 だが声とは裏腹にディケイド-キバ、セイバーをアスファルトに刺し、バックルを開いてカードを装填。

「メインはオレでいく。」

『KAMEN RIDE KUUGA』

 ディケイド、キバよりクウガへ。体術の均整取れるこの姿で一旦ネガのロッドを受け止め流す。

「ちょ待て、じゃあなんで、お、これはお気に入りの角、」

「勝手に動かすな、おまえがただ中にいてくれる事がキモなんだからな。」

 ネガのロッドをまともに額に食らい頭を抑えながら2撃めをスレスレで躱すディケイド-クウガ。

「おまえだけでどうにかなんのかよ!」

 ディケイド-クウガが避けながらカードを一枚、

「なるから言ってる。」

「フン、やってみろちゃんちゃんこ!」

『FORM RIDE KUUGA DRAGON』

 より軽快な動作でロッドを回避するディケイド-クウガ、全身のカラーは青へ変貌している。先に刺したガルルセイバーを手にすると、物質変換、ネガのそれよりもさらに長い『ドラゴンロッド』と化す。

「いくぜいくぜいくぜ!」

「やってるのはオレだぁ!」

 速攻で組み手するディケイド-クウガ、圧倒的な速力に同じロッド使いでも防御一辺倒になるネガ。

「ボクに釣られてみる!?」

 一旦その自慢のオーラーアーマーで受け止めた直後を狙うも、既にドラゴンの機敏さは次の回避から攻撃に流れており極至近のインファイトながらその姿を捉える事ができない。動きをカバーする為のロングリーチの得物と、力をカバーする為の得物の差が出る。

「おいおい、対手ピンピンしてるぞこのチャンチャンコロリン、」

 だがネガ最硬のフォームにドラゴンの力は薙ごうが突こうが通用しない。一方的に打ち込みながら拮抗、それどころかアクションの大きい分体力を一方的に消費しているドラゴン。

「最初から分かっている。」

 打ち付けアーマーに止められるドラゴンロッド、対手の反撃の横薙ぎ、それを潜って躱すディケイド-クウガ、

「ボクに釣られてみる!!!」

 ディケイド-クウガ、ロッドをアスファルトに立て、それを軸に足払い、
 声を上げて転倒するネガ、
 素早く足でネガの喉元を抑え込むディケイド-クウガ、

「どうだ、」

 敵を抑え込んだ上でカードを一枚出すディケイド-クウガ、
 しかし今度は敵が速い。

『アックスフォーム』

 アスファルトに抑え込まれながら上半身のアーマーか再構成され、前面に最硬のガードを固めたマスクに鼻から額に縦に刃が生えるそれは『アックスフォーム』。デンガッシャーも刃部、軸部、グリップ部が直列、機関部が刃部に添えられる形で、廃熱にも使われる半月のエッジが伸びて片刃斧と化す。もっとも重量のある機関部をグリップより放して設置し、刃のコントロールよりも、直噴の出力のみの荒々しい破壊力を追求したそれが『デンガッシャーアックスモード』。

「泣けるで!」

 下から腕だけの振りであった、

「ボヤボヤすんな!」

 と咄嗟にカード装填を中断し、ロッドを並行防御に構えたのはモモタロスの機転であった。

「ぐわ」

 だがしかし受けに入ったロッドが中央から折られ、デンガッシャーのエッジを食らって、宙に浮き上がり、転がり、ドラゴンの素早さで辛うじてしゃがみ姿勢で構えるまで立て直す。

「泣けるで。」

 歩み寄るパワー型のネガ。その歩みはロッドよりもさらにスロー、間合いをゆっくり計り、そしてまたまたパスをいずこから取り出しバックルに翳す。

『フルチャージ』

 迸るフリーエネルギー、ベルトからデンガッシャーへエネルギーを伝達、デンガッシャーのエネルギーと相まってエッジの光彩を増す。
 デンガッシャーを頭上へ投擲、
 跳躍するネガ、
 跳躍しディケイド-クウガ直上、
 デンガッシャーに追いつきキャッチ、
 エッジ振りかざし降下、

「やはりな、また武器が変わった」

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その15







「4つも、おまえみたいのが入ったのか、赤いの!」

「色で言うなコンチクショー!」

 依然光の珠と化して、頭1つ上でトンネルをフワフワと漂うイマジン。

「おまえたちは主の目汚しにならない為に消えてもらう。この世から完全に、おまえたちの不潔な肉体一片も残さずにな。」

 イイジャンイイジャンスゲージャン
 イイジャンイイジャンスゲージャン

「おい赤いの、おまえの親戚どものアレはなんだ。後ろで踊ってる鳥女は。」

 スーツ夏海がドスを効かせる背後で4人の女性体型が金の表面積極小ハイレグレオタードで高い金のヒールを掲げてラインダンスしている。異様なのは、全員の尾にクジャクのような扇を抱えているからではない、異様に長い睫毛をしているからでもない、異様に長い睫毛をした鶏の頭だからだ。女鳥人が4人スーツ夏海の後ろでタップダンスしている様に唖然とするディケイド-キバ。
 だが、ギルスは眼前で起こっている状況どころではなかった。

「オレを呼ぶな!呼ぶなぁぁぁ!」

 もはや眼前の光景よりも脳内で響くらしい声にギルスは錯乱状態に陥っている。

「大人しくしてろ、」

 眼前の夏海に警戒しつつも、抑え込もうとするディケイド-キバはしかし、野獣の力で振り払われ、コンクリート床に打ち付けられる。ギルスは夏海にもディケイドにも構わず背を向けて疾走する。

「あれも、ライダーなのか?」

 ケダモノそのものギルスにディケイドは為す術も無かった。

「そう、あれこそは主から漏れた進化だ。この世界に波風を立てる。即ちこの世界の悪だ。」

 スーツ夏海の右腕にはいつのまにかベルトが一帯。それは『デンオウベルト』。
 片手で遠心力を効かせ腰に巻き付ける、
 さらにいつのまにか持っている掌サイズのハードケース『ライダーパス』、
 パスをバックルのタッチリーダーに翳す、

『ソードフォーム』

 轟くファンファーレ、
 ベルトから湧いたフリーエネルギーがオーラアーマーの実体を象って全身に張り付く、最後に逆ハートの面が顔に張り付き左右に裂き割れ、巨大な釣り目になる。
 色は濃い紫。

「誰だキサマ。」

「通りすがりの電王だ。覚えておけ。」

 仮面ライダーネガ電王がディケイド-キバと対峙する。
 ネガ電王、腰にある4つのバトンを組み合わせる。フリーエネルギー出力を制御する刃部、腕への反動を緩和するグリップ部、もっとも重量のある機関部、もっとも剛性のある軸部の4つ。刃、機関、グリップの順で接続、軸部は刀身の背として剛性を増す。『デンガッシャーソードモード』となる。

「オレより、逃げたヤツの方が目的じゃないのか?」

 ディケイド-キバ、既にガルルセイバーを振りかざし突進。

「主の目障りなヤツは平等に駆除する。」

 受けて立つネガ。
 一見、刃のレンジが違い過ぎるガルルセイバーとデンガッシャー。
 しかし圧すのはディケイド-キバ、持ち前の速力で突進し、勢いのまま圧倒的な手数で闇雲に刃を合わせる。急所もダメージも無い、相手に行動させない為だけの手数。

「そのうちこの世界で一番うっとうしいヤツになっちまうぞ!」

 対してネガ、敵の勢いを受け止め防御に徹さざるえない状況に追い込まれながらも、即時にその速力に適応していく。防御は本来得物が長い程に取り回しの点で不利なのだが、ネガは極最小の動きでガルルセイバーを受け流し、ついには、受け止めた瞬間を狙って蹴りを一撃入れる程になる。

「だから、主が汚れぬ為に、おまえたちを駆除するのだ!」

 怯んだディケイド-キバに今度は攻勢に出るデンガッシャー。

「話が通じないヤツめ、」

 リーチの差で圧されるままのディケイド-キバ、
 本来キバガルルの速力は脚力に立脚したものである、手数が多いのはセイバーが軽いショートソードだからに過ぎない、
 ネガ電王ソードフォームは、オーラアーマーが集中し、もっともスタイリッシュな姿であり、特に四肢の動きは規制が無い分疾い。そして斬撃の疾さはパワーにも反映される。

「吹き飛べ」

 怯んだディケイド-キバを一回転遠心力を込めた一太刀で軽く10メートル吹き飛ばすネガ。

「くそ、勢いでミサイルのボタン押すタイプだぞこいつ。」

 歩道を守るガードを歪めて倒れ首を振るディケイド-キバ。

「動くなよ。そこでじっとしてるんだぞ。」

『フルチャージ』

 ネガ、変身時のパスを再びバックルに翳す、パスをいずこかへ放り投げる、ベルトからエネルギーが迸り、デンガッシャーの刃に帯びるエネルギーが光を増す、デンガッシャーの刃部だけが連結を解いてエネルギーの奔流のまま浮き上がっていく。それは即ち10数メートル伸びた刀身。

「エクストリームフラッシュ」

 上下に伸びたデンガッシャーのエネルギー流がまるでムチのように撓って、トンネルの天井アーチに溝を刻んでいく、

「あまり趣味じゃないが」

『ATTACK RIDE GARURUBITE』

 ディケイド-キバ、セイバーを咥えてカード装填、降下してくるソードの速度より疾く身を突進、懐に飛び込んでネガの脇に一閃、

「きさま」

 立ち竦むネガ、

「リーチが伸びただけ間が空いた。初歩だ。リーチには疾さ、これも初歩だ。」

 振り返り様咥えたセイバーを手にするディケイド-キバ。持ち前の脚力が真価を発揮した。

「ならば、疾さにはガードも初歩だよな。」

 ネガ、バックル横のボタンを押し、先に放り飛ばしたはずのパスを再びに手にし、バックルへ翳す。

『ロッドフォーム』

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その14








 戦場の設定は警備課の総力を以て完了している。半径200メートル以内の民間人は避難完了しており、通路という通路もパトカーで塞いでいる。前回と違って丸棒がG3-X周辺の援護に立たないのは、それこそ前回の問題点を単独行動という解決策で改善したからである。全責任を未確認対策の八代に押し付ける形な訳だが。

「パワーが足りない。」

 突進する『ガードチェイサー』。そのハーレーダビットソンよりも大きくパワフルなボディが、グロンギの片腕で押し止められる。なおエンジンを吹き上げるも、地面を空回りし煙を吹き上げる後輪。搭乗するG3-Xは即座に飛び退いてガードチェイサーを放棄。

「八代警部、敵グロンギ48、49号と交戦開始。」

『G3からのモニターで見えている!イチイチ報告する必要はないぞオノデラ!』

 警視庁呼称48号は『メ・ギノガ・デ』、49号は『ズ・メビオ・ダ』。共にユウスケが他の呼称で倒した事がある。

「止まらない」

 一方のG3-X海東。GM01をアクティブに連射。彼の肉体が何を差し置いても先制の銃撃を選ぶ。ギノガとメビオに確実にヒットする弾幕。しかし2体のグロンギはまるで何事も無いかのように悠然と間合いを詰めてくる。

『武器に頼らないで、海東君。』

「ウザイな雑音、」

 物足りない火力にグチりながら、次の海東のドクトリンは動きを選択している。相手の攻撃を間一髪で躱して至近からの弾圧で翻弄する。しようとする。

「鈍い」

 だが最初の一歩を踏み出した時点でギノガの拳を腹に受けてたじろぐG3-X。続け様メビオの回し蹴りが海東の肉体を飛ばし意識を飛ばしかける。アーマーの防御力が辛うじて海東を救っている。

『防御を固めて、テストでの動きはどうしたの?!頭を揺すられなければ、活路は見い出せる、海東君、聞いてる!』

「本当に、ウザイ女。」

 海東が選定で見せた動きは、G3としては最大限の軽快さである。しかし海東がいつも求める域のフットワークには程遠いのである。
 装甲からエアの抜ける音がする、
 それは頭部マスク、
 前後に割れて、左腕でマスクをもぎ取り、海東が素顔を大気に晒す、
 次いで胸部アーマーが背と左右の胸の計3つに割れ、腕が外れ、足を脱ぎ、ついにはアンダースーツだけとなる海東、

「海東さん、何を?」

 ユウスケは通信しようかためらい、反射的に自分の素性まで語らなければならない事まで思い巡らせ留まる。海東は既にディエンドライバーにカードをセット、高々と掲げている。

「変身」

『KAMEN RIDE DIEND』

 3つのシンボルが縦横に駆け巡り、海東に折り重なると、G3-Xよりも圧倒的にスリムなスーツへと具現化、締めに頭頂からシアンのスリッドが10枚仮面に刺さる。着脱されたG3の転がるコンクリートにディエンドが立つ。

「うむ、こっちの方がしっくり来る。」

 まずギノガに向けてドライバーを斉射。先と同じくまともに受け止めるギノガだが、先と違うのは圧倒的な火力。進む事も堪える事もできずたじろぐ。
 その間メビオが側面から急接、先と同じように回し蹴りを入れる。しかしディエンド、ワンステップで躱し、ゼロ距離から連射。メビオが吹き飛び、背後で立ち上がりつつあったギノガに衝突。

『KAMEN RIDE DRAKE GYAREN ZOLDA』

 ディエンドでは聞き取れない言葉で叫びながら突進してくる2体のグロンギ。
 フットワークだけで躱して駆け抜け、対手と立ち位置を入れ替える形に。振り返ると召還した3体のライダーが眼前に見える。ディエンドのカメンライドは姿を変えるものでなく、ライダーを召還できる。
 ドレイクゼクター、ギャレンラウザー、ギガランチャー、そしてディエンドライバーの4門の銃口が一斉射、
 全身に圧倒的火力を食らうのはギノガ、爆散、メビオは持ち前の敏捷さで辛うじて躱した。

『現場、どうなってるの!映像が来ない!?』

 着脱した直後からG3-Xのマスクよりかすかに八代の無線が続けられていた。この段になって、それを拾い上げるディエンド。

「接触不良ですね。現在、グロンギを確実に殲滅中。」

 ディエンドの言う事は事実である。グロンギを確実に殲滅はしている。接触は自ら不良にした。

「一体あなたは・・・G3-Xを馬鹿にするんですか?」

 そんなディエンドの僅か十数センチのところまで近づくのはユウスケ。

「黙っていてくれるね?別に、誰が損するわけでもない。」

「士なら、どんな姿でも熟しますよ。」

 執拗な敬語を言うユウスケだった。

「ボクのように繊細じゃないのさ。それより、ほら、もう終わりだ。」

 ディエンドが指差す先にいるのは銃撃を逃れたメビオ。そのメビオが攻撃を受けている。ディエンドにでは無い。攻撃を受けたメビオは、押し倒され、陸に揚げられたマグロかシャケのように泥に塗れて悶え、ピックのような得物を左右から一撃、絶命、爆死した。

「グロンギ?違う、何だこいつら、人間の味方・・・」

 こいつら、即ち2体。ユウスケの記憶に無い、アリの触角を頭に生やした漆黒の異形がグロンギを始末した。

「セカイヲミダスナ」

 2体のアントロードが、ディエンドとユウスケに襲いかかってきた。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その13








「見つけたぜ、オレの鼻は誤魔化せネエ。芦河ショウイチっての。」

 人気も無く車も通る事の無いトンネル。
 足を引きずり、歩道の手摺りに掴まりながら辛うじて歩いているショウイチの眼前に、立つのは光夏海と門矢士。士はしかし片目が赤い。左髪だけが逆立っている。

「この間と違うな。だが言う事は同じだ。オレに近づくな。」

 肩で息をしているショウイチ。

「あいつ、あの後もなんか戦ったんじゃねえか、」

「詮索は後だ赤いの。そんな事よりオレから出て、ヤツに取り憑け。そうすればどうとでもなる。」

「色で呼ぶな!この野郎!!貸し1だからなぁ!」

 士の体から放出される光の珠、トンネルの上下を飛び跳ねてショウイチの周囲を伺う。

「なんだこの攻撃は、ぐぉ」

 ついには思うように動けないショウイチの肉体に飛び込む。途端藻掻き苦しむショウイチ。

「感謝しろ。今日からオレが、アンノウンから守ってやる。」

 イマジンの抜けた士が気取っている。

「士クンが、人を守る?!」

 それまで黙っていた夏海があまりに類型と違う言葉に思わず声を上げた。

「・・・、なんだ、これは、そうかコイツが、憑いていたから、そこの女もおまえも、だが・・・ふざける!」

「拒絶したか。なんてヤツだ。」

 汗を吹き上げながら、吠えるショウイチ、入ったはずの珠が体内から圧し出される。狼狽えて言い訳しながら宙を舞うしかないイマジンの珠。
 ショウイチはあざ笑った。

「オレを守るだと、」その笑いはあるいは自嘲。「この化け物を!」

 ショウイチの腕の先から人外のモノが飛び出す。それは触手。甲殻のジャバラ繋ぎの、血の色の触手だ。

「あ」

 伸びた触手が夏海の細身に絡まり、ショウイチの元へ強引に引き寄せる。

「残念ながらその夏みかんは、絞ってもおいしいジュースにはならないぞ。」

 突き飛ばされる夏海、
 そんな士の態度が通じた訳ではない。ショウイチの内部からわき起こる激痛に夏海どころでは無くなったのだ。

「こんな姿の化け物をな!」

 ショウイチから滝のような汗がわき出る。いや汗では無い。肉体の水気が全て吐き出され、固体化し、ショウイチの肉体をくるむ。いやショウイチの肉体を人でない別の何かに変貌させた。
 緑のライダー、『ギルス』、しかもその中でも攻撃的に進化した『エクシード』。

「ギルス、アギトの世界というのは本当だな。変身!」

 即座に対応する士はバックルにカードを装填。ディケイドへ。

「消えろ!」

「オレはアンタと戦いに来たんじゃない。」

 変身した上でゆっくりと間合いを詰めるディケイド。

「オレは・・・・」

 変身してまだなにか呻いているギルス。いやはっきり苦しんでいると言っていいだろう。ギルスの体内では自身どうする事もできない躍動が駆け巡り、呼応して遠くから聞こえる耳鳴りが途切れない。

「呼ぶな、オレを呼ぶな、」

 ギルスは眼前のディケイドにも、倒れる夏海にも語りかけていない。ここにいない誰かに向かって叫んでいる。
 訝しむもディケイド、

「大人しくしてろ!」

 ギルスの背中に回り込んで抑え込もうとする。しかしギルスの獰猛なパワーに極められず弾き飛ばされるディケイド。

 うぉぉぉぉぉ

 ギルスは野生の彷徨を放ち、体内の躍動に苦しんでいる。

「ケダモノにはケダモノだ。」

『KAMEN RIDE KIVA』

 チェンジしたディケイド-キバ。ライダー中もっとも秀でた突進力で一気に間合いを詰め、エクシードギルスの腕に生える鎌を掻い潜って首を掴む。掴んでなお突進し「虐滅」の落書きの入ったコンクリート壁へギルスの頭を叩きつける。

 うぉぉぉぉぉ

 だが頭からコンクリートを粉砕したギルスにダメージが見られない、即座に両腕から触手を伸ばしてディケイ-キバの首に絡め反対の壁へと突き放す。

「骨のあるヤツには何度でも遇っているさ。」

『FORM RIDE KIVA GARURU』

 コンクリートに圧し付けられながらもさらにフォームを変えるディケイド。ガルルの牙で触手を噛み切り、着地してガルルセイバー、そしてライドブッカーをソードモードにして左右の腕で構えた。ガルルの刀身にブッカーの刃を滑らせる。

 うぉぉぉぉぉぁ

 彷徨して突進してくるギルス、両腕から生える刃をディケイドに向ける。
 対してディケイド、ガルルの短刀で受け流しブッカーの長刀で上から斬り込む。
 ギルスもまたもう一方の刃で受け止めた。
 この獣の動きと力が瞬きする程の間に展開される。
 鍔迫り合いに雪崩れ込み、拮抗する両者。
 ギルスが口を開いて噛み付き、ディケイド-ガルルも首筋へ噛みつく。
 ここで防具と直の肉体の差が出る。真紅の血を吹き上げるのはギルスのみ。噴水のように流血し、ディケイド-ガルルの全身が血に塗れる。
 悶え苦しみ、触手を両腕から伸ばしてディケイドの肉体を絡め取るギルスは、肉が千切れるのも構わず強引に引き離す。
 互いに鞘に収めるようなテンションでは無くなっていた。このままでは真の敵と戦うどころか差し違える危険さえあっただろう。

「そうやって波風を起こされる事を非常に主は嫌う。従って、面倒なおまえたちは、消えてもらう。」

 それは黒い上下のスーツにタイが無く第一ボタンを外した白すぎるアンダーシャツを纏った少年。スーツと揃いの帽子を斜めに被って縁を指でなぞっている。

「夏みかん・・・・?」

 少年ではない。それはよく見ると男装した光夏海。目の光は暗い。

「おい、カドマツ、4つのイマジンがおまえの女ん中に入ってたぞ。こらボケ!」

 モモタロスの光の珠が宙を浮かびながらそう叫んだ。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その12







『緊急通報、未確認生命体48号、49号と思われる者を、三鷹付近で目撃したとの通報アリ。』

「海東大樹、トレーラーで直ちに出動、並行してG3-Xをこの中で装着してもらいます。いいわね。」

 警視庁未確認対策本部に、第一報が報じられた。

「よし。」

 八代と同じ紺の制服を纏った小野寺ユウスケは、タイを絞め直す。

「小野寺ユウスケ、トレーラーで直ちに出動、G3-Xと共に出動し、海東の戦闘を見学、よぉく、勉強しろ。」

「勉強?」

 愕然とするユウスケ、そんな彼に既にアンダースーツを纏った海東が嫌味の微塵もないのが嫌味な笑顔を向けた。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その11







 外へ出ると、バイクのキーを差し込んでバックを括り付けているユウスケがまだいた。

「今回は、上手くいきそう?」

 私はその背に思い切って、でもできるだけ感情を抑えて語りかけた。

「夏海ちゃん、分かってるでしょ。そんなんじゃないって。」

 ユウスケは私に振り返らずにバイクに跨る。

「奪うんじゃないんだ。」

 こんな風にしか誤魔化せない自分が恥ずかしい。

「オレは、あの時姐さんを守れなかった。でも今度は。」

 ユウスケがフットペダルでエンジンをかける。あの時と違って、今度は一発で動き出した。

「がんばれ、男の子・・・・・」

 ユウスケの背中を見ている内に、寂しさを心の中で畳んだ私は、無性にお腹がすいた。

「何勝手に読んでるんですか!?」

 私は叫んだ。振り返ると、写真館の玄関に士クンが左側を向けて立ち尽くし、あのショウイチとか言う人に渡すはずだった手紙の封を開けている。破かれた手紙を繕ったのは誰だと思ってるんだ。

「読まねえと分かんねえだろ、オレぁめんどくせえのが大っキライなんだ。中身は大体分かったゼ!」

 両手のばしてポーズキメてる場合かこのKYイマジン。読んどいて大体はねえだろ。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その10







「ねえねえ、ねえってばユウスケ。本当に出て行くの?」

 忘れてはいなかったよホント。洗面所からマイ歯ブラシを持って出てきたユウスケを。
 あの白いワッペンみたいなコウモリ、キバーラが、手荷物纏めたバックを下げたユウスケの周りを必死に飛んでいる。この子もユウスケにだけは本当に懐いてるみたい。

「G3-Xの装着員に選抜されたからね。」

 私は態とユウスケと目を合わせなかった。チラチラと見たけど。ゆっくりとお爺ちゃんの用意してくれたりんごジュースを口から放さない。

「この体の主がよ、おめでとう、補欠合格だとよ。」

 じゃあ自分で言えよ。士クンは左の方の頬だけユウスケに向けた。

「オレさ、分かった気がする、オレが旅してたのは、もう一度姐さんに逢うためだったんだって、多分、ここが終点。居場所を見つけたんだよ。」

「たかだかクリソツな女の為に残るとはお人好しだねえ、おめえ、言ってただろ、他に男がいるかもってな。そんな女に尽くしても見返りなんかねえぞ。おめえバカだろ。」

 赤イマジン空気読めおまえ。

「ずっと一緒に旅するものと思っていました。」

 私はそれだけ言ってまたりんごジュースを含んだ。
 私も、キバーラも、そしてお爺ちゃんもユウスケを見つめていた。

「夕食だけでも食べていかんかね?いい野菜がここでは手に入る。」

「ごめんなさい。何時出動になるか分からないので。・・・・お世話になりました。」

 ユウスケはあっさりと私達に背を向け、写真館を後にした。キバーラが追いかけようとしたが、閉じられたドアに遮られ床に落ちたた。この子、どこまで本心なんだろう。

「いっちめえいっちめえ、オレ達がこんなに困ってるツウのに、自分のだけ事考えて辛苦を共にした仲間を平気で見捨てるヤツなんか、要らねえってな!」

 左の頬を向けた士クンが叫んだ。士クンなんで何も言ってくれないの。卑怯よ。

「困ってるのはイマジン、アンタだけです!アンタはユウスケと辛苦を共になんかしてないです!!」

 私はKYに堪えきれず立ち上がって外へ飛び出した。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その9







「夏海が、夏海がぁ~」

 私達2人、まあ2と2分の1人くらいで、写真館に帰ってきた。
 この世の終わりのように泣き崩れる可哀想な私のお爺ちゃん。
 いいかげん私の体を乗っ取るを止めて出て行けモモタロス!だから鼻ほじるな!
 そうこいつ自身は忘れてるけど、名はモモタロス、人の記憶で実体化する赤いイマジン。この立場に置かれた私だからこそ分かる。こいつは確かに記憶が無い。というより記憶が奥底に眠ってる。私はこいつの頭を覗いてる。士クンはそんなこいつを疑ってる。こいつを、ええとそれってつまりは私を見る目がやたら戸惑ってる。どう見ていいのか困ってるかも。この世でこいつにだけは私の大股びらきを見られたくなかった・・・

「ケーキだったか。」

 騙されるな門矢士、こいつロクすっぽ覚えてない癖にハッタリで交換条件出しただけだ。

「プリン~ん」

 だから股開いて掻くなっ。

「プリンだ爺さん。」

「夏海あんな子じゃぁぁ」

 ああ可哀想なお爺ちゃん、清く正しく美しい孫娘のがこんな風になってしまって。それでもお爺ちゃん、キッチンに籠もってくれる。なんて人の良いお爺ちゃん。

「そこで聞きたい事だが、」

「目が右にあるのはカレイで、左がヒラメだぜ。」

 パクるな。

「改めて聞くぞ。あの黒いヤツは誰だ。ムダに顔のいい。」

 士クンはどうやらいつもの負けん気を起こしたみたい。

「体が大きめで鼻先が尖ってるのがアフリカ象、体が小さめで鼻先が丸いのがインド象だぜぇ。」

 丸パクリじゃねえかこの赤イマジン。

「根比べでオレは負けたことないぞ。ヤツらについて詳しく教えろ。」

「おいおいおい、こっちがボケてんだから拾えよ。ボケが恥をかくじゃねえか。リョウタロウならこんな扱いしねえぞ。」

「そのリョウタロウについて聞いている。おまえはあの黒いヤツをそう呼んだろ。」

「リョウタロウ?なんだそりゃ?」

「記憶喪失はツクヅク便利だなおい。」

 などと不毛に18分30秒が過ぎていく。

「はぁい光家特製プリンですよぉ。」

 憔悴し切った士クンと赤イマジンの間にグッドなタイミングでお爺ちゃんが大皿に乗せたプリンを載せて持ってきた。でもでも口元だけ笑ってるお爺ちゃんって、ロクな事考えてない時のお爺ちゃん。
 士クンはそのチキンの丸焼きくらいの大きさのプリンにこめかみを押さえている。たぶん2キロくらいはあるそれが思い切りブルンブルンしてる。見た目から人類の感覚に挑戦するようなその揺れ。たぶん甘い物好きの私でも一口で脳みそが泡立つような重量感。

「このプリンはですね、スプーンよりも、レンゲで掬った方がいいんですよ。ウチのはね、カラメルじゃないんですよ。アメ敷いた上にココアパウダーを散りばめて、フルーツを乗せました。」

「わーーっデカぁっ!」

 ウチにこんな秘伝のプリンアラモードがあっただろうか、ココアパウダーにしては妙に色が薄いんだけど。
 ちょっと待って、こら赤イマジン、ちょっとそのせめてパウダーは避けろ、それは、それは、悪い予感がする、
 赤イマジン、私の口へレンゲに特盛りで掬った揺れる黄色い身を流し込む。

 Gaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!

 これは、私の舌だ、体が自由にならなくても、感覚だけは伝わってくる、これはもはや香辛料どころではない、辛いを超えて、痛いを超えて、ダメージのレベルだ。

「それ、ココアじゃなくて胡椒だろ。」

「水、水!ミズだぁ!」

 体がヘンになりそう、頭が狂いそう、いっそ失神したい、死にそう、死ぬ、なんとかしろ、この赤イマジン!

「ハイ、お水。」

 お爺ちゃんがコップ一杯の水を持ってくる。でもあの唇だけ歪んでる笑みは変えない。これは、

「なんだ、水じゃないな。」

「光家秘伝、ハバネロジュース。」

 GGGGGGGGGGGGaaaaaaaaaaaa!

 お爺ちゃん、水まで、変な、これは、拷問だぁぁぁぁ。

「出た。」

 なんと、このか弱い私を見捨てて、光の珠になって体の外へ逃げたす赤イマジン、

「ホゲァ、ホゲァ、オジイ、ミ、ミズ!」

「ああぁぁ、可哀想な夏海、さぁ、水だよ。たっぷりお呑み。ゆっくりとだよ。もうちょっと我慢するんだよ。」

 お爺ちゃん、アンタだろ、こんな目にあわせたの。

「アリグァトゥ、オヅイちゃん。」

 舌と喉が動くごとにダメージがクル。全身滝のように汗噴いて。ああお風呂にいっぱいの水を浸してボンベつけて潜りたい。

「なんか毛穴じゅうからレイプされてたような気分だわ・・・・・・士クン・・・・・あいつの名はモモタロス・・・・・、記憶が無いのは本当よ。でも頭の奥底にちゃんと、分かってて、ただ自覚が無いの。士クン、士クン聞いてる?」

 私はイヤな予感がした。士クンの顔を咄嗟に振り返る。

「オレ、参上!・・・待て、出て行けこの・・・なんだこいつ中々折れねえ・・・オレを舐めるな赤いの・・・」

 やっぱり。赤イマジンの次の宿り主は士クン。でもでも私と違って士クンは根性悪いのか乗っ取られまいと抵抗してる。頭の左半分だけ逆立って、左目だけが赤い。絶対街に飛び出せない見てくれ。

「そうか、名がモモタロス、海東に憑いてファイズの世界に来たか。奴め、オレ達が行った事の無い世界も回っているのか。」

 右の士クンは至っていつもの不貞不貞しい性格最悪野郎。

「おめえ、勝手に人の頭の中覗くなぁぁ!耳の裏を擽るぞぉ」

 左の士クンは性格準最悪だけど、士クンよりは、ちょっと分かりやすい、まあ、ようするにバカ。

「電王の世界のイマジンか。イメージ主がリョウタロウ、他にも3匹仲間、そのリョウタロウが突然居なくなって、なるほど自分の姿や名前が思い出せん程にイメージを失った。結局なんにも分からねえか。こいつじゃ。」

「なんか無性に腹が立ってきたぞこいつ、おめえなんかこうだ、こら、まいったかコラ。」

 左の士クンが士クンの頭をタコ殴りにしてる。なんかちょっといい気味。

「そのリョウタロウが、このアギトの世界で偉そうに現れた。オマエ本当に記憶が無いんだな。」

「このヤロー、オレはな、他人を見下すのは大好きだが、他人に見下されるのは大っ嫌いなんでぇ、くそぉなんでおまえのおかげでこんなにイタイ思いしなきゃいけねえんでぇ」

「おまえが殴ってるからだ、そういうヤツはな、コウマンチキなヒトデナシっていうんだ、覚えておけ!」

 おまえが言うな。バカなだけで精神構造おんなじヤゾ。

「ハイハイハイ、やっぱり士君にも、この光家特製のプリンを。」

 お爺ちゃん・・・・。

「おぉぉ、気が利くじゃねえか。ていうか、さっきのワビって事だな爺さん、オレには分かるぜ、その艶とプルプル感が絶妙な甘さだって事をな。プリン通のオレの目は誤魔化せネエ。」

「それはさっきと同じ胡椒プリンだバカ!」

「なんだって、ジジィ、てめえオレを巧妙に騙そうとしやがって、なんてズルッ賢いジジィでぇ!」

「勝手に勘違いしただけだろ!」

 赤イマジン、アンタ、なんか、不毛だわ。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その8







 UNKNOWN、軍事用語で、国籍不明機を指す。

「一体ばかり倒したからって何になる、奴等に目をつけられたら大変な事になるぞ。行け。」

 芦河ショウイチはその時ようやくにして眼前の男が郵便配達の制服を着ている事に気づく。

「オレはただ、郵便を届けに来ただけだ。」

 士は眼前のホームレスそのものの見てくれの男の、眼光の鋭さに内心たじろぎ、顔は薄ら笑みを浮かべた。手にした芦河ショウイチ宛の封筒を男の手を態々取って握らせる。

「1年前の消印、今更ナンだ。」

 士の眼力にも平然を装うショウイチは、手紙の中身も送り主の名も確認しないで破り捨てる。

「あぁぁぁ、いぃぃけないんだ、いけないんだ!リョウタロウも言ってたぜ、人様の好意を無下にするヤツぁ、クマ公に咥えられて死んじめえてなぁ」

 猛々しくスカートを捲くってスパッツのライン丸見えになるガニ夏海。それを見てうんざりした顔でショウイチは指差す。

「大体こいつは何だ!逐一ピントがズレている、おまえのオンナか!」

 ショウイチに掴み掛かろうとする夏海はしかし、士に頭を鷲掴みにされる。

「ナンダ、テメエ、口ん中に手ぇ突っ込んで鼻から指出すぞこらぁ、ってこの体の女が言ってます。」

 士は無表情に夏海とショウイチを交互に眺め、

「気にしたら負けだぞ。オレも気にしていない。川のせせらぎを気にする人間はいないだろ。」

 士に殴り掛かろうとするも、頭を掴まれたまま、グルグル両手を回すもリーチが届かない。

「とにかく!二度と近づくな。さもないと、」

 夏海の頭を押さえ込みながら捨てた手紙を拾う士に向かって、ショウイチはガンを飛ばした。
 その時である。

 ・・・・・・・・

「やばい」

 鼓膜が破けた時に聞こえてきそうな耳障り。瞬間、士の脳内でフラッシュバックする体験に基づく危機感、つまり直感。慌てて夏海を推し倒し、覆い被さる士。

 光のグランドクロス、

 天から降下してくるのは白光した巨大な十字架、

「はぁ!」

 ショウイチ、降りかかる十字架に自ら片腕を伸ばし、力、いや念を込める。

「念動力、ライダーじゃないのか、ヤツは。」

 士は宙で抑止される十字架に、倒れながら唖然とした。明らかに見えざる力でショウイチが抑え込んでいる。その十字架の軌跡の元を目で辿った士は、百年単位で伸びていると思われる巨大なブナの枝、地上より10メートルの高さにあるそれに人影を認める。
 人影は黒一色のセーターを纏った青白いほど顔の血色が悪い少年に見える。そのどこにでもいそうな少年よりも目を引くのは、少年の得物、刃先が金色に光る三つ叉の槍。士はそれを『至高のトリアンナ』という事を知らない。
 槍の刃が光ると、連動して十字架の光が増し、堪えるショウイチが発汗を伴って呻いた。

「ぐわ」

 圧し負けるショウイチ、十字架はそのままショウイチに覆い被って爆破、河原一帯の草原を焼き尽くし、数メートル先、黒い少年が立つブナにも火が飛んで瞬時に燃え上がった。

「ありゃ、ありゃ、」

 士に乗っかられている形の夏海が、なぜかもがき始める。十字架の爆発に目が眩んで回復するまで一時かかった士、十代の女の肌の柔らかさを感じながら、夏海から退いて起き上がる。

「どうした?」

 士の体重から解放された夏海は飛び起きて燃え上がるブナに駆け寄ろうとする。士は当然それを制止して手を掴んで放さない。

「リョウタロ!、おまえリョウタロウじゃねえか!なんでおめえがオレをこんなメに遇わせんだぁ、なんでダぁ!!」

 訳も分からない事を喚き散らす夏海の腕を掴みながら、少年の蒼白の顔を睨んだ。かつてない圧迫感を士の全身が貫く。

「リョウタロウ!リョウタロウぉ!!」

「おまえは、あぎとでは、ない。あぎとになるべきにんげんでも、ない。」

 燃えさかるブナの上で整然としている少年の頭上に先の怪人と同じ光輪が浮かぶ。少年が士達に背を向けると同時に光の輪が少年に覆い被さり、その姿を呑み込んで消してしまった。

「リョウタロウ、オレに、オレに、」

 力無く膝を折って訳の分からない事を呟く夏海を放置して、士は倒れているショウイチの元に歩み寄った。

「あれが、大変な事か?」

 差し伸べる士の手を取らないで、起き上がり、土埃を祓うショウイチだった。

「前に会った時は、この世界の重心だとヌカしていた。オレは世界そのものから嫌われたらしい。おまえも、嫌われない内に、オレから離れた方がいい。これで分かっただろう。」

 背を向けて立ち去るショウイチを、士は追わなかった。
 理由の1つに、しゃがみ込んで足の袖を引っ張る夏海の存在があった。

「なぁ、オレに説明してくれよ、なんでリョウタロウが、オレにヒドい事すんだよ、おい、聞かせてくれ、」

「そのリョウタロウというヤツがおまえのなんなのかまずオレに説明しろ。」

 冷たく袖を掃う士だった。

「・・・・・リョウタロウ、オレ、なんで知ってんだ、オレ、何を言おうとしてんだ、わかんねえ、わかんねえ!」

「記憶が無いっていうのは便利なものだ。」

 士は伏せる夏海を襟首掴んで強引に立たせ、首を掴んだまま写真館へと足を向けた。

「おい、まて、まて、こら、後ろ向きで、乱暴に扱うなぁ、そう言ってんぜ、この体の主がよ、」

「オレに人質が通じない事は、分かっているよな。」

「放せって、この体のヤツが言ってんだ!」

 強引に士を突き飛ばす夏海。

「なんだ?」

 士も堪忍袋の限界に来ていた。一発で気絶させる位置を模索する。

「こいつがよ、この体の主がよ、似てるとさ、さっきのルンペンと。おまえがよ。」

 士はその時気づいた。その夏海の目は、潤んだ印象深い眼差しだけは、いつもの光夏海だと。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その7







 G3-X。
 未確認生命体、グロンギと対等に戦う事ができる唯一の希望。それが八代淘子が開発したボディアーマーGeneration-3-eXtention。人工AIが装着員をサポートし、学習する事で攻撃対象へのリアクティブ運動も自動化された、計7つの重装備の碧き最強兵器。その装着員は、まさに人類の救世主になるのと同じ。

「だらしいない。旧型のG3システムでそんな事でどうするの。」

 模擬ルームの厚いコンクリートの扉を開いて出た青いボディアーマーの者は、疲労が膝に来て転倒した。コンクリートの床にスーツの金属音が鈍く響いた。

「いく、ら、給料もらっ、ても割に合わないっス・・」

 装着者候補105人、書類選考にて23人に絞り、そして過酷な体力測定で残った5人の内、一人目段田は装着1分と保たず、二人目佐伯はそれを見て怖じ気づいて辞退、三人目であるこの蔵王丸、G3のマスクを外すと、滝のような汗を顔全ての毛穴から吹き出し、口は動くが眼球も定まる事が無かった。

「体力測定したばかりだぞ。ハードル上げ過ぎじゃないのか、八代。」

 八代による装着員選定をやらせるままにしていたソエノだったが、死人が出るかのような過酷な検定内容にさすがに危機感を抱いた。こんな事で自分が処分を食らうような事は勘弁して欲しい。がやんわりとしか言えないソエノであった。

「これくらい、彼なら簡単に、」

 それは隣でG3スーツを着込んでいるユウスケに聞こえるか聞こえないかというかすかに漏れたような八代の小声だった。

「八代、いい加減にしとけよ。」ソエノはポッケから仁丹を一振り手に取って呑み込んだ。「小野寺ユウスケ、君がバーチャルでの戦闘で1体でも未確認を倒す事を期待している。まだ誰もそこまでいった人間はいないからな。」

「ハイっ!」

 ユウスケの模擬戦が始まった。
 敵はユウスケもクウガの世界で一度対峙した事があるイカの特徴を持ったメ・ギイガ・ギ 。ユウスケはいつものクセで近接して格闘に持ち込む。ユウスケは若干の身の重さに違和感を感じながら跳び蹴りから組み手に入り、背後に回り込んで首を拘束しつつ脇を拳で打ち付ける。

「グロンギもパワーアップしています。それに、いつグロンギを越える敵が現れるとも限りません。」

 だが手応えが無い。それはシュミレートがそこまで再現されていないからであるが、腹を何度打っても手応えが無い。なまじ実戦の体感を持っているユウスケは、故に余計に感覚のズレに困惑し、そして隙を突かれる形で引き離され、距離を置かれ、ギイガの口から吐くスミをまともに食らう。

「限らない、じゃ人と予算は動かんぞ。警察がそこまでの兵器を実装する事に防衛省からも疑問の声が上がっている。小野寺、ギブアップか?」

 スミは酸素と融合して爆発、G3の胸元で炸裂し、ユウスケは転倒。もちろん物理的に攻撃を加えられているという事でなく、G3内蔵AIが、ダメージを擬装し、動きを強制しているだけである。だが機械に振り回される事がユウスケの体力を削り込んでいく。他の候補者は、接敵する前にこのAIに振り回され脱落していった。

「まだ彼は正常の範囲内です。しかし、私は確かに、今のG3-Xでも太刀打ちできないような強力な敵の存在を、」

 ユウスケ、装備の1つである高周波ブレードGS-03を片手に、微動だにしなくなる。その間にもギイガのスミは確実にユウスケの体力を削っていく。それを堪えているのだユウスケは。

「奴が消えたあの時の報告はオレも知っている。だがな、オレはそうは思わんが、おまえは自分の研究の為に、ありもしない敵をでっち上げてると思っている奴がいるんだ。少なくともそいつらの気分を解消してやる必要がおまえにはあるんじゃないのか?」

 堪えながら一歩、また一歩悠然とギイガとの間合い詰めていくユウスケ。G3の防御力に頼って強引に近接、1メートル先にスミを撃って装甲を爆破しても、なお堪えるG3に再び間合いを取ろうとするギイガ、その対手の攻撃が止んだ一瞬に一足でGS03を突き刺すユウスケ。G3の内部画面に、クリアの文字が浮かぶ。

「私の言う事に虚偽もでっち上げもありません。確かにあの未確認とは違う、未知の対象UNKNOWNはいるんです!」

 この八代のちょっとしたネーミングがいずれこの世界で広く用いられるようになる。

「女性が激昂するのは、ボクはキライじゃないですが、いい加減、小野寺君交替させた方がいいんじゃないですか?中でぶっ倒れてますよ。」

 突如現れる細面の男、クールな口調はどこか八代の癇に障ったが、それを表に出す理由が見あたらない。

「おお、すまん海東君、じゃあ君で最後だ。良い結果を期待しているぞ。」

 海東大樹はユウスケと交替直後、G3のトンを越えるボディを軽快に取り回し、なんと宙返りして敵の後背に回って撃つという離れ業を八代やソエノの眼前に見せつける事になる。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その6








 ドライバーを腰に宛がう、
 ドライバーはベルトとなってブッカーと共に士の腰に固定、
 ドライバーの両端を握って拡げると、トリックスターを軸に中心バックルが回転、カード挿入口が上向きに顕れる、

「変身」

 士はDECADEのロゴと姿のデザインの入ったカードを翳し、装填、
 左右から両手を交差させるようにドライバーを元に戻す、

『KAMEN RIDE DECADE』

 士の周辺に光のロゴが浮かんで士に交錯、マゼンダを主体のスーツと化し、最後にその頭部に10の光のスリッドが入る。

「変身した・・・?」

 芦河ショウイチにとってそれはひさしぶりの感情の起伏だった。
 変身したディケイドに、その頭部の尾を伸ばして首に絡ませる蠍の異形。引きずり出して荒廃していた畑を踏みにじって柵を跳び越え、川岸に踊り出た。

「ゾボボゲバギバサビダ」

 ディケイドはグロンギ語を発しながらブッカーで蠍の尾を斬る。

「ヒトハヒトデアラネバナラナイ」

 蠍の異形の頭上、空間を割くように渦状の平面、ハイロゥが現出、手を差し込む蠍の異形、掴むのは得物、小振りの斧と蠍の文様の入った盾。

「光輪、グロンギじゃない!」

 何かに気づいて敵が無防備に近いにも関わらず自分から飛び退くディケイド。

「アンノウン、あれがアンノウン。そうか、アギトの世界、思い出してきたぞ。」

 自分の迂闊さに気づいたディケイド。眼前の対手は『レイウルス・アクティア』の名を持つスコーピオンロード。ディケイドは気づいていないが、左肩の一枚の羽根と、背中に2つ突起がある。
 蠍は距離を置いた対手に『冥王の斧』を投擲、
 回転しながら飛んでくるそれを、捻って躱しカードを1枚取り出すディケイド、

『ATTACK RIDE BLAST』

「後ろ、ウシリョ!」

 ガニ夏海がイラ立ってシャクれ顎になりながらディケイドへ罵声を浴びせる。

「分かっている。」

 ブッカーを連射するディケイド、
 その後方より避けたはずの斧が回転しながら折り返してくる、重心を振り回し軌道を描くというよりは、自ら意志を持っているよう、
 撃って即横転するディケイド、
 光の弾幕がスコーピオンに迫る、

「グロンギならこれで終わったぞ。」

 弾くスコーピオン、
 『冥王の盾』寸前で無数の光弾が制止、盾を振りかざし上空へ流す。そうして弾いた上で回転しながら戻ってきた斧を受け止めるスコーピオンは、得物を高々と上げ突進。

「教えてやろうか。」

 夏海が畑を踏みしめながら眺める隣に、あの熊髭だらけのショウイチが立つ。おそらく何日も日の光を浴びてなかったのだろう。まだ目元に手を翳しながらディケイドに向かって、その干からびた声を発した。

「知ってるのか?!」

 いままで対手にしてきたどの等身大の敵よりも膂力の差を感じるディケイド、対手の片手の斧を両手持ちのブッカーで祓うものの、時に打ち付けてくる盾に後退を余儀なくされる。

「奴は、動物だ。習性で動いている。」

 隣の夏海がドスを効かせた声で、なんだオメエ、まず名前名乗れ、もっと分かりやすく言え、動物が武器使う訳ねえじゃんバカじゃねえの、などと怒鳴りまくっている。

「大体分かった」

 背を屈め足払いするディケイド、
 だがスコーピオン転倒する事は無い、アンノウンの身体能力は対応して跳躍、後ろに退いて距離を置く、
 だがディケイドにとって転倒しようが距離を置こうが、カード装填の隙さえできればそれで良かった。

『KAMEN RIDE RYUUKI』

 光と共に龍騎へと姿を変えるディケイドに、遠間から回転する斧が襲い来る。

「なにやってんだバカヤロ!」

 まともに胸に食らう龍騎、
 後方へ転んで起き上がった時には既にスコーピオンの肉迫を許してしまっている。打たれまくるディケイド-龍騎。

「さっきより一方的じゃねえか!」

 夏海の叫ぶ通り、今度は得物すら無く受け流すだけになったディケイド-龍騎、仮面と胸プレートは歪み、肩アーマーは欠け、バイザーなどはもはや欠落している。
 ディケイドのスペックは、パンチ力4トン、力キック8トン。一方龍騎のそれはパンチ力2トン、キック力4トン、単純に身体能力は半分にダウンしている。分かっているはずの状況だ。

「ぐわっ」

 案の定川に落とされるディケイド-龍騎。
 光輝く水面に波紋も無く落とし込まれる。
 川に膝の下を浸してなお追い打ちをかけようとするスコーピオン。だが斧でどれだけ川底を攪拌しても、龍騎の姿が発見できない。

「オレは鏡の世界だ!」

『FINAL ATTACK RIDE ryuryuryuRYUUKI!』

 水面より波も無く現れるディケイド-龍騎、 炎を纏って蹴撃、
 盾でガードするスコーピオン、
 しかし川から押し出され、なお水平方向に圧迫され拮抗、

「仕上げだ!」

 蹴撃で盾と拮抗する態勢のままディケイド-龍騎は次のカードを装填。

『ATTACK RIDE DRAGREDER』

 同じく水面より現れる紅き龍、全長6メートルの超大な身で天空を泳ぎ、スコーピオン横合いに回り込む。

「頭の差だ。」

 ドラグレッダーの口が大きく開く、
 吐き出される爆炎、
 タイミングを計ってスコーピオンから反転離脱するディケイド-龍騎、
 盾を翻すも間に合わず呑み込まれるスコーピオン、
 呑み込んだ爆炎は、アンノウンを跡形も無く消し去った。
 龍騎の最大の特徴はとどのつまりモンスターの使役に限る。

「オレは信じてたぜぁ!」

 単純に男声で叫んで抱きついてくる夏海に、苦い顔をしながらされるままのショウイチ。
 ディケイド-龍騎は一度だけ手を交互に祓い、バックルの左右を引いた。

「習性を繋いでるだけの動きで、オレの頭に勝てるわけは無いさ。それより、」

 2対1で頭もクソもねえだろ、という夏海の言葉を無視して互いに視線を合わせる士とショウイチだった。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その5







 ソエノ警部は、昔はダンスパフォーマンスで一世を風靡した学生サークルに所属。その鍛え抜いた肉体が警官という過酷な職に適応させ、所轄の課長まで上り詰めた。東北訛が未だ消えないサークル仲間に誘われた時はその濃い眉をしかめたものだが、今では感謝している。
 そんなどこにでもいるような捜査課長だった彼が未確認対策本部の実働部隊G3運用チームを任された理由は、最初に未確認第1号の存在に気づき捜査をしたからに過ぎない。しかもそれは部下の独断だった。でなければ、

「ちょっっっと、待ちなさい!根性ナシぃぃ!」

 警視庁地下駐車場、警察官特有の紺の上下に階級章をちりばめた制服の女、それが同じスーツを纏った男を追いかける。女によると一本筋の通ったワンレングスは寝癖だそうである。

「もう勘弁してください!」

「くぅおラ!待ちなさい!」

「あんな化け物扱うのムリです!」

 女は男を背中から掴みかかり、羽交い締めにして、隠れ巨乳を圧しつけてキーロックの態勢に持っていく。

「立派に戦ってたじゃない、そうね、43点ってところ。」

「微妙だぁ」

 G3-X開発主任にして、実戦における後方指揮及びモニター担当であるこの八代淘子、暴れ馬とあだ名されるこの女を、ソエノならずとも誰が好きこのんで側に置くだろうか。才能だけで勝ち上がってきた実力者ながら、その才能以外何も持っていない。そういう女だ。

「確かにグロンギは倒しましたけど、もう被害は凄いし、マスコミには叩かれるし・・・もぉムリですっ!勘弁してくださぁい!!」

 こうして何人のG3-X装着者がソエノの元から去っていっただろう。このホウジョウ、シライ、オムロ、キクチ、エリタテ。最初の装着者が失踪してから何人になるか覚えていない。実績の点ではどの装着者も十二分にやっていける警視庁からの逸材ばかりであった。だがその実績で満足せず、腹に収める事すらなくそれ以上を求めて罵声を浴びせる暴れ馬が、その逸材達をことごとく潰していった。なぜそこまで性急なのか理解に苦しむ。

「待て、こらっ、ちょっ」

 靴音がセメントで囲まれた空間で鳴り響く。それがソエノがホウジョウを見た最後の背中だった。

「やっぱり、G3-Xについては見直すべきだぞ。」これ以上ないタイミングと踏んだソエノだった。「今のままでも未確認とは十分戦えるんだ。な、八代。」

 ソエノにとって何ヶ月も繰り返し練習した言葉だった。

「G3-Xは必要です。」

 八代はごく簡潔に過不足無く全面否定した。

「おまえの大切な研究だって事はよく分かっている。しかしもう、警察に装着員の成り手はいない。」

 それ以外の解釈ができないソエノだったし、これで少しはこの暴れ馬も大人しくなると踏んでいた。しかし才能だけの女は、ソエノとは発想が違った。

「装着員は、新たに募集します。警察、自衛隊に限らず、一般からも広く。」

 ソエノは内心唖然とし、反射的に否定の言葉を脳から絞り出そうとする。それはつまりソエノの方が頭ごなしに八代を受け付けてない証左になる訳だが、結局のところその言葉は出なかった。
 いきなり眼前に赤いパーカーを着た男がわき出てきた。いきなり出てきていきなり挙手した。

「君、さっきから何!?」

 ソエノにとって全く死角にいる存在だったが、八代はやや視界に入っていたようだ。どうやらソエノの気づかない位置で二人の対話を聞いていたらしい。

「オレ!応募します、そのソウチャックインって奴?」

 八代は唖然とした。
 その男、小野寺ユウスケという立候補者の都合良すぎる出現に。でなければ、既に足を完治し平然と歩いている異様さに気づかない八代じゃなかったろう。
 だが、ソエノは、

「(天才を越えるのは、バカだな。)・・・」

 などと多少溜飲を下げた。

「お願いします、八代警部!」

 ユウスケは適当に階級をいい当てた。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その4







「記憶喪失で、名前や実体すらわからんだと。」

「おうともよ、だからオレをちゃんと労るんだぞっ。」

「知るか。」

「おいおい待てぁ、こんな時リョウタロウならなぁ!」

「リョウタロウ?」

「なんだそのリョウ、タロウって?」

「記憶喪失な。」

 転居先不明の宛先に徒歩で到着したのは士と未だに憑き物が体に居座っている夏海。目が血走り、ガニ股で山ふたつ踏破した。
 ポストには風雨で被った泥がさらに乾燥して汚れどころか砂化しており、『芦河ショウイチ』の標札を完全に隠していた。
 竹を編んで囲まれた腰より低い塀を乗り越えていくと、まず目につくのは畑。家庭菜園としては巨大な規模の畑に数々の根菜が埋まっているが、残念な事に放置されたらしく皆枯れて死んでいる。強いて生命があるのは太く育った一本の竹と、もはや土中から芽を吹き出して取り囲んでいる数本の竹の子だけ。
 次に目につくのは大量の薪、そして切り株に刺さった錆びた鉈。邪魔になる鉈を抜いて、窓を開けると家屋から埃が舞って思わず士は顔を逸らした。背後でゲラゲラと口を開けて笑うガニ股の夏海。

「さっさと用事済ませて、海東でも探すか。」

 と言って慌てる風でも無い士は、床一面霜が降りたように埃被った室内に靴ごと入る。床は総板でほとんど同じ木材で作られた家具もまた、埃を被って朽ちかけている。奇妙なのは配置だ。部屋の中心に渦でも起こったかのように、イスやテーブル、ソファが倒れ、花瓶が転がって散在し、食器入れのガラスが全て砕けている。

「おめえ、バカじゃねえのか、テンキョサキフメイってさっきおめえが言ったじゃねえのか・・・・、なんじゃこりゃぁ」

 士はガニ夏海の言う事を無視して、その手に掴んだ埃と蜘蛛の巣に塗れたそれを凝視している。

「おめえ、どうやったらりんごがそんな形になるでぇ。」

 ガニ夏海の叫ぶ通り、士の手にするりんごは奇っ怪な形に捻れていた。潰れているわけでも欠けているわけでもない。ただ雑巾を絞ったように捻れている。りんごの特性としてこんな捻れは不可能である。

「モモじゃなくて良かったぜぇ、おい待て、か弱い女の子のオレを置いてくなぁ!」

 寡黙に奇っ怪な室内を傍観する士。およそガニ夏海がその奇っ怪さに気づいているのだから、士には同じものからさらに多くの不可解さを読み取っている事だろう。

「音が聞こえる・・・・」

 家屋のロフトから、かすかだが肉声が聞こえてくる。

『グロンギ相手でも、あんなに過剰なパワーが必要ですか!?』

『グロンギもパワーアップしています!それに、何時グロンギを超える敵が現れるかも分かりません!』

 それはロフトで突然映り始めたテレビの映像。
 士は木目鮮やかな階段を駆け上ろうとする。

 耳を劈く音波、
 カーテンが舞った、
 士の皮膚に大気が圧してくる、
 士、踏ん張るも押し返され、階段を後ろ走りで辛うじて下ったものの、床面に足が着いた途端姿勢を失い後方の壁に倒れ、全身に蜘蛛の巣を纏わり着かせる、

「なんだこの力は・・・」

「何踊ってやがんだおめえ。オレを笑かしたいのか?」

 精神体には効かない力か、

 士は隣の夏海が平然としている姿に本気で殴ってやりたい衝動に駆られたが、今はそれどころではない。

「なぜここに、人、がいる?」

 ロフトの上に人影、
 士は強力な物理力に耐え立ち上がる、
 夏海は士の無様な姿をおもしろがっているが人影を見て階段を平然と駆け上っていく、

「アンタが、芦河ショウイチか。」

 ロフトから見える背中は、もう何日も身につけた物と身を洗っていないホームレスのようだった。グレーのパーカーがブラウンになってしまっている。

「おまえ誰だ!?」

 夏海はそう言った後で、士の言動を頭で考えノリ切れていない自分を自覚し、困惑して士と眼前の男を交互に見やる。

「オレに近づくな!」

 振り返った芦河ショウイチの顔は伸び放題の髪と熊髭でよく分からない。しかしその丸みのある目元から放たれる眼光は、無頼の精神体をたじろかせる。

「な、なんだ、このテレビ点かねえなぁ、おかしいなぁ、オレぁテレビの点け方くらい知ってんぜ。絶対このテレビの方が悪いだぜ!」

 とテレビに逃げるも、先程点いていたはずのテレビが無反応な事に行き場を失うガニ夏海。

「なんだこのハレンチな女は?」

「気にするな。それよりあっちのグロンギの奴を気にしろ。」

 芦河ショウイチは士が親指で差す庭に視線を止めた。
 そこに立つ異形は、まるで蠍が人間のレベルまで進化した姿、いや神のいたずらで蠍の特徴を混ぜ込まれた人間。頭にその特徴的な尾をマゲのよう生やし、その口角は左右に絶えず動く。
 士は、しかしたった1つ、その蠍の異形の持つ特徴を見落としていた。その左肩に備え付けられた一枚の白鳥の羽根飾りを。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その3









「G3-Xを出したのかぁ!」

「またAIの暴走がぁぁ」

「こぅらぁぁぁぁぁ」

「すいませんっっ、パワーが抑えられなくて、」」

 倉庫立ち並ぶ街道。
 この人気の無い一帯まで追い込んで、廃屋と10台のパトカー、そして40丁のリボルバーで全包囲するのが未確認対策本部のセオリーである。未確認に対しての決定的打撃力が極小の質量しか所有できない本部にとって、いかにこの囲い込みの為のストッピングパワーに知力を尽くすかが戦局を左右する。

「あれは、グロンギ・・・・オレは、帰ってきたのか・・・・」

 『メ・バヂス・バ』、公称『未確認47号』は、警官4人を負傷させてパトカーの包囲を突破し、今伏したまま朦朧としている小野寺ユウスケに、その針先を向ける。幻覚だろうか、それとも他に未確認がいるのだろうか、なぜかユウスケの頭をパトカーが一台今飛び越えていったように見えた。

「なぜこんなところに倒れている!」

 ユウスケの眼前に立ち塞がり、47号の腕を天に向けた青い影が1つ。たとえユウスケが五体満足であったとしても、それが何者なのか理解する事ができなかっただろう。

『G3-Xが最高傑作だという事を証明して。』

 ユウスケの耳に妙に籠もった音の女声がその青い影から聞こえた。よく見ると影は金属の鎧のようであり、車やバイクの外装に近い質感は近未来的なロボットのようにも見えた。

「ライダー・・・・」

 金属の鎧が振り返り、ユウスケに逃げるよう促す。振り返ったマスクは、なぜだろう、自分の変身した姿を彷彿させた。

「なんでこんなところにいる、避難勧告が聞こえなかったのか!」

 ユウスケは立ちくらみを覚えながらも、腕だけで上体を起き上がらせる。いったいどこまで飛ばされればクウガの肉体にここまでのダメージを負わせられるのだろうか。眼前のロボットはそんな事情が分からずただ闇雲に逃げるようユウスケ眼前のトレーラーを指差している。だがユウスケは逃げられなかった。右の足が動かない。明らかに折れている。

「GX05アクティブ!」

 トレーラーから飛び出してきた紺の制服が凛々しい婦警が見える。ユウスケに向かって一直線。

「いいんですか!前回もこっぴどく上から叱られて・・・」

「前を見て前を!発砲許可します!」

「知りませんよ!」

 おそらく先程ロボットの方から声が出ていた主だろう、ユウスケは時にそういう錯覚をよくするが、今向かってくる婦警はユウスケの知っている顔のように見えた。
 青いロボットが中折れ式の銃を取り出す、
 銃どころではない、それはガトリング式の機関砲であり、人間の両腕で抱えられる容積ではない、
 まさにそれは乱射だった、照準をまっすぐ向け発射したものの、あまりの威力にロボットの全身が安定せず機関砲の銃身があらぬ方向へ踊る、
 パトカーを半数爆破、廃倉庫の柱を打ち抜いて半壊、電信柱が倒壊、歩行者用信号がユウスケ眼前に倒れてきた、
 発射と同時に危機感を覚えた未確認47号、咄嗟に振り返って逃げたが、左から右へ両サイドのパトカー共々弾幕を受けた挙げ句左右からの車体の爆破で肉片も残さず撃滅した。

「退避っっ!」

 このロボットの傍迷惑な挙動に血相変えたのは、味方の警官40名。そしてユウスケの足を押さえて即座に警棒と自分のシャツで手当した婦警。
 結果として負傷者は出たものの、奇蹟的に動員警官全て無事であり、咄嗟にユウスケに被さった婦警も跳弾は免れた。

「すいません、すいません、ホントすいません!」

 ユウスケが聞こえたのはそんなロボットの悲鳴に近い恐縮した謝罪だった。

「アナタ、民間人?立ちなさい、折れてると思うけど、今立たないと火に捲かれて死ぬ事になるわ。立ちなさい!」

「ハイ・・・・さん」

 ユウスケは折れた右脚に重心を置いて無理に起き上がる。動けない足を軸にするしかない。激痛はユウスケの神経を再び断ち切ろうとし、未だに婦警の顔が、ユウスケのごく近しい人間の顔として映る。

「よし、私に思い切って体を預けて、あのトレーラーに行けば、ひとまず安心だから、そこまで歩きます、良いわね!」

 触れた肌の感覚から匂いまでもが記憶とダブっていくユウスケは、その後自分がどういう行動をして病院までいったか覚えていなかった。

「アネ・・・・・さん」

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その2








「早くユウスケ取り戻してください!」

「分かっている!」

 ディケイド-キバ、ドッガハンマーの1つ目をドラゴンクウガに照射。

「てめ」

 ドッガハンマーの特殊能力、瞳に睨まれた者は身動き出来なくなる。クウガもその例外ではない。

 ディイケド-キバ跳躍、
 振り下ろされるハンマー、
 しかし、
 見上げるクウガ、
 両腕を伸ばす、
 受け止める、
 受け止め腕でハンマーを絡める、
 絡めたハンマーが変形していく、
 クウガの体色もまた変わった、紫に、
 ハンマーが剣に変わる、

「盗られた、」

 ディケイド-キバが着地様飛び退く、しかしドッガの動きは鈍い、クウガタイタンの大きく回した剣が追いつき横一線、

「ぐわ」

 ディケイドへ戻りながら俯せに飛ばされ土を噛む。

「ざまぁみろ!」

 ガッツポーズで喜びを表現するクウガタイタン。

「得物持ちは不利か。ならば。」

 立ち上がるディケイド、掌の土を掃い、再びカードを装填。

『KAMEN RIDE FAIZ』

 ディケイドの姿が光り輝き、バックルだけがディケイドライバーの『仮面ライダー555』が出現。腰のポインターを右足に装着。

「保てよユウスケ!」

『FINAL ATTACK RIDE fafafaFAIZ』

 射出されるポインターマーカー、三角錘の光が捉え、推しやり、大木で止まったクウガタイタンの肉体をさらに圧迫する。

「待て・・・さっきみてえのはもう、御免だぁぁ!」

 クリムゾンのドリルに圧迫されながらしかし、クウガ突如2つに分身、

「ユウスケ、飛んでっちゃったぁぁ!」

 夏海は口を塞いで目で追う事しかできない。クウガの肉体は遥か上空、箱に仕舞われた人形のように倒立した状態でピューと音をたて飛び、空の一点となって視界から消えた。

 やぁぁぁぁぁぁ!

 だがクリムゾンの杭は敵を逃していない。それは白い物体、いわば精神だけの存在、即ちイマジンそのものの砂の塊。イマジンはおぼろげに見えるその鬼面の口で杭を受け止めて足掻いている。

 透過、

 きえぇぇぇぇ

 巨木に浮かび上がるファイズのマーク、直後燃える巨木、イマジンもまた絶命の雄叫びを上げた。またしても士は世界を救った。

『仮面ライダーディケイド 電王編 完』

「ちがぁぁぁぁう」

 大空を周回する光の玉があった。あっちへうろうろ、こっちうろうろしながら、最後に急降下して光夏海に突撃した。

「やはりイマジンとオルフェノクは同じ精神体でも違うか。しぶとさが。」

 ディケイドは、寄り目で頭をフラつかせてヘタり込む夏海を、ただ黙って見ていた。

「オレっっ!参上っっっ!」

 突如立ち上がった夏海の目は、先のユウスケと同じく赤く血走り、そのロングの髪は全て逆立ち、スカートをめくり、スパッツの尻のラインが丸見えにガニ股に構え、先と同じく見得を切る。実に3メートルを越える光夏海参上だった。

「ちょっ待てコラ!なにがイマジン絶命だっ、またしても士は世界を救ったなんててめえいままで書いた事ねえだろが、ぁ!」

「いいかげん疲れないか、おまえ。」

 そんなはしたない夏海の姿を目の当たりにしたディケイドは、なにかに冷めたのかバックルを両手で引く。

「もうヤメか、てめえ!」

「ああ、大体分かった。」

 郵便配達姿の士は、肩からつり下げたその古くヒビ割れも見えるかばんをまさぐっている。

「なんでえそりゃ、」

「知るか。」

「おい、そういやてめえ、なんとかって奴放っといていいのかよ。よぉ!」

「あいつのベルト、少し黒ずんでたな・・・・、ユウスケを甘く見るな。生身じゃなかったんだ。その内笑顔で戻ってくるさ。それよりおまえだ。いいか、これからオレの傍を離れるな。」

 士はかばんの中からやや萎れた一通の封筒を取り出す。封筒の表には宛先の住所氏名が当然書かれており、裏には差出人の名前がやはり当然書かれている。萎れている理由もはっきりしている。切手の上から消印が判されていて、1年前の数字が刻印されていた。その上「転居先不明」の印すらある。

「なんだてめえ、あいつの事けっこう買ってんだな。」

 ガニ股で歩いてくる赤目の夏海に視線を合わせず、森の中へ足を向ける士。

「口数が多いのは美徳じゃない。」

 木の枝をやや屈んで潜りながらも森の先へ出ようとする士。

「ビトク?なんだ偉そうに、最初にいっとくがオレはおめえがキライだ、ィテっ」

 同じように枝を潜ろうと屈むものの、逆立った髪をぶつける夏海。首を抑え唸っている。

「テコの原理って分かるよな。」

 士は見もしないでそう言った。

「け、けど泣くほどじゃねえな。」

 などと強がりを言いつつ、夏海イマジンは総立ちした髪の毛を下に垂らし、二本角のように短めの髪だけをひかえめに逆立てた。

4 アギト・電王の世界 -魂のトルネード- その1











「オレ、参上っ!」

 外へ出ると光写真館はログハウスの外観でなにもかもが静まりかえっていた。

「大体分かったから、ユウスケから離れろ、このイマジン。」

 見渡す限り人家は無く、のどかな畑と生い茂る林と呼び合う野鳥が散在している。やや肥料の臭みが鼻につく。
 その静寂をかき乱し、柔らかな土を踏みしめる赤目のユウスケが叫び、

「てめえ、何モンだぁ!」

 なぜか郵便配達の制服を着込んで速達用のバックを釣り下げた士がそれに呼応する。
「聞きたいのはオレだぁ!」

「今時俺を知らねぇたぁ恥ずかしい野郎だな!」

「・・・・、御託は面倒だ。」

 『イマジン』と士が呼んだユウスケのズボンの袖からどういうわけか砂が大量にこぼれていた。
 士は、もうこんな事にはある程度慣れてしまった。世界に到着し把握する間も無く向かってくる脅威に対処する。今回もそれしかない。
 士はドライバーを腰に充てた。

「変身」

『KAMEN RIDE DECADE』

 9つのシンボルが縦横に走ってディケイドが姿を現す。

「おめえも変身できんのか、オレがパス持ってねえと思ってイキがりやがってぇ。だがなオレもちゃ~んとこの体の事は分かってんだゼ。いいか何とか野郎、最初からクライマックスだせ!」

 赤目のユウスケ、左腕を前へ伸ばしくの字を作るように右腕をやや後ろへ伸ばす。すると腰から『アマダム』が出現。ユウスケの肉体が変質していき、赤い体皮が露出する。『仮面ライダークウガ』が、出会って以来ディケイドの眼前に対峙した。

「自分の解説が多い!」

 ディケイドはその変身を黙って見ていない。既に近接し、右ストレートをその特徴的な胸筋に打ち込む。

「色もオレとマッチングぅ、ついでに角が2つあらぁ、こりゃちょうどいい。ん?てめえ、弱えぇな。」

 だが微動だにしないクウガ。頭部の触角を両手でなぞって受け身すらとっていない。

「こいつまさか」

 数撃の拳を食らわせるもののまるで意に介さない敵、一旦飛び退くしかないディケイド。

「いくぜいくぜいくぜぇぇぇ」

 だが反対にがに股で急接近するクウガ、突進と拳の合力が、やや重心を崩したディケイドの顔面にヒット。

「精神体か」

 転倒し、大地に拓を作るディケイド。だが打ち付けられた勢いを殺さずバック転で立ち上がろうとする。

「もっといくぜいくぜいくぜぇぇぇ」

 だがクウガも追い打ちをかけ手と足を何度も繰り出してくる。それをさらに転じて回避するディケイドだったが、

「なら前の世界と同じだ。」

 拳と拳が組み合って制止、

「急に止まるなぁ」

 前のめりで姿勢を崩すクウガを尻目に立ち上がるディケイドは、カードをバックルに装填した。

『FORM RIDE KIVA DOGGA』

 オルフェノクと同じと踏んだディケイド、前回と同じくキバのフォームを取る。巨大な拳の形状をしたハンマーを持つ『ドッガ』に。

「容赦しないぞ!」

 背を向けた態勢のディケイド-キバ、向かってくるクウガめがけて、振り返り様ドッガハンマーを180度の遠心力を込めて撲つ、

 神様ぁぁぁぁ

 と一撃腰のベルトに食らって数メートルもっていかれ大の字で型を作るクウガ。全身からハンマーのエネルギーなのかそこらじゅうに漏電している。

「容赦しねえって分かっただろ。早く出てこい。」

 ハンマーを引きずり土を盛り返しながら威圧的に近づくディケイド-キバに、飛び起きてガニ股のまま指差すクウガ。いつのまにかその体色とバックルが青に変わる。ドラゴンフォームだ。

「ここからは徹底的にクライマックスだからな!」

 ドラゴンクウガがスタンディングスタートで構え視界から消失、ディケイド-キバの背面に回り込んでスレ違い様頭をハタいた。振り返るディケイドの背面をまた今掌で打たれる衝撃が走る。

「光る~光るとぉしばぁ~」

「お!」

「回る~回るとぉしばぁ~」

「げ!」

「走る~走るとぉしばぁ~」

「唱う~唱うとぉしばぁ~」

「輝く光」

「光」

「強い力」

「力」

「みん~なみんなとぉしばぁ~」

「とぉしばぁ~のマぁク!」

 ポーズを決めるクウガ。

「なんて凄い技だ・・・・」

「ナニ、やってんですか!」

 唖然とするディケイド-キバに向かっていつのまにか外へ出ていた夏海が背後からツッこむ。

「ん・・・・・」

 しばらく頭を抱えて内省の世界に没入したディケイド-キバだったが、夏海の顔を見てなんとかため息をつく程度にまで回復する。